説明

品質管理装置、品質管理方法、及びプログラム

【課題】顧客の要求を満たすような場合でもアラームが過剰に出ることを抑制する。
【解決手段】製品規格取得部110は、顧客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値S及び要求規格下限値Sを取得する。要求規格上限値S及び要求規格下限値Sは、顧客が直接示した数値に限られず、顧客が要求した品質を実現するために必要な数値の場合もある。管理規格算出部130は、要求規格上限値S及び要求規格下限値Sに基づいて、要求規格上限値Sと要求規格下限値Sの間に位置する管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを算出する。送信部140は、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを、通信ネットワーク50を介して検査装置20に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品に行なった処理の品質を管理する品質管理装置、品質管理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、顧客が要求する品質を維持して歩留まりを上げることは重要である。例えば特許文献1には、以下の処理を行なうシステムが開示されている。まず、プロセスデータをサンプリングすることにより、平均値及びバラツキを算出する。そして、これらの動向を調べて、管理幅を厳しい側に自動的に再設定する。
【0003】
また特許文献2には、以下の処理を行なうシステムが開示されている。まず、実績データに基づいて平均値とバラツキを算出し、算出した平均値とバラツキに基づいて理想的品質管理値を算出する。そして、理想的品質管理値と現在設定されている品質管理値とを比較して、現在の品質管理値が現実と適合しているか否かの判定を行なう。
【0004】
また特許文献3には、以下の処理を行なうシステムが開示されている。まず、プロセスデータと検査結果データを収集する。そして、検査結果データが正常である範囲内で管理値の限界を広げる方向に、プロセスデータを管理するための管理値を更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−202775号公報
【特許文献2】特開2003−29825号公報
【特許文献3】特開2005−25475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した特許文献1〜3に記載のシステムでは、実際の測定データに基づいて管理規格(管理値)が算出されている。このため、顧客の要求する品質以上の管理が行われる可能性があり、顧客の要求を満たすような場合でもアラームが過剰に出る可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、顧客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得する製品規格取得部と、
前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出する管理規格算出部と、
前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する送信部と、
を備える品質管理装置が提供される。
【0008】
本発明によれば、管理規格上限値及び管理規格下限値は、要求規格上限値及び要求規格下限値に基づいて定められる。このため、顧客の要求を満たすような場合でもアラームが過剰に出ることが抑制される。
【0009】
本発明によれば、コンピュータが、客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得し、
前記コンピュータが、前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出し、
前記コンピュータが、前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する品質管理方法が提供される。
【0010】
本発明によれば、コンピュータを品質管理装置として機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得する機能と、
前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出する機能と、
前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する機能と、
を実現させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、顧客の要求を満たすような場合でもアラームが過剰に出ることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態における品質管理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】品質管理装置を含む製造システムの構成を示す図である。
【図3】図1及び図2に示した製造システムの動作を示すフローチャートである。
【図4】C=1.33の場合の監視結果の一例を示すグラフである。
【図5】C=1.67の場合の監視結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施の形態における品質管理装置100の構成を示すブロック図であり、図2は品質管理装置100を含む製造システムの構成を示す図である。図2に示すように、品質管理装置100は、通信ネットワーク50を介して、複数の製造装置10及び検査装置20に接続している。本図において検査装置20は一つであるが、複数であってもよい。
【0015】
品質管理装置100は、図1に示すように、製品規格取得部110、管理規格算出部130、及び送信部140を備える。製品規格取得部110は、顧客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値S及び要求規格下限値Sを取得する。要求規格上限値S及び要求規格下限値Sは、顧客が直接示した数値に限られず、顧客が要求した品質を実現するために必要な数値の場合もある。管理規格算出部130は、要求規格上限値S及び要求規格下限値Sに基づいて、要求規格上限値Sと要求規格下限値Sの間に位置する管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを算出する。送信部140は、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを、通信ネットワーク50を介して検査装置20に送信する。
【0016】
管理規格算出部130は、例えば、まず、要求規格上限値S及び要求規格下限値Sの平均値である要求規格中央値Tと要求規格上限値Sと要求規格下限値Sの差分を算出する。要求規格中央値Tは、管理規格算出部130から算出しても良いし、外部から入力されても良い。そして管理規格算出部130は、工程能力指数Cの逆数Nを算出し、これに基づいて管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを算出する。具体的には、管理規格算出部130は、算出した差分に0超1未満の工程能力指数Cの逆数Nの半値を乗じた値を要求規格中央値Tに対して加算及び減算することにより、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを算出する。
【0017】
品質管理装置100は、さらに工程能力指数取得部120を備える。工程能力指数取得部120は、要求規格上限値S及び要求規格下限値Sに対する工程能力指数Cを、例えばユーザからの入力により取得する。そして管理規格算出部130は、例えば、上記した要求規格上限値S及び要求規格下限値Sに対する工程能力指数Cの逆数Nとして、以下の(1)式に従って算出する。
N=1/C・・・(1)
【0018】
この場合、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kは、それぞれ以下の(2)式及び(3)式に従って算出される。
=T+(N/2)×(S−S)・・・(2)
=T−(N/2)×(S−S)・・・(3)
【0019】
図2に示す製造システムは、例えば半導体装置を製造するシステムである。この場合、製造装置10は、例えばウェハに成膜処理を行なう装置であるが、これに限定されない。検査装置20は、例えばウェハに成膜された膜の厚さを測定する装置であり、測定結果が管理規格上限値K及び管理規格下限値Kで定められる管理規格内に含まれているか否かを判断する。この判断結果は、通信ネットワーク50に接続している任意のディスプレイ(例えば製造システムのオペレータが監視している監視装置のディスプレイ)に表示することができる。
【0020】
なお、図1において、本発明の本質に関わらない部分の構成については省略している。図1に示した品質管理装置100の各構成要素は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。品質管理装置100の各構成要素は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置には様々な変形例があることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
図3は、図1及び図2に示した製造システムの動作を示すフローチャートである。まず品質管理装置100の製品規格取得部110は、オペレータからの入力により、要求規格上限値S、要求規格中央値(狙い目)T、及び要求規格下限値Sを取得する(ステップS10)。また品質管理装置100の工程能力指数取得部120は、オペレータからの入力により、要求規格上限値S及び要求規格下限値Sに対する工程能力指数Cを取得する(ステップS20)。次いで管理規格算出部130は、ステップS20で取得した工程能力指数Cを用いて、上記した(1)式に従って工程能力指数Cの逆数Nを算出する(ステップS30)。
【0022】
次いで管理規格算出部130は、上記した(2)式及び(3)式に従って、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを算出する(ステップS40)。送信部140は、管理規格算出部130が算出した管理規格上限値K及び管理規格下限値Kを、通信ネットワーク50を介して検査装置20に送信する(ステップS50)。
【0023】
そして検査装置20は、製造装置10が処理した製品を検査する(ステップS60)。検査結果が、管理規格上限値K及び管理規格下限値Kで定められる管理規格内にある場合(ステップS70:Yes)、検査装置20は製品を次工程(次の処理を行なう製造装置10)に送る(ステップS80)。検査結果が管理規格から外れている場合(ステップS70:No)、検査装置20はアラームを、例えばオペレータが監視している監視装置に出力する(ステップS90)。オペレータは、監視装置のディスプレイにアラームが表示されると、技術担当者とともにその原因を調査する。
【0024】
図4は、C=1.33の場合の監視結果の一例を示すグラフである。この場合、N=(1/1.33)=0.75となり、管理規格は、下記で計算された値となる。
=T+(0.75/2)×(S−S
=T−(0.75/2)×(S−S
【0025】
図5は、C=1.67の場合の監視結果の一例を示すグラフである。この場合、N=(1/1.67)=0.6となり、管理規格は、下記で計算された値となる。
=T+(0.6/2)×(S−S
=T−(0.6/2)×(S−S
【0026】
工程能力指数Cは、規格に対する分布のばらつき(標準偏差:σ)の程度を判定する指標であり、通常はC=1.33、厳しく管理する場合はC=1.67とすることが一般的である。C=1の時の規格外発生確率は、管理指標が正規分布であると仮定した場合、約0.27%となる。このとき、N=1/1=1となり、製品規格と管理規格が一致する。 この場合は、製品規格外になる確率が約0.27%となり、1000個に1個で製品規格外れが発生してしまう。
【0027】
=1.33の時の規格外発生確率は、管理指標が正規分布であると仮定した場合、正規分布表に基づいて約63ppmとなる。これは約10万個に1個しか製品規格外れが発生しない程度の管理状態である。 さらにC=1.67の時の規格外発生確率は、管理指標が正規分布であると仮定した場合、正規分布表に基づいて約0.57ppmとなる。これは約200万個に1個しか製品規格外れが発生しないという極めて優れた管理状態にあると言える。
【0028】
以上、本実施形態によれば、管理規格上限値及び管理規格下限値は、顧客が要求した品質に基づいて定められる要求規格上限値及び要求規格下限値を基準に定められる。このため、顧客の要求を満たすような場合でもアラームが出ることが抑制される。特に、上記した(1)〜(3)式に示すように、工程管理指数Cを用いて要求規格上限値及び要求規格下限値を定めると、要求規格上限値及び要求規格下限値を容易に適切な値にすることができる。
【0029】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0030】
10 製造装置
20 検査装置
50 通信ネットワーク
100 品質管理装置
110 製品規格取得部
120 工程能力指数取得部
130 管理規格算出部
140 送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顧客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得する製品規格取得部と、
前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出する管理規格算出部と、
前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する送信部と、
を備える品質管理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の品質管理装置において、
前記管理規格算出部は、前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値の平均値である要求規格中央値と前記要求規格上限値の差分を算出し、前記差分に0超1未満の定数を乗じた値を前記要求規格中央値に対して加算及び減算することにより、前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を算出する品質管理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の品質管理装置において、
前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値に対する製造装置の工程能力指数を取得する工程能力指数取得部をさらに備え、
前記管理規格算出部は、前記定数として、(前記工程能力指数の逆数)/2を用いる品質管理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の品質管理装置において、
品質管理の対象となる製品が半導体装置である品質管理装置。
【請求項5】
コンピュータが、客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得し、
前記コンピュータが、前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出し、
前記コンピュータが、前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する品質管理方法。
【請求項6】
コンピュータを品質管理装置として機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
客が要求する製品規格の上限値及び下限値である要求規格上限値及び要求規格下限値を取得する機能と、
前記要求規格上限値及び前記要求規格下限値を用いて、前記要求規格上限値と前記要求規格下限値の間に位置する管理規格上限値及び管理規格下限値を算出する機能と、
前記管理規格上限値及び前記管理規格下限値を検査装置に送信する機能と、
を実現させるプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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