回折光学素子、光学系及び光学装置
【課題】 反射を防止するとともに波長特性が良好である回折光学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】第1ピッチ(Pd)で形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材(11、12)からなる回折光学素子(110)である。また、その回折光学素子(110)の一面に、前記回折光学素子(110)を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチ(Ps)の凹凸構造(80)を有する。
【解決手段】第1ピッチ(Pd)で形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材(11、12)からなる回折光学素子(110)である。また、その回折光学素子(110)の一面に、前記回折光学素子(110)を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチ(Ps)の凹凸構造(80)を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及びその回折光学素子を使った光学系、光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子は、微細な格子構造によって透過光又は反射光を回折させ、入射光の分光や分岐又は結合などの操作を行う素子である。また、回折光学部材は、回折光学素子の格子構造を種々の形状に変調することで、集光、発散又は結像などの作用を実現することができる。
【0003】
特許文献1に開示された回折光学素子は、透明平板の一方の面に格子構造を有し、他方の面に反射防止層を成膜している。特に透過型の回折光学素子は透過率を向上させるために反射防止膜を片面の形成している。回折光学素子を透過する光の波長が例えば可視領域の400nmから750nmであると、これらの幅広い波長に対して反射を防止するため高価な真空装置を使う通常真空蒸着法によって、何層もの膜が形成される。
【0004】
一方、特許文献2に開示された回折光学素子は、Motheye(蛾の目)と呼ばれる微細な凹凸パターンを回折光学素子の片面に形成して反射防止したい波長領域の反射を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−206039号公報
【特許文献2】特開2004−145064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1又は特許文献2に示されたように、単層型の回折光学素子では所望の広波長領域(例えば可視光領域)のほぼ全域で高い回折効率を維持することができない。
【0007】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたもので、広波長領域で反射を防止するとともに波長特性が良好である回折光学素子を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1観点における回折光学素子は、第1ピッチで形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材からなる回折光学素子である。また、その回折光学素子の一面に、前記回折光学素子を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチの凹凸構造を有する。
【0009】
第2観点における光学系は、複数の光学素子を有し、光ビームを案内すると共に光ビームに作用する光学系である。また、その光学系は光学素子の少なくとも1つが第1観点の回折光学素子である。
第3観点における光学装置は、第1観点の回折光学素子を有する光学装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、反射を防止するとともに波長特性が良好である回折光学素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の回折光学素子110の概略図である。
【図2】異なる光の波長に対して複層型回折光学素子及び単層型回折光学素子の回折効率を比較したグラフである。
【図3】(a)は、ピラミッド構造であるSWS80Aの部分斜視図である。 (b)は、円錐構造であるSWS80Bの配置図である。 (c)は、円錐構造であるSWS80Bの別の配置図である。
【図4A】空気界面の反射率を示したグラフである。
【図4B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図4C】第1例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図5A】空気界面の反射率を示したグラフである。
【図5B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図5C】第2例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図6A】空気界面の反射率を示したグラフである
【図6B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図6C】第3例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図7】光学部材に貼り付けられた回折光学素子120を示した概念断面図である。
【図8】光学部材に貼り付けられた回折光学素子130を示した概念断面図である。
【図9】光学部材に貼り付けられた回折光学素子140を示した概念断面図である。
【図10】第1の実施形態の第1回折格子11及び第2回折格子12の変形例を示した図である。
【図11】(a)は、絞りDPより像面側に回折光学素子110が配置された光学系200である。 (b)は、絞りDPより物体側に回折光学素子110が配置された光学系210である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
<回折光学素子110の構成>
第1の実施形態の回折光学素子110の構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、第1の実施形態の回折光学素子110の概略図である。なお、サブ波長面(SWS:Sub-Wavelength Structured Surface)80が突起した方向を+Z軸方向とし、そのZ軸に垂直な方向をX軸及びY軸方向とする。また、図1に示されたように回折光学素子110は、第1回折格子11と、第2回折格子12と、サブ波長面80とが順次に接合されたものである。第2回折格子12とサブ波長面80とは同時に形成されてもよい。
【0013】
第1回折格子11は、Z軸方向に伸びる壁17とZ軸方向から斜めに形成された斜面18とを有し、屈折率がN1であるガラス材料又は樹脂材料により構成される。第1回折格子11の壁17と斜面18とはそれぞれが連結されて、第1回折格子11の+Z側の面が連続的な鋸歯状に形成されている。また、第2回折格子12は、Z軸方向に伸びる壁17とZ軸方向から斜めに形成された斜面18とを有し、屈折率がN2である材料より構成される。壁17と斜面18とはそれぞれが連結されて、第2回折格子12の−Z側の面が連続的な鋸歯状となっている。第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17と斜面18とは互いに隙間なく接合されている。
【0014】
第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12屈折率N2とは互いに異なった屈折率であればよい。例えば屈折率N2が屈折率N1より高屈折率としてもよい。第2回折格子12が高屈折率又は低屈折率にかかわらず物体側に配置される。
【0015】
また、第1回折格子11又は第2回折格子12において、壁17の高さはHで、斜面18のY軸方向のピッチはPdであり、第1回折格子11のZ軸方向の高さはDLで、第2回折格子12のZ軸方向の高さはDHで形成されている。第1回折格子11又は第2回折格子12の斜面18のピッチPdは、入射光(基準波長)よりも長いピッチである。
【0016】
第2回折格子12の表面に形成されたサブ波長面80は、空気などの外気又は真空に接する面である。サブ波長面80は、屈折率がNsであるガラス材料又は樹脂材料により構成される。そのサブ波長面80は複数の凹凸構造から構成される。個々のサブ波長面80の高さはhで、個々のサブ波長面80のY軸方向のピッチはPsである。サブ波長面80のピッチPsは入射光(基準波長)よりも短いピッチである。第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsは同じであってもよい。サブ波長面80について、図3を参照しながら説明する。
【0017】
第1の実施形態において、第1回折格子11及び第2回折格子12で構成された複層型の回折光学素子110が用いられている。これは、第1回折格子11又は第2回折格子12のみからなる単層型回折光学素子より、複層型回折光学素子の回折効率が優れているためである。詳しくは、図2を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、光の波長に対して複層型回折光学素子及び単層型回折光学素子の回折効率を比較したグラフである。縦軸に回折効率を横軸に可視光領域の波長を採っている。
図2の横軸には、g線(435.835nm)、F線(486.133nm)、e線(546.074nm)、d線(587.562nm)及びC線(656.273nm)を示している。図2に示されたように、実線で示されている複層型回折光学素子の回折効率は、全ての波長の光に対しても95%以上であり、d線では100%に近い。一方、点線で示された単層型回折光学素子の回折効率は、e線、d線及びc線に対して95%以上であるが、g線に対して約60%で、F線に対して約85%となっている。つまり、単層型回折光学素子は短波長側のg線及びF線において、回折効率が顕著に低くなることが理解される。特に可視光域の波長に使用される光学機器に使用される光学系に対しては、複層型の回折光学素子110が好ましい。
【0019】
図3(a)は、四角錐構造(又はピラミッド構造)であるサブ波長面80Aの部分斜視図である。図3(b)は、円錐構造であるサブ波長面80Bの配置図である。図3(c)は、円錐構造であるサブ波長面80Bの別の配置図である。
【0020】
図3に示されたように、サブ波長面80は四角錐構造である突起82と円錐構造である突起84とを含む。図示されないが、サブ波長面80は三角錐などの多角錐の突起を複数備えた構造でもよい。
【0021】
図3(a)に示されたように、四角錐構造の突起82のZ軸方向の高さはhで、個々の突起82の底面は一辺(ピッチ)がPsである正方形である。そして個々の突起82の間のピッチもPsである。このサブ波長面80Aは広い波長域広い入射角度で優れる反射効果を有している。また、サブ波長面80Aは表面構造が2次元格子となっているため、一般的な反射防止膜に比べると、サブ波長面80Aの表面に入射する光の偏光方向に屈折率特性が依存しない。さらに、図3(a)のように個々の突起82の底面が正方形であると、第2回折格子12(図1を参照)がほとんど空気に露出しないため、第2回折格子12からの反射損失がなくなる。
【0022】
また、円錐構造の突起84のZ軸方向の高さはhで、個々の突起84の間のピッチはPsである。円錐構造の突起84は図3(b)に示されるように正方配列にしてもよい。また円錐構造の突起84は図3(c)に示されるように六方最密配列にしてもよい。円錐構造の突起84は、四角錐構造の突起82と比べて、滑らかな屈折率分布を形成するため、反射防止に効果がある。但し第2回折格子12が露出する面積が多くなる。
【0023】
図3(b)に示されるように円錐構造の突起84が正方に配列された場合と、図3(c)に示されるように円錐構造の突起84が六方最密に配列された場合とを比べると、円錐構造の突起84が六方最密に配列された方が、第2回折格子12の空気に露出する面積が少ない。このため、図3(c)の配置がより良好な反射防止効果が得られる。しかし、図3(b)の正方配列と図3(c)の六方最密配列との反射防止効果の差異は小さい。
【0024】
なお、図1及び図3に示されたサブ波長面80は、十数個の個々の突起82又は突起84が描かれているが、実際には数千、数万個の突起82又は突起84より構成されている。
【0025】
<回折光学素子110の概要>
回折光学素子110は、以下の条件を備えることが好ましい。
0.02 <ΔNd < 0.45 … (1)
0.1 < λd/Ns < 1.0 … (2)
【0026】
数式(1)は斜面18における第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12の屈折率N1との屈折率差についての条件である。すなわち、第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12の屈折率N2とは、相対的に高屈折率及び低屈折率の組合せで構成される。この屈折率差は、密着型回折光学素子の回折効率を決める重要な条件の一つである。そして、数式(1)はd線における第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率差ΔNd(=|N1−N2|)を規定する。製造上の誤差感度を低めるために、その屈折率差ΔNdは0.45以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。数式(1)の上限を上回ると、屈折率差ΔNdが大きくなりすぎてしまい、回折光学素子110の製造誤差感度が大きくなりすぎる。
【0027】
反対に、数式(1)の下限を下回ると、屈折率差ΔNdが小さくなりすぎてしまい、必要な回折を生じさせるためには回折格子の壁17の高さを大きくしなければならない。このため、数式(1)の下限を下回ると、第1回折格子11及び第2回折格子12は製造上不利となり、壁17により入射光に対する影が生じてしまう。また、ブレーズ光の回折効率の低下と壁17に入射する入射光による散乱や反射による迷光が大きくなってしまう。
なお、数式(1)の効果を十分に発揮するには、下限値を0.15とすることがより好ましい。
【0028】
数式(2)は、サブ波長面80を用いて、回折光学素子110と空気との界面での反射率を十分に小さくするための条件である。入射する光の波長λに対してサブ波長面80の屈折率Nsを規定している。この数式(2)に示すように、光の波長λを屈折率Nsで割った値が1より小さいと、回折光が発生せず入射した光は0次光となって抜けるため、反射率が低くなり反射防止機能が十分に発揮される。なお、反射防止機能の効果をより発揮させるためには、数式(2)の上限が0.8以下になることが好ましい。
また、数式(2)の下限を下回ると、一般の光学材料(ガラス、樹脂等)の場合に内部吸収が増えて透過率が下がる不具合が生じやすい。なお、数式(2)の効果を十分に発揮するには、下限値を0.15とすることがより好ましい。
【0029】
回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
(DH×Ps)/(DL×Pd) < 5.0 … (3)
数式(3)は、後述されるような光学系全体の入射瞳に近い方に高屈折率の回折格子が配置され、遠い方に低屈折率の回折格子が配置される構成である。例えば、図1において光学系全体の入射瞳が回折光学素子110の右側に配置され、全体で凸パワーの格子となる。例えば、図1において光学系全体の入射瞳が回折光学素子110の右側に配置される場合には、第2回折格子12の屈折率N2が第1回折格子11の屈折率N1よりも高い。この場合に、高屈折率材料からなる第2回折格子12の最大厚さをDH、低屈折率材料からなる第1回折格子11の最大厚さをDL、サブ波長面80の最大ピッチをPs、斜面18に形成された回折格子の最小ピッチをPdとする。
【0030】
数式(3)の上限を上回ると、サブ波長面80のピッチPsが大きくなってしまい、十分な反射防止効果が得られなくなる。また、斜面18に形成された回折格子の最小ピッチPdが小さくなってしまい回折効率が損なわれる。なお、反射防止機能の効果を十分に発揮するには、数式(3)の上限が2.0以下になることが好ましい。
【0031】
さらに回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
0.01 < h/H < 5.0 … (4)
数式(4)は、サブ波長面80の最大高さをh、第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17の最大格子高さをHとした時の両者の関係を示す。
【0032】
数式(4)の上限を上回ると、サブ波長面80の最大高さが大きくなりすぎてしまい、製作し難くなる。さらには、サブ波長面80のアスペクト比(図3(a)における高さhと一辺Psとの比)が大きくなって対環境性又は耐久性が落ちる不都合も生じる。数式(4)の上限が2.0以下になると、サブ波長面80の製作などが容易になる。
【0033】
数式(4)の下限を下回ると、サブ波長面80の反射防止機能が落ちてしまう。さらに、格子高さHが大きくなりすぎてしまい、第1回折格子11及び第2回折格子12を製作し難くなる。さらに、第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17が長くなることから、入射光に対する角度特性が劣化し、壁17で入射光が反射するなどして迷光が発生しやすくなる。数式(4)の下限が0.015以上になると格子の製作または迷光などの問題がより少なくなる。
【0034】
また回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
((Eg+Ed+EC)/3)/Rsd > 10.0 … (5)
ここで、Egはg線(435.8nm)の回折効率であり、Edはd線(587.6nm)の回折効率であり、ECはC線(656.3nm)の回折効率である。また、Rsdはサブ波長面80と空気との界面におけるd線の反射率(垂直入射、100%=1.0とする。)である。
【0035】
この数式(5)は、各スペクトル線での第1回折格子11及び第2回折格子12の回折効率とサブ波長面80の基準波長における反射率とに関する条件である。数式(5)の下限を下回ると、反射率が十分に低減されないため、反射光によるフレアが増え迷光が増してしまう。なお、迷光などを十分に防ぐためには、下限を100.0以上とすることが好ましい。
【0036】
さらに、回折光学素子110がより優れた性能を達成するためには、以下の数式を満たすことが好ましい。
(Eg+EC)/(2×Ed) > 0.9 … (6)
−20.0 < ΔNd/Δ(NF−Nc) < −2.0 … (7)
1.0 < h/Ps < 10.0 … (8)
【0037】
数式(6)は入射光に対する第1回折格子11及び第2回折格子12のバランスを規定する。特に広帯域の可視光域で回折効率のバランスを向上させる条件である。数式(6)の左辺が右辺を下回ると、短波長又は長波長のいずれかで回折効率が低下してしまい、回折フレアが大きくなり迷光が発生する。なお、広帯域の可視光域で迷光を防ぐためには、下限を0.95以上にすることが望ましい。また、数式(6)の効果を十分に発揮するには、上限値を1.1とすることが好ましい。数式(6)の上限が1.1を上回ると、Eg、EC、Edのバランス上、EgとECが上がりEdが下がるので緑色系の回折フレアが強くなって、画質を損ねる不都合がおきやすくなる。
【0038】
数式(7)は第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率と分散との配分を規定する。Δ(NF-Nc)は第1回折格子11の主分散(NF-Nc)と第2回折格子12の主分散(NF-Nc)の差を示す。また、NFはF線(486.1 nm)に対する屈折率、NcはC線(656.3nm)に対する屈折率を示す。またΔNdはd線における第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率差を示す。
【0039】
この数式(7)の条件は、回折光学素子110が入射光の波長の広帯域にわたり、十分に高い回折効率を得るために好ましい条件である。数式(7)の不等号が逆の場合には、回折光学素子110は十分に高い回折効率は得られない。なお、回折光学素子110が波長の広帯域にわたり十分に高い回折効率を得るためには、上限を−3.0以下、下限を−10.0以上とすることが好ましい。
【0040】
数式(8)はサブ波長面80の条件を規定する。すなわち数式(8)はサブ波長面80のアスペクト比(図3(a)における高さhと一辺(ピッチ)Psとの比)を規定する。数式(8)の下限を下回ると、空気層から第2回折格子12の表面までの屈折率の遷移領域が小さくなりすぎ反射防止が十分でなくなる。数式(8)の上限を上回ると、アスペクト比が大きくなりすぎてしまい、サブ波長面80が製造し難くなる。なお、数式(8)の効果を十分に発揮するには、下限値を2.0とすることがより好ましい。
【0041】
以下、回折光学素子110の実施例について、図4から図6を参照しながら説明する。
<第1例>
表1に示された条件値により構成された第1例の回折光学素子110について、図4Aから図4Cを用いて説明する。
【0042】
第1例の回折光学素子110は、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。なお、図4Aから図4C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表1:
【表1】
基準波長をd線(587.6nm)とすると、斜面18のピッチPdは基準波長よりも長くサブ波長面80のピッチPsは基準波長よりも短い。
【0043】
表1の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表2のとおりである。第1例の回折光学素子110は、表2に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表2:
【表2】
【0044】
図4Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0045】
図4Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が著しく低減している。具体的にはサブ波長面80は反射率を40分の1程度に低減している。
特に、数式(2)、数式(3)、数式(4)、数式(5)及び数式(8)がサブ波長面80による反射率の低減に寄与する。
【0046】
図4Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図4Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0047】
図4Cは第1例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0048】
図4Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて5パーセント程度向上している。
【0049】
<第2例>
表3に示された条件値により構成された第2例の回折光学素子110について、図5Aから図5Cを用いて説明する。
【0050】
第2例の回折光学素子110も、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。図5Aから図5C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表3:
【表3】
【0051】
表3の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表4のとおりである。第2例の回折光学素子110は、表4に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表4:
【表4】
【0052】
図5Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0053】
図5Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が低減している。但し、波長500nm付近及び波長570nm付近では、反射率が悪くなっている。
特に、波長500nm付近及び波長570nm付近では、反射率が悪くなっている理由は、図4Aの場合と比べて、数式(2)の値が大きくなり数式(3)の値が小さくなっていることが原因と思われる。しかし、他の波長域では、サブ波長面80は反射率を低減している。
【0054】
図5Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図5Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0055】
図5Cは第2例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第2例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0056】
図5Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、波長500nm付近及び波長570nm付近を除き、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて1から5パーセント程度向上している。
【0057】
<第3例>
表5に示された条件値により構成された第3例の回折光学素子110について、図6Aから図6Cを用いて説明する。
【0058】
第3例の回折光学素子110も、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。図6Aから図6C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表5:
【表5】
【0059】
表5の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表6のとおりである。第3例の回折光学素子110は、表6に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表6:
【表6】
【0060】
図6Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0061】
図6Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が著しく低減している。具体的にはサブ波長面80は反射率を40分の1程度に低減している。
特に、数式(2)、数式(3)、数式(4)、数式(5)及び数式(8)がサブ波長面80による反射率の低減に寄与する。
【0062】
図6Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図6Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0063】
図6Cは第3例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第3例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0064】
図6Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて4パーセント程度向上している。
【0065】
(第2の実施形態)
<回折光学素子120の構成>
図7は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子120を示した概念断面図である。
第3回折格子21の一面は、第1の実施形態と異なり平板の光学部材90に貼り付けられている。また、第3回折格子21及び第4回折格子22は壁27及び斜面28を有している。
【0066】
第3回折格子21及び第4回折格子22からなる複層型回折光学素子は、Z軸方向に平板である。また第3回折格子21の屈折率N1は低屈折率であり、第4回折格子22の屈折率N2は高屈折率である。第4回折格子22の斜面28は凸状に膨らんでいる曲面である。壁27はZ軸方向に直線である。また斜面28に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、複層型回折光学素子は、−Z軸方向に一般の凸レンズと同じ正パワーを有している。
【0067】
斜面28の反対側の第4回折格子22の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子120のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0068】
(第3の実施形態)
<回折光学素子130の構成>
図8は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子130を示した概念断面図である。
第5回折格子31の一面は、第1の実施形態と異なり平板の光学部材90に貼り付けられている。また、第5回折格子31及び第6回折格子32は壁37及び斜面38を有している。
【0069】
第5回折格子31及び第6回折格子32からなる複層型回折光学素子は、Z軸方向に平板である。また第5回折格子31の屈折率N1は高屈折率であり、第6回折格子32の屈折率N2は低屈折率である。第5回折格子31の斜面38は凸状に膨らんでいる曲面である。壁37はZ軸方向に直線である。また斜面38に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、複層型回折光学素子は、+Z軸方向に凸レンズと同じ正パワーを有している。なお、回折光学素子120又は回折光学素子130において負(凹)パワーを持たせる場合には、低屈折率と高屈折率とを逆にすればよい。
【0070】
斜面38の反対側の第6回折格子32の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子130のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0071】
(第4の実施形態)
<回折光学素子140の構成>
図9は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子140を示した概念断面図である。
第7回折格子41の一面は、第3の実施形態と異なり凸レンズの光学部材95に貼り付けられている。また、第7回折格子41及び第8回折格子42は壁47及び斜面48を有している。
【0072】
第7回折格子41及び第8回折格子42からなる複層型回折光学素子は凸レンズの光学部材95に沿って曲面状であり、Z軸方向の厚さは全面でほぼ均一である。また第7回折格子41の屈折率N1は高屈折率であり、第8回折格子42の屈折率N2は低屈折率である。第7回折格子41の斜面48は凸状に膨らんでいる曲面である。壁47はZ軸方向に直線である。また斜面48に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、凸レンズの光学部材95と同様に、複層型回折光学素子も+Z軸方向に凸レンズと同じ正パワーを有している。
【0073】
斜面48の反対側の第8回折格子42の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子140のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0074】
(その他の実施形態)
<複層型回折光学素子の壁>
図10は、第1の実施形態の第1回折格子11及び第2回折格子12の変形例を示した図である。第1の実施形態の同じ部材には同じ符号を付している。
【0075】
数式(4)で説明したように、壁17の高さ(長さ)Hが大きくなると、入射光に対する角度特性が劣化し、壁17で入射光が反射するなどして迷光が発生しやすくなる。また壁17の高さ(長さ)Hが大きくなると回折効率が低下しやすい。これらの問題を解決するには以下のようにすればよい。
【0076】
図10(a)に示された壁57は、Z軸方向に対して傾けて形成されている。この傾け角度は、主光線にならって傾けることが好ましい。これは壁57を瞳(入射瞳ないしは射出瞳)に向けると言い換えることもできる。
【0077】
図10(b)に示された壁67は、階段形状の段部が形成されている。段部が形成されることにより、壁67の全体はZ軸方向に対して傾いている。第1回折格子11及び第2回折格子12に所定の角度を持って入射した入射光は段部(Z軸方向の面とXY軸方向の面)で2回反射することになり、入射光と同じ方向で逆向きに戻ることになる。これにより、壁67に入射した入射光は結像方向に達することはないので、フレア光とはならない。
【0078】
図10(c)に示された壁77は、断面形状が曲線である。壁77の断面形状が曲線であると反射又は透過光を発散させ、不要な高次回折光・フレア・ゴーストを減ずることができる。
【0079】
第1の実施形態から第4の実施形態及びその他の実施形態において、複層型回折光学素子及びサブ波長面80はガラス又は樹脂で形成される。しかしながら、複雑で微細な形状であることから硬化性樹脂を使用することが好ましい。更には複層型回折光学素子及びサブ波長面80はいずれも紫外線硬化型樹脂である方が生産効率上好ましい。さらに、小型軽量化のためには、回折光学素子を構成する光学材料は、比重が2.0以下の樹脂材料であることが好ましい。ガラスに比して樹脂は比重が小さいため、光学系の軽量化に有効である。そして更に効果を発揮するには比重が1.6以下であることが好ましい。
【0080】
<回折光学素子を用いた光学系>
図11は、第1の実施形態の回折光学素子110を用いる光学系200又は光学系210概念断面図である。図11(a)は、絞りDPより像面側に回折光学素子110が配置された光学系200である。図11(b)は、絞りDPより物体側に回折光学素子110が配置された光学系210である。
【0081】
図11(a)に示された光学系200において、図11(a)の左側が物体(不図示)で右側が結像面IPである。光学系200は、左側から順に結像レンズ211、絞りDP(瞳面)、及び回折光学素子110を有している。光学系200は、例えばカメラの撮影レンズとして使われる。
【0082】
回折光学素子110のサブ波長面80は、結像レンズ211及び絞りDPを通過した広帯域の可視光に対して、図4A、図5A又は図6Aで示されたように、反射を防止することができる。そして回折光学素子110は図4C、図5C又は図6Cで示されたように、1次回折光の透過効率が高いため、多くの光を結像面IPに導くことができる。また第1回折格子11及び第2回折格子12は、図2、図4B、図5B又は図6Bで示されたように、広帯域の可視光に対して回折効率が高いため、結像面IPにおいて色収差などを抑えることができる。
【0083】
図11(b)に示された光学系210において、図11(b)の左側が物体(不図示)で右側が結像面IPである。光学系210は、左側から順に結像レンズ212、回折光学素子110、絞りDP(瞳面)、及び結像レンズ213を有している。光学系210もカメラの撮影レンズとして使われる。
【0084】
回折光学素子110のサブ波長面80は、結像レンズ212を通過した広帯域の可視光に対して、反射を防止することができる。そして回折光学素子110は1次回折光の透過効率が高いため、多くの光を絞りDP側に導くことができる。また第1回折格子11及び第2回折格子12は、広帯域の可視光に対して回折効率が高いため色収差などを抑えることができる。
【0085】
図11(b)において、結像レンズ212と回折光学素子110とは別体である。しかし、これに限定するものではなく、図9で示されたように、結像レンズ212に回折光学素子140を設けても良い。
【0086】
図11に示された光学系200又は光学系210は、透過率が高く、使用波長領域において部分的な回折効率の落ちも少ない。従って、光学系200又は光学系210は高い解像力を持つ高性能の撮影レンズとして提供される。
【0087】
また、光学系200又は光学系210はカメラの撮影レンズとして示されたが、これに限定せず、ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナ、デジタル複写機のリーダーレンズ、双眼鏡や顕微鏡等の観察装置の光学系などの結像光学系に使用しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上、本発明の最適な実施形態について説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において実施例に様々な変更を加えて実施することができる。
例えば、最適な実施形態として、広帯域の可視光(例えば400nm〜800nm)を対象として説明した。しかし、狭帯域の可視光や、狭帯域や広帯域の赤外線や紫外線が入射する回折光学素子、回折光学部材及び光学系にも適用できる。また、光学系としては、透過型だけでなく、反射型の光学系にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0089】
11 … 第1回折格子
12 … 第2回折格子
21 … 第3回折格子
22 … 第4回折格子
31 … 第5回折格子
32 … 第6回折格子
41 … 第7回折格子
42 … 第8回折格子
17,27,37,47,57,67,77 … 壁
18,28,38,48 … 斜面
80(80A,80B) … サブ波長面
82,84 … 突起
90,95 … 光学部材
110,120,130,140 … 回折光学素子
200,210 … 光学系
211 … 結像レンズ
DH,DL,H,h … 高さ
DP … 絞り
IP … 結像面
N1 … 屈折率
N2 … 屈折率
Ns … 屈折率
Pd,Pdv,Ps … ピッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折光学素子及びその回折光学素子を使った光学系、光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学素子は、微細な格子構造によって透過光又は反射光を回折させ、入射光の分光や分岐又は結合などの操作を行う素子である。また、回折光学部材は、回折光学素子の格子構造を種々の形状に変調することで、集光、発散又は結像などの作用を実現することができる。
【0003】
特許文献1に開示された回折光学素子は、透明平板の一方の面に格子構造を有し、他方の面に反射防止層を成膜している。特に透過型の回折光学素子は透過率を向上させるために反射防止膜を片面の形成している。回折光学素子を透過する光の波長が例えば可視領域の400nmから750nmであると、これらの幅広い波長に対して反射を防止するため高価な真空装置を使う通常真空蒸着法によって、何層もの膜が形成される。
【0004】
一方、特許文献2に開示された回折光学素子は、Motheye(蛾の目)と呼ばれる微細な凹凸パターンを回折光学素子の片面に形成して反射防止したい波長領域の反射を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−206039号公報
【特許文献2】特開2004−145064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1又は特許文献2に示されたように、単層型の回折光学素子では所望の広波長領域(例えば可視光領域)のほぼ全域で高い回折効率を維持することができない。
【0007】
本発明は上記の課題を鑑みて成されたもので、広波長領域で反射を防止するとともに波長特性が良好である回折光学素子を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1観点における回折光学素子は、第1ピッチで形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材からなる回折光学素子である。また、その回折光学素子の一面に、前記回折光学素子を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチの凹凸構造を有する。
【0009】
第2観点における光学系は、複数の光学素子を有し、光ビームを案内すると共に光ビームに作用する光学系である。また、その光学系は光学素子の少なくとも1つが第1観点の回折光学素子である。
第3観点における光学装置は、第1観点の回折光学素子を有する光学装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、反射を防止するとともに波長特性が良好である回折光学素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の回折光学素子110の概略図である。
【図2】異なる光の波長に対して複層型回折光学素子及び単層型回折光学素子の回折効率を比較したグラフである。
【図3】(a)は、ピラミッド構造であるSWS80Aの部分斜視図である。 (b)は、円錐構造であるSWS80Bの配置図である。 (c)は、円錐構造であるSWS80Bの別の配置図である。
【図4A】空気界面の反射率を示したグラフである。
【図4B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図4C】第1例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図5A】空気界面の反射率を示したグラフである。
【図5B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図5C】第2例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図6A】空気界面の反射率を示したグラフである
【図6B】第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。
【図6C】第3例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。
【図7】光学部材に貼り付けられた回折光学素子120を示した概念断面図である。
【図8】光学部材に貼り付けられた回折光学素子130を示した概念断面図である。
【図9】光学部材に貼り付けられた回折光学素子140を示した概念断面図である。
【図10】第1の実施形態の第1回折格子11及び第2回折格子12の変形例を示した図である。
【図11】(a)は、絞りDPより像面側に回折光学素子110が配置された光学系200である。 (b)は、絞りDPより物体側に回折光学素子110が配置された光学系210である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
<回折光学素子110の構成>
第1の実施形態の回折光学素子110の構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、第1の実施形態の回折光学素子110の概略図である。なお、サブ波長面(SWS:Sub-Wavelength Structured Surface)80が突起した方向を+Z軸方向とし、そのZ軸に垂直な方向をX軸及びY軸方向とする。また、図1に示されたように回折光学素子110は、第1回折格子11と、第2回折格子12と、サブ波長面80とが順次に接合されたものである。第2回折格子12とサブ波長面80とは同時に形成されてもよい。
【0013】
第1回折格子11は、Z軸方向に伸びる壁17とZ軸方向から斜めに形成された斜面18とを有し、屈折率がN1であるガラス材料又は樹脂材料により構成される。第1回折格子11の壁17と斜面18とはそれぞれが連結されて、第1回折格子11の+Z側の面が連続的な鋸歯状に形成されている。また、第2回折格子12は、Z軸方向に伸びる壁17とZ軸方向から斜めに形成された斜面18とを有し、屈折率がN2である材料より構成される。壁17と斜面18とはそれぞれが連結されて、第2回折格子12の−Z側の面が連続的な鋸歯状となっている。第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17と斜面18とは互いに隙間なく接合されている。
【0014】
第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12屈折率N2とは互いに異なった屈折率であればよい。例えば屈折率N2が屈折率N1より高屈折率としてもよい。第2回折格子12が高屈折率又は低屈折率にかかわらず物体側に配置される。
【0015】
また、第1回折格子11又は第2回折格子12において、壁17の高さはHで、斜面18のY軸方向のピッチはPdであり、第1回折格子11のZ軸方向の高さはDLで、第2回折格子12のZ軸方向の高さはDHで形成されている。第1回折格子11又は第2回折格子12の斜面18のピッチPdは、入射光(基準波長)よりも長いピッチである。
【0016】
第2回折格子12の表面に形成されたサブ波長面80は、空気などの外気又は真空に接する面である。サブ波長面80は、屈折率がNsであるガラス材料又は樹脂材料により構成される。そのサブ波長面80は複数の凹凸構造から構成される。個々のサブ波長面80の高さはhで、個々のサブ波長面80のY軸方向のピッチはPsである。サブ波長面80のピッチPsは入射光(基準波長)よりも短いピッチである。第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsは同じであってもよい。サブ波長面80について、図3を参照しながら説明する。
【0017】
第1の実施形態において、第1回折格子11及び第2回折格子12で構成された複層型の回折光学素子110が用いられている。これは、第1回折格子11又は第2回折格子12のみからなる単層型回折光学素子より、複層型回折光学素子の回折効率が優れているためである。詳しくは、図2を参照しながら説明する。
【0018】
図2は、光の波長に対して複層型回折光学素子及び単層型回折光学素子の回折効率を比較したグラフである。縦軸に回折効率を横軸に可視光領域の波長を採っている。
図2の横軸には、g線(435.835nm)、F線(486.133nm)、e線(546.074nm)、d線(587.562nm)及びC線(656.273nm)を示している。図2に示されたように、実線で示されている複層型回折光学素子の回折効率は、全ての波長の光に対しても95%以上であり、d線では100%に近い。一方、点線で示された単層型回折光学素子の回折効率は、e線、d線及びc線に対して95%以上であるが、g線に対して約60%で、F線に対して約85%となっている。つまり、単層型回折光学素子は短波長側のg線及びF線において、回折効率が顕著に低くなることが理解される。特に可視光域の波長に使用される光学機器に使用される光学系に対しては、複層型の回折光学素子110が好ましい。
【0019】
図3(a)は、四角錐構造(又はピラミッド構造)であるサブ波長面80Aの部分斜視図である。図3(b)は、円錐構造であるサブ波長面80Bの配置図である。図3(c)は、円錐構造であるサブ波長面80Bの別の配置図である。
【0020】
図3に示されたように、サブ波長面80は四角錐構造である突起82と円錐構造である突起84とを含む。図示されないが、サブ波長面80は三角錐などの多角錐の突起を複数備えた構造でもよい。
【0021】
図3(a)に示されたように、四角錐構造の突起82のZ軸方向の高さはhで、個々の突起82の底面は一辺(ピッチ)がPsである正方形である。そして個々の突起82の間のピッチもPsである。このサブ波長面80Aは広い波長域広い入射角度で優れる反射効果を有している。また、サブ波長面80Aは表面構造が2次元格子となっているため、一般的な反射防止膜に比べると、サブ波長面80Aの表面に入射する光の偏光方向に屈折率特性が依存しない。さらに、図3(a)のように個々の突起82の底面が正方形であると、第2回折格子12(図1を参照)がほとんど空気に露出しないため、第2回折格子12からの反射損失がなくなる。
【0022】
また、円錐構造の突起84のZ軸方向の高さはhで、個々の突起84の間のピッチはPsである。円錐構造の突起84は図3(b)に示されるように正方配列にしてもよい。また円錐構造の突起84は図3(c)に示されるように六方最密配列にしてもよい。円錐構造の突起84は、四角錐構造の突起82と比べて、滑らかな屈折率分布を形成するため、反射防止に効果がある。但し第2回折格子12が露出する面積が多くなる。
【0023】
図3(b)に示されるように円錐構造の突起84が正方に配列された場合と、図3(c)に示されるように円錐構造の突起84が六方最密に配列された場合とを比べると、円錐構造の突起84が六方最密に配列された方が、第2回折格子12の空気に露出する面積が少ない。このため、図3(c)の配置がより良好な反射防止効果が得られる。しかし、図3(b)の正方配列と図3(c)の六方最密配列との反射防止効果の差異は小さい。
【0024】
なお、図1及び図3に示されたサブ波長面80は、十数個の個々の突起82又は突起84が描かれているが、実際には数千、数万個の突起82又は突起84より構成されている。
【0025】
<回折光学素子110の概要>
回折光学素子110は、以下の条件を備えることが好ましい。
0.02 <ΔNd < 0.45 … (1)
0.1 < λd/Ns < 1.0 … (2)
【0026】
数式(1)は斜面18における第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12の屈折率N1との屈折率差についての条件である。すなわち、第1回折格子11の屈折率N1と第2回折格子12の屈折率N2とは、相対的に高屈折率及び低屈折率の組合せで構成される。この屈折率差は、密着型回折光学素子の回折効率を決める重要な条件の一つである。そして、数式(1)はd線における第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率差ΔNd(=|N1−N2|)を規定する。製造上の誤差感度を低めるために、その屈折率差ΔNdは0.45以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。数式(1)の上限を上回ると、屈折率差ΔNdが大きくなりすぎてしまい、回折光学素子110の製造誤差感度が大きくなりすぎる。
【0027】
反対に、数式(1)の下限を下回ると、屈折率差ΔNdが小さくなりすぎてしまい、必要な回折を生じさせるためには回折格子の壁17の高さを大きくしなければならない。このため、数式(1)の下限を下回ると、第1回折格子11及び第2回折格子12は製造上不利となり、壁17により入射光に対する影が生じてしまう。また、ブレーズ光の回折効率の低下と壁17に入射する入射光による散乱や反射による迷光が大きくなってしまう。
なお、数式(1)の効果を十分に発揮するには、下限値を0.15とすることがより好ましい。
【0028】
数式(2)は、サブ波長面80を用いて、回折光学素子110と空気との界面での反射率を十分に小さくするための条件である。入射する光の波長λに対してサブ波長面80の屈折率Nsを規定している。この数式(2)に示すように、光の波長λを屈折率Nsで割った値が1より小さいと、回折光が発生せず入射した光は0次光となって抜けるため、反射率が低くなり反射防止機能が十分に発揮される。なお、反射防止機能の効果をより発揮させるためには、数式(2)の上限が0.8以下になることが好ましい。
また、数式(2)の下限を下回ると、一般の光学材料(ガラス、樹脂等)の場合に内部吸収が増えて透過率が下がる不具合が生じやすい。なお、数式(2)の効果を十分に発揮するには、下限値を0.15とすることがより好ましい。
【0029】
回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
(DH×Ps)/(DL×Pd) < 5.0 … (3)
数式(3)は、後述されるような光学系全体の入射瞳に近い方に高屈折率の回折格子が配置され、遠い方に低屈折率の回折格子が配置される構成である。例えば、図1において光学系全体の入射瞳が回折光学素子110の右側に配置され、全体で凸パワーの格子となる。例えば、図1において光学系全体の入射瞳が回折光学素子110の右側に配置される場合には、第2回折格子12の屈折率N2が第1回折格子11の屈折率N1よりも高い。この場合に、高屈折率材料からなる第2回折格子12の最大厚さをDH、低屈折率材料からなる第1回折格子11の最大厚さをDL、サブ波長面80の最大ピッチをPs、斜面18に形成された回折格子の最小ピッチをPdとする。
【0030】
数式(3)の上限を上回ると、サブ波長面80のピッチPsが大きくなってしまい、十分な反射防止効果が得られなくなる。また、斜面18に形成された回折格子の最小ピッチPdが小さくなってしまい回折効率が損なわれる。なお、反射防止機能の効果を十分に発揮するには、数式(3)の上限が2.0以下になることが好ましい。
【0031】
さらに回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
0.01 < h/H < 5.0 … (4)
数式(4)は、サブ波長面80の最大高さをh、第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17の最大格子高さをHとした時の両者の関係を示す。
【0032】
数式(4)の上限を上回ると、サブ波長面80の最大高さが大きくなりすぎてしまい、製作し難くなる。さらには、サブ波長面80のアスペクト比(図3(a)における高さhと一辺Psとの比)が大きくなって対環境性又は耐久性が落ちる不都合も生じる。数式(4)の上限が2.0以下になると、サブ波長面80の製作などが容易になる。
【0033】
数式(4)の下限を下回ると、サブ波長面80の反射防止機能が落ちてしまう。さらに、格子高さHが大きくなりすぎてしまい、第1回折格子11及び第2回折格子12を製作し難くなる。さらに、第1回折格子11及び第2回折格子12の壁17が長くなることから、入射光に対する角度特性が劣化し、壁17で入射光が反射するなどして迷光が発生しやすくなる。数式(4)の下限が0.015以上になると格子の製作または迷光などの問題がより少なくなる。
【0034】
また回折光学素子110の回折格子とサブ波長面とは、以下の条件を備えることが好ましい。
((Eg+Ed+EC)/3)/Rsd > 10.0 … (5)
ここで、Egはg線(435.8nm)の回折効率であり、Edはd線(587.6nm)の回折効率であり、ECはC線(656.3nm)の回折効率である。また、Rsdはサブ波長面80と空気との界面におけるd線の反射率(垂直入射、100%=1.0とする。)である。
【0035】
この数式(5)は、各スペクトル線での第1回折格子11及び第2回折格子12の回折効率とサブ波長面80の基準波長における反射率とに関する条件である。数式(5)の下限を下回ると、反射率が十分に低減されないため、反射光によるフレアが増え迷光が増してしまう。なお、迷光などを十分に防ぐためには、下限を100.0以上とすることが好ましい。
【0036】
さらに、回折光学素子110がより優れた性能を達成するためには、以下の数式を満たすことが好ましい。
(Eg+EC)/(2×Ed) > 0.9 … (6)
−20.0 < ΔNd/Δ(NF−Nc) < −2.0 … (7)
1.0 < h/Ps < 10.0 … (8)
【0037】
数式(6)は入射光に対する第1回折格子11及び第2回折格子12のバランスを規定する。特に広帯域の可視光域で回折効率のバランスを向上させる条件である。数式(6)の左辺が右辺を下回ると、短波長又は長波長のいずれかで回折効率が低下してしまい、回折フレアが大きくなり迷光が発生する。なお、広帯域の可視光域で迷光を防ぐためには、下限を0.95以上にすることが望ましい。また、数式(6)の効果を十分に発揮するには、上限値を1.1とすることが好ましい。数式(6)の上限が1.1を上回ると、Eg、EC、Edのバランス上、EgとECが上がりEdが下がるので緑色系の回折フレアが強くなって、画質を損ねる不都合がおきやすくなる。
【0038】
数式(7)は第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率と分散との配分を規定する。Δ(NF-Nc)は第1回折格子11の主分散(NF-Nc)と第2回折格子12の主分散(NF-Nc)の差を示す。また、NFはF線(486.1 nm)に対する屈折率、NcはC線(656.3nm)に対する屈折率を示す。またΔNdはd線における第1回折格子11と第2回折格子12との屈折率差を示す。
【0039】
この数式(7)の条件は、回折光学素子110が入射光の波長の広帯域にわたり、十分に高い回折効率を得るために好ましい条件である。数式(7)の不等号が逆の場合には、回折光学素子110は十分に高い回折効率は得られない。なお、回折光学素子110が波長の広帯域にわたり十分に高い回折効率を得るためには、上限を−3.0以下、下限を−10.0以上とすることが好ましい。
【0040】
数式(8)はサブ波長面80の条件を規定する。すなわち数式(8)はサブ波長面80のアスペクト比(図3(a)における高さhと一辺(ピッチ)Psとの比)を規定する。数式(8)の下限を下回ると、空気層から第2回折格子12の表面までの屈折率の遷移領域が小さくなりすぎ反射防止が十分でなくなる。数式(8)の上限を上回ると、アスペクト比が大きくなりすぎてしまい、サブ波長面80が製造し難くなる。なお、数式(8)の効果を十分に発揮するには、下限値を2.0とすることがより好ましい。
【0041】
以下、回折光学素子110の実施例について、図4から図6を参照しながら説明する。
<第1例>
表1に示された条件値により構成された第1例の回折光学素子110について、図4Aから図4Cを用いて説明する。
【0042】
第1例の回折光学素子110は、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。なお、図4Aから図4C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表1:
【表1】
基準波長をd線(587.6nm)とすると、斜面18のピッチPdは基準波長よりも長くサブ波長面80のピッチPsは基準波長よりも短い。
【0043】
表1の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表2のとおりである。第1例の回折光学素子110は、表2に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表2:
【表2】
【0044】
図4Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0045】
図4Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が著しく低減している。具体的にはサブ波長面80は反射率を40分の1程度に低減している。
特に、数式(2)、数式(3)、数式(4)、数式(5)及び数式(8)がサブ波長面80による反射率の低減に寄与する。
【0046】
図4Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図4Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0047】
図4Cは第1例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0048】
図4Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて5パーセント程度向上している。
【0049】
<第2例>
表3に示された条件値により構成された第2例の回折光学素子110について、図5Aから図5Cを用いて説明する。
【0050】
第2例の回折光学素子110も、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。図5Aから図5C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表3:
【表3】
【0051】
表3の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表4のとおりである。第2例の回折光学素子110は、表4に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表4:
【表4】
【0052】
図5Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0053】
図5Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が低減している。但し、波長500nm付近及び波長570nm付近では、反射率が悪くなっている。
特に、波長500nm付近及び波長570nm付近では、反射率が悪くなっている理由は、図4Aの場合と比べて、数式(2)の値が大きくなり数式(3)の値が小さくなっていることが原因と思われる。しかし、他の波長域では、サブ波長面80は反射率を低減している。
【0054】
図5Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図5Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0055】
図5Cは第2例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第2例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0056】
図5Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、波長500nm付近及び波長570nm付近を除き、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて1から5パーセント程度向上している。
【0057】
<第3例>
表5に示された条件値により構成された第3例の回折光学素子110について、図6Aから図6Cを用いて説明する。
【0058】
第3例の回折光学素子110も、第2回折格子12の屈折率N2とサブ波長面80の屈折率Nsとは同じ材料で構成された場合である。図6Aから図6C回折効率はスカラー理論による計算に基づく。ブレーズ次数は+1としている。反射率は電磁場解析手法(RCWA)に基づく。また、サブ波長面80は図3(a)に示された四角錐構造である突起82である。
表5:
【表5】
【0059】
表5の条件値によると、数式(1)から数式(8)の計算結果は表6のとおりである。第3例の回折光学素子110は、表6に示されたように数式(1)から数式(8)の条件を満たしている。
表6:
【表6】
【0060】
図6Aは空気界面の反射率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に反射率を採っている。実線は第1例の回折光学素子110における反射率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の反射率を示す。
【0061】
図6Aに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(440nmから800nm)において反射率が著しく低減している。具体的にはサブ波長面80は反射率を40分の1程度に低減している。
特に、数式(2)、数式(3)、数式(4)、数式(5)及び数式(8)がサブ波長面80による反射率の低減に寄与する。
【0062】
図6Bは第1回折格子11及び第2回折格子12の複層型回折光学素子による回折効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に回折効率を採っている。実線(1T)が+1次回折光を示している。
図6Bに示されるように、複層型回折光学素子は+1次回折光を効率的に形成している。他の回折光は極めて回折効率が小さくなっている。
特に数式(1)、数式(6)及び数式(7)が複層型回折光学素子による1次回折光の回折効率の向上に寄与する。
【0063】
図6Cは第3例の回折光学素子110に入射して、+1次回折光が回折光学素子110出射する際の透過効率を示したグラフである。横軸に入射光の波長を採り、縦軸に透過効率を採っている。実線は第3例の回折光学素子110における透過効率を示す。点線はサブ波長面80がない第1回折格子11及び第2回折格子12のみからなる複層型回折光学素子の透過効率を示す。
【0064】
図6Cに示されるように、サブ波長面80を有する回折光学素子110は、可視光の広い領域(400nmから800nm)において1次回折光の透過効率が、サブ波長面80がない複層型回折光学素子に比べて4パーセント程度向上している。
【0065】
(第2の実施形態)
<回折光学素子120の構成>
図7は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子120を示した概念断面図である。
第3回折格子21の一面は、第1の実施形態と異なり平板の光学部材90に貼り付けられている。また、第3回折格子21及び第4回折格子22は壁27及び斜面28を有している。
【0066】
第3回折格子21及び第4回折格子22からなる複層型回折光学素子は、Z軸方向に平板である。また第3回折格子21の屈折率N1は低屈折率であり、第4回折格子22の屈折率N2は高屈折率である。第4回折格子22の斜面28は凸状に膨らんでいる曲面である。壁27はZ軸方向に直線である。また斜面28に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、複層型回折光学素子は、−Z軸方向に一般の凸レンズと同じ正パワーを有している。
【0067】
斜面28の反対側の第4回折格子22の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子120のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0068】
(第3の実施形態)
<回折光学素子130の構成>
図8は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子130を示した概念断面図である。
第5回折格子31の一面は、第1の実施形態と異なり平板の光学部材90に貼り付けられている。また、第5回折格子31及び第6回折格子32は壁37及び斜面38を有している。
【0069】
第5回折格子31及び第6回折格子32からなる複層型回折光学素子は、Z軸方向に平板である。また第5回折格子31の屈折率N1は高屈折率であり、第6回折格子32の屈折率N2は低屈折率である。第5回折格子31の斜面38は凸状に膨らんでいる曲面である。壁37はZ軸方向に直線である。また斜面38に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、複層型回折光学素子は、+Z軸方向に凸レンズと同じ正パワーを有している。なお、回折光学素子120又は回折光学素子130において負(凹)パワーを持たせる場合には、低屈折率と高屈折率とを逆にすればよい。
【0070】
斜面38の反対側の第6回折格子32の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子130のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0071】
(第4の実施形態)
<回折光学素子140の構成>
図9は、光学部材に貼り付けられた回折光学素子140を示した概念断面図である。
第7回折格子41の一面は、第3の実施形態と異なり凸レンズの光学部材95に貼り付けられている。また、第7回折格子41及び第8回折格子42は壁47及び斜面48を有している。
【0072】
第7回折格子41及び第8回折格子42からなる複層型回折光学素子は凸レンズの光学部材95に沿って曲面状であり、Z軸方向の厚さは全面でほぼ均一である。また第7回折格子41の屈折率N1は高屈折率であり、第8回折格子42の屈折率N2は低屈折率である。第7回折格子41の斜面48は凸状に膨らんでいる曲面である。壁47はZ軸方向に直線である。また斜面48に形成された回折格子のピッチPdvは、XY平面の中心から周辺に向かって徐々に狭くなっている。このため、凸レンズの光学部材95と同様に、複層型回折光学素子も+Z軸方向に凸レンズと同じ正パワーを有している。
【0073】
斜面48の反対側の第8回折格子42の一面にサブ波長面80が形成されている。サブ波長面80は空気などの気体又は真空と接している。
第1の実施形態における数式(3)において、回折光学素子140のピッチPdvはピッチPdに置き換えて計算すればよい。
【0074】
(その他の実施形態)
<複層型回折光学素子の壁>
図10は、第1の実施形態の第1回折格子11及び第2回折格子12の変形例を示した図である。第1の実施形態の同じ部材には同じ符号を付している。
【0075】
数式(4)で説明したように、壁17の高さ(長さ)Hが大きくなると、入射光に対する角度特性が劣化し、壁17で入射光が反射するなどして迷光が発生しやすくなる。また壁17の高さ(長さ)Hが大きくなると回折効率が低下しやすい。これらの問題を解決するには以下のようにすればよい。
【0076】
図10(a)に示された壁57は、Z軸方向に対して傾けて形成されている。この傾け角度は、主光線にならって傾けることが好ましい。これは壁57を瞳(入射瞳ないしは射出瞳)に向けると言い換えることもできる。
【0077】
図10(b)に示された壁67は、階段形状の段部が形成されている。段部が形成されることにより、壁67の全体はZ軸方向に対して傾いている。第1回折格子11及び第2回折格子12に所定の角度を持って入射した入射光は段部(Z軸方向の面とXY軸方向の面)で2回反射することになり、入射光と同じ方向で逆向きに戻ることになる。これにより、壁67に入射した入射光は結像方向に達することはないので、フレア光とはならない。
【0078】
図10(c)に示された壁77は、断面形状が曲線である。壁77の断面形状が曲線であると反射又は透過光を発散させ、不要な高次回折光・フレア・ゴーストを減ずることができる。
【0079】
第1の実施形態から第4の実施形態及びその他の実施形態において、複層型回折光学素子及びサブ波長面80はガラス又は樹脂で形成される。しかしながら、複雑で微細な形状であることから硬化性樹脂を使用することが好ましい。更には複層型回折光学素子及びサブ波長面80はいずれも紫外線硬化型樹脂である方が生産効率上好ましい。さらに、小型軽量化のためには、回折光学素子を構成する光学材料は、比重が2.0以下の樹脂材料であることが好ましい。ガラスに比して樹脂は比重が小さいため、光学系の軽量化に有効である。そして更に効果を発揮するには比重が1.6以下であることが好ましい。
【0080】
<回折光学素子を用いた光学系>
図11は、第1の実施形態の回折光学素子110を用いる光学系200又は光学系210概念断面図である。図11(a)は、絞りDPより像面側に回折光学素子110が配置された光学系200である。図11(b)は、絞りDPより物体側に回折光学素子110が配置された光学系210である。
【0081】
図11(a)に示された光学系200において、図11(a)の左側が物体(不図示)で右側が結像面IPである。光学系200は、左側から順に結像レンズ211、絞りDP(瞳面)、及び回折光学素子110を有している。光学系200は、例えばカメラの撮影レンズとして使われる。
【0082】
回折光学素子110のサブ波長面80は、結像レンズ211及び絞りDPを通過した広帯域の可視光に対して、図4A、図5A又は図6Aで示されたように、反射を防止することができる。そして回折光学素子110は図4C、図5C又は図6Cで示されたように、1次回折光の透過効率が高いため、多くの光を結像面IPに導くことができる。また第1回折格子11及び第2回折格子12は、図2、図4B、図5B又は図6Bで示されたように、広帯域の可視光に対して回折効率が高いため、結像面IPにおいて色収差などを抑えることができる。
【0083】
図11(b)に示された光学系210において、図11(b)の左側が物体(不図示)で右側が結像面IPである。光学系210は、左側から順に結像レンズ212、回折光学素子110、絞りDP(瞳面)、及び結像レンズ213を有している。光学系210もカメラの撮影レンズとして使われる。
【0084】
回折光学素子110のサブ波長面80は、結像レンズ212を通過した広帯域の可視光に対して、反射を防止することができる。そして回折光学素子110は1次回折光の透過効率が高いため、多くの光を絞りDP側に導くことができる。また第1回折格子11及び第2回折格子12は、広帯域の可視光に対して回折効率が高いため色収差などを抑えることができる。
【0085】
図11(b)において、結像レンズ212と回折光学素子110とは別体である。しかし、これに限定するものではなく、図9で示されたように、結像レンズ212に回折光学素子140を設けても良い。
【0086】
図11に示された光学系200又は光学系210は、透過率が高く、使用波長領域において部分的な回折効率の落ちも少ない。従って、光学系200又は光学系210は高い解像力を持つ高性能の撮影レンズとして提供される。
【0087】
また、光学系200又は光学系210はカメラの撮影レンズとして示されたが、これに限定せず、ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナ、デジタル複写機のリーダーレンズ、双眼鏡や顕微鏡等の観察装置の光学系などの結像光学系に使用しても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上、本発明の最適な実施形態について説明したが、当業者に明らかなように、本発明はその技術的範囲内において実施例に様々な変更を加えて実施することができる。
例えば、最適な実施形態として、広帯域の可視光(例えば400nm〜800nm)を対象として説明した。しかし、狭帯域の可視光や、狭帯域や広帯域の赤外線や紫外線が入射する回折光学素子、回折光学部材及び光学系にも適用できる。また、光学系としては、透過型だけでなく、反射型の光学系にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0089】
11 … 第1回折格子
12 … 第2回折格子
21 … 第3回折格子
22 … 第4回折格子
31 … 第5回折格子
32 … 第6回折格子
41 … 第7回折格子
42 … 第8回折格子
17,27,37,47,57,67,77 … 壁
18,28,38,48 … 斜面
80(80A,80B) … サブ波長面
82,84 … 突起
90,95 … 光学部材
110,120,130,140 … 回折光学素子
200,210 … 光学系
211 … 結像レンズ
DH,DL,H,h … 高さ
DP … 絞り
IP … 結像面
N1 … 屈折率
N2 … 屈折率
Ns … 屈折率
Pd,Pdv,Ps … ピッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピッチで形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材からなる回折光学素子において、
前記回折光学素子の一面に、前記回折光学素子を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチの凹凸構造を有する回折光学素子。
【請求項2】
前記基準波長をd線(587.6nm)とし、その波長をλd、前記2枚の光学部材のd線の屈折率差をΔNd、前記一面側の前記光学部材の屈折率をNsとすると、以下の条件を満たす請求項1に記載の回折光学素子。
0.02 <ΔNd < 0.45 …(1)
0.1 < λd/Ns < 1.0 …(2)
【請求項3】
前記2枚の光学部材の一方が相対的に高屈折率材料で他方が相対的に低屈折率材料で構成され、
前記高屈折率材料の格子構造の最大厚さをDH、低屈折率材料の格子構造の最大厚さをDL、前記第1ピッチの最小ピッチをPd、前記第2ピッチの最大ピッチをPsとすると、以下の条件を満たす請求項1又は請求項2に記載の回折光学素子。
(DH×Ps)/(DL×Pd) < 5.0 …(3)
【請求項4】
前記格子構造の最大高さをH、前記凹凸構造の最大高さをhとしたとき、
以下の条件を満たす請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の回折光学素子。
0.008 < h/H < 2.0 …(4)
【請求項5】
d線(587.6nm)の回折効率をEdとし、g線(435.8nm)の回折効率をEgとし、C線(656.3nm)の回折効率をECとし、前記凹凸構造が形成された前記回折光学素子のd線の反射率(垂直入射、100%=1.0とする。)をRsdとすると、以下の条件を満たす請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の回折光学素子。
但し、する。
((Ed+EC+Eg)/3)/Rsd > 10.0 …(5)
【請求項6】
d線(587.6nm)の回折効率をEdとし、g線(435.8nm)の回折効率をEgとし、C線(656.3nm)の回折効率をECとし、以下の数式を満たす請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
(EC+Eg)/(2×Ed) > 0.9 …(6)
【請求項7】
前記2枚の光学部材のd線の屈折率差をΔNd、前記2枚の光学部材の主分散(NF−Nc)の差をΔ(NF−Nc)とすると、以下の数式を満たすことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の回折光学素子。
−20.0 < ΔNd/Δ(NF−Nc)< −2.0 …(7)
【請求項8】
前記凹凸構造の最大高さをh、前記第2ピッチの最大ピッチをPsとすると、以下の数式を満たす請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の回折光学素子。
1.0 < h/Ps < 10.0 (8)
【請求項9】
前記回折光学面の壁が、前記回折光学素子を透過する光の光軸に対して傾いていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項10】
前記回折光学面は正屈折力であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項11】
前記2枚の光学部材の材料は紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項12】
複数の光学素子を有し、光を案内すると共に光に作用する光学系であって、
前記光学素子の少なくとも1つが請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学系。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の回折光学素子を有することを特徴とする光学装置。
【請求項1】
第1ピッチで形成された格子構造を有する回折光学面を互いに向かい合わせて積層した2枚の光学部材からなる回折光学素子において、
前記回折光学素子の一面に、前記回折光学素子を透過する光の基準波長よりも短い第2ピッチの凹凸構造を有する回折光学素子。
【請求項2】
前記基準波長をd線(587.6nm)とし、その波長をλd、前記2枚の光学部材のd線の屈折率差をΔNd、前記一面側の前記光学部材の屈折率をNsとすると、以下の条件を満たす請求項1に記載の回折光学素子。
0.02 <ΔNd < 0.45 …(1)
0.1 < λd/Ns < 1.0 …(2)
【請求項3】
前記2枚の光学部材の一方が相対的に高屈折率材料で他方が相対的に低屈折率材料で構成され、
前記高屈折率材料の格子構造の最大厚さをDH、低屈折率材料の格子構造の最大厚さをDL、前記第1ピッチの最小ピッチをPd、前記第2ピッチの最大ピッチをPsとすると、以下の条件を満たす請求項1又は請求項2に記載の回折光学素子。
(DH×Ps)/(DL×Pd) < 5.0 …(3)
【請求項4】
前記格子構造の最大高さをH、前記凹凸構造の最大高さをhとしたとき、
以下の条件を満たす請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の回折光学素子。
0.008 < h/H < 2.0 …(4)
【請求項5】
d線(587.6nm)の回折効率をEdとし、g線(435.8nm)の回折効率をEgとし、C線(656.3nm)の回折効率をECとし、前記凹凸構造が形成された前記回折光学素子のd線の反射率(垂直入射、100%=1.0とする。)をRsdとすると、以下の条件を満たす請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の回折光学素子。
但し、する。
((Ed+EC+Eg)/3)/Rsd > 10.0 …(5)
【請求項6】
d線(587.6nm)の回折効率をEdとし、g線(435.8nm)の回折効率をEgとし、C線(656.3nm)の回折効率をECとし、以下の数式を満たす請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
(EC+Eg)/(2×Ed) > 0.9 …(6)
【請求項7】
前記2枚の光学部材のd線の屈折率差をΔNd、前記2枚の光学部材の主分散(NF−Nc)の差をΔ(NF−Nc)とすると、以下の数式を満たすことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の回折光学素子。
−20.0 < ΔNd/Δ(NF−Nc)< −2.0 …(7)
【請求項8】
前記凹凸構造の最大高さをh、前記第2ピッチの最大ピッチをPsとすると、以下の数式を満たす請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の回折光学素子。
1.0 < h/Ps < 10.0 (8)
【請求項9】
前記回折光学面の壁が、前記回折光学素子を透過する光の光軸に対して傾いていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項10】
前記回折光学面は正屈折力であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項11】
前記2枚の光学部材の材料は紫外線硬化樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【請求項12】
複数の光学素子を有し、光を案内すると共に光に作用する光学系であって、
前記光学素子の少なくとも1つが請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の回折光学素子であることを特徴とする光学系。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の回折光学素子を有することを特徴とする光学装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−22319(P2011−22319A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166678(P2009−166678)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】
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