説明

噴射速度計測装置

【課題】不確定な方向へ噴射される噴射体の流速や流量を正確に計測することができなかった。
【解決手段】空洞共振器11により、噴射体としての油滴OMが噴射される噴射源を中心として球面状にマイクロ波の進行波が均一に放射させられる。ドップラー効果によって、空洞共振器11から放出されたマイクロ波が油滴OMにて周波数変調される。このドップラー波の周波数をマイコン16が検知し、当該周波数に基づいて油滴OMの噴射速度を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、噴射速度計測装置に関し、特に、微量給油分野および粉粒体等の搬送分野において利用して好適な噴射速度計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、切削加工のセミドライ化や軸受け潤滑の適正化が提唱されている。これらの用途においては潤滑油の供給流量は数mL/hと極微少であり、連続飽和流れによる供給が困難である事から霧化や間欠滴下による多相送り方式が用いられている。MQL(Minimum Quantity Lubrication)の観点から、このような不飽和流れにおける潤滑油の流量を正確に把握する要請がある。
かかる要請に対して、給油管路に光を照射して潤滑油の像の動きを光センサで捉えることにより、給油管路内のミスト状の潤滑油の流量を求める流量計が提案されている(特許文献1、参照。)。
【特許文献1】国際公開WO2006/100814A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
深孔加工等のドリル加工においてもセミドライ化が進行しており、その際の潤滑油の供給流量を正確に把握する必要性が高まっている。また、ドリルの中央の管路にて潤滑油を先端方向へ送ってドリルの先端付近の給油孔から空気とともに微量の潤滑油を給油する、いわゆるセンタースルー方式のドリルにおいては、実際の加工時と同様に回転中の給油量を把握するのが望ましい。ところが、ドリルを回転させると、空気中に潤滑油がドリルの先端方向および径方向に噴射されることとなり、潤滑油の流量を測定することができない。すなわち、噴射される潤滑油の軌道はドリルの回転速度や潤滑油を送り込む圧力に依存し不確定であるため、上述した文献のように給油管路内の一定の位置に光を放射して潤滑油の像を捉えることができないという問題があった。
【0004】
本発明は、このような課題にかんがみてなされたもので、噴射方向が未知の噴射体の流速や流量を正確に計測可能な噴射速度計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
こうした目的を達成するため、本発明では、内部の共振空洞においてマイクロ波を送受信するための励振アンテナと受信アンテナを備える空洞共振器と、上記共振空洞を貫通しつつ上記共振空洞の外側で開口する貫通管路と、上記貫通管路の一端側の外周面に沿った同心筒状に形成され、上記共振空洞の内部と外部とを連通させる筒状空洞と、上記受信アンテナの受信状態に基づき上記貫通管路の開口から噴射された噴射体の速度を特定する計測手段とを具備する構成としてある。
【0006】
本発明の一態様によれば、上記貫通管路は金属で形成される構成とされる。金属製の上記貫通管路によれば上記貫通管路の内側に挿入された先端工具等から上記空洞共振器を保護することができる。
【0007】
また、本発明の一態様によれば、上記励振アンテナまたは上記受信アンテナは上記共振空洞におけるループアンテナとされる構成とされる。ループアンテナは磁界駆動型に適しているが、むろんロッドアンテナ等を採用して電界駆動型の空洞共振を実現するようにしてもよい。
【0008】
さらに、本発明の別の一態様によれば、上記励振アンテナと上記受信アンテナは共通した兼用アンテナとされる構成とされる。兼用アンテナとすることにより、送信系と受信系を独立して形成する必要がなくたるため、装置構成を簡素化することができる。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、上記共振空洞は上記貫通管路の軸方向に直交する断面が略矩形状の略円環状に形成される構成とされる。略円環状の上記共振空洞によれば無終端の共振構造を実現することができる。ただし、上記共振空洞が閉じた形状であればよく、円環状に限られるものではない。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、上記共振空洞は略円環状部分を径方向外側に突出させた略矩形空洞を有し、当該略矩形空洞において上記兼用アンテナが配置される構成とされる。すなわち、略円環状部分にてマイクロ波を2方向に分岐させ、分岐したマイクロ波を共振させるようにすることも可能である。
【0011】
さらに、本発明の別の一態様によれば、上記共振空洞は、上記兼用アンテナと上記貫通管路が備えられた位置を結ぶ線に関して対称形状とされる構成とされる。対象形状とすることにより、上記貫通管路の周囲に対称な形状の共振定在波を生成することができ、均一な半球面波を上記筒状空洞の端部から放出させることができる。
【0012】
さらに、本発明の別の一態様によれば、上記筒状空洞が誘電体によって充填される構成とされる。すなわち、上記筒状空洞をマイクロ波が貫通することができればよく、上記筒状空洞を誘電体によって充填することも可能である。
【0013】
また、本発明の別の一態様によれば、上記筒状空洞における上記貫通管路の開口部分から開口方向に向かって広がる錘状のホーンが設けられる構成とされる。ある程度、噴射体の噴射方向が特定されている場合には、ホーンによって指向性のある球面波を放出するようにしてもよい。
【0014】
さらに、本発明の一態様によれば、上記共振空洞においてマイクロ波がTE01モードで励振される構成とされる。TE01モードによれば、磁界成分の分布をもつ平面共振波を上記共振空洞に形成することができ、これと直交する方向に電界を形成することができる。
【0015】
さらに、本発明の一態様によれば、上記計測手段は、上記マイクロ波が上記噴射体にて反射され、上記受信アンテナにて受信されたドップラー波の周波数を解析することにより、上記噴射体の速度を特定する構成とされる。すなわち、上記噴射体の速度は上記マイクロ波の速度よりはるかに小さいため、上記噴射体での反射におけるドップラー効果による周波数変調が生じることとなり、この周波数を解析することによって上記噴射体の速度を特定することができる。
【0016】
さらに、本発明の一態様によれば、上記計測手段は、上記噴射体の速度とともに、上記ドップラー波に基づいて上記噴射体の体積も特定し、これらに基づいて上記噴射体の流量を特定する構成とされる。上記噴射体での反射において当該噴射体の体積が上記ドップラー波に影響を与えることが知られている。例えば、上記噴射体の体積に応じて電力吸収量が変動することが知られており、上記ドップラー波の振幅に基づいて体積を推定することができる。
【0017】
また、本発明の別の一態様によれば、噴射体が噴射される噴射源を中心とした球面状にマイクロ波の進行波を均一に放射させる放射器と、放射器から放出されたマイクロ波が上記噴射体にて変調された変調波に基づき当該噴射体の噴射速度を特定する計測手段とを具備する構成とされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、不確定な方向へ噴射される噴射体であっても正確に流速や流量を計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下の順序にしたがって本発明の一実施形態を説明する。
(1)噴射量計測装置について:
(1−1)空洞共振器について:
(1−2)計測処理について:
【0020】
(1)流量計測装置について
図1は、本発明の一実施形態にかかる噴射速度計測装置としての噴射量計測装置の全体構成をブロック図により示している。同図において、噴射量計測装置10は、概略、空洞共振器(放射器)11と励振装置12とアンテナ13とバンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)14とA/D変換器15とマイコン16とディスプレイ17と方向性結合器18と検波器(DET)19とから構成されている。空洞共振器11にはドリルDRを差し込むことが可能となっており、当該ドリルDRの先端付近から噴射される潤滑油の油滴OMの噴射量を計測の対象としている。噴射量の計測値は、計測手段としてのマイコン16によって算出され、ディスプレイ17にて表示される。
【0021】
アンテナ13に接続された例えば市販のMDU(Microwave Doppler Unit)等の励振装置12は、所定の高周波を方向性結合器18を介してアンテナ13に入力することによってマイクロ波を発振させる。一方、アンテナ13に方向性結合器18を介して接続されたDET19とA/D変換器15とマイコン16は、アンテナ13を受信アンテナとして受信波を検波・取得する。マイコン16は、図示しないCPUやRAMやROMを具備しており、ROMに記憶された計測プログラムをRAM上に展開してCPUが実行することにより、後述する計測処理が行われる。はじめに空洞共振器11について説明する。
【0022】
(1−1)空洞共振器について
図2は、空洞共振器11の正面と上面と側面から見て示しており、内部構造を破線によって示している。空洞共振器11は、矩形状の外観を有しており、導体たる金属素材によって形成されている。空洞共振器11の内部には、略円環状の共振空洞11aが形成されている。共振空洞11aは断面矩形状の無終端空間であり、その断面形状は全体にわたって一定とされている。共振空洞11aの上部にはアンテナ13としてマイクロ波帯域に対応した1ターンループ状のループアンテナが共振空洞11aの円周方向に直交するように配置されている。一方、共振空洞11aの下部には円筒状の貫通管路11bが備えられている。
【0023】
図3a〜3cは、空洞共振器11の分解断面を示している。同図において、空洞共振器11の中央鉛直切断面を示しており、共振空洞11aの上部と下部の断面が当該切断面に臨んでいる。共振空洞11aの上部の断面は矩形状となっているが、下部の断面は空洞共振器11の下部を前後(厚み方向)に貫通する略円柱状の貫通穴11bと一体化している。貫通穴11bは、前方部分が共振空洞11aの断面の高さと同じ径の広径部11b1によって構成されており、後方部分が広径部11b1と同心であり広径部11b1よりも径の小さい細径部11b2によって構成されている。外周径が細径部11b2の径と同等とされた円筒状の貫通管路11cが金属素材によって形成されており、貫通管路11cの長さは空洞共振器11の厚みと同等とされている。
【0024】
貫通管路11cを細径部11b2に差し込むことにより、細径部11b2と貫通管路11cの外周とが隙間なく密着することとなる。これによって、図3bに示すように共振空洞11aの下部は、後方側が密閉されることとなるとともに、貫通管路11cの内側とは独立した空間となる。一方、共振空洞11aの下部の前方側については、広径部11b1よりも径の小さい貫通管路11cが貫通しているに過ぎず、貫通管路11cの前方側の外周には貫通管路11cと同心筒状の筒状空洞11dが形成されることとなる。さらに、図3cに示すように、この筒状空洞11dが筒状樹脂11eによって充填される。筒状樹脂11eは誘電体で形成されている。筒状樹脂11eは略円筒状に形成され、後方側の端部が共振空洞11aの後方側の反射壁面まで到達している。図2に示すように、共振空洞11aにおいてアンテナ13と貫通管路11cは互いに180度反転した位置に配置されており、両者を結ぶ線に関して共振空洞11aが対称形状となっている。
【0025】
本実施形態で使用するマイクロ波の周波数はISM(Industry Science Medical band)においてドップラー用に許可されている24.15GHzを利用する。このマイクロ波は、無終端の導波管たる共振空洞11aにて共振させられる。本実施形態においては、ループ状のアンテナ13は円環状の共振空洞11aの周方向に直交するように配置され、TE(Transverse Electric)01モードでマイクロ波が励振される。なお、貫通管路11cの周囲には誘電体の筒状樹脂11eによる隙間が確保されるため、共振空洞11aが貫通管路11cによって反射されることなく共振させることができる。
【0026】
アンテナ13と貫通管路11cを結ぶ線に関して共振空洞11aが対称な形状となっているため、マイクロ波の波長と共振空洞11aの長さを調整することによって貫通管路11cの外周に同貫通管路11cと同心状の磁場を形成することができる。共振空洞11aは基本的に密閉されているが、貫通管路11cの外周に沿った筒状樹脂11eで充填された筒状空洞11dについてはマイクロ波に対する連通構造となっているため、マイクロ波が進行することができる。
【0027】
図4は、共振空洞11aにおける磁界の様子を正面から見て示している。同図に示すように、共振空洞11aの円周方向に磁界変動を生じさせることにより、共振空洞11aにおいて複数の円形状の共振磁場が形成される。貫通管路11cの周囲においても同様に共振定在波が形成され、同様の円形状の磁界が形成される。図5は、筒状空洞11dの先端部分の電界(等電界線)の様子を側方から見て示している。同図において、共振空洞11aにて貫通管路11cに直交するTE波から貫通管路11cに沿った方向の電界が形成されており、筒状樹脂11eを沿った進行波が筒状樹脂11eおよび貫通管路11cの先端から空中に放出され、筒状空洞11dの先端部分を中心とした半球面状の電界が形成される。放出されたマイクロ波の進行方向は等電界線に対して直交する方向である。本発明において、筒状空洞11dの先端部分を中心とした半球面状の電界が形成することができればよく、空洞共振器11の構成を他のものに変更することも可能である。
【0028】
図6は、空洞共振器の変形例を示している。同図において、空洞共振器112は円環状の共振空洞111aを有しており、貫通管路111cと180度反対側にロッドアンテナ113が備えられている。このようにすることにより、共振空洞111aの円周方向の電界分布よる共振が得られ、貫通管路111cの周囲に同心円環状の電界を形成することができる。この場合も、筒状空洞111dを介して円環状の進行波を放出することができ、最終的に図5と同様に半球面状の電界を形成することができる。
【0029】
図7は、空洞共振器の別の変形例を示している。同図において、空洞共振器211は円環状部分として共振空洞211aを有しており、貫通管路211cと180度反対側において径方向外側に突出した矩形空洞211a1が設けられている。矩形空洞211a1と共振空洞211aは一体となった共振空洞を形成し、矩形空洞211a1の終端部が反射端を構成する。ロッドアンテナ213は、矩形空洞211a1の内部に備えられ、ロッドアンテナ213から生成されたマイクロ波が矩形空洞211a1にて分岐し、分岐したマイクロ波を共振させることができる。この場合も、貫通管路211cとロッドアンテナ213とを結ぶ線に関して矩形空洞211a1と共振空洞211aとからなる共振空洞は対称となるため、貫通管路211cの周囲に同心円環状の電界を形成することができる。従って、筒状空洞211dを介して円環状の進行波を放出することができ、最終的に図5と同様に半球面状の電界を形成することができる。
【0030】
図8は、空洞共振器の別の変形例を示している。同図において、空洞共振器311は上述した空洞共振器311とほぼ同様の構成とされているが、貫通管路311cの開口部分から開口方向に広がる円錐状のホーンHRが形成されている。このようなホーンHRを設けることにより、貫通管路311cの周囲から放射されるマイクロ波の指向性を調整することができる。例えば、噴射方向がある程度限られている場合には、ホーンHRによって球面波の形成角度を制限することも可能である。
【0031】
なお、筒状空洞の外周において均一な定在波を形成することができればよく、必ずしも共振空洞を円環状にする必要はない。例えば、矩形状や多角形状の無終端共振空洞を採用することもできる。また、共振空洞は必ずしも無終端である必要はなく、反射端を有する直線状の共振空洞にて送信波と反射波とが共振して定在波が形成されるようにしてもよい。なお、空洞共振器は、メンテナンスや設置が容易となるように分割可能に形成されるのが望ましい。
【0032】
図9は、空洞共振器の別の変形例を示している。同図において、貫通管路411cと同心の略円筒状に形成され、軸方向を当該貫通管路411cと一致させた空洞共振器411が設けられている。空洞共振器411は略円筒状の共振空洞411aを有しており、当該共振空洞411aにループ状の励振アンテナ413aと受信アンテナ413bとが備えられている。貫通管路411cの一端側の周囲には略円筒状の筒状空洞411dが形成されており、筒状空洞411dによって外部と共振空洞411aとが連通している。筒状空洞411dには略円筒状の筒状樹脂411eが充填されている。また、筒状樹脂411eと同様に誘電体で形成された管路支持部材411fが共振空洞411aにおいて貫通管路411cの外周を覆うように備えられている。
【0033】
図10は、励振アンテナ413aと受信アンテナ413bに接続された回路を示している。同図において、励振アンテナ413aには励振装置412が接続されており、受信アンテナ413bにはDET419とBPF414とA/D変換器415とマイコン416とディスプレイ417が接続されている。本変形例では励振アンテナ413aと受信アンテナ413bとが独立しており、これらに対してマイクロ波の供給系と解析系も独立して備えさせている。基本的に図1に示した構成と等価であり、後述する計測処理を同様に行うことができる。
【0034】
励振アンテナ413aにてマイクロ波を励振させることにより、貫通管路411cの一対の対向平面を反射面とした定在波が貫通管路411cに沿った方向に形成される。この定在波は、筒状空洞411dから一部漏出し、筒状空洞411dの端部において球面状の進行波として放出される。すなわち、本変形例のような直管型の空洞共振器411においても他の空洞共振器11,111,211,311と同様に球面状の進行波を放出することができる。むろん、図11に示すように貫通管路411cにホーンHRを備えることも可能である。
【0035】
(1−2)計測処理について
図12は、ドリルDRの先端付近から噴射される油滴OMの流量を計測する様子を示している。同図において、貫通管路11cの一端の開口に先端が位置するように差し込まれたドリルDRが差し込まれている。ドリルDRの内部を貫通するように形成された給油口を介して、加圧された潤滑油がドリルDRの先端に向けて送り出されている。ドリルDRの先端の逃げ面には給油孔が形成されており、当該給油孔から油滴OMが前方の空気中に噴射されている。油滴OMは大気中における空間斑を構成し、その流れは不飽和流れとなる。
【0036】
油滴OMの噴射量はドリルDRの使用時と同じ条件で計測する必要があり、ドリルDRが軸方向周りに回転させた状態で計測が行われる。従って、ドリルDRの回転によって遠心方向の初速も与えられることとなるため、油滴OMは斜め前方に放射状に噴射されることとなる。この噴射角度はドリルDRの回転量や潤滑油の送り圧力に依存し、これらの条件に応じて油滴OMの軌道は一定せず、不均一となる。ドリルDRは貫通管路11cと同心となるように差し込まれているが、不意に傾いてしまうことがある。しかしながら、貫通管路11cの金属製の壁面が介在するため、空洞共振器11をドリルDRの回転から保護することができる。なお、本実施形態ではドリルDRから噴射される油滴OMを計測対象としたが他の噴射体を計測対象とすることも可能である。すなわち、貫通管路11cの端部にて噴射体を噴射させることができればよく、例えばスプレーのノズルを貫通管路11cに挿入してスプレー噴射体の計測を行うことも可能である。
【0037】
以上のように油滴OMを噴射させた状態で、図5に示すように半球面状に進行するマイクロ波を出力する。貫通管路11cの金属製の壁面が介在するため、貫通管路11cの内側にドリルDRが差し込まれて回転していても、放出されるマイクロ波に影響はないと考えることができる。マイクロ波の進行する速度は油滴OMの噴射速度よりもはるかに大きいため、マイクロ波が油滴OMに到達し、反射波が生成されることとなる。この反射波は、アンテナ13に再帰し、アンテナ13にて受信されることとなる。すなわち、本実施形態におけるアンテナ13は、共振空洞11aにてマイクロ波を励振させるための励振アンテナの機能と、再帰した反射波を受信するための受信アンテナの機能を兼ね備える送受信兼用アンテナを構成する。兼用アンテナを採用することにより、独立した受信系を設ける必要がなく、装置構成を簡素化することができる。
【0038】
アンテナ13においては、送信波と受信波との混合波が受信される。この混合波は下記式(1)によって表すことができる。
【数1】

なお、上記式(1)において、Aは送信波の振幅を示し、Bは反射波の振幅を示し、f1は送信波の周波数を示し、f2は反射波の周波数を示している。上記式(1)の左辺に示すように混合波は送信波と反射波を乗算したものであり、右辺のように展開することができる。右辺の第一項では送信波と反射波の周波数の差(f1−f2)を意味するビート周波数δfが表れ、右辺の第二項では送信波と反射波の周波数の和(f1+f2)が表れる。すなわち、混合波には低周波成分と高周波成分が含まれるということができる。
【0039】
ここで、油滴OMにおける反射波はドップラー効果によって変調された変調波(ドップラー波)であると考えることができる。従って、マイクロ波の速度をC(光速)とし、油滴OMの速度をUとして、マイクロ波と油滴OMの進行方向がなす角をθとすると、送信波と反射波の周波数f1,f2との間には下記式(2)が成り立つ。
【0040】
【数2】

C>>Uであるため、上記式(2)を下記式(3)とすることができる。
【数3】

上記式(3)によれば、混合波におけるビート周波数δfと油滴OMの速度Uとの関係を得ることができる。従って、アンテナ13にて受信された混合波のうち低周波成分の周波数(ビート周波数)の周波数を解析することにより、OMの速度Uを算出することができる。ところで、油滴OMの進行方向が不確定であるが、マイクロ波との放射源と油滴OMの噴射源を共通の位置(貫通管路11cの開口位置)として放射されるため、アンテナ13にて受信される反射波が得られる際のマイクロ波と油滴OMの進行方向がなす角をθは常に0であると考えることができる。また、空洞共振器11によればマイクロ波は全方向均一に放射されるため、噴射方向にかかわりなく上記式(1)〜(3)を適用することができる。
【0041】
まず、DET19にて検波した混合波のうち低周波成分のみをBPF14によって抽出する。BPF14に抽出する周波数帯域を設定しておく必要があるため、実用的な油滴OMの噴射条件における油滴OMの速度帯を予備調査し、当該速度帯に対応する周波数帯をBPF14に設定しておく。予備調査においては、飛翔する油滴OMを複数の時間にわたって写真撮影し、その際の変位から速度を割り出すことができる。現実的な油滴OMの速度帯をU=5〜40m/secとすると、上記式(3)により対応する周波数帯は800〜6400Hzとなる。この周波数帯は、ギガヘルツ帯で発振するマイクロ波の周波数よりもはるかに小さいため、LPF(Low Pass Filter)としてのBPF14は集中定数系で処理することができる。
【0042】
BPF14にて低周波成分が抽出できると、A/D変換器15にてデジタル信号に変換する。ここでのサンプリング数は、生成されたデジタル信号に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)が可能であり、かつ、油滴OMの速度Uの所望の分解能が実現できるものとする必要がある。上限の周波数は6400Hzであり、速度Uの所望の分解能を0.1m/sec(上記式(3)により周波数に換算すると16Hz。)とする場合には、必要なサンプリング数は最低限800となる。さらに、FFTの高速性を確保するためにサンプリング数は2の累乗とすべきであり、800を超える最小の2の累乗である1024が最適なサンプリング数とされる。なお、A/D変換器15が個別に備えられるものを例示したが、マイコン16が備えるA/DポートにおいてA/D変換を行うようにしてもよい。
【0043】
変換されたデジタル信号はマイコン16に入力され、時間に関するFFTが行われる。FFTにより得られたスペクトルから、上述した分解能でビート周波数δfを得ることができ、さらに当該ビート周波数δfを上記式(3)に代入することにより所望の分解能で油滴OMの速度Uを得ることができる。以上のようにして得られた油滴OMの速度Uをディスプレイ17に表示するなどして出力する。ここまでは、アンテナ13における受信状態に基づき油滴OMの速度Uを計測する処理を説明したが、さらにアンテナ13におけるドップラー波の受信状態に基づき油滴OMの体積を求めることにより、油滴OMの流量を算出することも可能である。
【0044】
空気と油滴OM界面における反射波がアンテナ13にて受信されるが、このときの反射率は油滴OMの物性値(透磁率,誘電率)および体積によって決定づけられることが知られている。潤滑油として使用する油滴OMの物性値は既知の定数であるため、送信波の電界強度(振幅A)と受信波の電界強度(振幅B)との比である振幅反射率を特定することによって、油滴OMの体積を求めることができる。
【0045】
予め振幅反射率と油滴OMの体積との対応関係を調査しておき、当該対応関係を規定したテーブルをマイコン16の図示しないROMに格納し、参照するようにすれば、アンテナ13油滴OMの体積を求めることができる。振幅反射率と油滴OMの体積との対応関係を表す関数を用意しておき、当該関数に振幅反射率を代入することにより体積を得てもよい。全方向均一にマイクロ波が放射されているため、噴射角度にかかわりなく振幅反射率と油滴OMの体積との対応関係は一定であると考えることができる。従って、油滴OMの噴射角度が不明であるものの、油滴OMの体積を全方位に関する体積濃度として特定することができる。油滴OMの体積が特定できると、上述した速度Uと体積の乗算によって単位時間あたりの流量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明にかかる噴射量計測装置のブロック図である。
【図2】空洞共振器の投影図である。
【図3】空洞共振器の分解断面図である。
【図4】空洞共振器における磁界を説明する図である。
【図5】筒状空洞の先端部分の電界を示す図である。
【図6】変形例にかかる空洞共振器の分解断面図である。
【図7】変形例にかかる空洞共振器の分解断面図である。
【図8】変形例にかかる空洞共振器の分解断面図である。
【図9】変形例にかかる空洞共振器の分解断面図である。
【図10】変形例にかかる噴射量計測装置のブロック図である。
【図11】変形例にかかる空洞共振器の分解断面図である。
【図12】流量計測の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
U…速度、δf…ビート周波数、10…噴射量計測装置、11…空洞共振器、11a…共振空洞、11b…貫通管路、11b…貫通穴、11c…貫通管路、11d…筒状空洞、11e…筒状樹脂、11b1…広径部、11b2…細径部、12…励振装置、13…アンテナ、14…BPF、15…A/D変換器、16…マイコン、17…ディスプレイ、18…方向性結合器、19,419…DET、HR…ホーン、DR…ドリル、OM…油滴。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の共振空洞においてマイクロ波を送受信するための励振アンテナと受信アンテナを備える空洞共振器と、
上記共振空洞を貫通しつつ上記共振空洞の外側で開口する貫通管路と、
上記貫通管路の一端側の外周面に沿った同心筒状に形成され、上記共振空洞の内部と外部とを連通させる筒状空洞と、
上記受信アンテナの受信状態に基づき上記貫通管路の開口から噴射された噴射体の速度を特定する計測手段とを具備することを特徴とする噴射速度計測装置。
【請求項2】
上記貫通管路は金属で形成されることを特徴とする請求項1に記載の噴射速度計測装置。
【請求項3】
上記励振アンテナまたは上記受信アンテナは上記共振空洞におけるループアンテナとされることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の噴射速度計測装置。
【請求項4】
上記励振アンテナと上記受信アンテナは共通した兼用アンテナとされることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項5】
上記共振空洞は上記貫通管路の軸方向に直交する断面が略矩形の略円環状に形成されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項6】
上記共振空洞は略円環状部分を径方向外側に突出させた略矩形空洞を有し、当該略矩形空洞において上記兼用アンテナが配置されることを特徴とする請求項5に記載の噴射速度計測装置。
【請求項7】
上記共振空洞は、上記兼用アンテナと上記貫通管路が備えられた位置を結ぶ線に関して対称形状とされることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項8】
上記筒状空洞が誘電体によって充填されることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項9】
上記筒状空洞における上記貫通管路の開口部分から開口方向に向かって広がる錘状のホーンが設けられることを請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項10】
上記共振空洞においてマイクロ波がTE01モードで励振されることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項11】
上記計測手段は、上記筒状空洞から放出されたマイクロ波が上記噴射体にて反射され、上記受信アンテナにて受信されたドップラー波の周波数を解析することにより、上記噴射体の速度を特定することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項12】
上記計測手段は、上記噴射体の速度とともに、上記ドップラー波に基づいて上記噴射体の体積も特定し、これらに基づいて上記噴射体の流量を特定することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の噴射速度計測装置。
【請求項13】
噴射体が噴射される噴射源を中心とした球面状にマイクロ波の進行波を均一に放射させる放射器と、
放射器から放出されたマイクロ波が上記噴射体にて変調された変調波に基づき当該噴射体の噴射速度を特定する計測手段とを具備することを特徴とする噴射速度計測装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−139209(P2008−139209A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327201(P2006−327201)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの)
【出願人】(591113437)オーム電機株式会社 (23)
【Fターム(参考)】