説明

回転工具および工作機械

【課題】 簡単、かつ安価な構成で切刃等を効果的に、かつ効率良く冷却する。
【解決手段】 回転工具20は、先端に切刃22を、後端に主軸(工具ホルダ14)に対する固定軸32をそれぞれ備えている。この回転工具20には、圧縮気体の導入用通路37と、圧縮気体から冷気を生成する冷気発生器40と、ここで生成された冷気を切刃22等に案内する吐出孔36及び通路26等が設けられている。冷気発生器40は、渦流管42を有し、この渦流管42の一端側にその接線方向から圧縮空気を導入することにより当該空気を渦流管42内で高速旋回させつつこの旋回に伴う熱分離作用により軸心部分に冷気を生成しつつ吐出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(Fiber Reinforced Plastics;強化プラスチック)等の加工に適した回転工具、およびこの回転工具を備えた工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から軽量、かつ高強度の材料としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)、GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)、AFRP(アラミド繊維強化プラスチック)等の複合材料(以下、FRPという)が知られており、航空機、自動車、鉄道車両あるいは船舶等の広い分野で用いられている。
【0003】
これらFRPの切削加工は、従来、超硬合金からなる切刃を備えた超硬正面フライスや超硬エンドミル等の金属材料用の工具が用いられていた。しかし、FRPの加工は、金属材料を加工する場合に比べて刃先摩耗が進み易く工具寿命が短くなり易いことから、近年では、切刃としてダイヤモンド粒子を台金に電着、あるいはろう付けしたダイヤモンド切刃を備えた工具が用いられている。
【0004】
他方、フライス盤としては、特許文献1に開示されるように主軸およびアーバの内部を通じて工具先端にエアを供給し、これによって加工に伴う切り屑の除去、切刃の潤滑、冷却を行い得るようにしたものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−22063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイヤモンド切刃を備えたフライス工具によるFRPの加工は、切刃の構造上、研削加工に近く、本来の切削加工と比べると加工能率が悪い。従って、高い加工能率を達成するために、工具の回転速度と送り速度を高く設定することが求められる。
【0006】
ところが、工具の回転速度等を高く設定すると、これに伴い発生する切削熱で切刃や被加工部分が高温になり、次のような問題が生じる。すなわち、タイヤモンドは600°Cを超えると急激に耐摩耗性が低下し、ダイヤモンド粒子の摩耗が進行し易くなるとともに、ダイヤモンド粒子間にFRPのエポキシ樹脂等が焼き付いて目詰まりを起こし易くなり、その結果、切刃の切削能力を著しく低下させる。そのため、高速切削を行うことが難しく、加工能率を十分に高めることが困難であった。
【0007】
そこで、特許文献1のように工具先端にエア(圧縮空気)を供給して切刃等を冷却することによって上記のような切削能力の低下を回避することが考えられている。しかしながら、高速加工を行うと、切刃や被切削部分が高温になるため、特許文献1のように常温(作業環境温度)のエアを工具先端に供給するだけでは切削能力の低下を防止できるだけの冷却効果を得ることが難しい。他方、冷媒を使ってエアを常温よりも低い温度に冷却してから工具先端に供給することも考えられるが、この場合には、別途冷媒の循環設備等が必要となり装置の大型化、コスト高を招くとともにメンテナンス負担も増大することとなる。また、主軸等の内部を通じてエアを供給するため冷熱の熱損失も大きい。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであって、簡単、かつ安価な構成で切刃等を効果的に、かつ効率良く冷却することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の事情に鑑み、本発明の回転工具は、先端面に周方向に並ぶ複数の切刃を備えるとともに、後端に主軸に対する固定部を備えた工具ボディを有し、前記固定部を介して工作機械の前記主軸に装着されることによりこの主軸と一体に回転駆動される回転工具であって、前記工具ボディに、外部から圧縮気体を導入するための導入部と、工具ボディの軸心上に位置する円筒部を有し、この円筒部の軸方向一端側にその接線方向から前記圧縮気体を導入することにより当該気体を円筒部の内周面に沿って高速旋回させつつ軸方向に移動させ、この高速旋回に伴う熱分離作用により円筒部の軸心部分に導入温度よりも低温の冷気を生成して吐出する冷気生成手段とが組込まれ、この冷気生成手段により生成された冷気により前記切刃を冷却するように構成されているものである(請求項1)。
【0010】
この回転工具によると、外部から工具ボディ内に圧縮気体を供給すると上記冷気生成手段において圧縮気体よりも低温の冷気が生成され、これが工具先端に供給されて切刃およびワークの被加工部分の冷却が行われることとなる。他方、冷気生成手段は、円筒部の内部で気体を高速旋回させると高エネルギーの熱い気体分子が円筒部の内周面近傍に集まる一方、低エネルギーの冷たい気体分子が円筒部の軸心部分に集まるという熱分離作用を利用して圧縮気体よりも低温の冷気を生成するため、動力や冷媒を用いることなく冷気を生成することが可能となる。
【0011】
なお、この回転工具において、前記工具ボディは、前記切刃を備える工具本体と、前記固定部を具備し、かつ工具本体が着脱可能に組付けられる工具組付体とから構成され、この工具組付体に前記冷気生成手段が組込まれているのが好ましい(請求項2)。
【0012】
すなわち、工具ボディはその全体が一体的な構成であってもよいが、上記の構成によれば、例えば切刃に摩耗や欠損等が発生した場合には、工具組付体に対して工具本体を付け替えるだけで冷気生成手段を継続的に使用できるため、合理的な構成となる。
【0013】
なお、工作機械の前記主軸として、圧縮気体の供給部を備えたものに装着される回転工具については、圧縮気体を導入するための導入部が前記固定部に設けられ、前記主軸への装着状態において前記導入部が前記供給部に接続されるように構成されているものであってもよい(請求項3)。
【0014】
すなわち、最近では、主軸を介して工具先端に圧縮空気を供給するようにした工作機械(例えば従来技術の特許文献1)が登場しているため、上記のように工具ボディの固定部に圧縮気体の導入部を設けるようにすれば、そのような工作機械の構成をそのまま利用して工具ボディ内に圧縮気体を導入して冷気を生成することが可能となる。
【0015】
なお、上記のような回転工具の構成は、前記切刃として、台金にダイヤモンド粒子が担持されたダイヤモンド切刃を備えたものに特に有用である(請求項4)。
【0016】
すなわち、FRPを加工する場合には切刃としてダイヤモンド切刃をもつ工具が適用されることが多い。ダイヤモンド切刃は、加工による温度上昇により耐摩耗性が低下する等、高温下でその切削性能を維持することが難しい。そのため、切刃等を効果的に冷却し得る上記の回転工具の構成は、ダイヤモンド切刃をもつ工具に特に有用となる。
【0017】
一方、本発明の工作機械は、回転駆動される主軸と、この主軸に着脱可能に固定される回転工具と、前記主軸に対して工作物を相対的に移動可能に支持するテーブルとを備えた工作機械において、回転工具として請求項1乃至4の何れかに記載の回転工具が前記主軸に着脱可能に固定されるとともに、この回転工具に対して前記導入部を介して圧縮気体を供給する気体供給手段を備えているものである(請求項5)。
【0018】
この工作機械によると、回転工具の駆動によりワークが加工される一方、このワークの加工中、気体供給手段により回転工具に対して圧縮気体が供給され、この回転工具に組込まれた冷気生成手段により冷気が生成される。これにより切刃、あるいはワークの被加工部分が冷却される。
【0019】
なお、前記回転工具は、工具ボディの前記固定部に圧縮気体の導入部を有するものであって、前記主軸には、回転工具を装着した状態で前記導入部と接続可能な圧縮気体の供給部が設けられ、この供給部を通じて前記回転工具に圧縮気体を供給するように前記気体供給手段が構成されているのが好ましい(請求項6)。
【0020】
この構成によると、主軸の内部を通じて回転工具に圧縮気体を供給しつつ冷気を生成することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の回転工具および工作機械によると、作業環境温度(常温)よりも低温の冷気を用いて切刃、あるいは被加工部分を効果的に冷却することができる。しかも、冷媒を用いることなく上記冷気を生成するため、冷媒やその循環設備等を設ける必要がなく、従って、簡単、かつ安価な構成で切刃を冷却することができる。その上、切刃を備えた回転工具そのもので冷気を生成するため、冷熱の損失を殆ど伴うことなく切刃に対し冷気を与えることができる。従って、切刃等を効果的に、かつ効率良く冷却することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る工作機械(本発明に係る回転工具が適用される工作機械)である立フライス盤を概略的に示している。
【0024】
同図に示すように、フライス盤のベース1上にはコラム2が立設され、このコラム2に対してニー3が上下動可能に設けられるとともに、このニー3に対して、ワークを固定するためのテーブル4が左右方向に移動可能に設けられている。前記コラム2の上部には、ラムベース6が取付けられ、このラムベース6に対してラム7が前後方向(図1では紙面に直交する方向)に移動可能に支持されている。ラム7には、その前面部分に、鉛直軸回りに回転可能な主軸12およびこれを駆動するモータ等を搭載したヘッド10が取付けられており、回転工具20が工具ホルダ14を介して前記主軸12に装着されている。
【0025】
前記ニー3、テーブル4およびラム7はそれぞれ図外のハンドル操作による手動送り、又はモータ駆動による自動送りが可能とされ、これらニー3等の送りによってテーブル4上に固定されるワークと回転工具20とを相対的に移動させながら、前記ワークに対して所望の加工を施すように構成されている。
【0026】
なお、同図中、符号9はフライス盤に付設されるコンプレッサであり、ワークの加工中、このコンプレッサ9で圧縮空気を生成しつつ図外のエアフィルタ等を介してヘッド10に、具体的には主軸12に供給するようになっている。
【0027】
図2は、前記回転工具20(本発明に係る回転工具)を断面図で概略的に示している。
【0028】
この回転工具20は、主にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等、FRPを加工する正面フライスであって、同図に示すように円柱状の工具ボディを有し、この工具ボディの先端面(同図では下端面)に複数の切刃22が周方向に並んだ構成を有している。
【0029】
工具ボディの後端には固定軸32(本発明に係る固定部に相当)が連設されており、この固定軸32が前記工具ホルダ14により保持されることにより、回転工具20が下向きの姿勢、すなわち切刃22がテーブル4側に指向する姿勢で主軸12に装着されている。
【0030】
回転工具20は、切刃22を有する先端側の工具本体21aと、前記固定軸32を有する後端側の工具組付体21bとからなり、工具組付体21bに対して工具本体21aが着脱可能に結合された構成となっている。
【0031】
具体的には、図4に示すように、工具本体21aの後端面(切刃22とは反対側の端面)に組付用凹部24が形成される一方、工具組付体21bの先端面(固定軸32とは反対側の端面)に組付用凸部34が形成されており、組付用凹部24に組付用凸部34が嵌め込まれた状態で工具組付体21bの先端に工具本体21aが組付けられ、この状態で、工具先端側からボルト29が工具本体21aに挿入されて工具組付体21bに螺合装着されている。従って、ボルト29を緩めることにより両部材を容易に分離して工具本体21aだけを取り外せるようになっている。なお、工具本体21aと工具組付体21bとは、組付用凸部34に固定されたキー35が組付用凹部24の内周面に形成されたキー溝24aに介装されることにより互いにキー結合されている。
【0032】
回転工具20の先端面には、図3に示すように、複数の切刃22が中心軸回りに周方向に並んだ状態で設けられており、図示の例では、8つの切刃22が設けられている。
【0033】
これらの切刃22は、工具本体21aの先端面に突設された扁平な切刃用凸部(台金)にダイヤモンド粒子が電着されることにより構成されており、当実施形態では、ダイヤモンド粒子をニッケルの電気メッキによって切刃用凸部に固着した構成となっている。
【0034】
各切刃22は、平面視で略三角形状に形成されている。周方向に隣設される切刃22同士の間には、これら切刃22の側壁により溝が形成されている。これらの溝は、同図に示すように回転中心から渦巻状に形成されており、加工中は、回転工具20の回転に伴い加工屑が遠心力でスムーズに外部に排出されるようになっている。なお、図3中、白抜き矢印は、加工時の回転工具20の回転方向を示している。
【0035】
回転工具20には、前記組付用凹部24と工具本体21aの先端外部とを連通する複数の通路26が設けられている。これらの通路26は、後述する冷気発生器40によって生成される冷気を回転工具20の先端面に案内するためのもので、回転工具20の中心に1つと、その周囲に8つ周方向に均等に並んだ状態で設けられている。周方向に並ぶ各通路26の末端は、図3に示すように、切刃22よりも回転中心側であって、かつ各切刃22の尖角部分の近傍に開口している。
【0036】
回転工具20には、さらにその外周面に複数の放熱フィン28が設けられており、これらフィン28が軸方向に等間隔で並設されている。
【0037】
一方、工具組付体21bには、その内部に冷気発生器40(本発明に係る冷気生成手段に相当)が内蔵されている。
【0038】
この冷気発生器40は、圧縮空気を導入することにより冷媒を一切用いることなく冷気を生成するものである。具体的に説明すると、この冷気発生器40は、図2に示すように、回転工具20の軸心上に配置される渦流管42(本発明に係る円筒部に相当)を有している。この渦流管42の先端(図2では下端)にはその軸心部分に渦流管42よりも十分小径に形成された冷気の吐出口44aが設けられ、また後端にはバルブ47により開度調整可能な円環状に形成された暖気の排出口44bが設けられている。また、渦流管42のうち吐出口44aの直ぐ後側には、渦流管42に対して接線方向に設けられたポート46が設けられおり、後記導入用通路37を通じて案内される圧縮空気がこのポート46を介して渦流管42内に導入されるようになっている。すなわち、前記ポート46を介して接線方向から渦流管42内に圧縮空気を導入すると、当該圧縮空気が渦流管42の内周面に沿って高速旋回しながら先端側から他端側に向かって移動し、この高速旋回に伴い高エネルギーの熱い気体分子が渦流管42の壁周面近傍に集まる一方で、低エネルギーの冷たい気体分子が渦流管42の軸心部分に集まることとなる。そして、渦流管42の後端に移動した圧縮空気のうち壁周面近傍の暖気は前記排出口44bを介して外部に排気されるものの、軸心部分の冷気は行き場を失い反転して渦流管42の先端側に向かって移動し、その結果、渦流管先端の吐出口44aから冷気が吐出されるようになっている。
【0039】
この冷気発生器40は、圧縮空気の圧力および流量等の条件設定およびバルブ47の開度設定により、渦流管42への入口温度(後記ポート46への導入温度)よりも最大40°C程度低い冷気を生成することが可能であり、当実施形態では、作業環境温度(常温)よりも10°C前後低い冷気を生成するように圧縮空気の圧力、流量およびバルブ47の開度が設定されている。
【0040】
冷気発生器40の吐出口44aは、前記組付用凸部34に形成される吐出孔36を介して該凸部34先端に形成された凹部34aに通じており、これによって冷気発生器40で生成された冷気が、吐出孔36、凹部34aを通じて前記工具本体21aの各通路26に導入されるようになっている。
【0041】
工具組付体21bには、さらに導入用通路37と暖気排出孔38とが設けられている。
【0042】
導入用通路37は、冷気発生器40に対して冷気生成用の圧縮空気を供給するための通路であり、図2に示すように、固定軸32の端面に導入口(本発明に係る圧縮気体の導入部に相当)を有し、この導入口から導入される圧縮空気を、冷気発生器40の前記ポート46に案内するように設けられている(図2中に破線矢印で示す)。
【0043】
なお、詳しく図示していないが、工具ホルダ14には前記導入用通路37に連通する通路14aが設けられ、また、主軸12には工具ホルダ14の前記通路14aに連通する不図示の通路が設けられている。そして各種バルブ、エアフィルタ等を介して前記コンプレッサ9が上記主軸12の通路に対して連通接続されることにより、コンプレッサ9で生成される圧縮空気が主軸12および工具ホルダ14を介して回転工具20(冷気発生器40)に供給されるようになっている。
【0044】
一方、暖気排出孔38は、冷気発生器40で生成される暖気を外部に放出するためのもので、冷気発生器40の収容室のうち渦流管42に対応する部分(主に渦流管42の後方部分)と工具組付体21bの外部とが連通するように設けられている。すなわち、冷気発生器40では、冷気生成の副産物として上記の通り暖気が生成されるが、この暖気が渦流管42の後端に設けられる排出口44bから放出され、さらに上記暖気排出孔38を通じて回転工具20の外部に放出されるようになっている。
【0045】
上記の工作機械によりワーク(FRP材)を加工する際には、主軸12を駆動してこれと一体に回転工具20を回転させつつこれをワークに対して切込み送りする。その一方で、コンプレッサ9を作動させ、これにより圧縮空気を主軸12および工具ホルダ14を介して回転工具20に供給する。このように回転工具20に圧縮空気を供給すると、この圧縮空気をもとにして回転工具20に内蔵された上記冷気発生器40で冷気が生成され、この冷気が吐出孔36、凹部34aおよび通路26を通じて回転工具20の先端面に案内され、各切刃22およびワークの被加工部分に供給されることとなる(図2,図3に一点鎖線で示す)。つまり、この冷気により切刃22等が冷却され、その結果、加工に伴う各切刃22および被加工部分の温度上昇が抑制されることとなる。
【0046】
以上のような工作機械によると、ワークの加工中、作業環境温度(常温)よりも低温の冷気を切刃22、あるいは被加工部分に供給するため、常温の空気を切刃に与えるだけの従来装置に比べると高い冷却効果を得ることができ、加工に伴う各切刃22等の温度上昇を効果的に抑制することができる。特に、ダイヤモンド粒子を電着したいダイヤモンド切刃(切刃22)によりFRP材を加工する上記の回転工具20では、切刃22の温度が過剰に上昇すると耐摩耗性が著しく低下し、また被加工部分の温度上昇にFRP材を構成するエポキシ樹脂の切刃22への焼き付きや目詰まりが起こり易くなる結果、切刃22の切削能力が著しく低下するか、場合によっては切削不能となることが考えられるが、上記実施形態の装置によると、このような事態の発生を効果的に防止することができる。また、冷気が切刃22、あるいは被加工部分に供給されることにより切屑の排除効果が効果的に発揮される。
【0047】
従って、回転工具20を高速で回転駆動しながらFRP材を加工する一方で、このような高速加工に伴う切刃22の温度上昇を効果的に防止することが可能となり、その結果、ダイヤモンド切刃(切刃22)を備えた回転工具20によるFRP材の加工をより高速で、かつ円滑に行うことができるようになる。
【0048】
しかも、冷媒を一切用いることなく冷気を生成する冷気発生器40を用いて冷気を生成するため、簡単、かつ安価な構成で上記の効果を得ることができる。
【0049】
例えば、工作機械の本体側に冷媒の循環設備を設け、熱交換器を用いて冷媒と空気との間で熱交換を行わせることより冷気を生成し、これを回転工具20に供給することも考えられるが、この場合には、工作機械の本体側に別途冷媒やその循環設備等を設ける必要があり、装置構成の複雑化やコスト高はもとよりメンテナンス負担の増大も避けられない。これに対して上記実施形態の構成よると、回転工具20に冷気発生器40を組込み、これに圧縮空気を供給するだけの構成であるため、簡単、かつ安価な構成で、またメンテナンス負担を増大させることなく上記の効果を得ることができる。
【0050】
その上、回転工具20そのものに冷気発生器40を組込んだ構成であるため、生成した冷気を直ちに切刃22に供給することができ、冷熱の熱損失を最小限に抑えることができる。そのため、冷媒を使って冷却した空気を工作機械の本体側から回転工具20に導く構成に比べると、冷熱の熱損失を抑えて効率的に切刃22等を冷却することができる。
【0051】
ところで、上記のような工作機器およびこれに適用される回転工具20は、本発明に係る工作機械および回転工具の好ましい実施形態の一つであって、その具体的な構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
(1)例えば実施形態では、本発明に係る冷気生成手段として冷気発生器40を設け、これを工具組付体21bに収納した構成となっているが、工具組付体21bそのものを冷気生成手段から構成してもよい。つまり、冷気発生器40を設ける代わりに工具組付体21bそのものに渦流管42に相当する空間を形成し、この空間に圧縮空気を導入して冷気を生成するようにしてもよい。この構成によると、別体の冷気発生器40を工具組付体21bに収納する上記実施形態の構成に比べて回転工具20を軽量化することが可能となる。
【0053】
(2)実施形態では、切刃22としてダイヤモンド粒子を電着したいダイヤモンド切刃を備えた回転工具20について説明したが、切刃22の種類は、ダイヤモンド切刃に限定されるものではなく一般的な超硬合金等からなる切刃であってもよい。
【0054】
(3)実施形態の回転工具20では、冷気発生器40を備えた工具組付体21bに対して工具本体21aが着脱可能に構成されているが、例えば、工具本体21aと工具組付体21bとを一体化した構成を採用し、付刃、あるいは植刃により切刃22を設けるようにしてもよい。
【0055】
(4)切刃22に冷気を案内するための通路26の数や開口位置も実施形態に限定されるものではなく、切刃22の具体的な形状や配列に応じて、切刃22を効果的に冷却できるように設ければよい。なお、実施形態の例では、周方向に隣設する切刃22の間に渦巻状の溝が形成されており、通路26の開口位置が各切刃22の回転中心側の尖角部分近傍に設けられている結果、通路26から吐出された冷気は、図3に一点鎖線で示すように、各切刃22を冷却しつつ前記溝を通じてスムーズに回転半径方向外側に排出されることとなる。そのため、切刃22を効果的に冷却する一方で、加工屑を効果的に外部排出させることができるという効果がある。
【0056】
(5)実施形態では、回転工具20に冷気発生器40を設けているが、工具ホルダ14に冷気発生器40を設けるようにしてもよい。すなわち、回転工具20には切刃22に冷気を案内する通路26等のみを設ける一方、工具ホルダ14に上記冷気発生器40、導入用通路37および暖気排出孔38等に相当する構成を設けておき、主軸12を介して工具ホルダ14に圧縮空気を導入し、工具ホルダ14で冷気を生成しつつ回転工具20に供給するように構成してもよい。なお、この場合には、工具ホルダ14が本発明に係る工具組付体を、回転工具20が本発明に係る工具本体を構成することとなる。
【0057】
(6)実施形態では、本発明の回転工具に係る発明を正面フライスに適用しているが、例えばエンドミル、ボーリングカッタ等に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る工作機械(本発明に係る回転工具が適用される工作機械)であるフライス盤を示す正面略図である。
【図2】回転工具を示す縦断面図である。
【図3】工具本体の構成を示す図2のA矢視図である。
【図4】回転工具を分解した状態(工具本体を取り外した状態)を示す回転工具の縦断面図である。
【符号の説明】
【0059】
12 主軸
14 工具ホルダ
20 回転工具
21a 工具本体
21b 工具組付体
22 切刃
40 冷気発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面に周方向に並ぶ複数の切刃を備えるとともに、後端に主軸に対する固定部を備えた工具ボディを有し、前記固定部を介して工作機械の前記主軸に装着されることによりこの主軸と一体に回転駆動される回転工具であって、
前記工具ボディに、外部から圧縮気体を導入するための導入部と、工具ボディの軸心上に位置する円筒部を有し、この円筒部の軸方向一端側にその接線方向から前記圧縮気体を導入することにより当該気体を円筒部の内周面に沿って高速旋回させつつ軸方向に移動させ、この高速旋回に伴う熱分離作用により円筒部の軸心部分に導入温度よりも低温の冷気を生成して吐出する冷気生成手段とが組込まれ、この冷気生成手段により生成された冷気により前記切刃を冷却するように構成されていることを特徴とする回転工具。
【請求項2】
請求項1に記載の回転工具において、
前記工具ボディは、前記切刃を備える工具本体と、前記固定部を具備し、かつ工具本体が着脱可能に組付けられる工具組付体とから構成され、この工具組付体に前記冷気生成手段が組込まれていることを特徴とする回転工具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の回転工具において、
前記主軸として圧縮気体の供給部を備えたものに装着される回転工具であって、
圧縮気体を導入するための導入部が前記固定部に設けられ、前記主軸への装着状態において前記導入部が前記供給部に接続されるように構成されていることを特徴とする回転工具。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の回転工具において、
前記切刃は、台金にダイヤモンド粒子が担持されたダイヤモンド切刃であることを特徴とする回転工具。
【請求項5】
回転駆動される主軸と、この主軸に着脱可能に固定される回転工具と、前記主軸に対して工作物を相対的に移動可能に支持するテーブルとを備えた工作機械において、
回転工具として請求項1乃至4の何れかに記載の回転工具が前記主軸に着脱可能に固定されるとともに、この回転工具に対して前記導入部を介して圧縮気体を供給する気体供給手段を備えていることを特徴とする工作機械。
【請求項6】
請求項7に記載の工作機械において、
前記回転工具は、工具ボディの前記固定部に圧縮気体の導入部を有するものであって、前記主軸には、回転工具を装着した状態で前記導入部と接続可能な圧縮気体の供給部が設けられ、この供給部を通じて前記回転工具に圧縮気体を供給するように前記気体供給手段が構成されていることを特徴とする工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−15041(P2007−15041A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197449(P2005−197449)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000191180)新日本工機株式会社 (51)
【Fターム(参考)】