説明

唾液成分測定装置および唾液成分測定方法

【課題】 口腔内の所定の場所への接触が容易であり、手軽、安全かつ精密に唾液に含まれる成分が測定される唾液成分測定装置および唾液成分測定方法を提供する。
【解決手段】 唾液成分測定装置10は柔軟なシリコーン樹脂により形成されている。そのため、口腔内に含まれる唾液成分測定装置10は、口腔内の形状に合わせて自在に変形する。これにより、唾液成分測定装置10の液体流路32側から露出するろ紙12は、口腔内の所望の位置に正確に密着する。また、本体20をシリコーン樹脂で形成することにより、センサ室31に設置されているセンサ部11は、外部から隔離されるとともに、本体20の外部から容易に観察される。そのため、センサ部11を外部に取り出したり、別途の測定のための機器は必要としない。また、センサ部11の指示薬が口腔内に直接接触することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液に含まれる成分を測定する唾液成分測定装置および唾液成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体から体液を採取し、採取した体液から人の健康状態を簡易的に測定する技術が広く用いられている。中でも唾液による健康状態の測定は、唾液を口腔内から容易に採取できる点で有利である。唾液に含まれる成分を測定する場合、最も簡易な方法として、例えば指示薬を染み込ませた試験紙を直接口腔内に接触させることが考えられる。しかし、口腔内に直接試験紙を接触させた場合、試験紙に含まれる指示薬が体内に取り込まれるおそれがある。特に、人体にとって危険性の高い指示薬を用いる場合、試験紙を直接口腔内に接触させることはできない。また、安全な指示薬であっても、口腔内の水分により指示薬が流出し、試験紙の色の変化を明確に把握できないおそれがある。
【0003】
そこで、専用器具を口にくわえることにより唾液を採取し、採取した唾液を含む専用器具を専用の測定装置を用いて測定する技術が公知である(例えば、特許文献1、2、3参照)。また、口にくわえたチューブの反対側の端部から連続的に唾液を採取し、採取した唾液を測定装置を用いて測定する技術が公知である(特許文献4参照)。さらに、例えば唾液を特殊な器具で採取し、採取した唾液に含まれる成分を測定装置で測定することが提案されている(非特許文献1)
【0004】
【特許文献1】特開2004−219309号公報
【特許文献2】特開2004−223115号公報
【特許文献3】特開2002−131314号公報
【特許文献4】特開平6−43077号公報
【非特許文献1】http://www.torikyo.ed.jp/ousaka-e/healty-happy-daeki.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2、3または非特許文献1に開示されている技術の場合、唾液を採取する装置は口の大きさに比較して大きくて長いものが多い。そのため、専用器具を口にくわえて唾液を採取する場合、唾液の採取に労力および時間が必要であり、手軽な測定は困難である。また、唾液を採取する際、口の周囲から唾液が漏れ、周囲を汚染するおそれがある。
【0006】
特許文献1、2、3に開示されている技術の場合、専用の測定装置を必要とする。そのため、唾液を採取しても専用の測定装置により唾液の成分を測定する必要があり、手軽さに欠ける。また、特許文献1、2、3に開示されている技術の場合、唾液を採取する器具は口でくわえる部分が比較的柔軟性の低い硬い材料から形成されている。そのため、唾液を採取する器具を口腔内の所定の場所に正確に接触させることは困難である。
【0007】
さらに、特許文献4に開示されている技術の場合、唾液を採取する部位と唾液を収集する部位とが離れて配置されると、チューブの全長が増大し、チューブ内のデッドボリュームが増大する。そのため、唾液の採取から収集まで時間的な差が生じ、精密な測定は困難である。
そこで、本発明の目的は、口腔内の所定の場所への接触が容易であり、手軽、安全かつ精密に唾液に含まれる成分が測定される唾液成分測定装置および唾液成分測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の唾液成分測定装置によると、内部を軸方向に貫く流路、および前記流路の軸方向の中間部に設置され前記流路を液体流路と気体流路とに分割するセンサ室を有し、柔軟な樹脂から形成される本体と、前記センサ室に設置され、唾液に含まれる成分に反応して変色する指示薬を含むセンサ部と、前記液体流路に設置され、毛細管現象を生じさせる微細流路を形成する繊維状の材料から形成され、一方の端部の少なくとも一部が前記本体の外部へ露出するとともに他方の端部が前記センサ室に設置されている前記センサ部と接している繊維状片と、を備えることを特徴とする。本体は柔軟な樹脂から形成されている。そのため、本体は口腔内の形状に合わせて変形する。したがって、本体を口腔内の所定の場所へ容易に接触させることができる。また、センサ部は、本体の内部のセンサ室に設置されている。口腔内に分泌される唾液は、本体の外部に露出する繊維状片にしみ込み、毛細管現象により液体流路をセンサ部まで浸透する。本体を貫く流路内に存在する気体は、気体流路を通して外部へ排出される。これにより、唾液は、液体流路の繊維状片を通してセンサ部まで浸透する。唾液がセンサ部に浸透することにより、センサ部に含まれる指示薬は唾液に含まれる成分と反応して変色する。センサ部は、本体の内部のセンサ室に設置されているため、外部に露出しない。そのため、センサ部は、直接口腔内に接触せず、かつセンサ部に含まれる指示薬が流出することもない。したがって、手軽、安全かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0009】
また、本発明の唾液成分測定装置によると、前記繊維状片は、前記センサ部側の端部が前記センサ部と重ねて設置されている。そのため、毛細管現象により繊維状片を浸透した唾液は、確実にセンサ部と接触する。これにより、採取された唾液は、センサ部に含まれる指示薬によって測定される。したがって、安全かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0010】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記センサ部は、毛細管現象を生じさせる微細流路を形成する繊維状の材料から形成されている。そのため、繊維状片を浸透した唾液は繊維状片と接触するセンサ部に浸透する。これにより、採取された唾液は、センサ部に含まれる指示薬によって測定される。また、繊維状の材料によりセンサ部を形成することにより、センサ部には指示薬が容易に含浸される。したがって、安全かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0011】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記気体流路に設置され、前記本体の変形にともなう前記気体流路の閉塞を防止するスペーサをさらに備える。そのため、柔軟な本体が口腔内の形状に合わせて変形しても、気体流路はスペーサによって気体を排出可能な空間が確保される。これにより、本体の内部の流路に存在する気体は気体流路から円滑に排出され、唾液は液体流路から円滑にセンサ部へ浸透する。したがって、迅速に唾液の成分を測定することができる。
【0012】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記スペーサは、前記センサ室側の端部が前記センサ部と所定の隙間を形成している。そのため、センサ部に浸透した唾液は、センサ部とスペーサとの間の隙間によってスペーサ側への浸透が規制される。これにより、センサ部へ浸透した唾液がスペーサを通して本体の外部へ排出されることはない。したがって、センサ部の指示薬の色落ちが防止され、精密に唾液の成分を測定することができる。
【0013】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記本体は前記センサ室を二つ以上有し、前記センサ室のそれぞれに前記液体流路および前記気体流路が連通している。そのため、例えば各センサ室に異なる指示薬を含むセンサ部を設置することにより、唾液に含まれる異なる成分が同時に測定される。したがって、迅速かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0014】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記本体は、少なくとも前記センサ室の近傍が透明である。そのため、唾液に含まれる成分は本体の外部から目視により測定される。これにより、別途測定装置などを必要とすることがない。したがって、手軽、迅速かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0015】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記本体は、シリコーン樹脂からなる。そのため、人体に影響をおよぼすことはない。また、シリコーン樹脂は柔軟であるため、本体は口腔内の形状に合わせて容易に変形する。したがって、安全かつ手軽に唾液の成分を測定することができる。
【0016】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記センサ部に含まれる指示薬は、pH指示薬である。そのため、唾液のpHが測定される。唾液のpHは、例えば虫歯への影響などのように、人の健康状態に密接な関連がある。したがって、唾液のpHを測定することにより、人の健康状態を容易に知ることができる。
【0017】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記センサ部に含まれるpH指示薬は、赤キャベツ色素である。赤キャベツ色素は食品由来の色素であるため、人体への影響をおよぼさない。したがって、安全に唾液の成分を測定することができる。
【0018】
さらに、本発明の唾液成分測定装置によると、前記センサ部に含まれる指示薬は、糖指示薬である。そのため、唾液の糖分が測定される。唾液の糖分は、例えば体内の酵素の活性状態など、人の健康状態に密接な関連がある。したがって、唾液の糖分を測定することにより、人の健康状態を容易に知ることができる。
【0019】
本発明の唾液成分測定法方法によると、柔軟な樹脂から形成される本体の一方の端部を口腔内の所定の位置に局所的に接触させる段階と、前記口腔内の所定の位置から分泌される唾液を、前記本体から露出する繊維状片を介して前記本体の内部に封入されているセンサ部に導入する段階と、前記センサ部に導入された唾液による前記センサ部の変色を、前記本体の外部から観察する段階と、を含むことを特徴とする。本体は柔軟な樹脂で形成されているため、本体は口腔内の所定の位置に局所的に接触する。センサ部は本体の内部に封入されているものの、唾液は本体の端部から露出する繊維状片を介してセンサ部に導入される。そのため、センサ部が外部に露出せず、センサ部が口腔内に直接接触することはない。また、センサ部が露出していない場合でも、唾液は繊維状片を介してセンサ部へ確実に導入される。さらに、センサ部の変色は本体の外部から観察される。そのため、別途測定機器を必要としない。したがって、手軽、安全かつ精密に唾液に含まれる成分を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の複数の実施例を図面に基づいて説明する。
(第1実施例)
まず、本発明の第1実施例による唾液成分測定装置について説明する。図1は、本発明の第1実施例による唾液成分測定装置を示す概略図である。また、図2は、本発明の第1実施例による唾液成分測定装置を示す分解図である。
【0021】
唾液成分測定装置10は本体20を備えている。本体20は、ベース21とカバー22とから構成されている。ベース21とカバー22とは、板厚方向に重ねて接合されている。本実施例の場合、ベース21およびカバー22からなる本体20はシリコーン樹脂から形成されている。シリコーン樹脂は、人体に無害であるとともに、柔軟である。また、本実施例の場合、本体20は透明なシリコーン樹脂により形成されている。なお、本体20は、シリコーン樹脂に限らず、例えばウレタン樹脂など、柔軟で人体へ無害な材料であれば適用することができる。
【0022】
ベース21とカバー22とは、例えばシリコーン樹脂などにより接着され、一体に形成されている。本実施例の場合、本体20は薄い板状に形成されている。なお、図1および図2では、説明を容易にするため、板厚方向を拡大して示している。本体20は、例えばチューイングガム程度の大きさであり、長手方向の長さは5cm程度に設定され、短手方向の幅は1cmに設定されている。本体20の厚さは、数mm程度である。
【0023】
本体20は、ベース21とカバー22との間に長手方向すなわち軸方向へ貫く流路30を有している。本実施例の場合、ベース21はカバー22側の端部に流路30を形成する溝23を有している。溝23は、ベース21のカバー22側の端部からカバー22とは反対側へ窪んで形成されている。これにより、ベース21とカバー22とを一体に接合したとき、本体20の内部に流路30が形成される。流路30は、中間部にセンサ室31を有している。センサ室31は、流路30を液体流路32と気体流路33とに分割している。センサ室31は、液体流路32および気体流路33よりも径方向へ拡大して形成されている。なお、液体流路32、気体流路33およびセンサ室31は一定の幅で形成してもよい。また、本実施例では、センサ室31を平面視で円形状に形成している。しかし、センサ室31は、円形状に限らず任意の形状に形成することができる。
【0024】
流路30の中間部にセンサ室31を設置することにより、液体流路32は本体20の軸方向において一方の端部20aとセンサ室31とを連通する。また、気体流路33は、本体20の軸方向において他方の端部20bとセンサ室31とを連通する。センサ室31には、センサ部11が設置されている。センサ部11は、唾液の成分によって変色する指示薬を含んでいる。本実施例の場合、センサ部11は、ろ紙などの繊維状の材料により形成されている。なお、センサ部11には、例えば多孔性のセラミックスや樹脂などろ紙に限らず適用することができる。
【0025】
本体20は、シリコーン樹脂により全体が透明に形成されている。本実施例の場合、本体20は本体20のベース21およびカバー22は、例えばシリコーン樹脂を成形型に注入して形成される。そのため、ベース21およびカバー22の形成時において、成形型のセンサ室31に対応する部分を鏡面仕上げとすることが好ましい。これにより、センサ部11が収容されるセンサ室31の周囲の透明度が向上し、センサ部11の観察時における精度が向上する。なお、本体20は、センサ部11の観察を容易にするために、少なくともセンサ部11の近傍が透明であればよい。
【0026】
液体流路32には、繊維状片としてのろ紙12が設置されている。ろ紙12は、微細な繊維が絡まることにより、繊維間に毛細管現象を生じさせる微細流路を形成する。ろ紙12は、少なくとも一部が本体20から外部へ露出している。また、ろ紙12は、他方の端部がセンサ室31に収容されているセンサ部11と接している。なお、ろ紙12は、本実施例のように本体20の端部20aから露出する構成に限らず、本体20の上端面または下端面から本体20の外部に露出する構成としてもよい。
【0027】
一方、気体流路33には、スペーサとしてのろ紙13が設置されている。ろ紙13は、センサ室31側の端部においてセンサ部11と接することなく、センサ部11との間に隙間14を形成している。なお、スペーサは、ろ紙13に限らず、樹脂や金属からなる繊維状の部材を適用してもよい。
【0028】
次に、上記の構成の唾液成分測定装置10による唾液成分測定方法について説明する。唾液成分測定装置10は、人の口腔内に直接挿入される。このとき、唾液成分測定装置10は、液体流路32側が口腔内に挿入され、気体流路33側が口の外側に露出する。唾液成分測定装置10の本体20は、柔軟なシリコーン樹脂で形成されているため、本体20は口腔内の形状に沿って柔軟に変形する。これにより、本体20から露出するろ紙12は、口腔内の所望の位置に正確に接触する。唾液を採取する場合、ろ紙は唾液の分泌腺の近傍に接触させられる。
【0029】
このとき、唾液成分測定装置10の本体20は、センサ部11を収容しているセンサ室31が口腔内に位置する。センサ室31は、本体20のベース21およびカバー22により覆われている。そのため、センサ室31が口腔内に位置しても、センサ室31に収容されているセンサ部11は口腔内に直接接触することがない。
【0030】
分泌腺から分泌された唾液は、ろ紙12と接触することにより、ろ紙12の毛細管現象によって液体流路32へ吸い上げられる。吸い上げられた唾液は、毛細管現象によりろ紙12を徐々に浸透する。ろ紙12は、センサ室31側の端部がセンサ部11と接している。これにより、ろ紙12を浸透した唾液は、露出側とは反対側の端部と接するセンサ部11へ導入される。本実施例では、センサ部11もろ紙12から形成されているため、ろ紙12を浸透した唾液は、センサ室31側の端部においてセンサ部11へ浸透する。その結果、センサ部11に含まれている指示薬は、唾液に含まれる成分と反応し、変色する。
【0031】
一方、液体流路32へ唾液が吸い上げられることにより、液体流路32およびセンサ室31に存在する空気は気体流路33を通して排出される。このとき、気体流路33にはろ紙13が設置されている。気体流路33にろ紙13を設置することにより、口腔内の形状に合わせて本体20が変形しても、気体流路33は閉塞されない。すなわち、本体20の変形によって気体流路33が閉塞される場合でも、繊維状のろ紙13によって空気の通り道が確保され、気体流路33の完全な閉塞が防止される。
【0032】
また、気体流路33のろ紙13は、センサ部11と接することなく、センサ部11との間に隙間14を形成している。これにより、液体流路32のろ紙12からセンサ室31のセンサ部11へ浸透した唾液は、隙間14により気体流路33のろ紙13への浸透が妨げられる。そのため、センサ部11から気体流路33のろ紙13への指示薬の流出が防止され、センサ部11の変色は鮮明に観察される。
【0033】
本体20を形成するベース21およびカバー22は透明なシリコーン樹脂により形成されている。そのため、センサ部11の変色は唾液成分測定装置10の外部から直接測定される。これにより、唾液成分測定装置10とは別にセンサ部11の変色を測定するための機器は必要としない。
【0034】
次に、上記の構成による唾液成分測定装置10を適用した実験例について説明する。
(実験例1)
実験例1では被験者の唾液のpHを測定した。そのため、センサ部11のろ紙12にはpHによって変色するpH指示薬を含浸させた。pH指示薬は、例えばリトマス、ブロモチモールブルー、メチルオレンジ、あるいは赤キャベツ色素など、pHによって色が変化する周知の物質を適用することができる。また、センサ部11として、市販のpH試験紙を適用してもよい。
【0035】
実験例1では、pH指示薬として中性付近で黄色に発色し、アルカリ性側で緑色に発色する市販のpH指示薬を用いた。測定時、唾液成分測定装置10は、液体流路32側を被験者の口腔内に挿入し、液体流路32のろ紙12の先端を舌下部に密着させた。30秒から60秒の間、唾液成分測定装置10を舌下部に密着させた後、唾液成分測定装置10を口腔外へ取り出した。センサ部11の色を観察したところ、センサ部11は黄色から黄緑色に変化した。これにより、被験者の唾液のpHは弱アルカリ性であると測定された。
実験例1では、唾液成分測定装置10の中間部を噛むことにより口腔内に固定した。唾液成分測定装置10を噛む力を変化させても、センサ部11の色の変化に差は生じなかった。
【0036】
(実験例2)
実験例2では、実験例1と同様に被験者の唾液のpHを測定する。実験例2では、センサ部11のろ紙12に赤キャベツ色素を含浸させた。赤キャベツ色素は食品由来のpH指示薬であるため、唾液成分測定装置10の安全性はさらに向上する。実験例2では、実験例1と同様に唾液成分測定装置10の液体流路32側を被験者の口腔内に挿入し、30秒から60秒の間、液体流路32のろ紙12の先端を舌下部に密着させた。唾液成分測定装置10を口腔外へ取り出し、センサ部11の色を観察したところ、センサ部11の色は、紫色から青緑色に変化した。これにより、被験者の唾液のpHは弱アルカリ性であると測定された。
【0037】
(実験例3)
実験例1と同様の唾液成分測定装置10を用いて、被験者の行動ごとに唾液のpHを測定した。唾液のpHの測定方法は、実験例1と同様である。図3(A)に示すように、被験者の行動パターンを挙げた。このとき、被験者は、行動パターンごとに心理的負担の増加すなわちストレスの増大を感じたり、心理的負担の減少すなわちストレスの軽減を感じたりしている。したがって、行動パターンごとに唾液のpHを測定することにより、被験者の心理的負担と唾液のpHとの相関を示すことができる。図3(B)には、被験者の行動パターンごとに測定した唾液のpHを示した。図3(B)によると、被験者の心理的負担が増大すると、唾液のpHは大きくなることが分かる。一方、被験者の心理的負担が軽減すると、唾液のpHは小さくなることが分かる。
このように、実験例3では、被験者の行動パターンと唾液のpHとの相関を調査することができた。
【0038】
(実験例4)
実験例4では、唾液成分測定装置10を用いて被験者の唾液中の糖量を測定した。そのため、センサ部11には市販のブドウ糖半定量試験紙(ハイテスパーG栄研)を適用した。センサ部11以外の構成は、実験例1と同様である。10質量%のグルコース溶液を調製し、調製したグルコース溶液を被験者の口腔内に含ませた。被験者は、グルコース溶液を約30秒間口腔内に含んだ後、グルコース溶液を吐き出した。そして、被験者は、グルコース溶液を吐き出してから、5分後、10分後、15分後、20分後に唾液成分測定装置10を口腔内に含み、3分間安静を保った。このとき、唾液成分測定装置10は、液体流路32のろ紙12の先端を被験者の舌下部に密着させた。被験者がグルコースを吐き出してから15分後まで、センサ部11は糖の含有について陽性を示したものの、20分後には陰性を示した。
【0039】
次に、上記と同様にグルコースの溶液を吐き出した後、被験者にはキシリトールガムを噛ませた。そして、被験者は、グルコース溶液を吐き出してから、1分後、4分後、8分後に唾液成分測定装置10を口腔内に含み、3分間安静を保った。このとき、唾液成分測定装置10は、液体流路32のろ紙12の先端を被験者の舌下部に密着させた。被験者がグルコース溶液を吐き出してから4分後まで、センサ部11は糖の含有について陽性を示したものの、8分後には陰性を示した。
上記のように、実験例4では、唾液成分測定装置10を用いて唾液に溶解したグルコース量を経時的に測定することができた。また、被験者がガムを噛むことによって唾液の分泌量が増大し、口腔内の糖分の減少が早まることが確認された。
【0040】
以上、説明したように、第1実施例では、唾液成分測定装置10はシリコーン樹脂により形成されている。そのため、口腔内に含まれる唾液成分測定装置10は、柔軟であり、口腔内の形状に合わせて自在に変形する。これにより、唾液成分測定装置10の液体流路32側から露出するろ紙12は、口腔内の所望の位置に正確に密着する。また、本体20をシリコーン樹脂で形成することにより、センサ室31に設置されているセンサ部11は本体20の外部から容易に観察される。そのため、センサ部11を外部に取り出したり、別途の測定のための機器は必要としない。したがって、手軽かつ精密に唾液の糖分あるいは唾液のpHを測定することができる。
【0041】
また、第1実施例では、センサ部11は本体20の内部のセンサ室31に収容されている。そのため、センサ部11の指示薬が口腔内と直接接触することはない。また、センサ部11が本体20の内部に設置される場合でも、唾液は液体流路32に設置されたろ紙12によって速やかにセンサ部11へ浸透する。さらに、このとき、本体20の内部の空気は気体流路33を通して外部へ排出される。気体流路33にはろ紙13が設置されているため、本体20が変形しても、気体流路33が閉塞されることはない。さらにまた、気体流路33のろ紙13はセンサ部11との間に隙間14を形成している。そのため、センサ部11に含浸されている指示薬が唾液とともに気体流路33のろ紙13へ流出することはない。これらの結果、口腔内で分泌される唾液は、速やかにセンサ部11へ浸透する。したがって、安全、迅速かつ精密に唾液の糖分あるいは唾液のpHを測定することができる。
【0042】
(第2実施例)
本発明の第2実施例による唾液成分測定装置を図4に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図4は、本発明の第2実施例による唾液成分測定装置40を示す概略図である。第2実施例では、液体流路32のろ紙12はセンサ室31側の端部がセンサ部11の下方すなわちセンサ部11のカバー22とは反対側に位置している。これにより、ろ紙12とセンサ部11とは、本体20の板厚方向に重ねて配置されている。
【0043】
第2実施例では、ろ紙12とセンサ部11とが重ねて配置されているため、ろ紙12とセンサ部11との接触面積が増大する。そのため、ろ紙12を浸透しセンサ部11へ到達した唾液はセンサ部11へ迅速に浸透する。したがって、迅速かつ精密に唾液の成分を測定することができる。
【0044】
(第3実施例)
本発明の第3実施例による唾液成分測定装置を図5に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図5は、本発明の第3実施例による唾液成分測定装置50を示す概略図である。第3実施例では、本体20は二つのセンサ室31a、31bを形成している。液体流路32は、中間部において二つのセンサ室31a、31bへ向けて分岐している。すなわち、液体流路32は、中間部において第一分岐流路32aと第二分岐流路32bとに分岐している。第一分岐流路32aはセンサ室31aに連通し、第二分岐流路32bはセンサ室31bに連通している。液体流路32の形状に合わせて、ろ紙12は中間部において分岐してセンサ室31aのセンサ部11またはセンサ室31bのセンサ部11と接している。ろ紙12とセンサ室31aのセンサ部11またはセンサ室31bのセンサ部とは、第1実施例または第2実施例で説明した状態で接している。センサ室31a、31bには、第1実施例と同様にそれぞれ気体流路33が連通している。
【0045】
センサ室31aおよびセンサ室31bには、それぞれセンサ部11が設置されている。センサ室31aのセンサ部11とセンサ室31bのセンサ部11とに異なる指示薬を含浸させることにより、唾液に含まれる二つ以上の成分を同時に測定することができる。また、図6に示すように、本体20に二組の液体流路32、センサ室31および気体流路33を設置する構成としてもよい。この場合でも、各センサ室31に設置されるセンサ部11に異なる指示薬を含浸させることにより、唾液に含まれる二つ以上の成分を同時に測定することができる。
【0046】
次に、図5に示す第3実施例による唾液成分測定装置50を適用した実験例について説明する。
(実験例5)
実験例5では被験者の唾液のpHと唾液の糖量を測定した。そのため、センサ室31aのセンサ部11としてpH試験紙を適用し、センサ室31bのセンサ部11として実験例4で用いたブドウ糖半定量試験紙を適用した。
【0047】
被験者には、通常通りに食事を取らせた後、キシリトールガムを10分間噛ませた。キシリトールガムを噛んだ後、被験者は唾液成分測定装置50を口腔内に含み、3分間安静を保った。このとき、唾液成分測定装置50は、液体流路32のろ紙12の先端を被験者の舌下部に密着させた。その結果、センサ室31aのセンサ部11は被験者の唾液のpHが7.5であることを示し、センサ室31bのセンサ部11は被験者の唾液の糖の含有について陰性を示した。これにより、食後に10分間ほどガムを噛むと、口腔内の健康が保たれることが分かった。
【0048】
第3実施例では、唾液成分測定装置50の大型化を招くことなく、唾液に含まれる二種類の成分が同時に測定される。したがって、安全、迅速かつ精密に唾液の成分および人の健康状態を測定することができる。
なお、第3実施例では、本体20に二つのセンサ部11を設置する例について説明した。しかし、センサ部11は二つに限らず、三つ以上設置してもよい。
【0049】
(第4、第5実施例)
本発明の第4、第5実施例による唾液成分測定装置をそれぞれ図7または図8に示す。なお、第1実施例と実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
図7は、本発明の第4実施例による唾液成分測定装置60を示す概略図である。第4実施例では、本体20は、外形が略円筒状に形成されている。ベース21はカバー22とは反対側の端面21aが円弧面状に形成され、カバー22はベース21とは反対側の端面22aが円弧面状に形成されている。これにより、ベース21とカバー22とから本体20を一体に構成したとき、本体20は略円筒状に形成される。
【0050】
図8は、本発明の第5実施例による唾液成分測定装置70を示す概略図である。第5実施例では、本体20は、第4実施例と同様に略円筒状に形成されている。これとともに、第5実施例では、本体20は、端部20a側ほど板厚が薄くなるテーパ状に形成されている。ベース21は端部20a側にテーパ面71を有し、カバー22は端部20a側にテーパ面72を有している。これにより、ベース21とカバー22とから本体20を一体に構成したとき、本体20は端部20a側ほど板厚が小さくなるテーパ状に形成される。
【0051】
第4実施例および第5実施例では、本体20は板状に限らず形状を任意に変更することができる。第4実施例のように本体20を略円筒状に形成したり、第5実施例のように本体20をテーパ状に形成することにより、唾液成分測定装置60、70は口腔内へ容易に挿入されるとともに、口腔内の損傷が低減される。
なお、第4実施例および第5実施例で例示した形状に限らず、本体20は任意の形状に変更してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施例による唾液成分測定装置を示す概略図であって、(A)は平面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図である。
【図2】本発明の第1実施例による唾液成分測定装置を示す分解斜視図である。
【図3】(A)は実験例3における事象ごとの行動内容および心理的負担感を示し、(B)は実験例3における事象ごとの唾液のpHを示す概略図である。
【図4】本発明の第2実施例による唾液成分測定装置を示す概略図であって、(A)は平面図であり、(B)は(A)のB−B線における断面図である。
【図5】本発明の第3実施例による唾液成分測定装置の平面視を示す概略図である。
【図6】本発明の第3実施例による唾液成分測定装置の変形例の平面視を示す概略図である。
【図7】本発明の第4実施例による唾液成分測定装置を示す概略図である。
【図8】本発明の第5実施例による唾液成分測定装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0053】
10、40、50、60、70 唾液成分測定装置、11 センサ部、12 ろ紙(繊維状片)、13 ろ紙(スペーサ)、14 隙間、20 本体、30 流路、31、31a、31b センサ室(流路)、32 液体流路(流路)、33 気体流路(流路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を軸方向に貫く流路、および前記流路の軸方向の中間部に設置され前記流路を液体流路と気体流路とに分割するセンサ室を有し、柔軟な樹脂から形成される本体と、
前記センサ室に設置され、唾液に含まれる成分に反応して変色する指示薬を含むセンサ部と、
前記液体流路に設置され、毛細管現象を生じさせる微細流路を形成する繊維状の材料から形成され、一方の端部の少なくとも一部が前記本体の外部へ露出するとともに他方の端部が前記センサ室に設置されている前記センサ部と接している繊維状片と、
を備えることを特徴とする唾液成分測定装置。
【請求項2】
前記繊維状片は、前記センサ部側の端部が前記センサ部と重ねて設置されていることを特徴とする請求項1記載の唾液成分測定装置。
【請求項3】
前記センサ部は、毛細管現象を生じさせる微細流路を形成する繊維状の材料から形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の唾液成分測定装置。
【請求項4】
前記気体流路に設置され、前記本体の変形にともなう前記気体流路の閉塞を防止するスペーサをさらに備えることを特徴とする請求項1、2または3記載の唾液成分測定装置。
【請求項5】
前記スペーサは、前記センサ室側の端部が前記センサ部と所定の隙間を形成していることを特徴とする請求項4記載の唾液成分測定装置。
【請求項6】
前記本体は前記センサ室を二つ以上有し、前記センサ室のそれぞれに前記液体流路および前記気体流路が連通していることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の唾液成分測定装置。
【請求項7】
前記本体は、少なくとも前記センサ室の近傍が透明であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の唾液成分測定装置。
【請求項8】
前記本体は、シリコーン樹脂からなることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の唾液成分測定装置。
【請求項9】
前記センサ部に含まれる指示薬は、pH指示薬であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の唾液成分測定装置。
【請求項10】
前記センサ部に含まれるpH指示薬は、赤キャベツ色素であることを特徴とする請求項9記載の唾液成分測定装置。
【請求項11】
前記センサ部に含まれる指示薬は、糖指示薬であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の唾液成分測定装置。
【請求項12】
柔軟な樹脂から形成される本体の一方の端部を口腔内の所定の位置に局所的に接触させる段階と、
前記口腔内の所定の位置から分泌される唾液を、前記本体から露出する繊維状片を介して前記本体の内部に封入されているセンサ部に導入する段階と、
前記センサ部に導入された唾液による前記センサ部の変色を、前記本体の外部から観察する段階と、
を含むことを特徴とする唾液成分測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−184142(P2006−184142A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−378639(P2004−378639)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】