説明

回折構造転写箔及び回折構造被転写媒体

【課題】レリーフ型回折構造物は、反射層にレーザ光や熱線、電子線等を照射して、反射層、もしくは反射層から上の層の全てを除去することが可能で、不正使用されることがある。本発明は、偽造防止効果を保持しつつ反射層の改竄を容易に検知できる回折構造物転写箔を提供することである。
【解決手段】支持体1上に、少なくとも、剥離保護層11、光吸収変色層12、回折構造形成層13、反射層15、及び接着層17をこの順に積層したことを特徴とする回折構造物転写箔3、又は前記光吸収変色層12が示温性材料を含むことを特徴とする回折構造物転写箔である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改竄を容易に検知するための機能を備えた回折構造物転写箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物品の偽造を防止するために、物品そのものを模倣が困難な物にすることがなされ、あるいは、真正品と偽造品を識別することに関しては、模倣することが困難な物を真正品の証明として物品に取り付けることがなされてきた。例えば、紙幣や株券等の有価証券に関しては、そのもの自体に微細な印刷加工や透かし加工を施すこと、及び色再現が困難な彩色を施すこと等によって、印刷技術、複写機もしくはスキャナー等を使用した複製による偽造を困難なものとしてきた。
【0003】
ところが、従来は偽造が困難であった微細な印刷加工や色彩の付与も、現在では、デジタル技術の進歩により、容易にカラーコピーやスキャナー等で再現出来るようになった。そのため、偽造防止策としての印刷加工も一段と高微細化するに到り、単純な複製や偽造は困難なものとなっている。他方では、このように高微細化が進んだ結果、一目で真偽判定を行い物品の真贋を判定することが容易でないという弊害も生じている。
【0004】
このため、真偽判定及び取り扱いが容易な回折格子パターンを記録した回折構造物を物品(偽造防止対象物)に取り付けることが、偽造防止手段として、広く行われることとなった。このような偽造防止手段として採用される回折構造物は、一般には、支持体上に剥離性を持つ剥離層、回折格子パターンが形成された回折構造形成層、金属光沢を持つ反射層、接着層等を順次積層して転写箔化したものである(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
上記回折構造物中の回折格子パターンを形成する製造方法は幾つかあるが、本明細書では、一例としてレリーフ型回折構造物の製造方法についてのみ記載するが、本発明は、この製造方法に限定されるものではない。
【0006】
レリーフ型回折構造物とは、回折構造形成層に、所望の画像情報が凹凸を有する回折格子パターンとして記録形成されたものである。回折構造形成層に光を当てると、入射光がこの回折格子によって干渉を起こし、入射光に対してある一定の角度もしくはある一定の範囲内の角度方向に、原画像情報が再生される。このレリーフ型回折構造形成層は、画像情報を回折格子パターンとして記録した原版を作製し、この原版で回折構造形成層として好適な材料をエンボス加工することによって大量生産することができるため、現在多くの回折構造物に採用されている。
【特許文献1】特開昭61−190369号公報
【特許文献2】特開2004−101647号公報
【特許文献3】特開2000−218908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レリーフ型回折構造物は、回折光を観察するための反射層を具備するために問題が生じている(図1を参照のこと)。この回折構造部分2は、紙やフィルム等の被転写媒体(図示せず)に接着層17を介して転写された後においては、反射層15にレーザ光や熱線、電子線等を照射して、反射層、もしくは反射層から上の層の全てを除去することが可能となる。その場合、故意に、除去という改竄がなされたレリーフ型回折構造物は、目視による観察では、あたかも製造工程上で発生したエラー品の様に見えるため、このエラー品が希少価値を有するものとして高額で取引の対象になっているという事実である。
【0008】
従来からの偽造防止対策としては、反射層15と接着層17との間に、特定波長の励起光照射で可視光を発生させるための波長変換層を設けた回折構造物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、レーザ光や熱線を使用して反射層を故意に改竄する行為に対しては、改竄の前後で外観が変化せず、また、改竄後に特定波長の励起光を照射しても、反射層が除去されて改竄された箇所であっても、残存した波長変換層が発光してしまうため改竄を発見することは困難であった。
【0009】
また、支持体上に剥離層、着色層、回折構造形成層、反射性薄膜層、接着層を順次形成した回折構造物が開示されているが(例えば、特許文献3参照)、この場合の着色層は、回折構造物により表現される画像の意匠性を向上させるために、樹脂に色材を混ぜ合わせた層であって、記載されている染料や顔料等の色材では、レーザ光や熱による反射層の改竄を検知することができない。
【0010】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであって、その課題は、偽造防止効果を保持しつつ反射層の改竄を容易に検知できる回折構造物及びその転写箔を提供することである。また、その回折構造転写箔を、実用上、十分な耐久性及び耐薬品性を有するものとすることである。さらに、そのような偽造防止機能を有する回折構造物を、紙、フィルム及びプラスチック基材等の媒体に転写した回折構造被転写媒体それ自体である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明において上記課題を達成するための、請求項1の発明は、支持体上に、少なくとも、剥離保護層、光吸収変色層、回折構造形成層、反射層、及び接着層をこの順に積層したことを特徴とする回折構造転写箔である。
【0012】
この構成の場合、故意に、レーザ光、熱線、あるいは電子線等を反射層に照射して反射層を除去しようとすると、光吸収変色層に含有されている光吸収材が照射エネルギーを吸収して温度が上昇する結果、光吸収材を含む樹脂成分等が変質し変色・帯色するので、改竄があったことを目視で容易に検知できる。
【0013】
請求項2の発明は、上記の光吸収変色層が示温性材料を含むことを特徴とする回折構造転写箔である。
【0014】
示温性材料を添加した構成とすることで、発熱及び加熱による着色効果が増強されるかもしくは全く異なる色彩を呈するため、検知が一段と容易になる。
【0015】
請求項3の発明は、前記反射層がパタニングされており、該反射層が、同一形状にパタニングされた耐薬品性保護層により被覆されていることを特徴とする回折構造転写箔である。
【0016】
この構成であれば、反射層を所望の形状にパタニングできるため外観及び意匠の自由度ドが高まり、かつ、耐久性のある回折構造物が得られる。
【0017】
請求項4の発明は、密着補助層もしくは印刷層を含むことを特徴とする回折構造転写箔である。
【0018】
この構成であれば、請求項3の発明とあいまって、紙、プラスチック等の媒体に転写した後の、薬品浸漬試験、耐熱試験等において十分な耐性を有する回折構造物が得られる。
【0019】
請求項5の発明は、上記の回折構造物転写箔を被転写媒体に接着し、支持基材を剥離したことを特徴とする回折構造被転写媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明になる回折構造物を、紙に転写して製造した商品券、紙幣、機密書類等もしくはプラスチックに転写したカード類及び証明書類等の回折構造被転写媒体にあっては、光や熱線を使用した改竄行為が容易に検知できるため、意図的にエラー品を製造し、エラー品と偽った改竄品を高額な取引の対象とする不正行為を防止できる。また、実用上十分な耐久性を有し、かつ、外観意匠性に対する自由度の高い回折構造被転写媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明になる回折構造転写箔及び回折構造被転写媒体の一例である偽造防止用紙の構造等について、その最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明第1及び第2の事例を示す回折構造転写箔3(以下、単に転写箔と記す)を、図2におけるA−Aで切断した場合の断面の状態として、模式的に示す図である。図2は転写箔3を図1の矢印側から見た様子を示したものである。転写箔3は、支持体1上に回折構造物2(以下、単に転写層と記す)が積層されたもので、接着層17を紙やフィルムなどの被転写媒体(図示せず)に密着し固定させた後、支持体1を剥離して転写層2だけを被転写媒体に転写するものである。転写箔3は、転写層2を摩擦による傷や各種薬品などから保護するための剥離保護層11と、レーザ光や熱線などの光線を吸収して熱に変換する光吸収材や温度によって色が変化する示温性材料を含有する光吸収変色層12と、剥離保護層11側からの入射光によって回折光を発生させる回折構造形成層13と、回折光を反射する反射層15、及び被転写媒体に接着する機能を有する接着層17を有する。回折構造形成層13の一方の側には、エンボス加工により回折格子パターンとしてのエンボス形状14が設けられており、その上に反射層15が回折格子に咬合的に密着しているものである。これが本発明になる回折構造物の基本構成である。
【0023】
また、図2は本発明第1及び第2の事例を示す転写箔3の平面図で、図1において支持体1側から転写層2を見た状態を示している。図2の例では、光吸収変色層12が“10000”という数字形状で形成され、反射層15は転写層2の全面に形成されている。また六角形の星型やアルファベットの小文字は回折構造形成層13のエンボス加工面14による回折光画像を示している。
【0024】
次に、図3は、本発明第3の事例を示す転写箔5を、図4におけるB−Bで切断した場合の断面の状態として、模式的に示した図である。転写箔5における転写層4も、剥離保護層11と、レーザ光や熱線などの光線を吸収して熱に変換する光吸収材や温度によって色が変化する示温性材料を含有する光吸収変色層12と、剥離保護層11側からの入射光によって回折光を発生させる回折構造形成層13と、回折構造であるエンボス加工面14と回折光を反射する反射層15、反射層15を部分的に設けるために必要な耐薬品保護層16、そして被転写媒体に接着するための接着層17を有している。
【0025】
また、図4は本発明第3の事例を示す転写箔5の平面図であって、図3の断面図において支持体1側から転写層4を見た場合を示している。図4の例では、耐薬品保護層16と同一形状の反射層15は、両端が円状の横長形状をしている部分と“Security”の小さな文字形状とがあり、その横長形状の内部では六角形の星型の回折光画像を観察することができ、また、“Security”の文字については同形状の回折光画像を観察することができる。一方、それ以外の反射層15が無い部分については、エンボス加工面14で発生する回折光が反射されないため、観察者は回折光画像を見ることはできない。反射層15のパタニングは、耐薬品保護層16を所望の形状にエッチング加工し、これを
マスクとして開口部の反射層を除去することで行う。これらにより、偽造防止効果を一段と向上させた構成となっている。
【0026】
次に図5は、前記図1及び図2に示した本発明の転写箔3の転写層2を、被転写媒体6である紙に転写して後、支持体1を剥離して作製した偽造防止用紙7に対し、反射層15の一部を除去する改竄を行った結果の一例を、模式的に説明する断面図であって、図6のC−C部に対応するものである。また、図6は図5を剥離保護層11側から観察した時の平面図であって、図6の例では、商品券に本発明になる転写箔3の転写層2を帯状に転写した後に、反射層15を除去する改竄を行った例を示したものである。“10000”の数字形状をした白色の光吸収変色層12が、光を照射された部分だけ黒色に発色しているのが観察されたことから、反射層15が改竄されたことを容易に確認することができた。
【0027】
一方、図7は、前記図3及び図4に示した本発明になる転写箔5の転写層4を、被転写媒体6である紙に転写して支持体1を剥離して作製した偽造防止用紙8(商品券)に対し、部分的に形成されている反射層15の一部を除去する改竄を行った結果を示す平面図であって、図7は図8のD−D部に対応する部分である。反射層の除去部21を観察すると、“10000”の数字形状をした白色の光吸収変色層12であって、除去した部分の一部が黒色に変色した変色部22が観察された。このことは、転写箔の製造時に反射層15が誤って除去されたのではなく、商品券に転写層4を転写した後に反射層15の一部が除去されたことを示しており、これは、改竄を容易に検知することが可能な偽造防止用紙であるということを示唆している。
【0028】
以下に、本発明の回折構造物転写箔とそれを用いた回折構造被転写媒体の一例である偽造防止用紙を構成する各層の材質や形成方法等について説明する。
【0029】
(支持体)
まず、支持体1としては樹脂フィルムが使用できる。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム、ポリエチレンナフタレート樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリエチレン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、耐熱塩化ビニルフィルム等が使用できる。これらの樹脂の中で、耐熱性が高く厚みが安定している事から、ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムが好ましく使用できる。
【0030】
また、これら樹脂フィルムには、帯電防止処理、マット加工、エンボス処理、文字や絵柄の印刷、レーザーマーキング等の加工を施したフィルムも使用する事ができる。
【0031】
(剥離保護層)
剥離保護層11としては、樹脂に滑剤を添加したものが使用できる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等が使用できる。例えば、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂である。また、滑剤としてはポリエチレンパウダーや、カルナバロウ等のワックスを使用する事ができ、20重量部まで添加する事が可能である。これらは剥離保護層11として、支持体1上にグラビア印刷法やマイクログラビア法等、公知の塗布方法によって形成される。
【0032】
(光吸収変色層)
光吸収変色層12としては、樹脂に光吸収材を添加したもの、もしくは樹脂に光吸収材と示温性材料の両方を添加したものが使用できる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等が使用できる。例えば、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等である。また、光吸収材としては赤外線吸収剤や紫外線吸収剤が使用可能であり、光吸収剤の配合割合は、光吸収変色層12を構成する樹脂等からなる組成物100重量部に対して0.1〜20重量部添加されることが好ましいが、密着性や耐久性等に影響がなければ、これに限定されるものではない。また、前記樹脂や光吸収材と合わせて使用される示温性材料としては、転写箔が加工される温度や通常使用される環境温度では変色せずに、反射層15を除去する改竄を行う場合に変色する必要があるため、変色温度が200℃以上の、例えばビスマス化合物等の示温性材料を使用することが望ましい。これら光吸収剤や示温性材料は単独、若しくは2種以上を組み合わせて用いることも可能である。光吸収変色層12は、剥離保護層11上の一部分に文字や画像等、任意の形状でグラビア印刷法やマイクログラビア法等、公知の塗布方法によって形成される。
【0033】
(回折構造形成層)
回折構造形成層13は、レリーフ型回折格子や体積型回折格子等の回折構造体が利用でき、その表面に微細な凹凸パターン14を形成する事により回折格子として記録したものである。
【0034】
前記レリーフ型回折格子は、例えば、二光束干渉法を使用して感光性樹脂の表面に互いに可干渉の2本の光線を照射してこの感光性樹脂表面に干渉縞を生成させ、この干渉縞を凹凸の形態で感光性樹脂に記録することで形成できる。尚、この二光束性干渉法によって形成された干渉縞も回折格子であり、前記2本の光線の選択によって任意の立体画像を回折格子パターンとして記録することが可能である。また、観察する角度に応じて異なる画像(以下、チェンジング画像と記す)が見られるように記録することも可能である。
【0035】
本発明に用いられる回折格子構造物による画像パターンを記録する方法については、前記二光束干渉法の他にもイメージホログラムやリップマンホログラム、レインボーホログラム、インテグラルホログラムなど、従来から知られているホログラムの製造方法により作製することが可能である。
【0036】
また、レリーフ型回折格子の凹凸パターンは、電子線硬化型樹脂の表面に電子線を照射して、回折格子となる縞状パターンに露光することによって回折構造物を形成することも可能である。この場合には、その干渉縞を1本ごとに制御することができるため、ホログラムと同様に任意の立体画像やチェンジング画像を記録することができる。また、画像をドット状の画素領域に分割し、この画素領域ごとに異なる回折格子を記録し、これら画素の集合で全体の画像を表現することも可能である。画素は円形のドットの他、星形のドットでも良い。
【0037】
また、誘起表面レリーフ形成法によって、前記凹凸パターンを形成する事も可能である。すなわち、アゾベンゼンを鎖側に持つポリマーのアモルファス薄膜に対して、青色〜緑色に渡る範囲の或る波長を有した数十mW/cm2程度の比較的弱い光を照射することによって、数μmスケールでポリマー分子の移動を起こし、結果、薄膜表面に凹凸によるレリーフを形成することができる。
【0038】
そして、このように形成された凹凸パターンを有するレリーフ型のマスター版の表面に電気メッキ法で金属膜を形成する事によって、レリーフ型マスター版の凹凸パターンを複製し、これをプレス版とする。そして、支持体1上に積層される樹脂層にこのプレス版を熱圧着し、この樹脂層の表面に微細な凹凸パターン14を転写することにより、回折構造形成層13とすることができる。
【0039】
前記レリーフ型回折格子による回折構造形成13に適用される樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂等が使用できる。例えば、熱可塑性樹脂では、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。また、反応性水酸基を有するアクリルポリオールやポリエステルポリオール等にポリイ
ソシアネートを架橋剤として添加して架橋させたウレタン樹脂、メラミ樹脂、フェノール樹脂等が使用できる。また、紫外線あるいは電子線硬化性樹脂としては、エポキシ(メタ)アクリル、ウレタン(メタ)アクリレート等が使用できる。
【0040】
(反射層)
反射層15は、回折構造形成層13に直接接触して設ける必要はないが、回折構造形成層13がレリーフ型回折格子の場合には、その凹凸パターン14に反射層15を直接接触して設けられる必要がある。この場合、反射層15によって反射した光は回折光である。
【0041】
また、反射層15として、反射輝度が高い点で金属薄膜が好ましく利用できる。この金属としては、例えば、Al、Sn、Cr、Ni、Cu、Au、真鍮等が挙げられる。そして、真空製膜法を利用してこの金属薄膜を形成することができる。真空製膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法等が適用でき、厚みは5〜1000nm程度に制御できれば良い。
【0042】
また、この反射層15は次のような方法で加工する事により、耐薬品保護層16と同一形状の画像パターンや文字パターンとすることができる。
【0043】
まず、その第1の方法は、全面一様に反射層15を形成してこの反射層15上に着色剤によって着色した耐薬品性の樹脂層を耐薬品保護層16として画像パターン状に設け、アルカリ性または酸性のエッチング液を適用して露出している反射層を溶解して除去して反射層15を形成する方法である。本発明では、耐薬品保護層をそのまま残存させて耐薬品性を持たせるための保護層として利用している。
【0044】
また、その第2の方法は、全面一様に形成された反射層15上に耐薬品保護層16として感光性樹脂層を形成し、画像パターン状に露光・現像した後、アルカリ性または酸性のエッチング液を適用して露出した反射層を溶解して除去する方法である。
【0045】
尚、反射層15や耐薬品保護層16の画像パターンとしては明確な意味を持たないランダムなパターンでも良いが、絵柄、図形、模様、文字、数字、記号等、認知可能な情報を付与させることも可能である。
【0046】
(耐薬品保護層)
耐薬品保護層17としては、水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬するエッチング法を用いても塗膜に変化が生じないものが望ましい。エッチング法の具体的な方法の例としては、全面均一に形成した反射層15上に耐薬品保護層16を形成し、前記水酸化ナトリウム水溶液を40〜50℃に保持し、1.5Nとした溶液をエッチング液として使用し、このエッチング液中に5〜30秒間浸漬することにより、反射層14を画像パターン状に加工することができる。
また、耐薬品保護層17は、ガラス転移温度150℃以上の樹脂を使用する事が望ましい。この場合には、酸やアルカリから保護するだけでなく、高温から反射層15の変形を守ることも可能となる。このような、耐薬品・耐熱性の樹脂としては、ポリカーボネート樹脂(Tg.140〜150℃)、ポリアリレート樹脂(Tg.193℃)、ポリスルホン樹脂(Tg.190℃)、ポリエーテルスルホン樹脂(Tg.225℃)、ポリエーテルイミド樹脂(Tg.200℃以上)、環状ポリオレフィン共重合体(Tg.171℃)、変性ノルボルネン系樹脂(Tg.171℃)、ポリアミドイミド樹脂(Tg.200℃以上)、ポリイミド樹脂(Tg.250℃以上)等が挙げられる。この他、熱硬化性樹脂、湿気硬化性樹脂、紫外線硬化性または電子線硬化性の樹脂を使用しても良い。
尚、これらの樹脂100重量部に対して40重量部を上限として、フィラーや充填剤、着色剤等を添加することができる。40重量部を超えて添加した場合には、分散性が悪くな
って塗膜強度が低下して耐熱性が劣ることがある。また、塗液の流動性が低くなって版上で乾燥してしまって印刷適性が悪化する事や、塗液中のそれら添加剤が、保存中または塗工中に沈降または凝集してしまうことことがある。
【0047】
(接着層)
接着層17としては、熱及び圧力によって被転写媒体に接着するものであれば良く、公知の感熱性接着材料を使用することができる。
【0048】
(その他の層)
その他の層としては、各層間の密着性をより強固なものとするためにアンカー層を設けたり、文字や絵柄を印刷したり、部分的に隠蔽や可視光の不透過率を向上させるために印刷層を追加することができ、これらのインキも周知の密着向上剤や接着剤、印刷インキをそれぞれ使用することができる。
【0049】
(偽造防止用紙及び偽造防止媒体)
本発明に係る転写箔を被転写媒体6に重ね、熱圧着により接着した後、支持体1を剥離除去する事により、転写層2や4を転写して偽造防止用紙7や8を製造する事ができる。被転写媒体6には、紙やプラスチック、合成紙等、所望の材料が利用できる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例によって本発明を説明する。
【0051】
(実施例1)
まず、前述第1の例である転写箔3について説明する。支持体1として、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレート(通称PET)フィルムを使用した。
【0052】
この支持体1の片面に、下記組成物からなるインキを塗布・乾燥し、膜厚2μmの剥離保護層11形成した。
【0053】
次に、保護層11上の一部分に、下記組成物からなるインキを数字の形状に塗布・乾燥し、膜厚1.5μmの光吸収変色層12形成した。
【0054】
次に、下記組成物からなるインキを塗布・乾燥し、膜厚1μmの層を形成した後、ロールエンボス法により回折格子形成用のプレス版を熱圧してその表面に回折格子を発生させるためのエンボス形状14を形成し、回折構造形成層13とした。
【0055】
また、この回折構造形成層13の全面に、真空蒸着法にてアルミニウム蒸着膜を膜厚50nmにて均一に製膜し、反射層15を形成した。
【0056】
最後に下記組成物からなるインキを塗布・乾燥させて厚さ3μmの接着層17を形成し、本発明の第1の事例の転写箔3を製造した。
【0057】
「剥離保護層インキ組成物」
ポリアミドイミド樹脂(Tg.250℃) 19.2重量部
ポリエチレンパウダー 0.8重量部
ジメチルアセトアミド 45.0重量部
トルエン 35.0重量部
「光吸収変色層インキ組成物」
ウレタン樹脂 20.0重量部
赤外線吸収材(第二銅含有リン酸塩系組成物) 1.0重量部
示温性材料(ビスマス化合物) 2.5重量部
メチルエチルケトン 50.0重量部
酢酸エチル 30.0重量部
「回折構造形成層インキ組成物」
ウレタン樹脂 20.0重量部
メチルエチルケトン 50.0重量部
酢酸エチル 30.0重量部
「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 15.0重量部
アクリル樹脂(Tg.20℃) 10.0重量部
シリカ 1.0重量部
メチルエチルケトン 44.0重量部
トルエン 30.0重量部
この転写箔3を、予め文字や絵柄など所望の印刷を行った紙の媒体6に重ね、温度120℃に熱した円型の熱ロールタイプの転写機を用いて紙媒体6に熱転写してすぐに支持体1を剥離除去し、偽造防止用紙7を製造した。
【0058】
(実施例2)
次に、前述第3の例である転写箔5について説明する。支持体1として、厚さ25μmの透明なポリエチレンテレフタレート(通称PET)フィルムを使用した。
【0059】
この支持体1の片面に、下記組成物からなるインキを塗布・乾燥し、膜厚2μmの剥離保護層11を形成した。
【0060】
次に、保護層11上の一部分に、下記組成物からなるインキを数字の形状に塗布・乾燥し、膜厚1.5μmの光吸収変色層12形成した。尚、転写箔5では反射層15は部分的に形成されるため、光吸収変色層12はその全体もしくは一部分が必ず反射層15と重なるように形成する必要があり、本実施例では、光吸収変色層12は数字“10000”の形状にて、図4に示したように楕円状の反射層15の側に重なるように配置した。
【0061】
次に、下記組成物からなるインキを塗布・乾燥し、膜厚1μmの層を形成した後、ロールエンボス法により回折格子形成用のプレス版を熱圧してその表面に回折格子を発生させるためのエンボス形状14を形成し、回折構造形成層13とした。
【0062】
次に、この回折構造形成層13の全面に、真空蒸着法にてアルミニウム蒸着膜を膜厚50nmにて均一に形成し、更に、アルミニウム蒸着膜上に厚さ1μmの耐薬品保護層16を前記光吸収変色層12と位置が重なるように形成した。そして、50℃に保温された1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液が入った浴槽に10秒間浸し、前記耐薬品保護層16がマスクとなり、耐薬品保護層16が存在せずにアルミニウム蒸着膜が露出している部位をエッチングで除去した。更に、0.1Nの塩酸水溶液に浸して中和処理を行い、その後、水洗、乾燥した。こうして、独立した画像パターン状にアルミニウム蒸着膜から構成される反射層15と、この反射層15に重ねられ、且つ、この反射層15と同一形状を有する耐薬品保護層16を形成した。
【0063】
最後に下記組成物からなるインキを塗布・乾燥させて厚さ3μmの接着層17を形成し、本発明の第3の事例の転写箔5を製造した。
【0064】
「剥離保護層インキ組成物」
ポリアミドイミド樹脂(Tg.250℃) 19.2重量部
ポリエチレンパウダー 0.8重量部
ジメチルアセトアミド 45.0重量部
トルエン 35.0重量部
「光吸収変色層インキ組成物」
ウレタン樹脂 20.0重量部
赤外線吸収材(第二銅含有リン酸塩系組成物) 1.0重量部
示温性材料(ビスマス化合物) 2.5重量部
メチルエチルケトン 50.0重量部
酢酸エチル 30.0重量部
「回折構造形成層インキ組成物」
ウレタン樹脂 20.0重量部
メチルエチルケトン 50.0重量部
酢酸エチル 30.0重量部
「耐薬品保護層インキ組成物」
変性ノルボルネン樹脂(Tg.171℃) 20.0重量部
沈降性硫酸バリウム(比重5.5) 10.0重量部
メチルエチルケトン 40.0重量部
トルエン 30.0重量部
「接着層インキ組成物」
塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂 15.0重量部
アクリル樹脂(Tg.20℃) 10.0重量部
シリカ 1.0重量部
メチルエチルケトン 44.0重量部
トルエン 30.0重量部
次に、この転写箔5を、予め文字や絵柄など所望の印刷を行った紙の媒体6に重ね、温度120℃に熱した円型の熱ロールタイプの転写機を用いて媒体6に熱転写してすぐに支持体1を剥離除去し、偽造防止用紙8を製造した。
【0065】
こうして製造された偽造防止用紙7と8にストライプ状に転写された転写層2や4を観察すると、観察する角度に応じて回折光による異なる色彩や画像を発生させており、また、反射層15を変造や改竄しない場合には、数字の“10000”の文字が白色に見え、従来と同様の偽造防止効果を持った用紙であることが分かった。
【0066】
また、本発明による方法で製造された偽造防止用紙7と8の転写層2や4における反射層15の一部を出力2W、波長1064nmのレーザ光によって除去したところ、両者ともレーザ光を照射した箇所(改竄部21)の反射層が除去され、且つ、光吸収変色層12において、レーザ光が照射された部分だけが黒く変色しており、改竄を容易に判別することが可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る第1の例を示す回折構造物転写箔の断面図(図2のA−A断面)。
【図2】本発明に係る第1の例を示す回折構造物転写箔の平面図
【図3】本発明に係る第3の例を示す回折構造物転写箔の断面図(図4のB−B断面)
【図4】本発明に係る第3の例を示す回折構造物転写箔の平面図
【図5】本発明に係る第1の例を示す回折構造物転写箔を用いて作製された偽造防止用 紙の反射層の一部を改竄によって除去した事を示す断面図(図6のC−C断面 )
【図6】本発明に係る第1の例を示す回折構造物転写箔を用いて作製された偽造防止用 紙の反射層の一部を改竄によって除去した事を示す平面図
【図7】本発明に係る第3の例を示す回折構造物転写箔を用いて作製された偽造防止用 紙の反射層の一部を改竄によって除去した事を示す断面図(図8のD−D断面 )
【図8】本発明に係る第3の例を示す回折構造物転写箔を用いて作製された偽造防止用 紙の反射層の一部を改竄によって除去した事を示す平面図
【符号の説明】
【0068】
1 ・・・・支持体
2、4 ・・・・回折構造物(又は、単に転写層)
3、5 ・・・・回折構造物転写箔(又は単に、転写箔)
6 ・・・・被転写媒体
7、8 ・・・・偽造防止用紙
10 ・・・・観察方向(矢印)
11 ・・・・剥離保護層
12 ・・・・光吸収変色層
13 ・・・・回折構造形成層
14 ・・・・エンボス形状部(凹凸部)
15 ・・・・反射層(回折構造による画像が観察できる箇所)
16 ・・・・耐薬品保護層
17 ・・・・接着層
21 ・・・・改竄部(不正に反射層が除去された箇所)
22 ・・・・変色部(改竄によって変色した箇所)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、少なくとも、剥離保護層、光吸収変色層、回折構造形成層、反射層、及び接着層を、この順に積層したことを特徴とする回折構造転写箔。
【請求項2】
前記光吸収変色層が示温性材料を含むことを特徴とする請求項1記載の回折構造転写箔。
【請求項3】
前記反射層がパタニングされており、該反射層が、同一形状にパタニングされた耐薬品性保護層により被覆されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回折構造転写箔。
【請求項4】
密着補助層もしくは印刷層を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の回折構造転写箔。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の回折構造転写箔を被転写媒体に接着し、前記支持体を剥離したことを特徴とする回折構造被転写媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−175579(P2009−175579A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15930(P2008−15930)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】