説明

咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品とその製造方法

【課題】咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品と、その物性を正確に評価することができるテクスチャー測定法を提供する。
【解決手段】食材をミンチ状にする工程と、食材に少なくとも澱粉と油脂と増粘多糖類と水とを添加混合し、混合材を得る混合工程と、混合材を所定の形状に形成し、混合成形品を得る成形工程と、混合成形品に対して、加熱処理を施し喫食可能な形態とする加熱処理工程とを備え、食材としては、通常調理に用いられる魚介類を含めた食肉、野菜、豆類、豆腐などの加工食品を使用し、咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品(以下、単に「加工食品」と称す。)に関し、とくに、高齢者や被介護者が喫食可能な性状に加工した食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加齢により咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者や事故や疾病による障害によって咀嚼・嚥下機能の低下した被介護者が食事する場合、その喫食能力に応じて、軟菜食、きざみ食、ブレンダー食、ペースト食などに区分された食品性状によって対応していた。近年、介護保険制度の施行にも見られるように、高齢化社会の進展と要介護高齢者人口の増加に伴って、咀嚼・嚥下困難者向け食品に関する研究が進み、厚生労働省により特別用途食品の中での高齢者用食品の規格、基準化(平成6年衛新第14号、15号)が行われた。また、嚥下食の段階的分類に基づく食事基準、一般消費者向けに咀嚼・嚥下のレベルに応じて4段階に介護食品を分類した業界の自主規格等、より喫食者に配慮した食事区分が提案されている。
【0003】
加工食品の調理に当っては、食材によって上述した食事区分に応じた性状にするために調製方法が異なってくる。例えば、煮物等を機械で細かく粉砕したブレンダー食やペースト食は、従来から、咀嚼・嚥下困難者に適した性状の調理形態として供されてきたが、混合粉砕された食品は見た目も悪く、風味も落ち、当然、食欲をそそるものとは言い難く、その弊害も指摘されてきた。また、肉を裏ごしペースト化したものは良質のタンパク源として栄養価は高いが、歯応えがないために、喫食者は咀嚼による満足感が得られない。そこで、特許文献1記載のように、乾燥した畜肉を細切りし、これに油脂を混合して食塊とする技術が提案されているが、食塊のまとまり易さ、咽頭通過時の変形し易さ、べたつきの少なさを保持するための副原料の使用割合が高く、肉本来の味や性状が失活するという問題がある。
【0004】
また、魚肉のすり身と予め加熱処理した魚のほぐし肉にグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を加えて蒸し上げた咀嚼困難者用の固形状魚肉食品の製造方法(特許文献2)や、きざみ食に熱擬困性の増粘多糖類であるカードランを添加してゲル化またはゾル化するものがある。また、きざみ食、ペースト食に増粘多糖類のジェランガムと澱粉を添加、ゲル化して冷凍耐性を持たせた介護食は公知である。そこで、本発明者は先に、咀嚼困難者および軽度の嚥下困難者向けの食事形態として、「高齢者ソフト食」と呼ばれる介護食を提案している(非特許文献1参照。)。
【0005】
この「高齢者ソフト食」は、とくに、きざみ食に対する反省から生まれた食事形態であり、形があり、軟らかくて噛み易く、舌の上で食塊にまとまりやすく、口や喉においてべとつかず、スムーズに変形して飲み込みやすいという特徴を有している。この「高齢者ソフト食」の中で、例えば、肉料理の処方においては、挽肉とタマネギを加え、さらに、卵黄とサラダ油の乳化物や馬鈴薯澱粉を混和することによって良好な性状を出している。
【0006】
嚥下にほとんど問題がなく、咀嚼にのみ問題がある被介護者の場合には、軟菜食やきざみ食が適用できるが、畜肉はそのまま煮ても硬いため、軟菜食としては使いづらく、また、きざんでも食べづらいことは変わりなく、逆に誤嚥の原因になるおそれがある。また、きざみ食は、見た目の悪さという点からも、ミキサー食と同様に近年見直されている食事形態である。そこで、畜肉を介護食として摂取しやすくするために、これまで、様々な試みが行われてきた。
【0007】
嚥下困難者向けの畜肉の調理方法としては、畜肉の繊維を徹底的に裁断してペースト状にし、必要であれば、さらに裏ごしを行い、さらに、適度な固形性を付与するために、生クリーム、牛乳、卵黄の他、ゼラチンなどの増粘度多糖類を加えることが行われている。また、細切りした生ハムに油脂を混和して嚥下に適した動的粘弾性状に調製する技術も提案されている。本発明者もまた、ミンチ状又は細切状にした食肉材に、澱粉と油脂と増粘多糖類と水を加え、これを所定の形に成形して加熱処理して調製される「食肉ソフト加工食品」を提案している(特許文献3参照。)。
【0008】
そして、通常、このような加工食品の評価をする方法しては、レオメーターを使用し、その円筒形のプランジャーを試料に突入させ、その際にプランジャーが受ける応力により物性を判断するテクスチャー測定法が採られている。とくに、プランジャーを咀嚼運動に倣った上下運動状態で測定試料に突入させるテンシプレッサーを用いる多重バイト試験法が好適に用いられる。多重バイト試験は、プランジャーにかかる応力をロードセルに感知させて解析するが、被測定試料として、流体、組織や構造を持った流体、固体、固体を含む流体など広範に適用できる物性測定法である。被測定試料として生畜肉の他、焼いた肉や煮た肉などにつき、中空丸型のプランジャーを用いて多重バイト試験を行い、「しなやかさ」を表すプライアビリティ値(Pliability)を求めた報告がある。
【0009】
これには、プランジャーの上下運動に伴い、図1に(縦軸:応力、横軸:侵入距離)に示されるような2つの応力曲線 BA(BEA:圧力)、BD(復元応力)が得られ、プライアビリティ値は、原点Bと破断労力(を示す点A)を結ぶ点線で作られる三角形の面積ABCと、面積AEBCの比で表されること、また、煮た肉は焼いた肉に比して「しなやかさ」に欠け、点線BAと近似の軌跡を描くので1に近い値となる。一方、焼いた肉は「しなやかさ」があり、弓なり状(下に凸)の軌跡になり、2に近い値となることが示されている。
【0010】
そこで、本発明者も「高齢者ソフト食」の咀嚼・嚥下のし易さについて客観的評価を行うことを目的として、既に多くの提供実績のある代表的な「高齢者ソフト食」メニューのテクスチャー特性、すなわち、硬さ荷重・凝集性・付着性・最大荷重を厚生労働省の定めた高齢者食品の試験方法に準じて、3mm径プランジャーを備えたレオメーターを使用して測定し、それらのデータを基にStep−wise重回帰分析を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−128646号公報
【特許文献2】特開平10−2485333号公報
【特許文献3】特開2005−110677号公報
【非特許文献1】2001年、厚生科学研究所発行、黒田留美子偏著、「高齢者ソフト食」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、食品のように多種多様な食材があり均一な質を求めることの困難な検体の物性を測定する上で、レオメーターで通常使用されている3mm径のプランジャーでは必ずしも個々の食品の物性を正確に把握できないことが判明した。すなわち、ソフト食の製造工程において、理想的なソフト食が出来上がっているかどうかを判断するにあたり、それを数値で判断することとし、その際に、機械では直接測定が不可能な要素を、実験により解明された定数に基づいて数値化するにあたり、従来方法による付着性を推計するための重回帰式による寄与率は、5.9%と極めて低く、いずれの独立変数も20%を越えるものではなかった。本発明は上記のような課題に鑑み、咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用加工食品と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで本発明の加工食品は、ミンチ状、細切状又はペースト状にされた食材に、少なくとも澱粉、油脂、増粘多糖類及び水を混合して加工した固形状の調理品であって、硬さ荷重、凝集性及び付着性を表す重回帰式が、以下に記す(1)硬さ荷重推計値、(2)凝集性推計値及び(3)付着性推計値の3つの従属変数によって推計される値を満たすことを第1の特徴とする。

(1)硬さ荷重推計値=0.0055×種類−2.2625×食事形態No.−1.7009×凝集性+0.0017×付着性+7.6712(寄与率80.1%)

(2)凝集性推計値=0.0054×種類+0.0643×食事形態No.−0.0132×硬さ荷重+0.0001×付着性+0.1898 (寄与率67.6%)

(3)付着性推計値=13.55×種類+378.50×食事形態No.−145.24×硬さ荷重+1148.54×凝集性−1354.83 (寄与率57.6%)

但し、種類とは食品ごとに付与される定数、 食事形態No.とは「普通食」=1、「高齢者ソフト食」=2、「ミキサー固形食」=3という喫食形態の違いによって付与される定数とする。
【0014】
また、本発明に係る加工食品の製造方法は、そのテクスチャー測定にレオメーターを使用して、硬度、凝集性及び付着性を測定する際の測定条件として、測定温度20±2℃にて、直径20mmの円筒形プランジャーを用いることを第2の特徴とする。また、食品が喫食可能に加熱処理された状態での多重バイト試験におけるプライアビリティ値が1以下であることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の優れた効果がある。

(1)病院や施設の咀嚼困難者及び嚥下困難者向けのみならず、自宅療養者でも簡便に調理又は加熱するだけで喫食できる形態で介護食を提供できる。

(2)本発明に係る加工食品は、普通食とほぼ同じ外観に仕上げられて食欲を低下させることなく、普通食よりも柔らかく、舌の上で食塊にまとまりやすく、また、口や喉においてべたつき感も特に認められない。

(3)咀嚼困難者にとって噛み砕くという点では、一定の範囲で凝集性が高いことが望まれる。そのことが、20mm径のプランジャーを用いたテクスチャー測定法により正確に評価できる。
【0016】
咀嚼・嚥下等に関する主要な要素を従属変数とする重回帰分析(最小自乗法)により、本発明に係る介護用加工食品の客観的かつ有効な測定法の評価を試みた。嚥下行為において特に重要なのは食塊の形成と嚥下のスピードの調整である。本発明加工食品の特徴は下記である。

(a)見た目が美しくしっかりとした形があること。

(b)口腔に取り込みやすく咀嚼しやすいこと。

(c)まとまりやすい(食塊形成しやすい)こと。

(d)口腔中で移送しやすく飲み込みやすいこと。

本発明の主旨は、

(イ)理想的なソフト食を製造するにあたっては、単純に機械で測定可能な「硬さ」、「凝集性」、「付着性」、の他に食材自体の、例えば生の鶏肉が元来備えている物性がある。これは機械で測定することが不可能なため、これを実験で解明された数値に置き換えて、全体を数値で判断できるようにしたものである。

(ロ)本発明に係る理想的ソフト食の製造を反復再現するためには、上記鶏肉などの食材の物性をより正確に同定する必要がある。そこで、本発明では、各々の食材・例えば生の鶏肉が持つ元々の物性について、実験によって算出された数値である「定数」を使用し、これを理想的なソフト食を製造するための要件の一つにした。この「定数」は一次関数のY軸上の切片(高さ)に相当し、食材ごとに固有の数値となる。したがって、本発明の特許性はこれらの「定数」を、数回(具体的には6回)にわたる各種素材の実測によって取得し、それにより得られた数値データの最小二乗平均値から定数を求め、この定数を切片とする重回帰式(従来の請求項1に記載された式)により、理想的なソフト食の製造要件を見出した点にある。

(ハ)そして、この理想的なソフト食に出来上がっているかどうかの具体的検査(判断)は、ソフト食の製造工程の一つとして、レオメーターによって行うが、その検査に直径20mmの円筒形プランジャーを用いることで初めて具体的測定・検査が可能になったものである。
【0017】
咀嚼・嚥下が困難な者には、トロミをつけた食事の工夫が効果的である。例えば、コラーゲンは古くから食品のゲル化剤として利用されているものの、加熱によりゼラチンとなり、ゲルが溶解してしまうため用途が限定されていた。そこで、微生物起源のトランスグルタミナーゼ(TG)を用いてコラーゲンの融点を改変すれば、加熱しても適度なトロミを有するゼラチンゲルの調製が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。

【図1】テンシプレッサーを用いた多重バイト試験による応力曲線解析グラフである。
【図2】食品の種類および食事形態別硬さ荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図3】食品の種類および食事形態別凝集性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図4】食品の種類および食事形態別付着性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図5】食品の種類および食事形態別最大荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図6】食品の種類および食事形態別破断荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図7】食品の種類およびプランジャー径別硬さ荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図8】食品の種類およびプランジャー径別凝集性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図9】食品の種類およびプランジャー径別付着性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図10】食品の種類およびプランジャー径別最大荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図11】食品の種類および食事形態別硬さ荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図12】食品の種類および食事形態別凝集性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図13】食品の種類および食事形態別付着性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図14】食品の種類および食事形態別最大荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図15】食事形態およびプランジャー径別硬さ荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図16】食事形態およびプランジャー径別凝集性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図17】食事形態およびプランジャー径別付着性の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図18】食事形態およびプランジャー径別最大荷重の最小自乗平均値を示すグラフである。
【図19】食品の種類および食事形態別破断歪率の最小自乗平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者用介護食品は、食材をミンチ状にする工程と、食材に少なくとも澱粉と油脂と増粘多糖類と水とを添加混合し、混合材を得る混合工程と、混合材を所定の形状に形成し、混合成形品を得る成形工程と、混合成形品に対して、加熱処理を施し喫食可能な形態とする加熱処理工程とを備えている。食材としては、通常調理に用いられる魚介類を含めた食肉、野菜、豆類、豆腐などの加工食品を使用できるが、本実施例では鶏肉と豚肉を用い、挽肉機によってミンチ状の食肉材とした。この食肉材とする工程においては、食肉をサイレントカッターなどによって細切状又はペースト状としても良い。
【0020】
混合工程においては、ミンチ状、細切状又はペースト状の食材に澱粉、油脂、増粘多糖類及び水を添加して混合する。澱粉としては、特に限定されず、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉などが好適に使用できるが、ここでは、タピオカ澱粉を用いた。油脂としては、バター、ラードなどの動物性油脂、ごま油、オリーブ油、大豆油、コーン油、紅花油、サラダ油、マーガリンなどの植物性油脂、乳化油脂から1種類以上を選択して使用することができ、動物性油脂と乳化油脂との組合わせがより好ましい。その配合量は選定される油脂により適宜選定可能である。乳化油脂としては、卵黄とサラダ油等を混合して得られるものや、植物性油脂を主成分とし、ソルビート、乳蛋白、酵素処理卵黄油などが混合された乳化油脂加工品が好適に使用可能である。本実施例では、油脂として乳化油脂加工品を用い、食肉混合材100重量部に対して3重量部添加した。
【0021】
増粘多糖類としては、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、ペクチン、ファーセレラン、カラギーナン、トランガントラム、アラビアガム、カラヤガムから1以上を選定して用いることができる。ここでは、キサンタンガム及びグアーガムを使用した。増粘多糖類の混合材100重量部に対する添加量は、添加する増粘多糖類の種類によって適宜設定すれば良いが、キサンタンガムとグアーガムを配合する場合には0.001重量部〜2.5重量部程度が好ましく、本実施例では、グアーガム:キサンタンガム比を130:53とし、混合材100重量部に対する食肉の配合量は、60重量部以上、90重量部以下であれば良いが、ここでは77重量部とした。また、水の添加量は、混合材100重量部に対し、5重量部以上、20重量部以下であれば良いが、本実施例では14.2重量部とした。尚、混合材には、必要に応じて、食塩、小麦粉、卵黄、卵白、各種エキス類などを添加することができ、ここでは、食塩及び酵母エキスを加えた。
【0022】
成形工程では、混合材を球状、ダイス状、板状、厚みのある楕円状、麺状などの所望の如何なる形状にも成形することができ、ここでは、咀嚼嚥下機能正常者用の普通食と同様の形状に成形し混合成形品を製造した。加熱処理工程では、混合成形品を、煮る及び/又は蒸す及び/又は焼く及び/又は揚げる及び/又はオーブン加熱するなど、所望の調理形態に応じて適宜加熱処理することができ、これにより喫食可能な形態となる。
【0023】
尚、成形工程で得られた混合成形品又は加熱処理工程で加熱処理が施された混合成形品を冷凍し、品質低下が抑制された凍結状態で流通及び/又は保存可能な形態とすることができ、これにより、自宅療養者や病院や施設の被介護者向けに、簡便に調理又は加熱するだけで喫食することができる状態で提供することが可能となる。また、本実施例の加工食品は、加熱した状態では普通食とほぼ同様の外観に仕上げられて、喫食者の食欲を低下させることなく、普通食より軟らかく、舌の上で食塊にまとまりやすく、また、口や喉においてべとつくことがない。
【0024】
以上の工程で調製された加工食品においては、咀嚼嚥下機能正常者用の普通食の場合には好ましい「しなやかさ」に富む食感を有し、食肉材の筋繊維が多く残る状態のものは、咀嚼・嚥下が容易でなくなる場合もあることから最適な性状とは言いがたい。したがって、喫食可能に加熱処理された状態での多重バイト試験におけるプライアビリティ値が1以下となるように調製されていることが好ましく、0.94以下であることがより好適である。プライアビリティ値の下限は特に限定されないが、0.1以下であればよい。尚、多重バイト試験法としては、中空丸型プランジャーを装着したテンシプレッサーを用い、1バイト(1回の上下運動)につき1mm以下(0.04mm〜0.06mmが最適)でプランジャーを被測定試料に突入させる条件設定により、3検体以上(5〜10検体を用いるのが好ましい)の平均値としてプライアビリティ値を求める。
【0025】
以下、本発明に係る加工食品について、実施例、比較例を示して具体的に説明するが、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
蒸し豚:上記の製造方法にしたがって、食肉として豚肉を用い、混合材を小判上に成形して平均重量9gの混合成形品を調製した。但し、混合材100重量部に対し、タピオカ澱粉5重量部、食塩0.2重量部、酵母エキス0.2重量部を添加した。混合成形品を蒸し、加工食品の検体とした。
【実施例2】
【0027】
トンカツ:第2実施態様の製造方法にしたがって、食肉として豚肉を用い、トンカツ用の食肉混合材を調製し、食肉混合材を通常のトンカツサイズ、形状に成形して食肉混合成形品を得た。食肉混合成形品を10〜15分間蒸した後、油凋し、加工食品の検体とした。
【実施例3】
【0028】
鶏唐揚げ:第1実施態様の製造方法にしたがって、食肉として鶏肉を用い、食肉混合材を調製し、食肉混合材を通常の唐揚げサイズ、略球状に成形して食肉混合成形品を得た。食肉混合成形品を5〜10分間蒸した後、油凋し、加工食品の検体とした。
【0029】
[比較例1〜3]:「高齢者ソフト食」(非特許文献1;現行処方) 実施例1、2、3にそれぞれ対応する食肉ミンチを用い、食肉ミンチに等量の炒めたタマネギを加え、卵黄、卵黄とサラダ油を混合した乳化油脂(卵の素と呼ばれている)、片栗粉、食塩、調味料を加え、それぞれ実施例1、2、3に対応する「高齢者ソフト食」を調製して「高齢者ソフト食」検体とした。
【0030】
[比較例4〜6]:「普通食」 実施例1、2、3にそれぞれ対応する食肉を用い、一般的な食材、調理法によりそれぞれ対応する実施例と同様の大きさ、形状に形成、加熱調理して「普通食」検体とした。
【0031】
「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の各調理品における物性比較を行い「高齢者ソフト食」のテクスチャー特性の妥当性の有無について検証した。口腔に入れたときに初めて感じるテクスチャーは、最大荷重(破断荷重)及び硬さ荷重で表される。付着性は、他のテクスチャーとは異なった物理的性質を示すものと推測され、凝集性は、固形食品を飲み込めるまで咀嚼するのに必要なエネルギーで表される。付着性は、粘着性を示すものであり、食品の表面と他のもの(口腔内の舌や歯など)の間の引力に打ち勝つために要するエネルギーで表される。
【0032】
[テクスチャー測定] 各検体について、厚生労働省規定のテクスチャー測定法に準じ、測定機器として、株式会社山電製のRE−3305型レオメーターを使用し、硬度、凝集性及び付着性を測定した。測定条件としては、測定温度20±2℃にて、直径3mm、8mmの円筒形プランジャーを用い、圧縮速度10mm/秒、測定試料は各検体を20mmの厚さ(実施例7及び比較例7の検体は10mm厚さ)として、クリアランスを30%とした。測定結果は以下のとおりであった。
【0033】
[豚肉における比較]

実施例1、比較例1及び比較例4について、硬度(N/m)は、それぞれ85910、89010、及び19835000であり、凝集性は、それぞれ0.515、0.533、及び0.576であり、付着性(J/m)は、7426、3670、及び134200であった。

実施例2、比較例2及び比較例5について、硬度(N/m)は、それぞれ64380、83180、及び836000であり、凝集性は、それぞれ0.467、0.468、及び0.389であり、付着性(J/m)は、7160、4364、及び25970であった。
【0034】
[鶏肉における比較]

実施例3、比較例3及び比較例6について、硬度(N/m)は、それぞれ200400、131000、及び884600であり、凝集性は、それぞれ0.529、0.494、及び0.580であり、付着性(J/m)は、21130、7836、及び56470であった。
【0035】
[3mmプランジャー使用時の測定値]

実施例3及び比較例3について、硬度(N/m)は、それぞれ135900、及び63300であり、凝集性は、それぞれ0.603、及び0.541であり、付着性(J/m)は、7117、及び3322であった。

実施例6及び比較例6について、硬度(N/m)は、それぞれ182300、及び121300であり、凝集性は、それぞれ0.504、及び0.493であり、付着性(J/m)は、10252、及び7545であった。

実施例7及び比較例7について、硬度(N/m)は、それぞれ86750、及び38970であり、凝集性は、それぞれ0.556、及び0.426であり、付着性(J/m)は、6853、及び1856であった。

実施例8について、硬度(N/m)は、121300であり、凝集性は、それぞれ0.407であり、付着性(J/m)は、7740であった。
【0036】
「高齢者ソフト食」は、大変軟らかく、食材(原材料)や食事形態によっては、官能的にはゲルやゾルのように感じられるが、「普通食」とほとんど変わらない見映えや形状を有することが特徴である。また、おいしさとの関係を示す食品原材料の熟成度に影響を受けるテクスチャーにほとんど影響を及ぼさない。本発明において、固形物として扱った代表的な10種類の「高齢者ソフト食」のテクスチャー特性を、厚生労働省の定めた検査方法に応じて計測し、得られた物性の相互関連性を解析することによって個々の物性間の関連性を明らかにし、また、それらが「高齢者ソフト食」の種類によって、あるいは、物性測定の際のプランジャー径等の影響をどの程度受けるかについて実験した。
【0037】
サンプルのうち、レオメーターによる計測の際、プランジャー径3mmで調査した179品目のサンプル及びプランジャー径20mmで調査した82品目サンプルについて、各「高齢者ソフト食」の物性形質間の相互関連性についてプランジャー径別に行った。本試験に供した調理品(原材料)としては、ハンバーグ(みじん)、トンカツ、鶏唐揚げ、牛肉の煮物、鶏バンバンジー、チキン南蛮、豚バラ中華風揚げ、まぐろの刺身、鮭の塩焼き及び鯖の照り焼きの計10種類の調理品について食事形態1、2及び3の各3品目ずつの計90品目については、食品として重要な物性の他の側面を示す破断荷重と破断歪率を計測した。尚、物性等については、科学的・物理的な根拠、すなわち「高齢者ソフト食」の摂食嚥下適性に関しているテクスチャー特性のうち、硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重、破断荷重及び破断歪率を取り入れ、食事形態も「普通食」=1、「高齢者ソフト食」=2及び「ミキサー固形食」=3をそれぞれダミー係数として検討した。
【0038】
[試験例1] 本試験に供した食品(原材料)は、ハンバーグ(みじん)、トンカツ、鶏唐揚げ、牛肉の煮物、鶏バンバンジー、チキン南蛮、豚バラ中華風揚げ、まぐろの刺身、鮭の塩焼き及び鯖の照り焼きの計10種類の食品であり、それらの各食品について調理法は「蒸す」「揚げる」「煮る」「焼く」「生もの」の5種類で加工し、3種類の食事形態、すなわち、「普通食」、「高齢者ソフト食」および「ミキサー固形食」とした。各食品10サンプル(ハンバーグ(みじん))の食事形態2のみ5サンプル)計179食品について、前述のレオメーターによって硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重および破断荷重等のテクスチャーを計測した。なお、レオメーターによる測定法等については、各食品の調理後6時間以内に温度(室温)を保ちながら、先ず3mm径のプランジャーを用いて上述の5形質のテクスチャーについて計測を行った。
【0039】
これらテクスチャーを分析対象形質とし、基本統計量を求めた後、食品の種類と食事形態の影響についてHarvery(1990)の最小自乗分散分析を行った。要因効果としては、上述した食品の種類(10種)、食事形態(3種)および食品の種類と食事形態の交互作用の効果を母数効果として取り上げた。分析に用いた数学モデルは以下のとおりである。なお、計算は、HarveryのプログラムLSMLMW(PC−Ver.2)を用いた。
【0040】

Yij=μ+Fi+Tj+Fi*Tj+eij

但し、Yij:観察値

μ :全平均値

Fi :i番目の食品に共通の効果(i=1,2,・・・10)

Tj :j番目の食事形態に共通の効果(i=1,2,3)

Fi*Tj:食品の種類と食事形態の交互作用の効果

eij:残差
【0041】
10種類の食品について、3種類の食事形態とするための処理を行い、レオメーター(プランジャーの径 3mm)によって、硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重および破断荷重の各テクスチャーを測定した。それらの基本統計量は、表1に示すとおりである。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、食材の基本的な物理特性や、食事形態の違いもあって、分析に取り上げたいずれのテクスチャーについても最大値と最小値の差は大きく、特に硬さ荷重の変動係数は、274.98%と大きくなった。また最大荷重や破断荷重も100%を超えると大きな値となり、食材や食事形態によってテクスチャーは大きく変化することが認められた。
【0044】
尚、食品の原材料や食事形態の違いから当然ではあるが、硬さ荷重については、食品の多くが2×10N/m〜3×10N/mの平均値近くの低い値であったが、一部付着性が低いものもあって、変動係数は約70%とかなり大きいことが認められた。凝集性の変動係数は35.64%と、他のテクスチャーに比較して最も小さかった。すなわち、凝集性は、食品の種類や食事形態に影響を受けるもののその程度が比較的低いことが認められた。
【0045】
10種類の食品について、レオメーター(プランジャー径3mm)によって測定した硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重、破断荷重等のテクスチャーに対する食品の種類や3種類の食事形態の影響が大きく認められたが、これらの要因効果について、どの程度の影響があるかを検討するため最小自乗分散分析(Harvery,1990)を行った。その結果は表2に示すとおりである。
【0046】
【表2】

【0047】
最小自乗分散分析による平均平方をみると、食品の種類と3種類の食事形態のいずれもが、テクスチャーのすべてに対して有意(P<0.05,0.01)な影響を及ぼすことが認められた。また、平均平方の値から、硬さ荷重、凝集性、最大荷重、破断荷重は、いずれも食品の種類より食事形態の影響を大きく受けていることが認められた。一方、付着性は、食事形態の違いによる影響より食品の種類、すなわち、食材が異なることによって、それに対する食事形態の効果は一様ではないことが認められた。すなわち、いずれの食材に対しても、最適な食事形態の効果を検討する必要があることが分かった。
【0048】
そこで、すべてのテクスチャーに対して有意性(P<0.05,0.01)が認められた交互作用の効果をもとに各テクスチャーについて検討した。
【0049】
まず、硬さ荷重に対する食品の種類と食事形態の効果を検討するため、食品の種類および食事形態別の硬さ荷重の最小自乗平均値を示すと、図2のグラフ及び表3に示すとおりである。
【0050】
【表3】

【0051】
食事形態1についてみると、鶏唐揚げ(C)は他の食品に比較してかなり高く、また、鶏バンバンジー(E)も比較的高い値であった。すなわち、これらの食品に対して、高齢者や咀嚼・嚥下等の障害者に対して食事を調理する際、食事形態1、すなわち、「普通食」の効果が低いことが認められた。また、ハンバーグ(みじん)(A)、まぐろの刺身(H)および鮭の塩焼き(I)は食事形態に関わらず、いずれも低い値であった。
【0052】
これらの結果から、物理的に細かくした食品や、魚類については、硬さ荷重に対する食事形態による差が少ないことが認められた。トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、牛肉の煮物(D)、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華揚げ(G)、まぐろの刺身(H)および鯖の照り焼き(J)については食事形態1に比較して食事形態2あるいは3の場合に硬さ荷重が有意に低くなることが明らかとなり、食事形態2あるいは3がソフト食を調理する際の調理法としてより利用しやすいという結果が得られた。
【0053】
咀嚼困難者及び軽度の嚥下困難者に対する食品の硬さ荷重から考えれば、上記表3にも示すように、食事形態2すなわち「高齢者ソフト食」(0.64×10Nm〜1.50×10N/m)は、食材にかかわらず食事形態3「ミキサー固形食」(0.22×10N/m〜0.92×10N/m)と殆ど変わらないか、低い値の食品もあり、ソフト食として充分に利用できることが分かった。
【0054】
次に、凝集性に対する食品の種類と食事形態の交互作用をもとにそれぞれの要因の効果を検討するため、食品の種類および食事形態別凝集性の最小自乗平均値を、図3のグラフと表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
基本的に食材としては、硬さにかかわる荷重が低く、凝集性が高いことが求められる。その観点から見ると、鶏唐揚げ(C)を除くすべての食品において、食事形態3が他の食事形態に比較して、ほぼ同等(例えば、鯖の照り焼き(J))か優れていることが分かった。
【0057】
また、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)、まぐろの刺身(H)および鮭の塩焼き(I)については、食事形態2が食事形態3に次いで優れていることが認められた。さらに、ハンバーグ(みじん)(A)、トンカツ(B)、牛肉の煮物(D)、豚バラ中華風揚げ(G)および鯖の照り焼き(J)については、食事形態1が食事形態3に次いで優れていることが認められた。しかしながら、食事形態1のトンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、牛肉の煮物(D)、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華風揚げ(G)および鯖の照り焼き(J)は、図2のグラフ及び表3から分かるように、硬さ荷重が大きく、一部(ハンバーグ(みじん)(A)、まぐろの刺身(H)および鮭の塩焼き(I)を除いて、食事形態2や3に比較して優良であるとはいえない。
【0058】
表4にも示したように、凝集性は0.25〜0.61と平均的に食事形態3が優れているものの、表1の食事形態の効果の平均平方がかなり小さい(0.21)ことも併せて判断すると、顕著な差はない。食品の硬さおよび凝集性という点では、食事形態2、すなわち、「高齢者ソフト食」で充分に所期の効果を満たし得る。また、喫食者の障害の程度がより重い場合には、食事形態3、すなわち「ミキサー固形食」が有効である。
【0059】
次に、付着性に対する食品の種類と食事形態の相互作用をもとに要因効果を検討するため、食品の種類および食事形態別付着性の最小自乗平均値を図4のグラフと表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
これらのグラフと表から分かるように、鶏バンバンジー(E)において、食事形態1で他の食事形態に比較して高い値を示した。とくに、原材料としては同じ鶏肉を使ったチキン南蛮(F)と比較してもかなり高値であった。そもそも、30000J/mを超える付着性を示す食品は、要介護者にとって好ましい食品とはいえない。したがって、鶏バンバンジー(E)を喫食する場合は、食事形態2あるいは食事形態3が望ましい。また、鶏バンバンジー(E)やチキン南蛮(F)において、食事形態3による付着性は、食事形態1による鯖の照り焼き(J)とほぼ同等の付着性に留まった。
【0062】
一方、トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)および鮭の塩焼き(I)のように、食事形態1、2、3の順に付着性が高くなる加工食品や、まぐろの刺身(H)や鯖の照り焼き(J)のように、逆に付着性が低下する食材、さらには、一定の付着傾向を示さないものもあり、食品の種類と食事形態の相互作用が有意であったことからも、食事形態の違いのみが付着性を決定する要因ではないことが分かる。
【0063】
次に、食品を口腔に入れて初めて感じられるテクスチャーの一つである最大荷重を、食品の種類および食事形態別に、図5および表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
このテクスチャーに関して特徴的なことは、すべての食品において、食事形態1、2、3の順に荷重値が低下していくことである。また、原材料として細かく調理されているハンバーグ(みじん)(A)および生で柔らかいまぐろの刺身(H)を除いて、いずれの加工食品も食事形態1が他の2つの食事形態に比べて極めて高値となった。これにより、「高齢者ソフト食」として食事形態1を選択できる食材は、魚などの限られた原材料か、原材料を予め細断するなどの前処理を必要とすることが分かった。
【0066】
なお、表6に示すように、食事形態1、2および3でそれぞれの最大荷重は、2.03×10N/m〜16.15×10N/m、0.65×10N/m〜2.86.15×10N/mおよび0.14×10N/m〜1.12×10N/mであり、食事形態2と3による顕著な差異は認められなかった。
【0067】
前記の最大荷重と高い関連性を持ち、食品を口腔に入れて初めて感じられるテクスチャーの一つである破断荷重を、食品の種類および食事形態別に、図6および表7に示す。
【0068】
【表7】

【0069】
このテクスチャーに関して特徴的なことは、最大荷重と同様、一部(鮭の塩焼き(I))を除くすべての食品において、食事形態1、2、3の順に低値となる。また、表7から分かるように、破断荷重2.0×10N/m以内に食事形態2および3のすべての食品が収まることが分かった。
【0070】
原材料として、細かく調理されるハンバーグ(みじん)(A)、生で柔らかいまぐろの刺身(H)および唯一食事形態1で低い荷重値を示した鮭の塩焼き(I)を除いて、いずれの食品も食事形態1が他の2つの食事形態に比べて極めて高値を示した。したがって、「高齢者ソフト食」として食事形態1を選択できる食材は、破断荷重値からも魚などの限られた原材料か、原材料を予め細断するなどの前処理を必要とすることが分かった。しかしながら、嚥下の際の凝集性を考慮すると、「刻み食」は問題があり、原材料としては魚が好適であることが示唆された。
【0071】
以上、3mm径のプランジャー使用によるレオメーターによって得られたテクスチャーの値をもとに、各食品の特徴を検討した結果、硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重および破断荷重等を総合して判断すると、先ず、口腔内で砕くという点で柔らかさが要求されるが、予め刻んである、あるいは砕いてある食品は嚥下の際に必要な凝集性に欠けることが明白になった。また、食事形態に関しては、食材によっては、食事形態1で問題ないものも若干あるが、食材による差異の少ない食事形態2が基本となること、さらに、喫食者の障害等が重度である場合は、食事形態3が望ましいことが分かった。
【0072】
[試験例2] 本試験では、前記[試験例1]のレオメータープランジャー径3mmによる測定結果の内、食事形態2および3の119サンプルに加え、プランジャー径20mmによる測定を行った。食事形態2のトンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、牛肉の煮物(D)、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華風揚げ(G)および鮭の塩焼きを各6サンプル(鶏バンバンジーのみ5サンプル)ずつ、さらに、ハンバーグ(みじん)(A)、牛肉の煮物(D)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華風揚げ(G)、まぐろの刺身(H)、鮭の塩焼き(I)および鯖の照り焼き(J)を各6サンプル(牛肉の煮物についてのみ5サンプル)ずつの合計82個のサンプルを測定した。
【0073】
これら総計201個のサンプルについて、各食品のテクスチャーを分析対象形質とし、食品の種類、プランジャー径、食事形態の効果とそれぞれの交互作用を母数効果としてHarvery(1990)の最小自乗分散分析を行った。分析に用いた数学モデルは
以下のとおりである。なお、計算は、HarveryのプログラムLSMLMW(PC−Ver.2)を用いた。
【0074】

Yijk=μ+Fi+Dj+Tk+Fi*Dj+Fi*Tk+Dj*Tk+eijk

但し、Yijk:観察値

μ :全平均値

Fi :i番目の食品に共通の効果(i=1,2,・・・10)

Dj :j番目のプランジャー径の効果(i=1,2)

Tk :k番目の食事形態に共通の効果(i=1,2,3)

Fi*Dj:プランジャー径と食事形態の交互作用の効果

Fi*Tk:食品の種類と食事形態の交互作用の効果

Dj*Tk:プランジャー径と食事形態の交互作用の効果

eijk:残差
【0075】
本試験に用いた201個の食品サンプルの硬さ荷重、凝集性、付着性および最大荷重のテクスチャー値の基本統計量を表8に示す。
【0076】
【表8】

【0077】
表8から分かるように、変動係数の最も小さい要素、すなわち、食品の種類や形態が異なっても他のテクスチャーに比較してばらつきが小さい要素は凝集性であり、23.74%であった。一方、硬さ荷重、付着性、最大荷重については、食品の種類や食事形態の違いによる影響を受け易いと考察され、いずれも80%以上の高い値を示した。
【0078】
これらテクスチャーのばらつきには、素材や調理法等に起因する食品の違いや食事形態の違いが影響していることが予測されたので、その要因効果について分析を試みた。とくに、レオメーターのプランジャー径の違い(3mm又は20mm)がテクスチャー評価に及ぼす影響について検討した。なお、高齢者や咀嚼・嚥下障害者に対する食品として有効性の低かった食事形態1を除き、食事形態2および食事形態3について試験を行った。最小自乗分散分析によるテクスチャーに対する各要因の平均平方の結果を表9に示す。
【0079】
【表9】

【0080】
表9に示すように、付着性に対する食事形態の効果を除くすべての要因効果で、5%あるいは1%の有意性が認められた。また、前記と同様、食品の種類および食事形態やこれらの交互作用に比較して、プランジャー径の3mmと20mmの違いによるテクスチャー値に与える影響は、本要因の平均平方が、硬さ荷重(72.09)、凝集性(5887002844)および最大荷重(1100.86)のいずれにおいても顕著に高く、プランジャー径がテクスチャーを測定する上で極めて重要な変動要因となっていることが分かった。
【0081】
最初の食感に関連する硬さ荷重に対する食品別のプランジャー径の効果について、図7のグラフおよび表10に示す。
【0082】
【表10】

【0083】
表10から分かるように、プランジャー径3mmによる硬さ荷重は、0.43×10N/m〜0.90×10N/mと、20mmの場合の1.33×10N/m〜2.55×10N/mに比較して極端に低値となり、かつ、鶏唐揚げ(C)、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)および鮭の塩焼き(H)の場合のように、他の食品に対する相対的な値がプランジャー径の違いによって一致しない例が認められた。また、3mmで計測したものより20mm径で計測した数値のほうが硬さのばらつきが大きかった。そして、実食した感じと対応してみると、20mmプランジャーによる計測値は食感を好適に示すものであることが分かった。
【0084】
次に、食品の凝集性に対するプランジャー径の違いによる効果について、図8のグラフと表11に示す。
【0085】
【表11】

図8のグラフから分かるように、硬さ荷重とは若干異なるが、トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、鶏バンバンジー(E)およびチキン南蛮(F)および鮭の塩焼き(I)の場合のように、硬さ荷重の値が一致しない例が認められた。とくに、鶏唐揚げ(C)鶏バンバンジー(E)およびチキン南蛮(F)等の鶏肉素材の食品に対して、プランジャー径の違いによる測定効果に違いが認められたことは注目される。
【0086】
また、食品の付着性に対するプランジャー径の違いによる効果について、図9のグラフと表12に示す。
【0087】
【表12】

【0088】
尚、この付着性に関しては、食品の原材料に起因すると考えられるレオメーターでは計測不能な値が認められ、実際のテクスチャー値としては20mm径では、表12に示すように、負の値となった。したがって、トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)については、付着性を「0」J/mとして取り扱った。
【0089】
すなわち、プランジャー径20mmでは、トンカツ(B)および鶏唐揚げ(C)のように付着性の値が負になるということは、これらの食品が極めて砕け易く、食材の特徴として塊を作り難いことが推測されるが、プランジャー径3mmのように、プランジャー径を小さくすることによって、個々の小さな食塊を測定できることは示唆された。しかしながら、高齢者の食品としてみると、牛肉の煮物(D)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華風揚げ(G)あるいは鮭の塩焼き(I)と同様にとくに問題になるものではないと考察できる。一方、プランジャー径3mmによる計測値は、すべての食品に対して、5000J/mを超え、中には15000J/mを超えるものもあり、高齢者の食品として問題となる値を示した。
【0090】
さらに、各食品の最大荷重に対するプランジャー径の違いによる効果について、図10のグラフと表13に示す。
【0091】
【表13】

【0092】
最大荷重については、前記図7のグラフと表10に示すように、硬さ荷重とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、表13から分かるように、プランジャー径3mmの場合、0.56〜1.56(×10N/m)と、いずれの食品に対してもかなり小さな値で、かつ、全体を通して変動が小さいことが認められた。このことは、プランジャー径3mmでは比較困難であることを示すものである。これに対して、20mmの場合は、3.62〜8.02(×10N/m)と食品によって変動も大きく、かつ、ハンバーグ(みじん)(A)、チキン南蛮(F)および豚バラ中華風揚げ(G)のように食品間の相対的な最大荷重が異なることが認められた。したがって、食感の判定にはプランジャー径20mmによる測定値が有効であることが分かった。
【0093】
食品のテクスチャーに対し、食事形態の違いも当然影響していると考えられるが、食品の硬さ荷重に対するそれらの効果について最小自乗平均値を示すと、図11および表14のとおりである。尚、材料および方法にも述べたが、とくに高齢者に対する食品について検討するため、分析の際、「高齢者ソフト食」および「ミキサー固形食」を要因効果として最小自乗分散分析を行った。
【0094】
【表14】

【0095】
図11のグラフから分かるように、すべての食品において、「高齢者ソフト食」に対して「ミキサー固形食」の方が有意(P<0.01)に硬さ荷重が小であることが認められた。また、ハンバーグ(みじん)(A)、トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、牛肉の煮物(D)、鶏バンバンジー(E)およびチキン南蛮(F)については、プランジャー径3mmと20mmの違いで測定値はかなり異なるものの、食品ごとの物性傾向は同様であった。とくに、豚バラ中華風揚げ(G)、まぐろの刺身(H)、鮭の塩焼き(I)および鯖の照り焼き(J)については硬さ荷重値も食品ごとの物性傾向もプランジャー径の違いによって差異が明確に分かった。
【0096】
各食品の食事形態別凝集性の最小自乗平均値を、図12のグラフと表15に示す。
【0097】
【表15】

【0098】
図12のグラフから分かるように、まぐろの刺身(H)を除くすべての食品において、食事形態2より食事形態3の方、つまり、「高齢者ソフト食」(0.29〜0.53)より「ミキサー固形食」(0.41〜0.54)の方が凝集性が優れている。凝集性は、食物を嚥下する際に重要な要素の一つであり、とくに、ハンバーグ(みじん)(A)や牛肉の煮物(D)、また、豚バラ中華風揚げ(G)や鮭の塩焼き(I)において食事形態3の方が高値になる。
【0099】
各食品の食事形態別付着性の最小自乗平均値を、図13のグラフと表16に示す。
【0100】
【表16】

【0101】
凝集性と異なり、付着性は食品の種類と食事形態との交互作用が有意(P<0.01)であるように、食事形態のみの要素で一定の物性傾向は認められなかった。また、表16から分かるように、食事形態2では、ハンバーグ(みじん)(A)、牛肉の煮物(D)、豚バラ中華風揚げ(G)およびまぐろの刺身(H)で変動係数が約14〜17%、また、食事形態3では、ハンバーグ(みじん)(A)、トンカツ(B)、牛肉の煮物(D)およびまぐろの刺身(H)で15〜31%と個体差が見られ、食材によって一定の物性を示す食事形態を保つことの困難さが示唆された。
【0102】
各食品の最大荷重について食事形態別の最小自乗平均値を、図14のグラフと表17に示す。
【0103】
【表17】

【0104】
最大荷重は、図11のグラフに示した硬さ荷重と強く関連するので、図14のグラフから分かるように、鯖の照り焼き(J)を除き各食品の測定値間の傾向は、硬さ荷重の場合とほぼ同様であった。また、表17から分かるように、「高齢者ソフト食」(3.93〜6.91×10N/m)に比べて「ミキサー固形食」(0.61〜3.37×10N/m)が極めて柔らかいことが分かった。
【0105】
以上のことから、食品の種類や食事形態、交互作用等の要因効果について、硬さ荷重、凝集性、付着性および最大荷重等のテクスチャーを科学的かつ客観的な測定値として表す上で、その計測に用いるレオメーターのプランジャー径が極めて大きな要素となることが分かった。
【0106】
食事形態とプランジャー径の交互作用効果をもとに、各テクスチャー測定値の最小自乗平均値を食事形態およびプランジャー径別に図15〜図18のグラフおよび表18〜表21に示す。
【0107】
【表18】

【0108】
【表19】

【0109】
【表20】

【0110】
【表21】

【0111】
図15〜図18のグラフから分かるように、食品の硬さ荷重や最大荷重については、3mm径よりも大きな抵抗を受ける20mm径のプランジャーの方が、食事形態2および食事形態3のいずれの場合においても高値を示した。逆に、食品の集合性に関わる凝集性や付着性については、プランジャー径3mmの方が20mmよりも高値を示した。
【0112】
硬さ荷重、最大荷重および凝集性ではプランジャーの径に関わらず食事形態2よりも食事形態3、すなわち、「高齢者ソフト食」よりも「ミキサー固形食」の方が低値になった。一方、付着性に関してはプランジャーの径の違いによって測定値が変動し、付着性は、他のテクスチャーとは異質な物性であるといえる。凝集性は、換言すれば脆さを表し、咀嚼に関わる性質で、固形食品を嚥下できるまで咀嚼するために要するエネルギーで示される。この観点から見ると、付着性は粘着力を示すものであり、食品の表面と口腔内の舌や歯との間に作用する引力に打ち勝つために要するエネルギー量である。
【0113】
以上の分析に加え、上記食品サンプルの内、ハンバーグ(みじん)(A)、トンカツ(B)、鶏唐揚げ(C)、牛肉の煮物(D)、鶏バンバンジー(E)、チキン南蛮(F)、豚バラ中華風揚げ(G)、まぐろの刺身(H)、鮭の塩焼き(I)および鯖の照り焼き(J)の10種類の食品について食事形態1、2および3の各3サンプルずつの計90サンプルについて、さらに、食品のテクスチャーを定量的に表す要素の一つと考えられる破断歪率を測定した。
【0114】
破断歪率は、食品が口腔内で咀嚼されてどのように動態が変化し、嚥下されていくかをさらに詳しく表すために採用したものであり、硬さ荷重や最大荷重とも関連はするが、食品のテクスチャーを新たな側面から表す指標となる可能性がある。
【0115】
そこで、これら90個のサンプルについて、そのテクスチ
ャーを分析対象形質とし、食品の種類と食事形態およびこれらの交互作用を母数効果として、また、本形質に大きく影響すると考えられる破断荷重を回帰に取り入れてHarvery(1990)の最小自乗分散分析を行った。分析に用いた数学モデルは以下のとおりである。尚、計算は、HarveryのプログラムLSMLMW(PC−Ver.2)を用いた。
【0116】

Yij=μ+Fi+Tj+Fi*Tj+a(Wk−W)+eijk

但し、Yijk:観察値

μ :全平均値

Fi :i番目の食品に共通の効果(i=1,2,・・・10)

Tj :j番目の食事形態に共通の効果(i=1,2,3)

Fi*T:食品の種類と食事形態の交互作用の効果

a :破断荷重への1次回帰係数

Wk :k番目の破断荷重

W :破断荷重の算術平均値

eijk:残差
【0117】
ここで、一次回帰として要因効果に取り入れられた破断荷重と分析対象形質とした破断歪率の基本統計量を表22に示す。破断歪率の変動係数は、16.8%と破断荷重よりも小さな値であった。
【0118】
【表22】

【0119】
最小自乗分散分析の結果を表23に示す。また、図19のグラフおよび表23に、食品の種類および食事形態別の破断歪率の最小自乗平均値を示す。
【0120】
【表23】

【0121】
【表24】

【0122】
表23および表24から分かるように、破断歪率に対して、食品の種類、食事形態、またこれらの交互作用の効果は、いずれも有意(P<0.01)な影響を及ぼすことが認められた。すなわち、破断歪率に対する「普通食」、「高齢者ソフト食」および「ミキサー固形食」等の食事形態の違いによる影響は明瞭に認められた。
【0123】
図19のグラフに示すように、食事形態1、すなわち「普通食」では、食品の破断歪率がかなりばらつき牛肉の煮物(D)や鶏バンバンジー(E)のように、かなり低値のものから、まぐろの刺身(H)や鮭の塩焼き(I)あるいはハンバーグ(みじん)(A)のように、高値のものまで大きな格差が見られた。また、食事形態2、すなわち、「高齢者ソフト食」では、表24から分かるように、最小値80.4×10N/mから最大値90.0×10N/mとほぼばらつきなく、高齢者の食品として安定したテクスチャーを示すことが分かった。さらに、食事形態3、すなわち「ミキサー固形食」では、すべての食品の破断歪率が、ほぼ90.0×10N/mであり、高齢者の食品として極めて優れた機能食品であることが分かった。
【0124】
[試験例3] サンプルとして食事形態1、2及び3の各3品目ずつの計90品目について、「破断荷重」と「破断歪率」を計測して食品の物性の指標とした。尚、高齢者用食品の物性等については、科学的・物理的な根拠、すなわち「高齢者ソフト食」の摂食嚥下適正に関係しているテクスチャー特性のうち、硬さ荷重、凝集性、付着性、最大荷重、破断荷重及び破断歪率を取り入れ、食事形態も「普通食」=1、「高齢者ソフト食」=2および「ミキサー固形食」=3をそれぞれダミー変数として検討の対象とした。
【0125】
プランジャーの径3mmの場合の相関分析結果: レオメーターのプランジャーの径3mmによるテクスチャー特性及び食事形態相互間の相関係数は表25に示すとおりである。すなわち、「硬さ荷重」は、固形物としての物性上、最大荷重や破断荷重と深い関係にあるものと推察され、表1に示すように、それぞれ0.38および0.25と有意(P<0.01)な相関関係であったが、その値はかなり低いことが認められた。また、凝集性と付着性との間にも0.15と5%水準の有意性が認められたものの、その値は「硬さ荷重」の場合よりもさらに小さかった。
【0126】
【表25】

【0127】
さらに、「凝集性」と「最大荷重や破断荷重」との間には、いずれも−0.01とほぼ0(ゼロ)であり、これらの物性値間に関連を見出すことはできなかった。また、最大荷重は、深い関連性をもつとみられる破断荷重と0.84と有意(P<0.01)に高い相関関係を示した。
【0128】
また、食事形態との関連を見ると、「硬さ荷重」、「最大荷重や破断荷重」は、それぞれ−0.32、−0.71、−0.57と有意(P<0.01)な負の値を示しており、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の順にこれらの物性値は低くなることが認められた。すなわち、硬度、あるいは噛み砕くという観点から、「高齢者ソフト食」や「ミキサー固形食」は高齢者にとってより提供しやすい形態の食品であると言える。
【0129】
また、食事形態と「凝集性」とは、0.25という正(P<0.01)の有意な相関を示し、「高齢者ソフト食」や「ミキサー固形食」は嚥下の際に必要な「凝集性」も備えていることが認められた。尚、「付着性」との相関関係は−0.02と、ほぼ0(ゼロ)に近く、プランジャー径3mmによる計測では、食事形態の違いを確認することは困難であることが認められた。このことは、食材加工後の形態で測定することから、とくに「普通食」や「高齢者ソフト食」では、各食品の内容(構造)の均一性が必ずしも高くないことが、プランジャーの径3mmによって充分に捕らえ切れない、あるいは、材質からくる誤差が生じやすいのではないかと予想できる。
【0130】
[破断歪み率と破断荷重および食事形態との相互関連性] 食品として重要な物性である破断歪率を計測した。3種の食事形態により10種各3品目の90品目について、ダミー変数とした食事形態と破断荷重を合わせて相互の関連性について相関係数を表26に示す。
【0131】
【表26】

【0132】
表26から分かるように、食事形態は、先の表25にも同様のことを示したように、破断荷重との間に−0.65と負の有意(P<0.01)な相関関係を示した。一方、破断歪率との間には0.78と、比較的高い正(P<0.01)の有意な相関関係が認められた。すなわち、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の順に噛み切り易くなる一方で、食品が崩れ難く安定した固形状になっていることが認められた。このように、破断荷重と破断歪率との間には逆の関係が成立することは、表26に示すように、両者の相関関係が、−0.43と有意な負(P<0.01)の値を示していることでも明らかである。
【0133】
[プランジャー径20mmの場合の相関分析結果] プランジャーの径20mmによるテクスチャー特性及び食事形態相互間の相関係数を表27に示す。
【0134】
【表27】

【0135】
表27から分かるように、硬さ荷重は食品としての物性上、最大荷重と深い関係にあると推測され、表3に示すように、1.00と有意(P<0.01)な相関係数であり、かつ、その値は3mm径のプランジャーで測定した場合よりも極めて高いことが分かる。また、「凝集性」と「付着性」との相関係数は0.62であり、1%近い正の有意性が認められ、その値は3mm径プランジャーで測定した場合よりも高い値であった。
【0136】
一方、「凝集性」は、「硬さ荷重」との相関係数が−0.61と、負の有意(P<0.01)な相関関係を示し、当該喫食者にとって、噛み砕くという点では、硬さ荷重は小さいほうが望まれるものの、嚥下のし易さという点では、一定以上の凝集性が必要であることが望まれることが、20mm径のプランジャーを用いることによって明瞭に評価できた。
【0137】
さらに、「凝集性」と「最大荷重」との相関係数は、3mm径のプランジャーでは−0.01とほぼ0(ゼロ)であったのに対し、20mm径では、−0.60と、有意(P<0.01)で、かつ、硬さ荷重との間の関連性を強く裏付ける結果が得られた。以上の結果から、食品の物性評価をレオメーター測定法に依る場合、3mm径よりも20mm径のプランジャーを使用する方が食品のテクスチャーを正確に評価できることが分かった。
【0138】
すなわち、「最大荷重」と「付着性」との相関係数は、プランジャーの径3mmの場合には、−0.02と、ほぼ0(ゼロ)に近く、食品の内容(構造)は必ずしも均一でないため、プランジャーの径3mmでは充分に捕らえきれない、あるいは、材質からくる誤差が生じやすいものと判断できる。
【0139】
「高齢者ソフト食」の物性検査:「高齢者ソフト食」を固形物として扱い、代表的な10種類の食品のテクスチャー特性について、厚生労働省の定めた高齢者用食品の検査方法に準じて計測し、得られた物性の相互関連性を解析することによって、「高齢者ソフト食」の客観的かつ有効な測定法の確立を試みた。
【0140】
「硬さ荷重」は、物性上、「最大荷重や破断荷重」と深い関係にあるものと推測され、それぞれ0.38及び0.25と有意な相関係数であったが、その値は極めて低いことが認められた。また、「硬さ荷重」、「最大荷重や破断荷重」は、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の順に低下して行くことが認められた。すなわち、適度な硬さ、ある程度の咀嚼を要するという観点から見ると「高齢者ソフト食」や「ミキサー固形食」は高齢者にとってより提供しやすい形態の食品である。すなわち、当該喫食者にとって、噛み砕くという点では、硬さ荷重は小のほうが好まれ、かつ嚥下のし易さという点では、ある程度の凝集性があることが好まれることが、20mm径のプランジャーを用いることによって正確に評価できる。
【0141】
次に、「高齢者ソフト食」の咀嚼・嚥下のし易さについて客観的評価を行うことを目的とし、既に多くの提供実績のある代表的な「高齢者ソフト食」メニューのテクスチャー特性、すなわち、「硬さ荷重」・「凝集性」・「付着性」・「最大荷重」を厚生労働省の定めた高齢者食品の試験方法に準じて測定し、これらのデータを基にレオメーターに「硬さ荷重」、「凝集性」、「付着性」、「最大荷重」、「破断荷重」の従属変数を付与し、他の形質を独立変数としてDraper&Smith(1966)のStep−wise重回帰分析を行った。その結果、食品のように多種多様で均一の質を求めることの困難な物体を測定する上で、3mm径プランジャーでは必ずしも個々の食品の物性を正確に測定できないことが判明した。さらに、「付着性」を推計するための重回帰式による寄与率は5.9%と極めて低く、いずれの独立変数も20%を越えるものではなかった。
【0142】
20mm径のプランジャーの測定による硬さ荷重は、重回帰式によって80.1%の寄与率で推計できることが認められた。また、硬さ荷重に最も影響をおよぼす要素は、3mm径の場合と同様、食事形態であり、本形質の寄与の程度が、負で極めて高い(−0.94)ことが明らかとなった。すなわち、「ミキサー固形食」、「高齢者ソフト食」、「普通食」の順に食事形態が変わるのにしたがって、「硬さ荷重」が大きくなること、さらに、食事形態がほぼ決定的に「硬さ荷重」を左右することが分かった。
【0143】
「凝集性」に最も影響を及ぼす独立変数は、先ず、食事形態が0.39、次いで、付着性が0.31といずれも正の標準偏差回帰係数で示され、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の順番に凝集性が大きくなること、また、付着性が強くなると、それに応じて凝集性も高くなることが認められた。
【0144】
食品の付着性については、4つの独立変数によって、57.6%の寄与率で説明できることが明らかとなった。とくに、硬さ荷重と同様、食事形態が0.80と、最も高い標準偏差回帰係数で取り上げられ、さらに、硬さ荷重も0.74とかなり高い値の標準偏差回帰係数で関連付けられた。
【0145】
本発明で使用する3種の従属変数は、以下の重回帰式によって推計される。

硬さ荷重推計値=0.00555×種類−2.26258×食事形態No.−1.70095×凝集性+0.00175×付着性+7.67128 (寄与率80.1%)

凝集性推計値=0.00543×種類+0.06438×食事形態No.−0.01322×硬さ荷重+0.00011×付着性+0.18982 (寄与率67.6%)

付着性推計値=13.55×種類+378.50×食事形態No.−145.24×硬さ荷重+1148.54×凝集性−1354.83 (寄与率57.6%)

但し、「種類」とは食品ごとに付与される定数、 「食事形態No.」とは「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」という喫食形態の違いによって付与される定数とする。
【0146】
プランジャー径3mmの場合の食品の物性による重回帰分析: まず、3mm径のプランジャー使用による物性値をもとに、食品を口腔に入れたとき最初に感じる食感に対応すると考えられる硬さ荷重を従属変数としたStep−wiseの重回帰分析結果を表28に示す。
【0147】
【表28】

【0148】
表28から分かるように、重回帰式の寄与率は、13.3%と低い値ではあったが、標準偏回帰係数に示されるように、硬さ荷重に対して食事形態が最も高い負の影響、すなわち、「ミキサー固形食」、「高齢者ソフト食」、「普通食」の順に食事形態のダミー変数が小さくなるのにしたがって、硬さ荷重が大きくなることが分かった。また、凝集性が正の標準偏回帰係数となり、他の物性に比較して、より強く硬さ荷重に影響していることが分かった。尚、寄与率は低いものの、硬さ荷重は、次式で推計できる。硬さ荷重推計値=−0.22751×種類−2.74011×食事形態No.+8.41927×凝集性+0.00002×付着性+4.73912
【0149】
高齢の喫食者が口腔内の食品を嚥下する際、食品の凝集性が大いに関係することが療養現場で確認されているが、凝集性を従属変数としてStep−wiseの重回帰分析結果を表29に示す。
【0150】
【表29】

【0151】
表29から分かるように、重回帰式の寄与率は11.9%と、硬さ荷重の場合よりさらに低くなることが予想され、3mm径プランジャーによる測定限界は、「普通食」及び「高齢者ソフト食」の一部までであろうことが示唆された。このような制約の範囲内において、重回帰分析により、凝集性に対して最も影響を及ぼす形質は、標準偏回帰係数(0.31)が示すように、硬さ荷重の場合と同様、ダミー変数として取り入れた食事形態であった。ただ、その値は正であり、「ミキサー固定食」、「高齢者ソフト食」、「普通食」の順に食事形態のダミー変数が小さくなるのにしたがって、凝集性も小さくなることが分かった。「硬さ荷重」の標準偏回帰係数は0.17と正であった。ここで、3mmプランジャーを使った場合の相関分析において、凝集性と硬さ荷重や最大荷重との間にほとんど関連性を見出すことはできなかった。一方、20mm径プランジャーによる計測では、−0.60〜−0.61と有意な負の関係が認められた。
【0152】
したがって、例えば、高圧処理によって物性が大きく異なるような食材の物性を測定する上で、3mm径プランジャーでは必ずしもその物性を正確には捕らえられないことが分かった。
【0153】
次に、「付着性」、すなわち、食品の表面と、喫食者の舌、歯、口蓋との間に発生する引張力に抗する力について、この物性値を従属変数としてStep−wiseの重回帰分析を行った。得られた結果を表30に示す。
【0154】
【表30】

【0155】
表30からも分かるように、「付着性」を推計するための重回帰式による寄与率は、5.9%と極めて低く、いずれの独立変数も20%を越えるものではなかった。尚、本分析結果から、食品の付着性については、当然であるが、食品の種類に依存する傾向が強いこと、次いで、凝集性に強く影響することが分かった。
【0156】
以上、3mmプランジャー使用による食品毎の「硬さ荷重」、「凝集性」及び「付着性」等の物性値を従属変数とした場合の独立変数からの寄与の程度を解析したが、これらの形質を評価する上で、特段、有効な指標は得られなかった。
【0157】
[プランジャー径20mmの場合の食品の物性における重回帰分析] 3mm径プランジャーの場合と同様に「硬さ荷重」、「凝集性」及び「付着性」等の物性値を従属変数として、20mm径のプランジャーによる測定値による解析を行った。
【0158】
先ず、「硬さ荷重」に対するStep−wiseの重回帰分析を行った。結果を表31に示す。
【0159】
【表31】

【0160】
表31から分かるように、20mm径プランジャーの測定による「硬さ荷重」は、重回帰式によって80.1%の寄与率で推計できることが分かった。また、「硬さ荷重」に最も影響を及ぼす形質は、3mmの場合と同様、ダミー変数で取り入れた食事形態であり、本形質の寄与の程度が、負で極めて高い(−0.94)ことが分かった。すなわち、「ミキサー固形食」、「高齢者ソフト食」、「普通食」の順に食事形態のダミー変数が小さくなるのにしたがって、「硬さ荷重」が大きくなること、さらに、食事形態がほぼ決定的に食品の硬さを左右することが分かった。
【0161】
また、「付着性」の標準偏回帰係数は、0.35と比較的高く、「凝集性」の標準偏回帰係数は−0.12となり、3mm径の場合と異なって、一定の範囲内であると推測されるが、凝集性が高くなるほど「硬さ荷重」が小さくなることが示唆された。尚、「硬さ荷重」は、次式により、かなり高い寄与率で推計できることが分かった。硬さ荷重推計値=0.00555×種類−2.26258×食事形態No−1.70095×凝集性+0.00175×付着性+7.67128
【0162】
次に、凝集性を従属変数とした場合の重回帰分析結果を表32に示す。
【0163】
【表32】

【0164】
表32から分かるように、凝集性に最も影響を及ぼす独立変数として、先ず食事形態が0.39、次いで、付着性が0.31といずれも正の標準偏回帰係数となり、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」の順に凝集性が大きくなること、また、付着性が強くなると、それに応じて凝集性も高くなり、さらに、食品の種類についても5%以下の有意水準で「凝集性」に影響することが分かった。
【0165】
以上の独立変数に「硬さ荷重」を加えた4変数により67.6%の高い寄与率で「凝集性」を推計できることが分かった。尚、20mm径のプランジャーを用いることにより、「凝集性」は、次式により推計できることが分かった。凝集性推計値=0.00543×種類+0.06438×食事形態No−0.01322×硬さ荷重+0.00011×付着性+0.18982
【0166】
次に、20mm径のプランジャーを用いた場合の食品の付着性を従属変数として、Step−wiseの重回帰分析を行った。結果を表33に示す。
【0167】
【表33】

【0168】
表33から分かるように、4つの独立変数によって、57.6%の寄与率で食品の付着性を説明できる。とくに、「硬さ荷重」と同様に「食事形態」が0.80と最も高い標準偏回帰係数であり、さらに、「硬さ荷重」も0.74とかなり高い正の標準偏回帰係数となり、「凝集性」も0.40と比較的高い正の標準偏回帰係数が得られた。尚、20mm径のプランジャーを用いることによって、「付着性」は、次式により推計できる。付着性推計値=13.55×種類+378.50×食事形態No−145.24×硬さ荷重+1148.54×付着性−1354.83
【産業上の利用可能性】
【0169】
以上、個々の食品が持っているテクスチャーをレオメーターを使用して評価する際、3mm径のプランジャーよりも、20mm径のプランジャーを使用する方が正確な物性評価ができ、「普通食」、「高齢者ソフト食」、「ミキサー固形食」という喫食形態を高齢者の食事形態として客観的且つ定量的に評価できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミンチ状、細切状又はペースト状にされた食材に、少なくとも澱粉、油脂、増粘多糖類及び水を混合して加工した固形状の調理品であって、硬さ荷重、凝集性及び付着性を表す重回帰式が、以下に記す(1)硬さ荷重推計値、(2)凝集性推計値及び(3)付着性推計値の3つの従属変数によって推計される値を満たすことを特徴とする加工食品。

(1)硬さ荷重推計値=0.0055×種類−2.26258×食事形態No.−1.7009×凝集性+0.0017×付着性+7.6712 (寄与率80.1%)

(2)凝集性推計値=0.0054×種類+0.0643×食事形態No.−0.0132×硬さ荷重+0.0001×付着性+0.1898 (寄与率67.6%)

(3)付着性推計値=13.55×種類+378.50×食事形態No.−145.24×硬さ荷重+1148.54×凝集性−1354.83 (寄与率57.6%)

但し、種類とは食品ごとに付与される定数、 食事形態No.とは「普通食」=1、「高齢者ソフト食」=2、「ミキサー固形食」=3という喫食形態の違いによって付与される定数とする。
【請求項2】
レオメーターを使用して、硬度、凝集性及び付着性を測定する際の測定条件として、測定温度20±2℃にて、直径20mmの円筒形プランジャーを用いるテクスチャー測定を工程の一部とすることを特徴とする請求項1記載の加工食品の製造方法。
【請求項3】
喫食可能に加熱処理された状態での多重バイト試験におけるプライアビリティ値が1以下であることを特徴とする請求項1記載の加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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