説明

噴霧用液体芳香剤組成物

【課題】低濃度のケイ酸エステルと陽イオン性の抗菌剤とを含有し、外観が透明で香りの持続性に優れた噴霧用液体芳香剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)特定のケイ酸エステル、(b)分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤、(c)分子量104〜300の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその酸塩、(d)特定の非イオン性界面活性剤、(e)エタノール、並びに水を含有し、(b)/(c)質量比が1〜30〔(b)の質量は陽イオン部分の質量、(c)の質量は酸型化合物換算の質量である。〕である、透明な外観を有する噴霧用液体芳香剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴霧用液体芳香剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自分の香りを周りにアピールする為に、身体に適用する香水が用いられてきた。近年、身体に適用する香水のみならず、着用したり使用する衣類から、自分が気に入った香りを香らせ、自らを周囲にアピールする行動が増えてきている。それに伴い、トイレタリーメーカー各社から、衣類に種々の香りを付与し、香りの持続性に優れる柔軟剤組成物が販売されている。また、居住空間にも香りを香らせる置型の芳香剤や、スプレーで噴霧する芳香剤の市場も大きくなってきている。
【0003】
特許文献1及び2には、加水分解により香料アルコールを放出するケイ酸エステルを、繊維製品に付着させることで、衣類からの香りの持続性を向上させる技術が開示されている。
【0004】
特許文献3にはケイ酸エステルと非イオン界面活性剤を含有し、香りの持続性に優れ、繊維製品に噴霧するのに適した、繊維製品処理剤組成物が開示されている。
【0005】
特許文献4には、ケイ酸エステル、特定の非イオン性界面活性剤及びシリコーン化合物を含有する、残香性に優れた繊維製品処理剤組成物が開示されている。
【0006】
特許文献5には、特定の構造を有する非イオン性界面活性剤、第4級アンモニウム塩型抗菌剤及び水溶性多価カルボン酸を含有する、消臭性能に優れた消臭剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−526644号公報
【特許文献2】特開2010−133073号公報
【特許文献3】特開2010−209494号公報
【特許文献4】特開2010−133062号公報
【特許文献5】特開2009−153788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4に記載のケイ酸エステルを含む組成物を、衣類に付着させることで、衣類から香るほのかな香りが長期間持続することが知られている。しかしながら、ケイ酸エステルの含有量が低く、多量の水を含有し、且つ透明な外観を有する噴霧に適した組成物中では、白濁乳化物とは異なり、ケイ酸エステルと水との接触割合が大きく、加水分解しやすくなる為、更なる改善が望まれていた。
【0009】
また、芳香剤、消臭剤などをはじめとして、噴霧用の液体製剤には、抗菌剤として、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド等の陽イオン性の抗菌剤を用いることが多い。しかしながら、ケイ酸エステルを低濃度で含有し、且つ透明な外観を有する組成物に、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド等の陽イオン性の抗菌剤を使用すると、組成物中でのケイ酸エステルの加水分解が促進することが明らかとなった。すなわち、透明な外観とするためにケイ酸エステルを低濃度で配合した水性組成物に、陽イオン性の抗菌剤を使用すると、ケイ酸エステルの安定性に課題が生じることが新たに見出された。
【0010】
特許文献5では、特定の構造を有する非イオン界面活性剤とポリカルボン酸が水和ゲルを形成することで、抗菌剤の効果をより高めることが記載されているが、エステル基を有する化合物の加水分解に関することは記載されていない。
【0011】
本発明の課題は、低濃度のケイ酸エステルと陽イオン性の抗菌剤とを含有し、外観が透明で香りの持続性に優れた噴霧用液体芳香剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(a)成分を0.0005〜0.05質量%、(b)成分を0.05〜0.5質量%、(c)成分、(d)成分を0.05〜0.5質量%、(e)成分を3〜15質量%及び水を含有し、
(b)成分と(c)成分の質量比が(b)成分/(c)成分=1〜30〔ただし、(b)成分の質量は陽イオン部分の質量であり、(c)成分の質量は酸型化合物換算の質量である。〕である、
透明な外観を有する噴霧用液体芳香剤組成物に関する。
(a)成分:下記一般式(a1)で表されるケイ酸エステル
【0013】
【化1】

【0014】
〔式中、Xは−OH、−R1a、−OR2a又は−OR3aであり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1aは炭素数1〜22の炭化水素基、R2aは分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3aは炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは0〜5の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2aを少なくとも1つ有する。〕
(b)成分:分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤
(c)成分:分子量104〜300の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその酸塩
(d)成分:下記一般式(d1)で表される非イオン性界面活性剤
1d−Z−[(EO)s/(PO)t]−R2d (d1)
〔式(d1)中、R1dは、炭素数10〜16の脂肪族炭化水素基、R2dは、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Zは−O−又は−COO−のいずれかであり、EOは、オキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、(EO)と(PO)はランダム付加でもブロック付加でもいずれでもよく、(EO)と(PO)の付加順序は問わない。s及びtは整数であり、sは4〜50の数、tは2以下の数である。〕
(e)成分:エタノール
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、組成物中に分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤が存在していても、ケイ酸エステルの加水分解が抑制され、香り持続性に優れた、外観が透明な噴霧用液体芳香剤組成物が提供される。
【0016】
本発明の効果が発現する作用機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のように考えている。特定の質量比で水中に含有する、分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤〔(b)成分〕と特定の分子量を有する2〜3価のカルボン酸及び/又はその塩〔(c)成分〕が、イオン的な相互作用により、疎水的な複合体を形成する。その複合体中に、ケイ酸エステルが取り込まれることで、水と接触しにくくなり、加水分解が抑制されているものと考えている。前記複合体と相溶性の高い特定の構造を有する非イオン界面活性剤が、協同的に働き、ケイ酸エステルと前記複合体との相溶性を高めることで、ケイ酸エステルの加水分解をより抑制しているものと考えている。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[(a)成分]
本発明の(a)成分は、下記一般式(a1)で表されるケイ酸エステルである。一般式(a1)で表されるケイ酸エステルは、1種又は2種以上が用いられる。
【0018】
【化2】

【0019】
〔式中、Xは−OH、−R1a、−OR2a又は−OR3aであり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1aは炭素数1〜22の炭化水素基、R2aは分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3aは炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは0〜5の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2aを少なくとも1つ有する。〕
【0020】
1aは置換基として炭素数1〜22の炭化水素基を示すが、製造の容易性の観点から、炭素数1〜22の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1〜22の直鎖又は分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基がより好ましく、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が更に好ましい。nが0の場合には、組成物への配合の容易性の観点から、炭素数1〜8の炭化水素基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基又はベンジル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。また、nが1〜5の場合には、組成物への配合の容易性の観点から、メチル基又はベンジル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0021】
2aは、分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基である。本明細書において香料アルコールとは、香料として用いられるアルコールを意味する。具体的な香料アルコールとしては、「香料と調香の基礎知識」(産業図書株式会社、中島基貴編著、2005年4月20日第4刷)に記載される、脂肪族アルコール、テルペン又はセスキテルペンアルコール、脂環式アルコール、芳香族アルコール及び合成サンダル(サンダルウッド様の香りを有する合成された香料アルコール)から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。
【0022】
本発明における香りの強さとは、一般式(a1)の化合物が加水分解することで生成する、香料アルコール(R2aOH)由来の香りの強さを意味する。
【0023】
本発明において、R2aは、分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基である。衣類を保管した後の香りの強さを高める等、持続的な強い香りを発現させる観点から、R2aの由来となる、分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコール(R2aOH)は、炭素数10〜14の香料アルコールが好ましく、より好ましくは炭素数10〜12の香料アルコールである。具体的には、炭素数10〜11の脂肪族アルコール、炭素数10のテルペン系アルコール、炭素数10〜12の脂環式アルコール、炭素数10〜12の芳香族アルコール及び炭素数13〜14の合成サンダルから選ばれる香料アルコールが好ましい。
【0024】
また、ケイ酸エステルの加水分解安定性をより高める点で、炭素数10以上の香料アルコールが好ましい。
【0025】
炭素数10〜11の脂肪族アルコールとしては、9−デセノール、4−メチル−3−デセン−5−オール又は10−ウンデセノールが挙げられる。
【0026】
炭素数10のテルペン系アルコールとしては、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン−3−オール、3,7−ジメチル−トランス−2,6−オクタジエン−1−オール、3,7−ジメチル−シス−2,6−オクタジエン−1−オール、3,7−ジメチル−6−オクテン−1−オール、2−メチル−6−メチレン−7−オクテン−2−オール、2−イソプロペニル−5−メチル−4−ヘキセン−1−オール、3,7−ジメチルオクタノール、3,7−ジメチルオクタン−3−オール、2,6−ジメチル−7−オクテン−2−オール、3,7−ジメチル−4,6−オクタジエン−3−オール、p−メンタン−8−オール、1−p−メンテン−4−オール、p−メンタン−3−オール、1,7,7−トリメチル−ビシクロ[1,2,2−]ヘプタン−2−オール又はp−メンス−8−エン−3−オールが挙げられる。
【0027】
炭素数10〜12の脂環式アルコールとしては、4−イソプロピルシクロヘキサンメタノール、1−(4−イソプロピルシクロヘキシル)エタノール、p−t−ブチルシクロヘキサノール又はo−t−ブチルシクロヘキサノールが挙げられる。
【0028】
炭素数10〜12の芳香族アルコールとしては、1−フェニル−2−メチル−2−プロパノール、2−プロピル−5−メチルフェノール、2−メチル−5−イソプロピルフェノール、2−メトキシ−4−アリールフェノール、2−メトキシ−4−(1−プロペニル)−フェノール、4−フェニル−2−メチル−2−ブタノール、5−プロペニル−2−エトキシフェノール、1−フェニル−3−メチル−3−ペンタノール又は3−メチル−5−フェニル−1−ペンタノールが挙げられる。
【0029】
炭素数13〜14の合成サンダルとしては、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オール、2−メチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ブタン−1−オール、3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−ペンタン−2−オール又は2−エチル−4−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル)−2−ブテン−1−オールが挙げられる。
【0030】
本発明において、持続的な強い香りを発現させる観点から、分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールは、炭素数10のテルペン系アルコール、及び炭素数10〜12の芳香族アルコールから選ばれる香料アルコールが好ましい。更に、炭素数10のテルペン系アルコールが好ましい。
【0031】
3aは、ケイ酸エステルの製造の容易性の観点から、メチル基、エチル基又はベンジル基が好ましい。分子内にR3aが複数存在する場合には、各々のR3aは同一であっても異なっていても良い。
【0032】
一般式(a1)において、nは0〜5の数であり、持続的な強い香りを発現させる観点から、0〜3の数が好ましく、0の数がより好ましい。
【0033】
一般式(a1)において、nが0のケイ酸エステル〔以下、(a11)成分という〕の場合には、持続的な強い香りを発現させる観点から、4個のXのうち2〜4個、好ましくは3又は4個が−OR2aであり、残りが−OR2aである化合物が好適である。
【0034】
nが0の場合の好ましい化合物〔(a11)成分〕としては、下記式(a11−1)又は(a11−2)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【化3】

【0036】
〔式中、R2a及びR3aは前記と同じ意味を示す。〕
【0037】
一般式(a1)において、nが1〜5のケイ酸エステル〔以下、(a12)成分という〕の場合には、持続的な強い香りを発現させる観点から、噴霧用液体芳香剤組成物中に含まれる全ての(a)成分中のX及びYの合計の数に対して、1/5以上、好ましくは1/2以上が−OR2aであり、残りが−OR3aである化合物が好適であり、全てのX及びYが−OR2aである化合物がより好ましい。
【0038】
nが1〜5の場合の好ましい化合物〔(a12)成分〕としては、下記式(a12−1)又は(a12−2)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化4】

【0040】
〔式中、R2a及びR3aは前記と同じ意味を示す。mは1〜5の数を示し、Tは、−OR2a又は−OR3aを示す。〕
【0041】
香りの持続性の観点から、mとしては、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましく、持続的な強い香りを発現させる観点から、mは1が更に好ましい。
【0042】
一般式(a1)で表される化合物は、特許文献2の段落0029〜0041などに記載されている方法で入手することができる。
【0043】
上記一般式(a1)において、nが0のケイ酸エステル〔(a11)成分〕とnが1〜5のケイ酸エステル〔(a12)成分〕を併用して用いることもできる。その場合、噴霧用液体芳香剤組成物中の(a11)成分と(a12)成分の割合は、質量比で(a11)成分/(a12)成分=1〜200が好ましく、2〜110がより好ましく、3〜100が更に好ましい。
【0044】
[(b)成分]
本発明の(b)成分は、分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤である。中でも下記一般式(b1)で表される4級アンモニウム塩を含有することが好ましい。
【0045】
【化5】

【0046】
〔式中、R1b、R2b、R3b、R4bのうち、2個が炭素数8〜10の炭化水素基であり、残りが炭素数1〜3のアルキル基及び炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基から選ばれる基であり、Q-は陰イオン基である。〕
【0047】
(b)成分としては、組成物中において、(c)成分の特定のカルボン酸及び/又はその塩と、より疎水的な複合体を形成しやすく、(a)成分の加水分解を抑制する点で、前記炭素数8〜10の炭化水素基は、アルキル基が好ましく、なかでも炭素数10のアルキル基が好ましい。炭素数10のアルキル基の具体例としては1−デシル基が好ましい。炭素数1〜3のアルキル基の好ましい基としては、製造の容易性の点でメチル基及びエチル基から選ばれる基が好ましい。炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基の好ましい基は、製造の容易性の点で2−ヒドロキシエチル基が好ましい。Q-の陰イオン基として好ましくは、製造の容易性の点で塩素イオン、メチル硫酸イオン及びエチル硫酸イオンから選ばれる基が好ましい。
【0048】
より好ましい化合物としては、N,N−ジ(1−デシル)−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド及びN,N−ジ(1−デシル)−N,N−ジメチルアンモニウムメチルサルフェートから選ばれる化合物が好ましく、もっとも好ましくは、N,N−ジ(1−デシル)−N,N−ジメチルアンモニウムクロリドである。
【0049】
[(c)成分]
本発明の(c)成分は、分子量104〜300の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその塩である。この分子量は、酸型化合物の分子量である。
【0050】
本発明では、(c)成分として前記カルボン酸の塩を配合することもできるが、酸型のカルボン酸を、水を含有する組成物に添加し、そのpHを6.0〜8.5とすることで塩として存在させることが出来る。当業者において、水を含有する組成物中でのpHが、該カルボン酸のpKa付近か、又は高ければ、該カルボン酸は一部、塩として存在することは自明である。
【0051】
より具体的な化合物としては、マロン酸(104)、マロン酸の水素原子の1個又は2個が炭素数1〜3のアルキル基で置換されたマロン酸誘導体(118〜186)、マレイン酸(116)、マレイン酸の水素原子の1個又は2個が炭素数1〜3のアルキル基で置換されたマレイン酸誘導体(130〜200)、コハク酸(118)、コハク酸の水素原子の1個又は2個が炭素数1〜3のアルキル基で置換されたコハク酸誘導体(132〜230)、グルタル酸(132)、グルタル酸の水素原子の1個又は2個が炭素数1〜3のアルキル基で置換されたグルタル酸誘導体(146〜216)、クエン酸(164)、及びこれらの酸の塩が挙げられる。前記アルキル基はメチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基が挙げられる。また、( )内の数値は分子量を表す。
【0052】
本発明の(b)成分と、ケイ酸エステルを安定化しやすい複合体を形成しやすい点で、分子量115〜280の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその塩が好ましく、分子量130〜230の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその塩がより好ましく、分子量140〜220の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその塩がより特に好ましい。
【0053】
具体的には、化合物が容易に入手出来る点で、マロン酸及び/又はその塩、マレイン酸及び/又はその塩、コハク酸及び/又はその塩、グルタル酸及び/又はその塩、クエン酸及び/又はその塩が好ましく、(a)成分の加水分解抑制の点で、グルタル酸及び/又はその塩、クエン酸及び/又はそれらの塩がより好ましく、クエン酸及び/又はその塩が更に好ましい。
【0054】
[(d)成分]
本発明の(d)成分は、下記一般式(d1)で表される非イオン性界面活性剤である。
1d−Z−[(EO)s/(PO)t]−R2d (d1)
〔式(d1)中、R1dは、炭素数10〜16の脂肪族炭化水素基、R2dは、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Zは−O−又は−COO−のいずれかであり、EOは、オキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、(EO)と(PO)はランダム付加でもブロック付加でもいずれでもよく、(EO)と(PO)の付加順序は問わない。s及びtは整数であり、sは4〜50の数、tは2以下の数である。〕
【0055】
1dは、(b)成分と(c)成分が形成する複合体に対する親和性が高い点で、炭素数12〜14の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数12〜14のアルキル基又はアルケニル基が好ましく、炭素数12〜14のアルキル基がより好ましい。脂肪族炭化水素基としては、1級又は2級の炭化水素基が好ましく、1級又は2級のアルキル基又はアルケニル基がより好ましく、1級又は2級のアルキル基がより好ましい。
【0056】
炭素数12のアルキル基としては、1−ドデシル基、2級のドデシル基が好ましく、炭素数13のアルキル基としては、2級のトリデシル基が好ましく、炭素数14のアルキル基としては、1級のテトラデシル基、2級のテトラデシル基が好ましい。
【0057】
sは、(a)成分の加水分解抑制の点で6〜40の数が好ましく、7〜35の数が好ましい。tは、分散性の点で1の数が好ましく、より好ましくは0の数である。
【0058】
〔(e)成分〕
本発明の(e)成分は、エタノールである。エタノールは合成アルコール、発酵アルコール又はバイオエタノール等のいずれを用いても良い。エタノールは、繊維等の対象物に噴霧した後の、水を含有する組成物の乾燥性を高めたり、香料と共に揮発することで、香り立ちを良くする為に用いられる。また、本発明においては、組成物中に含有するエタノールの量により、ケイ酸エステルの加水分解の程度が影響されることが見出された。
【0059】
[噴霧用液体芳香剤組成物及びスプレー式芳香剤物品]
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物中の(a)成分、(b)成分の含有量は、使用形態、繊維製品の種類、香らせる香りの強さの程度などによって適宜調整することができる。
【0060】
(a)成分の組成物中の含有量は、持続性のある香りの賦与の点で、0.0005質量%以上であり、また、経済的な観点から0.05質量%以下である。衣類等に持続性のある適度な強さの香りを賦与する点で、0.0008〜0.045質量%が好ましく、0.001〜0.04質量%がより好ましい。
【0061】
(b)成分の組成物中の含有量は、組成物に抗菌性を賦与する点、又は噴霧した衣類等の対象物に抗菌性を賦与する点で、0.05質量%以上であり、ケイ酸エステルの加水分解を促進しすぎない観点から0.5質量%以下である。ケイ酸エステルの加水分解抑制の観点から0.4質量%以下であり、0.2質量%以下がより好ましい。尚、本明細書において、(b)成分の含有量とは、(b)成分の陽イオンの含有量に換算した値を示す(すなわち対イオンである陰イオン部分の含有量は考慮しない)。
【0062】
また、本発明の組成物は、ケイ酸エステルの加水分解を抑制する点で、(b)成分/(c)成分の質量比が30以下であり、経済的な観点及び組成物のpH調整のし易さの観点から1以上であり、1〜30の範囲である。ケイ酸エステルの加水分解抑制の点から、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、14以下が特に好ましく、10以下が最も好ましい。経済的な観点及び組成物のpH調整のし易さの観点から1.5以上が好ましい。(c)成分はこの質量比を満たす含有量で組成物中に配合される。尚、(b)成分は陽イオンの質量に換算した値であり、(c)成分は酸型に換算した値を用いる。
【0063】
(d)成分の含有量は、(a)成分の加水分解抑制の観点から、組成物中、0.05〜0.5質量%であるが、(a)成分の加水分解をより抑制する観点から、(d)成分/(a)成分の質量比が1以上が好ましく、2以上がより好ましく、2.5以上がより好ましく、2.5以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、5以上がより更に好ましい。また、経済的な観点から、(d)成分の含有量は、組成物中、0.5質量%以下であり、0.4質量%以下が好ましい。
【0064】
(e)成分の含有量は、香り立ちの点から、組成物中、3質量%以上であり、4質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、6質量%以上がより更に好ましい。ケイ酸エステルの加水分解安定性の点で、組成物中、15質量%以下であり、12質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、7質量%以下が更に好ましい。
【0065】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物は、(a)成分の加水分解を更に抑制する点で、(f)成分として、HLBが3〜12であるポリオキシアルキレン変性シリコーンを含有することが好ましい。
【0066】
本発明の(f)成分は、(d)成分と協同的に働き、(b)成分である分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤と(c)成分である特定の多価カルボン酸及び/又はその塩との複合体中への、ケイ酸エステルの相溶性を更に高めることで、該ケイ酸エステルの加水分解を抑制しているものと考えている。(f)成分と(d)成分の質量比は、(a)成分の保存安定性の観点で、(f)成分/(d)成分=0.3〜3、更に0.5〜2.5が好ましい。
【0067】
ケイ酸エステルの加水分解抑制の点で、ポリオキシアルキレン変性シリコーンのHLBは、4〜10が好ましく、5〜7がより好ましい。
【0068】
ポリオキシアルキレン変性シリコーンのHLBの値は、次のようにして測定された曇数Aから、下記式で求められる値である。
HLB=曇数A×0.89+1.11
<曇数の測定法>
曇数Aは公知の方法〔界面活性剤便覧、324頁〜325頁(産業図書(株) 昭和35年7月5日発行)〕に準じて、以下のようにして測定される。
無水のポリオキシアルキレン変性シリコーン2.5gを秤量し、98%エタノールを加え25mlに定容(25mlメスフラスコ使用)する。次に、これを5mlホールピペットで分取し、50mlビーカーに入れ25℃の低温に保ち攪拌(マグネティックスターラー使用)しながら、2%フェノール水溶液で25mlビューレットを使用して測定する。液が混濁したところを終点とし、この滴定に要した2%フェノール水溶液のml数を曇数Aとする。
【0069】
(f)成分としては、下記一般式(f1)の化合物(以下(f1)成分という)、一般式(f2)の化合物(以下(f2)成分という)を用いることができる。
【0070】
〔(f1)成分〕
【0071】
【化6】

【0072】
〔式中、R11fは水素原子又は炭素数1〜3の1価の炭化水素基であり、製造の容易性の点で水素原子又はメチル基が好ましい。R12fは炭素数1〜20の2価の炭化水素基であり、R12fは、製造の容易性の点で炭素数2〜6の2価炭化水素基が好ましい。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。cは1以上の数であり、ケイ酸エステルの加水分解安定性の点で3〜40の数が好ましく、5〜20の数が好ましい。dは0以上の数であり、当該化合物のHLBを調節する為に、dの数は適宜選択できる。mは1以上の数であり、当該化合物の取り扱い性(粘度の観点)の点から、好ましくは500以下の数である。nは1以上の数であり、当該化合物の取り扱い性(粘度の観点)の点から、好ましくは100以下の数である。尚、複数個のR11f、R12f、c、d、m、nはそれぞれ同一でも異なっていても良い。これらの値は、当該化合物のHLBが3〜12、好ましくは4〜10、より好ましくは5〜7になるように選ばれる。〕
【0073】
具体的な(f1)成分としては、東レ・ダウコーニング(株)製の、FZ−2208〔HLB=7、粘度:20000mm2/s(25℃)〕、信越化学工業株式会社製の、KF−6004〔HLB=5、融点45℃〕を挙げることができる。
【0074】
〔(f2)成分〕
【0075】
【化7】

【0076】
〔式中、R21f、R22f、R23fは、同一又は異なっていても良く炭素数1〜3のアルキル基、水素原子、ヒドロキシ基から選ばれ、製造の容易性の点から、特にメチル基が好ましい。o、pは重合度であり、同一又は異なっていてもよい1以上の数である。これの値は当該化合物のHLBが3〜12、好ましくは4〜10、より好ましくは5〜7になるように選ばれる。当該化合物の取り扱い性(粘度の観点)の点から、oは10000以下、好ましくは1000以下の数である。pは当該化合物の取り扱い性(粘度の観点)の点から、1000以下、好ましくは100の数である。R24fは、炭素数1〜3の2価のアルキレン基であり、R25fは、−(EO)e−(PO)f−X(X:炭素数1〜3のアルキル基、あるいは水素原子)であり、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基である。e及びfの合計は1以上であり、これらの値は、当該化合物のHLBが3〜12、好ましくは4〜10、より好ましくは5〜7になるように選ばれる。当該化合物の取り扱い性(粘度の観点)の点から、e又はfは、それぞれ100以下の数が好ましく、50の数がより好ましい。〕
【0077】
具体的な(f2)成分としては、東レ・ダウコーニング(株)製のFZ−2191〔HLB=5、粘度:900mm2/s(25℃)〕、FZ−2166〔HLB=5、粘度:1100mm2/s(25℃)〕、FZ−2154〔HLB=6、粘度:110mm2/s(25℃)〕、FZ−2120〔HLB=6、粘度:1600mm2/s(25℃)〕、L−720〔HLB=7、粘度:1100mm2/s(25℃)〕、SH−8700〔HLB=7、粘度:1200mm2/s(25℃)〕、L−7002〔HLB=7、粘度:1300mm2/s(25℃)〕、SH−8700〔HLB=8、粘度:300mm2/s(25℃)〕、FZ−2164〔HLB=8、粘度:3500mm2/s(25℃)〕、FZ−77〔HLB=10、粘度:20mm2/s(25℃)〕、等を挙げることができる。
【0078】
更に、(f2)成分として、信越化学工業(株)製のKF−945〔HLB=4、粘度:130mm2/s(25℃)〕、KF−6020〔HLB=4、粘度:180mm2/s(25℃)〕、KF−6015〔HLB=5、粘度:130mm2/s(25℃)〕、KF−6017〔HLB=5、粘度:530mm2/s(25℃)〕、KF−6012〔HLB=7、粘度:1500mm2/s(25℃)〕、KF−352A〔HLB=7、粘度:1600mm2/s(25℃)〕、KF−615A〔HLB=10、粘度:920mm2/s(25℃)〕、KF−6011〔HLB=12、粘度:130mm2/s(25℃)〕等を挙げることができる。
【0079】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物において、ケイ酸エステルの加水分解安定性をより高める点で、フェノールの芳香族炭化水素基の水素原子の1〜3個が、炭素数1〜4の炭化水素基及び/又は炭素数1〜2のアルコキシ基で置換されたフェノール誘導体〔(g)成分〕を含有することが好ましい。炭素数1〜4の炭化水素基及び/又は炭素数1〜2のアルコキシ基で置換されることで、疎水性がより高まり、且つ親水基である水酸基を含有するフェノールと、ケイ酸エステルとが疎水的な混合物を形成する。該混合物はより疎水的になり、低濃度の組成物中においても、ケイ酸エステルと水とが接触する頻度を低下させることで、ケイ酸エステルの加水分解を抑制しているものと本発明者らは考えている。
【0080】
炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、3−プロペニル基、2−プロペニル基が挙げられる。炭素数1〜2のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
【0081】
より具体的な化合物としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、4−メトキシフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、3−イソプロピル−5−メチルフェノール、3−メチル−5−メトキシフェノール、4−(2−プロペニル)−6−メトキシフェノール、4−(1−プロペニル)−6−メトキシフェノール、3−メトキシ−5−メチルフェノールが挙げられる。ケイ酸エステルの加水分解抑制の点で、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、及び4−メトキシフェノールから選ばれる化合物が好ましく、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールから選ばれる化合物がより好ましい。
【0082】
(g)成分の含有量は、(a)成分との質量比で、(g)成分/(a)成分=0.2〜20が好ましく、0.5〜15がより好ましい。
【0083】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物において、(a)成分及び(b)成分以外の残部は水とすることができる。使用する水は、蒸留水やイオン交換水等からイオン成分を除去したものが好ましい。組成物中の水の含有量は、噴霧用液体芳香剤組成物の調製のし易さの点から、75〜96.5質量%が好ましく、80〜96質量%が更に好ましい。
【0084】
また必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、界面活性剤〔但し、(b)成分、(d)成分は除く〕、溶剤〔(e)成分は除く〕、硫酸ナトリウム等の塩、pH調整剤、酸化防止剤〔(g)成分を除く〕、防腐剤、香料、染料、顔料、紫外線吸収剤等の他の成分を添加することができる。
【0085】
溶剤〔(e)成分は除く〕としては、2〜6価で1分子の総炭素数が2〜12の多価アルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等)、又は前記アルコールのアルキル(炭素数1〜6)のエーテル誘導体が挙げられる。これらの中では、持続的な香りを発現させる点から、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。
【0086】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物において、持続的な香りを発現させる観点から、(a)成分及び溶剤の質量比は、溶剤/(a)成分=1000〜4が好ましく、より好ましくは200〜8、更に好ましくは100〜10である。
【0087】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物の25℃におけるpHは、持続的な強い香りを発現させる観点から、6〜8.5が好ましく、6.5〜8.5がより好ましく、7.0〜8.3が更に好ましく、7.0〜8.0がより好ましく、7.0〜7.7が最も好ましい。本発明の噴霧用液体芳香剤組成物のpHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。噴霧用液体芳香剤組成物のpHは実施例に記載の方法で測定した値である。
【0088】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物は透明な外観を有する。ここで、噴霧用液体芳香剤組成物についての「透明」とは、紫外可視分光光度計において、光路長が1cmの石英セルを用い、対照セルにイオン交換水を使用し、660nmの波長の透過率が80%以上、好ましくは90%以上であることをいう。
【0089】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物の25℃における粘度は、スプレー容器での噴霧適性の観点から、15mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1〜10mPa・s、更に好ましくは1〜5mPa・sである。本発明の噴霧用液体芳香剤組成物において、25℃における粘度が15mPa・s以下であると噴霧パターンが適正となる。粘度は、東京計器株式会社製、B型粘度計(モデル形式BM)に、No.1のローターを取り付け、噴霧用液体芳香剤組成物を200mL容量のガラス製トールビーカーに充填し、ウォーターバスにて25±0.3℃に調整し、ローターの回転数を60r/minに設定し、測定を始めてから60秒後の指示値である。
【0090】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物をスプレー容器に充填してスプレー式芳香剤物品を得ることができる。本発明のスプレー式芳香剤物品は、本発明の噴霧用液体芳香剤組成物と、スプレー容器とを含んで構成される物品である。本発明の噴霧用液体芳香剤組成物は水を含有するミストタイプであり、これをスプレー容器に充填し、一回の噴霧量を0.1〜3mlに調整したものが好ましい。使用するスプレー容器としては、トリガースプレー容器(直圧あるいは蓄圧型)やディスペンサータイプのポンプスプレー容器、耐圧容器を具備したエアゾールスプレー容器等が挙げられる。性能を効果的に発現するために、トリガー式スプレーヤーあるいはエアゾールスプレーヤーを具備するスプレー容器が好ましく、本発明においては、耐久性や布付着性の点から、トリガー式スプレーヤーを具備するスプレー容器がより好ましい。
【0091】
スプレー容器としては、噴射口から噴射方向に10cm離れた地点における噴霧液滴の平均粒径が10〜200μmとなり、噴射口から噴射方向に15cm離れた地点における粒径200μmを超える液滴の数が噴霧液滴の総数の1%以下となり、噴射口から噴射方向に10cm離れた地点における粒径10μm未満の液滴の数が噴霧液滴の総数の1%以下となる噴霧手段を備えたものが好ましい。噴霧液滴の粒子径分布は体積平均粒子径であり、例えば、レーザー回折式粒度分布計(日本電子株式会社製)により測定することができる。
【0092】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物及びスプレー式芳香剤物品は、繊維製品用として好適であり、かかる噴霧用液体芳香剤組成物は、噴霧により繊維製品に付着させて、対象物に香りを付与することが出来る。前記スプレー式芳香剤物品はこの方法に好適に用いられる。繊維製品としては、スーツ、セーター等の衣類、カーテン、ソファー等が挙げられる。
【0093】
本発明の噴霧用液体芳香剤組成物を、噴霧より繊維製品に対象物に付着させる方法が本発明の効果を享受出来る点で好ましい。付着させる量は、対象物が繊維製品である場合には、噴霧された繊維製品の乾燥時間を短くする点で、噴霧用液体芳香剤組成物が付着した範囲の繊維製品の質量に対して、100質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。繊維製品に対して均一に付着させる点で、噴霧用液体芳香剤組成物が付着した範囲の繊維製品の質量に対して5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。対象物の質量が容易に測定できない場合(例えば、大型家具などの布張部分、建物等に固定されている繊維製品等)には、対象物の10cm2の面積に対して0.1〜3g、好ましくは0.3〜2.5g、より好ましくは0.5〜2.0gとなる量の噴霧用液体芳香剤組成物を付着させることが、本発明の効果が得られる点で好ましい。
【0094】
本発明は以下の〔1〕〜〔3〕態様が好ましい。
〔1〕下記(a)成分を0.0005〜0.05質量%(好ましくは0.0008〜0.045質量%、より好ましくは0.001〜0.04質量%)、(b)成分を0.05〜0.5質量%(好ましくは0.05〜0.4質量%、より好ましくは0.05〜0.2質量%)、(c)成分、(d)成分を0.05〜0.5質量%(好ましくは0.05〜0.4質量)、(e)成分を3〜15質量%(好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、且つ、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下)及び水を含有し、
(b)成分と(c)成分の質量比が(b)成分/(c)成分=1〜30(好ましくは1.5以上であり、且つ、好ましくは25以下であり、より好ましくは20以下であり、特に好ましくは14以下であり、最も好ましくは10以下である。)〔ただし、(b)成分の質量は陽イオン部分の質量であり、(c)成分の質量は酸型化合物換算の質量である。〕である、
透明な外観を有する噴霧用液体芳香剤組成物。
(a)成分:下記一般式(a1)で表されるケイ酸エステル
【0095】
【化8】

【0096】
〔式中、Xは−OH、−R1a、−OR2a又は−OR3aであり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1aは炭素数1〜22の炭化水素基、R2aは分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3aは炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは0〜5の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2aを少なくとも1つ有する。〕
(b)成分:分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤(好ましくは炭化水素基はアルキルであり、より好ましくは炭素数10のアルキル基である。)
(c)成分:分子量104〜300(好ましくは115〜280であり、より好ましくは130〜230であり、特に好ましくは140〜220である。)の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその酸塩(好ましくはマロン酸及び/又はその塩、マレイン酸及び/又はその塩、コハク酸及び/又はその塩、グルタル酸及び/又はその塩、クエン酸及び/又はその塩、より好ましくはグルタル酸及び/又はその塩、クエン酸及び/又はそれらの塩、更に好ましくはクエン酸及び/又はその塩である。)
(d)成分:下記一般式(d1)で表される非イオン性界面活性剤
1d−Z−[(EO)s/(PO)t]−R2d (d1)
〔式(d1)中、R1dは、炭素数10〜16の脂肪族炭化水素基、R2dは、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Zは−O−又は−COO−のいずれかであり、EOは、オキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、(EO)と(PO)はランダム付加でもブロック付加でもいずれでもよく、(EO)と(PO)の付加順序は問わない。s及びtは整数であり、sは4〜50の数、tは2以下の数である。〕
(e)成分:エタノール
【0097】
〔2〕更に、(f)成分としてHLBが3〜12(好ましくは4〜10であり、より好ましくは5〜7である。)であるポリオキシアルキレン変性シリコーンを含有し、前記(d)成分との質量比で、(f)成分/(d)成分=0.3〜3(好ましくは、0.5〜2.5である。)である、前記〔1〕に記載の噴霧用液体芳香剤組成物。
【0098】
〔3〕更に、(g)成分としてフェノールの芳香族炭化水素基の水素原子の1〜3個が、炭素数1〜4の炭化水素基(好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、3−プロペニル基、2−プロペニル基)及び/又は炭素数1〜2のアルコキシ基(好ましくはメトキシ基、エトキシ基)で置換されたフェノール誘導体を含有する、〔1〕又は〔2〕のいずれかに記載の噴霧用液体芳香剤組成物。
【実施例】
【0099】
実施例及び比較例で用いた各配合成分をまとめて以下に示す。
【0100】
(a)成分
・a−1:下記合成例1で得られたテトラキス(ゲラニルオキシ)シラン
・a−2:下記合成例2で得られたテトラキス(フェニルエチルオキシ)シラン
【0101】
(b)成分
・b−1:N,N−ジ(1−デシル)−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド
・b−2:N,N−ジ(1−オクチル)−N,N−ジメチルアンモニウムクロリド
【0102】
(c)成分
・c−1:マロン酸(分子量:104)
・c−2:コハク酸(分子量:118)
・c−3:グルタル酸(分子量:132)
・c−4:クエン酸(分子量:164)
【0103】
(c’)成分〔(c)成分の比較化合物〕
・c’−1:シュウ酸(分子量:90)
・c’−2:2−ヒドロキシ酪酸(分子量:104)
【0104】
(d)成分
・d−1:ポリオキシエチレン(平均付加モル数=8)−1−ドデシルエーテル
・d−2:ポリオキシエチレン(平均付加モル数=20)−1−ミリスチルエーテル
【0105】
(e)成分
・e−1:エタノール
【0106】
(f)成分
・f−1:KF−945(信越化学工業(株)製、HLB=4)
・f−2:KF−6015(信越化学工業(株)製、HLB=5)
・f−3:KF−6012(信越化学工業(株)製、HLB=7)
・f−4:FZ−2208(東レ・ダウコーニング(株)製、HLB=7)
・f−5:KF−615A(信越化学工業(株)製、HLB=10)
【0107】
(g)成分
・g−1:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール
【0108】
〔(a)成分の合成〕
合成例1(テトラキス(ゲラニルオキシ)シランの合成)
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン35.45g(0.17mol)、ゲラニオール100.26g(0.65mol)、2.8%ナトリウムメトキシドメタノール溶液1.34mLを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら118〜120℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながら112〜119℃でさらに3時間攪拌した。3時間後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、テトラキス(ゲラニルオキシ)シラン(式(a1)において、X=−OR2aで、R2aがゲラニオールから水酸基を除いた残基、nが0の化合物である)を含む薄茶色油状物を得た。
【0109】
合成例2(テトラキス(フェニルエチルオキシ)シランの合成)
ゲラニオールの代わりにフェニルエチルアルコールを79.41g(0.65mol)用いる以外は合成例2と同様にして、テトラキス(フェニルエチルオキシ)シラン(式(a1)において、X=−OR2aで、R2aがフェニルエチルアルコールから水酸基を除いた残基、nが0の化合物である)を含む薄茶色油状物を得た。
【0110】
実施例1〜29及び比較例1〜8
<噴霧用液体芳香剤組成物の調製>
表1〜3に示す配合成分を用い、表1〜3に示す組成の噴霧用液体芳香剤組成物を各500g調製した。実施例の噴霧用液体芳香剤組成物は、全て透過率(測定方法は前記の通り)が80%以上であり透明であった。表中、(b)成分の質量%は陽イオン部分の質量に基づくものであり、(c)成分、(c’)成分の質量%は酸型化合物の質量に基づくものである。また、表中では、(c)成分も(c’)成分として質量比を示した。得られた組成物は、1規定の塩酸で表1〜3に示すpH(25℃)に調整した。また、表1〜3において、(a)成分に代えて、(a)成分の原料に用いた香料アルコールを(a)成分と同じ量使用した基準組成物(I)を調製した。基準組成物(I)のpHはそれぞれの表1、表2記載の噴霧用液体芳香剤組成物と同じpH(25℃)になるように、1規定の塩酸で調製した。得られた組成物について、下記方法で香りの強さを評価した。噴霧用液体芳香剤組成物のpHの測定は以下の測定方法で行った。
【0111】
<pHの測定方法>
pHの測定で使用したpH測定装置及びpH標準液を下記に示す。
〔pH標準液〕
堀場製作所(株)製pH標準液を用いた。
・pH標準液100−7(中性りん酸塩標準液、精度;±0.02pH)
・pH標準液100−9(ホウ酸塩標準液、精度;±0.02pH)
〔pH測定装置〕
・株式会社堀場製作所製のpHメータ「D−52S」
・pH電極:6367−10D
【0112】
pH測定装置は測定の1時間前に電源を入れた。未使用のpH電極を用い、電極を予め25℃±0.2℃のイオン交換水に24時間浸しておいたものを使用した。ゼロ校正とスパン校正は、以下に記載のpH標準液を用いて、25℃におけるpHの指示値が、標準pH±0.02になるまで繰り返し校正を行った。
【0113】
噴霧用液体芳香剤組成物200gを200mL容量のガラス製トールビーカーに入れ、サランラップ(登録商標)で封をし、ウォーターバス中で、噴霧用液体芳香剤組成物の温度が25±0.2℃になるように調整した。
【0114】
校正後にpH電極に25℃のイオン交換水200mLをかけて洗浄後、各噴霧用液体芳香剤組成物を3回繰り返し測定した。得られた3回の測定値の平均値をpH測定値とした。
【0115】
〔(a)成分の保存安定性(加水分解安定性)試験〕
表1〜3記載の組成物を調製した直後の組成物中、及び40℃で7日間保管した組成物中に含まれる(a)成分の量を下記の方法で測定し、下記式に従って(a)成分の残存率(%)を測定した。なお、組成物の保管は、表1〜3に記載の噴霧用液体芳香剤組成物150gを、規格瓶(透明広口、No.13、容量200ml)に入れ40℃の恒温槽に入れ7日間保管して行った。
(a)成分の残存率(%)=(X/Y)×100
X:40℃で7日間保管した後の組成物中に含まれる(a)成分の量
Y:調製直後の組成物中に含まれる(a)成分の量
残存率(%)の値が高ければ高い程、安定性に優れる。50%以上であることが好ましい、5%以上高ければより好ましいと言える。
【0116】
*(a)成分の量の測定方法
超高速液体クロマトグラフ((株)日立ハイテクノロジーズ製、LaChromUltra)にて、カラム(逆相カラム、メルク(株)製):LiChroCART(登録商標) 250-4 Lichrospher(登録商標) 100 RP-18 endcapped(5μm)を用い、表1〜表3記載の組成物について、調製直後の組成物、及び40℃で7日間保管した組成物を、それぞれ80μLカラムに注入し、溶離液:メタノール、流量:1mL/min、検出UV波長:220nm、測定時間:60min、カラム温度:40℃の条件で、(a)成分の測定を行った。検量線用として、(a)成分をメタノールで0.1〜10ppmに希釈した既知濃度のサンプルを同様に測定し、ピーク面積比から各組成物中の(a)成分の含有量を算出した。
【0117】
〔香りの持続性の評価〕
(1)評価用布の調製
綿メリヤスニット布((株)谷頭商店製、染色試材、綿ニット未シル)2kgを市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)製、アタック高活性バイオEX(登録商標)、2009年発売品)を用いて全自動洗濯機(日立NW−7FT)で洗濯した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水(20℃)40L使用、標準コース、洗濯9分−すすぎ2回−脱水6分)。洗濯終了後の綿メリヤスニット布を、25℃、50%RHの恒温室に干し、12時間乾燥させた。綿メリヤスニット布を裁断(10cm×10cm)し評価用布とした。
【0118】
(2)香りの持続性の評価方法
(2−1)試験布の調製
前記評価用布1枚を用い、200メッシュのステンレス製金網の上に平らに置いた。評価用布の乾燥時質量(前記(1)評価用布の調製において、洗濯終了後に25℃、50%RHで12時間乾燥した直後の質量)に対して、表1〜3に示す組成物を40℃で7日間保管した組成物を、5℃の水で30℃まで冷却し、50質量%噴霧した後、25℃/50%RHの恒温室にて3日(72時間)保管して試験布を得た。スプレー容器は、キャニオン製T−7500を用いた。試験布は、各条件ごとに、1組成当たり5枚調製した。
【0119】
(2−2)基準試験布(I)の調製
表1〜3記載の噴霧用液体芳香剤組成物において(a)成分を、(a)成分の原料として用いた香料アルコールに代えて、(a)成分と同じ量含む基準組成物(I)を用いた以外は、前記「(2−1)試験布の調製」と同じ方法で、各条件に対応する基準試験布(I)を調製した。
【0120】
(2−2)基準試験布(II)の調製
表1〜3記載の噴霧用液体芳香剤組成物を調製した直後の組成物を用いた以外は、前記「(2−1)試験布の調製」と同じ方法で、各条件に対応する基準試験布(II)を調製した。
【0121】
(3)香りの強さの評価
各条件ごとに1組成当たり5枚の試験布を用い、5枚の試験布を重ねて、30歳代の男性5人及び女性5人の計10人のパネラーで経時的な香りの強さを評価した。5枚の基準試験布を重ねて用いて下記の基準で比較評価し、その平均値を求め、表1〜3に示した。24時間乾燥後及び7日保管後の香りの強さとしては、香りの持続性の点で、いずれの香りの強さも平均点1.4以上であることが好ましい。
0:試験布は基準試験布(II)よりも、基準試験布(I)に近い強さの香りが香る
1:試験布は基準試験布(II)と基準試験布(I)の間の強さの香りが香る
2:試験布は基準試験布(I)よりも、基準試験布(II)に近い強さの香りが香る
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

【0125】
表1〜2から、比較例1〜8の噴霧用液体芳香剤組成物は、(a)成分の保存安定性が悪く香りの持続性が乏しいのに対し、実施例1〜19の噴霧用液体芳香剤組成物は、(a)成分の保存安定性に優れ、香りの持続性が優れていることがわかる。同様に、表3の実施例20〜29の噴霧用液体芳香剤組成物も(a)成分の保存安定性に優れ、香りの持続性が優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分を0.0005〜0.05質量%、(b)成分を0.05〜0.5質量%、(c)成分、(d)成分を0.05〜0.5質量%、(e)成分を3〜15質量%及び水を含有し、
(b)成分と(c)成分の質量比が(b)成分/(c)成分=1〜30〔ただし、(b)成分の質量は陽イオン部分の質量であり、(c)成分の質量は酸型化合物換算の質量である。〕である、
透明な外観を有する噴霧用液体芳香剤組成物。
(a)成分:下記一般式(a1)で表されるケイ酸エステル
【化1】


〔式中、Xは−OH、−R1a、−OR2a又は−OR3aであり、YはX又は−OSi(X)3であり、R1aは炭素数1〜22の炭化水素基、R2aは分子内に炭素数6〜22の炭素原子を有する香料アルコールからヒドロキシ基を1つ除いた残基、R3aは炭素数1〜5の炭化水素基又はベンジル基、nは0〜5の数である。複数個のX及びYはそれぞれ同一でも異なっていても良いが、一分子中に−OR2aを少なくとも1つ有する。〕
(b)成分:分子内に炭素数8〜10の炭化水素基を2個有する第4級アンモニウム塩型陽イオン性界面活性剤
(c)成分:分子量104〜300の2価又は3価のカルボン酸及び/又はその酸塩
(d)成分:下記一般式(d1)で表される非イオン性界面活性剤
1d−Z−[(EO)s/(PO)t]−R2d (d1)
〔式(d1)中、R1dは、炭素数10〜16の脂肪族炭化水素基、R2dは、水素原子、又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Zは−O−又は−COO−のいずれかであり、EOは、オキシエチレン基であり、POはオキシプロピレン基であり、(EO)と(PO)はランダム付加でもブロック付加でもいずれでもよく、(EO)と(PO)の付加順序は問わない。s及びtは整数であり、sは4〜50の数、tは2以下の数である。〕
(e)成分:エタノール
【請求項2】
更に、(f)成分としてHLBが3〜12であるポリオキシアルキレン変性シリコーンを含有し、前記(d)成分との質量比で、(f)成分/(d)成分=0.3〜3である、請求項1に記載の噴霧用液体芳香剤組成物。
【請求項3】
更に、(g)成分としてフェノールの芳香族炭化水素基の水素原子の1〜3個が、炭素数1〜4の炭化水素基及び/又は炭素数1〜2のアルコキシ基で置換されたフェノール誘導体を含有する、請求項1又は2のいずれかに記載の噴霧用液体芳香剤組成物。
【請求項4】
前記該組成物の25℃におけるpHが6〜8.5である、請求項1〜3のいずれかに記載の噴霧用液体芳香剤組成物。

【公開番号】特開2013−63160(P2013−63160A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203278(P2011−203278)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】