説明

哺乳動物におけるマグネシウム摂取の強化

哺乳動物におけるマグネシウム摂取を増進させる方法および複合体が開示されている。哺乳動物におけるマグネシウム摂取の増進は、1つもしくはそれ以上のマグネシウム塩を1つもしくはそれ以上の第4級アミンおよび/またはリン脂質、および1つもしくはそれ以上のジまたはトリカルボン酸と同時に投与することによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、哺乳動物におけるマグネシウム摂取の増進に関する。より詳しくは、本発明は、1つもしくはそれ以上のマグネシウム塩を、1つもしくはそれ以上の第4級アミンまたはリン脂質および1つもしくはそれ以上のジまたはトリカルボン酸と同時に投与することによる哺乳動物におけるマグネシウム摂取の増進に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
マグネシウムは、哺乳動物の栄養における重要なミネラルである。アデノシン三リン酸(ATP)の一部として、マグネシウムはすべての生合成過程、糖分解、環状アデノシン一リン酸(環状AMP)の形成に使用され、エネルギー代謝およびエネルギー依存膜輸送に関与し、かつリボ核酸(RNA)合成および遺伝情報の伝達に使用される。
【0003】
マグネシウムは、陽イオンとして、10,000以上の酵素(細胞触媒)作用に関与する。マグネシウムは、酸化的リン酸化に関与している酵素に特に重要である。マグネシウムは、細胞内液および細胞外液の重要な成分でもある。細胞内マグネシウムは、律速酵素の活性を調節することによって細胞代謝を制御すると考えられている。細胞外マグネシウムは、神経膜および筋膜の電位の維持、および神経筋接合部上のインパルスの伝達に重要である。マグネシウムは、心筋および平滑筋組織の恒常性の維持上重要であることが証明されている。
【0004】
マグネシウムは、人体における4番目に一般的な陽イオンである。例えば、標準的な人体は、平均25グラムのマグネシウムを含有する。マグネシウムの約59%は体骨格および骨構造内にあり、約40%は体内筋肉組織および軟体内組織にあり、そして約1%(約2〜2.8グラム)は体内の細胞外液内にある。
【0005】
マグネシウムがきわめて多くの重要な身体機能の活性剤であることを考えると、欠乏がさまざまな深刻な肉体的精神的問題をもたらしうることは驚くべきではない。筋攣縮および振戦などの健康状態はマグネシウム欠乏と関係がある。また、神経過敏、情緒不安定、高血圧(本態性、さもなければ原因不明)、狭心症(労作時の胸痛)、心不整脈(マグネシウムは「自然」のカルシウムチャンネル遮断薬である)、カルシウム喪失/骨粗鬆症リスク、および不眠症もマグネシウム欠乏と関係がある。有毒金属(鉛、水銀、カドミウム、ヒ素、およびニッケル)は、マグネシウム貯蔵量が低い場合により急速に蓄積しうるとともに、体内のマグネシウム交換は体内からの有毒金属の除去を加速する。
【0006】
マグネシウムは無機であり、人体によって産生されない。ヒトは、体にそのマグネシウム必要量を満たすために食事源に依拠しなければならない。食事によるマグネシウム摂取は米国において減少しており、米国の食糧供給におけるマグネシウムの一人当たりのマグネシウム減少(食品流通システム中を流れる食品として推定)は、1909年の408mg/日から1986年の329mg/日になり、ほぼ20%減少した。この減少は、加工食品の消費の増大に起因している。例えば、製粉、糖、脂肪、および加工または合成食品など「ホワイト食品」は、比較的少ししかマグネシウムを含有しない。
【0007】
正常な消化力および吸収力を有する人の場合には、食品からのマグネシウム吸収は摂取されたマグネシウムの約40〜60%であると考えられている。しかし、体内のマグネシウムの吸収能を阻害しうる多くの要因がある。例えば、大部分の清涼飲料水に存在するリン酸、およびスピノル(spinor)やチョコレートなど食品中のシュウ酸塩は、腸でマグネシウムと結合し、体内に吸収されない不溶性化合物を形成する。マグネシウム摂取系の機能を妨げうる他の要因としては、鉛、水銀、ヒ素、カドミウム、およびニッケルなどの有毒ミネラル、殺生ホルモン類似体、代謝細胞アシドーシス、摂取食品中のフィチン酸塩、カフェイン摂取、アルコール摂取、ステロイドや経口避妊薬など一部の薬剤、苦痛、腸疾患や他の腸の障害、および消化不良や消化器系の疾患が挙げられる。
【0008】
マグネシウムの経口摂取は体内への吸収が困難である。通常は酸化マグネシウムの形での元素マグネシウムの3〜12%のみが体内での使用のために吸収されると考えられている。人体でのマグネシウムの吸収を増強する複合体を製造する試みがなされている。例えば、ディクソン(Dixon)に対する米国特許第5,849,337号は、マグネシウム、タンパク質アミノ酸、およびアスコルビン酸を含有する錯体を記載している。上記およびディクソン(Dixon)で論じられているように、哺乳動物、特にヒトにおけるマグネシウム摂取を増進させる方法の必要性が存在する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明は、マグネシウム複合体および哺乳動物へのマグネシウムの投与を含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
マグネシウム複合体は、マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、およびジカルボン酸またはトリカルボン酸を含む。好ましくは、複合体が水およびグリセロールの溶液をさらに含む、請求項1のマグネシウム複合体である。
【0011】
好ましくは、マグネシウム塩は、マグネシウムグリシネート、アスコルビン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、オロチン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、フマル酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、および炭酸マグネシウム、または類似のマグネシウム塩である。好ましくは、第4級アミンはコリンであり、および/またはリン脂質はホスファチジルコリンであり、およびジまたはトリカルボン酸はクエン酸塩である。
【0012】
哺乳動物におけるマグネシウム摂取を強化する方法は、マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、および、ジカルボン酸またはトリカルボン酸の哺乳動物への投与を含む。好ましくは、投与は経口であり、哺乳動物はヒトである。
【0013】
本発明は、添付の図1と共に本発明の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明は、マグネシウム複合体およびマグネシウムを哺乳動物に投与する方法を含む。哺乳動物にマグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、および、ジカルボン酸またはトリカルボン酸を投与することによって、被験者におけるマグネシウム摂取が改善されうることがわかった。
【0015】
マグネシウム塩は、任意の公知のマグネシウム塩またはいくつかの公知のマグネシウム塩の組合せでありうる。好ましいマグネシウム塩としては、マグネシウムグリシネート、アスコルビン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、オロチン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、フマル酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、および炭酸マグネシウムが挙げられる。
【0016】
第4級アミンまたはリン脂質は、任意の第4級アミン、リン脂質、または第4級アミンおよびリン脂質の組合せを含みうる。好ましい第4級アミンはコリンである。
【0017】
ジカルボン酸またはトリカルボン酸は、任意のジカルボン酸、トリカルボン酸、またはジカルボン酸およびトリカルボン酸の組合せを含みうる。好ましいジカルボン酸はクエン酸塩である。
【0018】
好ましくは、マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、およびジカルボン酸またはトリカルボン酸は同時に投与される。本明細書で使用される「同時」とは、同日内に投与されることを意味する。好ましくは、それらは、いっしょに代謝されうるように、例えば、成分のすべてを含有する溶液またはピルを含みうる同じ複合体の一部としていっしょに投与されるか、または、次々に投与される。
【0019】
好ましくは、マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、および、ジカルボン酸またはトリカルボン酸は、水性グリセロールまたは水性グリセロール溶液中の複合体の一部として投与される。より好ましくは、マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、および、ジカルボン酸またはトリカルボン酸は、水およびグリセロールを含有する溶液中の複合体の一部として投与される。好ましくは、溶液はグリセロールとほぼ同量の水を含有する。
【0020】
本発明は、その有効性を判定するために、低マグネシウムレベルと関係のある疾患を有した被験者に化合物のさまざまな組合せを投与した以下の実施例を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0021】
実施例における対象として、以前にマグネシウム療法に反応しなかった筋過敏および線維束攣縮、良性心臓過敏(benign cardiac irritability)および/または軽度の線維筋痛症を含むマグネシウム不足の徴候を選択した。
【実施例】
【0022】
実施例1
上室性不整脈を患う26歳の男性が、薬剤に反応せず、詳細な医療精密検査にもかかわらず、「特発性」であると判定された。
【0023】
数ヶ月の期間にわたって臨床的評価を行った。マグネシウム塩を被験者に1か月間投与した後、クエン酸コリンのみを1か月投与し、その後クエン酸コリンの同時投与とともにマグネシウム塩を1か月投与した。
【0024】
この期間中、患者には起床時および就寝前に2分間以上不規則な心拍(IHB)の数を数えるように指示した。3か月の期間にわたって数えられた不規則な心拍の平均数を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示されているように、不規則な心拍の平均数は、マグネシウム塩をクエン酸コリンの同時投与を伴って投与すると劇的に減少した。
【0027】
実施例2
薬剤に反応しない異所性心拍を患う72歳の女性が、詳細な医療精密検査にもかかわらず、「特発性」であると判定された。
【0028】
数ヶ月の期間にわたって臨床的評価を行った。マグネシウム塩を被験者に1か月間投与した後、クエン酸コリンのみを1か月投与し、その後クエン酸コリンの同時投与を伴ってマグネシウム塩を1か月投与した。
【0029】
この期間中、患者には起床時および就寝前に2分間以上不規則な心拍(IHB)の数を数えるように指示した。3か月の期間にわたって数えられた不規則な心拍の平均数を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示されているように、不規則な心拍の平均数は、マグネシウム塩をクエン酸コリンの同時投与を伴って投与すると劇的に減少した。
【0032】
実施例3
59歳の男性が、「下肢静止不能」および睡眠中の一時的下肢痙攣を患っていた。被験者がマグネシウム塩を第1週および第2週に服用した後、被験者がクエン酸コリンのみを第3週および第4週に服用し、被験者がマグネシウム塩を、クエン酸コリンの同時投与を伴って第5−第9週に服用することにより臨床的評価を行った。
【0033】
毎週、被験者には、問題なしを示す「0」および症状の最も重篤な表示を示す「100」の一貫した評価尺度で問題の強度を評価するように依頼した。結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3に示されているように、下肢痙攣関連性障害の平均強度はマグネシウム塩をクエン酸コリンの同時投与を伴って投与すると劇的に減少した。
【0036】
実施例1−3に示されている臨床的評価は、適切なマグネシウム塩が高純度のクエン酸コリンと適切に組合されたときの強化されたマグネシウム摂取と合致している。
【0037】
実施例4
以前にマグネシウム療法に反応しなかった筋過敏および線維束攣縮、良性心臓過敏および/または軽度な線維筋痛症を含むマグネシウム不足の徴候を対象に選んだ。
【0038】
被験者には食事のたびに一定量のマグネシウム塩、2カプセル(1日6カプセル)を1か月間投与した。2か月目には、同じ投薬計画にマグネシウム補充時に同時に取られるジュースまたは水に入れた茶さじ1杯のクエン酸コリンを追加して継続した。3か月目には、被験者は、クエン酸コリンは追加せずにマグネシウム投薬計画を継続した。食事および液体の摂取量は試験期間中、一定に保たれた。
【0039】
各被験者におけるマグネシウムの量は、イオン電極を使用して各週の終了時に測定された。このイオン電極を使用するイオン化マグネシウムの基準範囲(NOVA)は、0.43−0.59mmol/Lである。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
図1は、表4のデータのグラフ表示である。図1および表4に示されているように、被験者の血漿中マグネシウム量は、被験者がクエン酸コリンをマグネシウム塩とともに服用した後の第5−8週にその高値に増大した。
【0042】
他の試験では、マグネシウム補充の非存在下のマグネシウムレベルに対するクエン酸の役割が評価された。30日間の評価では、わずかにはあったものの統計的に有意なマグネシウムの増加は認められなかった。
【0043】
各実施例は、クエン酸コリンが同時に投与されると、以前には未知の予期しない利点がマグネシウム摂取の促進の形で確認されることを示す。クエン酸コリン単独ではイオン化マグネシウムレベルを実質的に上昇させることはない。臨床治療マグネシウムを必要とする一部の人々においては、おそらくCa/Mg ATPアーゼポンプの阻害により、最も可溶性であり、イオン化された形態のマグネシウムでさえも利用可能ではない。可能性のある作用機構は、電気的に中立な錯体を形成する3モル当量のクエン酸塩とともに2モル当量のマグネシウムおよびコリンを含有するミセルの形成である。
【0044】
上記の説明は、当業者が本発明を製造し、使用することを可能にするように示されており、特定の用途およびその要件に照らして提供されている。好ましい実施形態のさまざまな変形は当業者には容易に明らかであろうし、本明細書で規定された一般的な原理は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく他の実施形態および用途に適用されうる。したがって、本発明は、示されている実施形態に限定されることを意図せず、本明細書で開示された原理および特徴と一致した最も広い範囲が本発明に与えられるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】血漿中のイオン化マグネシウム濃度に及ぼすクエン酸コリンの影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム塩と、
第4級アミンまたはリン脂質と
ジカルボン酸またはトリカルボン酸と
を含むマグネシウム複合体。
【請求項2】
前記複合体が水またはグリセロールをさらに含む、請求項1に記載のマグネシウム複合体。
【請求項3】
前記複合体が水およびグリセロールの溶液をさらに含む、請求項1に記載のマグネシウム複合体。
【請求項4】
前記マグネシウム塩が、マグネシウムグリシネート、アスコルビン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、オロチン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、フマル酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、および炭酸マグネシウム、または類似のマグネシウム塩からなる群から選択される、請求項1に記載のマグネシウム複合体。
【請求項5】
リン脂質コリンを含む、請求項1に記載のマグネシウム複合体。
【請求項6】
ジカルボン酸クエン酸塩を含む、請求項1に記載のマグネシウム複合体。
【請求項7】
マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、およびジカルボン酸またはトリカルボン酸の哺乳動物への投与を含む、哺乳動物におけるマグネシウム摂取を強化するための方法。
【請求項8】
前記投与が経口である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記マグネシウム塩、第4級アミンまたはリン脂質、およびジカルボン酸またはトリカルボン酸が水およびグリセロール溶液中に存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記マグネシウム塩が、マグネシウムグリシネート、アスコルビン酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、オロチン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、フマル酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、コハク酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、および炭酸マグネシウム、または類似のマグネシウム塩からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
リン脂質コリンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
トリカルボン酸クエン酸塩を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物がヒトである、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記マグネシウム塩、前記第4級アミンまたはリン脂質、および前記ジカルボン酸またはトリカルボン酸が同時に投与される、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−533609(P2007−533609A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523924(P2006−523924)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/026007
【国際公開番号】WO2005/018550
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506053353)ペーク,インコーポレイテッド. (1)
【Fターム(参考)】