説明

回転切削工具およびその製造方法

【課題】重切削加工に適用できる、高性能の回転切削工具を提供する。
【解決手段】サーキュラーソーは、基板被膜111が形成された基板110と、基板被膜111の表面にロウ付けにより固定された、超硬質材料層101を含むチップ100とを備える。チップ100は、チップ被膜103を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転切削工具およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の工具としては、例えば、草刈用サーキュラーソーが知られている。
チタン製の基板の周方向に所要角度とピッチの凹所を形成し、チップを凹所にロウ接により固着する。このチップは凹所に施したニッケルめっきを介して基板にロウ接により固着されている草刈用サーキュラーソーが知られている。
(登録実用新案第3042399号公報:特許文献1)
別の従来のこの種の工具としては、無電解ニッケルめっきが被覆されたサーキュラーソーが知られている。
【0003】
基板の表面に無電解ニッケルめっきによる被膜が被覆され、被膜のリン含有量が5質量%以上10質量%以下であり、基板の硬さがHRC40以上44以下であるサーキュラーソーが知られている。
(特開2000−202796号公報:特許文献2)
さらに別の従来のこの種の工具としては、基板に硬質被膜として、PVD法によって、TiN、AL23、SiCを被覆したサーキュラーソーが知られている。
(特開平5−38621号公報:特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3042399号公報
【特許文献2】特開2000−202796号公報
【特許文献3】特開平5−38621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の特許文献1に記載のサーキュラーソーでは、重切削加工には適用が困難であった。例えば、アルミ合金鋳物の湯口または押湯の重切断加工に用いることが出来ないという問題があった。
【0006】
さらに、従来の特許文献2に記載のサーキュラーソーでは、無電解ニッケルめっき液の管理に高いコストが必要であった。しかも、めっき液の温度が高いために基板が熱影響を受けて歪みを発生する問題があった。
【0007】
さらに、従来の特許文献3に記載のサーキュラーソーでは、PVD法の処理温度が高温であるため基板が熱影響を受けて歪みを発生する問題があった。
【0008】
そこで、この発明は上述のような問題を解決するためになされたものであり、高性能の回転切削工具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に従った回転切削工具は、電気ニッケルめっきによる被膜が形成された基板と、被膜の表面にロウ付けにより固定された、超硬質材料を含むチップとを備える。
【0010】
このように構成された回転切削工具では、電気ニッケルめっきにより被膜を形成するため、めっき時に基板が高温にならず、基板のひずみを抑制できる。その結果、高性能の回転切削工具を提供することができる。
【0011】
好ましくは、被膜の厚みは、0.5μm以上20μm以下である。
好ましくは、被膜の硬さは、Hv300以上Hv600以下である。
【0012】
好ましくは、超硬質材料は、セラミックス、サーメット、超硬合金、焼結ダイヤモンド、および単結晶ダイヤモンドからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む。
【0013】
好ましくは、アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いられる。
好ましくは、被膜は基板の全面を被覆する。
【0014】
好ましくは、チップは基板のラジアル面に固定される。
この発明に従った回転切削工具の製造方法は、基板に電気ニッケルメッキにより被膜を形成する工程と、被膜の表面に、ロウ付けによりチップを固定する工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施の形態に従った回転切削工具としてのサーキュラーソーの平面図である。
【図2】図1中のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【図4】図1中のIVで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【図5】図4に対応した断面図であって、別の実施形態を示す断面図である。
【図6】図4に対応した断面図であって、別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、この発明の実施の形態に従った回転切削工具としてのサーキュラーソーの平面図である。図2は、図1中のII−II線に沿った断面図である。図3は、図2中のIIIで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。図4は、図1中のIVで囲んだ部分を拡大して示す断面図である。
【0017】
図1を参照して、サーキュラーソー1は、円板形状の基板110を有し、この基板110の外周にチップ100が設けられている。基板110の中心には貫通孔2が形成されている。
【0018】
複数のチップ100が等間隔に配置されており、各々のチップ100がワークに接触することにより、ワークを切断することができる。サーキュラーソー1は、貫通孔2を中心として回転する。
【0019】
図2を参照して、基板110は一定の厚みを有しており、その外周部には、基板110よりも厚みの大きいチップ100が固着されている。
【0020】
図3を参照して、チップ100の形状は、先端側(外周側)に近づくにつれて幅(厚み)が大きくなるような形状であり、先端部(外周部)は矩形状に形成されている。チップ100の形状は、この実施の形態で示したものに限られず、ワークの種類、サーキュラソーの回転速度、切削条件により、様々に設定することが可能である。
【0021】
図4を参照して、基板110には、電気ニッケルめっきにより、基板被膜111が形成されている。基板被膜111は基板110の全面に形成されており、チップ100を基板110に接合し易くする働きを有する。
【0022】
チップは、超硬質材料層101、超硬層102、チップ被膜103の三層構造を有しており、ロウ材層104が基板被膜111およびチップ被膜103とに密着することで、チップ100を基板110に固着することができる。
【0023】
ニッケルめっきによるチップ被膜103が少なくとも固着面表面に被覆された超硬質材料からなるチップ100が、基板110の表面に固着されている。特にロウ材層104を用いてチップ100を固着するときには、チップ100の少なくとも固着面表面がニッケルめっきによるチップ被膜103で被覆された状態であるのでロウ材層104と基板110との濡れ性が極めて良好で、確実なロウ付けが可能であり、しかも高いロウ付け強度が安定して得られる。
【0024】
チップ100に被覆したニッケルめっきによるチップ被膜103、および基板被膜111の厚みは、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0025】
ニッケルめっきによるチップ被膜103および基板被膜111の厚みが0.5μm以上あればロウ付け強度は安定しておりサーキュラーソー1は十分に性能を発揮することができる。チップ被膜103および基板被膜111の厚みは、より好ましくは1μm以上20μm以下であり、最も好ましくは1μm以上15μm以下である。
【0026】
チップに被覆したニッケルめっきによるチップ被膜103、および基板被膜111の硬さは、Hv300以上Hv600以下であることが好ましい。
【0027】
チップ被膜103を構成するニッケルめっきは、電気ニッケルめっき、無電解ニッケルめっきの両方を用いることができる。被膜の硬さはHv300以上Hv600以下であることが好ましく、Hv300以上Hv600以下であることがより好ましく、Hv300以上Hv500以下であることが最も好ましい。
【0028】
超硬質材料層101を構成する超硬質材料の材質は、セラミックス、サーメット、超硬合金、焼結ダイヤモンド、および単結晶ダイヤモンドのいずれかひとつまたは、二つ以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0029】
チップに用いる超硬質材料の材質は、工作物の材質、工作物の硬さ、切削条件、要求される表面粗さ等により、最適な超硬質材料を選択する。
【0030】
さらに、基板110全体に電気ニッケルめっきによる基板被膜111が被覆されているので、基板110に錆を発生させることがない。更に、電気ニッケルめっきによる基板被膜111が被覆されているので、基板が切り屑や工作物と擦れ合っても基板が損傷することを防止することができる。
【0031】
従って、長期間に渡って基板110を錆から保護できるだけでなく、基板110の損傷を防止できるのでサーキュラーソー1を良好な状態に長く維持することができ、長期間に渡って新品時の性能を低下させることなく使用することができる。
【0032】
さらに、電気ニッケルめっきは、めっき液の管理が容易であり、無電解ニッケルめっきに比較して安いコストでめっきを行うことが可能である。しかも基板の全表面にめっきによる被膜を被覆するので、マスキングの工数を省略することができるので工程の短縮及びコスト低減等の効果が期待できる。
【0033】
サーキュラーソー1は、アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いられる。サーキュラーソー1を、アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いると顕著な本発明の効果が得られる。もちろん、その他の各種材料の切削加工に用いることができるのは言うまでもない。
【0034】
サーキュラーソー1は、電気ニッケルめっきによる基板被膜111が形成された基板110と、基板被膜111の表面にロウ付けにより固定された、超硬質材料層101を含むチップ100とを備える。好ましくは、基板被膜111の厚みは、0.5μm以上20μm以下である。好ましくは、基板被膜111の硬さは、Hv300以上Hv600以下である。好ましくは、超硬質材料は、セラミックス、サーメット、超硬合金、焼結ダイヤモンド、および単結晶ダイヤモンドからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む。アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いられる。好ましくは、基板被膜111は基板110の全面を被覆する。好ましくは、チップ100は基板110のラジアル面に固定される。
【0035】
この発明に従ったサーキュラーソー1の製造方法は、基板110に電気ニッケルメッキにより基板被膜111を形成する工程と、基板被膜111の表面に、ロウ付けによりチップ100を固定する工程とを備える。
【0036】
図5は、図4に対応した断面図であって、別の実施形態を示す断面図である。図5を参照して、この例では、チップ100にチップ被膜が設けられておらず、ロウ材層104が超硬層102と直接接触している。このような構成を採用することで、チップ100にチップ被膜を形成する必要がないため、製造工数を削減することができる。
【0037】
図6は、図4に対応した断面図であって、別の実施形態を示す断面図である。図6を参照して、この例では、基板被膜が形成されておらず、ロウ材層104が基板110に直接接触している。このような構成を採用することで、基板110に基板被膜を形成する必要がないため、製造工数を削減することができる。
【0038】
上記のようなサーキュラーソー1において、ロウ材層104を用いてチップ100を固着するときには、チップ100の少なくとも固着面表面がニッケルめっきによる被膜で被覆された状態であるので、ロウ材層104と基板110との濡れ性が極めて良好で、確実なロウ付けが可能であり、しかも高いロウ付け強度が安定して得られる。
【0039】
発明を実施するための最良の形態については、実施例で詳しく説明する。
(参考例1)
以下のようなサーキュラーソーを製作した。
【0040】
超硬合金製のチップ100を準備し、このチップ100にニッケルめっきを施し、厚み1μmのめっき被膜で被覆した。めっき被膜の硬さはHv350であった。次に、このチップを合金工具鋼(SKS−5)の基板(めっき無し)にロウ接し、チップを工具研削盤で研削加工してのサーキュラーソー(図6)を完成させた。サーキュラーソーのサイズは、外径が355mm、刃厚が3.5mm、歯数が80個であった。
【0041】
このサーキュラーソーにより、木材の切断テストを実施したところ基板の錆発生はなく、しかも基板の損傷を防止することができ、長期間に渡って良好な性能を示した。
【0042】
(参考例2)
以下のようなサーキュラーソーを製作した。
【0043】
焼結ダイヤモンドのチップを準備し、このチップにニッケルめっきを施し、厚み1μmのめっき被膜で被覆した。めっき被膜の硬さはHv350であった。次に、このチップを合金工具鋼(SKS−5)の基板(めっき無し)にロウ接し、チップを工具研削盤で研削加工してサーキュラーソー(図6)を完成させた。サーキュラーソーのサイズは、外径が400mm、刃厚が5.5mm、歯数が60個であった。
【0044】
このサーキュラーソーにより、アルミ合金鋳物の湯口の切断テストを実施した。その結果、基板の錆発生はなく、しかも基板が切り屑や工作物と擦れ合っても損傷することがなく長期間に渡って良好な性能を示した。
【0045】
(実施例1)
以下のような本発明のサーキュラーソーを製作して、本発明の効果を実験により確認した。
【0046】
焼結ダイヤモンドのチップを準備し、このチップにニッケルめっきを施し、厚み1μmのめっき被膜で被覆した。めっき被膜の硬さはHv350であった。次に、このチップを合金工具鋼(SKS−5)の基板を準備し、基板の全面に電気ニッケルめっきを施した。この基板にチップをロウ接し、チップを工具研削盤で研削加工してサーキュラーソー(図5)を完成させた。サーキュラーソーのサイズは、外径が400mm、刃厚が5.5mm、歯数が60個であった。
【0047】
このサーキュラーソーにより、アルミ合金鋳物の湯口の切断テストを実施した。その結果、基板の錆発生はなく、しかも基板が切り屑や工作物と擦れ合っても損傷することがなく長期間に渡って良好な性能を示した。
【0048】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、各種材料の切断加工に用いるサーキュラーソー等に適用することが考えられる。特に、アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いるサーキュラーソーに好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 サーキュラーソー、2 貫通孔、100 チップ、101 超硬質材料層、102 超硬層、103 チップ被膜、104 ロウ材層、110 基板、111 基板被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気ニッケルめっきによる被膜が形成された基板と、
前記被膜の表面にロウ付けにより固定された、超硬質材料を含むチップとを備えた、回転切削工具。
【請求項2】
前記被膜の厚みは、0.5μm以上20μm以下である、請求項1に記載の回転切削工具。
【請求項3】
前記被膜の硬さは、Hv300以上Hv600以下である、請求項1または2に記載の回転切削工具。
【請求項4】
前記超硬質材料は、セラミックス、サーメット、超硬合金、焼結ダイヤモンド、および単結晶ダイヤモンドからなる群より選ばれた少なくとも一種を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項5】
アルミニウム合金鋳物の湯口または押湯の切断加工に用いられる、請求項1から4のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項6】
前記被膜は前記基板の全面を被覆する、請求項1から5のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項7】
前記チップは前記基板のラジアル面に固定される、請求項1から6のいずれか1項に記載の回転切削工具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の回転切削工具の製造方法であって、
前記基板に電気ニッケルメッキにより前記被膜を形成する工程と、
前記被膜の表面に、ロウ付けにより前記チップを固定する工程とを備えた、回転切削工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63485(P2013−63485A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203200(P2011−203200)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】