説明

回転体の芯出し方法及び装置

【課題】特に多くのコストやスペースを要することなく、芯出し作業を短時間で効率よく行なうことができるとともに、芯出しの測定精度を向上できる回転体の芯出し方法及び装置を提供する。
【解決手段】芯出し装置10は、芯出しを行なうロータ54の上面中心に回転用台座12の中心が合致するようにボルト固定して載置される。このとき、測定用アーム14は、回転用台座12上に水平状態で安定して保持され、その先端には下げ振り16が垂下される。また、測定用アーム14は、回転手段18によって回転用台座12の中心で回転自在に設置されている。したがって、下げ振り16の位置がロータ54の測定する箇所まで測定用アーム14を回転させて、各測定箇所における下げ振り16からロータ54までの距離を測定し、各測定箇所で測定された測定値を換算してロータ54の芯出しを行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転体の芯出し方法及び装置に係り、特に発電機におけるロータの組立てなど大型な回転体の芯合わせを高精度で行なう回転体の芯出し方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大型の回転体に対する芯出しは、先ず回転体の上方中心にセンターポールを立設するとともに、下げ振りを有する測定用アームを備えた架台を回転体の外側に設置して、下げ振りからセンターポールまでの距離を測定、確認、及び調整を行なう。次に、回転体の外周面から下げ振りまでの距離を測定して、その偏芯度を換算して行なわれるのが一般的である。
【0003】
また、特許文献1のように、芯出し板の中心部に突起を設けるとともに、被芯出し軸の端面にセンタ穴を穿孔した後、このセンタ穴に芯出し板の突起を係合させるとともに、芯出し板と被回転体との間を磁石により吸着させて芯出しを行なう方法もある。
【特許文献1】特開昭61−133802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の芯出しでは、回転体の測定箇所毎に段取替えを行なわなければならないので作業効率が悪い上、回転体の径が大きい場合には、芯出しの作業に多くの人手を要するばかりでなく、芯出しの測定誤差が大きくなって品質低下を招くなどの欠点があった。
【0005】
また、特許文献1の芯出しでは、回転体の回転軸に対する芯出しを行なうのであって、大型の回転体に対する芯出しを行なうことは難しい。その上、正確な回転動作が必要とされる芯出し板の回転方向については記載されていない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、特に多くのコストやスペースを要することなく、芯出し作業を短時間で効率よく行なうことができるとともに、芯出しの測定精度を向上できる回転体の芯出し方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、円柱又は円筒形を有する回転体の芯出しを行なう回転体の芯出し方法において、水平方向に配設されたアーム先端部に下げ振りを備えた測定用アームを、前記回転体の上部中心を回転中心として前記回転体の回転中心と同軸上で回転させて、前記下げ振りから前記回転体の各箇所までの距離を測定することにより、前記回転体の芯出しを行なうことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に記載の発明は、円柱又は円筒形を有する回転体の芯出しを行なう回転体の芯出し装置において、前記回転体の上部中心に取り付けられる回転用台座と、水平方向に配設されたアーム先端部に下げ振りを備えた測定用アームと、前記測定用アームが前記回転体の回転中心と同軸上で回転するように、前記測定用アームを前記回転用台座上で回転させる回転機構と、から構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、回転体の芯出し作業として、先ず回転体の上部中心に、回転用台座の中心が回転体の回転中心と同軸上になるように設置して、回転用台座上で回転自在な測定用アームを回転機構によって所定の位置まで回転させる。次に、測定用アームの先端に取り付けられた下げ振りを垂下して、下げ振りから回転体の芯出しを行なう箇所までの距離を測定し、この測定された距離から回転体の偏芯度を換算することにより、回転体の芯出しが行なわれる。このように、回転体の回転中心と同軸上で回転する測定用アームを所定の位置に回転させて測定することができるため、回転体の芯出しの測定に要する時間や手間を大幅に削減することができる。また、測定用アームは回転機構によって回転用台座上を安定して回転するように連結されているため、回転体の軸芯から下げ振りまでの距離を正確に測定することができる。さらに、回転機構によって測定用アームを所定の位置まで回転させて、下げ振りから回転体の内周面までの距離を測定すれば、回転体の内周側の芯出しを行なうことができる。
【0010】
このように、本発明を採用することにより、回転体の内外周に対する芯出しの作業を短時間で正確に行なうことができる。また、特に多くの装置及び部材を使用しないため、芯出しに要する設備コストも低減することができる。さらに、回転体の上部中心に着脱自在に設置することができるので、芯出しに要するスペースも低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の距離の測定は、前記下げ振りの先端に取り付けられた錘を油に浸漬させた状態で行なうことを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3又は4の測定用アームが移動する際の前記下げ振りの揺れを防止する揺動防止手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2及び5によれば、測定用アームを回転させる際に、下げ振りの錘がその遠心力によって揺れてしまうため、この揺れが止まるまでは芯出しを正確に行なうことができない。本発明では、振動防止手段を設けて芯出しの錘を油に浸漬させるようにした。これにより、測定用アームの移動によって生じた下げ振りの微妙な揺れを油の粘性で吸収することができるので、芯出しの測定をより正確に行なうことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の回転機構は、前記回転用台座に設けられ、前記回転体の回転中心と同軸上に中心を有する円板状のフランジと、前記測定用アームの下方に設けられ、前記フランジの上面、下面、及び側面に当接する3つのローラを備えたローラユニットを前記フランジ周囲に等間隔で少なくとも3箇所に配置されて成る回転手段と、から構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項4によれば、回転機構は、回転用台座に円盤状のフランジを設けるとともに、そのフランジの上面、下面、及び側面に当接する3つのローラから成るローラユニットを少なくとも3箇所に配置した回転手段を測定用アームの下面に設けることにより、測定用アームを回転用台座上で回転させるようにした。これにより、測定用アームは、回転用台座に設けられた回転体の回転中心と同軸に中心を有する円盤状フランジの3面に対して、回転手段によって少なくとも3点で回転自在に安定して支持されているため、回転体の芯出しの測定精度を低下させることなく、測定用アームの回転をスムーズに行なうことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明に係る回転体の芯出し装置によれば、回転用台座を回転体の上部中心に設置して回転用アームを回転させるだけで、様々な大きさの回転体に対して簡易かつ正確に芯出し作業を行なうことができる。また、簡単な装置や部材で構成されている上、回転体の上面や外周近傍のみが測定に使用されるため、回転体の芯出し作業に要するコストやスペースを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下添付図面に従って本発明に係る回転体の芯出し方法及び装置の好ましい実施の形態について詳説する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態である回転体の芯出し装置10の構成を示した斜視図である。また、図2は、芯出し装置10の一部を拡大した断面図であり、回転用台座12と回転手段18との連結状態を示している。
【0019】
図1に示すように、芯出し装置10は、主に回転用台座12と、測定用アーム14と、下げ振り16と、回転手段18と、から構成される。
【0020】
回転用台座12は、図2に示すように、上下にフランジ形状を有する台座であり、上部フランジ12aは回転手段18を介して測定用アーム14と連結している。一方、下部フランジ12bには、複数の固定部材20,20…が設けられている。固定部材20,20…には、ボルト穴20a,20a…が形成されており、そのボルト穴20a,20a…を介してボルト固定することにより、芯出し装置10を安定して設置することができる。
【0021】
測定用アーム14は、図1に示すように、回転用台座12上に水平に設置された角材であり、測定用アーム14の回転軸上にはセンターポール22が直交して設置されている。測定用アーム14の両端上面とセンターポール22の上端とは、ワイヤ24,24が張設されており、付属するワイヤチェーン24aで長さ調整することにより、測定用アーム14の水平度が保持されている。また、位置する測定用アーム14の片端上面には、作業時における測定用アーム14の安定性を向上させるためのカウンタウエイト26が設置される。
【0022】
下げ振り16は、カウンタウエイト26と反対側に位置する測定用アーム14の先端に取り付けられ、糸状を有する下げ糸であるピアノ線28と、ピアノ線28の一端に設置された錘30と、から構成される。錘30は、揺動防止手段である油缶32内に充填された油に浸漬設置されている。なお、油缶32に充填される油は、比較的粘性を有するものを使用することが好ましい。
【0023】
回転手段18は、上面で測定用アーム14を連結固定するためのリング状を有する支持フレーム33と、支持フレーム33の下面に設置され、回転用台座12の上部フランジ12aと回転自在に連結する4対のローラユニット34,34…と、から構成される。ローラユニット34は、上部フランジ12aの上面と接触するローラ36と、上部フランジ12aの側面と接触するローラ36と、上部フランジ12aの下面と接触するローラ36と、が各回転軸38,38…によって回転自在にローラガイド40,40又はローラユニット34の一部に取り付けられている。また、上部フランジ12aの下面と接触するローラ36のローラガイド40は、上下方向に長さ調整可能なジャッキボルト42を介してローラユニット34と連結されている。これにより、回転手段18は、回転用台座12の中心を回転軸として、測定用アーム14を上部フランジ12aの3面に沿って安定して回転可能な回転機構を芯出し装置10に備えさせることができる。
【0024】
次に、上記の如く構成された本発明の実施の形態である芯出し装置10の作用について説明する。
【0025】
図3は、本発明の実施の形態である芯出し装置10を発電機50の組立て工程で使用した状態を示した側面図である。
【0026】
回転体を効率よく回転させるためには、回転体の設置時や形成時における芯出し作業が重要視される。特に、発電機50では、ステータ52の内部に設置されたロータ54を不図示のタービンからの回転力で回転させることにより発電を行なうため、回転体であるロータ54が偏芯した状態で設置されていると、効率のよい発電を行なうことができないばかりでなく、運転時の故障の要因となる。また、発電機50は、定期的な分解点検を要するが、点検後に発電機50を再度組立てる際においても、ロータ54を偏芯させることなく設置する必要がある。したがって、発電機50の設置やメンテナンスにおいて、ロータ54の組立てや設置を行なう作業の際に、ロータ54の芯出しは重要な調整項目の一つである。
【0027】
しかしながら、従来の芯出し作業では、大型化した発電機50の場合では、ロータ54の芯出し作業に要する時間や手間が増大するばかりでなく、高い精度で偏芯度を測定することができないという問題があった。
【0028】
そこで、本発明の芯出し装置10を用いてロータ54に対する芯出し作業を行なうことにより、上述した問題を解消することができる。すなわち、図3に示すように、発電機50の組立て工程において、発電機50の外壁を形成するステータ52の内部にペデスタル56によって安定した状態で載置されたロータ54を組立てる際に、ロータ54の外周に対する芯出しを行なう場合には、ロータ54の上面中心に回転用台座12の中心が合致するように芯出し装置10を設置して、ロータ54と回転用台座12とをボルト固定する。このとき、測定用アーム14は、回転用台座12上に水平状態で安定して保持されており、その測定用アーム14の先端には下げ振り16が垂下されている。また、測定用アーム14は、回転手段18によって回転用台座12に回転自在に設置されている。
【0029】
したがって、下げ振り16の位置がロータ54の測定する複数箇所に位置するように測定用アーム14を回転させて、各測定箇所における下げ振り16からロータ54までの距離を測定する。そして、各測定箇所で測定された測定値からロータ54の偏芯度を換算し、その換算した値を基にしてロータ54を調整すればよい。このように、本発明の芯出し装置10は、特に複雑な装置や部材や構造を備えていない上、ロータ54の上面及び外周近傍で測定用アーム14を回転させるだけで正確な測定が可能であるため、芯出し作業に要する時間、コスト、及びスペースを大幅に低減することができる。
【0030】
また、回転手段18は、各ローラユニット34,34…に設けられたローラ36,36…が回転用台座12に設けられた上部フランジ12aの上面、側面、及び下面を挟み込み、かつ上部フランジ12aの3面に沿って走行するため、測定用アーム14を水平状態で安定して維持できるとともに、測定用アーム14をロータ54の回転軸を中心にして回転させることができるので、ロータ54の偏芯度を正確に測定することができる。
【0031】
さらに、下げ振り16の錘30は、油缶32の内部で粘性を有する油に浸漬されている。この油の粘性により、測定用アーム14の移動によって生じた下げ振り16の揺れを緩衝することができるので、ロータ54の芯出しを高い精度で測定することができる。
【0032】
なお、上述した芯出し装置10において、使用される各装置及び部材の個数、形状、及び大きさは限定するものではない。
【0033】
図3の芯出し装置10では、ロータ54の外径に対する芯出しを行なう場合を例にあげたが、特に限定するものではない。発電機50のステータ52を形成させるときにも、本発明を好適に用いることができる。すなわち、ステータ52の底部中心に本発明の芯出し装置10を設置すれば、ステータ52の内径側に対する芯出しを正確に行なうことができる。
【0034】
また、芯出し装置10において、測定用アーム14として長さを固定式のもので説明したが、特に限定するものではない。測定用アーム14を伸縮自在の構造にするとともに、カウンタウエイト26をウエイト調整可能にすれば、様々な径に対応した芯出しを行なうことができる。
【0035】
さらに、回転手段18は、複数のローラユニット34,34…に設けられた各ローラ36,36…を回転用台座12における上部フランジ12aの3面と回転自在に接触させる構造を有していたが、特に限定するものではない。測定用アーム14を水平状態で安定して回転可能に回転用台座12と連結しているのであれば、回転手段18としてボールベアリングを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態である回転体の芯出し装置の構成を示した解体斜視図
【図2】本発明の実施の形態である回転体の芯出し装置の一部を拡大した側面断面図
【図3】本発明の実施の形態である回転体の芯出し装置を発電機の組立てに用いた様子を示した側面図
【符号の説明】
【0037】
10…回転体の芯出し装置、12…回転用台座、12a…上部フランジ、12b…下部フランジ、14…測定用アーム、16…下げ振り、18…回転手段、20…固定部材、20a…ボルト穴、22…センターポール、24…ワイヤ、24a…ワイヤチェーン、26…カウンタウエイト、28…ピアノ線、30…錘、32…油缶、33…支持フレーム、34…ローラユニット、36…ローラ、38…回転軸、40…ローラガイド、42…ジャッキボルト、50…発電機、52…ステータ、54…ロータ、56…ペデスタル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱又は円筒形を有する回転体の芯出しを行なう回転体の芯出し方法において、
水平方向に配設されたアーム先端部に下げ振りを備えた測定用アームを、前記回転体の上部中心を回転中心として前記回転体の回転中心と同軸上で回転させて、前記下げ振りから前記回転体の各箇所までの距離を測定することにより、前記回転体の芯出しを行なうことを特徴とする回転体の芯出し方法。
【請求項2】
前記距離の測定は、前記下げ振りの先端に取り付けられた錘を油に浸漬させた状態で行なうことを特徴とする請求項1に記載の回転体の芯出し方法。
【請求項3】
円柱又は円筒形を有する回転体の芯出しを行なう回転体の芯出し装置において、
前記回転体の上部中心に取り付けられる回転用台座と、
水平方向に配設されたアーム先端部に下げ振りを備えた測定用アームと、
前記測定用アームが前記回転体の回転中心と同軸上で回転するように、前記測定用アームを前記回転用台座上で回転させる回転機構と、
から構成されることを特徴とする回転体の芯出し装置。
【請求項4】
前記回転機構は、
前記回転用台座に設けられ、前記回転体の回転中心と同軸上に中心を有する円板状のフランジと、
前記測定用アームの下方に設けられ、前記フランジの上面、下面、及び側面に当接する3つのローラを備えたローラユニットを前記フランジ周囲に等間隔で少なくとも3箇所に配置されて成る回転手段と、
から構成されることを特徴とする回転体の芯出し装置。
【請求項5】
前記測定用アームが移動する際の前記下げ振りの揺れを防止する揺動防止手段を備えたことを特徴とする請求項3又は4に記載の回転体の芯出し装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate