説明

回路部品の製造方法

【課題】生産性を向上することができ、電子機器内部の省スペース化が可能な回路部品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形体の表面に配線パターンが設けられてなる回路部品を製造する回路部品の製造方法において、めっき触媒が付与された被めっき領域を有する樹脂成形体1に、被めっき領域を空隙34を有して覆うと共に該空隙と外部とをそれぞれ連結する2つの開口部33a,33bを備えた部材21を当接させた状態で、一方の開口部33aから空隙を通過して他方の開口部33bに向かってめっき液22を供給し、被めっき領域にめっき膜からなる配線パターン3を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路部品の製造方法に係り、特に、樹脂成形体の表面に沿って配線パターンを3次元に形成した回路部品であるMIDの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化,軽量化,高性能化に伴って、プリント配線板のファインパータン化及び多層化が求められていると共に、電子機器内部の空きスペースを有効に活用する検討が積極的に行われている。
電子機器内部の空きスペースを活用する手段の1つにMID(Molded Interconnect device)がある。
MIDは、所定の立体形状に射出成形された樹脂成形体の表面に沿って配線パターンを3次元に形成した回路部品であり、その外形形状を電子機器内部の空きスペースに応じた形状とすることによりこのMIDを上記空きスペースに配置することができるので、電子機器内部の省スペース化が図れ、電子機器の小型化が可能になる。
【0003】
MIDの製造方法として、一般的に、特許文献1に記載されているような“一回成形法”と、特許文献2に記載されているような“二回成形法”と、がある。
【0004】
“一回成形法”は、樹脂成形体の表面全体を粗面化した後、粗面化された表面にめっき触媒を付与しさらに無電解銅めっきを行うことによって樹脂成形体の表面全体に導電膜を形成し、この導電膜をフォトリソグラフィ法を用いて加工することによって樹脂成形体に配線パターンを3次元に形成する方法である。
配線パターン形成方法としては、上記導電膜をパターン化されたエッチングレジストを用いてエッチングするサブトラクティブ法や、上記導電膜をめっき導通膜としてパターン化されためっきレジストを用いて電気銅めっきを行うセミアディティブ法がある。
【0005】
しかしながら、“一回成形法”は、上記エッチングレジストやめっきレジストをフォトリソグラフィ法を用いてパターン化する際に、詳しくは上記エッチングレジストやめっきレジストを部分的に露光する際に、平行光である露光光と直交する面でのパターン化は比較的容易であるが、露光光に対して平行な面においては露光精度が悪化すると共に露光量の管理が難しいため、この面でのパターン化は難しいのが実状である。
【0006】
一方、“二回成形法”は、めっき触媒が付与されて無電解めっき膜が形成可能な第1の樹脂成形体と、めっき触媒が付与されていない即ち無電解めっき膜が形成されない第2の樹脂成形体とが一体化した状態で、フルアディティブ法による無電解銅めっきを施すことにより、第1の樹脂成形体が露出した部分に配線パターンを形成する方法である。
即ち、“二回成形法”は、“一回成形法”のような露光工程を行うことなく配線パターンを形成できるため、上述した“一回成形法”の課題を解決することができる。
【0007】
しかしながら、“二回成形法”は、“一回成形法”に比べて、少なくとも2回の成形工程が必要であるため生産性が劣り、また、少なくとも2つの樹脂成形体を有するので製造されたMIDの外形サイズが大きくなるため、電子機器内部の省スペース化に対して不利である。
また、配線パターン形成後に第2の樹脂成形体を除去することも考えられるが、この場合は第2の樹脂成形体の除去工程がさらに必要になるため、生産性をより悪化させる要因となる。
【0008】
そこで、露光工程を行うことなく、また、2つの樹脂成形体を必要とすることなく配線パターンを形成する手段が特許文献3に記載されている。
特許文献3に記載の回路部品の製造方法は、めっき触媒が付与された樹脂成形体の表面及びその近傍のめっき触媒を除去した後、この表面及びその近傍をレーザ光で部分的に除去して内部のめっき触媒付与部を露出させ、露出しためっき触媒付与部に無電解銅めっきを施すことによって、配線パターンを形成するものである。
【特許文献1】特開昭61−43497号公報
【特許文献2】特開平5−299815号公報
【特許文献3】特開2007−48827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の回路部品の製造方法では、樹脂成形体が複雑な外形形状を有する場合、例えば穴部を有する場合、穴部内へのめっき触媒除去溶液の循環が他の部分に比べて悪いため、穴部の内面におけるめっき触媒を完全に除去できない虞がある。
めっき触媒が完全に除去されていないとこの部分に電解銅めっき膜が形成されるため、この電解銅めっき膜によって配線パターン同士が短絡する場合がある。
また、めっき触媒が除去されている領域における表面からの深さのばらつきが大きい場合、表層内部のめっき触媒付与部が完全に露出しない領域が生じる虞がある。
めっき触媒付与部が露出していない領域には電解銅めっき膜が形成されないため、断線不良となった配線パターンが形成される場合がある。
【0010】
また、表層における配線パターンを形成する領域をレーザ加工により除去するので、膨大なレーザ加工時間を要するため、このレーザ加工工程が生産性を悪化させる要因となる。
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、生産性を向上することができ、電子機器内部の省スペース化が可能な回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本願各発明は次の手段を有する。
1)樹脂成形体の表面に配線パターンが設けられてなる回路部品を製造する回路部品の製造方法において、めっき触媒が付与された被めっき領域を有する樹脂成形体(1)に、前記被めっき領域を空隙(34)を有して覆うと共に該空隙と外部とをそれぞれ連結する2つの開口部(33a,33b)を備えた部材(21)を当接させた状態で、前記一方の開口部(33a)から前記空隙を通過して前記他方の開口部(33b)に向かってめっき液(22)を供給し、前記被めっき領域にめっき膜からなる配線パターン(3)を形成するようにしたことを特徴とする回路部品(10)の製造方法である。
2)前記樹脂成形体は凹み部(42)を有し、前記被めっき領域は前記凹み部に設けられてなることを特徴とする1)項記載の回路部品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生産性を向上することができ、電子機器内部の省スペース化が可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図4を用いて説明する。
図1〜図4は、本発明の回路部品の製造方法の実施例を説明するための図である。
実施例では、回路部品の一形態であるMID(Molded Interconnect device)の製造方法を例に挙げて説明する。
【0015】
<実施例>
まず、図1に示すように、無電解めっき用の触媒であるパラジウム(Pd)が約0.1重量%混入された絶縁性樹脂を射出成形することによって、直方体状の樹脂成形体1を作製する。図1は、樹脂成形体1を示す斜視図である。
この樹脂成形体1は後述するMID10の基体となるものであり、その形状は第1実施例に限定されるものではなく、MID10が配置される電子機器の空間スペースに応じた形状とすることができる。
実施例では、樹脂成形体1の長さL1及び幅W1高さH1をそれぞれ2.4cm、高さH1を1cmとした。
【0016】
次に、無電解めっき装置20を用いて、樹脂成形体1に配線パターン3を形成する方法について説明する。
【0017】
まず、無電解めっき装置20について図2を用いて説明する。
図2は、無電解めっき装置20を説明するための模式図であり、図2中の(a)は無電解めっき装置20の概略構成図、(b)は(a)におけるABCD断面における断面図、(c)は(a)におけるEFGH断面における断面図である。
【0018】
図2に示すように、無電解めっき装置20は、主として、本体部21と、無電解めっき液22を溜めておくタンク部23と、タンク部23から本体部21に無電解めっき液22を圧送する圧送手段24と、圧送手段24によって圧送された無電解めっき液22の流量を調整する流量調整手段25と、無電解めっき液22の分析及び管理を行う分析調整装置26と、本体部21,タンク部23,圧送手段24,流量調整手段25,及び分析調整装置26を接続する配管部29と、樹脂成形体1を本体部21に固定するための固定手段27と、により構成されている。
【0019】
本体部21は、無電解めっき液22に対して耐食性を有する材料(例えばステンレス)からなり、主として、樹脂成形体1が収容される収容部31と、この収容部31の内面に形成されると共に無電解めっき液22の流路34となる凹み部32と、凹み部32を囲むように凹み部32の外周部に沿って設けられた弾性を有するシール部21bと、凹み部32と配管部29とを接続する空隙部33a,33bと、雌ねじ部21aと、により構成されている。
【0020】
タンク部23は、図示しない加熱制御手段を備え、この加熱制御手段で無電解めっき液22を所定温度に加熱して制御することができる。
【0021】
固定手段27は、主として、弾性を有する押圧手段27aと、本体部21の雌ねじ部21aと対向する位置に設けられた貫通孔27bと、により構成されている。
実施例では、押圧手段27aとしてバネ部材を用いた。
そして、雄ねじ28を、貫通孔27bに挿通させて雌ねじ部21aに螺合することによって、固定手段27を本体部21に固定することができる。
【0022】
タンク部23,圧送手段24,流量調整手段25,分析調整装置26,及び配管部29は、周知のものを用いることができる。
【0023】
次に、この無電解めっき装置20を用いて上述した樹脂成形体1に配線パターン3を形成する方法について図1〜図4を用いて説明する。
【0024】
まず、樹脂成形体1(図1参照)を無電解めっき装置20における本体部21の収容部31(図2参照)に収容する。
次に、図3に示すように、雄ねじ28を、固定手段27の貫通孔27bに挿通させて本体部21の雌ねじ部21aに螺合することによって、固定手段27を本体部21に固定する。
固定手段27を本体部21に固定することにより、樹脂成形体1は、押圧手段27aによってシール部21bを介して本体部21に押圧されて保持されると共に、本体部21の凹み部32とシール部21bと樹脂成形体1の表面とによって無電解めっき液22の流路34となる空隙部34が形成される。
【0025】
次に、圧送手段24により、タンク部23内の無電解めっき液22を本体部21へ圧送すると共に、圧送された無電解めっき液22の流量を流量調整手段25によって調整する。
そして、本体部21に圧送された無電解めっき液22は、空隙部33a,流路34,空隙部33bを順次通過して、タンク部23に戻る。
従って、樹脂成形体1が収容部31に収容された状態において、タンク部23内の無電解めっき液22を本体部21の流路34を通過させながら循環することができる。
無電解めっき液22を流路34を通過させながら循環することによって、樹脂成形体1の表面における無電解めっき液22と接する領域に無電解めっき膜からなる配線パターン3が形成される。即ち、樹脂成形体1の表面における凹み部32が設けられた範囲に対応する範囲に無電解めっき膜からなる配線パターン3が形成される。
配線パターン3の厚さは、無電解めっき液22の温度やめっき時間等の無電解めっき条件を調整することによって制御することができる。
実施例では、無電解めっき液22として無電解銅めっき液を用い、配線パターン3の厚さが5μmとなるように無電解めっき条件を調整した。
【0026】
その後、無電解めっき液22の圧送を止めて、固定手段27を本体部21から離脱した後、樹脂成形体1を無電解めっき装置20から取り出すことによって、図4に示すように、樹脂成形体1の表面に配線パターン3が形成されたMID10を得る。
【0027】
次に、上述した実施例の変形例を第1変形例及び第2変形例として、図5及び図6を用いて説明する。
図5及び図6は、実施例の第1変形例及び第2変形例をそれぞれ説明するための斜視図であり、各図中の(a)及び(b)は製造過程の状態をそれぞれ示している。
【0028】
まず、第1変形例について図5を用いて説明する。
【0029】
<第1変形例>
第1変形例は、上述した実施例に対して、樹脂成形体41の配線パターン43が形成される領域に、予め凹み部42を設ける点が異なり、それ以外については実施例と同様である。
この樹脂成形体41は、実施例と同様に、無電解めっき用の触媒であるパラジウム(Pd)が約0.1重量%混入された絶縁性樹脂を射出成形することによって作製することができる。
そして、この樹脂成形体41に、実施例と同様の無電解めっき装置20を用いて配線パターン43を形成することにより、MID40を得る。
MID40は、基体である樹脂成形体41に予め凹み部42を設けておくことにより、配線パターン43が樹脂成形体41の表面よりも外部に向かって突出しない構成となる。
この構成によれば、配線パターン43上に電子部品等を実装する場合、電子部品が配線パターン43からズレ落ちることがないので、実施例よりも電子部品の実装位置精度を向上することができる。
【0030】
次に、第2変形例について図6を用いて説明する。
【0031】
<第2変形例>
第2変形例は、上述した実施例に対して、樹脂成形体51が凹み部52を有する点と、この樹脂成形体51に複数の配線パターン、例えば4つの配線パターン53a,53b,53c,53dを形成する点が異なる。
この樹脂成形体51は、実施例と同様に、無電解めっき用の触媒であるパラジウム(Pd)が約0.1重量%混入された絶縁性樹脂を射出成形することによって作製することができる。
【0032】
このように、凹み部52を有する樹脂成形体51に複数の配線パターン53a,53b,53c,53dを形成する場合、実施例の無電解めっき装置20の本体部21に、各配線パターン53a,53b,53c,53dに対応する凹み部をそれぞれ設ければよい。
即ち、この本体部に樹脂成形体51を固定した後、これら凹み部によって形成された無電解めっき液の流路に、無電解めっき液をそれぞれ圧送することにより、樹脂成形体51に複数の配線パターン53a,53b,53c,53dを形成することができる。
【0033】
以上、詳述したように、本発明に係る回路部品の製造方法によれば、複雑な工程を必要とすることなく、無電解めっきによって、直接、配線パターンを形成することができるので、従来よりも生産性を向上することができる。
また、本発明に係る回路部品の製造方法によれば、樹脂成形体の外形形状によることなく、この樹脂成形体の表面に配線パターンを形成することができるので、回路部品を、この回路部品が配置される電子機器の空間スペースに応じた外形形状とすることができるため、この空間スペースを有効に活用することができ、電子機器内部の省スペース化が可能になる。
【0034】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0035】
例えば、実施例,第1変形例,及び第2変形例では、無電解めっき用の触媒が混入された絶縁性樹脂を射出成形することによって、樹脂成形体1,41,51を作製したが、これに限定されるものではなく、無電解めっき用の触媒が混入されていない絶縁性樹脂を射出成形して樹脂成形体を作製した後、樹脂成形体における少なくとも配線パターンが形成される領域を粗化し、さらにこの領域のみに無電解めっき用の触媒を付与するようにしてもよい。
【0036】
また、実施例では、固定手段27を本体部21に固定する方法として、ねじを螺合する方法を用いたが、これに限定するものではない。
【0037】
また、実施例では、押圧手段27aとしてバネ部材を用いたが、これに限定するものではない。
【0038】
また、実施例では、回路部品の製造方法として、MIDの製造方法を例に挙げて説明したが、これに限定させるものではなく、基体の表面に配線パターンを有する回路部品の製造方法について、本発明を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の回路部品の製造方法の実施例を説明するための図であり、実施例における樹脂成形体を示す斜視図である。
【図2】本発明の回路部品の製造方法の実施例を説明するための図であり、実施例における無電解めっき装置を説明するための模式図である。
【図3】本発明の回路部品の製造方法の実施例を説明するための図であり、実施例における配線パターンの形成方法を説明するための模式図である。
【図4】本発明の回路部品の製造方法の実施例を説明するための図であり、実施例におけるMIDを示す斜視図である。
【図5】実施例の第1変形例を説明するための斜視図である。
【図6】実施例の第2変形例を説明するための斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1 樹脂成形体、 3 配線パターン、 10 MID、 20 無電解めっき装置、 21 本体部、 21a 雌ねじ部、 21b シール部、 22 無電解めっき液、 23 タンク部、 24 圧送手段、 25 流量調整手段、 26 分析調整装置、 27 固定手段、 27a 押圧手段、 27b 貫通孔、 28 雄ねじ、 29 配管部、 31 収容部、 32 凹み部、 33a,33b 空隙部、 34 流路(空隙部)、 L1 長さ、 W1 幅、 H1 高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体の表面に配線パターンが設けられてなる回路部品を製造する回路部品の製造方法において、
めっき触媒が付与された被めっき領域を有する樹脂成形体に、前記被めっき領域を空隙を有して覆うと共に該空隙と外部とをそれぞれ連結する2つの開口部を備えた部材を当接させた状態で、前記一方の開口部から前記空隙を通過して前記他方の開口部に向かってめっき液を供給し、前記被めっき領域にめっき膜からなる配線パターンを形成するようにしたことを特徴とする回路部品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成形体は凹み部を有し、前記被めっき領域は前記凹み部に設けられてなることを特徴とする請求項1記載の回路部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−251948(P2008−251948A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93139(P2007−93139)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【出願人】(000243906)株式会社メイコー (34)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
【Fターム(参考)】