説明

回転式圧縮機

【課題】複数の圧縮室が径方向に形成された圧縮機構を有する回転式圧縮機において、外側の圧縮室への給油不足を解消する。
【解決手段】圧縮機構(30,40)に、潤滑油が流通する油通路(82)と、最内周の圧縮室以外の外側圧縮室(S11,S21)に対して設けられて潤滑油を貯留する外側溝部(84)とを形成する。圧縮機構(30,40)を、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通すると共に外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が外側溝部(84)に貯留される外側貯留状態と、外側溝部(84)と油通路(82)との連通が遮断されると共に外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)とが連通して外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧縮室が径方向に形成された偏心回転型の圧縮機構を有する回転式圧縮機に関し、圧縮室への給油不足対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、環状のシリンダの内部に環状のピストンを配置することにより、圧縮機構に複数の圧縮室が形成された回転式圧縮機が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献1の圧縮機では、圧縮室がピストンの内側と外側に2室形成されている。また、特許文献2の圧縮機では、圧縮室が3室形成されている。
【0003】
ところで、上記回転式圧縮機では、油ポンプによってケーシングの底部に貯留された潤滑油を駆動軸内の給油通路を介して駆動軸の周囲に形成された油溜まりに供給し、該油溜まりから外周側に潤滑油を流出させることによって各圧縮室に供給することとしている。このように各圧縮室に供給された潤滑油が各圧縮室内に形成される吸入側の低圧室と吐出側の高圧室との間の隙間をシールすることにより、容積効率の低下を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−113493号公報
【特許文献2】特開2006−307762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような給油方法では、径方向の外側の圧縮室には潤滑油が到達し難く、低圧室と高圧室との間が連通して容積効率が著しく低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の圧縮室が径方向に形成された圧縮機構を有する回転式圧縮機において、外側の圧縮室への給油不足を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、偏心部(25,26)を有する駆動軸(23)と、該駆動軸(23)の偏心部(25,26)に固定された環状のピストン(32,42)と、該ピストン(32,42)が内部において偏心回転し且つ該ピストン(32,42)との間に複数の環状の圧縮室(S11,S12,S21,S22)を径方向に形成するシリンダ(31,41)とを有する圧縮機構(30,40)を備えた回転式圧縮機であって、上記圧縮機構(30,40)は、高圧圧力状態の潤滑油が流通する油通路(82)と、最内周の圧縮室である内側圧縮室(S12,S22)以外の外側圧縮室(S11,S21)に対して設けられて潤滑油を貯留する外側油貯留室(84)とを有し、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記外側油貯留室(84)と上記油通路(82)とが連通すると共に上記外側油貯留室(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されて上記油通路(82)の潤滑油が上記外側油貯留室(84)に貯留される外側貯留状態と、上記外側油貯留室(84)と上記油通路(82)との連通が遮断されると共に上記外側油貯留室(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)とが連通して上記外側油貯留室(84)に貯留された潤滑油が上記外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わるように構成されている。
【0008】
第1の発明では、圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に外側貯留状態と外側供給状態とに切り換わり、外側貯留状態になると、油通路(82)を流通する高圧圧力状態の潤滑油が外側油貯留室(84)に貯留される一方、外側供給状態になると、外側油貯留室(84)に貯留された高圧圧力状態の潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される。つまり、径方向に複数並ぶ圧縮室(S11,S12,S21,S22)のうちの最内周の圧縮室(S12,S22)以外の外側圧縮室(S11,S21)には、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に外側油貯留室(84)の容積分の潤滑油が供給されることとなる。
【0009】
ところで、油溜まりと吸入側の低圧室とが常時連通し、油溜まりと低圧室との差圧によって潤滑油を供給するような差圧型の給油を行う場合には、潤滑油の供給量が差圧に支配される。そのため、差圧が大きい場合には、潤滑油の供給量が過多となって吸入流体を過熱してしまい、容積効率を低下させてしまうおそれがあった。一方、差圧が小さい場合には、潤滑油の供給量が不足して吸入側の低圧室と吐出側の高圧室との間の隙間をシールすることができなくなって容積効率を低下させてしまうおそれがあった。つまり、上記差圧型の給油の場合、駆動軸の回転数に関係なく差圧によって潤滑油の供給量が決まるため、ピストンの1回の偏心回転中に所望の分量だけ潤滑油を供給できない供給不足や逆に供給過多を生じるおそれがあった。
【0010】
しかしながら、第1の発明では、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側油貯留室(84)の容積分の潤滑油、即ち所定量の潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される。つまり、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)に過不足なく安定的に潤滑油が供給されることとなる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記圧縮機構(30,40)は、上記内側圧縮室(S12,S22)に対して設けられて潤滑油が貯留される内側油貯留室(83)を有し、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記内側油貯留室(83)と上記油通路(82)とが連通すると共に上記内側油貯留室(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)との連通が遮断されて上記油通路(82)の潤滑油が上記内側油貯留室(83)に貯留される内側貯留状態と、上記内側油貯留室(83)と上記油通路(82)との連通が遮断されると共に上記内側油貯留室(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)とが連通して上記内側油貯留室(83)に貯留された潤滑油が上記内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態とに切り換わるように構成されている。
【0012】
第2の発明では、ピストン(32,42)が1回偏心回転する間に、圧縮機構(30,40)が内側貯留状態と内側供給状態とに切り換わり、内側貯留状態になると、油通路(82)を流通する高圧圧力状態の潤滑油が内側油貯留室(83)に貯留される一方、内側供給状態になると、内側油貯留室(83)に貯留された高圧圧力状態の潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される。つまり、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)だけでなく、内側圧縮室(S12,S22)にも内側油貯留室(83)の容積分の潤滑油が供給されることとなる。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、上記圧縮機構(30,40)は、上記外側油貯留室(84)の容積が上記内側油貯留室(83)の容積よりも大きくなるように構成されている。
【0014】
第3の発明では、外側油貯留室(84)の容積が内側油貯留室(83)の容積よりも大きく形成されているため、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)には内側圧縮室(S12,S22)よりも多くの潤滑油が供給されることとなる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、上記圧縮機構(30,40)は、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記外側貯留状態となる時間が上記内側貯留状態となる時間よりも長くなるように構成されている。
【0016】
第4の発明では、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側貯留状態となる時間が内側貯留状態となる時間よりも長くなるように構成されているため、内側油貯留室(83)よりも容積の大きい外側油貯留室(84)にも確実に潤滑油が貯留される。
【0017】
第5の発明は、第2乃至第4のいずれか1つの発明において、上記シリンダ(31,41)は、鏡板部(31a,41a)と、該鏡板部(31a,41a)から軸方向に突設された内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)とを有し、上記ピストン(32,42)は、上記偏心部(25,26)に外嵌された鏡板部(32a,42a)と、該鏡板部(32a,42a)から上記内側シリンダ部(31c,41c)と上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に軸方向に突設されて上記内側シリンダ部(31c,41c)との間に上記内側圧縮室(S12,S22)を形成する一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に上記外側圧縮室(S11,S21)を形成する環状のピストン部(32b,42b)とを有し、上記油通路(82)は上記ピストン(32,42)に形成されて流出端(82b)が上記ピストン部(32b,42b)の先端に開口し、上記シリンダ(31,41)の上記鏡板部(31a,41a)には、上記外側圧縮室(S11,S21)に対応して上記外側油貯留室を構成する外側溝部(84)と、上記内側圧縮室(S12,S22)に対応して上記内側油貯留室を構成する内側溝部(83)とが形成されている。
【0018】
第5の発明では、駆動軸(23)が回転してピストン(32,42)が偏心回転すると、ピストン(32,42)とシリンダ(31,41)との間に径方向に2つの圧縮室、即ち、内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)のそれぞれにおいて流体が圧縮される。また、圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と外側溝部(84)とが連通して油通路(82)の潤滑油が外側溝部(84)に貯留される外側貯留状態と、外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)とが連通して外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わる。さらに、圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と内側溝部(83)とが連通して油通路(82)の潤滑油が内側溝部(83)に貯留される内側貯留状態と、内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)とが連通して内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態とに切り換わる。
【0019】
第6の発明は、第2乃至第4のいずれか1つにおいて、上記シリンダ(31,41)は、鏡板部(31a,41a)と、該鏡板部(31a,41a)から軸方向に突設された内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)とを有し、上記ピストン(32,42)は、上記偏心部(25,26)に外嵌された鏡板部(32a,42a)と、該鏡板部(32a,42a)から上記内側シリンダ部(31c,41c)と上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に軸方向に突設されて上記内側シリンダ部(31c,41c)との間に上記内側圧縮室(S12,S22)を形成する一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に上記外側圧縮室(S11,S21)を形成する環状のピストン部(32b,42b)とを有し、上記油通路(82)は上記ピストン(32,42)に形成されて流出端(82b)が上記鏡板部(32a,42a)において開口し、上記内側シリンダ部(31c,41c)の先端には上記内側油貯留室を構成する内側溝部(83)が形成される一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)の先端には上記外側油貯留室を構成する外側溝部(84)が形成され、上記ピストン(32,42)の上記鏡板部(32a,42a)には、上記外側供給状態において上記外側溝部(84)と連通することで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)とを連通させ且つ上記外側貯留状態において上記外側溝部(84)との連通が遮断されることで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)との連通を遮断させるように構成された外側連通溝部(86)と、上記内側供給状態において上記内側溝部(83)と連通することで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)とを連通させ且つ上記内側貯留状態において上記内側溝部(83)との連通が遮断されることで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)との連通を遮断させるように構成された内側連通溝部(85)とが形成されている。
【0020】
第6の発明では、駆動軸(23)が回転してピストン(32,42)が偏心回転すると、該ピストン(32,42)の環状のピストン部(32b,42b)の内外のそれぞれに形成された内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)とにおいて流体が圧縮される。また、圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と外側溝部(84)とが連通して油通路(82)の潤滑油が外側溝部(84)に貯留される外側貯留状態と、外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)とが外側連通溝部(86)を介して連通して外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わる。さらに、圧縮機構(30,40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と内側溝部(83)とが連通して油通路(82)の潤滑油が内側溝部(83)に貯留される内側貯留状態と、内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)とが内側連通溝部(85)を介して連通して内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される供給状態とに切り換わる。
【0021】
第7の発明は、第1乃至第6のいずれか1つの発明において、上記圧縮機構(30,40)は2つ設けられて、各ピストン(32,42)が上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)にそれぞれ外嵌され、上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)が挿通される挿通穴を有して上記2つの圧縮機構(30,40)を仕切る板状部材(51)と、上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の外周に潤滑油を供給する偏心部給油路(62,63)とを備え、上記各圧縮機構(30,40)の上記油通路(82)は、流入端(82a)が上記駆動軸(23)と上記板状部材(51)との間に形成される筒状空間(S)と連通するように構成されている。
【0022】
第7の発明では、圧縮機構(30,40)が2つ設けられ、該2つの圧縮機構(30,40)は駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)が挿通される板状部材(51)によって仕切られている。また、偏心部給油路(62,63)によって2つの偏心部(25,26)の外周に潤滑油が供給されて偏心部(25,26)の摺動部が潤滑される。また、2つの偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油は、駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)と板状部材(51)との間に形成される筒状空間(S)に流入する。
【0023】
ところで、筒状空間(S)から潤滑油が排出されずに溜まり込むと、圧縮機構(30,40)によって徐々に加熱されて温度が上昇する。これにより、筒状空間(S)の近傍の各偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油の温度も上昇し、これに伴って粘度が低下する。そのため、各偏心部(25,26)の摺動部が十分に潤滑できなくなり、焼き付き等を引き起こすおそれがある。
【0024】
しかしながら、上記第7の発明では、2つの圧縮機構(30,40)の油通路(82)の流入端(82a)が筒状空間(S)に連通するように構成されているため、筒状空間(S)の潤滑油は油通路(82)に流入することによって筒状空間(S)から排出される。よって、潤滑油が筒状空間(S)に溜まり込むことがない。
【発明の効果】
【0025】
第1の発明によれば、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)の潤滑油が外側油貯留室(84)に貯留される外側貯留状態と、外側油貯留室(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わるように圧縮機構(30,40)を構成したため、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)に所定量の潤滑油を供給することができる。そのため、上述した差圧型の給油と異なり、駆動軸(23)の回転数によって潤滑油の供給量が増減し、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に所望の分量だけ潤滑油を安定的に供給することができる。従って、複数の圧縮室(S11,S12,S21,S22)が径方向に形成された圧縮機構(30,40)を有する回転式圧縮機において、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)の潤滑油不足を解消することができ、また、潤滑油の供給過多を抑制することもできる。そのため、潤滑油の供給不足や供給過多による容積効率の低下を防止することができる。
【0026】
また、第2の発明によれば、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)の潤滑油が内側油貯留室(83)に貯留される内側貯留状態と、内側油貯留室(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態とに切り換わるように構成したため、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)だけでなく、内側圧縮室(S12,S22)にも所定量の潤滑油を供給することができる。従って、複数の圧縮室(S11,S12,S21,S22)が径方向に形成された圧縮機構(30,40)を有する回転式圧縮機において、外側圧縮室(S11,S21)と内側圧縮室(S12,S22)のそれぞれに適した分量の潤滑油を供給することができる。
【0027】
また、第3の発明によれば、不必要に内側圧縮室(S12,S22)に過剰の潤滑油を供給することなく、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0028】
また、第4の発明によれば、外側貯留状態において、内側油貯留室(83)よりも容積の大きい外側油貯留室(84)に内側油貯留室(83)よりも多くの潤滑油を送り込むことができる。従って、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0029】
また、第5の発明によれば、シリンダ(31,41)とピストン(32,42)との間に径方向に2つの圧縮室、即ち外側圧縮室(S11,S21)と内側圧縮室(S12,S22)とが形成された構成において、外側圧縮室(S11,S21)には該外側圧縮室(S11,S21)に対応する外側溝部(84)を介して所定量の潤滑油を供給することができ、内側圧縮室(S12,S22)には該内側圧縮室(S12,S22)に対応する内側溝部(83)を介して所定量の潤滑油を供給することができる。従って、容易な構成によって内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)のそれぞれに適切な量の潤滑油を供給することができる。
【0030】
また、第6の発明によれば、環状のピストン部(32b,42b)の内側に内側圧縮室(S12,S22)が形成され、環状のピストン部(32b,42b)の外側に外側圧縮室(S11,S21)が形成された構成において、外側圧縮室(S11,S21)には外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)に対応する外側連通溝部(86)とを介して所定量の潤滑油を供給することができ、内側圧縮室(S12,S22)には内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)に対応する内側連通溝部(85)とを介して所定量の潤滑油を供給することができる。従って、容易な構成によって内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)のそれぞれに適切な量の潤滑油を供給することができる。
【0031】
また、第7の発明によれば、両圧縮機構(30,40)の油通路(82)の流入端(82a)が、駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)と2つの圧縮機構(30,40)を仕切る板状部材(51)との間に形成される筒状空間(S)に連通するように油通路(82)を構成することにより、筒状空間(S)の潤滑油を油通路(82)に排出することができる。よって、偏心部(25,26)に供給された潤滑油の筒状空間(S)への溜まり込みを防止することができる。その結果、筒状空間(S)の近傍の偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油の温度上昇を防止でき、潤滑油の粘度低下に伴う偏心部(25,26)の摺動部における潤滑不足を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施形態1に係る回転式圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る圧縮機構の動作状態図である。
【図3】図3は、実施形態1に係る圧縮機構を拡大して示す縦断面図である。
【図4】図4は、実施形態1に係る圧縮機構を拡大して示す縦断面図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る圧縮機構の横断面図である。
【図6】図6は、実施形態1に係る圧縮機構の内側溝部及び外側溝部付近を拡大して示す横断面図である。
【図7】図7は、実施形態1に係る圧縮機構のピストンの1回の偏心回転中における内側溝部及び外側溝部と油通路とが連通する角度を示すグラフである。
【図8】図8(A)及び(B)は、実施形態1に係る圧縮機構の給油動作図である。
【図9】図9(A)及び(B)は、実施形態2に係る圧縮機構の給油動作図である。
【図10】図10(A)及び(B)は、実施形態3に係る圧縮機構の給油動作図である。
【図11】図11は、実施形態4に係る圧縮機構の内側溝部及び外側溝部付近を拡大して示す横断面図である。
【図12】図12は、実施形態4に係る圧縮機構のピストンの1回の偏心回転中における内側溝部及び外側溝部と油通路とが連通する角度を示すグラフである。
【図13】図13は、実施形態5に係る圧縮機構を拡大して示す縦断面図である。
【図14】図14は、実施形態5に係る圧縮機構の図13と異なる縦断面図である。
【図15】図15は、実施形態5に係る圧縮機構の動作状態図である。
【図16】図16は、実施形態5に係る圧縮機構の動作状態図である。
【図17】図17は、実施形態5に係るブレードの拡大斜視図である。
【図18】図18(A)及び(B)は、実施形態5に係る圧縮機構の給油動作図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0034】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1に係る回転式圧縮機は、例えば空気調和装置の冷媒回路に設けられ、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して放熱器へ吐出する。
【0035】
図1に示すように、回転式圧縮機(10)は、縦長で密閉容器状のケーシング(11)を備えている。ケーシング(11)は、縦長の円筒状に形成された胴部(12)と、椀状に形成されて、胴部(12)の両端に外側に凸に配設される一対の端板部(13)とによって構成されている。ケーシング(11)の内部には、電動機(20)と、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)を有して冷媒を二段圧縮する圧縮機部(50)とが収納されている。なお、本実施形態1では、第1圧縮機構(30)が低段側圧縮機構を構成し、第2圧縮機構(40)が高段側圧縮機構を構成する。
【0036】
ケーシング(11)の胴部(12)には、低段側の第1圧縮機構(30)に接続される第1吸入管(14)及び第1吐出管(15)が、該胴部(12)を厚み方向に貫通するように設けられている。また、胴部(12)には、高段側の第2圧縮機構(40)に接続される第2吸入管(16)が、該胴部(12)を貫通するように設けられている。さらに、胴部(12)の上方側を塞ぐ端板部(13)には、第2吐出管(17)が該端板部(13)を貫通するように設けられ、該第2吐出管(17)はケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。なお、図示を省略するが、第1吐出管(15)と第2吸入管(16)とは、ケーシング(11)の外部において接続されている。
【0037】
このような構成により、回転式圧縮機(10)は、高段側の第2圧縮機構(40)において圧縮された冷媒がケーシング(11)の内部空間(S10)に吐出され、第2吐出管(17)を介してケーシング(11)の外部へ排出されるように構成されている。つまり、回転式圧縮機(10)は、ケーシング(11)の内部空間(S10)が高圧圧力状態となる、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機に構成されている。
【0038】
ケーシング(11)の内部には、胴部(12)と平行に延びる駆動軸(23)が設けられている。電動機(20)及び圧縮機部(50)は、該駆動軸(23)を介して連結されている。密閉容器状のケーシング(11)の底部には、圧縮機部(50)の各摺動部に供給される潤滑油を貯留する油溜まり(18)が形成されている。
【0039】
駆動軸(23)は、主軸部(24)と2つの偏心部(25,26)とを有している。駆動軸(23)では、2つの偏心部(25,26)が所定の間隔を介して軸方向に並設されている。本実施形態では、上側偏心部(26)は、主軸部(24)の中央寄りに設けられ、下側偏心部(25)は、主軸部(24)の下端寄りの位置に設けられている。両偏心部(25,26)は、主軸部(24)よりも大径の円柱状に形成され、それぞれ軸心が主軸部(24)の軸心に対して偏心している。また、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)とは、主軸部(24)の軸心を中心として互いに180°位相がずれるように形成されている。また、駆動軸(23)では、上側偏心部(26)と下側偏心部(25)との間の部位が中間軸部(27)を構成している。
【0040】
駆動軸(23)の下端には、油溜まり(18)に浸漬する給油ポンプ(28)が設けられている。駆動軸(23)の内部には、給油ポンプ(28)が吸い上げた潤滑油が流通する軸内流路(61a)が軸方向に延びて形成されている。軸内流路(61a)は、油溜まり(18)の潤滑油を圧縮機構(30,40)の各摺動部へ供給するための油供給路(61)の一部を構成している。また、上記給油ポンプ(28)と油供給路(61)とは、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)のそれぞれの圧縮室等へ潤滑油を供給するための油供給機構(60)の一部を構成している。この油供給機構(60)の詳細については後述する。
【0041】
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定されている。一方、ロータ(22)は、ステータ(21)の内側に配置され、駆動軸(23)の主軸部(24)に連結されている。電動機(20)は、インバータ装置からの出力周波数が制御されることで、駆動軸(23)の回転速度を調整できるように構成されている。つまり、本実施形態の回転式圧縮機(10)は、容量が可変に構成されている。
【0042】
圧縮機部(50)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とミドルプレート(51)とが一体的に組み込まれて構成されている。圧縮機部(50)では、軸方向の下側から上側に向かって、第1圧縮機構(30)、ミドルプレート(51)、第2圧縮機構(40)が順に並んでいる。
【0043】
図2及び図3に示すように、第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とを有し、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)との間に圧縮室を構成している。第1ピストン(32)は、下側偏心部(25)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第1シリンダ(31)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第1シリンダ(31)と第1ピストン(32)とは、相対的に偏心回転運動を行う。
【0044】
第1シリンダ(31)は、中央に軸受部が形成された平板状の鏡板部(31a)と、該鏡板部(31a)から上方に突出するように形成された筒状の外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)とを備えている。外側シリンダ部(31b)は、鏡板部(31a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(31c)は、鏡板部(31a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
【0045】
第1シリンダ(31)では、内側シリンダ部(31c)の内側に第1軸受収容室(39)が形成される。第1軸受収容室(39)には、第1ピストン(32)の軸受部(32c)が収容される。内側シリンダ部(31c)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面との間には、環状の第1シリンダ室(S11,S12)が形成される。第1シリンダ室(S11,S12)には、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が収容される。これにより、第1シリンダ室(S11,S12)には、環状ピストン部(32b)の外側に外側圧縮室(S11)が区画され、環状ピストン部(32b)の内側に内側圧縮室(S12)が区画される。
【0046】
第1シリンダ(31)は、鏡板部(31a)及び外側シリンダ部(31b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第1シリンダ(31)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(31d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(31d)によって回転自在に支持されている。
【0047】
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吸入ポート(14a)が形成されている。この第1吸入ポート(14a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吸入管(14)が接続されている。つまり、第1吸入ポート(14a)は第1吸入管(14)から外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に吸入される冷媒を流通させる第1吸入通路を構成している。
【0048】
第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第1吐出ポート(15a)が形成されている。この第1吐出ポート(15a)の一端は、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)に連通するように構成され、他端には第1吐出管(15)が接続されている。具体的には、第1吐出ポート(15a)には、外側圧縮室(S11)及び内側圧縮室(S12)の吐出口(35,36)が開口し、該両吐出口(35,36)には吐出弁(37,38)が設けられている。外側圧縮室(S11)の吐出弁(37)は、該外側圧縮室(S11)の高圧室(S11H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(35)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S12)の吐出弁(38)は、該内側圧縮室(S12)の高圧室(S12H)と第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると吐出口(36)を開くように構成されている。
【0049】
第1ピストン(32)は、平板状の鏡板部(32a)と、該鏡板部(32a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(32b)と、鏡板部(32a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(32c)とを備えている。第1ピストン(32)の鏡板部(32a)は、可動側となる可動側鏡板部を構成している。環状ピストン部(32b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第1シリンダ室(S11,S12)に収容される。軸受部(32c)は、駆動軸(23)の下側偏心部(25)に外嵌し、第1軸受収容室(39)に収容されている。第1軸受収容室(39)では、内側シリンダ部(31c)の内周面に対して軸受部(32c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(31c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第1軸受収容室(39)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
【0050】
図2に示すように、第1圧縮機構(30)は、第1シリンダ室(S11,S12)の外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とを更に高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するブレード(33)を備えている。第1ブレード(33)は、第1シリンダ室(S11,S12)の径方向に、外側シリンダ部(31b)の内周面から内側シリンダ部(31c)の外周面に亘って延びている。そして、第1ブレード(33)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所を挿通して第1シリンダ室(S11,S12)を高圧室(S11H,S12H)と低圧室(S11L,S12L)とに区画するように構成されている。なお、本実施形態では、第1ブレード(33)は、外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(31b,31c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
【0051】
第1圧縮機構(30)は、環状ピストン部(32b)の分断箇所に設けられ、第1ピストン(32)と第1ブレード(33)とを揺動可能に連結する第1揺動ブッシュ(34)を備えている。第1揺動ブッシュ(34)は、第1ブレード(33)に対して高圧室(S11H,S12H)側に位置する吐出側ブッシュ(34a)と、該第1ブレード(33)に対して低圧室(S11L,S12L)側に位置する吸入側ブッシュ(34b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(34a)及び吸入側ブッシュ(34b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(34a,34b)の対向面の間には、上記第1ブレード(33)が進退自在に挟まれている。そして、第1揺動ブッシュ(34)は、該第1ブレード(33)を挟み込んだ状態において、第1ピストン(32)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(34a,34b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
【0052】
第1圧縮機構(30)では、第1ピストン(32)が第1シリンダ(31)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(32b)の外周面と外側シリンダ部(31b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(32b)の内周面と内側シリンダ部(31c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
【0053】
第2圧縮機構(40)は、上記第1圧縮機構(30)と同様の機械要素によって構成されている。また、第2圧縮機構(40)は、ミドルプレート(51)を挟んで第1圧縮機構(30)を反転させた状態で設けられている。なお、図2では、第2圧縮機構(40)の構成要素に関する符号を括弧内に示している。
【0054】
具体的には、第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とを有し、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)との間に圧縮室を構成している。第2ピストン(42)は、上側偏心部(26)に外嵌して回転駆動される可動部材を構成している。第2シリンダ(41)は、ケーシング(11)に固定される固定部材を構成している。これにより、第2シリンダ(41)と第2ピストン(42)とは、相対的に偏心回転運動を行う。なお、上述のように、下側偏心部(25)と上側偏心部(26)とは、180°位相がずれている。このため、これらの偏心部(25,26)に駆動される第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)も、互いに180°位相がずれた状態を保持しながら偏心回転する。
【0055】
第2シリンダ(41)は、平板状の鏡板部(41a)と、該鏡板部(41a)から下方に突出して形成された筒状の外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)とを備えている。外側シリンダ部(41b)は、鏡板部(41a)の径方向外側部位に突設される環状の外歯部を構成している。内側シリンダ部(41c)は、鏡板部(41a)の径方向内側部位に突設される環状の内歯部を構成している。外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)は、駆動軸(23)の軸心と同軸となっている。
【0056】
第2シリンダ(41)では、内側シリンダ部(41c)の内側に第2軸受収容室(49)が形成される。第2軸受収容室(49)には、第2ピストン(42)の軸受部(42c)が収容される。内側シリンダ部(41c)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面との間には、環状の第2シリンダ室(S21,S22)が形成される。第2シリンダ室(S21,S22)には、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が収容される。これにより、第2シリンダ室(S21,S22)には、環状ピストン部(42b)の外側に外側圧縮室(S21)が区画され、環状ピストン部(42b)の内側に内側圧縮室(S22)が区画される。
【0057】
第2シリンダ(41)は、鏡板部(41a)及び外側シリンダ部(41b)がケーシング(11)の胴部(12)の内面に溶接されることにより固定されている。つまり、第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)は、固定側となる固定側鏡板部を構成している。また、第2シリンダ(41)の内部には、駆動軸(23)の主軸部(24)が挿通される軸受部(41d)が形成される。駆動軸(23)の主軸部(24)は、軸受部(41d)によって回転自在に支持されている。
【0058】
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、外周面から径方向の内側向きに延びる第2吸入ポート(16a)が形成されている。この第2吸入ポート(16a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端には上記第2吸入管(16)が接続されている。つまり、該第2吸入ポート(16a)は第2吸入管(16)から外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に吸入される冷媒を流通させる第2吸入通路を構成している。
【0059】
第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)には、上面から下方に向かって延びる第2吐出ポート(17a)が形成されている。この第2吐出ポート(17a)の一端は、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)に連通するように構成され、他端はケーシング(11)の内部空間(S10)に開口している。具体的には、第2吐出ポート(17a)には、外側圧縮室(S21)及び内側圧縮室(S22)の吐出口(45,46)が開口し、該両吐出口(45,46)には吐出弁(47,48)が設けられている。外側圧縮室(S21)の吐出弁(47)は、該外側圧縮室(S21)の高圧室(S21H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(45)を開くように構成されている。同様に、内側圧縮室(S22)の吐出弁(48)は、該内側圧縮室(S22)の高圧室(S22H)と第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると吐出口(46)を開くように構成されている。
【0060】
第2ピストン(42)は、平板状の鏡板部(42a)と、該鏡板部(42a)の径方向外側部位に突設される環状の環状ピストン部(42b)と、該鏡板部(42a)の径方向内側部位に突設される筒状の軸受部(42c)とを備えている。環状ピストン部(42b)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され、第2シリンダ室(S21,S22)に収容される。軸受部(42c)は、駆動軸(23)の上側偏心部(26)に外嵌し、第2軸受収容室(49)に収容されている。第2軸受収容室(49)では、内側シリンダ部(41c)の内周面に対して軸受部(42c)が一定の間隔を確保しながら偏心回転する。これにより、内側シリンダ部(41c)の内部では、流体が実質的に圧縮されることはない。つまり、第2軸受収容室(49)は、冷媒の圧縮に寄与しない、いわゆる無効空間を構成している。
【0061】
第2圧縮機構(40)は、第2シリンダ室(S21,S22)の外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とを更に高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するブレード(43)を備えている。第2ブレード(43)は、第2シリンダ室(S21,S22)の径方向に、外側シリンダ部(41b)の内周面から内側シリンダ部(41c)の外周面に亘って延びている。そして、第2ブレード(43)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所を挿通して第2シリンダ室(S21,S22)を高圧室(S21H,S22H)と低圧室(S21L,S22L)とに区画するように構成されている。なお、本実施形態では、第2ブレード(43)は、外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)と一体形成されているが、該両シリンダ部(41b,41c)と別部材として形成し、これらに固定するものであってもよい。
【0062】
第2圧縮機構(40)は、環状ピストン部(42b)の分断箇所に設けられ、第2ピストン(42)と第2ブレード(43)とを揺動可能に連結する第2揺動ブッシュ(44)を備えている。第2揺動ブッシュ(44)は、第2ブレード(43)に対して高圧室(S21H,S22H)側に位置する吐出側ブッシュ(44a)と、該第2ブレード(43)に対して低圧室(S21L,S22L)側に位置する吸入側ブッシュ(44b)とから構成されている。この吐出側ブッシュ(44a)及び吸入側ブッシュ(44b)は、いずれも断面形状が略半円形の同一形状に形成されている。該両ブッシュ(44a,44b)の対向面の間には、上記第2ブレード(43)が進退自在に挟まれている。そして、第2揺動ブッシュ(44)は、該第2ブレード(43)を挟み込んだ状態において、第2ピストン(42)に対して揺動可能に形成されている。なお、両ブッシュ(44a,44b)は一部において連結されて一体的に形成されていてもよい。
【0063】
第2圧縮機構(40)では、第2ピストン(42)が第2シリンダ(41)に対して偏心回転運動を行う。この偏心回転運動では、環状ピストン部(42b)の外周面と外側シリンダ部(41b)の内周面とが実質的に1点で摺接し、その摺接点と位相が180°ずれた位置において環状ピストン部(42b)の内周面と内側シリンダ部(41c)の外周面とが実質的に1点で摺接する。
【0064】
ミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)との間に設けられて両圧縮機構(30,40)を仕切っている。ミドルプレート(51)は、環状の平板部(51b)と、該平板部(51b)の外周縁部に形成される筒状の筒部(51a)とによって構成されている。平板部(51b)は、軸方向に扁平な環状に形成され、その内部に駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。平板部(51b)は、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)と、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)との間に介設されている。筒部(51a)は、ケーシング(11)の内壁に沿うように軸方向に延出する筒状に形成され、その外周面の少なくとも一部がケーシング(11)の内壁に溶接されている。以上のような構成のミドルプレート(51)は、第1圧縮機構(30)との間に第1空間(S1)を区画し、第2圧縮機構(40)との間に第2空間(S2)を区画している。
【0065】
ミドルプレート(51)の平板部(51b)には、軸方向の両側の端面にそれぞれ環状溝が形成されており、この環状溝にそれぞれシールリング(52,53)が嵌め込まれている。具体的に、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)とミドルプレート(51)との間には、第1シールリング(52)が設けられている。この第1シールリング(52)により、第1空間(S1)は、内側の第1内側背圧室(S3)と外側の第1外側背圧室(S4)とに区画されている。同様に、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)とミドルプレート(51)との間には、第2シールリング(53)が設けられている。この第2シールリング(53)により、第2空間(S2)は、内側の第2内側背圧室(S5)と外側の第2外側背圧室(S6)とに区画されている。
【0066】
第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、上述した軸内流路(61a)を介してケーシング(11)の内部空間(S10)と連通している。このため、第1内側背圧室(S3)及び第2内側背圧室(S5)は、軸内流路(61a)を流れる高圧の潤滑油と同等の圧力状態(換言すると、ケーシング(11)の内部空間(S10)の内圧と同等の圧力状態)となっている。このため、第1内側背圧室(S3)の内圧により、第1ピストン(32)の鏡板部(32a)を第1シリンダ(31)側へ押し付けることができる。同様に、第2内側背圧室(S5)の内圧により、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)を第2シリンダ(41)側へ押し付けることができる。なお、本実施形態の第1外側背圧室(S4)は、第1シリンダ(31)の鏡板部(31a)に形成された低圧導入孔(55)を介して吸入ポート(14a)と連通している。このため、第1外側背圧室(S4)は、第1圧縮機構(30)に吸入される低圧冷媒の圧力と同等の圧力状態となる。これにより、第1ピストン(32)の押し付け力が大きくなり過ぎるのを抑制している。
【0067】
図4に示すように、上記油供給機構(60)の油供給路(61)は、上述した軸内流路(61a)に加えて、第1から第4までの流出路(62,63,64,65)を有している。第1から第4までの流出路(62,63,64,65)は、駆動軸(23)の内部を径方向に延びて形成され、それらの流入端がそれぞれ軸内流路(61a)と接続している。
【0068】
より詳細に、第1流出路(62)は、下側偏心部(25)の内部に形成され、第1の偏心部給油路を構成している。第1流出路(62)の流出端は、下側偏心部(25)の外周面に開口している。第2流出路(63)は、上側偏心部(26)の内部に形成され、第2の偏心部給油路を構成している。第2流出路(63)の流出端は、上側偏心部(26)の外周面に開口している。第1流出路(62)と第2流出路(63)とは、各偏心部(25,26)の偏心方向に対して90°位相がずれ、且つ互いに180°位相がずれる方向に延びている。第3流出路(64)は、駆動軸(23)のうち下側偏心部(25)の下側近傍の部位に形成されている。第3流出路(64)の流出端は、第1シリンダ(31)の内部に形成される軸受部(31d)に臨んでいる。第4流出路(65)は、駆動軸(23)のうち上側偏心部(26)の上側近傍の部位に形成されている。第4流出路(65)の流出端は、第2シリンダ(41)の内部に形成される軸受部(41d)に臨んでいる。
【0069】
また、上記油供給路(61)は、第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)を有している。第1から第4までの縦溝(66,67,68,69)は、駆動軸(23)の外周面を軸方向に延びて形成されている。より詳細に、第1縦溝(66)は、下側偏心部(25)の外周面において、第1流出路(62)の流出端を跨ぐように形成されている。第1縦溝(66)の底部では、その長手方向の中間部位に第1流出路(62)の流出端が形成されている。第2縦溝(67)は、上側偏心部(26)の外周面において、第2流出路(63)の流出端を跨ぐように形成されている。第2縦溝(67)の底部では、その長手方向の中間部位に第2流出路(63)の流出端が形成されている。第3縦溝(68)は、駆動軸(23)のうち第1シリンダ(31)側の軸受部(31d)に対応する位置に形成されている。第4縦溝(69)は、駆動軸(23)のうち第2シリンダ(41)側の軸受部(41d)に対応する位置に形成されている。
【0070】
油供給路(61)は、第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とを有している。第1環状溝(70)と第2環状溝(71)とは、駆動軸(23)の外周面の全周に亘って形成されている。第1環状溝(70)は、下側偏心部(25)の下側近傍であって、上記1縦溝(66)と第3縦溝(68)との間に形成されている。第1縦溝(66)と第3縦溝(68)とは、第1環状溝(70)を介して互いに連通している。また、第1環状溝(70)の底部には、第3流出路(64)の流出端が形成されている。第2環状溝(71)は、上側偏心部(26)の上側近傍であって、上記第2縦溝(67)と第4縦溝(69)との間に形成されている。第2縦溝(67)と第4縦溝(69)とは、第2環状溝(71)を介して互いに連通している。
【0071】
本実施形態では、上述のように、ミドルプレート(51)の内部を駆動軸(23)の中間軸部(27)が貫通している。このため、ミドルプレート(51)の内周壁と中間軸部(27)との間には、所定のクリアランスを確保するための筒状空間(S)が形成されている。本実施形態では、筒状空間(S)は、油供給機構(60)の一部を構成する。
【0072】
図4〜図7に示すように、本実施形態では、油供給機構(60)は、第1圧縮機構(30)の内側圧縮室(S12)及び外側圧縮室(S11)、並びに第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S22)及び外側圧縮室(S21)のそれぞれへ潤滑油を供給するように構成されている。油供給機構(60)は、上記給油ポンプ(28)、油供給路(61)及び筒状空間(S)の他に、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)のそれぞれに形成された内溝(81)と油通路(82)と内側溝部(83)と外側溝部(84)とを有している。なお、詳細については後述するが、内側溝部(83)は本発明に係る内側油貯留室を構成し、外側溝部(84)は本発明に係る外側油貯留室を構成する。また、内溝(81)、油通路(82)、内側溝部(83)及び外側溝部(84)の構成は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とで同様であるため、以下では、上側の第2圧縮機構(40)に形成された内溝(81)、油通路(82)、内側溝部(83)及び外側溝部(84)についてのみ説明する。
【0073】
内溝(81)は、ミドルプレート(51)の上端の内周縁部に形成されている。内溝(81)は、筒状空間(S)から径方向外側に膨出する円弧状に形成されている。また、内溝(81)は、第2ピストン(42)の偏心回転時において、後述する油通路(82)の流入端(82a)の偏心軌跡を含む範囲に形成されている。従って、本実施形態では、筒状空間(S)と油通路(82)の流入端(82a)とが、回転角度に拘わらず、常時連通することになる。
【0074】
油通路(82)は、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)から環状ピストン部(42b)に亘って形成されている。油通路(82)は、流入端(82a)が鏡板部(42a)における圧縮室と反対側の背面において内溝(81)に対向するように開口し、流出端(82b)が環状ピストン部(42b)の先端(歯先)において開口するように形成されている。油通路(82)の流出端(82b)の開口は、直径が0.3mm〜4mm、より好ましくは0.5mm〜2mm程度となるように形成されている。
【0075】
上記内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2シリンダ(41)の鏡板部(41a)における圧縮室側の面に形成され、内側溝部(83)が外側溝部(84)よりも径方向内側に位置するように形成されている。図5及び図6に示すように、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、内側シリンダ部(41c)と外側シリンダ部(41b)との間に形成された断面長円形状の溝によって構成されている。外側溝部(84)は、内側溝部(83)よりも容積が大きくなるように形成されている。また、内側溝部(83)と外側溝部(84)とは、両溝部(83,84)の合計容積が第2シリンダ室(S21,S22)の容積の0.05%〜2%の大きさとなるように、より好ましくは0.1%〜1%の大きさとなるように形成されている。
【0076】
また、図6に示すように、内側溝部(83)と外側溝部(84)とは、軸方向視において、第2ピストン(42)の偏心回転時における油通路(82)の流出端(82b)の軌跡(図6の二点鎖線を参照)の一部とそれぞれ重なるように形成されている。つまり、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、油通路(82)と連通する状態と連通せずに遮断された状態とが切り換わるように形成されている。また、本実施形態では、内側溝部(83)は、油通路(82)の流出端(82b)の軌跡に沿って延び、外側溝部(84)は内側シリンダ部(41c)及び外側シリンダ部(41b)の径方向に垂直な方向に延び、内側溝部(83)と外側溝部(84)とは軸方向視においてハの字状に形成されている。
【0077】
また、図7に示すように、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo)が内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する角度(Δθi)よりも大きくなるように構成されている。このように構成されることにより、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する時間は、内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する時間よりも長くなる。なお、上記Δθo及びΔθiは、30°より大きく且つ180°未満の角度に設定されている。
【0078】
また、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の偏心回転中に、それぞれ対応付けられた圧縮室と油通路(82)とに交互に連通するように構成されている。具体的には、内側溝部(83)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と連通すると共に内側圧縮室(S22)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が貯留される内側貯留状態と、油通路(82)との連通が遮断されると共に内側圧縮室(S22)と連通して貯留された潤滑油を内側圧縮室(S22)に供給する内側供給状態とに切り換わる。また、外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と連通すると共に外側圧縮室(S21)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が貯留される外側貯留状態と、油通路(82)との連通が遮断されると共に外側圧縮室(S21)と連通して貯留された潤滑油を外側圧縮室(S21)に供給する外側供給状態とに切り換わる。
【0079】
−運転動作−
次に、回転式圧縮機(10)の運転動作について説明する。まず、第1圧縮機構(30)について説明する。第1圧縮機構(30)では、低圧冷媒が圧縮されて中間圧の冷媒となる。
【0080】
電動機(20)を起動すると、第1ピストン(32)の環状ピストン部(32b)が第1ブレード(33)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第1揺動ブッシュ(34)は、環状ピストン部(32b)及び第1ブレード(33)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(32b)が外側シリンダ部(31b)及び内側シリンダ部(31c)に対して揺動しながら公転し、第1圧縮機構(30)が圧縮動作を行う。
【0081】
具体的には、外側圧縮室(S11)では、図2(B)の状態で低圧室(S11L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S11L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が外側圧縮室(S11)の低圧室(S11L)に吸入される。
【0082】
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S11L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S11L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S11H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S11L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S11L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S11H)の容積が減少し、該高圧室(S11H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S11H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(37)が開き、高圧室(S11H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
【0083】
上記内側圧縮室(S22)では、図2(F)の状態で低圧室(S12L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S12L)の容積が増大し、第1吸入ポート(14a)の冷媒が内側圧縮室(S12)の低圧室(S12L)に吸入される。
【0084】
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S12L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S12L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S12H)となり、第1ブレード(33)を隔てて新たな低圧室(S12L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S12L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S12H)の容積が減少し、該高圧室(S12H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S12H)の圧力が所定値となって第1吐出ポート(15a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(38)が開き、高圧室(S12H)の中間圧の冷媒が第1吐出ポート(15a)を通じて第1吐出管(15)へ流出する。
【0085】
上記外側圧縮室(S11)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S12)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S11)と内側圧縮室(S12)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。第1吐出管(15)へ流出した中間圧の冷媒は、第2吸入管(16)に流入して第2圧縮機構(40)に吸入される。
【0086】
第2圧縮機構(40)では、第1圧縮機構(30)とほぼ同様にして中間圧の冷媒が圧縮されて高圧冷媒となる。
【0087】
電動機(20)を起動すると、第2ピストン(42)の環状ピストン部(42b)が第2ブレード(43)に沿って往復運動(進退動作)を行うと共に揺動動作を行う。その際、第2揺動ブッシュ(44)は、環状ピストン部(42b)及び第2ブレード(43)に対して実質的に面接触をする。そして、環状ピストン部(42b)が外側シリンダ部(41b)及び内側シリンダ部(41c)に対して揺動しながら公転し、第2圧縮機構(40)が圧縮動作を行う。
【0088】
具体的には、外側圧縮室(S21)では、図2(B)の状態で低圧室(S21L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(C)〜図2(A)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S21L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が外側圧縮室(S21)の低圧室(S21L)に吸入される。
【0089】
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(B)の状態になると、上記低圧室(S21L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S21L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S21H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S21L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S21L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S21H)の容積が減少し、該高圧室(S21H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S21H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(47)が開き、高圧室(S21H)の高圧冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
【0090】
上記内側圧縮室(S22)では、図2(F)の状態で低圧室(S22L)の容積がほぼ最小となり、ここから駆動軸(23)が図の矢印の方向に回転して図2(G)〜図2(E)の状態へ変化するのに伴って該低圧室(S22L)の容積が増大し、第2吸入ポート(16a)の冷媒が内側圧縮室(S22)の低圧室(S22L)に吸入される。
【0091】
そして、上記駆動軸(23)が一回転して再び図2(F)の状態になると、上記低圧室(S22L)への冷媒の吸入が完了する。そして、該低圧室(S22L)は、冷媒が圧縮される高圧室(S22H)となり、第2ブレード(43)を隔てて新たな低圧室(S22L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、低圧室(S22L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S22H)の容積が減少し、該高圧室(S22H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S22H)の圧力が所定値となって第2吐出ポート(17a)との差圧が設定値に達すると、吐出弁(48)が開き、高圧室(S22H)の中間圧の冷媒が第2吐出ポート(17a)を通じてケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出する。
【0092】
上記外側圧縮室(S21)ではほぼ図2(E)のタイミングで冷媒の吐出が開始され、内側圧縮室(S22)ではほぼ図2(A)のタイミングで吐出が開始される。つまり、外側圧縮室(S21)と内側圧縮室(S22)とでは、吐出のタイミングが約180°ずれている。ケーシング(11)内の内部空間(S10)へ流出した高圧冷媒は、第2吐出管(17)から吐出される。なお、冷媒回路において、回転式圧縮機(10)から吐出された冷媒は、放熱行程、膨張行程及び蒸発行程を経て、再び該回転式圧縮機(10)に吸入される。
【0093】
−油供給動作−
次に、上述した運転時における各圧縮機構への潤滑油の供給動作について、図4、図9〜図11を参照しながら説明する。
【0094】
回転式圧縮機(10)の運転時に駆動軸(23)が回転すると、油溜まり(18)の高圧圧力状態の潤滑油は、給油ポンプ(28)の遠心ポンプ作用により上方に汲み上げられる。この潤滑油は、軸内流路(61a)を上方に流れ、各流出路(62,63,64,65)に分流する(図4を参照)。
【0095】
第1流出路(62)に分流した潤滑油は、下側偏心部(25)の外周面に形成された第1縦溝(66)に流出する。これにより、下側偏心部(25)と第1ピストン(32)の軸受部(32c)との間の摺動部に潤滑油が供給され、この摺動部が潤滑される。第2流出路(63)に分流した潤滑油は、上側偏心部(26)の外周面に形成された第2縦溝(67)に流出する。これにより、上側偏心部(26)と第2ピストン(42)の軸受部(42c)との間の摺動部に潤滑油が供給され、この摺動部が潤滑される。
【0096】
第3流出路(64)に分流した潤滑油は、第1環状溝(70)及び第3縦溝(68)に流出する。これにより、第1シリンダ(31)の軸受部(31d)と主軸部(24)との間の摺動部に潤滑油が供給され、この摺動部が潤滑される。第4流出路(65)に分流した潤滑油は、第2環状溝(71)及び第4縦溝(69)に分流する。これにより、第2シリンダ(41)の軸受部(41d)と主軸部(24)との間の摺動部に潤滑油が供給され、この摺動部が潤滑される。
【0097】
下側偏心部(25)や上側偏心部(26)に供給された高圧圧力状態の潤滑油の一部は、軸受部(32c,42c)の隙間を通じて筒状空間(S)に流入する。これにより、筒状空間(S)と連通する第1内側背圧室(S3)や第2内側背圧室(S5)(図3を参照)は、高圧圧力状態となる。その結果、第1ピストン(32)は、第1シリンダ室(S11,S12)の離反力に抗して、第1シリンダ(31)側へ押し付けられる。同様に、第2ピストン(42)は、第2シリンダ室(S21,S22)の離反力に抗して、第2シリンダ(41)側に押し付けられる。
【0098】
一方、筒状空間(S)に流入した潤滑油は、内溝(81)、油通路(82)を流れて第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)へ送られる。ここで、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)では、第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)の偏心回転に伴い、油通路(82)の流出端(82b)と各溝部(83,84)との相対位置が変化すると共に、各溝部(83,84)と各圧縮室(S12,S22,S11,S21)との相対位置が変化することによって各圧縮室(S12,S22,S11,S21)に潤滑油が供給される。
【0099】
具体的には、内側溝部(83)は、図2(A)の状態では、油通路(82)の流出端(82b)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、内側溝部(83)は、環状ピストン部(32b,42b)によって遮断されて内側圧縮室(S12,S22)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して内側溝部(83)の内部に流入する(図8(A)を参照)。そして、第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)が更に偏心回転すると、油通路(82)と内側溝部(83)との連通が遮断されて内側溝部(83)への潤滑油の流入が終了する。このとき、内側溝部(83)の内部には、該内側溝部(83)の容積に相当する潤滑油が貯留される。
【0100】
また、図2(B)〜(D)の状態では、内側溝部(83)は、内側圧縮室(S12,S22)と連通する(図8(B)を参照)。その結果、内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給され、内側圧縮室(S12,S22)の高圧室(S12H,S22H)と低圧室(S12L,S22L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0101】
さらに、図2(E)〜(G)の状態では、内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)との連通が遮断されて内側溝部(83)から内側圧縮室(S12,S22)への潤滑油の供給が終了する。そして、図2(H)の状態では、内側溝部(83)は、再び油通路(82)と連通し、内部に潤滑油が貯留される(図8(A)を参照)。
【0102】
また、外側溝部(84)は、図2(B)〜(D)の状態では、油通路(82)の流出端(82b)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、外側溝部(84)は、環状ピストン部(32b,42b)によって遮断されて外側圧縮室(S11,S21)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して外側溝部(84)の内部に流入する(図8(B)を参照)。そして、第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)が更に偏心回転した図2(E)の状態では、油通路(82)と外側溝部(84)との連通が遮断されて外側溝部(84)への潤滑油の流入が終了する。このとき、外側溝部(84)の内部には、該外側溝部(84)の容積に相当する潤滑油が貯留される。
【0103】
また、図2(F)〜(H)の状態では、外側溝部(84)は、外側圧縮室(S11,S21)と連通する(図8(A)を参照)。その結果、外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給され(図8(A))、外側圧縮室(S11,S21)の高圧室(S11H,S21H)と低圧室(S11L,S21L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0104】
さらに、図2(A)の状態では、外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されて、外側溝部(84)から外側圧縮室(S11,S21)への潤滑油の供給が終了する。そして、図2(B)の状態では、外側溝部(84)は、再び油通路(82)と連通し、内部に潤滑油が貯留される(図8(B)を参照)。
【0105】
以上のように、本実施形態の第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、油通路(82)の流出端(82b)と内側溝部(83)とが連通すると共に内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)との連通が遮断されて内側溝部(83)に潤滑油が貯留される内側貯留状態(図8(A)に示す状態)と、油通路(82)の流出端(82b)と内側溝部(83)との連通が遮断されると共に内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)とが連通して内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態(図8(B)に示す状態)とが、内側溝部(83)が油通路(82)の流出端(82b)及び内側圧縮室(S12,S22)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、油通路(82)の流出端(82b)と外側溝部(84)とが連通すると共に外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されて外側溝部(84)に潤滑油が貯留される外側貯留状態(図8(B)に示す状態)と、油通路(82)の流出端(82b)と外側溝部(84)との連通が遮断されると共に外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)とが連通して外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態(図8(A)に示す状態)とが、外側溝部(84)が油通路(82)の流出端(82b)及び外側圧縮室(S11,S21)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。その結果、回転式圧縮機の第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)の1回の偏心回転毎に、内側溝部(83)の容積に相当する潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に間欠的に供給されると共に、外側溝部(84)の容積に相当する潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に間欠的に供給される。
【0106】
−実施形態1の効果−
上記実施形態1によれば、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)の潤滑油が外側油貯留室を構成する外側溝部(84)に貯留される外側貯留状態と、外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わるように圧縮機構(30,40)を構成した。そのため、ケーシング(11)の内部空間の圧力や圧縮室(S11,S12,S21,S22)内の圧力の変動に拘わらず、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)に所定量の潤滑油を確実に供給することができる。その結果、従来の差圧型の給油と異なり、駆動軸(23)の回転数によって潤滑油の供給量が増減し、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に所望の分量だけ潤滑油を安定的に供給することができる。従って、複数の圧縮室(S11,S12)(S21,S22)が径方向に形成された圧縮機構(30,40)を有する回転式圧縮機において、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)の潤滑油不足を解消することができ、また、潤滑油の供給過多を抑制することもできる。そのため、潤滑油の供給不足や供給過多による容積効率の低下を防止することができる。
【0107】
また、上記実施形態1によれば、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)の潤滑油が内側油貯留室を構成する内側溝部(83)に貯留される内側貯留状態と、内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態とに切り換わるように構成した。そのため、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)だけでなく、内側圧縮室(S12,S22)にも所定量の潤滑油を供給することができる。従って、複数の圧縮室(S11,S12)(S21,S22)が径方向に形成された圧縮機構(30,40)を有する回転式圧縮機(10)において、外側圧縮室(S11,S21)と内側圧縮室(S12,S22)のそれぞれに適した分量の潤滑油を供給することができる。
【0108】
また、実施形態1によれば、外側油貯留室を構成する外側溝部(84)の容積が内側油貯留室を構成する内側溝部(83)の容積よりも大きく形成されているため、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側圧縮室(S11,S21)には内側圧縮室(S12,S22)よりも多くの潤滑油が供給されることとなる。つまり、不必要に内側圧縮室(S12,S22)に過剰の潤滑油を供給することなく、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0109】
また、実施形態1によれば、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、外側貯留状態となる時間が内側貯留状態となる時間よりも長くなるように構成されているため、内側溝部(83)よりも容積の大きい外側溝部(84)にも確実に潤滑油を貯留することができる。つまり、外側貯留状態において、内側溝部(83)よりも容積の大きい外側溝部(84)に内側溝部(83)よりも多くの潤滑油を送り込むことができる。従って、潤滑油が供給され難い外側圧縮室(S11,S21)に十分な量の潤滑油を供給することができる。
【0110】
また、実施形態1によれば、外側圧縮室(S11,S21)には該外側圧縮室(S11,S21)に対応する外側溝部(84)を介して所定量の潤滑油を供給することができ、内側圧縮室(S12,S22)には該内側圧縮室(S12,S22)に対応する内側溝部(83)を介して所定量の潤滑油を供給することができる。従って、容易な構成によって内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)のそれぞれに適切な量の潤滑油を供給することができる。
【0111】
ところで、実施形態1のように、2つの圧縮機構(30,40)を有し、該2つの圧縮機構(30,40)が駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)の外周に設けられたミドルプレート(51)によって仕切られた回転式圧縮機(10)では、2つの偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油が中間軸部(27)とミドルプレート(51)との間に形成される筒状空間(S)から排出されずに溜まり込むおそれがある。筒状空間(S)に溜まり込んだ潤滑油は、圧縮機構(30,40)によって徐々に加熱されて温度が上昇する。これにより、筒状空間(S)の近傍の各偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油の温度も上昇し、これに伴って粘度が低下する。そのため、各偏心部(25,26)の摺動部が十分に潤滑できなくなり、焼き付き等を引き起こすおそれがある。
【0112】
しかしながら、実施形態1によれば、2つの圧縮機構(30,40)の油通路(82)の流入端(82a)が、筒状空間(S)に連通するように油通路(82)を構成している。そのため、筒状空間(S)の潤滑油を油通路(82)に排出することができる。よって2つの偏心部(25,26)に供給された潤滑油の筒状空間(S)への溜まり込みを防止することができる。その結果、筒状空間(S)の近傍の偏心部(25,26)の外周に供給された潤滑油の温度上昇を防止でき、潤滑油の粘度低下に伴う偏心部(25,26)の摺動部における潤滑不足を防止することができる。
【0113】
《発明の実施形態2》
実施形態2は、実施形態1の構成を一部変更したものである。具体的には、図9に示すように、実施形態2では、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)に内溝(81)が形成されていない。また、第1圧縮機構(30)の油通路(82)の流入端(82a)が第1軸受収容室(39)に開口し、第2圧縮機構(40)の油通路(82)の流入端(82a)が第2軸受収容室(49)に開口するように各油通路(82)が形成されている。
【0114】
第1軸受収容室(39)には、軸内流路(61a)を流れて第3流出路(64)に分流した高圧圧力状態の潤滑油が第1環状溝(70)を介して流入する。一方、第2軸受収容室(49)には、軸内流路(61a)を流れて第4流出路(65)に分流した高圧圧力状態の潤滑油が第2環状溝(71)を介して流入する。そのため、各油通路(82)には、第1軸受収容室(39)及び第2軸受収容室(49)のそれぞれに流入した高圧圧力状態の潤滑油が流入し、該油通路(82)の潤滑油が実施形態1と同様にして各圧縮機構(30,40)の内側圧縮室(S12,S22)及び外側圧縮室(S11,S21)に間欠的に供給されることとなる。
【0115】
以上のように構成しても実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0116】
《発明の実施形態3》
実施形態3は、実施形態1の構成を一部変更したものである。具体的には、図10に示すように、実施形態3では、油供給機構(60)は、給油ポンプ(28)、油供給路(61)及び筒状空間(S)の他に、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)のそれぞれに形成された内溝(81)と油通路(82)と内側溝部(83)と外側溝部(84)と内側連通溝部(85)と外側連通溝部(86)とを有している。なお、実施形態1と同様に、内側溝部(83)は本発明に係る内側油貯留室を構成し、外側溝部(84)は本発明に係る外側油貯留室を構成する。また、内溝(81)、油通路(82)、内側溝部(83)、外側溝部(84)、内側連通溝部(85)及び外側連通溝部(86)の構成は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とで同様であるため、以下では、上側の第2圧縮機構(40)に形成されたものについてのみ説明する。また、内溝(81)については実施形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0117】
油通路(82)は、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)の内部において径方向の内側から外側に亘って形成されている。油通路(82)は、1つの流入端(82a)と2つの流出端(82b)とを有している。油通路(82)の流入端(82a)は、鏡板部(42a)における圧縮室と反対側の背面において内溝(81)に対向するように開口している。2つの流出端(82b)の径方向内側に位置する流出端(82b)は、鏡板部(42a)の軸受部(42c)と環状ピストン部(42b)との間において開口し、径方向外側に位置する流出端(82b)は、鏡板部(42a)の環状ピストン部(42b)よりも径方向外側の外縁部において開口している。油通路(82)の流出端(82b)の開口は、直径が0.3mm〜4mm、より好ましくは0.5mm〜2mm程度となるように形成されている。
【0118】
上記内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2シリンダ(41)に形成されている。具体的には、内側溝部(83)は、内側シリンダ部(41c)の先端面(歯先)に形成され、外側溝部(84)は、外側シリンダ部(41b)の先端面(歯先)に形成されている。外側溝部(84)は、内側溝部(83)よりも容積が大きくなるように形成されている。また、内側溝部(83)と外側溝部(84)とは、両溝部(83,84)の合計容積が第2シリンダ室(S21,S22)の容積の0.05%〜2%の大きさとなるように、より好ましくは0.1%〜1%の大きさとなるように形成されている。実施形態3においても、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、油通路(82)と連通する状態と連通せずに遮断された状態とが切り換わるように形成されている。また、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する時間が、内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する時間よりも長くなるように構成されている。
【0119】
上記内側連通溝部(85)及び外側連通溝部(86)は、第2ピストン(42)の鏡板部(42a)における圧縮室側の面に形成されている。内側連通溝部(85)は、軸受部(42c)と環状ピストン部(42b)との間で且つ環状ピストン部(42b)寄りに形成されている。つまり、内側連通溝部(85)は、環状ピストン部(42b)と内側シリンダ部(41c)との間の空間、即ち、内側圧縮室(S22)に対応するように形成されている。一方、外側連通溝部(86)は、環状ピストン部(42b)の外周側で且つ環状ピストン部(42b)寄りに形成されている。つまり、外側連通溝部(86)は、環状ピストン部(42b)と外側シリンダ部(41b)との間の空間、即ち、外側圧縮室(S21)に対応するように形成されている。また、内側連通溝部(85)及び外側連通溝部(86)は、油通路(82)の流出端(82b)よりも大径となる扁平な円柱状に形成されている。
【0120】
第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、内側溝部(83)と内側連通溝部(85)とが連通することによって、該内側連通溝部(85)を介して内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)とが連通する一方、内側溝部(83)と内側連通溝部(85)との連通が遮断されることによって、内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)との連通が遮断されるように構成されている。また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、外側溝部(84)と外側連通溝部(86)とが連通することによって、該外側連通溝部(86)を介して外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)とが連通する一方、外側溝部(84)と外側連通溝部(86)との連通が遮断されることによって、外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されるように構成されている。
【0121】
また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と内側溝部(83)とが連通すると共に内側溝部(83)と内側連通溝部(85)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が内側溝部(83)に貯留される内側貯留状態(図10(B)の状態)と、油通路(82)と内側溝部(83)との連通が遮断されると共に内側溝部(83)と内側連通溝部(85)とが連通して内側溝部(83)に貯留された潤滑油が内側連通溝部(85)を介して内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態(図10(A)の状態)とが、内側溝部(83)が油通路(82)の流出端(82b)及び内側連通溝部(85)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と外側溝部(84)とが連通すると共に外側溝部(84)と外側連通溝部(86)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が外側溝部(84)に貯留される外側貯留状態(図10(A)の状態)と、油通路(82)と外側溝部(84)との連通が遮断されると共に外側溝部(84)と外側連通溝部(86)とが連通して外側溝部(84)に貯留された潤滑油が外側連通溝部(86)を介して外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態(図10(B)の状態)とが、外側溝部(84)が油通路(82)の流出端(82b)及び外側連通溝部(86)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。
【0122】
以上により、実施形態3においても、外側圧縮室(S11,S21)には外側溝部(84)と外側圧縮室(S11,S21)に対応する外側連通溝部(86)とを介して所定量の潤滑油を供給することができ、内側圧縮室(S12,S22)には内側溝部(83)と内側圧縮室(S12,S22)に対応する内側連通溝部(85)とを介して所定量の潤滑油を供給することができる。従って、容易な構成によって内側圧縮室(S12,S22)と外側圧縮室(S11,S21)のそれぞれに適切な量の潤滑油を供給することができる。
【0123】
《発明の実施形態4》
実施形態4は、実施形態1の内側溝部(83)及び外側溝部(84)の構成を一部変更したものである。具体的には、実施形態4では、図11に示すように、内側溝部(83)と外側溝部(84)とは、軸方向視において、ピストン(32,42)の偏心回転時における油通路(82)の流出端(82b)の軌跡(図11の二点鎖線を参照)とそれぞれ2箇所において重なるように形成されている。つまり、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、第2ピストン(42)の1回の偏心回転の際に、油通路(82)と連通する状態と連通せずに遮断された状態とが2度切り換わるように形成されている。
【0124】
また、図12に示すように、内側溝部(83)及び外側溝部(84)は、ピストン(32,42)の1回の偏心回転の際に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo,1、Δθo,2)の和(Δθo,1+Δθo,2)が、内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する角度(Δθi,1、Δθi,2)の和(Δθi,1+Δθi,2)よりも大きくなるように構成されている。このように構成されることにより、ピストン(32,42)の1回の偏心回転の際に、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する時間は、内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する時間よりも長くなる。なお、外側溝部(84)と油通路(82)とが連通する角度の和(Δθo,1+Δθo,2)と内側溝部(83)と油通路(82)とが連通する角度の和(Δθi,1+Δθi,2)は、共に30°より大きく且つ180°未満の角度となるように設定されている。
【0125】
その他の構成及び動作は実施形態1と同様である。このような構成によっても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0126】
《発明の実施形態5》
実施形態5は、実施形態1の圧縮機部(50)の構成を変更したものである。図13に示すように、実施形態5の圧縮機部(50)の各圧縮機構(30,40)には、それぞれ径方向に4つの圧縮室(S31,S32,S33,S34)(S41,S42,S43,S44)が形成されている。
【0127】
上記第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は上下二段に重ねられ、ケーシング(11)に固定されたフロントヘッド(116)からリアヘッド(117)までの間に構成されている。第1圧縮機構(30)がケーシング(11)の底部側(図13の下側)に配置され、第2圧縮機構(40)が電動機(20)側(図13の上側)に配置されている。上記フロントヘッド(116)及びリアヘッド(117)は、本体部(116a,117a)と蓋部(116b,117b)とによって構成され、フロントヘッド(116)とリアヘッド(117)の間には、ミドルプレート(119)が設けられている。
【0128】
上記ミドルプレート(119)は、第2圧縮機構(40)側の本体部(119a)と、該本体部(119a)の下方に重ね合わされた蓋部(119b)とを備えている。上記ミドルプレート(119)の中心部には、駆動軸(23)が貫通する貫通孔(119c)が形成されている。
【0129】
図13〜図16に示すように、上記第1圧縮機構(30)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定された第1シリンダ(131)と、駆動軸(23)の下側偏心部(25)に取り付けられて第1シリンダ(131)の内部で偏心回転をする第1ピストン(132)と、上記第1シリンダ(131)と第1ピストン(132)との間に形成される4つの圧縮室(S31,S32,S33,S34)を高圧室(S31H,S32H,S33H,S34H)と低圧室(S31L,S32L,S33L,S34L)とに区画する第1ブレード(134)とを備えている。
【0130】
上記第2圧縮機構(40)は、上記第1圧縮機構(30)とは上下に反転した状態で設けられている。上記第2圧縮機構(40)は、ケーシング(11)の胴部(12)に固定された第2シリンダ(141)と、駆動軸(23)の上側偏心部(26)に取り付けられて第2シリンダ(141)の内部で偏心回転をする第2ピストン(142)と、上記第2シリンダ(141)と第2ピストン(142)との間に形成される4つの圧縮室(S41,S42,S43,S44)を高圧室(S41H,S42H,S43H,S44H)と低圧室(S41L,S42L,S43L,S44L)とに区画する第2ブレード(144)とを備えている。
【0131】
上記第1シリンダ(131)は、駆動軸(23)と同心上に位置して環状空間を形成する内側シリンダ部(131a)及び外側シリンダ部(131b)と、該外側シリンダ部(131b)の外周において上方に延びる最外周シリンダ部(131c)と、内側シリンダ部(131a)及び外側シリンダ部(131b)の下端部を連接し且つ上記リアヘッド(117)の本体部(117a)で形成されるシリンダ側鏡板部(131d)とを備えている。内側シリンダ部(131a)は、円環の一部分が分断されたC型形状に形成され(図15(A)参照)、該内側シリンダ部(131a)の分断箇所は、スライド溝(131g)に構成されている。
【0132】
上記第2シリンダ(141)は、駆動軸(23)と同心上に位置して環状空間を形成する内側シリンダ部(141a)及び外側シリンダ部(141b)と、該外側シリンダ部(141b)の外周において下方に延びる最外周シリンダ部(141c)と、内側シリンダ部(141a)及び外側シリンダ部(141b)の上端部を連接し且つ上記フロントヘッド(116)の本体部(116a)で形成されるシリンダ側鏡板部(141d)とを備えている。内側シリンダ部(131a)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成され(図15(A)参照)、該内側シリンダ部(141a)の分断箇所は、スライド溝(141g)に構成されている。
【0133】
上記第1ピストン(132)は、下側偏心部(25)に嵌合して該下側偏心部(25)と同心上に位置する内側ピストン部(132a)と、該内側ピストン部(132a)の外周側の環状空間内で該内側ピストン部(132a)と同心上に位置する外側ピストン部(132b)と、該2つのピストン部(132a,132b)の上端部を連結するとともに外周面が内側ピストン部(132a)及び外側ピストン部(132b)と同心上に位置するピストン側鏡板部(132c)とを有している。
【0134】
上記内側ピストン部(132a)は、外周面に円弧状の凹部(n1)が形成され、外側ピストン部(132b)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図15(A)参照)。また、上記ピストン側鏡板部(132c)の外周部には円弧状の凹部(n2)が形成されている(図16(A)参照)。
【0135】
上記第2ピストン(142)は、上側偏心部(26)に嵌合して該上側偏心部(26)と同心上に位置する内側ピストン部(142a)と、該内側ピストン部(142a)の外周側の環状空間内で該内側ピストン部(142a)と同心上に位置する外側ピストン部(142b)と、該2つのピストン部(142a,142b)の上端部を連結するとともに外周面が内側ピストン部(142a)及び外側ピストン部(142b)と同心上に位置するピストン側鏡板部(142c)とを有している。
【0136】
上記内側ピストン部(142a)は、外周面に円弧状の凹部(n1)が形成され、外側ピストン部(142b)は円環の一部分が分断されたC型形状に形成されている(図15(A)参照)。また、上記ピストン側鏡板部(142c)の外周部には円弧状の凹部(n2)が形成されている(図16(A)参照)。
【0137】
上記フロントヘッド(116)の本体部(116a)と上記リアヘッド(117)の本体部(117a)とには、上記駆動軸(23)を支持するための軸受部(131e,141e)が形成されている。上記駆動軸(23)は、上記第1圧縮機構(30)及び上記第2圧縮機構(40)を上下方向に貫通している。
【0138】
次に、上記第1、第2圧縮機構(30,40)の内部構造について説明する。上記第1、第2圧縮機構(30,40)は、各ピストン部(132a,132b,142a,142b)の軸方向長さ寸法とそれに対応するシリンダ(131,141)の軸方向長さ寸法が異なる他は実質的に同一の構成である。したがって、第1圧縮機構(30)を代表例として説明する。
【0139】
図17に示すように、上記第1ブレード(134)は、厚みを有する板状の長尺部(134a)及び短尺部(134b)と、断面形状が略半円形状の一対の揺動ブッシュ部(134c)とを有している。
【0140】
上記第1ブレード(134)は、上記外側ピストン部(132b)に揺動可能に連結される揺動ブッシュ部(134c)と、該揺動ブッシュ部(134c)から圧縮機構(40)の径方向内側に位置して後述する最内周の圧縮室である内側圧縮室(S31)と第1外側圧縮室(S32)を吸入側と吐出側に区画する内側ブレード部(B1)と、上記揺動ブッシュ部(134c)から圧縮機構(40)の径方向外側に位置して後述する第2外側圧縮室(S33)を吸入側と吐出側に区画する外側第1ブレード部(B2)と、該外側第1ブレード部(B2)の下方に位置して後述する第3外側圧縮室(S34)を吸入側と吐出側に区画する外側第2ブレード部(B3)とを備えている。そして、上記長尺部(134a)は、揺動ブッシュ部(134c)と内側ブレード部(B1)と外側第1ブレード部(B2)とから構成され、上記短尺部(134b)は、外側第2ブレード部(B3)により構成されている。
【0141】
図14に示すように、上記長尺部(134a)は、シリンダ側鏡板部(131d)とピストン側鏡板部(132c)との間において径方向に長く延び、外端部が、外側シリンダ部(131b)に形成されたスライド溝(131f)(第2圧縮機構(40)はスライド溝(141f))に径方向(ブレードの面方向)へ摺動自在に収容されている。上記内側ブレード部(B1)は、内側シリンダ部(131a)の分断箇所に形成されているスライド溝(131g)に摺動可能に挿入され、内端は内側ピストン部(132a)の凹部(n1)に対向している(図16(A)参照)。
【0142】
上記短尺部(134b)は、長尺部(134a)とミドルプレート(119)との間において径方向に延び、最外周シリンダ部(131c)に形成されたスライド溝(131f)に径方向に摺動自在に収容されている。上記短尺部(134b)の内端は、ピストン側鏡板部(132c)の凹部(n2)に対向している(図15(A)参照)。
【0143】
上記一対の揺動ブッシュ部(134c)は、長尺部(134a)の径方向中央部付近において、長尺部(134a)の両側に膨出するように形成されている。そして、一対の揺動ブッシュ部(134c)は、外側ピストン部(132b)の分断箇所に揺動自在に収容され、外側ピストン部(132b)が第1ブレード(134)に対して揺動するように構成されている。
【0144】
上記第1ピストン(132)は、下側偏心部(25)の偏心回転に伴って、第1ブレード(134)に対して一対の揺動ブッシュ部(134c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、上記スライド溝(131f)及び上記内側シリンダ部(131a)のスライド溝(131g)に沿って進退する。
【0145】
上記内側ピストン部(132a)は、内側シリンダ部(131a)の内側に配置され、外側ピストン部(132b)は、内側シリンダ部(131a)と外側シリンダ部(131b)の間に配置されている。
【0146】
そして、上記内側ピストン部(132a)と上記内側シリンダ部(131a)との間には最内周の圧縮室である内側圧縮室(S31)が形成されている。また、内側シリンダ部(131a)の外周面と外側ピストン部(132b)の内周面との間には第1外側圧縮室(S32)が形成さ上記ピストン(32,42)の上記鏡板部(32a,42a)には、上記外側供給状態において上記外側溝部(84)と連通することで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)とを連通させ且つ上記外側貯留状態において上記外側溝部(84)との連通が遮断されることで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)との連通を遮断させるように構成された外側連通溝部(86)と、上記内側供給状態において上記内側溝部(83)と連通することで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)とを連通させ且つ上記内側貯留状態において上記内側溝部(83)との連通が遮断されることで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)との連通を遮断させるように構成された内側連通溝部(85)とが形成されている。また、外側ピストン部(132b)の外周面と外側シリンダ部(131b)の内周面との間には第2外側圧縮室(S33)が形成されている。さらに、ピストン側鏡板部(132c)の外周面と最外周シリンダ部(131c)との間には最外周の圧縮室である第3外側圧縮室(S34)が形成されている。
【0147】
上記第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)では、内側ピストン部(132a,142a)の外周面と内側シリンダ部(131a,141a)の内周面とが1点(第1接点)で接し、第1接点と位相が180°異なる位置で、内側シリンダ部(131a,141a)の外周面と外側ピストン部(132b,142b)の内周面とが1点(第2接点)で接し、第2接点と位相が180°異なる位置(第1接点と位相が同じ位置)で、外側ピストン部(132b,142b)の外周面と外側シリンダ部(131b,141b)の内周面とが1点(第3接点)で接すると共に、ピストン側鏡板部(132c,142c)の外周面と最外周シリンダ部(131c,141c)の内周面とが1点(第4接点)で接するようになっている。
【0148】
上記第1ピストン(132)と第1シリンダ(131)の各接点(第1接点〜第4接点)は、それぞれ図15(A)〜(D)、図16(A)〜(D)へ順に移動する。一方、第2ピストン(142)と第2シリンダ(141)の各接点(第1接点〜第4接点)は、第1ピストン(132)と第1シリンダ(131)の対応する接点に対して駆動軸(23)の軸心回りに180°ずれている。つまり、駆動軸(23)の上側から見て、第1圧縮機構(30)の動作状態が図15(A)及び図16(A)のとき、第2圧縮機構(40)の動作状態は図15(C)及び図16(C)となる。
【0149】
また、上記第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)からなる圧縮機部(50)は、8つの圧縮室(S31,…,S34,S41,…,S44)において冷媒を4段階に圧縮するように構成されている。
【0150】
具体的には、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)の第3外側圧縮室(S34,S44)によって第1段圧縮機構の圧縮室が形成されている。また、第1圧縮機構(30)の第2外側圧縮室(S33)と第1外側圧縮室(S32)とによって第2段圧縮機構の圧縮室が形成され、第2圧縮機構(40)の第2外側圧縮室(S33)と第1外側圧縮室(S32)とによって第3段圧縮機構の圧縮室が形成されている。さらに、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S31,S41)によって第4段圧縮機構の圧縮室が形成されている。なお、冷媒は、第1段圧縮機構と第2段圧縮機構の間、第2段圧縮機構と第3段圧縮機構の間、そして第3段圧縮機構と第4段圧縮機構の間において、それぞれ冷却機構によって冷却される。
【0151】
上記ミドルプレート(119)には、上記第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)の第3外側圧縮室(S34,S44)の吸入ポート(P1)及び吐出ポート(P14)がそれぞれ形成されている。また、ミドルプレート(119)には、吸入ポート(P1,P1)に連通する吸入通路(171)と、吐出ポート(P14,P14)に連通する吐出空間(181)とが形成されている。
【0152】
上記フロントヘッド(116)には、第2圧縮機構(40)の第2外側圧縮室(S43)及び第1外側圧縮室(S42)が共用する吸入ポート(P2)と、第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S41)の吸入ポート(P3)とが形成されている。また、フロントヘッド(116)には、第2圧縮機構(40)の第2外側圧縮室(S43)の吐出ポート(P13)と、第2圧縮機構(40)の第1外側圧縮室(S42)の吐出ポート(P12)と、第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S41)の吐出ポート(P11)とが形成されている。さらに、フロントヘッド(116)には、吸入ポート(P2)に連通する吸入通路(172)と、吸入ポート(P3)に連通する吸入通路(173)と、吐出ポート(P12,P13)に連通する吐出空間(182)と、吐出ポート(P11)に連通する吐出空間(183)とが形成されている。
【0153】
上記リアヘッド(117)には、第1圧縮機構(30)の第2外側圧縮室(S33)及び第1外側圧縮室(S32)が共用する吸入ポート(P2)と、第1圧縮機構(30)の内側圧縮室(S31)の吸入ポート(P3)とが形成されている。また、リアヘッド(117)には、第1圧縮機構(30)の第2外側圧縮室(S33)の吐出ポート(P13)と、第1圧縮機構(30)の第1外側圧縮室(S32)の吐出ポート(P12)と、第1圧縮機構(30)の内側圧縮室(S31)の吐出ポート(P11)とが形成されている。さらに、リアヘッド(117)には、吸入ポート(P2)に連通する吸入通路(174)と、吸入ポート(P3)に連通する吸入通路(175)と、吐出ポート(P12,P13)に連通する吐出空間(184)と、吐出ポート(P11)に連通する吐出空間(185)とが形成されている。
【0154】
上記各吸入通路(171,…,175)には、ケーシング(11)の外部から内部に冷媒を導く吸入管(160,…,164)がそれぞれ接続されている。また、上記各吐出空間(181,…,185)には、各吐出ポート(P11,…,P14)を開閉する吐出弁(188)がそれぞれ設けられている。また、上記各吐出空間(181,…,185)には、吐出冷媒をケーシング(11)の外部へ導く吐出管(165,…,169)がそれぞれ接続されている。
【0155】
次に、油供給機構(60)について説明する。油供給機構(60)は、実施形態1と同様の給油ポンプ(28)、油供給路(61)及び筒状空間(S)の他に、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)のそれぞれに形成された内溝(81)と油通路(82)と内側溝部(87)と第1〜第3外側溝部(88,89,90)とを有している。なお、本実施形態においても、内側溝部(87)は本発明に係る内側油貯留室を構成し、第1〜第3外側溝部(88,89,90)はそれぞれ本発明に係る外側油貯留室を構成する。また、内溝(81)、油通路(82)、内側溝部(87)及び第1〜第3外側溝部(88,89,90)の構成は、第1圧縮機構(30)と第2圧縮機構(40)とで同様であるため、以下では、上側の第2圧縮機構(40)に形成されたものについてのみ説明する。
【0156】
内溝(81)は、ミドルプレート(119)の上端の内周縁部に形成されている。内溝(81)は、ミドルプレート(119)の内周壁と中間軸部(27)との間に所定のクリアランスを確保するための筒状空間(S)から径方向外側に膨出する円弧状に形成されている。また、本実施形態5においても、内溝(81)は、油通路(82)の流入端(82a)の偏心軌跡を含む範囲に形成されている。そのため、筒状空間(S)と油通路(82)の流入端(82a)とが、回転角度に拘わらず常時連通する。
【0157】
油通路(82)は、第2ピストン(142)のピストン側鏡板部(142c)の内部において径方向の内側から外側に亘って形成されている。油通路(82)は、1つの流入端(82a)と3つの流出端(82b,82c,82d)とを有している。油通路(82)の流入端(82a)は、ピストン側鏡板部(142c)における圧縮室と反対側の背面において内溝(81)に対向するように開口している。第1流出端(82b)は、内側ピストン部(142a)の先端(歯先)において開口するように形成されている。また、第2流出端(82c)は、外側ピストン部(142b)の先端(歯先)において開口するように形成されている。一方、第3流出端(82d)は、ピストン側鏡板部(142c)の外側ピストン部(142b)よりも径方向外側の外縁部において背面に開口している。第1〜第3流出端(82b,82c,82d)は、開口の直径が0.3mm〜4mm、より好ましくは0.5mm〜2mm程度となるように形成されている。
【0158】
上記内側溝部(87)及び第1、第2外側溝部(88,89)は、第2シリンダ(41)のシリンダ側鏡板部(141d)における圧縮室側の面に形成されている。具体的には、内側溝部(87)は内側圧縮室(S41)に対応し、第1外側溝部(88)は第1外側圧縮室(S42)に対応し、第2外側溝部(89)は第2外側圧縮室(S43)に対応するように形成されている。一方、第3外側溝部(90)は、ミドルプレート(119)における圧縮室側の面に形成されている。具体的には、第3外側溝部(90)は第3外側圧縮室(S44)に対応するように形成されている。
【0159】
第1〜第3外側溝部(88,89,90)は、内側溝部(87)よりも容積が大きくなるように形成されている。より具体的には、各溝部(87,88,89,90)は、径方向外側に向かう程、容積が大きくなるように形成されている。
【0160】
また、図示を省略するが、内側溝部(87)は、軸方向視において、第2ピストン(142)の偏心回転時における油通路(82)の第1流出端(82b)の軌跡の一部と重なるように形成されている。また、第1、第2外側溝部(88,89)は、それぞれ第2ピストン(142)の偏心回転時における油通路(82)の第2流出端(82c)の軌跡の一部と重なるように形成されている。また、第3外側溝部(90)は、第2ピストン(142)の偏心回転時における油通路(82)の第3流出端(82d)の軌跡の一部と重なるように形成されている。つまり、内側溝部(87)及び第1〜第3外側溝部(88,89,90)は、第2ピストン(142)の1回の偏心回転の際に、油通路(82)と連通する状態と連通せずに遮断された状態とにそれぞれ切り換わるように形成されている。
【0161】
また、内側溝部(87)及び第1〜第3外側溝部(88,89,90)は、第2ピストン(142)の1回の偏心回転の際に、各外側溝部(88,89,90)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo1、Δθo2、Δθo3)が内側溝部(87)と油通路(82)とが連通する角度(Δθi)よりも大きくなるように構成されている。このように構成されることにより、第2ピストン(142)の1回の偏心回転の際に、各外側溝部(88,89,90)と油通路(82)とが連通する時間は、内側溝部(87)と油通路(82)とが連通する時間よりも長くなる。なお、上記Δθo1、Δθo2、Δθo3及びΔθiは、30°より大きく且つ180°未満の角度に設定されている。また、本実施形態では、各外側溝部(88,89,90)は、第1外側溝部(88)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo1)、第2外側溝部(89)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo2)、第3外側溝部(90)と油通路(82)とが連通する角度(Δθo3)の順に大きくなるように構成されている。
【0162】
第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(142)の偏心回転中に、油通路(82)と内側溝部(87)とが連通すると共に内側溝部(87)と内側圧縮室(S41)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が内側溝部(87)に貯留される内側貯留状態と(図18(A)参照)、油通路(82)と内側溝部(87)との連通が遮断されると共に内側溝部(87)と内側圧縮室(S41)とが連通して内側溝部(87)に貯留された潤滑油を内側圧縮室(S41)に供給する内側供給状態(図18(B)参照)とが、内側溝部(87)が油通路(82)及び内側圧縮室(S31,S41)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。
【0163】
また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(142)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と第1外側溝部(88)とが連通すると共に第1外側溝部(88)と第1外側圧縮室(S42)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が第1外側溝部(88)に貯留される外側貯留状態(図18(B)参照)と、油通路(82)と第1外側溝部(88)との連通が遮断されると共に第1外側溝部(88)と第1外側圧縮室(S42)とが連通して貯留された潤滑油を第1外側圧縮室(S42)に供給する外側供給状態(図18(A)参照)とが、第1外側溝部(88)が油通路(82)及び第1外側圧縮室(S42)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。
【0164】
また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(142)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と第2外側溝部(89)とが連通すると共に第2外側溝部(89)と第2外側圧縮室(S43)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が第2外側溝部(89)に貯留される外側貯留状態(図18(A)参照)と、油通路(82)と第2外側溝部(89)との連通が遮断されると共に第2外側溝部(89)と第2外側圧縮室(S43)とが連通して貯留された潤滑油を第2外側圧縮室(S43)に供給する外側供給状態(図18(B)参照)とが、第2外側溝部(89)が油通路(82)及び第2外側圧縮室(S43)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。
【0165】
また、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)は、第2ピストン(142)の1回の偏心回転中に、油通路(82)と第3外側溝部(90)とが連通すると共に第3外側溝部(90)と第3外側圧縮室(S44)との連通が遮断されて油通路(82)の潤滑油が第3外側溝部(90)に貯留される外側貯留状態(図18(A)参照)と、油通路(82)と第3外側溝部(90)との連通が遮断されると共に第3外側溝部(90)と第3外側圧縮室(S44)とが連通して貯留された潤滑油を第3外側圧縮室(S44)に供給する外側供給状態(図18(B)参照)とが、第3外側溝部(90)が油通路(82)及び第3外側圧縮室(S44)のいずれとも連通が遮断された中間状態を挟んで交互に切り換わるように構成されている。
【0166】
−運転動作−
次に、回転式圧縮機(10)の運転動作について説明する。ここで、第1及び第2圧縮機構部(30,40)の動作は、位相が互いに180°異なる状態で行われる。
【0167】
電動機(20)を起動すると、第1圧縮機構(30)の第1ピストン(132)は、揺動ブッシュ部(134c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、第1ブレード(134)と共に該第1ブレード(134)の長手方向へ進退する。これにより、第1ピストン(132)は、第1シリンダ(131)に対して自転することなく揺動しながら公転し、第1圧縮機構(30)の4つの圧縮室(S31,S32,S33,S34)において所定の圧縮動作が行われる。
【0168】
つまり、内側圧縮室(S31)及び第2外側圧縮室(S33)では、図15(A)の状態から駆動軸(23)が図の右回りに回転して図15(B)〜図15(D)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(S31L,S33L)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P3,P2)から低圧室(S31L,S33L)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(23)が一回転して再び図15(A)の状態になると、上記低圧室(S31L,S33L)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(S31L,S33L)は冷媒が圧縮される高圧室(S31H,S33H)となり、第1ブレード(134)を隔てて新たな低圧室(S31L,S33L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、上記低圧室(S31L,S33L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S31H,S33H)の容積が減少し、該高圧室(S31H,S33H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S31H,S33H)の圧力が所定値となって吐出空間(185,184)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(S31H,S33H)の冷媒の圧力によって吐出弁(188,188)が開き、冷媒が吐出空間(185,184)から吐出管(169,168)を通ってケーシング(11)から流出する。
【0169】
また、第3外側圧縮室(S34)では、図16(A)の状態から駆動軸(23)が図の右回りに回転して図16(B)〜図16(D)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(S34L)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P1)から低圧室(S34L)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(23)が一回転して再び図16(A)の状態になると、上記低圧室(S34L)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(S34L)は冷媒が圧縮される高圧室(S34H)となり、第1ブレード(134)を隔てて新たな低圧室(S34L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、上記低圧室(S34L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S34H)の容積が減少し、該高圧室(S34H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S34H)の圧力が所定値となって吐出空間(181)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(S34H)の冷媒の圧力によって吐出弁(188)が開き、冷媒が吐出空間(181)から吐出管(167)を通ってケーシング(11)から流出する。
【0170】
一方、第1外側圧縮室(S32)では、図15(C)の状態から駆動軸(23)が図の右回りに回転して図15(D)〜図15(B)の状態へ変化するのに伴い、低圧室(S32L)の容積が増大し、冷媒が吸入ポート(P2)から低圧室(S32L)にそれぞれ吸入される。また、駆動軸(23)が一回転して再び図15(C)の状態になると、上記低圧室(S32L)への冷媒の吸入が完了する。そして、上記低圧室(S32L)は冷媒が圧縮される高圧室(S32H)となり、第1ブレード(134)を隔てて新たな低圧室(S32L)が形成される。駆動軸(23)がさらに回転すると、上記低圧室(S32L)において冷媒の吸入が繰り返される一方、高圧室(S32H)の容積が減少し、該高圧室(S32H)で冷媒が圧縮される。高圧室(S32H)の圧力が所定値となって吐出空間(184)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(S32H)の冷媒の圧力によって吐出弁(188)が開き、冷媒が吐出空間(184)から吐出管(168)を通ってケーシング(11)から流出する。
【0171】
なお、第2外側圧縮室(S33)と第1外側圧縮室(S32)とでは、冷媒の吸入開始のタイミング及び吐出開始のタイミングがほぼ180°異なる。このことにより、吐出脈動が小さくなり、振動や騒音が低減される。
【0172】
一方、第2圧縮機構(40)では、ロータ(22)の回転が駆動軸(23)の上側偏心部(26)を介して第2ピストン(142)に伝達され、該第2ピストン(142)は、揺動ブッシュ部(144c)の中心点を揺動中心として揺動すると共に、第2ブレード(144)と共に該第2ブレード(144)の長手方向へ進退する。これにより、第2ピストン(142)が第2シリンダ(141)に対して揺動しながら公転し、第2圧縮機構(40)の4つの圧縮室(S41,S42,S43,S44)において所定の圧縮動作が行われる。
【0173】
上記第2圧縮機構(40)における圧縮動作は、実質的に第1圧縮機構(30)の圧縮動作と同じであり、冷媒が各圧縮室(S41,S42,S43,S44)内で圧縮される。各圧縮室(S41,S42,S43,S44)において、高圧室(S41H,S42H,S43H,S44H)の圧力が所定値となって各吐出空間(183,182,182,181)との差圧が設定値に達すると、該高圧室(S41H,S42H,S43H,S44H)の冷媒の圧力によって吐出弁(188,188,188,188)が開き、冷媒が各吐出空間(183,182,182,181)から吐出管(165,166,166,167)を通ってケーシング(11)から流出する。
【0174】
第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)の動作中に、冷媒は、吸入管(162)から第1段圧縮機構の圧縮室である第1圧縮機構(30)の第3外側圧縮室(S34)と第2圧縮機構(40)の第3外側圧縮室(S44)に吸入されて圧縮され、第1段圧縮機構の圧縮室から吐出管(167)を通って吐出される。第1段圧縮機構の圧縮室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(161)から第2段圧縮機構の圧縮室である第2圧縮機構(40)の第2外側圧縮室(S43)と第1外側圧縮室(S42)に吸入されてさらに圧縮され、第2段圧縮機構の圧縮室から吐出管(166)を通って吐出される。第2段圧縮機構の圧縮室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(163)から第3段圧縮機構の圧縮室である第1圧縮機構(30)の第2外側圧縮室(S33)と第1外側圧縮室(S32)に吸入されてさらに圧縮され、第3段圧縮機構の圧縮室から吐出管(168)を通って吐出される。第3段圧縮機構の圧縮室から吐出された冷媒は、冷却された後、吸入管(160,164)から第4段圧縮機構の圧縮室である第1圧縮機構(30)の内側圧縮室(S31)と第2圧縮機構(40)の内側圧縮室(S41)に吸入されてさらに圧縮され、第4段圧縮機構の圧縮室から吐出管(165,169)を通って吐出される。
【0175】
第4段圧縮機構の圧縮室から吐出された冷媒は、図示していない冷媒回路の放熱器、膨張機構、蒸発器を順に流れ、再び回転式圧縮機(10)に吸入される。そして、回転式圧縮機(10)における圧縮行程、放熱器における放熱工程、膨張機構における膨張行程、蒸発器における蒸発行程を順に繰り返すことにより、冷凍サイクルが行われる。
【0176】
−油供給動作−
回転式圧縮機(10)の運転時に駆動軸(23)が回転すると、油溜まり(18)の潤滑油は、給油ポンプ(28)の遠心ポンプ作用により上方に汲み上げられる。この潤滑油は、実施形態1と同様にして下側偏心部(25)や上側偏心部(26)に供給され、該下側偏心部(25)や上側偏心部(26)に供給された潤滑油の一部が、内側ピストン部(132a,142a)の隙間を通じて筒状空間(S)に流入する。
【0177】
筒状空間(S)に流入した潤滑油は、内溝(81)、油通路(82)を流れて第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)へ送られる。ここで、第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)では、第1ピストン(32)及び第2ピストン(42)の偏心回転に伴い、油通路(82)の各流出端(82b,82c,82d)と各溝部(87,88,89,90)との相対位置が変化すると共に、各溝部(87,88,89,90)と各圧縮室(S31,…,S34,S41,…,S44)との相対位置が変化することによって各圧縮室(S31,…,S34,S41,…,S44)に潤滑油が供給される。
【0178】
具体的には、内側溝部(87)は、図18(A)の状態では、油通路(82)の第1流出端(82b)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、内側溝部(87)は、内側圧縮室(S31,S41)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して内側溝部(87)の内部に流入し、該内側溝部(87)の内部には該内側溝部(87)の容積に相当する潤滑油が貯留される。一方、内側溝部(87)は、図18(B)の状態では、油通路(82)との連通が遮断されると共に、内側圧縮室(S31,S41)と連通する。その結果、内側溝部(87)に貯留された潤滑油が内側圧縮室(S31,S41)に供給され、内側圧縮室(S31,S41)の高圧室(S31H,S41H)と低圧室(S31L,S41L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0179】
また、第1外側溝部(88)は、図18(B)の状態では、油通路(82)の第2流出端(82c)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、第1外側溝部(88)は、第1外側圧縮室(S32,S42)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して第1外側溝部(88)の内部に流入し、該第1外側溝部(88)の内部には該第1外側溝部(88)の容積に相当する潤滑油が貯留される。一方、第1外側溝部(88)は、図18(A)の状態では、油通路(82)との連通が遮断されると共に、第1外側圧縮室(S32,S42)と連通する。その結果、第1外側溝部(88)に貯留された潤滑油が第1外側圧縮室(S32,S42)に供給され、第1外側圧縮室(S32,S42)の高圧室(S32H,S42H)と低圧室(S32L,S42L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0180】
また、第2外側溝部(89)は、図18(A)の状態では、油通路(82)の第2流出端(82c)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、第2外側溝部(89)は、第2外側圧縮室(S33,S43)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して第2外側溝部(89)の内部に流入し、該第2外側溝部(89)の内部には該第2外側溝部(89)の容積に相当する潤滑油が貯留される。一方、第2外側溝部(89)は、図18(B)の状態では、油通路(82)との連通が遮断されると共に、第2外側圧縮室(S33,S43)とが連通する。その結果、第2外側溝部(89)に貯留された潤滑油が第2外側圧縮室(S33,S43)に供給され、第2外側圧縮室(S33,S43)の高圧室(S33H,S43H)と低圧室(S33L,S43L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0181】
さらに、第3外側溝部(90)は、図18(A)の状態では、油通路(82)の第3流出端(82d)と軸方向に重なって油通路(82)と連通する。このとき、第3外側溝部(90)は、第3外側圧縮室(S34,S44)には連通していない。その結果、筒状空間(S)の潤滑油が、内溝(81)及び油通路(82)を経由して第3外側溝部(90)の内部に流入し、該第3外側溝部(90)の内部には該第3外側溝部(90)の容積に相当する潤滑油が貯留される。一方、第3外側溝部(90)は、図18(B)の状態では、油通路(82)との連通が遮断されると共に、第3外側圧縮室(S34,S44)とが連通する。その結果、第3外側溝部(90)に貯留された潤滑油が第3外側圧縮室(S34,S44)に供給され、第3外側圧縮室(S34,S44)の高圧室(S34H,S44H)と低圧室(S34L,S44L)との間が潤滑油によってシールされる。
【0182】
以上のように、本実施形態の第1圧縮機構(30)及び第2圧縮機構(40)では、回転式圧縮機の第1ピストン(132)及び第2ピストン(142)の1回の偏心回転毎に、内側溝部(87)の容積に相当する潤滑油が内側圧縮室(S31,S41)に間欠的に供給されると共に、各外側溝部(88,89,90)の容積に相当する潤滑油が各外側圧縮室(S32,…,S34,S42,…,S44)に間欠的に供給される。従って、実施形態5においても、実施形態1と同様の効果を奏することができる。
【0183】
《その他の実施形態》
上記各実施形態では、径方向に形成された複数の圧縮室の全てに潤滑油が供給されるように本発明に係る油貯留室(外側溝部、内側溝部)が形成されていたが、最内周の圧縮室以外の外側圧縮室のみに本発明に係る油貯留室を形成することとしてもよい。
【0184】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0185】
10 回転式圧縮機
23 駆動軸
24 主軸部
25 下側偏心部(偏心部)
26 上側偏心部(偏心部)
27 中間軸部
30 第1圧縮機構
40 第2圧縮機構
31、41 第1シリンダ
31a、41a 鏡板部
31b、31b 外側シリンダ部
31c、31c 内側シリンダ部
32、42 第1ピストン
32a、42a 鏡板部
32b、42b 環状ピストン部
51 ミドルプレート(板状部材)
81 内溝
82 油通路
82a 流入端
82b 流出端
83 内側溝部(内側油貯留室)
84 外側溝部(外側油貯留室)
85 内側連通溝部
86 外側連通溝部
S11、S21 外側圧縮室
S12、S22 内側圧縮室
S 筒状空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏心部(25,26)を有する駆動軸(23)と、該駆動軸(23)の偏心部(25,26)に固定された環状のピストン(32,42)と、該ピストン(32,42)が内部において偏心回転し且つ該ピストン(32,42)との間に複数の環状の圧縮室(S11,S12,S21,S22)を径方向に形成するシリンダ(31,41)とを有する圧縮機構(30,40)を備えた回転式圧縮機であって、
上記圧縮機構(30,40)は、
高圧圧力状態の潤滑油が流通する油通路(82)と、
最内周の圧縮室である内側圧縮室(S12,S22)以外の外側圧縮室(S11,S21)に対して設けられて潤滑油を貯留する外側油貯留室(84)とを有し、
上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記外側油貯留室(84)と上記油通路(82)とが連通すると共に上記外側油貯留室(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)との連通が遮断されて上記油通路(82)の潤滑油が上記外側油貯留室(84)に貯留される外側貯留状態と、上記外側油貯留室(84)と上記油通路(82)との連通が遮断されると共に上記外側油貯留室(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)とが連通して上記外側油貯留室(84)に貯留された潤滑油が上記外側圧縮室(S11,S21)に供給される外側供給状態とに切り換わるように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記圧縮機構(30,40)は、
上記内側圧縮室(S12,S22)に対して設けられて潤滑油が貯留される内側油貯留室(83)を有し、
上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記内側油貯留室(83)と上記油通路(82)とが連通すると共に上記内側油貯留室(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)との連通が遮断されて上記油通路(82)の潤滑油が上記内側油貯留室(83)に貯留される内側貯留状態と、上記内側油貯留室(83)と上記油通路(82)との連通が遮断されると共に上記内側油貯留室(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)とが連通して上記内側油貯留室(83)に貯留された潤滑油が上記内側圧縮室(S12,S22)に供給される内側供給状態とに切り換わるように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項3】
請求項2において、
上記圧縮機構(30,40)は、上記外側油貯留室(84)の容積が上記内側油貯留室(83)の容積よりも大きくなるように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、
上記圧縮機構(30,40)は、上記ピストン(32,42)の1回の偏心回転中に、上記外側貯留状態となる時間が上記内側貯留状態となる時間よりも長くなるように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずか1つにおいて、
上記シリンダ(31,41)は、鏡板部(31a,41a)と、該鏡板部(31a,41a)から軸方向に突設された内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)とを有し、
上記ピストン(32,42)は、上記偏心部(25,26)に外嵌された鏡板部(32a,42a)と、該鏡板部(32a,42a)から上記内側シリンダ部(31c,41c)と上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に軸方向に突設されて上記内側シリンダ部(31c,41c)との間に上記内側圧縮室(S12,S22)を形成する一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に上記外側圧縮室(S11,S21)を形成する環状のピストン部(32b,42b)とを有し、
上記油通路(82)は上記ピストン(32,42)に形成されて流出端(82b)が上記ピストン部(32b,42b)の先端に開口し、
上記シリンダ(31,41)の上記鏡板部(31a,41a)には、上記外側圧縮室(S11,S21)に対応して上記外側油貯留室を構成する外側溝部(84)と、上記内側圧縮室(S12,S22)に対応して上記内側油貯留室を構成する内側溝部(83)とが形成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項6】
請求項2乃至4のいずれか1つにおいて、
上記シリンダ(31,41)は、鏡板部(31a,41a)と、該鏡板部(31a,41a)から軸方向に突設された内側シリンダ部(31c,41c)及び外側シリンダ部(31b,41b)とを有し、
上記ピストン(32,42)は、上記偏心部(25,26)に外嵌された鏡板部(32a,42a)と、該鏡板部(32a,42a)から上記内側シリンダ部(31c,41c)と上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に軸方向に突設されて上記内側シリンダ部(31c,41c)との間に上記内側圧縮室(S12,S22)を形成する一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)との間に上記外側圧縮室(S11,S21)を形成する環状のピストン部(32b,42b)とを有し、
上記油通路(82)は上記ピストン(32,42)に形成されて流出端(82b)が上記鏡板部(32a,42a)において開口し、
上記内側シリンダ部(31c,41c)の先端には上記内側油貯留室を構成する内側溝部(83)が形成される一方、上記外側シリンダ部(31b,41b)の先端には上記外側油貯留室を構成する外側溝部(84)が形成され、
上記ピストン(32,42)の上記鏡板部(32a,42a)には、上記外側供給状態において上記外側溝部(84)と連通することで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)とを連通させ且つ上記外側貯留状態において上記外側溝部(84)との連通が遮断されることで該外側溝部(84)と上記外側圧縮室(S11,S21)との連通を遮断させるように構成された外側連通溝部(86)と、上記内側供給状態において上記内側溝部(83)と連通することで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)とを連通させ且つ上記内側貯留状態において上記内側溝部(83)との連通が遮断されることで該内側溝部(83)と上記内側圧縮室(S12,S22)との連通を遮断させるように構成された内側連通溝部(85)とが形成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
上記圧縮機構(30,40)は2つ設けられて、各ピストン(32,42)が上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)にそれぞれ外嵌され、
上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の間の中間軸部(27)が挿通される挿通穴を有して上記2つの圧縮機構(30,40)を仕切る板状部材(51)と、
上記駆動軸(23)の2つの偏心部(25,26)の外周に潤滑油を供給する偏心部給油路(62,63)とを備え、
上記各圧縮機構(30,40)の上記油通路(82)は、流入端(82a)が上記駆動軸(23)と上記板状部材(51)との間に形成される筒状空間(S)と連通するように構成されている
ことを特徴とする回転式圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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