説明

回復プロセスを促進するための機器

本発明は、罹患身体部位(10)に電磁場を生成するための機能的発電機(62)に結合されるコイル装置(36)と、その入力インタフェース(14)に伝えられる信号にしたがって、機能的発電機(62)により生成される電圧曲線に影響を与えるための制御ユニット(12)と、罹患身体部位(10)の特性を検出するためのセンサアレイ(16)と、罹患身体部位の検出された特性の特性信号を制御ユニットへ伝えるためにセンサアレイ(16)に結合される送信デバイス(18)とを備える、回復プロセスを促進するための機器に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回復プロセス(healing process)を促進するための機器に関する。
【背景技術】
【0002】
軟組織、筋肉組織、および、皮膚の大きい創傷の処置のための電磁場の使用は、しばしば、回復プロセスをかなり加速させることができる。特に、抗生物質治療に耐性を示す疾病が存在し、この疾病は、例えばMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)または腸球菌やシュードモナスなどの他の細菌によって引き起こされる場合がある。電磁場の印加によってこの治療耐性(therapy resistance)に打ち勝ち得る。
【0003】
電磁気的な治療は、例えば、回復が悪い骨折の処置、および、大部分が細菌によって誘発される関連する後遺症の処置において成功してきた。電磁場を用いると、いわゆる“静脈性潰瘍”(下腿潰瘍)をうまく処置することもできる。また、下腿潰瘍や火傷などの皮膚の大きな慢性創傷の処置などの皮膚科的な適用は、電磁場治療に関連して重要な役割を果たす。例えば、高い度合いの火傷には、必要な皮膚移植を行なうことがある。この場合、外的に印加される磁場によって移植物を生成することができ、また、移植後、これらの磁場によって回復をサポートできる。
【0004】
印加される交番磁場は、例えば、1〜5mTの磁場強度と、1〜20Hzの周波数を有する正弦波形とを有する。磁場の生成は、対応する交流電流によって励磁される磁気コイルを使用して行なわれる。用途および磁場の所望の方向に応じて、異なるコイル装置、例えばソレノイドコイルまたはヘルムホルツコイルが利用される場合がある。
【0005】
基本的な体内・体外調査の多数の研究では、人の結合組織および骨細胞、すなわち、線維芽細胞および骨芽細胞の成長および分化と電場および磁場の影響パラメータとの特定の相関関係が明らかになった。増殖する細胞および組織の成長は、主に電場勾配の領域、すなわち、組織と電気的に接触する電極の近傍で観察された。一方、分化する細胞の数は、磁場が浸透する組織の延在容積において、−減少する糸分裂速度で−それらの代謝および構造タンパク質の制御された合成の対応する増強に伴って成長した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、交番電磁場に基づいて機能し、罹患身体部位の回復をサポートできるとともに、様々な回復プロセスに適合できる促進機器を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的は独立請求項の特徴によって解決される。
【0008】
本発明の有利な実施形態が従属請求項に記載されている。
【0009】
本発明は、罹患身体部位に電磁場を生成するために機能的発電機(functional power generator)に結合されるコイル装置と、その入力インタフェースに伝えられる信号に応じて、機能的発電機により生成される電圧曲線に影響を与えるための制御ユニットと、罹患身体部位の特性を検出するためのセンサアレイと、罹患身体部位の検出された特性の特性信号を制御ユニットへ伝えるためにセンサアレイに結合される送信デバイスとを備える、回復プロセスを促進するための機器から成る。したがって、この促進機器は、センサアレイによって検出された特性に応じて罹患身体部位における電磁場を調整することができる。センサアレイによって検出された罹患身体部位の特定が回復プロセス中に変化する場合には、機器の調整能力により、回復プロセスを常に最適に適合させることができ、それにより、最終的に、回復プロセスの加速をもたらすことができるとともに、治療の成功を高めることができる。
【0010】
これに関連して、センサアレイがpHセンサを備えることが特に有益である。罹患身体部位の領域に存在するpH値は、組織の生化学的な質の表示である。例えば、第2度または第3度の火傷などの大きい軟組織の負傷領域または病理学的に変化する潰瘍性創傷の領域では、細菌感染の場合の化学的な抗生作用を含む包帯や皮膚移植などの治療処理の有効性を創傷のpH値の変化によって推定することができ、また、治療方法の対応する変更を実施することができる。創傷環境の治療的に最適な調整の要件は、時間的に変化できる波形(信号波形)を有する極めて低い周波数の非熱的な磁場および電場による損傷軟組織のpH値制御・改善誘導によって満たされる。pHセンサに代えて或いは加えて、他のセンサ、例えば温度センサ、伝導度センサ、及び/又は、特定の化学物質の存在及び/又は濃度を検出するためのセンサが使用されてもよい。
【0011】
本発明の1つの実施形態によれば、送信デバイスが、制御ユニットの入力インタフェースに直接接続される少なくとも1つの電気ラインを備えることが考えられる。したがって、特定の技術的な複雑さを何ら伴うことなく、センサアレイにより供給される電気信号を機能的発電機の制御ユニットへ伝えることができる。
【0012】
しかしながら、送信デバイスが、制御ユニットの入力インタフェースに割り当てられる受信器と無線通信するための少なくとも1つの送信器を備えることも実現可能である。そのような送信器は様々な構造を有してもよい。しかしながら、送信器が、センサアレイにより検出された測定値を変換して、対応する信号を制御ユニットの受信器へ送信することが重要である。送信器から制御ユニットの受信器への情報転送のための1つの選択肢は、センサアレイの測定値に応じた送信信号の能動的生成である。
【0013】
しかしながら、送信デバイスが、制御ユニットの入力インタフェースと関連付けられる読み取りデバイスによってその情報内容が検出可能な少なくとも1つのRFIDトランスポンダを備えることも考えられる。RFIDトランスポンダは、読み取りデバイスとの相互作用によって情報を“送信”のみ可能なデバイスである。このため、RFIDトランスポンダは、最終的に、読み取りデバイスによって生成される高周波電磁場を受け、それにより、RFIDトランスポンダに記憶される情報に応じて高周波電磁場を変更する。このとき、変更は読み取りデバイスによって検出される。RFIDトランスポンダのこの非常に限られた機能性に起因して、従来の能動送信器と比べて安価でありスペースが節約される。
【0014】
RFIDトランスポンダから読み取りデバイスへの情報転送を行なうことができるが、センサ装置によって供給される信号に応じてRFIDトランスポンダの読み取り可能な情報内容を変えることができる。最も簡単なケースでは、センサデバイスがRFIDトランスポンダのメモリに対して異なる電圧を印加する。この場合、前記電圧は、センサデバイスによって検出される電圧に依存、あるいは、検出される電圧自体であり、したがって、後者の場合には、センサデバイスおよび送信デバイスを一体または同一であると見なすことができる。ここで、異なる電圧により、RFIDトランスポンダのメモリの内容は、RFIDトランスポンダによって読み取りデバイスへ送信された識別表示も最終的に変えられるように変化できる。RFIDトランスポンダのメモリの内容の変化を可能にするためには、書き込み可能なRFIDトランスポンダの使用が必要である。
【0015】
しかしながら、これに代えて或いはこれに加えて、センサアレイによって供給される信号に応じて作動され或いは作動停止され得る複数のRFIDトランスポンダを設けることもできる。この場合、書き込み不能なトランスポンダで十分である。センサデバイスおよびRFIDトランスポンダに組み込まれる1つ以上の閾値回路は、異なるRFIDトランスポンダが供給電圧に応じて活性または不活性になるようにする。したがって、読み取りデバイスが電圧に応じた異なる識別表示を受けることもでき、それにより、機能的発電機は、罹患身体部位の検出された特性に合わせて調整される電圧曲線を生成する。
【0016】
センサアレイがイオン感応電界効果トランジスタを備えるようにすると、有益である。これらの半導体部品はpH値を検出することができ、また、極めて小さいバージョンのこれらの部品は、多数の疾病との関連で用いるために製造して購入することができる。
【0017】
本発明は、8の字形状によって2つの表面を規定する1つの交点を有するコイル巻線を備えるコイルをコイル装置が備え、コイル装置内を流れる電流により生成されて前記表面に広がる磁場が実質的に整流されるように前記表面が互いに対して位置合わせされるという点において、特に有利な態様で更に改善される。このようにすると、負傷した身体部位が配置される同じ方向をその磁場が有する2つの別個の誘導コイルの作用を、単一のコイルにより得ることができる。これにより、特に機械的な複雑さが減るため、適用が快適となる。
【0018】
磁場に晒されるべき罹患身体部位の両側に前記表面を配置することができるようにコイル装置を柔軟にすると有益である。使用される材料の弾性に起因し得るその柔軟な巻線により、コイルを再形成して8の字または無限の記号を得ることができる。前記再形成によってもたらされるコイルの“ループ”は、例えば肢の両側に配置されてもよい。用途に応じて、前記ループは同じサイズまたは異なるサイズを有してもよい。コイル装置は、その柔軟性のおかげにより、非常に万能に使用することもできる。コイル装置の構造に関連して、表面の互いに対する位置合わせを行なって維持するための留め具を交点から離れて面するコイル装置の2つの位置に設けることが考えられてもよい。留め具は、例えば、ベルト、スナップ、フック・ループ留め具、バックル等であってもよい。特に有利な態様では、コイル装置の交点を結合デバイスによって固定できることが考えられてもよい。そのような結合デバイスは、例えば、フック・ループ留め具またはベルトバックルを有する弾性ストラップによって実現されてもよい。交点の位置を変えることができ、したがって、表面の寸法を変えることができることが特に有益である。このようにすればコイルループの面積比率を調整できるため、磁束と観察される表面との商として規定される磁気誘導磁束密度も調整できる。誘導磁束密度の比率は、それぞれの表面の比率の逆数値である。2つのループの表面比率は、結合デバイスの可変位置決めによって交点の固定を変えることにより治療要件にしたがって選択されてもよい。例えば、身体の対象領域では、その近傍に小さい表面のコイルループを配置することにより、高い磁気誘導磁束密度が得られてもよい。一方、他方の大きい表面のコイルループに関しては、ヘルムホルツコイル効果を与えるために、小さい方の表面に対するその平行な配置が第一に考慮されなければならない。そのようなコイル装置を用いると、ヘルムホルツにしたがった2つの別個のコイルの配置に類似する2つのループのうちの一方での電流方向の空間的反転により、コイル装置の2つのループの互いに反対の磁場が整流され、それにより、特に良好で柔軟な管理可能性が得られる。それぞれの骨または軟組織の損傷の位置に合わせたコイル装置の幾何学的形状の調整中の利便性を良くすることができる。例えば、ループ形状およびサイズを変えることにより、足、膝、下肢、大腿部、骨盤、脊椎、手、前腕、上腕、顎、および、頭蓋骨部位などの処置領域に合わせてループ面を調整することができる。ループ形状およびサイズを磁場の強度に関して変えることもできる。本発明に係るコイル装置の他の特徴は、比較的強い磁場を小さい身体表面に集中させることができるように交点に近い領域で磁束密度を増大することである。したがって、膿瘍や感染などの非常に局部的な疾病を効果的に治療できる。本発明の特に好ましい実施形態によれば、コイル装置は、それが塑性特性を有するように更に発展される。コイルの柔軟性に起因して、処置されるべき身体部位に合わせてコイルを調整できる。これに対し、可塑性がコイル装置を再形成位置に保持する。したがって、塑性特性は、バックルやクランプなどの他の固定手段のためのサポートとしての役目を果たすことができ、あるいは、単にコイルの安定性を所望形状において与える。少なくとも1つの非塑性材料要素によって取り囲まれる及び/又は該非塑性材料要素中に埋め込まれる少なくとも1つの塑性材料要素によって塑性特性が与えられるようにすれば有益である。このようにすると、コイルが塑性特性を有するかどうかにかかわらず、コイルを柔軟材料から形成することができる。この場合、塑性特性は、コイル全体が再形成によってもたらされる位置にとどまるように塑性材料要素によってコイルに与えられる。これは、特に、コイル巻線と略平行に延びる塑性材料の少なくとも1つのストランドから成る、該少なくとも1つの塑性材料要素を形成することによって実現されてもよい。1つ以上のそのようなストランドは、全体的に或いは部分的にコイルの巻線と平行に延びる。このようにして形成されるコイルを製造することが特に容易である。
【0019】
本発明は、特に有利な態様において、機能的発電機が、制御ユニットの入力インタフェースに伝えられる信号に応じて、第1の高調波成分を有する実質的に純粋に高調波(virtually pure harmonic voltage)の電圧曲線、または、第1の高調波成分よりも大きい第2の高調波成分を有する異常に高調波の電圧曲線を生成するようになっているという点において更に発展される。罹患身体部位での電磁場の高調波成分は、機能的発電機によって生成される電圧曲線を変更することによって変えることができる。特に、低周波磁場の周波数を維持することができる一方で、磁場の時間微分に依存する電場を高周波まで変えることができる。このようにすると、罹患身体部位を細胞の分化を促進する略不変の低周波交番磁場に晒すことができる一方で、適切な場合には、値ごとに、特にセンサアレイにより検出されるpH値ごとに高周波成分が生成される。
【0020】
具体的には、人体における創傷回復に関して、機能的発電機は、センサアレイにより検出される7未満のpH値で1〜30Hzの周波数を有する実質的に純粋に高調波の電圧曲線と、センサアレイにより検出される7より大きいpH値で1〜30Hzの基本周波数と基本周波数の5〜50倍の生理学的に有効な高調波とを有する異常に高調波の電圧曲線とを生成できることが特に好ましい。7未満の低いpH値が処置の初めと終わりとに生じるが、回復プロセスの主要な段階、すなわち結合組織の成長段階で7を超えるpH値が観察される。この成長段階中には、創傷領域を高い電場強度に晒すことが特に有益である。一方、これは、回復プロセスの初めには必要とされず、特に、pH値が7未満の値に戻るときには処置の終わりで使用禁忌であり、そのため、細胞および組織構造の磁気的に促進される分化により、組織成長の電気的刺激をもたらすことができる。“生理学的に有効な高調波”という用語は、この文脈では、それらが検証できる効果を伴って回復プロセスに依然として影響を及ぼす強さを有することを意味する。例えば、依然として生理学的に有効なそのような高調波の強度は、基本波形の5〜15%の範囲であってもよい。
【0021】
本発明の他の好ましい実施形態によれば、中継コイルに結合される電極が罹患身体部位内或いは罹患身体部位に配置するように設けられることが考えられる。そのような電極は、創傷電極とも称され、特に抗治療疾病のケースで使用されてもよい。罹患身体部位の既存の磁場透過に加えて、中継コイルが外部磁場によっても励磁され、それにより、中継コイルに対する電極の結合に起因して、創傷領域に合わせた交番磁場の標的化された増幅印加が可能となる。
【0022】
本発明は、回復プロセスを促進するための機器に関する。しかしながら、本発明は、以下のプロセスステップ、すなわち、罹患身体部位での電磁場の生成ステップと、罹患身体部位の特性を検出するステップと、罹患身体部位の検出された特性の特性信号を機能的発電機の制御ユニットへ送信するステップと、送信された信号に応じて機能的発電機により生成される電圧曲線に影響を及ぼすステップとが大きく関与する方法として体系化することもできる。この方法の特に有利な実施形態は、罹患身体部位の特性としてpH値が測定され、及び/又は、制御ユニットへの情報の転送が少なくとも1つのRFIDトランスポンダを使用して行なわれることを特徴とする。また、方法は、特に有益な態様では、1〜30Hzの周波数を有する実質的に純粋に高調波の電圧曲線が7未満のpH値で生成されるとともに、1〜30Hzの基本周波数と基本周波数の5〜50倍の生理学的に有効な高調波とを有する異常に高調波の電圧曲線が7より大きいpH値で生成されるように具現化される。
【0023】
ここで、添付図面に関連する特に好ましい実施形態を用いて本発明を例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】その適用中における本発明に係る機器を示している。
【図2】30日にわたる第二次概念による大創傷の回復におけるpH値の典型的な経過を示している。
【図3】純粋高調波の電圧曲線を示している。
【図4】異常高調波の電圧曲線を示している。
【図5】本発明に係る機器に適したコイル装置を第1の状態で示している。
【図6】本発明に係る機器に適したコイル装置を第2の状態で示している。
【図7】本発明に係るコイル装置により生成される磁場の空間的アライメントを説明するための概略図を示している。
【図8】塑性特性を有するコイル装置の切断部分斜視図を示している。
【図9】本発明に係る機器の枠組みに適した構成である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図面の以下の説明において、同一の参照符号は同一または同等の構成要素を示している。
【0026】
図1は、その適用中における本発明に係る機器を示している。下肢に創傷領域10を伴う脚30を見ることができる。機能的発電機62によって誘導電磁場が柔軟な磁気コイル36内に生成される。より良く図示するため、柔軟なコイル36は、罹患身体部位から距離を隔てて示されている。しかしながら、実際には、磁気コイル36は、大きい創傷10の治療においては、その巻線が創傷領域10を直接に取り囲むように負傷した身体部位へ直接に向けて形成されるのが好ましい。コイル磁場のベクトルは、創傷面10を略直角に通過する。創傷のpH値を測定するためのイオン感応電界効果トランジスタの形態を成す少なくとも1つのpHセンサ16が、包帯(図示せず)または絆創膏(図示せず)によって損傷組織に直接に接触した状態で所望位置(創傷の中心または縁)に固定される。測定されたpH値は、該pH値がコイル36を励磁する電圧曲線の変調のための基準、したがって創傷10に行渡る電磁場のための基準を形成できるように、センサ16に対して電気的に接続される1つ以上のRFIDトランスポンダ18を介した転送によって或いはケーブルによって、磁気コイルの機能的発電機の制御ユニット12の入力インタフェース14へ伝えられる。RFIDトランスポンダ18と読み取りデバイスとして形成される制御ユニット12の入力インタフェース14との間での高周波電磁信号のスムーズな転送を確保するため、磁気コイル36での電磁場の生成を通信目的で短時間にわたって防ぐことが必要とされる場合がある。
【0027】
図2は、30日にわたる第二次概念による大創傷の回復におけるpH値の典型的な経過を示している。pH値が7未満の治療開始時に、壊死組織の創傷を取り除いて血管(毛細血管)の形成を促進するために、外科的デブリドマンがしばしば行なわれる。pH値は7の中性値まで上昇する。その後、4〜5日経って、血管のすぐ近傍で形成する線維芽細胞によるコラーゲン結合組織の合成が始まる。pH値が増大すると(pH>7〜8)、想定し得る皮膚移植のための生物学的および生体力学的な基盤を成す自律性肉芽組織も発現する。再上皮形成、すなわち、創傷の回復の最終段階は、負傷されていない皮膚の保護酸性外皮を特徴付ける、7未満からpH値4へと至るpH値の減少を示す。pH値に影響を与える主要因子は、細胞の酸素呼吸である。細胞内膜(ミトコンドリア)での−常磁性−O分子の吸収およびそれらのATPへのリン酸化反応−細胞のエネルギ蓄積−は、主に、電場とは異なり細胞を不変に通り抜ける磁場によって引き起こされる。呼吸連鎖の始めにおける電荷分離のための還元・酸化反応により、2つの陽子(2H)がO分子ごとに放出される。細胞外pH値の減少により、創傷領域内の血流の調節的増大を引き起こす有効な自律神経信号が形成される。
【0028】
図3および図4は、本発明に係る機器によって生成され得る信号曲線を示している。基本形は、図3によれば、高調波の割合が約1%以下で磁束密度が0.01〜5mT、周波数範囲が1〜30Hzの周波数範囲の正弦形の二相波形によって形成される。誘導される電気成分(E)は、例えば、創傷表面の半径(r)が1〜3cm、磁束密度Bが5mTにおいて、20Hzの周波数(f)を有する正弦波形で約3〜9mV/cmに達する(E=π・f・r・B)。高調波がほぼ無い電磁場のこの基本形は、7未満のpH値に対応する1mV/cm未満の比較的低い電気誘導を有する。このpH値は、例えば、治療の開始直後に、すなわち、1日目〜3日目に次第に出現する酸性膿漿に対応する。約7の上昇pH値において、結合組織の成長は細胞増殖の増大から始まる。その促進は、20Hzの誘導電磁場の不変周波数において、成長段階のための8pH値特性を測定できるまで正弦波形の立ち上がりの勾配を変化させることによる、図4に係るpH値の上昇曲線に対応する誘導電磁場の変化によって達成される。また、より大きな絶対勾配値を伴う波形の立ち下がりをドリフトすることもできる。誘導電磁場のエッジ勾配の変化dB/dtは、最大限で、1kHz、好ましくは200〜500Hz(20Hzの基本振動周波数の最大で50倍、好ましくは10〜25倍の周波数を有する高調波に対応する)の生理学的に有効な正弦波周波数に対応する。8のpH値は、皮膚移植のための生物学的基盤を形成する自律性肉芽組織の発現を特徴付ける。成長を促す電磁場の波形は、pH値の減少が成長段階の終わり及び再上皮形成の始まりを示すまで維持される。7未満のpH値における或いは更にはpH4の範囲における皮膚形成の過程では、細胞構造および組織構造の磁気誘導分化のために、時間的に対称な正弦波形に戻ることにより、組織成長の電気的刺激が最小限に抑えられなければならない。これは高調波がほぼ無い。このようにして、瘢痕ケロイドの形成などの結合組織の未分化の過度な成長が避けられる。本発明に係る機器によって刺激される瘢痕は、非閉塞性の形態を有するとともに、周囲の侵されていない皮膚の弾力機能をもたらす。
【0029】
図5は、本発明に係る機器に適したコイル装置を第1の状態で示している。図6は、本発明に係る機器に適したコイル装置を第2の状態で示している。図7は、本発明に係るコイル装置により生成される磁場の空間的アライメントを説明するための概略図を示している。コイル装置36の柔軟性を使用してコイル装置を8の字形状に配置する場合には、2つの表面40、42と交点38とが規定される。交点38は、結合デバイス60によって固定されるとともに、表面40、42の比率を変えることができるように移動できることが好ましい。例えば、ループ・フック留め具またはベルトバックルを備える弾性ベルトが結合デバイス60としての役目を果たすことができる。また、コイル装置の表面がループ・フック留め具の構成要素を形成することにより異なる位置で互いに直接に接着できるようにコイル装置の表面を設けることも実現可能である。調整を容易にするため、変動範囲内にマークまたは目盛りを設けることができる。これにより、ユーザは、交点38の特定の固定を実施したい場合にこれらを参照することができる。そのようなコイル装置36を通じて交流電流が流れる場合には、ベクトル記号44、46によって示されるように誘導磁場が反対方向を有する。コイル装置36の柔軟性のおかげにより、コイル装置を他の形状に配置することもできる。これが、罹患身体部位における一例として創傷領域10を有する脚が示されている図1に関連して示されている。表面40、42は互いに対向しており、コイルのそれぞれのセグメントに生成される磁場は同じ方向を有する。これは、コイル装置に結合された機能的発電機62も示される図7においても、すなわち、両方の表面40、42に広がる一様な磁場ベクトル44、46によって示されている。図1によれば、肢の長手方向軸に対して略垂直な罹患身体部位に磁場が広がっている。また、磁場が肢の軸に対して略平行となるように、8の字形状のコイルのループによって規定される表面を肢が通り抜けることも可能である。
【0030】
図8は、塑性特性を有するコイル装置の切断部分斜視図を示している。コイル装置36内に導電性のコイル巻線64を見ることができる。また、塑性材料の2つのストランド66がコイル巻線64と平行に設けられており、それにより、コイル装置36全体が塑性的に柔軟になる。
【0031】
図9は、本発明に係る機器の枠組みの範囲内で適用できる構成を示している。中継コイル20が示されており、中継コイルの極が創傷電極22、24に接続される。この構成は、図1〜図7に関連して説明した機器に加えて設けられてもよい。創傷領域に直接に広がる電磁場は、電圧が創傷電極22、24間に生じるように二次コイルの機能を担う中継コイル20も励磁する。前記創傷電極22、24は、創傷領域内に選択的に配置することができ、したがって、回復プロセスを有用な態様でサポートすることができる。電圧が組織適合スケールを超えないようにするべく、電圧を制限するためにサージ保護ダイオード26が設けられる。この構成に基づき、創傷の細菌感染を制御することができ、その抗生物質治療が成功する。創傷の回復を促すために所定の割合のEMF誘導が行なわれると、抗生物質治療の活性を約80%高めることができ、創傷回復に対する抗生物質の抑制効果を回避することができる。例えば最も危険な細菌のうちの1つであるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による慢性創傷の感染のケースでは、pH制御と創傷表面に(電気)接触する金属電極の更なる適用とに晒される磁気誘導の電気刺激が不可欠であることが分かってきた。細菌が浮遊する電極を用いる体外実験では、ブドウ球菌に対する抗生物質ゲンタマイシンの有効性を98%まで高めることができた。特に外科診療における高まる感染の危険を考慮しても、この発見は高い社会的・経済的価値を有する。また、中継コイル20によって生成される交流電圧を整流することもでき、あるいは、直流電圧特性を中継コイルへ部分的に伝えることもできる。この場合、陽極として作用する創傷電極は、創傷の外側に、特に健康な皮膚上に位置されなければならず、また、陰極として作用する創傷電極は創傷上に位置されなければならない。
【0032】
以上の説明、図面、および、請求項に開示される本発明の特徴は、個別での及び任意の組み合わせでの本発明の実現にとって重要となり得る。
【符号の説明】
【0033】
10 罹患身体部位
12 制御ユニット
14 入力インタフェース/読み取りデバイス/受信器
16 センサアレイ/pHセンサ
18 送信デバイス/RFIDトランスポンダ/送信器
20 中継コイル
22 創傷電極
24 創傷電極
26 サージ保護ダイオード
30 脚
36 コイル装置/磁気コイル/コイル
38 交点
40 表面
42 表面
44 磁場/磁場ベクトル/ベクトル記号
46 磁場/磁場ベクトル/ベクトル記号
48 固定手段
50 固定手段
60 結合デバイス
62 機能的発電機
64 コイル巻線
66 塑性ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回復プロセスを促進するための機器であって、
機能的発電機(62)に結合された、罹患身体部位(10)に電磁場を生成するためのコイル装置(36)と、
制御ユニット(12)であり、該制御ユニット(12)の入力インタフェース(14)に伝えられる信号に応じて、前記機能的発電機(62)により生成される電圧曲線に影響を与えるための制御ユニット(12)と、
前記罹患身体部位(10)の特性を検出するためのセンサアレイ(16)と、
前記センサアレイ(16)に結合された、前記罹患身体部位の検出された特性の特性信号を前記制御ユニットへ送信するための送信デバイス(18)と、
を備える機器。
【請求項2】
前記センサアレイがpHセンサ(16)を備えることを特徴とする、請求項1に記載の機器。
【請求項3】
前記送信デバイスが、前記制御ユニットの前記入力インタフェースに直接に接続された少なくとも1つの電気ラインを備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の機器。
【請求項4】
前記送信デバイスが、前記制御ユニット(12)の前記入力インタフェースと関連付けられる受信器(14)と無線通信するための少なくとも1つの送信器(18)を備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の機器。
【請求項5】
前記送信デバイスが少なくとも1つのRFIDトランスポンダ(18)を備え、前記RFIDトランスポンダ(18)の情報内容が、前記制御ユニット(12)の前記入力インタフェースと関連付けられる読み取りデバイス(14)によって検出され得ることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の機器。
【請求項6】
前記RFIDトランスポンダ(18)の読み取り可能な情報内容が、前記センサアレイ(16)により供給される信号に応じて変更可能であることを特徴とする、請求項5に記載の機器。
【請求項7】
前記センサアレイにより供給される信号に応じて作動され、または作動停止され得る複数のRFIDトランスポンダが設けられていることを特徴とする、請求項5または6に記載の機器。
【請求項8】
前記センサアレイ(16)がイオン感応電界効果トランジスタを備えることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の機器。
【請求項9】
前記コイル装置(36)が、8の字形状に基づいて、交点(38)を有し且つ2つの表面(40、42)を規定するコイル巻線を備えるコイルを備え、前記表面(40、42)が、前記コイル装置内を流れる電流により生成されて前記表面に広がる磁場(44、46)が実質的に整流されるように互いに対して位置合わせされていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の機器。
【請求項10】
前記表面(40、42)を前記罹患身体部位(10)の両側に配置することができるように前記コイル装置(36)が柔軟であることを特徴とする、請求項9に記載の機器。
【請求項11】
前記機能的発電機(62)が、前記制御ユニット(12)の入力インタフェース(14)に伝えられる信号に応じて、第1の高調波成分を有する実質的に純粋に高調波の電圧曲線、または、前記第1の高調波成分よりも大きい第2の高調波成分を有する異常に高調波の電圧曲線を生成することができることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の機器。
【請求項12】
前記機能的発電機(62)が、前記センサアレイにより検出される7未満のpH値で1〜30Hzの周波数を有する実質的に純粋に高調波の電圧曲線と、前記センサアレイにより検出される7より大きいpH値で1〜30Hzの基本周波数と基本周波数の5〜50倍の生理学的に有効な高調波とを有する異常に高調波の電圧曲線とを生成することができることを特徴とする、請求項11に記載の機器。
【請求項13】
中継コイル(20)に結合される電極(22、24)が前記罹患身体部位(10)内或いは罹患身体部位(10)に配置されるように設けられていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−518624(P2011−518624A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506582(P2011−506582)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002047
【国際公開番号】WO2009/132732
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(505422590)ノイエ マグネートオーデュン ゲーエムベーハー (6)
【Fターム(参考)】