説明

回収型観測機器

【課題】 回収時に確実にロッドを折り畳むことができて、回収が容易な回収型観測機器を提供する。
【解決手段】 フロート101と、ロッド・アッセンブリ107と、重り部材113とを重ねて配置する。ロッド・アッセンブリ107は、設置状態で横方向に延びる複数本のロッド103及びこれらの基部を取付機構117を介して取り付けたベース105を備えている。フロートとベースとは、1本以上のケーブル109aで連結する。フロートは重り部材に切り離し構造111を介して連結する。取付機構117は、回収時にロッド103が横方向に延びた状態から下向きに向くようにロッド103の基部を回動可能に支持する回動機構121を備えている。切り離し構造が切り離し状態になってからケーブルに張力が発生するまでの間に、フロートの上昇加速度が、ロッドを前記逆の方向に向かわせるきっかけとなる力をロッド・アッセンブリに与えることができるように1本以上のケーブルの長さとフロートの浮力を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底面、地上の谷底や地中の縦穴の底部、河床、湖底或いは水槽等に設置されて観測を行い、観測データを記憶していて、回収時には浮上させて回収を行い、回収後に観測データを入手する回収型観測機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のものとして、センサとこのセンサで得られた信号を処理して記憶する信号処理装置を内部に備えて、浮力により上昇するフロートと、該フロートに遠隔制御により切り離し可能な切り離し構造を介して取り付けられた重り部材とを備え、使用時には重り部材の重量によって設置面上に設置され、回収時には切り離し構造が切り離し状態になってフロートがその浮力により上昇するように構成されている回収型観測機器が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このような構造の回収型観測機器では、センサがフロート内または外壁に取り付けられているので、いずれの方向からの検出信号なのか判断が難しく、また信号の検出範囲が狭い問題点があった。
【0004】
このような問題点を改善するものとして、例えば、Hiroaki Toh, Tadanori Goto 及び Yozo Hamanoが「A new seafloor electromagnetic station with an Overhauser magnetometer, a magnetotelluric variograph and an acoustic telemetry modem」のタイトルで、Earth Planets Space, Vol. 50 (Nos. 11, 12), pp. 895-903, 1998に発表した論文(非特許文献1)の図1には、海底に設置されて、回収時にはフロートの浮力により海上に浮上するように構成された回収型観測機器の一例の構造が示されている。
【0005】
図7に、この種の従来の回収型観測機器の構造の一例を示す。図7に示す従来の回収型観測機器は、図示しないが信号処理装置を内部に備えて、浮力により上昇するフロート1と、設置状態においてフロート1が上昇する方向と直交する横方向に延びる細長い複数本のロッド3及びこれら複数本のロッド3の基部がそれぞれ一体に取り付けられるベース5を備えたロッド・アッセンブリ7と、フロート1とベース5とを連結する連結機構9と、フロート1に遠隔制御により切り離し可能な切り離し構造11を介して取り付けられた重り部材13とを備えている。このような回収型観測機器は、使用時には複数本のロッド3が横方向に延びた状態で、重り部材13の重量によって海底面よりなる設置面15上に設置され、回収時には切り離し構造11が切り離し状態になってフロート1とロッド・アッセンブリ7とがフロートの浮力により一緒に上昇するようになっている。
【0006】
このような構造の回収型観測機器は、フロート1の下のベース5から複数本のロッド3が放射方向に延びていて、これらロッド3にそれぞれセンサが設けられているので、いずれの方向からの検出信号なのか判断し易く、また長さをもつ各ロッド3により検出範囲が広い利点がある。
【0007】
しかしながら、このような構造の回収型観測機器では、例えば海底に設置して使用した場合、重り部材13を切り離しての回収時に、フロート1とロッド・アッセンブリ7とが接近して一体になっているので、波や海流によりこの回収型観測機器が流されて回収が難しくなる問題点がある。また、このような構造の回収型観測機器では、複数本のロッド3を放射方向に延ばした状態で回収が行われるので、海面上にフロート1が浮上した際に船で回収を行おうとすると、フロート1と船との間にロッド3が存在して間隔があいており、このため船に当たる波の折り返しでフロート1が船から離れる方向に流され、この回収型観測機器の回収が行い難くなる問題点がある。さらに、回収時に各ロッド3が放射方向に延びていて、いずれかのロッド3が船に当たり、折れ易くなる問題点がある。
【0008】
このような各ロッド3による問題点を解決するには、回収時に各ロッド3を折り畳めばよい。しかしながら、回収時に各ロッド3を折り畳む従来技術は存在しない。海で使用する錨の分野には、錨の爪部材を折り畳み機構で折り畳んで回収する技術が開示されている(例えば、特許文献2及び3参照。)。
【特許文献1】特開2000−205898号公報 図1
【特許文献2】特開2005−29134号公報 図1
【特許文献3】特開平11−301575号方向 図1
【非特許文献1】Hiroaki Toh, Tadanori Goto 及び Yozo Hamano著「A new seafloor electromagnetic station with an Overhauser magnetometer, a magnetotelluric variograph and an acoustic telemetry modem」、Earth Planets Space, Vol. 50 (Nos. 11, 12), pp. 895-903, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来から錨の爪部材に採用されているような折り畳み機構で折り畳む構造を回収型観測機器に適用しようとしても、錨のように鎖を介して牽引力を加えることができない。したがってこのような錨で採用されているような牽引力を必要とする機構を、そのまま採用することはできない。また錨の折り畳み機構では、その構造から各ロッド3がスムーズに折り畳まれない問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、牽引力を必要とすることなく、回収時に確実にロッドを折り畳むことができて、回収が容易な回収型観測機器を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、回収時に海流や波で回収型観測機器が流され難く、しかもロッドが損傷を受けるのを防止できる回収型観測機器を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、フロートとロッド・アッセンブリとの間に配置するケーブルの本数を1本にすることができる回収型観測機器を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、回収時にフロートに対してロッド・アッセンブリをバランスよく吊り下げて上昇させることができる回収型観測機器を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、海底で使用された場合に大きな効果を発揮する回収型観測機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の回収型観測機器は、信号処理装置を内部に備えて、浮力により上昇するフロートを備えている。また、設置状態においてフロートが上昇する方向と直交する横方向に延びる細長い複数本のロッド及びこれら複数本のロッドの基部がそれぞれ取付機構を介して取り付けられるベースを備えたロッド・アッセンブリを備えている。フロートとベースは連結機構で連結されている。フロートには、遠隔制御により切り離し可能な切り離し構造を介して重り部材が取り付けられている。使用時には、複数本のロッドが横方向に延びた状態で、重り部材の重量によって設置面上に設置されている。回収時には、切り離し構造が切り離し状態になってフロートとロッド・アッセンブリとがフロートの浮力により一緒に上昇するように構成されている。特に本発明の回収型観測機器は、フロートとベースとを連結する連結機構は、一端がフロートに接続され他端がベースに接続された1本以上のケーブルを備えている。取付機構は、回収時にロッドが横方向に延びている状態からフロートが上昇する方向とは逆の方向に向くようにロッドの基部を回動可能に支持する回動機構を備えている。また取付機構は、重り部材がフロートに対して切り離し構造を介して取り付けられているときに、回動機構が動作不能になってロッドが横方向から逆の方向に回動しないように構成されている。更に、切り離し構造が切り離し状態になってからケーブルに張力が発生するまでの間に、フロートの上昇加速度が、ロッドを逆の方向に向かわせるきっかけとなる力をロッド・アッセンブリに与えることができるように1本以上のケーブルの長さとフロートの浮力が定められている。
【0016】
ロッド・アッセンブリを回収する場合に、フロートと重り部材とが切り離されてフロートが上昇する際には、ケーブルが真っ直ぐに延びてケーブルに張力が発生するまでの間に、フロートの上昇速度は増加する。この速度の増加は、ケーブルを介して下方に連結されたロッド・アッセンブリを引き上げる力を増加させる。したがって本発明によれば、ケーブルの長さとフロートの浮力を適宜に定めることにより、ケーブルが真っ直ぐになるまでの間(張力が発生するまでの間)に増加するフロートの速度を、ロッドを下方(逆の方向)に向かわせるきっかけとなる力を発生するのに必要な程度まで増加させることができるので、外部から牽引力をロッド・アッセンブリに加えることなく、フロートの浮力だけで、初期にロッドを下方に回動させるのに必要な力をロッドに与えることができる。
【0017】
また、フロートとロッド・アッセンブリとを連結している1本以上のケーブルは、回収時に上下方向に延びてフロートとロッド・アッセンブリとの間に間隔をあける。例えば、海であれば海面に近い位置の海水の流速と、ある程度海面から下がった海中の海水の流速には差がある。そのためケーブルの下方に配置されたロッド・アッセンブリがアンカに似た重りの効果を発揮し、フロートとロッド・アッセンブリの移動が抑制される。その結果、本発明の構造によれば、フロートが海上に浮いた状態になった後、フロートが流されて機器の回収が不能になるといったことがないという効果が得られる。
【0018】
しかも本発明の構造によれば、回収時に各ロッドが下向きに折り畳まれているので、ロッドが回収の邪魔になることがなく、回収型観測機器の回収が容易になる。
【0019】
1本以上のケーブルの本数は任意である。ケーブルは、フロートとベースとの間に折り畳まれた状態で収容すればよく、長いケーブルを使用することも可能である。
【0020】
また、1本以上のケーブルが、フロートとベースとを連結する連結手段と、ベースからフロートへの信号の伝達手段の両方を兼ね備えていれば、信号伝達用のケーブルを別に配置する必要がなくなり、必要なケーブルの本数を少なくすることができて、機器の組立のが容易になる。またケーブルの本数が少なくなれば、ケーブルどうしが絡み合う可能性も低くなる。
【0021】
なお1本以上のケーブルを、1本とし、該1本のケーブルの一端を、フロートの径方向の中心に接続し、該1本のケーブルの他端をベースの径方向の中心に接続するのが好ましい。このようにすると、フロートが上昇する際に、ケーブルを絡ませないでロッド・アッセンブリを吊り下げることができるので、フロートをほぼ真っ直ぐ上に上昇させることができる。その結果、予定した領域にフロートを確実に上昇させることができる。
【0022】
また取付機構は、回収時にロッドが横方向に延びている状態からフロートが上昇する方向とは逆の方向に向くようにロッドの基部を回動可能に支持する回動機構を備えている。
【0023】
また、複数本のロッドには、その先端に、またはその長手方向に連続的にまたは間隔をあけてセンサを取り付けることができる。ロッドを使用することにより、検出範囲を広げることができる。
【0024】
更に、重り部材は、ロッド・アッセンブリのベースの下方に位置した状態でフロートに切り離し構造を介して取り付けることができる。この場合には、取付機構を、ベースの外周部に設けられて横方向とフロートが上昇する方向とその逆の方向に向かって開口する凹部と、凹部の対向する一対の内壁部間を延びるように配置され且つロッドの基部を回動可能に支持する支持軸を含む回動機構とを備えた構造とすることが好ましい。重り部材がフロートに取り付けられている状態では、支持軸に基部が支持されているロッドの基部寄りの一部分が重り部材と当たって、ロッドが上昇する方向とは逆の方向に回動するのを阻止し、また重り部材がフロートから切り離されてベースが重り部材から離れて上昇する方向に移動すると、支持軸を中心にして上昇する方向とは逆の方向にロッドが回動するように回動機構を構成するのが好ましい。このように回動機構を構成すると、重り部材の切り離し動作が行われるまでは、ロッドが下方に向かって下がることはない。そして重り部材の切り離し動作が行われた後は、ロッド・アッセンブリの急速な上昇とともに、ロッドを確実に下向きに回動させることができる。
【0025】
なおロッド・アッセンブリが上昇する際に、ロッドが横方向よりも上の方向に回動しないように、回動機構を構成しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ケーブルの長さとフロートの浮力を、切り離し構造が切り離し状態になってからケーブルに張力が発生するまでの間に、フロートの上昇加速度が、ロッドを逆の方向に向かわせるきっかけとなる力をロッド・アッセンブリに与えることができるように定めているので、ロッド・アッセンブリを引き上げる際に、フロートの浮力だけで、ロッドを下方に回動させるのに必要な力をロッドに確実に与えることができる。 また、フロートとロッド・アッセンブリとを連結しているケーブルが、回収時に上下方向に延びてフロートとロッド・アッセンブリとの間に間隔をあけるので、フロートが海上に浮いた状態になってから、フロートが流されて機器の回収が不能になるといったことがないという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明を実施するための最良の形態の一例を図1(A)及び(B)乃至図5(A)乃至(E)を参照して詳細に説明する。図1(A)及び(B)は本例の回収型観測機器の平面図及び側面図である。また図2は本例の回収型観測機器の斜視図である。そして図3(A)及び(B)は本例で用いているロッド・アッセンブリの斜視図及び平面図であり、図4(A)及び(B)は本例で用いているロッド・アッセンブリの各ロッドの横方向伸長状態及び折り畳み状態を示す動作状態説明図であり、図5(A)乃至(E)は本例の回収型観測機器の各段階の動作説明図である。なお、これら図1(A)及び(B)乃至図5(A)乃至(E)では、前述した図7に示した従来の構造と同様の部分には、図7に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付してある。
【0028】
本例では、海底に設置して使用する回収型観測機器を例にして説明する。この回収型観測機器は、図示しない信号処理装置を内部に有して、浮力により上昇するフロート101を備えている。フロート101は、強化プラスチックの如き合成樹脂またはステンレススチールの如き耐腐食性を有する金属材料によって製造されている。フロート101の形状は任意であるが、本例ではフロート101を単純な円柱形状のもとして図示してある。このフロート101は、所要の浮力を有するようにその大きさが定められている。フロート101の内部には、図示しないが信号処理装置とバッテリの如き電源とが内蔵されている。信号処理装置は、ロッド103に設けたセンサの出力を信号処理し、処理結果をメモリに保存する機能を備えている。
【0029】
フロート101の下には、ロッド・アッセンブリ107と重り部材113とが重ねて配置されている。ロッド・アッセンブリ107は、機器の設置状態においてフロート101が上昇する方向と直交する横方向に延びる細長い4本のロッド103と、これら4本のロッド103の基部がそれぞれ取付機構117を介して取り付けられたベース105とを備えている。なおロッド103の本数は任意である。
【0030】
各ロッド103は、先端が閉じた細長いパイプ形状を呈していて、強化プラスチック、強化カーボン、ステンレススチール等の耐腐食性を有する非磁性材料で形成されている。これらロッド103の内部には、その先端または所定の位置に、磁界や電界を測定するための1以上のセンサが内蔵されている。なおセンサの種類、センサの数、センサの配置条件は、観測の目的に応じて定まることになる。センサからの信号を伝送する信号線は、各ロッド103の基部に液密に嵌合されている図示しないブッシングを貫通して外部に引き出され、後述するケーブルを経てフロート101内の信号処理装置に接続されている。
【0031】
ベース105は、強化プラスチックの如き合成樹脂製またはステンレススチールの如き耐腐食性を有する金属製であって、円盤状を呈している。ベース105の外周には、周方向に90°間隔で4つの切り込み溝119からなる4つの凹部が設けられている。これら切り込み溝119は、横方向とフロート101が上昇する方向とその逆の方向に向かって開口する凹部を構成する。これら切り込み溝119内には、その対向する一対の内壁部間を延びるように各ロッド103の基部が挿入されている。そして、これらロッド103の基部はそれぞれ取付機構117を用いてベースに取り付けられている。
【0032】
取付機構117は、重り部材113がフロート101に対して後述する切り離し構造を介して取り付けられているときに、回動機構121が動作不能になってロッド103が横方向からフロート101が上昇する方向とは逆の方向の下向きに回動しないように構成されている。本例では、重り部材113の上面が、ロッド103の回動を阻止するために利用されている。各取付機構117は、この回収型観測機器の回収時にロッド103が横方向に延びている状態からフロート101が上昇する方向とは逆の方向(下方向)を向くように、各ロッド103の基部を回動可能に支持する支持軸を含む回動機構121を備えている。重り部材113がフロート101に取り付けられている状態では、支持軸に基部が支持されているロッド103の基部寄りの一部分が重り部材113と当たってフロート101が上昇する方向とは逆の方向にロッド103が回動するのが阻止される。また重り部材113がフロート101から切り離されて、ベース105が重り部材113から離れて上昇する方向に移動すると、回動機構121を中心にしてフロート101が上昇する方向とは逆の方向にロッド103が回動する。
【0033】
なお各取付機構117は、各ロッド103が下向きに下降した状態で、海流の流れによって、各ロッド103を上向きに上げる力がロッド103に加わった際でも、各ロッド103を横向きの状態以上に上向き方向に回転させないようにするためのストッパーまたは回動制限構造を設けてもよい。
【0034】
更にベース105の外周には、切り込み溝119に隣接して、周方向に等しい間隔をあけて2つの切り込み溝123,125が設けられている。これら切り込み溝123,125は、上下方向と周方向に開口させて設けられている。これら切り込み溝123,125の用途に付いては、順次説明する。
【0035】
フロート101とベース105とは、連結機構109を構成する4本のケーブル109aで連結されている。各ケーブル109aは、一端がフロート101に接続されており、他端が切り込み溝125の位置でベース105に接続されている。これらケーブル109aは、フロート101とベース105とを連結するための連結手段と、ベース105からフロート101への信号の伝達手段として兼用されている。すなわち本例のケーブルは、力が加わるケーブルと、信号を伝送するケーブルとが、見かけ上1本のケーブルを構成するように形成された複合構造を有している。そして4本のケーブル109aは,例えば、フロート101とベース105との間に折り畳まれた状態で収容されている。ケーブル109aは、1本でもよい。1本のケーブルだけを用いる場合には、フロート101の下面中央とベース105の中央とを連結する構造とすればよい。
【0036】
フロート101と重り部材113とは、遠隔制御により切り離し可能な切り離し構造111を介して取り付けられている。切り離し構造111は、ベース105の切り込み溝123を通って接続されている。この切り離し構造111は、例えばフロート101と重り部材113とを連結する連結部材内に少量の火薬を内蔵していて、この火薬に隣接して配置した点火具を点火させることにより火薬を爆発させて連結部材を切断する構造になっている。点火具は、フロート101の内部に設けられた無線受信器により回収船から発信された点火指令信号を受信すると、点火動作を実行する。なおこの切り離し構造111は、公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0037】
この回収型観測機器では、ケーブル109aがあるために、切り離し構造111が切り離し状態になってから、フロート101が上昇して各ケーブル109aに張力が発生するまで(ケーブル109aが真っ直ぐに延びるまで)の間に、フロート101の上昇速度が増加する。このフロート101の浮力と上昇加速度とが大きくなればなるほど、フロート101からロッド・アッセンブリ107に加わる初期の力(衝撃力)は、大きくなる。この力が、フロート101が上昇する方向とは逆の方向すなわち下向きに各ロッド103を向かわせるきっかけとなる力をロッド・アッセンブリ107に与える。したがってフロート101の浮力とケーブル109aの長さは、より大きな力が得られるように定められている。
【0038】
次に、この回収型観測機器の使用例について、図5(A)乃至(E)を参照して説明する。この回収型観測機器は、図5(A)に示すように、フロート101と重り部材113とを切り離し構造111によって連結し、各ロッド103を横向きに延ばした状態態で、海底面よりなる設置面115上に設置される。かかる状態で、各ロッド103内のセンサにより海底の地下の例えば磁界等を観測し、得られた信号をフロート101内の信号処理装置のメモリに記憶させる。なお内蔵する送受信機により、送信指令を受信すると、メモリ内に記憶したデータを無線で送信することもできる。
【0039】
所定の期間が経過して回収型観測機器を回収する時期になったら、船をこれら回収型観測機器の敷設海域に位置させて、船から切り離し信号(点火指令信号)を海底に送信する。切り離し信号を受信すると、回収型観測機器は、切り離し構造111を、図5(B)に示すように、切り離し状態にする。これによりフロート101は、図5(C)及び図5(D)に示すように、その浮力により浮上する。
【0040】
フロート101が上昇を続けて、各ケーブル109aが全体的に伸長した状態になる(ケーブルに張力が加わるようになる)と、フロート101の上昇速度に応じた力(衝撃力)が、ロッド・アッセンブリ107に与えられる。この力(衝撃力)は、各ロッド103をフロート101が上昇する方向とは逆の方向(下向き)に向かわせるきっかけを与える。別の見方をすると、フロート101の上昇速度が大きくなるほど、ロッド・アッセンブリ107のベース105が上方に引き上げられる速さが速くなり、ロッド103よりも先にベース105が上昇する。その結果、各ロッド103は、回動機構121によって、図5(E)に示すように、横方向に張り出した先端部が下向きになるように、下降して垂れ下がる。
【0041】
前述したようにこの回収型観測機器では、切り離し構造111が切り離し状態になってから各ケーブル109aに張力が発生するまでの間に、フロート101の上昇加速度が、各ロッド103をフロート101が上昇する方向とは逆の方向の下向きに向かわせるきっかけとなる力をロッド・アッセンブリ107に与えることができるように4本のケーブル109aの長さとフロート101の浮力が定められている。ちなみにケーブル109a及びロッド・アッセンブリ107の空中重量の合計が3Kgある場合には、ケーブル109aの長さを約1mとして、フロート101の浮力を10kgとすることにより、ロッド103が確実に下方に回動した状態で回収を行えることは、実験により確認されている。
【0042】
フロート101が海面に達した後は、フロート101とロッド・アッセンブリ107からなる回収型観測機器は、4本のケーブル109aが延びた状態になってフロート101とロッド・アッセンブリ107との間に間隔があけられた状態になっている。このような状態になると、海中のロッド・アッセンブリ107がアンカとしての効果を発揮する。その結果、回収時に波や海流によりフロートが流され難くなり、また回収時にこの回収型観測機器の回収が行い易くなる。しかも、回収時に各ロッド103が下向きに折り畳まれているので、各ロッド103が回収の邪魔になることがないので、回収型観測機器の回収が容易になる。
【0043】
図6は本発明に係る回収型観測機器を実施するための最良の形態の他の例の斜視図である。なお、図1乃至図5と対応する部分には、同一符号を付けて示している。
【0044】
本例の回収型観測機器では、1本以上のケーブル109aを1本とし、該1本のケーブル109aの一端が、フロート101の径方向の中心に接続され、該1本のケーブル109aの他端がベース105の径方向に接続されている。その他の構成は、前述した例と同様に構成されている。
【0045】
このようにすると、フロート101が上昇する際に、ケーブル109aを絡ませないでロッド・アッセンブリ107を吊り下げることができるので、フロート101をほぼ真っ直ぐ上に上昇させることができる。その結果、予定した領域にフロート101を確実に上昇させることができる。
【0046】
なお上記例では、この回収型観測機器として海底面に設置するものを例にして説明したが、本発明は海底で使用されるものに限定されるものではなく、地上の谷底や地中の縦穴の底部、河床、湖底或いは水槽底等に設置して観測を行う観測機器を回収する場合にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(A)及び(B)は、本発明の回収型観測機器を実施する最良の形態の一例を示す平面図及び側面図である。
【図2】本例の回収型観測機器の斜視図である。
【図3】(A)及び(B)は、本例で用いているロッド・アッセンブリの斜視図及び平面図である。
【図4】(A)及び(B)は、本例で用いているロッド・アッセンブリの各ロッドの横方向伸長状態及び折り畳み状態を示す動作状態説明図である。
【図5】(A)乃至(E)は、本例回収型観測機器の各段階の動作説明図である。
【図6】本発明の回収型観測機器を実施する最良の形態の他の例を示す斜視図である。
【図7】従来の回収型観測機器の斜視図である。
【符号の説明】
【0048】
1,101 フロート
3,103 ロッド
5,105 ベース
7,107 ロッド・アッセンブリ
9,109 連結機構
109a ケーブル
11,111 切り離し構造
13,113 重り部材
15,115 設置面
117 取付機構
119 切り込み溝
121 回動機構
123,125 切り込み溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理装置を内部に備えて、浮力により上昇するフロートと、
設置状態において前記フロートが上昇する方向と直交する横方向に延びる細長い複数本のロッド及び前記複数本のロッドの基部がそれぞれ取付機構を介して取り付けられるベースを備えたロッド・アッセンブリと、
前記フロートと前記ベースとを連結する連結機構と、
前記フロートに遠隔制御により切り離し可能な切り離し構造を介して取り付けられた重り部材とを備え、
使用時には前記複数本のロッドが前記横方向に延びた状態で、前記重り部材の重量によって設置面上に設置され、回収時には前記切り離し構造が切り離し状態になって前記フロートと前記ロッド・アッセンブリとが前記フロートの浮力により一緒に上昇するように構成されている回収型観測機器であって、
前記フロートと前記ベースとを連結する前記連結機構は、一端が前記フロートに接続され他端が前記ベースに接続された1本以上のケーブルを備えており、
前記取付機構は、前記回収時に前記ロッドが前記横方向に延びている状態から前記フロートが上昇する方向とは逆の方向に向くように前記ロッドの前記基部を回動可能に支持する回動機構を備えており、
前記取付機構は、前記重り部材が前記フロートに対して前記切り離し構造を介して取り付けられているときに、前記回動機構が動作不能になって前記ロッドが前記横方向から前記逆の方向に回動しないように構成されており、
前記切り離し構造が切り離し状態になってから前記ケーブルに張力が発生するまでの間に、前記フロートの上昇加速度が、前記ロッドを前記逆の方向に向かわせるきっかけとなる力を前記ロッド・アッセンブリに与えることができるように前記1本以上のケーブルの長さと前記フロートの浮力が定められていることを特徴とする回収型観測機器。
【請求項2】
前記1本以上のケーブルは、前記フロートと前記ベースとの間に折り畳まれた状態で収容されていることを特徴とする請求項1に記載の回収型観測機器。
【請求項3】
前記1本以上のケーブルは、前記フロートと前記ベースとの連結手段と、前記ベースから前記フロートへの信号の伝達手段としての両方の機能を兼ね備えていることを特徴とする請求項2に記載の回収型観測機器。
【請求項4】
前記1本以上のケーブルは、1本であり、
前記1本のケーブルの一端は、前記フロートの径方向の中心に接続され、前記1本のケーブルの他端は前記ベースの径方向の中心に接続されている特徴とする請求項2または3に記載の回収型観測機器。
【請求項5】
前記複数本のロッドの前記基部を前記ベースに取り付ける複数の前記取付機構が、前記ベースの前記周方向に所定の間隔をあけて前記ベースに対して設けられている請求項1に記載の回収型観測機器。
【請求項6】
前記複数本のロッドには、その先端に、またはその長手方向に連続的にまたは間隔をあけてセンサが取り付けられている請求項1に記載の回収型観測機器。
【請求項7】
前記重り部材は、前記ロッド・アッセンブリの前記ベースの下方に位置した状態で前記フロートに前記切り離し構造を介して取り付けられており、
前記取付機構は、前記ベースの外周部に設けられて前記横方向と前記フロートが上昇する方向とその逆の方向に向かって開口する凹部と、前記凹部の対向する一対の内壁部間を延びるように配置され且つ前記ロッドの基部を回動可能に支持する支持軸を含む回動機構とを備えており、
前記回動機構は、前記重り部材が前記フロートに取り付けられている状態では、前記支持軸に前記基部が支持されている前記ロッドの前記基部寄りの一部分が前記重り部材と当たって前記ロッドが前記上昇する方向とは逆の方向に回動するのが阻止され、前記重り部材が前記フロートから切り離されて前記ベースが前記重り部材から離れて前記上昇する方向に移動すると、前記支持軸を中心にして前記上昇する方向とは逆の方向に前記ロッドが回動するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項に記載の回収型観測機器。
【請求項8】
前記重り部材の前記設置面は海底面であり、機器全体が前記海底面上に設置されるものであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の回収型観測機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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