説明

回転制御装置

【課題】従来品より小型であって、オーバーヒートし難い、回転制御装置を提供する。
【解決手段】回転制御装置10は、手動ハンドル16hを用いて、外部から回転駆動可能な入力軸16と、入力軸16の回転により回転する出力軸12と、入力軸16の回転を出力軸12に伝える伝達機構を内蔵した本体ケーシング10bと、出力軸12の回転を制動する遠心ブレーキを内蔵したブレーキハウジング11と、本体ケーシング10b内に収容された潤滑油と、を備え、ブレーキハウジング11を、そのハウジング本体の一部が本体ケーシング10b内に位置し且つ前記潤滑油に浸漬した状態で本体ケーシング10bに取り付けられている。ハウジング本体の開口端には蓋体11bが開閉可能に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起伏式扉体、昇降式水路橋などの水路開閉手段をワイヤやチェーンなどを介して開閉・昇降する巻上装置などに使用可能な回転制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用水路などの各種水路に設置される水路開閉装置として、起伏式のゲート装置が知られている。従来の起伏式ゲートは、水路の河床上にヒンジを介して扉体を起伏可能に設置したものが一般的である(例えば、特許文献1参照。)。前記扉体は水中で浮力を受けるので、水位の変化に応じて扉体がヒンジを中心に起伏して、水路の開閉が自動的に行われる。また、この起伏式ゲートの扉体巻上機には、増水時に扉体を自動的に倒伏させるための自動倒伏装置が内蔵されている。
【0003】
一方、特許文献1に記載された「自動倒伏ゲート」に類似した構造、機能を有するものとして、図5,図6に示すゲート装置50がある。ゲート装置50は、河床57の段差部分に設けられたヒンジ52を中心に起伏可能に設置された扉体51と、その上流側に設けられた水位検知用の浮子53と、ワイヤ55を介して扉体51を保持する巻上装置54と、を備えている。ゲート装置50において、扉体51より上流側の水位WLが計画水位に達すると、巻上装置54に設けられた自動転倒機構(図示せず)が作動して、扉体51が自動的に転倒する。具体的には、水位WLが計画水位に達するまで浮子53が上昇すると、前記自動転倒機構が作動し、巻上装置54の巻上ドラム56のロックが解除されると、水圧で転倒する扉体51の引張力によりワイヤ55が繰り出され、扉体51が河床57に向かって転倒する。
【0004】
ゲート装置50において、上流側の増水により前記自動転倒機構が作動して巻上ドラム56のロックが解除されたとき、扉体51が転倒する速度を一定以下に制限するため、図6に示すように、巻上装置54には遠心ブレーキ機構58が設けられている。遠心ブレーキ機構58は、図6,図7に示すように、巻上装置54を構成する回転制御装置59の本体ケーシング59aに設けられている。この遠心ブレーキ機構58は、巻上ドラム56と連動して回転する状態で本体ケーシング59a内に配置されたブレーキ軸60と、ブレーキ軸60の一方の端部に取り付けられた遠心ブレーキ63と、遠心ブレーキ63を収納するブレーキハウジング64と、を備えている。
【0005】
また、遠心ブレーキ63は、ブレーキ軸60と共に回転するブレーキボス61と、ブレーキボス61の外周側にその半径方向に取り付けられたピン62と、ピン62に沿ってスライド可能に取り付けられたブレーキパッド66と、ピン62とブレーキパッド66とを繋ぐコイルバネ65と、を備えている。ブレーキ軸60が予め設定された回転数以上で回転すると、ブレーキパッド66に生じる遠心力でブレーキパッド66が外周方向へスライドしてブレーキハウジング64の内周面64aに接触することによってブレーキ軸60の回転が制動される。
【0006】
【特許文献1】特開2002−309561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示すゲート装置50を構成する遠心ブレーキ機構58は、図7に示すように、本体ケーシング59aに開設された開口部59cからブレーキ軸60などを本体ケーシング59a内へ挿入し、ボルト64e及びボルト64fを用いて固定されている。このため、ブレーキハウジング64の殆ど全体が本体ケーシング59aの外側に突出した状態となり、装置の小型化を図る上での障害となっている。また、ブレーキ作動時に生じる熱は、ブレーキハウジング64から大気中への放散(空冷)によって処理されているため、発熱量が多いときは、オーバーヒートする可能性がある。
【0008】
さらに、遠心ブレーキ63と反対側のブレーキ軸60端部に連結されたセンサ軸70、センサブレーキドラム71、センサブレーキガイド72などの各種部品の取付作業は、本体ケーシング59aの上面開口部(図示せず)から狭い本体ケーシング59a内に手を差し込んで行わなければならないので作業性が悪い、という問題もある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、従来品よりも小型であって、作動中にオーバーヒートし難い、回転制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の回転制御装置は、外部から回転駆動可能な入力軸と、前記入力軸の回転により回転する出力軸と、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝える伝達機構を内蔵した本体ケーシングと、前記出力軸の回転を制動する遠心ブレーキを内蔵したブレーキハウジングと、前記本体ケーシング内に収容された潤滑油と、を備え、前記ブレーキハウジングを、その少なくとも一部が前記本体ケーシング内に位置し且つ前記潤滑油に浸漬した状態で前記本体ケーシングに取り付けたことを特徴とする。
【0011】
このような構成とすれば、遠心ブレーキを内蔵するブレーキハウジングの少なくとも一部が本体ケーシング内に位置することにより、本体ケーシングから突出するブレーキハウジングの当該突出部分を縮小することができるため、装置の小型化を図ることができる。また、本体ケーシング内に位置するブレーキハウジングの少なくとも一部が潤滑油に浸漬していることにより、遠心ブレーキ作動中に発生する熱は潤滑油で冷やされるため、作動中のオーバーヒートも発生し難い。
【0012】
ここで、前記ブレーキハウジングの少なくとも一部を、前記本体ケーシングに開設された開口部から当該本体ケーシング内に嵌入させた状態で取り付けることが望ましい。このような構成とすれば、本体ケーシング内に配置される伝達機構などの各種部品は、予め外部にて組み立てた後、ブレーキハウジングを本体ケーシングに取り付ける際に一緒に開口部を経由してケーシング本体内へ挿入することができる。従って、当該回転制御装置の製造工程における組立性が向上するとともに、メンテナンスなども容易となる。
【0013】
また、前記ブレーキハウジングに、前記本体ケーシングの外側から開閉可能な蓋体を設けることが望ましい。このような構成とすれば、本体ケーシングの外側から蓋体を開くことができるため、ブレーキハウジング内の状況確認やメンテナンスなどを容易に実行することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来品よりも小型であって、オーバーヒートし難い、回転制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態である回転制御装置を用いた巻上装置及び起伏式扉体などを示す部分斜視図、図2は図1に示す巻上装置の背面図、図3は図2に示す巻上装置の左側面図、図4は図3のA−A線における一部省略断面図である。
【0016】
図1〜図3に示すように、河床23の段差部分22に設けられたヒンジ(図示せず)を中心に扉体21が起伏可能に設置され、扉体21の側方の地上部分に設置された箱体状のケーシング20a内に巻上装置20が収納されている。ケーシング20aの上部には開閉蓋20bが設けられている。ケーシング20aの背面から突出する巻上軸17bに巻上ドラム13が取り付けられ、この巻上ドラム13に巻き上げ、繰り出し可能に係止されたワイヤ14の先端側が扉体21に取り付けられている。
【0017】
巻上装置20は、台座18上に設置された減速機17と、台座18に立設された架台19上に設置された回転制御装置10と、を備えている。巻上装置20の出力軸12に装着されたスプロケット12sと、減速機17の入力軸17aに装着されたスプロケット17sとの間には、ローラチェーン15が掛け渡されている。減速機17の内部には、入力軸17aの回転を減速して巻上軸17bに伝える伝達機構(図示せず)が設けられている。
【0018】
図3,図4に示すように、回転制御装置10は、外部から回転駆動可能な入力軸16と、入力軸16の回転により回転する出力軸12と、入力軸16の回転を出力軸12に伝える伝達機構(図示せず)を内蔵した本体ケーシング10bと、出力軸12の回転を制動する遠心ブレーキ63を内蔵したブレーキハウジング11と、を備え、本体ケーシング10b内の空洞部10dには、その深さの1/3程度の位置まで潤滑油(図示せず)が収容されている。また、本体ケーシング10bの上面には、開閉可能な蓋体10aが装着されている。
【0019】
ブレーキハウジング11は、略有底円筒形状のハウジング本体11aと、ハウジング本体11aの開口端11cを覆う略円板形状の蓋体11bと、を備えている。ブレーキハウジング11は、ハウジング本体11aの一部が本体ケーシング10b内に位置し且つ前記潤滑油に浸漬した状態で本体ケーシング10bに取り付けられている。ブレーキハウジング11は、そのハウジング本体11aの一部を、本体ケーシング10bに開設された開口部10cから当該本体ケーシング10b内に嵌入させた状態で取り付けられている。ブレーキハウジング11には、本体ケーシング10bの外側から開閉可能な蓋体11bが取り付けられている。
【0020】
図1に示すように、扉体21は、巻上装置20の巻上ドラム13に巻かれたワイヤ14によって所定の傾斜角度に保たれている。扉体21より上流側の水位が計画水位に達すると、回転制御装置10に設けられた自動転倒機構(図示せず)が作動して巻上ドラム13のロックが解除され、ワイヤ14が繰り出し可能となるため、扉体21は水圧により河床23に向かって転倒していく。このとき、扉体21が転倒する速度が所定値に達すると、遠心ブレーキ63によって制動される。
【0021】
図3,図4に示すように、回転制御装置10の本体ケーシング10b内には、巻上ドラム13と連動して回転するブレーキ軸30が設けられ、このブレーキ軸30の一方の端部に遠心ブレーキ63が取り付けられている。ブレーキハウジング11内に収納された遠心ブレーキ63は、ブレーキ軸30と共に回転するブレーキボス61と、ブレーキボス61の外周側にその半径方向に取り付けられたピン62と、ピン62に沿ってスライド可能に取り付けられたブレーキパッド66と、を備えている。ブレーキパッド66は、ピン62に装着されたコイルバネ65によってブレーキ軸30側に付勢されている。
【0022】
巻上ドラム13のロックが解除され、扉体21(図1参照)の転倒によって繰り出されるワイヤ14の引張力で巻上ドラム13が回転し、これと連動するブレーキ軸30の回転により生じる遠心力でブレーキパッド66が外周方向へスライドする。ブレーキ軸30が予め設定された回転数を超えると、外周方向へスライドしたブレーキパッド66がブレーキハウジング11の内周面11dに接触して、ブレーキ軸30の回転が制動される。これにより、ブレーキ軸30と連動する巻上ドラム13の回転が制動され、図1に示す扉体21(図1参照)は、設定値を超えない速度でゆっくりと河床23へ転倒していく。
【0023】
次に、予め設定された傾斜角度あるいは河床23まで転倒した扉体21を起立させる場合は、図3に示すように、回転制御装置10の入力軸16に手動ハンドル16hを取り付けて時計回りに回転させる。これにより、本体ケーシング10b内の伝達機構(図示せず)を介して出力軸12が回転し、この回転が、スプロケット12s、ローラチェーン15及びスプロケット17sを介して、減速機17の入力軸17aに伝わる。入力軸17aが回転すると、減速機17内の伝達機構(図示せず)を介して巻上軸17bとともに巻上ドラム13が回転してワイヤ14が巻き上げられるので、扉体21が徐々に起立していく。
【0024】
前述したように、回転制御装置10においては、ハウジング本体11aの一部が本体ケーシング10b内に位置した状態で本体ケーシング10bに取り付けられている。従って、図4と図7とを比較すると分かるように、本体ケーシング10bからのブレーキハウジング11の突出部分が小さくなり、回転制御装置10の小型化を図ることができる。また、本体ケーシング10b内に位置するハウジング本体11aの一部が潤滑油に浸漬していることにより、遠心ブレーキ63の作動中に発生する熱は潤滑油で冷やされるため、作動中のオーバーヒートも発生し難い。
【0025】
また、ブレーキハウジング11は、そのハウジング本体11aの一部を、本体ケーシング10bに開設された開口部10cから当該本体ケーシング10b内に嵌入させた状態で取り付けられている。従って、本体ケーシング10b内に配置される伝達機構(図示せず)などの各種部品は、予め外部にて組み立てた後、ハウジング本体11aを本体ケーシング10bに取り付ける際に、一緒に、開口部10cを経由して本体ケーシング10b内へ挿入することができる。そして、ボルト11eを締め付けてハウジング本体11aを本体ケーシング10bに固定した後、ハウジング本体11aの開口端11cに蓋体11bを被せてボルト11fを締め付ければ、本体ケーシング10bに対するブレーキハウジング11の取り付け作業が完了する。従って、回転制御装置10の製造工程における組立性は良好であり、メンテナンス性も優れている。
【0026】
一方、ハウジング本体11aの開口端11cに取り付けられている平板状の蓋体11bは、ボルト11fを緩めて取り外せば、本体ケーシング10bの外側から蓋体11bのみを離脱させることができる。このため、ブレーキハウジング11内の状況確認やメンテナンスなどを容易に実行することができる。また、蓋体11bは、その周囲の本体ケーシング10b表面と略平行をなすように取り付けられているため、本体ケーシング10bからの突出が少なく、装置の小型化を図る上で有効である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の回転制御装置は、起伏式扉体、昇降式水路橋などの水路開閉手段をワイヤやチェーンなどを介して開閉・昇降する巻上装置などにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態である回転制御装置を用いた巻上装置及び起伏式扉体を示す部分斜視図である。
【図2】図1に示す巻上装置の背面図である。
【図3】図2に示す巻上装置の左側面図である。
【図4】図3のA−A線における一部省略断面図である。
【図5】従来のゲート装置を示す概略構成を示す図である。
【図6】図5に示すゲート装置を上流側から見た図である。
【図7】図6のB−B線における一部省略断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 回転制御装置
10a,11b 蓋体
10b 本体ケーシング
10c 開口部
10d 空洞部
11 ブレーキハウジング
11a ハウジング本体
11c 開口端
11d 内周面
11e,11f ボルト
12,17b 出力軸
12s,17s スプロケット
13 巻上ドラム
14 ワイヤ
15 ローラチェーン
16,17a 入力軸
16h 手動ハンドル
17 減速機
17b 巻上軸
18 台座
19 架台
20 巻上装置
20a ケーシング
20b 開閉蓋
21 扉体
22 段差部分
23 河床
30 ブレーキ軸
61 ブレーキボス
62 ピン
63 遠心ブレーキ
65 コイルバネ
66 ブレーキパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から回転駆動可能な入力軸と、前記入力軸の回転により回転する出力軸と、前記入力軸の回転を前記出力軸に伝える伝達機構を内蔵した本体ケーシングと、前記出力軸の回転を制動する遠心ブレーキを内蔵したブレーキハウジングと、前記本体ケーシング内に収容された潤滑油と、を備え、前記ブレーキハウジングを、その少なくとも一部が前記本体ケーシング内に位置し且つ前記潤滑油に浸漬した状態で前記本体ケーシングに取り付けたことを特徴とする回転制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキハウジングの少なくとも一部を、前記本体ケーシングに開設された開口部から当該本体ケーシング内に嵌入させた状態で取り付けた請求項1記載の回転制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキハウジングに、前記本体ケーシングの外側から開閉可能な蓋体を設けた請求項1または2記載の回転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−121020(P2009−121020A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292518(P2007−292518)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(591039698)開成工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】