説明

哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤

【課題】人を含む哺乳類や鳥類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能を向上させる作用をもつ生物ミネラル又は配合ミネラルを飼料に添加して経口摂取することにより、哺乳類・鳥類の健全な育成と疾病の予防または治療を可能にしつつ、生殖能力を向上させる生殖能力向上剤を提供する。
【解決手段】本発明は、多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の組成になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、哺乳類・鳥類の主として雄に飼料又は飲用水に添加して経口摂取させることにより生殖能力を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食料自給率39%の我が国では、タンパク源・脂質源として畜産業の効率化が重要な課題となっている。例えば豚肉の場合、平成17年度食品流通構造調査(農林水産省)では豚肉の総仕入量は510万tであるがその自給率は61%程度と低い。今後、国産豚肉の自給率は、安全・安心な食材、また健康に良い高品質な食材を求める消費者の観点からも、さらに増加するべきものである。しかし、農林水産省の養豚問題懇談会16年度報告書によると、国産豚肉の生産性を上げるためには、肉豚生産の基礎となる育種資源としての優良な種豚の維持・確保と安定供給体制の確立、母豚一頭当たりの産子数・繁殖性の向上が不可欠としている。
このように、自然交配や人工受精による動物の生産は、食料産業、家禽産業、牧畜産業、動物飼育および家畜産業において非常に重要であるが、これら飼育動物の健常性の向上、母体の産子数・繁殖性向上のために使用される予防ワクチンや飼料添加物(ビタミン、ホルモン、アミノ酸等)の費用は大きく、この費用による経営圧迫も肉豚の生産性向上の大きな阻害要因となっている。従ってこれらの費用を減少させ、かつ生産性を上げる効果的な飼料原材料が商品化される意義は極めて大きい。
【0003】
上記問題を改善するものとして、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4に示す生殖能力向上剤が公知になっている。
【特許文献1】特開2005−306754号公報
【特許文献2】特開2007−210918号公報
【特許文献3】特開2007−125019号公報
【特許文献4】特開2002−080379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2、3に示すものは、ある特定の生物や植物の中に含まれる成分の一部を高効率に抽出し摂取させたものを提供するものであるが、全ての生物において安全に摂取できるものとは言いがたい。例えば特許文献2に示されるネギ類については、犬の赤血球を破壊する物質が含まれているため、食べると貧血などの症状を起こす可能性があることが知られており、仮に成分の一部のみを高純度に抽出したものであっても、安全性の面から課題が残る。また、特許文献3に示すアスタキサンチンの場合、魚類では飼料1トンあたり100g以下、甲殻類では200g以下の添加に制限せねばならないこと、かつそれ以外の養殖用水産動物には使用不可となっていることが問題である。さらにこれらは全て有機物を含んでいるため、劣化しやすく、品質維持・保存にも難点がある。
【0005】
また特許文献4は亜鉛を含む牡蠣エキスを提供するものであるが、pH6以下の酸性条件において亜鉛を含む牡蠣のエキスを抽出する工程があることから、酸抽出したものを生物に摂取させるという点では健康上好ましくはない。また、このエキスも特許文献1、2、3に示すものと同様に有機物を含んでいるため、劣化しやすく、品質維持・保存にも難点がある。
本発明は、上記課題を解決し、人を含む哺乳類や鳥類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能を向上させつつ、特に雄の生殖能力向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤は、第1に、多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、哺乳類・鳥類に経口摂取させることにより、生殖能力を向上させることを特徴としている。
【0007】
第2に、哺乳類・鳥類が哺乳類・鳥類の雄であることを特徴としている。
【0008】
第3に、飼料又は飲用水へ添加して用いることを特徴としている。
【0009】
第4に、前記配合ミネラルが少なくともナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムに加え数種の微量ミネラルを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
以上のように構成される本発明によれば、人を含む哺乳類や鳥類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能を向上させる作用をもつ生物ミネラル又は配合ミネラルを飼料に添加して経口摂取することにより、哺乳類・鳥類の健全な育成と疾病の予防または治療を可能にしつつ、生殖機能を向上させることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、人を含む哺乳類や鳥類が元来栄養素として必要とするミネラルを効率よく摂取でき、かつ免疫機能を向上させる作用をもつ生物ミネラル又は配合ミネラルを哺乳類および鳥類に経口摂取させることにより、上記動物の生殖機能の向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
なお哺乳類とは、例えば牛や豚などの家畜、マウス等の実験動物、ハムスター等の愛玩動物、鳥類とは、鶏などの家畜、インコ等の愛玩動物等の畜産・養鶏動物および観賞用動物のことである。
【0013】
上記ミネラルは、生物ミネラルと配合ミネラルの内の一方のみから構成してもよいし、両方から構成してもよい。上記生物ミネラルは多種類の生物を灰化して抽出したものであり、上記配合ミネラルは上記生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合されたものである。
【0014】
このミネラルを全体に対して0.005〜5%の割合で添加する。例えば飼料(餌)にミネラルを添加して混合した混合飼料1kgには0.25〜50gのミネラルが含有される。この添加飼料を哺乳類または鳥類に与えることにより、哺乳類または鳥類に上記ミネラルを経口摂取させる。1日あたりの給餌回数は複数回で概ね2〜3回とし、これを数日間から数十日間繰返す。哺乳類または鳥類が飽食状態となるように、毎回、哺乳類または鳥類に餌を与えてもよい。
【0015】
なお、上記ミネラルを哺乳類または鳥類に直接経口摂取させてもよい。
【0016】
このようにして、上記ミネラルを摂取した哺乳類または鳥類は、雄の場合は精巣での精子産生能が上昇しかつ精子の受精能力が向上することから生殖機能向上剤として用いることが可能になる。
【0017】
次に、上記生物ミネラルの生産方法及び成分について詳述する。生物ミネラルの主成分は、多種類でそれぞれが生物体中に微量に存在する元素からなる主として野生生物由来のミネラルである。
【0018】
魚介類等の動物や海草・海藻類、陸上の植物等の多種類の生物を灰化して上記生物ミネラルを抽出する方法は古くから特開昭51−121562号、特公昭61−8721号、特公平6−92273号等に示される方法が知られている。また上記のように灰化抽出した生物ミネラルは、加熱によって気化又は昇華された元素を除き、灰化した生物が含有する成分を全て含んでいる。
【0019】
原料としては野草類(クズ、イタドリ、ドクダミ、ヨモギ等)、樹木枝葉類(マツ枝葉、ヒノキ枝葉、スギ枝葉、イチョウ葉等)、海藻類(ホンダワラ、コンブ等)、竹、熊笹、苔類、シダ類、シジミ、カニ殻等のできるだけ人工的に育成されたものではなく、自然の条件下で育った野性のものが、多様なミネラル成分を比較的多量に含む点で望ましい。これらの原料を原材料毎に洗浄及び天日乾燥後、200〜2000℃の温度下で1次的に灰化させ、さらにその灰化物を同様に加熱して残存未燃焼有機物を除去する2次加熱工程を経て、粗粉砕後20メッシュの篩にかけて選別し、再度の過熱・放冷後、金属探知機による金属除去工程を経て、微粉砕して上記生物ミネラルを得る。
【0020】
多種類の原料を用いることにより、ミネラル成分の種類を豊富にし、生物ミネラルを生産毎に概ね同一の成分とすることができる。また上記灰化物は多種類の乾燥原料を予め得ようとする所定のミネラルバランスに対応した配分量で混合して灰化してもよいが、原料毎に灰化したものを後で略等量ずつ又は上記所定のミネラルバランスを考慮して適量ずつ配合して用いてもよい。後者の方法によれば、生産毎に得られる生物ミネラルの成分がより均一化される。上記方法によって得られた生物ミネラルの定性データは図1、図2に示す通りである。
【実施例1】
【0021】
「雄の生殖能力向上に関する実験」
生殖能力のうち精巣機能の向上と精子活性の増強に着目し、本発明の生物ミネラルを混合(添加)した飼料をハムスターに与えることにより、精巣機能の向上と精子活性の増強が図れたか否かを検証した実験について説明する。
【0022】
<実験方法>
1)供試品
本実験では表1に示した成分を有する生物ミネラルを供試品とした。
2)供試動物
ジャガリアンハムスター(雄、体重約15〜20g)10匹を飼育用ケージに1匹ずつ導入し単独飼育した。3)試験区の設定
対照区(5匹)は表2に示した市販飼料(BIG APPLE社製ペットフード)を20日間給餌する区とした。
生物ミネラル投与区(5匹)は、市販飼料(BIG APPLE社製ペットフード)に生物ミネラルを0.25%練りこんだ餌を20日間給餌する区とした。
4)飼育方法
<給餌・給水方法>
1日の給餌量はハムスターの体重に対し10%の重量(乾重量)とした。あらかじめ調製し、一旦冷凍保存した餌を適宜解凍し、常温に戻し給餌を行った。飲用水は水道水とし、給水は給餌の際に行った。
<ケージおよび給餌容器・給水ボトルの洗浄>
毎日残った餌を全て回収し、重量を測定し記録した。週に1回、ケージを洗浄した後、台所用塩素系漂白剤の希釈液に5分浸漬して消毒し、その後5分間流水洗浄した。また、給餌用容器の洗浄は、給水ボトルと共に毎日行い、ボトルを洗浄後、台所用塩素系漂白剤の希釈液に5分間浸漬して消毒後、5分間流水洗浄した。
5)測定項目(指標)とそれが示す意味
体重、精巣重量を測定し、これらから生殖腺指数(精巣重量/体重比)を算出した。また、精巣中のビタミンK1濃度、ビタミンK2濃度、ヒアルロニダーゼ活性を測定した。さらに、採取した血液については血漿中のビタミンK1濃度、ビタミンK2濃度、テストステロン濃度を測定した。同時に、免疫指標として血液中の赤血球数、白血球数、リンパ球、単球数、好中球数および好中球の貪食率を測定した。
<ビタミンKおよびテストステロン>
ビタミンKは骨の形成に必須の栄養素であることから骨粗鬆症の治療薬として使用される他、血液凝固作用、腎臓組織の維持、神経刺激の伝達、血中コレステロールの低下作用、白血病細胞の分化誘導、癌細胞のアポトーシスならびに動脈石灰化抑制作用、炎症抑制作用などを有する。また、精巣中におけるビタミンKはそのほとんどがK2(さらにその中のメナキノン−4:MK4)であるが、その量は雄の性ホルモンであるテストステロンの産生と正の相関がある。テストステロンは精子形成のみならず精巣上体の精子の成熟過程に必要であることから、血漿中のテストステロン濃度の上昇は精巣の発達および精子の産生・成熟を促すこととなる。
<ヒアルロニダーゼ>
多くの哺乳類の受精では、精子が卵細胞に到達した時に先体からヒアルロニダーゼを放出し、透明帯を消化し卵細胞内への侵入を可能にすることから、ヒアルロニダーゼ活性を測ることで成熟精子の数や精子の受精能力が分かる。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
<結果および考察>
上述した測定項目の測定結果を表3に示した。試験結果より、生殖腺指数(精巣重量/体重比)は生物ミネラル投与区のほうが対照区に比べ有意に増加していたことから、精巣の発達が促進されていることが確認できた。また、精巣中のビタミンK2濃度(ng/g)、血漿中ビタミンK2濃度(ng/mL)、血漿中テストステロン濃度(ng/mL)についても生物ミネラル投与区のほうが対照区に比べ有意に増加していたことから、精巣中のビタミンK2濃度が増加することでテストステロンが増加し、それが精巣の発達を促したことが示唆された。さらに精巣中ヒアルロニダーゼ活性(U/mg−protein)についても生物ミネラル投与区のほうが対照区に比べ有意に増加していたことから、精巣において成熟精子数が増加していることや精子の受精能力が向上していることが確認できた。
以上の試験結果より、生物ミネラルを混合した混合飼料を摂取した投与区(試験区)において、精巣での精子産生能力、精子の受精能力が向上できることが明確に示された。
【0026】
【表3】

【実施例2】
【0027】
また、繁殖能力向上において、人を含め動物や鳥類の生体へのストレスの軽減は生殖行動そのものの意欲の向上や卵質の向上等と密接に関係することから、ストレス軽減に関するデータとして下記試験を行った。
【0028】
表1に示した生物ミネラルを一定期間経口摂取することで、生体酸化、すなわちストレスがどの程度抑制されるかを確かめることを目的として、本発明の生物ミネラルを混合(添加)したサプリメントを運動選手に摂取させた実験について説明する。なお、運動選手は一般人に比べ、運動という負荷を連続的に受けていることから、生体の酸化(ストレス)を多量に受けていると考えられる。
【0029】
被験者は大学のサッカー部の部員8名(18〜21歳、男性)で、毎日同じ量の運動メニューを行いながら、3.6gの生物ミネラル(朝1.8g、夜1.8g)を摂取し、摂取前と連続摂取12日目およびミネラル摂取中止後10日後のそれぞれ午前8時に、安静状態で血液と尿を摂取し、体の基礎検査を行い、各検査結果より生物ミネラルの摂取による生体の酸化の抑制効果を検討した。
【0030】
<結果および考察>
表4に示した通り、生体の酸化度、すなわちストレスの負荷の程度をみる尿中のORPの測定では生物ミネラル摂取中に減少を認め、さらに還元性を示すマイナス値を全例が示した。生物ミネラル摂取中止後も若干の酸化は進行したものの還元状態を維持していた。
また、疲労の蓄積の程度を示すCPK(Creatine Phospho Kinase)、LDH(Lactic Dehydro Genase)、尿素窒素(BUN)、尿酸値などは生物ミネラルの摂取中は摂取前に比べ減少し、摂取中止後も若干上昇が見られたが摂取前よりは低かった。運動負荷によって増生される老廃物が、生物ミネラルの摂取によって抑制されることが示された。その他の血液検査、生化学検査、尿検査、血圧、脈拍数、体温、体重などには生物ミネラル摂取による差異は認められなかった。
以上のことから、生物ミネラルの摂取は運動による生体酸化と負荷を明らかに抑制する作用があることが示唆された。また生物ミネラルの摂取を中止した後も、運動負荷による生体酸化の抑制作用がさらに続いていることが示された。
【0031】
【表4】

【0032】
尚、今回の実施例では哺乳類の例を中心に示したが、鳥類においても性ホルモンとしてテストステロンを有している点、およびビタミンKの体内における作用が、例えば血液凝固作用など哺乳類と類似する点が多く、共通の効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の生物ミネラルを分析電子顕微鏡により定性分析した結果を示す図である。
【図2】本発明の生物ミネラルをPIXE(荷電粒子X線放射化分析:Particle Induced X-ray Emission)法により定性分析した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多種類の生物を灰化して抽出した生物ミネラルと、該生物ミネラルの含有成分と略同一の成分になるように配合された配合ミネラルの少なくとも一方を含有し、哺乳類・鳥類に経口摂取させることにより、生殖能力を向上させる哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤。
【請求項2】
哺乳類・鳥類が哺乳類・鳥類の雄である請求項1の哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤。
【請求項3】
飼料又は飲用水に添加して用いる請求項1又は2の哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤。
【請求項4】
前記配合ミネラルが少なくともナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムに加え数種の微量ミネラルを含む請求項1,2又は3の哺乳類・鳥類の生殖能力向上剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−155808(P2010−155808A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335539(P2008−335539)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(396017198)株式会社やつか (11)
【Fターム(参考)】