説明

哺乳類細胞培養処理を制御するためのシステム及び方法

哺乳類細胞培養プロセスを制御するためのシステム及び方法を提供する。細胞培養プロセスの当該制御は、細胞培地における溶存二酸化炭素のレベルの制御を含み、その結果としてのモル浸透圧濃度レベルの上昇を防止する能力は、哺乳類細胞への損傷をほとんど又は全く伴わない二酸化炭素の分離の向上によって達成される。開示される溶存二酸化炭素分離方法及びシステムは、液体の旋回運動を主として垂直流に変換するための上方流動インペラと垂直バッフルとの併用によるバイオリアクター容器内の向上した表面ガス交換メカニズムを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養プロセスに関し、より詳細には哺乳類細胞培養プロセスにおいて溶存二酸化炭素のレベルを制御する方法及びシステムに関し、さらにより詳細には、哺乳類細胞培養プロセスを通して二酸化炭素を分離又は除去し、細胞に対する剪断関連損傷の軽減、モル浸透圧濃度の阻害レベルへの増大の防止などの他のプロセス条件を向上させる方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質治療薬及びモノクローナル抗体などの他の生物製品の商業的生産は、現在では、遺伝的に最適化された哺乳類細胞型、昆虫細胞型又は他の細胞型の懸濁物を培養するように構成されたバイオリアクターにて広く実施されている。哺乳類細胞培養バイオリアクターは、典型的には、使用容量が数百から数千リットルである。最も一般的な大規模製造プラントは、使用容量が約1,000リットルから25,000リットルまでの範囲のバイオリアクターを有する。臨床試験のための薬物候補は、使用容量が5リットルから数百リットルの使用容量を有する実験室規模のバイオリアクターで生産される。
【0003】
最小の時間で可能な最も高い生物生産物収率を達成するための最適化及び関連するバイオリアクターのスケールアップの課題は、pH、溶存酸素(DO)、温度、栄養物組成及び副産物プロファイル、撹拌プロファイル、ガス散布方法、栄養物供給及び生産物収穫プロファイルなどの認識された臨界プロセスパラメータの制御に焦点をおいてきた。溶存二酸化炭素(dCO)及びモル浸透圧濃度(即ち溶液1キログラム当たりの溶解粒子の濃度)などの他のプロセスパラメータの重要性は、最近になって文献に記されている。実際、多くの商業的バイオリアクターは、溶存二酸化炭素及び/又はモル浸透圧濃度レベルをインサイツで測定するように設置された手段も、ましてやそれらのパラメータを制御及び最適化する手段も有さない。数百リットルから25,000リットルの範囲のバイオリアクター容量の商業的運転の規模に応じて、プロセスのスケールアップ、最適化及び制御が別の課題になる。約1,000リットルを超える商業的規模では、溶存二酸化炭素及びモル浸透圧濃度レベルの同時制御及び独立制御は、現在利用可能な最良の技術及び手法を用いても、不可能でないにしても困難になる。
【0004】
バイオリアクターにて製造規模の哺乳類細胞培養プロセスが開始される前に、典型的には、種子培養接種剤が調製される。これは、生産バイオリアクターへの接種のために十分な細胞が利用可能になるまで、容量を順次大きくしたインキュベータ及び/又はより小さいバイオリアクター内の一連のフラスコにて生産細胞を培養することを含む。該プロセスは、1つの培養容器からより大きい容器に細胞集団を移動させることを含む。一般に、移動又は継代培養毎に細胞集団の20%希釈物が使用される。インキュベータにおいて、培地を含むフラスコは、培養物を旋回させ、インキュベータ内の培地と大気の間のガス移動を容易にするために、回転プラットフォームに固定される。典型的には、哺乳類細胞培養プロセスのためのインキュベータは、5%の二酸化炭素(CO)及び約80%を超える湿度レベルで37℃に設定される。同様の温度及びCOレベルが、バイオリアクターにて増殖される種子培養物に使用される。種子培養が十分な容量及び細胞密度に達すると、生産バイオリアクターに接種される。
【0005】
種子培養物がバイオリアクターの培地に接種された後に、pH、温度及び溶存酸素レベルなどのパラメータが、細胞培養プロセス中に規定のレベルに制御される。pHは、典型的には、プロセス中に必要であれば塩基性又は酸性溶液を添加することによって制御される。広く使用される塩基溶液としては、重炭酸ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液及び水酸化ナトリウム溶液が挙げられる。より酸性度の強いpHを達成するために、二酸化炭素(CO)の溶解が広く使用される。哺乳類細胞培養プロセスのための培地又は培養液の好適な温度は、約37℃である。培地又は培養液における所望のレベルの溶存酸素は、典型的には、バイオリアクターの底部に設置されたスパージャを使用する空気散布とともに、散布された気泡から細胞培地への酸素の移動を強化するために、大きな空気/酸素泡を分散させるインペラを使用する培地又は培養液の撹拌を介して達成される。バイオリアクターヘッドスペースをカバーガスでパージすると、表面ガス交換の程度が制限される。不利なことに、培地又は培養液の空気散布及び撹拌は、細胞生存度に悪影響を与える哺乳類細胞への発泡及び剪断損傷をもたらし得る。培地の表面への泡の蓄積は、また、表面ガス交換をさらに制限し、バイオリアクターの利用可能な使用容量を低減させるように働く。
【0006】
商業規模の哺乳類細胞培養プロセスを3つの異なる動作方式、懸濁細胞培養のためのバッチ方式又は流加方式、及び固定化細胞のための潅流方式で実施することができる。商業規模の哺乳類細胞培養プロセスの大半は、流加方式で動作される。流加方式において、最初のバイオリアクター設定後に、炭素源及び他の栄養物を補給するために、さらなる培地及び栄養物が、細胞培養プロセスを通じて異なる時間でバイオリアクターに添加される。
【0007】
バイオリアクターは、哺乳類細胞培養に使用する前に、典型的には、滅菌され、様々なプローブ、並びに補給ガス供給及びさらなる供給物の導入のために接続部が備えられなければならない。細胞培地又は培養液の温度、pH、溶存酸素及び溶存COレベルをリアルタイムで監視するために温度プローブ、pH検出器、溶存酸素プローブ及び溶存COプローブ又はセンサが使用される。加えて、細胞培地又は細胞培養液サンプルを、選択された間隔でバイオリアクターから抜き出して、細胞密度及び細胞生存度を決定するとともに、代謝物質及びモル浸透圧濃度などの他の特性を分析することができる。細胞生存度を高め、生物生産物の生産を増大させるために、当該分析結果に基づいて、さらなる供給物又は他の添加剤を細胞培地又は細胞培養液に添加することができる。細胞生存度が規定の下限閾値に達すると、細胞培養プロセスを停止又は休止することができる。規定の下限閾値は、収穫された生物生産物の下流の回収及び精製の結果に基づいて実験的に決定されることが多い。
【0008】
培養プロセスを通じて、哺乳類細胞は、3つの時期、即ち遅滞期、指数増殖期及び定常期又は生産期を示す。遅滞期は、接種直後に生じ、一般には、哺乳類細胞の新しい環境への生理的順応の時期である。遅滞期の後に、哺乳類細胞は、指数増殖期にあると考えられる。指数増殖期において、哺乳類細胞は、倍増し、細胞密度は、時間とともに指数関数的に増大する。多くの細胞は、実際に、指数増殖期におけるある時点を通じて、所望のタンパク質、抗体又は生物生産物の生産を開始する。細胞密度は、培養における細胞の全数を指し、通常は生存細胞及び非生存細胞の密度で示される。哺乳類細胞が定常期又は生産期に達すると、生存細胞は、下流の収穫のための生物生産物を活発に生産する。この時期を通じて、全細胞密度は、一般には一定に保たれ得るが、細胞生存度(即ち生存細胞の割合)は、時間とともに急激に減少する傾向がある。
【0009】
哺乳類細胞は、細胞培地又は細胞培養液における溶存二酸化炭素の量に敏感であることが知られている。指数増殖期を通じて過剰の二酸化炭素レベルに曝露された哺乳類細胞培養物は、モノクローナル抗体又は他の所望の生物生産物の生産の低減を示し得る。接種前に、わずかにアルカリ性の培地のpHは、二酸化炭素の添加によってより最適な値まで下げられることが多い。このプロセスにより、多くの哺乳類細胞培養プロセスの遅滞期の開始時に、溶存二酸化炭素のレベルがしばしば増加する。
【0010】
哺乳類細胞培養バイオリアクターにおける溶存二酸化炭素は、化学源及び生物源に由来する。二酸化炭素の化学源は、重炭酸ナトリウム及び/又は炭酸ナトリウムを含む選択量の緩衝液を含む細胞培地又は細胞培養液内で生じる平衡化学反応である。また、二酸化炭素をわずかにアルカリ性の培地又は培養液に直接散布して、液体培地のpHレベルを規定のレベル、通常は7.0付近まで低減させて、より多くの溶存二酸化炭素をもたらすことができる。二酸化炭素の生物源は、バイオリアクター内の哺乳類細胞の呼吸の産物である。二酸化炭素の生物源は、細胞密度とともに増大し、一般には、バイオリアクター内の細胞密度が最大になるのとほぼ同時に最大値に達する。しかし、より多くの二酸化炭素が生成されると、細胞培地のpHは、細胞培地又は細胞培養液のpHを所望の範囲内に維持するためにさらなる炭酸水素塩が必要とされるように酸性に近づく傾向がある。
【0011】
溶存二酸化炭素の増加の影響を相殺するために、溶液のpHを規定の範囲に維持するように重炭酸ナトリウムを添加するか、又はさらなる空気を散布することによって二酸化炭素を溶液から分離することを試みることができる。二酸化炭素の増大の効果を相殺するこれらの手段のいずれもが、哺乳類細胞培養プロセスに対して他の負の結果をもたらす。
【0012】
第一に、溶液のpHを調整するために重炭酸ナトリウムを添加すると、モル浸透圧濃度レベルが上昇する。モル浸透圧濃度レベルは、溶液1キログラム当たりの溶解粒子の数を表し、一般には、凍結点低下によるmOsm/kgで報告される。溶存二酸化炭素のレベルの増大又はモル浸透圧濃度のレベルの増大は、細胞密度又は収率に対して悪影響又は負の影響を与えることが、当技術分野で既知である。しかし、二酸化炭素及びモル浸透圧濃度レベルの複合又は相乗効果は、十分に理解されていない。
【0013】
二酸化炭素は、水中にて7のpHで炭酸水素イオンに解離する。二酸化炭素の一部のみが、非解離状態の遊離COにとどまる。したがって、たいていの哺乳類細胞培養は、6.5から7.5の範囲のpHレベルで行われるため、細胞培養から溶存二酸化炭素を除去することが困難になる。解離した炭酸水素イオンは、容易に除去されず、一般には、それらを溶液から分離する前に、遊離二酸化炭素に再統合しなければならない。pHのバランスをとるための重炭酸ナトリウムの添加も、溶液における平衡溶存二酸化炭素濃度又は飽和レベルを増大させて、二酸化炭素を物理的に除去することをより困難にする。
【0014】
溶存二酸化炭素を哺乳類細胞培養液から除去又は分離する従来の方法は、撹拌タンクにおいて細胞培養液に空気又は空気/酸素/窒素のガス混合物を散布することによる。しかし、撹拌タンクにおけるガス散布は、細胞培養プロセスに悪影響をもたらす。特に、回転撹拌機の先端におけるガス気泡破壊は、細胞死を引き起こすのにしばしば十分な、哺乳類細胞膜を損傷する高剪断速度の源である。損傷が致死以下であっても、損傷された膜が修復される期間における細胞生産性が損なわれる。たいていの現行のバイオリアクターにおいて、撹拌機は、リアクター容器の中心軸を中心に回転し、リアクター容器内の散布ガス及び液体がリアクター容器の中心から容器の側壁へと外方向に押し出される半径方向流動型である。半径方向ポンピングインペラの主たる目的は、スパージャによって供給される気泡を破壊及び分散することである。回転インペラの背後の気泡破壊は、細胞死に大きな役割を有する。インペラの背後に形成される小さな遮蔽渦もより小さな規模で細胞に損傷を与えることになる。当該インペラは、垂直又は軸方向混合をほとんど付与しない。多数の半径方向インペラが使用される場合は、それらは、リアクター容器内に異なる混合域を形成することができる。現行の商業的な軸方向流動インペラ設計は、すべてが下方ポンピングである。下方ポンピング軸方向インペラは、ガスをヘッドスペースから撹拌液の本体に運んで、気泡形成をもたらす渦を生成する。以上に言及したように、気泡は、破壊気泡の力が哺乳類細胞の外膜を損傷するのに十分であり、それを破裂させ得るという点において細胞増殖に負の影響を与える。したがって、従来の半径方向インペラ及び下方ポンピング軸方向インペラは、一般的に、二酸化炭素を細胞培地から除去するための方法としての液面とバイオリアクターヘッドスペースとのガス交換を促進するのに好適である。
【0015】
商業規模のバイオリアクター(例えば1,000リットルから25,000リットル)では、二酸化炭素除去はより小さいリアクターより困難であり、蓄積しやすい過剰の二酸化炭素は、細胞増殖にとって有害である。実験台又は実験室規模のバイオリアクターから製造又は商業規模のバイオリアクターへのスケールアップを通じて、60%までの生産性低下が観察された。より大きい規模での過剰レベルの二酸化炭素が、当該生産性低下の原因であると思われる。空気散布を介する二酸化炭素除去は、実験室又は実験台規模のバイオリアクター(例えば10リットル未満の使用容量)では非常に効果的である傾向があるが、より大きい規模の商業用のバイオリアクターでは少なくとも以下の3つの理由で効果が小さくなる。(i)表面積対容量比が小さくなり、表面ガス交換をさらに制限する。(ii)大きい容器におけるより高い静水圧が二酸化炭素溶解度を増大させる。(iii)より大きい容器はより多くの細胞を含むため、酸素を供給するための散布ガスの必要性が大きくなってより多くの気泡をもたらし、それによって表面により多くの泡が生成され、表面ガス交換がさらに阻害される。
【0016】
回転撹拌機への空気散布によって生成された泡の別の欠点は、細胞が、栄養物を欠く泡層に捕捉されることである。泡の溢流は、プロセス汚染を防止する生物フィルタの保全性を損ない得るため、発泡は、リアクターの動作可能容量をも制限する。消泡剤が使用されるが、当該薬剤は、多くの望ましくない影響を及ぼす。例えば、消泡剤は、生物生産物を汚染し、それらの除去は、さらなる下流精製工程を必要とし得る。また、多くの当該消泡剤は、バイオリアクター内の界面気液質量移動効率を低下させる。
【0017】
また、散布によって生成された気泡は、液面で破裂し得る。これは、撹拌機による剪断より大きな損傷を培養細胞に与えることが多い。撹拌機速度を最小限に抑えること、及びガス散布速度を制限することが、現在では、当該損傷を回避し、細胞生存度を向上させる最良の手段であると考えられる。しかし、どちらの手段も、除去される二酸化炭素の量を減少させることで、細胞増殖を阻害し、生存度を低下させる。これらの欠点は、特に、剪断速度が実質的にインペラの径とともに大きくなる大きな商業規模のバイオリアクターにおいて克服すべき課題である。
【0018】
膜通気を有するいくつかの気泡のないシステムが提案されたが、これらは、小規模なものであっても成果がごく限られたものであることが証明された。膜汚染、システムコスト及びシステム拡張性により、膜ベースのバイオリアクターがより広く許容されることが妨げられてきた。
【0019】
Wave Bioreactor(商標)は、表面対容量比が、表面におけるガス交換を介して溶存二酸化炭素を除去するのに十分に大きい設計の例である。撹拌は、機械的に支持されたトレイの揺動によって提供される(図1参照)。十分なガス交換に必要な表面積は、このバイオリアクターのサイズを大きな商業規模のシステムに適さない500リットル未満の使用容量に限定した。
【0020】
円錐形バイオリアクターも、ガス交換に十分に大きい表面積対容量比をもたらす代替的な方法として提案された。円錐形バイオリアクターは、穏やかな揺動を提供する軌道加振機に支持される。Wave Bioreactor(商標)と全く同様に、機械工学上の問題が、この設計をより小さなバイオリアクターに制限している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、細胞培養プロセスのためのバイオリアクターシステムであって、(a)細胞培地を含み、ヘッドスペースを画定するバイオリアクター容器と、(b)バイオリアクター容器における培地をヘッドスペースに向けて上方に誘導する、バイオリアクター容器内に配置された上方流動インペラと、(c)スイープガスの流れを1つ又は複数の外部ガス源からバイオリアクター容器のヘッドスペースに送達するように、ヘッドスペースの近傍でバイオリアクター容器に連結されたガス吸入口と、(d)スイープガス及び分離される二酸化炭素の流れをバイオリアクター容器のヘッドスペースから通気口に除去するように、ヘッドスペースの近傍でバイオリアクター容器に連結されたガス排出口とを含み、上方流動インペラは、バイオリアクター容器における培地をヘッドスペースに向けて上方に連続的に誘導して、液上面の細胞培地を再生し、細胞培地内の細胞への損傷を最小限に抑えながら溶存二酸化炭素を細胞培地からヘッドスペースに分離するバイオリアクターシステムとして特徴づけることができる。
【0022】
本発明は、また、バイオリアクター容器において細胞を培養する方法であって、(i)バイオリアクター容器内の細胞培地をバイオリアクター容器におけるヘッドスペースに向けて上方に再循環させて、液上面の細胞培地を再生し、細胞培地内の細胞への損傷を最小限に抑えながら溶存二酸化炭素を細胞培地からヘッドスペースに分離する工程と、(ii)バイオリアクター容器のヘッドスペースを介してスイープガスを誘導して、分離二酸化炭素をバイオリアクター容器のヘッドスペースから通気口に除去する工程とを含む方法として特徴づけることができる。
【0023】
本発明の上記及び他の態様、特徴及び利点は、以下の図面とともに示されるそれらの以下のより詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】先行技術のWave Bioreactor(商標)システムの概略図である。
【図2A】本発明の一実施形態による、ドラフト管内に配置され、垂直バッフルを有する上方ポンピングインペラを採用するバイオリアクターシステムの概略図である。
【図2B】本発明の一実施形態に使用される上方ポンピング螺旋状インペラの図である。
【図3】本発明の別の実施形態による、垂直気液上昇管及び膜アイソレータによる二酸化炭素分離を採用するバイオリアクターシステムの概略図である。
【図4】本発明の別の実施形態による、哺乳類細胞を含まない反応容器からの濾過培地を分流させる超音波インライン分離器を採用するバイオリアクターシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
商業規模の哺乳類細胞培養製造の多くは、比較的一定のモル浸透圧濃度、pH及び溶存二酸化炭素レベルの維持が非常に困難である流加式のプロセスで行われる。いくつかの学術及び民間研究機関は、哺乳類細胞生存度及び収率に関して未制御の溶存COレベル又はモル浸透圧濃度に対する懸念を表明した。溶存CO又はモル浸透圧濃度の認識された最適レベルについての矛盾する報告を見出すことができる。たいていの学術的研究は、pH制御又は溶存CO測定の利益のない6ウェル皿にて非常に小規模に実施されたため、結果は検証するのが困難である。たいていの工業規模のバイオリアクターでは、溶存COレベル又はモル浸透圧濃度は、典型的には、正確なデータを提供するために活動的に監視又は制御されない。溶存CO又はモル浸透圧濃度の最適レベルが予測されたとしても、COの蓄積及びそれに伴うpH調整の結果として、十分な溶存COを除去する、又はモル浸透圧濃度が非最適レベルまで上昇するのを防止する実用的な方法は存在しない。
【0026】
流加式の哺乳類細胞培養プロセスを通じて、栄養物及び細胞促進剤の連続的添加は、細胞培養液のモル浸透圧濃度レベルを増大させる傾向があり、溶液におけるpH及び溶存二酸化炭素レベルは、流加式のプロセスのサイクル全体を通じて絶えず変化する。指数増殖期を通して哺乳類細胞によって生成された二酸化炭素は、たいていの現行のバイオリアクターの二酸化炭素分離能力をしばしば超えるため、指数増殖期を通じて溶存二酸化炭素レベルが連続的に増加する。上述のように、この溶存二酸化炭素レベルの増加は、溶液のpHを下げる傾向があり、細胞培地のpHを制御することが哺乳類細胞培養プロセスにおいて管理すべき最も重要なパラメータの1つと見なされるため、補償するために塩基の添加をしばしば必要とする。重炭酸塩などの塩基の添加は、細胞培地又は培養液のモル浸透圧濃度をさらに増大させる。塩基の添加は、また、溶液における非イオン化二酸化炭素の平衡レベルを増加させて、ガス散布によるその除去をさらに困難にする。
【0027】
要約すると、細胞培地又は培養液の溶存二酸化炭素レベル、pH及びモル浸透圧濃度は、密接に相互関連しており、従来の方法によるpH及び溶存二酸化炭素レベルの活性制御は、細胞培養液におけるモル浸透圧濃度を、それがプロセスの結果に悪影響を与え得る点まで増大させる傾向がある。
【0028】
ヘッドスペースにおけるガスと液体/溶液に溶解したガスとの交換が、細胞培養液の表面で生じ得る。この手段による二酸化炭素の除去は、細胞の剪断及び気泡損傷を最小限に抑え、発泡を低減又は除去するため、散布ガスを介する分離と比較して魅力的である。しかし、商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換は、現行のプロセス条件下では、実用するには極めて制限されすぎるため、現在では二酸化炭素の除去に利用されていない。これは、典型的な従来のバイオリアクター容器の表面対容積比が制限されていること、及び現行の撹拌機設計によって達成された培養表面の再生の速度が遅いことの直接的な結果である。これらの問題は、高く狭い構成を有するバイオリアクターではさらに悪化する。
【0029】
商業規模のバイオリアクターにおける表面ガス交換の別の欠点は、回転軸撹拌機を使用すると生じる。これらは、表面の液体に円を描いて旋回させ、容器内のより深い位置からの溶液がそれに取って代わる傾向がほとんどない。これは、表面ガス交換に影響を与える少なくとも2つの結果を有する。第一に、表面液層は、溶存二酸化炭素が急激に欠如して、後のCOのヘッドスペースへの除去のための駆動力が低下する。第二に、(この領域におけるより高い静水圧により、溶存COの濃度が最も高くなる)バイオリアクターの底部からの液体は、それが溶存ガスをヘッドスペースに供給できる表面に希にしか誘導されない。全体的な効果は、溶存COの除去が遅くなること、及びバイオリアクターにおける溶存CO濃度の勾配が存在し、表面が非常に低濃度になり、それが細胞生産性及び生存度を低減させるレベルに容易に到達できる底部が高濃度になることである。
【0030】
次に、図2Aを参照すると、ドラフト管19内に配置された上方流動インペラ18を採用するバイオリアクターシステム10が示されている。上方ポンピングインペラ18は、バイオリアクター容器11の外側のモータ14によって軸16を介して駆動される。インペラ18の上方流動は、表面ガス交換を高度に制御可能な方式で強化する上面82再生法を提供する。上方ポンピングインペラ18は、細胞培地及び懸濁哺乳類細胞をバイオリアクター容器11の底からヘッドスペース80付近の気液界面、又はバイオリアクター容器11の上部まで移動させる。そうすることで、細胞培養液又は培地における溶存二酸化炭素は、気液交換が生じているバイオリアクター容器11における液体の表面に連続的且つ迅速に運ばれる。表面液体における高度な反転は、溶存二酸化炭素のヘッドスペース80への迅速な除去を可能にする。上方流動インペラ18は、哺乳類細胞を損傷又は死滅させるほどの剪断をもたらすことなく、より大きなポンピング速度を可能にする。例示される実施形態はまた、酸素、窒素、空気、二酸化炭素又は他の好適なガス及びそれらの混合物からなるスイープガス15が、浸漬管23を介して、バイオリアクター容器11におけるヘッドスペース80に導入され、そこで溶液の上面82と相互作用して、所望の気液交換を達成し、続いてバイオリアクター容器11におけるヘッドスペース80から排気されることを示す。
【0031】
図2Aに示していないが、好適なバイオリアクターシステム10は、pHセンサ22、dCOセンサ24、温度計26、溶存酸素分析器28及び通気ガス分析器30を含む複数のセンサ及び分析器を含む。当該センサ及び分析器は、酸素、窒素及び二酸化炭素のバイオリアクター容器11へのガス供給41を制御又は調整するシステムコントローラ(不図示)に入力として連結される。例示されるシステム10はまた、排気サブシステム50、複数の生物フィルタ52を含み、必要に応じて、水及び水蒸気でバイオリアクター容器を滅菌する手段をさらに含むこともできる。ここに例示される実施形態において有用な典型的なバイオリアクター制御スキーム、並びに好適なガス供給サブシステム、滅菌制御システム及び排気サブシステムを図3及び4により詳細に示す。
【0032】
図2Aに戻ると、上方ポンピングインペラ18は、好ましくは、インペラ18が低液体培地又は培養液出発レベルに合わせて浸漬されるように、主要バイオリアクター容器11の中央付近に配置される。インペラ速度は、調整可能であり、特定の哺乳類細胞培養プロセスに対して常に所望レベルの溶存二酸化炭素を維持するように細胞培養プロセス全体を通じて変化され得る。好ましくは、インペラ速度は、バイオリアクター内の液体又は溶液レベルが低いときに非常に低い速度に維持され、液体又は溶液レベルが上昇するに従って増大すべきである。好ましくは、上方流動速度を増大させて、より高いガス交換率を得るために、ドラフト管19が加えられることになる。インペラ速度は、バイオリアクター容器における液体又は溶液レベルも最も高いときに、細胞培養プロセスの指数増殖期の終了時に最も高くなることが好ましい。通常、利用可能な表面積が非常に制限されるため、表面ガス交換は非効率的なプロセスである。ヘッドスペース80と液体表面82との間で生じるガス交換により、気/液界面のいずれの側のガス濃度も飽和レベルに迅速に近づく。界面に適正な濃度駆動力が存在しなければ、ガス交換に利用可能な表面積を大いに増大するための手段を施さない限り、表面通気を実行できない。残念ながら、当該手段(例えば、液体の一部の噴霧化)は、脆弱な哺乳類細胞を損傷及び死滅させる過度の剪断をもたらす。しかし、本システムは、ヘッドスペースガスを迅速にスイープして、気相境界層における二酸化炭素の蓄積を回避することによってそれらの制限を克服する。液相境界層の制限は、浸漬インペラの上方ポンピング作用によっても取り除かれる。
【0033】
インペラ18の上部に加えられたいくつかの垂直バッフル17がガス交換率に対して非常に大きな改善をもたらすことが観察された。これらの垂直バッフル17は、回転速度を実質的に純粋な垂直配向流に変換する。液体表面を介する溶存COの除去率に対するドラフト管19と垂直バッフル17の効果を比較するために、本発明に記載の方法を使用して、二酸化炭素除去試験が300L容器にて実施された。容器における溶液が7のpHに維持され、ヘッドスペースに空気がスイープされた。図2Bに示した種類の螺旋状インペラ90が、周波数インバータを用いて2つの異なる速度で動作するように設定された。溶存COレベルが、実験を通じて連続的に測定された。それらの結果は、物質移動容積係数(Ka)の観点で表(1)に報告された。
【表1】

【0034】
螺旋状インペラの速度に応じて、それらの結果は、バッフルを含むドラフト管が使用されると、物質移動係数が226%から678%向上することを示していた。表面ガス交換現象に関する垂直バッフルの重要性を示すためにさらなる試験が実施された。これらの実験において、螺旋状インペラが300L容器の底部に設置され、垂直バッフルが取り除かれた。本発明の実験作業から、表面液体の旋回運動を除去することが重要であると結論づけられた(表2参照)。表面における旋回運動を除去することによって、インペラからの上方流動液体は、迅速にインペラ軸から出て、容器表面全体に広がり、容器の縁付近で液体の本体に再浸漬する。垂直バッフルが設置されると、二酸化炭素除去率は、螺旋状インペラの回転速度に応じて28%から128%向上した。これらの実験結果は、バイオリアクターの下部からの液体が、表面液体に迅速に取って代わって、実質的により高い溶存二酸化炭素除去率及び酸素溶解率をもたらすことを示している。垂直バッフルがなければ、旋回する表面液体は、バイオリアクター内のより深い位置からの新鮮な液体に実質的に置き換えられない。
【表2】

【0035】
上述のように、大きなバイオリアクター容器の底部の液体又は溶液が、大きな静水圧に曝され、哺乳類細胞内に取り込まれた溶存二酸化炭素がゆっくりと平衡化する。ここに開示されている上方ポンピングインペラは、この問題を軽減する。液体溶液及び哺乳類細胞をバイオリアクター容器の底部から上面に向かって上方に再循環させることによって、哺乳類細胞は、より低い全体平均静水圧レジームに曝されるため、より良好な平衡レベルの溶存二酸化炭素を達成する。細胞培地又は培養液の連続的な軸方向又は上方再循環は、細胞の原形質の内側深くにある過剰の溶存二酸化炭素を追い出す細胞の能力を強化すると考えられる哺乳類細胞に様々なレベルの静水圧を加える。
【0036】
偏向壁又は仕切板がバイオリアクターに存在しないため、上方流動液体は、バイオリアクター壁に向かって外側に回転する前に非常に迅速に上面に達することができる。これは、溶存二酸化炭素の迅速な除去を促進する液体表面の非常に迅速な再生をもたらす。代替的な形のインペラを使用して、ドラフト管を用いた、又は用いない上方再循環流を与える。好ましくは、上方ポンピングインペラは、スクリューインペラ又はプロペラである。しかし、プロペラからの横方向又は半径方向の流れが最小になり、ひいては哺乳類細胞の剪断及び他の損傷を低減する限り、他のプロペラを使用してもよい。
【0037】
迅速な気液表面再生は、ガスを液体に溶解させるのにも有用である。例えば、ここに開示されている気液表面再生法を使用して、増殖細胞に必要な規定量の酸素を溶解させることができる。酸素の需要が高いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が増大し、再循環液体の上面への酸素の移動が増大する。酸素溶解要件が低いときは、ヘッドスペース内のスイープガスにおける酸素組成が低減し、空気又は窒素で置き換えられる。スイープガスの酸素組成の変化は、二酸化炭素除去率にほとんど又は全く影響を与えない。溶存酸素濃度は、多くの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、好ましくは約50%に維持される。ウィルス感染sf−9昆虫細胞培養による組換えタンパク質生産などの場合は、細胞によるタンパク質生産を高めるために、細胞培養液に非常に低い酸素濃度(例えば、5%未満の酸素濃度)が使用される。
【0038】
溶存二酸化炭素レベルを任意の所望のレベルに調整又は維持することができる。細胞培養プロセスを通じていつでも溶存二酸化炭素レベルを減少させるために、バイオリアクターのヘッドスペースに入るスイープガスの流量を増大させて、表面付近の液体からCOをより迅速に除去することができる。インペラ回転速度を増大させて、表面液体再生速度を高めることもできる。溶存二酸化炭素レベルを増大させるために、スイープガス流量を低減させ、且つ/又は上方ポンピングインペラの回転速度を減少させることになる。生産バイオリアクターの接種直後のプロセスの最も早い時期の場合のようにさらなる二酸化炭素が必要とされる場合は、それを必要に応じてヘッドスペースにおけるスイープガス混合物に添加することができる。典型的な哺乳類細胞培養プロセスにおいて、バッチが初期の遅滞期から指数増殖期の終了まで進行するにつれて溶存酸素要件が増大するのに対して、溶存二酸化炭素濃度は、細胞の呼吸により増大し、指数増殖期の終了に向けて最大濃度に到達し、次いで生産期を通じて徐々に低減する。したがって、気体の二酸化炭素は、pHを制御及び維持するために、多くが遅滞期を通じて添加される。また、細胞生産期を通じて、溶存酸素のある規定レベルを維持する必要がある。
【0039】
スイープガス混合物における窒素、酸素及び二酸化炭素濃度を独立に調整又は制御することに加えて、全ヘッドスペースガス流量を増大させても、ヘッドスペースにおける分離ガスの蓄積が回避されることになる。
【0040】
好適な実施形態において、バイオリアクター容器への窒素、酸素及び二酸化炭素のガス供給物が、ヘッドスペースにおける液体の上面の上方、好ましくはバイオリアクター容器における液体溶液の回転面の近傍に導入される。バイオリアクター容器における液体レベルが上昇すると常にガスを上面に又はその付近に注入できるようにガス注入器を可動にすることによって、当該ガス導入を達成することができる。回転上面におけるガスの衝突は、ガス側での運動境界層を低減し、液体と気体の間の全物質移動速度を向上させる。或いは、バイオリアクター容器において達成される最大液体高さ付近の位置にガスを導入するように配置された固定ガス注入器を使用して、ガス供給物を送達することができる。たいていの哺乳類細胞培養プロセスにおいて、溶存二酸化炭素の除去が最も必要である指数増殖期のピーク時に、バイオリアクター容器における最大液体高さが存在する。
【0041】
好適でないが、バイオリアクター容器内に配置された1つ又は複数のスパージャを使用して溶液内にガスを散布することによって、バイオリアクター容器への窒素、空気、酸素及び二酸化炭素のガス供給物の制御導入を行うことができる。酸素を溶解させるのに使用されるスパージャは、より微細なノズル(又は孔)を有して、液体表面を破壊する前に溶解又は吸収される小さな酸素気泡を生成することができる。典型的にははるかに大きな流量で導入される分離ガス用スパージャは、大きな直径の気泡を供給するためにはるかに大きなノズルを有することができる。大きな気泡は、液体の表面で破壊しても与える損傷が小さく、泡を生成する傾向が小さい。当該浸漬ガススパージャは、酸素レベル及び溶存二酸化炭素レベルの両方の独立した制御を、ヘッドスペースガス交換法とともに支援することができる。ガススパージャは、使用される場合は、細胞培地におけるそれらの滞留時間を最大にするために、上方流動インペラから離れて配置されるのが好ましい。この方法では、分離気泡が、軸方向流動インペラに注入される気泡よりはるかに大きく、発泡の可能性が著しく小さくなる。ここで、ガス交換は、液体の表面上及びバルク内の双方に生じる。少容量のガスを短時間にわたって断続的に散布すると、非常に高流量のスイープガスに頼ることなく、又は最大のインペラ速度を採用することなく、酸素吸収量及び二酸化炭素除去を最大にすることが可能になる。細胞損傷を最小限に抑えるために、酸素溶解及び二酸化炭素除去のための当該散布をピーク需要時にのみ実施することが重要である。
【0042】
好適な上方ポンピングデバイスは、最小限の半径方向流量で大容量の液体を上方に移動させることができる螺旋状インペラである。螺旋状インペラを使用して、シミュレートされた液体培地から二酸化炭素除去率が測定され、容積質量係数として報告された。物質移動係数が高くなるほど、ガス交換効率が良好になる。上方ポンピングインペラを用いても、移動する液体流は、撹拌機の回転によって回転されることになる。その結果、表面液体は旋回して、表面液体が表面の平面内で回転するに従って液体表面再生を著しく低減させることになる。旋回を停止するために、インペラの上部にも垂直バッフルシステムを使用して、液体の回転を中断し、流れをそのまま表面に再誘導する。したがって、表面液体は、容器の中心において軸から外側に放射し、拡散し、それが沈む容器の縁に向かって希薄化する。その結果、表面ガス交換が著しく向上される。
【0043】
別の考えられる実施形態において、上方流動インペラは、ディスポーザブルバイオリアクターに使用されるように構成される。上方ポンピングインペラは、好ましくは、ディスポーザブルバイオリアクターの中心付近又は中心に位置し、磁気結合を介して駆動力に接続されることになる。プラスチックドラフト管及び垂直バッフルをディスポーザブルバッグの内部に予め設置することができるため、それらは、エンドユーザへの出荷の前にすべて滅菌されることになる。バイオリアクターのディスポーザブルな実施形態において、インペラは、好ましくは、バイオリアクター容器又は容器ライナとともに、使用後に安全に廃棄することができる安価な成形プラスチックで構成される。
【0044】
図3は、溶存二酸化炭素のレベルを制御し、その結果として哺乳類細胞培養プロセスにおけるモル浸透圧濃度のレベルを制限するように構成されたバイオリアクターシステムの別の代替的な実施形態を示す。例示されたシステム100は、哺乳類細胞培地104、栄養物106、添加剤108、消泡剤110及び接種哺乳類細胞112を収容するのに好適なバイオリアクター容器102を含む。システム100は、軸116を回転させ、プロペラ118を駆動して、バイオリアクター容器102内の細胞培養液を連続的に混合するモータ114を含む。pHセンサ122、dCOセンサ124、温度指示計126、溶存酸素アナライザ128及び通気ガスアナライザ130を含む複数のセンサ及びアナライザも含まれる。当該センサ及びアナライザは、付随する弁148及び流量計149の制御を介して、バイオリアクター容器102への酸素142、窒素144及び二酸化炭素146のガス供給を制御又は調整するシステムコントローラ140に入力として連結される。例示されたシステム100は、排気サブシステム150、複数の生物フィルタ152、並びにバイオリアクター容器102を水156及び水蒸気158で滅菌する手段154をも必要に応じて含む。
【0045】
図3の実施形態において、バイオリアクター容器102内の哺乳類細胞は、散布ガスの乱流混合から物理的に隔離される。これは、空気、窒素、酸素若しくは他のガス又はそれらの組合せを垂直上昇管160内に散布することによって遂行される。気泡の浮揚力は、管160内の液体を上方に移動させ、究極的には管160から追い出すことになる。垂直上昇管160内の気泡と上昇液との間で酸素化及び二酸化炭素分離が生じる。上昇管160は、バイオリアクター容器102における液体の表面182の上方でヘッドスペース180内に延在する上昇管の最上部を除いて、多孔質膜に囲まれる。上昇管160の最上部は、多孔質膜に囲まれていないため、上昇液は、上昇管160から出て、バイオリアクター容器102のなかに戻ることになる。
【0046】
多孔質膜は、好ましくは、細胞培地又は培養液を通過させるのに十分であるが、実際の哺乳類細胞の通過を防止する約5ミクロン以下の孔径を有する。液体が上昇管を出ると、さらなる細胞培地又は培養液を多孔質膜から上昇管に誘導するための差圧が生成される。しかし、膜は、哺乳類細胞が上昇管に入ることを防止することで、そこで生じる気液混合の結果として起こる損傷から細胞を保護する。
【0047】
図4は、哺乳類細胞培養プロセスにおいて溶存二酸化炭素のレベルを制御し、その結果としてモル浸透圧濃度を制限することを可能にするように構成されたバイオリアクターシステム200のさらに別の実施形態を示す。例示されたシステム200は、哺乳類細胞培地204、栄養物206、添加剤208、消泡剤210及び接種哺乳類細胞212を収容するのに好適なバイオリアクター容器202を含む。システム200は、軸216を回転させ、インペラ又は撹拌機218を駆動して、バイオリアクター容器202内の細胞培養液を連続的に混合するモータ214を含む。pHセンサ222、dCOセンサ224、温度指示計226、溶存酸素アナライザ228及び通気ガスアナライザ230を含む複数のセンサ及びアナライザも含まれる。当該センサ及びアナライザは、バイオリアクター容器202への酸素242、窒素244及び二酸化炭素246のガス供給を制御又は調整するシステムコントローラ240並びに二酸化炭素分離装置に入力として連結される。例示されたシステム200は、排気サブシステム250、複数の生物フィルタ252、並びにバイオリアクター容器を水256及び水蒸気258で滅菌する手段254をも必要に応じて含む。
【0048】
二酸化炭素分離装置は、ポンプ270及び吸入装置272を介してバイオリアクター容器202に流動可能に連結される。吸入装置272は、筐体274の内側に直面する多孔質膜276又は金属膜を有する金属筐体274を含む。この吸入装置は、好ましくは、バイオリアクター容器202内でインペラ又は撹拌機218と同じ高さに配置される。
【0049】
多孔質膜276は、好ましくは、細胞培地204又は培養液を通過させるのに十分であるが、実際の哺乳類細胞が通過するのを防止する約5ミクロン以下の孔径を有する。多孔質膜276とインペラ又は撹拌機218との位置を合わせると、インペラから放射する高速液体流を、多孔質膜276の表面に接着又は付着する哺乳類細胞から排出させ、哺乳類細胞を含まない細胞培地の連続流を二酸化炭素分離装置に誘導させることが可能になる。
【0050】
哺乳類細胞を含まない濾過液は、ポンプ270を介して分離装置290に流入する。分離装置は、好ましくは、高速混合、酸素化及び二酸化炭素除去を行うことができる超音波インライン分離装置又は通気塔である。哺乳類細胞は、膜ユニットの微孔に入ることができないため、超音波インライン分離装置において細胞が二相乱流によって損傷又は死滅することはない。分離ガス及び酸素化ガスは、分離装置290の頂部から脱離し、排出され250、液体は、バイオリアクター容器202に戻される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
所望の栄養物及び溶存酸素レベルを維持することに加えて、商業的バイオリアクターにおける従来のプロセス制御は、現行では、主に細胞培地のpHレベルを制御することに焦点をおいている。溶存CO濃度及びモル浸透圧濃度などの他の重要な細胞培養プロセスパラメータは、pH制御法−塩基の添加−が、溶存COの除去を妨げるように作用し、細胞培養プロセス全体を通してモル浸透圧濃度を増大させるため、本質的に未制御のままである。その結果、溶存CO及びモル浸透圧濃度の両方が、培養細胞にストレスを与え、収率及び生産性に悪影響を及ぼすことが知られるレベルに達し得る。
【0052】
培養細胞に対するさらなるストレス源は、スパージャを介して、バイオリアクター容器内の液体に気泡として送達されるガスである。場合によっては、スパージャを介して導入される小さな気泡は、感受性の細胞を直接損傷し、過剰の泡を生成して、それにより、コストを増大させ、所望のガス交換メカニズムに干渉し、下流の精製の問題を発生させ得る消泡剤又は添加剤が必要となる可能性がある。
【0053】
全体的に高い静水圧がCOの溶解度を大きくし、より大きな散布ガス容量がより多くの泡を生成し、商業規模のバイオリアクターに採用されるより大きな撹拌機は、より強い細胞損傷剪断力を生成する傾向があるため、以上に特定したすべてのストレス要因は、商業規模又はより大きいバイオリアクター規模においてより重大になることが知られる。
【0054】
これらのストレスの複合的影響は、より低い細胞増殖率、より長いバッチ時間、生産性及び収率の低下、より低い生存度、細胞溶解の増大、より困難なプロセス展開及びスケールアップ、並びに(破壊細胞から放出されたタンパク質分解酵素による)タンパク質生産物の劣化である。破壊細胞の内容物はまた、特にプロセスに消泡剤を採用しなければならない場合は精製上の問題をもたらす。最後に、ストレスの多くは、経時的に増大し、特に、グリコシル化のパターン、程度及び均一性に関して生産物の質を低下させる。場合によっては、許容可能な質の生産物を製造するために、生産性がなくなるかなり前にプロセスを終了させなければならない。
【0055】
このセクションに掲載されているすべてのストレスは、本明細書に記載のバイオリアクター及びバイオリアクターシステム改造によって軽減又は解消される。以上に特定されたストレスの低減又は除去は、商業的細胞培養製造プロセスに有意な影響を与える。収率及び生産性の向上の他に、プロセス展開及びスケールアップが促進され、生産物の質が向上し、精製が簡単になる。加えて、より高度なプロセス制御が達成されるため、クォリティ・バイ・デザイン(QBD)原理に従って、プロセス頑健性及び再現性が向上する。
【0056】
先述の説明から、本発明は、このように、過剰の溶存二酸化炭素を細胞培地又は培養液から分離又は除去することによって、哺乳類細胞培養プロセスを通じて溶存二酸化炭素レベルを制御するための様々な方法及びシステムを提供することが理解されるべきである。これらの方法及びシステムの多くの修正、変更及び変形が当業者に明らかであり、当該修正、変更及び変形は、本出願の範囲内に含められることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培地を収容するように構成され、液上面及び液上面上方のヘッドスペースを画定するバイオリアクター容器と、
前記容器における前記培地をヘッドスペースに向けて上方に誘導して、溶存二酸化炭素を細胞培地からヘッドスペースに除去するように構成された、バイオリアクター容器に配置されたインペラと、
ヘッドスペースの近傍でバイオリアクター容器に連結され、1つ又は複数の外部ガス源からスイープガスの流れを受け取るように構成されたガス吸入口と、
ヘッドスペースの近傍でバイオリアクター容器に連結され、スイープガス及び二酸化炭素をバイオリアクター容器のヘッドスペースから通気口に除去するように構成されたガス排出口と
を含むバイオリアクター。
【請求項2】
インペラは螺旋状流動インペラである、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項3】
インペラのまわりに配置されたドラフト管をさらに含む、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項4】
インペラの近傍の液体流を実質的に垂直な流れに配向させるようにインペラの近傍に配置された垂直バッフルシステムをさらに含む、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項5】
二酸化炭素センサ、酸素センサ、温度センサ、pHセンサ及びモル浸透圧濃度アナライザからなる群から選択される1つ又は複数のセンサ又はアナライザをさらに含む、請求項1に記載のバイオリアクター。
【請求項6】
(i)1つ又は複数の外部ガス源からバイオリアクター容器におけるヘッドスペースへのスイープガスの流れ、(ii)バイオリアクター容器におけるヘッドスペースから通気口へのスイープガス及び除去される二酸化炭素の流れ、又は(iii)インペラの回転を1つ又は複数のセンサ及びアナライザに応答して制御するように構成されたコントローラをさらに含む、請求項5に記載のバイオリアクター。
【請求項7】
スイープガスは酸素又は空気を含む、請求項6に記載のバイオリアクター。
【請求項8】
コントローラは、スイープガスの組成又はスイープガスの流れを培地における溶存酸素レベル又は溶存二酸化炭素レベルに応答して調整するようにさらに構成される、請求項7に記載のバイオリアクター。
【請求項9】
螺旋状インペラは、細胞培養プロセスを通じて、バイオリアクター容器における液上面の下方のバイオリアクター容器内の規定の位置に配置される、請求項2に記載のバイオリアクター。
【請求項10】
細胞培養プロセスのためのバイオリアクターシステムであって、
細胞培地を含み、液上面及び液上面の上方のヘッドスペースを画定するバイオリアクター容器と、
バイオリアクター容器における培地をヘッドスペースに向けて上方に誘導する、バイオリアクター容器内に配置された上方流動インペラと、
スイープガス流を1つ又は複数の外部ガス源からバイオリアクター容器のヘッドスペースに送達するようにヘッドスペース近傍でバイオリアクター容器に連結されたガス吸入口と、
スイープガス流及び除去又は分離二酸化炭素をバイオリアクター容器のヘッドスペースから通気口に除去するようにヘッドスペースの近傍でバイオリアクター容器に連結されたガス排出口と
を含み、
上方流動インペラは、バイオリアクター容器における培地をヘッドスペースに向けて上方に連続的に誘導して、液上面の細胞培地を再生し、細胞培地内の細胞への損傷を最小限に抑えながら溶存二酸化炭素を細胞培地からヘッドスペースに除去又は分離する、上記バイオリアクターシステム。
【請求項11】
インペラは螺旋状流動インペラである、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項12】
インペラのまわりに配置されたドラフト管をさらに含む、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項13】
インペラ近傍の液体流を実質的に垂直な流れに配向させるようにインペラ近傍に配置された垂直バッフルシステムをさらに含む、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項14】
二酸化炭素センサ、酸素センサ、温度センサ、pHセンサ及びモル浸透圧濃度アナライザからなる群から選択される1つ又は複数のセンサ又はアナライザをさらに含む、請求項10に記載のバイオリアクター。
【請求項15】
(i)1つ又は複数の外部ガス源からバイオリアクター容器におけるヘッドスペースへのスイープガスの流れ、(ii)バイオリアクター容器におけるヘッドスペースから通気口へのスイープガス及び除去される二酸化炭素の流れ、又は(iii)インペラの回転を1つ又は複数のセンサ及びアナライザに応答して制御するように構成されたコントローラをさらに含む、請求項14に記載のバイオリアクター。
【請求項16】
スイープガスは酸素又は空気を含む、請求項15に記載のバイオリアクター。
【請求項17】
コントローラは、スイープガスの組成又はスイープガスの流れを培地における溶存酸素レベル又は溶存二酸化炭素レベルに応答して調整するようにさらに構成される、請求項16に記載のバイオリアクター。
【請求項18】
螺旋状インペラは、細胞培養プロセスを通じて、バイオリアクター容器における液上面の下方のバイオリアクター容器内の規定の位置に配置される、請求項11に記載のバイオリアクター。
【請求項19】
細胞への損傷を最小限に抑えながら細胞培地における溶存ガスの濃度が規定レベルに制御される、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項20】
細胞培地における気泡の形成を最小限に抑えながら、且つ液上面の近傍に泡をほとんど又は全く生成することなく、細胞培地における溶存ガスの濃度が規定レベルに制御される、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項21】
細胞培地のモル浸透圧濃度は、細胞培養性能の阻害を最小限にする規定レベルに独立して制御される、請求項10に記載のバイオリアクターシステム。
【請求項22】
細胞培養プロセスのためのバイオリアクターシステムであって、
細胞培地を含み、液上面及び液上面の上方のヘッドスペースを画定するバイオリアクター容器と、
溶存二酸化炭素を細胞培地から除去又は分離する手段と
を含み、
溶存二酸化炭素を細胞培地から除去又は分離する手段が細胞培地内の細胞に与える損傷が最小限である、上記バイオリアクターシステム。
【請求項23】
バイオリアクター容器において細胞を培養する方法であって、
バイオリアクター容器内の細胞培地をバイオリアクター容器におけるヘッドスペースに向けて上方に再循環させて、液上面の細胞培地を再生し、細胞培地内の細胞への損傷を最小限に抑えながら溶存二酸化炭素を細胞培地からヘッドスペースに分離する工程と、
バイオリアクター容器のヘッドスペースを介してスイープガスを誘導して、分離二酸化炭素をバイオリアクター容器のヘッドスペースから通気口に除去する工程と
を含むことを特徴とする、上記方法。
【請求項24】
バイオリアクター容器内の細胞培地を上方に再循環させる工程は、ドラフト管に配置された螺旋状流動インペラを使用してバイオリアクター容器における細胞培地を再循環させる工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
バイオリアクター容器内の細胞培地を上方に再循環させる工程は、螺旋状流動インペラ、及びインペラの近傍の液体の流れを実質的に垂直な流れに配向させるようにインペラの近傍に配置された垂直バッフルシステムを使用して、バイオリアクター容器における細胞培地を再循環させる工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
(i)1つ又は複数の外部ガス源からバイオリアクター容器におけるヘッドスペースへのスイープガスの流れ、(ii)バイオリアクター容器におけるヘッドスペースから通気口へのスイープガス及び除去二酸化炭素の流れ、又は(iii)インペラの回転を、二酸化炭素センサ、酸素センサ、温度センサ、pHセンサ及びモル浸透圧濃度アナライザからなる群から選択される1つ又は複数のセンサ及びアナライザに応答して制御する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
スイープガスが酸素又は空気を含み、スイープガスの組成又はスイープガスの流れを、培地における溶存酸素レベル又は溶存二酸化炭素レベルに応答して調整する工程をさらに含む、請求項23に記載の方法。

【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2A】
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【公表番号】特表2011−530290(P2011−530290A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522229(P2011−522229)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/052911
【国際公開番号】WO2010/017337
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(392032409)プラクスエア・テクノロジー・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】