説明

四重トランスジェニック非ヒト動物

本発明は、ゲノムが、a)ヒトAPPスウェーデン型またはヒトAPPロンドン型タンパク質をコードする第一のトランスジェニックDNA配列であって、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列;b)N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列であって、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列;c)アミロイドペプチドに対する抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列および;d)該抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターまたは第四のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニックDNA配列を含むトランスジェニック非ヒト動物、ならびに該動物の作製法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルツハイマー病(AD)は、記憶消失および認知機能減退を特徴とする神経変性疾患である。ADの有病率は、65歳を過ぎると5年ごとに約2倍に増加する。全体的に見て、65歳を超えた者の約5〜10%が罹患している。ADの臨床診断は、依然として除外診断である。脳の死後顕微鏡観察のみがアミロイド−β(A−β)ペプチド原線維を含む細胞外の斑および重合したリン酸化タウタンパク質を含む細胞内濃縮体の存在に基づく確定診断を提供する。大部分の場合で、ADは高齢期発症型および孤発型で起こる。早期発症型家族性ADは症例の少数派に相当するが、疾患メカニズムの理解の進歩に極めて重要とされてきた。公知の突然変異は、コドン670/671(K670+NおよびM671+L)に及ぶスウェーデン変異(SFAD)およびAPPのコドン717に及ぶロンドン変異である。全てのこれらの突然変異はAPPのタンパク質分解性プロセシングに影響を及ぼし、アミロイド形成性がより大きいペプチドを生じる。
【0002】
APPは、少なくとも三つのセクレターゼ、すなわちα−、β−およびγ−セクレターゼによりプロセシングすることができる。β−セクレターゼは、メチオニン671(APP770の付番)の後でAPPを切断し、12kdの保持された膜カルボキシ末端フラグメントを導くことによりA−βペプチドの発生を開始する。次に、12kdのフラグメントは、疎水性膜貫通ドメイン内でγ−セクレターゼの切断を受けて40、42または43残基のA−βペプチドを放出しうる(Seubert P, Vigo-Pelfrey C, Esch F, Lee M, Dovey H, Davis D, Sinha S, Schlossmacher M, Whaley J, Swindlehurst C. Isolation and quantification of soluble Alzheimer's beta-peptide from biological fluids. Nature. 1992. 359: 325-7)。
【0003】
ADに関する現行の処置は、わずかな症状の軽減を提供する。感受性の個体における病状経過を減速させ、そして疾患を予防または遅延させる疾患修飾剤のまだ対処されていない高い必要性がある。そのような薬剤の開発は、とりわけ疾患の分子的基盤の理解および動物モデルの開発に進歩を必要とする。
【0004】
ADに関係するタンパク質を過剰発現しているいくつかのトランスジェニック系統、例えばAPPロンドンおよびβ−セクレターゼを過剰発現しているダブルトランスジェニックマウスが公知である。
【0005】
本発明は、ゲノムが、a)アルツハイマー病(AD)またはAD型病態に関連する突然変異を含むヒトAPPタンパク質をコードする第一のトランスジェニックDNA配列であって、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列;
b)アルツハイマー病(AD)またはAD型病態に関連する突然変異を含むヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列であって、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列;
c)アミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列;および
d)該ヒト抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列であって、第四のプロモーターまたは第三のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニック
を含む、トランスジェニック非ヒト動物を提供する。
【0006】
「アルツハイマー病(AD)の病態」という用語は、例えばニューロンのシナプス密度およびシナプス数の損失、認知能力の減少、ならびに記憶消失などの、AD患者における病態変化を表す。それらは、脳に散在性老人斑もまた含み、それらはアミロイドβペプチド、ニューロンおよび/もしくはグリア細胞の封入体、または抗Aβ抗体で陽性染色される不溶性沈着物から主に構成される。
【0007】
特に本発明は、ゲノムが、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはヒトAPPロンドン型タンパク質をコードする第一のトランスジェニックDNA配列であって、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列;
b)N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列であって、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列;
c)ヒトアミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列;および
d)該ヒト抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターまたは第四のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニック
を含む、トランスジェニック非ヒト動物を提供する。
【0008】
本発明は、また、同じまたは別の遺伝子型との繁殖によって得られた、本発明により提供されるようなトランスジェニック非ヒト動物の子孫に関する。好ましくは、その子孫は同じ遺伝子型との繁殖により得られる。該子孫は、上記四重非ヒト動物と同じトランスジェニックDNA配列を含む。
【0009】
さらに本発明は、上記の四重非ヒトトランスジェニック動物またはその子孫から得られる細胞系または初代細胞培養物に関する。
【0010】
加えて本発明は、また、上記の非ヒトトランスジェニック動物またはその子孫から得られる組織もしくは器官移植片またはそれらの培養物を提供する。
【0011】
本発明は、また、上記の非ヒトトランスジェニック動物またはその子孫から得られる組織または細胞抽出物を提供する。
【0012】
本発明は、また、ゲノムがヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、ならびにβアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードするトランスジェニックDNAを含むトランスジェニック非ヒト動物を発生させるための方法を提供し、その方法は、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型をコードする該第一のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物、およびN141I置換を有するヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
b)アミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物および該ヒト抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること、
c)a)およびb)のトランスジェニック動物を交配すること
により、ゲノムがヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、βアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードするトランスジェニックDNAを含む四重トランスジェニック非ヒト動物を作製することを含む。
【0013】
または、上記方法の工程c)において、第三および第四のトランスジェニックDNA配列が同じ構築物上にあってもよい。
【0014】
本発明は、また、ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質ならびにβアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖を発現するトランスジェニック非ヒト動物を発生させるための方法を提供し、その方法は、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型をコードする該第一のトランスジェニックDNA配列であって、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物、およびN141I置換を有するヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列であって、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
b)ヒトアミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列であって、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物および該ヒト抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列であって、第四のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、および該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること、
c)a)およびb)のトランスジェニック動物を交配することにより、ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、ならびにβアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖を発現する四重トランスジェニック非ヒト動物を作製することを含む。
【0015】
または、上記方法の工程c)において、第三および第四のトランスジェニックDNA配列は、第三のプロモーターに作動可能に連結された同じ構築物上にあってもよい。
【0016】
本発明は、さらに、上記方法により作製される四重トランスジェニック非ヒト動物を提供する。
【0017】
APP
APPは、アミロイド前駆体タンパク質を意味する。APPのいくつかのcDNA形態が、とりわけ三つの最も豊富に存在するアイソフォームAPP695、APP751およびAPP770をコードするものが同定された。これらの形態は、選択的スプライシングにより単一の前駆体RNAから生じる。この遺伝子は、18個のエキソンを有する175kb超に及ぶ(Yoshikai S, Sasaki H, Doh-ura K, Furuya H, Sakaki Y. Genomic organization of the human amyloid beta-protein precursor gene. Gene. 1990. 87(2):257-63)。APPは、細胞外ドメイン、膜貫通領域および細胞質ドメインを含む。A−βは、疎水性膜貫通ドメインのちょうど外側の最大28個のアミノ酸およびこの膜貫通ドメインの最大15個の残基から成る。このように、A−βは、脳、ならびに心臓、腎臓および脾臓などの他の組織に通常見られるAPPに由来する切断産物である。しかし、A−βの沈着は、普通は脳にのみ豊富に見られる。比較的大きいAPPの選択的形態(alternate form)(APP751、APP770)は、APP695および一つまたは二つの追加的なドメインから成る。APP751は、APP695の695個のアミノ酸およびKunitzファミリーのセリンプロテアーゼ阻害剤(KPI)に相同性を有する追加的な56個のアミノ酸から成る(Tanzi RE, McClatchey AI, Lamperti ED, Villa-Komaroff L, Gusella JF, Neve RL. Protease inhibitor domain encoded by an amyloid protein precursor mRNA associated with Alzheimer's disease. Nature. 1988. 331:528-30; Weidemann A, Konig G, Bunke D, Fischer P, Salbaum JM, Masters CL, Beyreuther K. Identification, biogenesis, and localization of precursors of Alzheimer's disease A4 amyloid protein. Cell. 1989 Apr 7; 57(1): 115-26. Kitaguchi N, Takahashi Y, Tokushima Y, Shiojiri S, Ito H. Novel precursor of Alzheimer's disease amyloid protein shows protease inhibitory activity. Nature. 1988. Feb ll;331(6156):530-2.; Tanzi RE, St George-Hyslop PH, Haines JL, Polinsky RJ, Nee L, Foncin JF, Neve RL, McClatchey AI, Conneally PM, Gusella JF. The genetic defect in familial Alzheimer's disease is not tightly linked to the amyloid beta-protein gene. Nature. 1987. 329 (6135): 156-7)。APP770は、APP751の751個のアミノ酸全ておよび神経細胞表面抗原OX−2に相同な追加的な19個のアミノ酸ドメインを含む(Weidemann et al. 1989; Kitaguchi et al. 1988)。特に言及しない限り、本明細書に参照されるアミノ酸位置は、APP70に出現する位置である。OX−2およびKPIドメインの不在が原因で、APP695およびAPP751における同等の位置のアミノ酸番号は、場合により異なる。慣例により、全ての型のAPPのアミノ酸位置は、APP770型での同等の位置により参照される。特に言及しない限り、本明細書ではこの慣例に従う。特に言及しない限り、本明細書に参照される全ての型のAPPおよび全ての型のA−βを含むAPPのフラグメントは、ヒトAPPのアミノ酸配列に基づく。APPは、リーダー配列の除去ならびに硫酸基および糖基の付加により翻訳後修飾される。「APP」という用語には、例えばAPPスウェーデン型およびAPPロンドン型などの突然変異APPもまた含まれる。
【0018】
アルツハイマー病(AD)またはAD型病態に関連する突然変異を含むヒトAPPタンパク質は、好ましくはAPPスウェーデン型およびAPPロンドン型である。
【0019】
本明細書に使用されるような「APPスウェーデン型」という用語は、K670N/M671L置換を含む上記と同義のAPPアイソフォームを表す。好ましくは、ヒトAPPスウェーデン型は、配列番号:1によりコードされる。
【0020】
本明細書に使用されるような「APPロンドン型」という用語は、A−β42ペプチドの特異的産生増加に向けたアミロイドペプチド産生に影響する一つまたは複数の天然または人工いずれかの突然変異を含む、上記と同義のAPPアイソフォームを表す。下記などの、病理学的に関連するγ−セクレターゼ切断部位周辺の天然APP突然変異が好ましい。
【表1】

【0021】
人工突然変異(A−βドメイン外部の膜貫通領域中の全残基の置換)もまた好ましい。その例およびγ−セクレターゼ切断に及ぼすその結果は、Lichtenthalerおよび共同研究者ら(Lichtenthaler SF, et al., Proc Natl Acad Sci USA. 1999 Mar 16;96(6):3053-8)により記載されている。
【0022】
さらに好ましくは、ヒトAPPロンドン型は、天然V717F突然変異を含むヒトAPPロンドン型である。最も好ましくは、ヒトAPPロンドン型は配列番号:3によりコードされる。
【0023】
好ましくは、第一のトランスジェニックDNA配列は、ヒトAPPスウェーデン型をコードする。
【0024】
プレセニリン2(PS2)
プレセニリン2(PS)は、γ−セクレターゼ複合体のタンパク質である。γ−セクレターゼは、APPのプロセシングに関与する(図1参照)。
【0025】
本明細書に使用されるような「プレセニリン2をコードするDNA配列」または「PS2遺伝子」という用語は、1995年6月28日に提出された米国特許出願第08/496,841号に最初に開示および記載され、その後Rogaevら(Nature. 1995; 376(6543):775-8)およびLevy Lahadら(Ann Neurol. 1995; 38(4):678-80)に記載された、任意の対立遺伝子変異体および異種特異的な哺乳動物ホモログを含めた哺乳動物遺伝子を表す。一つのヒトプレセニリン−2(hPS2)cDNA配列は、本明細書に配列番号:9として開示されている。
【0026】
「プレセニリン−2遺伝子」または「PS2遺伝子」という用語は、主にコード配列に関するが、フランキング調節領域および/またはイントロンの一部または全てもまた含みうる。PS2遺伝子という用語には、具体的に、スプライス変異体に基づくリコンビナント遺伝子を含めた、cDNAまたはゲノムDNAから創出された人工またはリコンビナント遺伝子が含まれる。プレセニリン−2遺伝子は、E5−1遺伝子とも呼ばれてきた。
【0027】
アルツハイマー病(AD)またはAD型病態に関連する突然変異を含むヒトプレセニリン2タンパク質は、好ましくはN141I、T122P、M239VまたはM239I置換を有するヒトPS2である(Shen et al., PNAS, 2007, 104(2):403-409)。さらに好ましくは、アルツハイマー病(AD)またはAD型病態に関連する突然変異を含むヒトプレセニリン2タンパク質は、N141I置換を有するヒトPS2である。
【0028】
したがって、第二のトランスジェニックDNA配列は、好ましくはN141I置換を有するヒトPS2をコードする。最も好ましくは、配列番号:19をコードするDNA配列である。
【0029】
抗体
抗体は、「Y」形の分子であり、2本の重鎖および2本の軽鎖から成る。重鎖および軽鎖共に、異なる型およびサブタイプがある。各重鎖および各軽鎖は、定常領域および可変領域を有し、重鎖については定常領域のサイズの方が大きい。
【0030】
「定常領域」または「C領域」という用語は、抗体分子の領域を表し、その領域は、同じ種の生物により産生される特異性の異なる抗体の対応する領域とほぼ同一である。同じ抗体クラス(アイソタイプ)の中で定常部は不変であり、特定の免疫グロブリンサブクラスのエフェクター機能を担う。Fcフラグメントは、酵素パパインを用いた抗体の切断により発生する、定常領域の大部分を含む抗体フラグメントである。
【0031】
本明細書に使用されるような「可変領域」という用語は、特異的抗原に結合する抗体分子の領域を表す。それは、重鎖および軽鎖の抗原結合部位の組合せから構成される。それは、異なるB細胞の免疫グロブリンの間で異なり、同じB細胞により産生される全ての免疫グロブリンに関して同じである。可変領域は、B細胞の成熟時に起こる遺伝子組換え過程により体細胞的に発生する。任意の所与の抗原に結合するために必要な莫大な多様性を創出するのは、そしてそのように外来及び病原性構造により提起される無数の抗原の重荷を免疫系が認識及び中和できるようにするのは、この再編成過程である。結果として、抗体プールは、同じFc部を共有する一方で、異なるV領域の大きなレパートリーを担持する免疫グロブリンから構成される。
【0032】
「フラグメント結合性抗原」または「Fabフラグメント」という用語は、抗原結合性可変領域を含む抗体フラグメントであって、酵素パパインを用いた抗体の切断によって発生する抗体フラグメントである。
【0033】
本明細書に使用されるような「イディオタイプ領域」という用語は、各抗体型について独特な、抗体の可変領域の部分を表す。
【0034】
第三のトランスジェニックヌクレオチド配列は、β−アミロイドペプチドに対する抗体の軽鎖をコードする。好ましくは、該抗体は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体である。さらに好ましくは、該抗体は免疫グロブリンγ(IgG)である。最も好ましくは、該抗体は治療用抗体Mab11である(国際公開公報第03/070760号)。
【0035】
第四のトランスジェニックヌクレオチド配列は、β−アミロイドペプチドに対する抗体の重鎖をコードする。好ましくは、該抗体は、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体である。さらに好ましくは、該抗体は免疫グロブリンγ(IgG)である。最も好ましくは、該抗体は治療用抗体Mab11である(国際公開公報第03/070760号)。
【0036】
「β−アミロイドペプチド」または「A−β」という用語は、β−セクレターゼおよびγ−セクレターゼによるAPP切断により産生されるペプチドを表す。そのペプチドは、39〜43個のアミノ酸を有する。それは、アルツハイマー病患者の脳におけるアミロイド斑の主構成成分である。好ましくは、β−アミロイドペプチドはヒトβ−アミロイドペプチドである。
【0037】
好ましくは、第四のトランスジェニックヌクレオチド配列は、分泌抗体の重鎖をコードする。そのような好ましいDNA配列は、膜貫通ドメインをコードする配列を欠如している。
【0038】
第三および第四のトランスジェニックDNA配列は、一つのプロモーター(すなわち第三のプロモーター)と作動可能に連結されてもよいし、それぞれ別のプロモーターに作動可能に連結されてもよい(すなわち第三のトランスジェニックDNA配列は第三のプロモーターに作動可能に連結し、第四のDNA配列は第四のプロモーターに作動可能に連結される)。
【0039】
プロモーター
本明細書に使用されるような「作動可能に連結された」という用語は、適切な転写活性化因子タンパク質が調節配列に結合している場合に、DNA配列および調節配列が遺伝子発現を許すように連結していることを意味する。
【0040】
本明細書に使用されるような「調節配列」という用語は、タンパク質発現をコントロールしているタンパク質に関する結合部位であるヌクレオチド配列を表す。調節配列は、例えばプロモーターまたはエンハンサーであってもよい。
【0041】
本明細書に使用されるような「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼおよび転写因子に結合して転写を開始する遺伝子の領域を表す。
【0042】
本明細書に使用されるような「エンハンサー」という用語は、同じDNA分子上の最も近いプロモーターの活性を増加させることにより遺伝子転写速度を増加させるヌクレオチド配列を表す。
【0043】
第一のプロモーターは、ニューロンに作動可能に連結されたDNAを発現する任意のプロモーターであってもよい。第一のプロモーターは、遍在的プロモーターであってもよい。好ましくは、第一のプロモーターはニューロンのプロモーターである。さらに好ましくは、第一のプロモーターは脳特異的プロモーターである。
【0044】
「組織特異的プロモーター」という用語は、組織特異的に、例えば脳組織、筋組織、肝臓組織、腎臓組織などにおける遺伝子発現をコントロールおよび指令するプロモーターを表す。脳特異的プロモーターは、脳組織における遺伝子発現をコントロールおよび指令するプロモーターである。最も好ましくは、第一のプロモーターはプリオン遺伝子のプロモーターである。
【0045】
第一のプロモーターは、また、コントロール可能なプロモーターであってもよい。コントロール可能なプロモーターは、例えば特異的誘導因子またはリプレッサー物質の添加により調節および/または誘導可能なように導入遺伝子の発現をコントロールする任意のプロモーターであってもよい。いくつかの誘導性細菌プロモーターが当技術分野において公知である(Schultze N, Burki Y, Lang Y, Certa U, Bluethmann H; Nat Biotechnol 1996; 14(4): 499-503; van der Neut R; Targeted gene disruption: applications in neurobiology; J Neurosci Methods 1997; 71(1): 19-27; Liu HS, Lee CH, Lee CF, Su IJ, Chang TY; Lac/Tet dual-inducible system functions in mammalian cell lines. Biotechniques. 1998; 24(4): 624-8, 630-2)。
【0046】
第二のプロモーターは、作動可能に連結されたDNAをニューロンに発現する任意のプロモーターであってもよい。第一のプロモーターは、遍在的プロモーターであってもよい。好ましくは、第二のプロモーターはニューロンのプロモーターである。さらに好ましくは、第二のプロモーターは脳特異的プロモーターである。
【0047】
「組織特異的プロモーター」という用語は、組織特異的に、例えば脳組織、筋組織、肝臓組織、腎臓組織などにおける遺伝子発現をコントロールおよび指令するプロモーターを表す。脳特異的プロモーターは、脳組織における遺伝子発現をコントロールおよび指令するプロモーターである。最も好ましくは、第二のプロモーターはThy1.2糖タンパク質プロモーターである。
【0048】
第二のプロモーターは、また、コントロール可能なプロモーターであってもよい。コントロール可能なプロモーターは、例えば特異的誘導因子またはリプレッサー物質の添加により調節および/または誘導可能なように導入遺伝子の発現をコントロールする任意のプロモーターであってもよい。いくつかの誘導性細菌プロモーターが当技術分野において公知である(Schultze N, Burki Y, Lang Y, Certa U, Bluethmann H; Nat Biotechnol 1996; 14(4): 499-503; van der Neut R; Targeted gene disruption: applications in neurobiology; J Neurosci Methods 1997; 71(1): 19-27; Liu HS, Lee CH, Lee CF, Su IJ, Chang TY; Lac/Tet dual-inducible system functions in mammalian cell lines. Biotechniques. 1998; 24(4): 624-8, 630-2)。
【0049】
第三のプロモーターは、遍在的プロモーターまたはリンパ組織特異的プロモーターであってもよい。
【0050】
好ましくは、第三のプロモーターは、MHCクラスI遺伝子のプロモーターである。同様に好ましくは、第三のトランスジェニックDNA配列は、エンハンサーと作動可能に連結される。さらに好ましくは、エンハンサーはIgHエンハンサーである。
【0051】
第三のプロモーターは、同様にコントロール可能なプロモーターであってもよい。コントロール可能なプロモーターは、例えば特異的誘導因子またはリプレッサー物質の添加により、調節および/または誘導可能なように導入遺伝子の発現をコントロールする任意のプロモーターでありうる。いくつかの誘導性細菌プロモーターが当技術分野において公知である(Schultze N, Burki Y, Lang Y, Certa U, Bluethmann H; Nat Biotechnol 1996; 14(4): 499-503; van der Neut R; Targeted gene disruption: applications in neurobiology; J Neurosci Methods 1997; 71(1): 19-27; Liu HS, Lee CH, Lee CF, Su IJ, Chang TY; Lac/Tet dual-inducible system functions in mammalian cell lines. Biotechniques. 1998; 24(4): 624-8, 630-2)。
【0052】
第四のプロモーターは、遍在的プロモーターまたはリンパ組織特異的プロモーターでありうる。好ましくは、第四のプロモーターは、MHCクラスI遺伝子のプロモーターである。同様に好ましくは、第四のトランスジェニックDNA配列は、エンハンサーと作動可能に連結される。さらに好ましくは、エンハンサーはIgHエンハンサーである。
【0053】
第四のプロモーターは、同様にコントロール可能なプロモーターであってもよい。コントロール可能なプロモーターは、例えば特異的誘導因子またはリプレッサー物質の添加により、調節および/または誘導可能なように導入遺伝子の発現をコントロールする任意のプロモーターであってもよい。いくつかの誘導性細菌プロモーターが当技術分野において公知である(Schultze N, Burki Y, Lang Y, Certa U, Bluethmann H; Nat Biotechnol 1996; 14(4): 499-503; van der Neut R; Targeted gene disruption: applications in neurobiology; J Neurosci Methods 1997; 71(1): 19-27; Liu HS, Lee CH, Lee CF, Su IJ, Chang TY; Lac/Tet dual-inducible system functions in mammalian cell lines. Biotechniques. 1998; 24(4): 624-8, 630-2)。
【0054】
トランスジェニック非ヒト動物は、それ自体の抗体もまた産生することから、ヒト重鎖および軽鎖は、内因性重鎖および軽鎖と混合されて混合型内因性/トランスジェニック抗体を形成しうる。マウスの場合、混合型マウス/ヒト抗体が形成しうる。ヒト重鎖および軽鎖がリンパ組織外で産生されるならば、内因性重鎖および軽鎖が存在しないことから、純粋なトランスジェニック抗体が形成するであろう。したがって、第三および第四のトランスジェニックDNA配列に作動可能に連結されたプロモーターは、好ましくはリンパ組織と非リンパ組織の両方に発現しているプロモーターである。
【0055】
トランスジェニック動物/導入遺伝子の組込み
トランスジェニックDNA配列は、動物細胞の全てまたは一部に、特に生殖細胞に組込まれる。ゲノムへの組込みは、一過性または安定的でありうる。好ましくは、組込みは安定的である。
【0056】
トランスジェニック動物は、第一、第二、第三および第四のトランスジェニックDNA配列についてヘテロ接合性またはホモ接合性であってもよい。トランスジェニック動物は、一部のトランスジェニックDNA配列、例えば第一および第二のトランスジェニックDNA配列についてヘテロ接合性であり、残り、例えば第三および第四のDNA配列についてはホモ接合性でありうる。好ましくは、トランスジェニック動物は、少なくとも一つのトランスジェニックDNA配列についてホモ接合性である。
【0057】
トランスジェニック動物は、任意の非ヒト動物であってもよい。好ましくは、非ヒトトランスジェニック動物は、哺乳動物、さらに好ましくはラットまたはマウスなどのげっ歯動物であり、最も好ましくは非ヒトトランスジェニック動物はマウスである。
【0058】
トランスジェニック動物の作製
トランスジェニック非ヒト動物は、非ヒト動物であってもよい。好ましい非ヒト動物は哺乳動物である。さらに好ましくは、非ヒト動物はマウスまたはラットなどのげっ歯動物である。トランスジェニック非ヒト動物の作製法は、当技術分野で周知である。適切な方法は、すなわちHogan B., Beddington R., Costantini F. & Lacy E. Manipulating the mouse embryo. A laboratory manual. 2nd Edition (1994). Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0059】
トランスジェニックタンパク質は、遍在的に発現しうる。好ましくは、第一および第二のトランスジェニックDNA配列によりコードされるタンパク質は、ニューロンに発現する。さらに好ましくは、第一および第二のトランスジェニックDNA配列によりコードされるタンパク質は、脳組織に発現する。好ましくは、第三および第四のトランスジェニックDNA配列によりコードされるタンパク質は、リンパ組織に発現する。さらに好ましくは、第三および第四のトランスジェニックDNA配列によりコードされるタンパク質は、リンパ組織および非リンパ組織の両方に発現する。
【0060】
上記のトランスジェニック非ヒト動物は、遺伝的、分子的および行動的に分析することができる。
【0061】
使用
上記の四重トランスジェニックマウスは、アルツハイマー病を治療するためのモデルまたはADを予防するためのモデルとして使用することができる。それは、マウスADモデルにおけるAβアミロイドーシスの開始および過程にヒト抗Aβ抗体が及ぼす効果を検討可能にする。トランスジェニック動物は、トランスジェニックヒトmAb11抗体に対して免疫寛容であることから、例えばMab11のような治療用抗体を用いた慢性処置の効果を判定することができる。また、可溶性Aβレベルならびに血管アミロイドーシスの過程および動態に及ぼす効果をたどることができる。
【0062】
さらに、上記の四重トランスジェニック非ヒト動物は、ヒト抗体を用いたアルツハイマー病の予防的処置の有効性および効果を判定するための興味深い道具である。
【0063】
今回、本発明を全般的に説明したが、以下の図面と関連づけて具体的な実施例の参照により本発明がよりよく理解されよう。それらは、解説のために本明細書に含まれるのみであり、特に明記しない限り限定を意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】APPのプロセシングの略図である。A)アミロイド前駆体タンパク質。三つのセクレターゼの切断部位を表示する(α:αセクレターゼ、β:βセクレターゼ、γ:γセクレターゼ)。
【図2】アミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングの略図である。APPは、二つの経路によりタンパク質分解性プロセシングを受けるおそれがある。α−セクレターゼによる切断は、A−βドメイン内で起こり、大型の可溶性N−末端APPαおよび非アミロイド形成性C−末端フラグメントを発生する。g−セクレターゼによるこのフラグメントのさらなるタンパク質分解により、非アミロイド形成性ペプチドp3が発生する。または、β−セクレターゼによるAPPの切断は、Aβドメインの開始部で起こり、それによりより短い可溶性N−末端であるAPPβ、並びにアミロイド形成性C末端フラグメント(C99)が発生する。γ−セクレターゼによるこのC−末端フラグメントのさらなる切断により、Aβが発生する。一つまたは複数のγ−セクレターゼによる切断は、AβのC末端不均一性を招いて、Aβ40およびAβ42を発生させることができる。
【化1】


【図3】遺伝子構築物の略図である。A)マウスThy1.2糖タンパク質遺伝子(MThy1.2)に包埋された、K60N、M671L置換を有するヒトβAPP751(ヒトβAPP751−SFAD)をコードするDNAを含む構築物。KPI:Kunitzプロテアーゼインヒビタードメイン;Aβ:βアミロイドペプチド;EI:エキソンI;EII:エキソンII;EIV:エキソンIV;ATG:開示コドン;TAG:終止コドン。B)マウスプリオン(pPrPHG)に包埋された、N141置換を有する突然変異ヒトプレセニリン2(hPS2−N141I)をコードするDNAを含む構築物。E1:エキソン1、E2:エキソン2、UTR:非翻訳領域;ATG:開始コドン;TAG:終止コドン。C)β−アミロイドペプチドに対するヒト抗体IgG1.1(Mab11)の重鎖をコードするDNAを含む構築物。MHC−I:H−2kプロモーター領域、VH:抗体の重鎖可変領域、CH1−CH2−CH3:抗体の重鎖定常領域、IgHエンハンサー:マウスIgH遺伝子の転写エンハンサーエレメント。D)β−アミロイドペプチドに対するヒト抗体IgG1.1(Mab11)の軽鎖をコードするDNAを含む構築物。MHC−I:H−2kプロモーター領域、VL:その抗体の軽鎖可変領域、CL:その抗体の軽鎖定常領域、IgHエンハンサー:マウスIgH遺伝子の転写エンハンサーエレメント。
【図4】トランスジェニック発現のための発現ベクターpHSE3’にクローニングされたような、ヒトAβに特異的なヒトIgγ1遺伝子のコード配列全体(配列番号:10)を示す図である。PCR増幅に使用されたプライマーの位置および名前を、対応する配列の上または下に示す。終止コドンを太字で示す。リーダー配列は太字で下線付きで示す。
【図5】トランスジェニック発現のための発現ベクターpHSE3’にクローニングされたような、ヒトAβに特異的なヒトIgκ遺伝子のコード配列全体(配列番号:11)を示す図である。PCR増幅に使用されたプライマーの位置および名前を、対応する配列の上または下に示す。開始および終止コドンは太字で示す。
【図6】B6.Mab11×B6.PS2APPマウスの子孫における四重トランスジェニックを検出するためのPCR電気泳動ゲルの写真である。レーン1:マーカー、レーン2〜7:B6.Mab11×B6.PS2APPマウスの子孫マウス。IgH:IgH特異的PCRフラグメント;IgL:IgL特異的異PCRフラグメント。PSEN2:PS(N41I)特異的PCRフラグメント。
【図7】APPについて探索されたB6.MAB11、B6.152およびB6.MAB11.152マウス由来の脳ホモジェネートのウエスタンブロットである。B6.MAB11:MAB11の重鎖および軽鎖についてトランスジェニックのマウス。B6.152:PS2(N141I)/APPスウェーデン型についてトランスジェニックのマウス。B6.MAB11.152:MAB11の重鎖および軽鎖ならびにPS2(N141I)/APPスウェーデン型についてトランスジェニックのマウス。APP:アミロイド前駆体タンパク質、CTF:C末端フラグメント、Aβ:βアミロイドペプチド。
【図8】野生型、Mab11トランスジェニックマウス(B6.MAB11)、PS2(N141I)/APPswダブルトランスジェニックマウス(B6.152)ならびにMAB11の重鎖および軽鎖およびPS2(N141I)/APPスウェーデン型について四重トランスジェニックなマウス(B6.MAB11.152)の前頭皮質の組織切片の蛍光顕微鏡画像である。マウスは8月齢であり、切片はマウス抗Abモノクローナル抗体(BAP2/Alexa555コンジュゲート)で染色した。四重トランスジェニックマウスにおけるMAB11のトランスジェニック発現は、斑形成を完全に予防する。
【図9】野生型、Mab11トランスジェニックマウス(B6.MAB11)、PS2(N141I)/APPswダブルトランスジェニックマウス(B6.152)ならびにMAB11の重鎖および軽鎖およびPS2(N141I)/APPスウェーデン型について四重トランスジェニックなマウス(B6.MAB11.152)の前頭皮質の組織切片の蛍光顕微鏡像である。マウスは8月齢であり、切片はチオフラビン−Sで染色した。四重トランスジェニックマウスにおけるMAB11の発現は、斑形成を完全に予防する。
【図10】Mab11トランスジェニックマウス(A)および四重トランスジェニックマウス(B6.MAB11.152)(B)から採取された血漿中のヒトIgG、すなわちMAB11の測定レベルの略図である。異なる独立した方法を比較した。(i)
【化2】


Aβ抗原により捕獲され、Fc特異的検出抗体により検出されたヒトIgG、(ii)
【化3】


抗ヒトIgG(H+L)により捕獲され、(H+L)特異的検出抗体により検出されたヒトIgGおよび(iii)
【化4】


抗ヒトIgG(H+L)により捕獲され、Fc特異的検出抗体により検出されたヒトIgG。
【図11】ヒトIgG Mab11で探索された四重トランスジェニックマウスB6.MAB11.152、すなわち非トランスジェニックのバックグラウンド(C57Bl/6)のMab11トランスジェニックマウスB6.MAB11からの脳ホモジェネートのウエスタンブロットである。Mab11の測定可能な最小量を決定するために、非トランスジェニックマウスB6(C57Bl/6)の脳ホモジェネートに異なる濃度(10、3、1、0.3、0.1および0.03μg/ml)で抗体を添加した。非トランスジェニックマウスから採取した血漿は末梢中のMab11についての対照である。
【図12】Aβについて探査された、16月齢マウスからの脳ホモジェネートのウエスタンブロットである。非トランスジェニック野生型C57Bl/6マウス、四重トランスジェニックマウスB6.MAB11.152およびPS2(N141I)/APPswダブルトランスジェニックマウスB6.152から脳を取り出した。陰性対照として、第一のレーンでは脳ホモジェネートを含まない試料緩衝液にMAB11を添加した。
【図13】B6.152およびB6.MAB11.152マウスからの脳ホモジェネート中のAβ解離後の不溶性Aβ測定値(Aβ40および42)(ng/mg脳)のグラフである。1〜4:PS2(N141I)/APPswダブルトランスジェニックマウス(B6.152):1=4月齢;2=8月齢、3=12月齢、4=16月齢;5〜8:四重トランスジェニックマウス(B6.MAB11.152):5=4月齢;6=8月齢、7=12月齢、8=16月齢。A):雌性マウスで測定したAβ42、B)雄性マウスで測定したAβ42、C)雌性マウスで測定したAβ40、D)雄性マウスで測定したAβ40。
【図14】血管アミロイド沈着および内皮細胞について二重免疫染色された、B6.MAB11.152から採取された皮質切片の最大値投影として視覚化された共焦点走査顕微鏡像である。図14AおよびDは、それぞれ低倍率および高倍率で染色したアミロイド沈着のBAP2染色を示す。比較のために、図14BおよびEは、それぞれ低倍率および高倍率で染色したCD31(内皮細胞マーカー)により微小管の分布を示す。図14CおよびFは、両染色をマージしたチャネルを示す。
【図15】ダブルトランスジェニックB6.152マウスから採取された最大強度投射として視覚化された共焦点操作顕微鏡像(A〜C)および高解像度での四重トランスジェニックB6.MAB11.152からの皮質微小管の単一共焦点面像(D〜F)である。図15AおよびDは、アミロイド沈着のBAP2染色を示す。図14BおよびEはCD31(内皮細胞マーカー)の染色を示す。図14CおよびFは、両染色をマージしたチャネルを示す。
【0065】
実施例:
実施例に参照された市販の試薬は、特に言及しない限り製造業者の説明書に準じて使用した。
【0066】
実施例1:トランスジェニック構築物(図1)
APPSwe構築物:ヒトβAPP751をコードするcDNAはD. Goldgaber教授から贈与してもらった。スウェーデン型家族性AD二重突然変異(SFAD、K670N、M671L置換)を部位特異的突然変異誘発により導入した。Thy1.2−huβAPP751SFAD導入遺伝子は、マウスThy−1.2糖タンパク質遺伝子およびプロモーターを含む発現ベクター(配列番号:2、AC:M12379)のXhoI部位に約2.4kbpのhuβAPP751SFAD cDNAフラグメント(配列番号:1、AC:X06989のヌクレオチド32〜2369)を挿入することにより発生させた。この発現ベクターは、マウスThy1.2遺伝子を含む6.8kbpのNotIフラグメントを有し(Andra K, et al., (1996) Expression of APP in transgenic mice: a comparison of neuron-specific promotors. Neurobiol Aging 17:183-190; Vidal M, et al., (1990) Tissue-specific control elements of the Thy-1 gene. EMBO J 9:833-840)、そのフラグメントでは、エキソン2および4に位置する1.5kbpのBamI−XhoIフラグメントがXhoIクローニング部位に置換えられている。その構築物の部分配列を配列番号:4に示す(ヌクレオチド1−2602は、MMTHYGP、AC:M12379(27.4.1993と同様)、マウスThy−1.2糖タンパク質遺伝子(XbaI−BanI)、ヌクレオチド2603−4982は、hβAPP751 SFAD(SmaI/HindIII−平滑末端、2400bp)、AC:X06989(09.01.2003と同様)、(nt:32−2400)K670N、M671Lを有する、ヌクレオチド4983−6112は、MMTHYGP、AC:M12379(27.4.1993と同様)、XhoI−PolyA部位(エキソンIV))。
【0067】
PSEN2mut構築物:FAD突然変異N141IをヒトPSEN2 cDNA(配列番号:9、AC:L43964)に導入した。トランスジェニックマウスに発現させるために、マウスプリオン遺伝子に基づくベクターを使用した(pPrPHG)(Fischer et al., 1996; Borchelt et al., 1996)。プリオン遺伝子コード領域を包含するKpnI−NarIフラグメントを欠失させ、独特なScel部位に置換えた。平滑末端ライゲーションによりプレセニリン2コード配列を挿入し、挿入部位の配列決定により検証した。
【0068】
Mab11構築物:ヒトAbペプチドに特異性を有するアイソタイプγ1の免疫グロブリン(Ig)重鎖(H)をコードするcDNA(配列番号:10)およびヒトAbペプチドに特異性を有するアイソタイプκの軽鎖(L)をコードするcDNA(配列番号:11)を使用した[Bardroff, M. et.al., Anti-amyloid beta antibodies and their use。国際公開公報第03070760号]。表1のプライマーを使用したPCR反応でcDNAを増幅させた。pHSE3’ベクターへの部位特異的挿入のための5’プライマーはSalI(または適合性のXhoI)部位を含み、5’プライマーはBamHI(または適合性のBglII)部位を含む[Pircher, H., et al., T cell tolerance to Mlsa encoded antigens in T cell receptor V beta 8.1 chain transgenic mice. Embo J, 1989. 8(3): p.719-27.]。PCR増幅されたcDNAは、SalIおよびBamHIの両方の制限酵素で最初に酵素的に切断し、次に、ベクターpHSE3’の対応する部位に個別に挿入した。pHSE3’でのIg cDNAの発現は、MHCクラスI遺伝子H−2kのマウスプロモーターによりドライブされ、クローニングされた遺伝子の3’に位置するマウスIgH遺伝子エンハンサーにより高まる[Pircher, H., et al., T cell tolerance to Mlsa encoded antigens in T cell receptor V beta 8.1 chain transgenic mice. Embo J, 1989. 8(3): p. 719-27.]。この発現ベクターは、トランスジェニックマウスのTおよびBリンパ球における対応する挿入された遺伝子産物の高レベルの産生を確実にする([Pircher, H., et al., T cell tolerance to Mlsa encoded antigens in T cell receptor V beta 8.1 chain transgenic mice. Embo J, 1989. 8(3): p.719-27.])。次に、(5’から3’方向に):H−2kプロモーター、挿入されたcDNA、ポリ−Aおよびスプライス部位ならびにIgH遺伝子エンハンサーエレメントを含む発現カセット全体を、XhoIを用いた制限酵素切断およびアガロースゲル精製によりベクターから切り出し、受精したマウス卵母細胞にマイクロインジェクションするために適切な濃度で調製した(10mM TrisHCl/0.1mM EDTAへの2μg/ml溶液、pH7)。cDNAのコード潜在性は、抗Aβ IgHおよびIgL遺伝子をコードするcDNA全体を配列決定することにより確認した。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例2.トランスジェニックマウスの作製
B6.PS2APPトランスジェニックマウス(B6.152系統)の作製:トランスジェニック動物は、本質的に以前に記載されたように作製した(Hogan CF, and Lyacy E. 1995. Manipulating the mouse embryo: a laboratory manual. Ed 2. Plainview, NY: Cold Spring Harbor Laboratory)。Thy−1−huAPP751SFADまたはPrp−huPsen2(N141I)構築物を保有する無ベクター性直鎖フラグメントを1:1の比で混合し、C57Bl/6接合子の雄性前核にマイクロインジェクションした。マイクロインジェクション後に、偽妊娠したB6CBAF1養母の卵管に生存接合子を移植した。生殖細胞系における導入遺伝子の組込みは、PCRによる導入遺伝子の検出によりF1後代で試験した。同時インジェクションされた導入遺伝子は同じ染色体部位に組込まれると一般に仮定されている(Overbeek PA, Aguilar-Cordova E, Hanten G, Schaffner DL, Patel P, Lebowitz RM, and Lieberman MW. 1991. Coinjection strategy for visual identification of transgenic mice. Transgenic Res. 1, 31-37)。
【0071】
B6.Mab11(抗Aβ IgG1トランスジェニックマウス)の作製:EP−A−1748294に以前に記載されたように、トランスジェニック動物を作製した。C57BL/6雌性ドナーから得られた、受精した卵母細胞に、前節記載のIgHおよびIgL遺伝子をコードする精製XhoIフラグメント(Mab11構築物)の1:1混合物をマイクロインジェクションして、B6.Mab11動物を得た。マイクロインジェクション後に、偽妊娠したB6CBAF1養母の卵管に生存接合子を移植した。生殖細胞系における導入遺伝子の組込みは、PCRによる導入遺伝子の検出によりF1後代で試験した。同時インジェクションされた導入遺伝子は同じ染色体部位に組込まれると一般に仮定されている(Overbeek PA, Aguilar-Cordova E, Hanten G, Schaffner DL, Patel P, Lebowitz RM, and Lieberman MW. 1991. Coinjection strategy for visual identification of transgenic mice. Transgenic Res. 1, 31-37)。全体で、トランスジェニックIgHおよびIgL遺伝子の両方を担持する5匹のダブルトランスジェニックマウスならびにIgH遺伝子のみを担持する1匹のシングルトランスジェニックマウスを作製し、繁殖させた。
【0072】
B6.Mab11.PS2APPトランスジェニックマウス(系統B6.Mab11.152)の作製:Mab11導入遺伝子についての雄性ヘテロ接合体と、huPSEN2mutおよびhuAPPSw導入遺伝子についての雌性ホモ接合体を交配することにより、Mab11についての導入遺伝子ならびにヒトPSEN2mutおよびAPPSw導入遺伝子の両方を有するトランスジェニックマウスを作製した。結果として得られた子孫は、全ての導入遺伝子についてのヘテロ接合体、またはhuAPPSwおよびhuPSEN2のみについてのヘテロ接合体のいずれかである。
【0073】
実施例3:PCR分析
導入遺伝子の存在は、10日齢マウスから採取された組織生検から単離されたゲノムDNAを使用したPCR分析により検出する。増幅されたフラグメントは、導入遺伝子に特異的であり、内因性DNA配列と交差反応しない。
【0074】
B6.PS2APPマウス(APPスウェーデン型−PS2mutダブルトランスジェニックマウス):プライマー5’−AAG TAT GTC CGC GCA GAA CAG AAG G−3’(配列番号:5)および5’−CTG AGA TAT TTG AAG GAC TTG GGG AG−3’(配列番号:6)を使用して、huAPPおよびmuThy1配列が重複した932bpのフラグメントを増幅する。同様に、プライマー5’−TCA TTG GCT TGT GTC TGA CCC T−3’(配列番号:7)および5’−GCT TTC AAC GTC AGT AGG ACA A−3’(配列番号:8)を使用して、huPSEN2mutおよびプリオン配列が重複した327bpのフラグメントを増幅する。huPSEN2およびhuAPPSw導入遺伝子は常に同時分離される。トークリッピング(toe clipping)組織から得られた1μl(約100ng)の総DNAを用いて以下の条件でPCR反応を行った:95°3分、35×[95°30秒、60°1分、72°1分]、72°5分。huAPP導入遺伝子に関する932bpおよびhuPS2導入遺伝子に関する327bpのPCR増幅されたDNAフラグメントを1.8%アガロースゲルで視覚化した。
【0075】
B6.Mab11マウス(Mab11ダブルトランスジェニックマウス):特異的プライマーを用いて、尾生検から調製したゲノムDNAを増幅することにより、これらのマイクロインジェクションされた胚から生まれた子を導入遺伝子の存在についてスクリーニングした。使用したプライマーを表2に示す。尾生検から得られた1μl(約100ng)の総DNAを使用して、以下の条件でPCR反応を行った。90°1分、30×[94°10秒、64°30秒、72°90秒]、72°7分。それぞれ約1270bpおよび660bpのPCR増幅されたDNAフラグメントを、トランスジェニックIgHおよびIgL遺伝子について別々に1.5%アガロースゲルで最終的に視覚化した。
【0076】
【表3】

【0077】
MAB11.PS2APPマウス(図2):マルチプレックスPCR反応においてMHCプロモーター領域に特異的なプライマー5’−ATG AAT TCA CAG TTT CAC TTC TGC ACC−3’(配列番号:16)およびそれぞれγ鎖およびκ鎖に特異的なプライマー5’−TGT ACT CCT TGC CAT TCA GC−3’(配列番号:17)および5’−GCT CAT CAG ATG GCG GGA AG−3’(配列番号:18)をhuPSEN2プライマー(配列番号:7および8)に添加する。全ての導入遺伝子の存在下で、それぞれhuPSEN2、huIg重鎖およびhuIg軽鎖導入遺伝子について327bp、600bpおよび1200bpの異なるサイズの三つのPCR産物を増幅する。
【0078】
トークリッピング組織から得られた1.5μl(約150ng)の総DNAを用いて以下の条件でPCR反応を行った:95°1分、30×[95°30秒、62°40秒、72°80秒]、72°7分。それぞれhuPS2、IgHおよびIgL導入遺伝子についての327bp、約660bpおよび1200bpのPCR増幅されたDNAフラグメントを1.5%アガロースゲルで視覚化した。
【0079】
実施例4:免疫組織化学
Fluothane(登録商標)で麻酔された8月齢マウス(野生型マウス(C57Bl/6)、Mab11トランスジェニックマウス、PS2(N141I)/APPswダブルトランスジェニックマウスおよびPS2(N141I)/APPsw/Mab11四重トランスジェニックマウス)を断頭し、脳を2分し、ドライアイス中でスナップ凍結(snap frozen)した。PaxinosおよびFranklinにしたがって、Leica CM3050 Sクリオスタットを用いて厚さ公称20μmおよび−18℃で、約1.92から1.2mm外側の傍矢状クリオスタット切片を切り出し、Superfrost Plus(商標)スライドにマウントし、−20℃で保存した。アミロイド斑の染色は、当技術分野の現況の免疫蛍光染色プロトコールにより、またはアミロイド斑に特異的な色素であるチオフラビン−Sを用いた染色により行った。簡潔には、切片をPBS中で水和させ、−20℃で2分間予冷した100%アセトンで処理した。PBSを用いた洗浄を2分間2回行い、続いて2%ウシ血清アルブミンおよび2%卵アルブミンのPBS溶液中で15分間インキュベーションすることにより非特異的結合部位をブロッキングし、続いてPBS洗浄およびAlexa488フルオロホア(Molecular Probes)wにコンジュゲーションした高親和性マウスモノクローナル抗体(BAP−2)と共にインキュベーションし、0.5mg/mlおよび室温で1時間インキュベーションした。チオフラビン−Sを用いた染色は、0.0125%でエタノール/PBS(40/60vol%)中で行った。再蒸留水中でスライドをすすいだ後、蛍光マウント用媒質(S3023, DAKO)を用いてカバーガラスをマウントした。8月齢B6.MAB11.152およびB6.152の結果を同腹仔対照と共に図8(BAP−2)および図9(チオフラビン−S)に示すが、B6.MAB11.152マウスにおけるアミロイド沈着の完全な不在が実証される。
【0080】
B6.MAB11.152(20月齢)マウスおよびB6.152マウス(20月齢)の皮質由来で海馬近くの組織スライドを、8月齢動物について上に記載したように調製した。組織スライドを以下のように染色した:
1. 10.0μg/mlのラット/L抗マウスCD31(Serotec, ID:1102)濃度のPBS(pH7.4)+power Block(1×)+10%ヤギ血清(pH7.4)溶液、室温で1hインキュベーション、DakoCytomation洗浄緩衝液(トリス緩衝液塩化ナトリウム溶液+Tween20)で3回すすぐ
2. ヤギ/抗ラットIgG(H+L)ALEXA488(Molecular Probes, ID:1254)をPBS(pH7.4)+10%ヤギ血清(pH7.4)に1:100希釈したもの、室温で1hインキュベーション;DakoCytomation洗浄緩衝液(トリス緩衝液塩化ナトリウム溶液+Tween20)で3回すすぐ
3. 5.0μg/mlのマウス/BAP−2a ALEXA555(EM Labor, ID:1296)濃度のPBS(pH7.4)+power block(1×)+10%ヤギ血清(pH7.4)溶液、室温で1hインキュベーション;DakoCytomation洗浄緩衝液(トリス緩衝液塩化ナトリウム溶液+Tween20)で3回すすぐ
【0081】
スライドをDAPIで5分間洗浄し、次にDakoCytomation洗浄緩衝液で2回すすぐ、次に、4mM CuSO4・5H2Oの50mM CH3COONH4溶液(pH5.0)で30分間インキュベーションした。再蒸留水中でスライドをすすいだ後、蛍光マウント用媒質(S3023, DAKO)を用いてカバーガラスをマウントした。
【0082】
図14〜15に結果を示す。B6.MAB11.152マウスの皮質の細い微小管に時に血管アミロイド沈着がある。しかし、同齢のB6.152マウスは皮質微小管の周りに血管アミロイドを示さなかった。B6.MAB11.152マウスおよびB6.152マウスの間では、脳膜血管および心室血管などのより大型の血管に観察された血管アミロイドーシスの程度に明らかな差はなかった。
【0083】
実施例5:ウエスタンブロット分析およびAβの測定
ウエスタンブロット分析
総タンパク質抽出物15μgをSDS−PAGEにより分画し、続いてニトロセルロース膜(Amersham, Hybond)に移行させた。Aβの検出のために、膜をPBS(8.1mMリン酸水素二ナトリウム、1.5mMリン酸二水素カリウム、137mM塩化ナトリウム、2.7mM塩化カリウム)中で95℃で5分間加熱してエピトープの変性およびエピトープの提示を増加させ、5%(w/v)の脱脂ドライミルク濃度のPBST(PBSおよび0.05%(v/v)Tween 20)溶液でブロッキングし、一次抗体と共に4℃で一晩インキュベーションした。APPの検出のために、一次抗体WO−2(Ida et al., J Biol Chem. 1996, 271(37):22908-l)を濃度1μg/mlで使用した。プレセニリン−2の検出のために、アミノ末端フラグメントを検出するモノクローナル抗体PST−20を、タウのために抗体Tau−5(Invitrogen)を、総APPのために抗APP−CT20抗体(Calbiochem)を、ヒトAPPのために、ヒトAPPに特異的な抗体WO−2を使用した(Loetscher et al. J Biol Chem. 1997 Aug 15;272(33):20655-9)。全ての洗浄工程は、4℃でPBSTを用いて行った。一次抗体の結合は、ホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲーションした抗IgG抗体(Amersham)に続いて、製造業者の説明書にしたがいECL検出システム(Amersham)により明らかにした。
【0084】
Aβの測定
プロテアーゼインヒビターのカクテル(Complete(商標), Roche Diagnostics GmbH, Mannheim-Germany)を含有する10容(w/v)の9M尿素、50mMトリス−HCl(pH7.4)中で一つの脳半球をホモジェナイズした。4℃で5分間、1500gで遠心分離することにより細胞の破片を除去した。BCA Protein Assay(Pierce, USA)を使用して上清中のタンパク質濃度を測定した。
【0085】
Czechらが記載したように、液相電気化学発光(LPECL)を使用して脳ホモジェネート中のAβ40およびAβ42レベルを測定した(J Neurochem, 2007. 101(4): 929-36)。簡潔には、M−280常磁性ビーズ(Bioveris)をアッセイ緩衝液(50mM Tris、60mM NaCl、0.5% BSA、1% Tween20、pH7.4)で希釈した。脳抽出物50μlを室温で50μlのビーズおよび25μlのラベル化抗体(Aβ1−40の検出のために6E10−bioおよびBAP24−tag、ならびにAβ1−42の検出のために6E10−bioおよびBAP24−TAG)と共に最終容積250μlで3時間静かに振盪しながらインキュベーションした。M-Series M8分析装置(Bioveris)を使用してECLを定量した。アッセイ緩衝液で脳ホモジェネートを様々に希釈したものを測定して直線状のシグナル応答を保証し、合成標準Aβ1−40およびAβ1−42ペプチド(Bachem)と比較した。Aβペプチドを濃度1mg/mlでDMSOに溶かし、小分けし、−80℃で凍結保存した。結果は、それぞれAβ1−40およびAβ1−42の標準曲線と対比させて脳ホモジェネート1mgあたりのngとして表現した。各試料希釈について2回の繰り返しで測定を行い、少なくとも2回繰り返した。
【0086】
実施例6:B6.mab11.152マウスにおけるmab11のqRT−PCR
脾臓全体を細かく切ったものに70μM細胞ストレーナーを通過させることにより脾臓細胞を単離し、RNS抽出のために系列希釈した。皮質からレーザ顕微解剖で脳試料を採取し、小脳および海馬台を用意し、RNAlater(登録商標)に収集した。Qiagen製RNAeasyキットを使用してRNAを抽出した。QuantiTectプローブRT−PCRキット(Qiagen)でPCRを行った。製造業者の説明書に準じてTaqMan(登録商標)アッセイ(Applied Biosystems Inc)を行った。プローブは、muIGH6_Mm01718956_m1(IgM=B細胞マーカー)、muAPP Mm00431827_m1(脳のための参照遺伝子)、huHC_custom(mab11 IgG1構築物に基づきABIが注文生産)、およびhuLC_custom(mab11 Igκ構築物に基づきABIが注文生産)であった。
【0087】
LC480(Roche Diagnostics)でPCRを行った。ターゲットRNAの相対定量はΔCt法により行った。非トランスジェニックマウスからの脳顕微解剖は、Mab11 IgHおよびIgK RNAに関する陽性シグナルを与えなかった。B6.mab11.152マウスについての結果を表3および5に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
野生型マウスおよびトランスジェニックマウスにおける内因性参照遺伝子IgMおよびCD20についての発現は細胞数に依存した。トランスジェニックマウスのみにおいて、huIgについての強く細胞数に依存するシグナルが見られた。野生型マウスではアッセイバックグラウンドに比べてシグナルが検出されなかった(表4および5参照)。
【0090】
【表5】

【0091】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノムが、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはヒトAPPロンドン型タンパク質をコードし、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列;
b)N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質をコードし、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列;
c)アミロイドペプチドに対する抗体の軽鎖をコードし、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列および;
d)該抗体の重鎖をコードし、第三のプロモーターまたは第四のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニックDNA配列
を含む、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
第三および第四のトランスジェニックDNA配列が、抗Aβ抗体Mab11の軽鎖および重鎖をコードする、請求項1記載のトランスジェニック動物。
【請求項3】
第一および第二のプロモーターが、ニューロンのプロモーターである、請求項1または2のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
第一および第二のプロモーターが、脳特異的プロモーターである、請求項1または2のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項5】
第三および/または第四のプロモーターが、MHCクラスI遺伝子のプロモーターである、請求項1〜4のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項6】
第三および/または第四のプロモーターが、IgHエンハンサーと組合されている、請求項1〜5のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項7】
少なくとも一つのトランスジェニックDNA配列についてホモ接合性である、請求項1〜6のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項8】
非ヒト哺乳動物である、請求項1〜7のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項9】
マウスである、請求項1〜8のいずれか一項記載のトランスジェニック動物。
【請求項10】
同一または別の遺伝子型の動物を用いた繁殖により得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の非ヒトトランスジェニック動物の子孫。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項記載の非ヒトトランスジェニック動物または請求項10記載のその子孫から得られる細胞系または初代細胞培養物。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項記載の非ヒトトランスジェニック動物または請求項10記載のその子孫から得られる組織もしくは器官移植片またはそれらの培養物。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項記載の非ヒトトランスジェニック動物または請求項10記載のその子孫から得られる組織または細胞抽出物。
【請求項14】
ゲノムが、ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、ならびにβアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードするトランスジェニックDNAを含むトランスジェニック非ヒト動物を発生させるための方法であって、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型をコードする第一のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物およびN141I置換を有するヒトプレセニリン2タンパク質をコードする第二のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
b)アミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードする第三のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物および該ヒト抗体の重鎖をコードする第四のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
c)a)およびb)のトランスジェニック動物を交配することによって、ゲノムが、ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、βアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖をコードするトランスジェニックDNAを含む四重トランスジェニック非ヒト動物を作製すること
を含む方法。
【請求項15】
ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、ならびに(ヒト)βアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖を発現するトランスジェニック非ヒト動物を発生させるための方法であって、
a)ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型をコードし、第一のプロモーターに作動可能に連結された第一のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物およびN141I置換を有するヒトプレセニリン2タンパク質をコードし、第二のプロモーターに作動可能に連結された第二のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
b)ヒトアミロイドペプチドに対するヒト抗体の軽鎖をコードし、第三のプロモーターに作動可能に連結された第三のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物および該ヒト抗体の重鎖をコードし、第四のプロモーターに作動可能に連結された第四のトランスジェニックDNA配列を含む遺伝子構築物を非ヒト接合子または非ヒト胚性幹細胞に同時注入すること、ならびに該接合子または胚性幹細胞からダブルトランスジェニック非ヒト動物を発生させること;
c)a)およびb)のトランスジェニック動物を交配することによって、ヒトAPPスウェーデン型またはAPPロンドン型、N141I置換を含むヒトプレセニリン2タンパク質、ならびにβアミロイドペプチドに対するヒト抗体の重鎖および軽鎖を発現する四重トランスジェニック非ヒト動物を作製すること
を含む方法。
【請求項16】
第一および第二のプロモーターが、ニューロンのプロモーターである、請求項15記載の作製法。
【請求項17】
第一および第二のプロモーターが、脳特異的プロモーターである、請求項15記載の作製法。
【請求項18】
第三および第四のトランスジェニックDNA配列が、抗Aβ抗体Mab11の軽鎖および重鎖をコードする、請求項14〜17のいずれか一項記載の作製法。
【請求項19】
第一のプロモーターが、Thy1.2糖タンパク質プロモーターである、請求項14〜18のいずれか一項記載の作製法。
【請求項20】
第二のプロモーターが、プリオン遺伝子である、請求項14〜19のいずれか一項記載の作製法。
【請求項21】
第三および/または第四のプロモーターが、MHCクラスI遺伝子のプロモーターである、請求項14〜20のいずれか一項記載の作製法。
【請求項22】
請求項14〜21のいずれか一項記載の方法により作製される四重トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項23】
アルツハイマー病の治療のためのモデルとしての、請求項1〜9および22のいずれか一項記載の四重トランスジェニック非ヒト動物の使用。
【請求項24】
アルツハイマー病の予防のためのモデルとしての、請求項1〜9および22のいずれか一項記載の四重トランスジェニック非ヒト動物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図10A】
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【図10B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図14F】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【図15F】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−501955(P2011−501955A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531447(P2010−531447)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008971
【国際公開番号】WO2009/056257
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】