説明

唾液分泌促進剤

【課題】優れた唾液分泌促進効果が持続し、継続して使用できる唾液分泌促進剤の提供。
【解決手段】サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、その圧搾物又はそれらの抽
出物を含有する唾液分泌促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の乾燥を改善する唾液分泌促進剤に関する。
【0002】
ドライマウス、すなわち口腔乾燥症は、口の中や喉の渇きを主訴とする疾患であり、その患者数は数百万人といわれている。具体的な症状としては、食物や薬がうまく飲み込めない嚥下障害や、口の中のネバネバ感、虫歯、歯垢、舌苔の増加、口臭等が挙げられるが、重症化すると、強い口臭だけでなく、舌表面のひびわれ等が生じる。その原因は、治療による唾液分泌細胞の損傷や、ストレス、不規則な食生活や薬物副作用などといわれている。また、加齢により唾液の分泌量が減少することから、人口の高齢化に伴ない、嚥下障害を訴える人の数が増加しつつある。
【0003】
ドライマウスの治療には、保湿力の高い洗口液、保湿ゲル、スプレーによる噴霧、保湿用マウスピース等が用いられているが、いずれも口腔内の粘膜を一時的に保護しているにすぎない。
【0004】
このようなドライマウスを改善するには、物理的に口腔内を潤す洗口液等のような機能を補助する手段ではなく、ヒトが本来有する機能の活性化をはかること、すなわち唾液分泌を促進することが重要である。かかる観点から、梅干し、梅酢、有機酸や羅漢果、ビタミン類を利用した唾液分泌促進剤が報告されている(特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−22719号公報
【特許文献2】特開平7−101856号公報
【特許文献3】特開平11−712353号公報
【特許文献4】特開2006−199670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の唾液分泌促進剤は、主に有機酸の口内又は味覚刺激により唾液分泌を促すものであり、食物や飲料の摂取により効果が消失してしまう等の欠点があり、実用的とは言いがたく、広く継続して使用されるに至っていない。
従って、本発明の課題は、優れた唾液分泌促進効果が持続し、継続して使用できる唾液分泌促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、酸味にたよらない優れた唾液分泌促進作用を有する成分を見出すべく探索したところ、サンショウ属に属する植物の果実が、唐辛子のような味覚を極めて強く刺激する辛味に起因する唾液分泌促進作用ではなく、味覚刺激が比較的弱いにも関わらず、強い唾液分泌促進作用を有し、かつ、その作用も唐辛子同様に持続することから、治療により口腔内の唾液分泌細胞等が損傷し、刺激に耐えられない人にも継続して使用可能な唾液分泌促進剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、その圧搾物又はそれらの抽出物を含有する唾液分泌促進剤を提供するものである。
【0009】
本発明の唾液分泌促進剤は、唐辛子のごとき耐え難い辛味刺激によるものではなく、どちらかと言えば香味として口腔内を刺激して/又は、経口投与においても持続的に唾液分泌が促進される。従って、唾液の分泌量に依存する口腔内の乾燥を長時間にわたり防止するだけでなく、刺激に弱い高齢者の嚥下障害の改善にも有用である。
【0010】
また、口腔疾患は、食事の美味しさや楽しさを低下させる。食事前または食事中などに本剤を摂取することで、唾液の分泌を促し、食生活を改善し、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】サンショウ抽出物の唾液分泌量を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の唾液分泌促進剤の有効成分は、サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、その圧搾物又はそれらの抽出物である。サンショウ属(Zanthoxylum)に属する植物としては、Zanthoxylum pipertum(山椒)及びZanthoxylum bungeanum(花椒)等が挙げられ、本発明ではいずれも使用することができる。
ここで果実には、果実全体、果皮を含む果肉及び種子のいずれも含まれる。粉砕物としては、果実全体、果皮を含む果肉/又は種子を1μm〜1000μm程度に粉砕したものが好ましい。圧搾物としては果実全体、果皮を含む果肉、種子/又はそれらの粉砕物の圧搾残渣部ではなく圧搾油(圧搾汁部)が好ましい。抽出物としては、果実全体、果皮を含む果肉、種子/又はそれらの粉砕物の親油性溶剤による抽出物が好ましい。これらの果実、粉砕物、圧搾物及び抽出物のうち、果実の圧搾油又は親油性溶剤による抽出物を用いるのが、唾液分泌促進効果及びその持続性の点でより好ましい。
【0013】
果実全体、果皮、果肉及び種子の粉砕手段は、乳鉢、ポットミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなど公知の粉砕方法にて行えばよい。
【0014】
果実全体、果皮、種子/又はその粉砕物の圧搾は、公知の搾汁装置を用いた圧搾方法にて行なえばよいが、成分の変質を抑える意味では、高温加熱処理圧搾ではなく、温度を制御して行なう方法が好ましい。また、果実全体、果皮を含む果肉、種子/又はそれらの粉砕物をそのまま圧搾するのではなく、予めそれらに抽出に用いる溶剤と同じ親油性溶剤を添加したものを圧搾して圧搾物を得るのが好ましい。
【0015】
抽出手段は特に限定されず、有機溶媒を用いた撹拌・振盪・浸漬抽出法や、減圧水蒸気蒸留抽出法、超臨界ガス抽出法など公知の抽出方法にて行なえばよく、たとえば浸漬法での抽出は0〜35℃で15分〜10時間行なえばよい。
【0016】
抽出に用いられる親油性溶剤としては、酢酸エチル、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の他に、動物油、植物油、それらを加工した加工油脂等の液状油脂を用いることができる。抽出物をそのまま摂取することができる点で液状油脂、特に植物油及びそれらを加工した加工油脂を用いるのが好ましい。植物油としては、ごま油、大豆油、なたね油、サフラワー油、米油、オリーブ油、亜麻仁油、パーム油等が、また、植物油を加工した加工油脂としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド等が挙げられる。また、ここで液状油脂とは、常温(25℃)で液状の油脂をいう。
【0017】
サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、その圧搾物又はそれらの抽出物(以下、それらを総して「サンショウ」という。)は、実施例に示すように、唐辛子に匹敵する/又はそれ以上の優れた唾液分泌促進作用を有し、かつその作用は持続的である。さらに、特筆すべき点は、強い辛味を感じることなく唾液分泌を促進するところにある。すなわち、本発明のサンショウによる唾液分泌促進は、一般的に知られている辛味成分の刺激に起因する防御反応としての唾液分泌作用ではなく、サンショウに含まれる何らかの成分による唾液分泌促進作用であることは明らかである。さらに、本発明のサンショウによる唾液分泌促進作用は、持続的であることから、唾液の分泌量に依存する口腔内の乾燥を長時間にわたり防止し、高齢者の嚥下障害等を改善することができる。
【0018】
本発明の唾液分泌促進剤の形態は、経口摂取できる形態であればよく、特に制限されるものではないが、一般的な液剤、錠剤、顆粒、細粒、粉末、硬カプセル、軟カプセル、ゼリー剤、グミ剤、トローチ剤、チュアブル剤、丸剤、シロップ剤、洗口液、ハミガキ剤など一般的な剤型のほか、ジュースやティーパック、清涼飲料水、スープなど飲料;ドロップ、キャンディーなど飴類やガム;食べ物に直接ふりかけるドレッシングタイプやふりかけなどの食品の形態が挙げられる。また、従来ドライマウス患者が食べづらかった食品、例えば、クッキーやケーキなどの焼き菓子類、パン、冷凍食品、麺類などに本剤を練り込み製することで、患者の食生活が改善されQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上する。
【0019】
これらの剤形にするにあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、甘味料、乳化剤、防腐剤、香料、着色剤、増粘剤等のほか、味付けする各種調味料等を配合することができる。たとえば、軟カプセルを製する場合には、本発明のサンショウの圧搾油又は液状油抽出物に、前記の植物油等の液状油脂、ミツロウ、ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等を添加して、ゼラチン、グリセリン、水、二酸化チタン、着色剤、カラギーナン、デンプン類、セルロース類、糖アルコール類、酵母粉末等を配合した皮膜に充填すればよい。
【0020】
本発明の唾液分泌促進剤中の、サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、それらの圧搾物又は抽出物の配合量は、唾液分泌促進効果、持続性及び刺激等の点から、乾燥原生薬換算で、1〜80質量%、さらに20〜60質量%が好ましい。
【0021】
本発明の唾液分泌促進剤のヒト服用量は、ドライマウス患者等の症状や、体重等によって異なるが、サンショウとして1日1〜20mgを1回〜5回に分けて食事の際に服用するのが好ましい。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0023】
製造例1
サミット精油社製のサンショウオイル〔製品名:花椒COP/S、本製品は、本発明の、サンショウ属(Zanthoxylum)に属する、Zanthoxylum bungeanum(花椒)の果実に植物油を添加し、コールドプレス製法により圧搾して得られた圧搾物である。〕250g及びサフラワー油9750gを混合し、軟カプセル内溶液を得た。この内溶液を、ゼラチン22%、グリセリン3%及び水75%からなる皮膜液を用いてシームレスカプセルを製造した。得られたシームレスカプセル1粒中の内容液の質量は、87.75mgであり、山椒果実質量として1.0±0.1mgであった。
【0024】
製造例2
サンショウオイル250g及び中鎖脂肪酸トリグリセリド9750gを混合し、軟カプセル内溶液を得た。この内溶液を、ゼラチン15%、グリセリン15%、キシリトール5%及び水65%からなる皮膜液を用いてシームレスカプセルを製造した。得られたシームレスカプセル1粒中の内溶液の質量は、76.05mgであり、山椒果実質量として、0.8±0.1mgであった。
【0025】
試験例1
(1)試験方法
試験用検体を、マイクロピペットで200μmL秤取り、舌に滴下し、1分間放置する。その後、あらかじめ重量を測定していた約15mm×40mmの脱脂綿を舌下腺及び顎下腺のあたりにいれ30秒間放置する。30秒経過後電子天秤にて重量を測定する。この作業を10回行い、平均唾液重量±標準偏差を求めた。
また、同時に、検体の刺激性、味覚についての官能試験も行なった。
【0026】
(2)検体及び試験用検体の調製
サンショウオイル(製品名:花椒COP/S、サミット製油(株)社製)、唐辛子オイル(製品名:トウガラシOS−30、三栄源エフエフアイ(株)社製)、生姜オイル(製品名:ジンジャーオイルMZK−0900、富士フレーバー(株))製)及び山椒の香味成分であるゲラニオール(製品名:ゲラニオール99、小川香料(株)社製)の4種類を検体とした。
対照/又は希釈油には、中鎖脂肪酸トリグリセリド(製品名:ココナードMT、花王(株)社製)を用いた。
検体25gに、中鎖脂肪酸トリグリセリド75gを加えて均一に混和したものを試験用検体とした。但し、唐辛子オイルは極めて刺激が強く、試験に耐えられないと判断されたことから、中鎖脂肪酸トリグリセリドにて、さらに5倍希釈し、試験用検体とした。なお、コントロールには水を用いた。
【0027】
生姜オイル、唐辛子オイルは辛み成分として知られている。ゲラニオールはサンショウに含まれる香味成分の一つである。なお、山椒の辛み成分として、唐辛子のようなピリピリした辛みを有するサンショオール類が知られているが、標品や商品が市販されていないことから、同類の辛みを呈する唐辛子で代表した。
【0028】
(3)結果
結果を図1及び表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
中鎖脂肪酸トリグリセリドを標準物質とし、検体の唾液分泌促進作用につき検討した結果、生姜オイルは、香気は強いが口腔内に対する刺激は少なく清涼感があり、唾液分泌量はスタンダード(希釈油)のそれと比較してほぼ同等と少なかった。ゲラニオールは香気成分だけに非常に強い香りを発し、口腔内に対する刺激が若干あったが、むしろ苦みが優先し、唾液分泌量は、生姜オイルを若干上回る程度であった。
唐辛子オイルは、他の検体よりも5倍薄く希釈したにもかかわらず、ピリピリ、ヒリヒリする極めて強い刺激があり、唾液分泌量も多かった。
サンショウオイルには、独特の香りが感じられたものの、口腔内に対するピリピリした刺激はほとんどなく、生姜オイル同様清涼感が感じられた。しかし、唾液分泌量は、唐辛子のそれを上回るものであった。
【0031】
以上、サンショウオイルには、唐辛子オイルに匹敵する唾液分泌促進作用があることが確認された。しかし、ピリピリ、ヒリヒリした刺激性はほとんどないことから、山椒の優れた唾液分泌促進作用は、辛味成分に起因するものではないと考えられた。これより、辛味がほとんどない安心安全な食物成分からなる唾液分泌剤として、実用的な利用が可能と判断された。
【0032】
試験例2
男女10名の被験者を対象として、サンショウオイルの唾液分泌作用の検討を行なった。即ち、表2に示す処方で製したサンショウオイルを含むカプセル3粒(サンショウオイルとして約7mg)を口に含み、歯で噛んで、内溶液を口腔内に放出させた後、次のアンケート調査を行った。
アンケートは、「唾液の分泌がいつも以上に長く出ていると感じるか否か」について5段階評価で行なった。すなわち、カプセル投与により唾液が分泌したと感じられた被験者を対象とし、唾液の分泌がいつもより短く感じたを1点、いつもと同じを2点、やや長く感じたを3点、長く感じたを4点、非常に長く感じたを5点として、スコア−化し、評価を行なった。
【0033】
【表2】

【0034】
試験結果
【0035】
【表3】

【0036】
サンショウカプセル投与により唾液が分泌したと感じた被験者を対象としたアンケート。
(2)サンショウカプセルを摂取したことで唾液の分泌をいつも以上に長く感じますか。
5点満点中、平均3.3点で長く感じられることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の唾液分泌促進剤は、ドライマウス、嚥下障害などの症状改善のための医薬として利用できるほか、口腔ケア商品、唾液分泌促進を目的とした機能性食品としての利用も可能である。さらに、本剤は唐辛子と異なり、刺激がほとんどないことから、食品の味風・味を大きく邪魔しないなど利点がある。これより、従来ドライマウスや嚥下障害を有する患者にとって食べるのが困難だった食品に練り込むなどすることにより、食生活が改善され、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上するなど、その利用の可能性は大きい。また、本発明の利用性は、唾液分泌量が減少する高齢者の増加に伴い、ますます高まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンショウ属に属する植物の果実、その粉砕物、その圧搾物又はそれらの抽出物を含有する唾液分泌促進剤。
【請求項2】
サンショウ属に属する果実の圧搾物又は抽出物を含有する請求項1記載の唾液分泌促進剤。
【請求項3】
前記圧搾物又は抽出物が、圧搾油、又は親油性溶剤による抽出物である請求項2記載の唾液分泌促進剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−68642(P2011−68642A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190432(P2010−190432)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000101651)アリメント工業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】