説明

回転機械の温度測定装置

【課題】スリップリング等を用いた複雑な構造を採用しなくても、回転部材1aの温度を測定する事ができる装置を実現する。
【解決手段】前記回転部材1aの外周面に1対のエンコーダ9a、9bを、軸方向に離隔した状態で設置し、これら両エンコーダ9a、9bの外周面に形成された被検出面10a、10bに、センサ11a、11bの検出部を対向させる。前記両エンコーダ9a、9bのうちの一方のエンコーダ9aは、前記回転部材1aに支持固定する。同じく他方のエンコーダ9bは、この回転部材1aに、転がり軸受12を介して、この回転部材1aに対する回転を可能に支持する。前記両エンコーダ9a、9bを、温度変化に伴い周方向に長さ寸法を変化させる、熱変形部材15によって接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸や、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材等の回転部材を有する回転機械の、この回転部材の温度を測定する回転機械の温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、熱膨張による各構成部材の寸法変化が加工精度に影響する。又、工作機械等の回転機械の回転部材は、この回転機械のケーシング等静止部材に対し回転自在に支持する為に、転がり軸受を使用する。この回転機械に異常が発生して前記回転部材の温度上昇が著しくなると、この転がり軸受が焼き付く可能性がある。この様な加工精度の低下や焼き付きを防止する為には、前記回転部材の温度を測定する必要がある。
【0003】
図4は、回転部材を支持する転がり軸受に温度センサを組み込んでこの回転部材の温度を測定する、回転機械の温度測定装置の従来構造の1例を示している。使用時に回転する回転部材1は、使用時にも回転しない静止部材2の内径側に、転がり軸受である複列円すいころ軸受3により、回転自在に支持されている。この複列円すいころ軸受3は、互いに同心に配置した、静止側軌道輪である外輪4及び回転側軌道輪である1対の内輪5、5と、それぞれが転動体である複数個の円すいころ6、6とを備える。
【0004】
又、前記静止部材2の前記外輪4の周囲に位置する部分には、センサ取付孔7を形成している。そして、この外輪4の外周面でこのセンサ取付孔7の内側に位置する部分に、温度センサ8を装着している。前記従来構造の場合、この温度センサ8として、接触式の温度計である熱電対を使用し、この温度センサ8の検出部を前記外輪4の外周面に突き当てている。
【0005】
上述の様な従来構造に於いて、前記温度センサ8により検出するのは、前記複列円すいころ軸受3のうちで外輪4の温度となる為、必ずしもこの複列円すいころ軸受3のうちで最も重要な部分の温度を知る事ができない可能性がある。即ち、焼き付き防止の為にこの複列円すいころ軸受3の温度を測定する場合には、この複列円すいころ軸受3のうちで最も温度が高くなる部分の温度を測定する事が好ましい。一方、この複列円すいころ軸受3を構成する外輪4の温度と内輪5、5の温度とを比較した場合、表面積が大きく、しかも外気による冷却作用を受け易い静止部材2に内嵌した外輪4の温度は、表面積が小さく、しかも外気による冷却作用を受けにくい回転部材1の端部に外嵌した内輪5、5の温度よりも低くなる。又、熱膨張による工作機械の加工精度の低下防止の為にも、前記回転機械のうちで最も温度が高くなる部分の温度を測定する事が好ましい。従って、前記従来構造は、転がり軸受の焼き付き防止及び熱膨張による工作機械の加工精度の低下防止の為の温度測定の面からは、必ずしも好ましい構造とは言えない。
【0006】
上述の様な課題を解決する為、特許文献1には、回転部材の内部に設けた温度センサの出力信号をスリップリングを介して、取り出す構造が記載されている。この様なスリップリングを用いる構造の場合、装置の構造が複雑になってコストが嵩んだり、このスリップリングと出力信号を取り出す為のブラシとが長期間に亙る使用によって摩耗し、この出力信号が正しく取り出せなくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−241918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、スリップリング等を用いた複雑な構造を採用する事無く、回転部材の温度を測定する事ができる、回転機械の温度測定装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回転機械の温度測定装置は、静止部材及び回転部材と、1対のエンコーダと、1対のセンサと、演算器とを備える。
このうちの前記静止部材は、使用時にも回転する事がない。
又、前記回転部材は、この静止部材に転がり軸受等を介して回転可能に支持している。
又、前記両エンコーダは、前記回転部材と同心の被検出面を有すると共に、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔に変化させている。又、前記両エンコーダのうちの一方のエンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定する。同じく他方のエンコーダは、前記回転部材の一部に、この回転部材に対する変位を可能に支持する。更に、この他方のエンコーダは、温度変化に伴い形状又は寸法が変化する熱変形部材により、前記一方のエンコーダに接続し、この一方のエンコーダと同期した回転を可能にしている。
又、前記両センサは、前記静止部材の一部に支持固定する。これら両センサのうちの一方のセンサは、その検出部を前記一方のエンコーダの被検出面に、同じく他方のセンサは、その検出部を前記他方のエンコーダの被検出面に、それぞれ対向させている。前記両センサは、これら両エンコーダの回転に伴いこれら両被検出面の特性が変化するのに対応して、それぞれの出力信号を変化させる。
又、前記演算器は、前記両センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、前記回転部材の温度を算出する。
【発明の効果】
【0010】
上述の様に構成する本発明の回転機械の温度測定装置の場合には、スリップリング等を用いた複雑な構造を採用しなくても、この回転機械の回転部材の温度を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す部分切断斜視図。
【図2】回転部材の温度変化に伴って1対のセンサの出力信号の位相が変化する状態を示す線図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図4】従来から知られている回転機械の温度測定装置を示す、断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態の第1例]
図1は、請求項1〜2、5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例を含めて、本発明の回転機械の温度測定装置の特徴は、スリップリング等を用いた複雑な構造を採用しなくても、この回転機械の回転部材の温度を測定する事ができる構造を実現する点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図4に示した構造を含め、従来から知られている回転機械の温度測定装置と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0013】
本例の場合、使用時にも回転する事のない、図示しない静止部材に転がり軸受により支持された、回転部材1aの外周面に1対のエンコーダ9a、9bを、軸方向に離隔した状態で設置し、これら両エンコーダ9a、9bの外周面に形成された被検出面10a、10bに、前記静止部材に固定されたセンサ11a、11bの検出部を対向させている。前記両エンコーダ9a、9bのうちの一方のエンコーダ9aは、前記回転部材1aに支持固定されている。同じく他方のエンコーダ9bは、この回転部材1aに、転がり軸受12を介して、この回転部材1aに対する回転を可能に支持している。前記両エンコーダ9a、9bの被検出面10a、10bは、それぞれ凹部13、13と凸部14、14とを円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置している。そして、前記両被検出面10a、10bの前記各凹部13、13、と前記各凸部14、14との境界は、前記回転部材1aの回転中心に対して平行にしている。
【0014】
前記両エンコーダ9a、9bは、温度変化に伴い周方向に長さ寸法を変化させる、銅系合金等の線膨張係数の大きい金属製の熱変形部材15によって接続されている。即ち、前記両エンコーダ9a、9bのうちの互いに対向する軸方向側面の一部に、それぞれ連結部16a、16bを設けている。そして、螺旋状に形成する事により全長を十分に確保し、且つ、周方向に配置した前記熱変形部材15の一端を、前記一方のエンコーダ9aの連結部16aに、同じく他端を、前記他方のエンコーダ9bの連結部16bに、それぞれ連結固定している。この様な構造によって、この他方のエンコーダ9bは、前記一方のエンコーダ9aと同期した回転を可能としている。
【0015】
上述の様に構成する、本例の回転機械の温度測定装置の場合には、前記回転部材1aの温度変化に伴い前記熱変形部材15の全長(周方向寸法)が変化すると、前記両センサ11a、11bの出力信号同士の間に存在する位相差が変化する。即ち、前記回転部材1aの温度が上昇する以前の初期状態では、図2の(A)に示す様に、前記両センサ11a、11bの出力信号同士の間に位相差は存在しない。一方、前記回転機械の使用時に前記回転部材1aが回転する事によって、この回転部材1aの温度が上昇し、前記熱変形部材15の周方向寸法が大きくなると、図2の(B)に示す様に、前記両センサ11a、11bのうちの一方のセンサ11aの出力信号に対して、同じく他方のセンサ11bの出力信号の位相が遅れる(これら両センサ11a、11bの出力信号の間に、位相差δが発生する)。この位相遅れ(位相差δ)は、前記回転部材1aの温度上昇の程度が大きくなる程、大きくなる。但し、前記回転機械の通常の使用によって変化する温度の範囲では、前記位相差δが、前記両センサ11a、11bの出力信号の周期Lよりも大きくならない様にしている。即ち、前記回転機械の使用による前記回転部材1aの温度上昇によっては、前記位相差δが、前記両センサ11a、11bの出力信号の周期Lを超えない様に、前記熱変形部材15として、寸法や材質が、適切なものを選択する。
【0016】
そして、図示しない演算器が前記位相差δと前記周期Lと(これら両変位量の比である、位相差比δ/L)に基づいて、この回転部材1aの温度を算出する。尚、これら位相差δ及び周期L(位相差比δ/L)と、この回転部材1aの温度との関係は、予め実験や計算により求めておき、前記演算器の記憶装置(メモリ)等に記憶しておく。位相差比δ/Lを採用する理由は、前記回転部材1aの回転速度変化の、前記温度の算出値に対する影響を排除する為である。
又、本例の場合には、前記回転部材1aの回転速度を、前記一方のセンサ11aの出力信号に基づき算出する。
【0017】
[実施の形態の第2例]
図3は、請求項1、3〜5に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、他方のエンコーダ9cは、摩擦係数の小さい、合成樹脂等の高分子材料製のスリーブ16を介して、回転部材1aに対する軸方向変位を可能に支持している。又、前記他方のエンコーダ9cの外周面には、凹部13a、13aと凸部14a、14aとを円周方向に関して交互に且つ等間隔に配置して、被検出面10cとしている。そして、前記各凹部13a、13aと凸部14a、14aとの境界は、前記回転部材1aの回転中心に対し傾斜させている。
【0018】
一方のエンコーダ9aと前記他方のエンコーダ9cとは、温度変化に伴い軸方向に関する寸法を変化させる、それぞれがバイメタル製である複数個(例えば3個)の熱変形部材15a、15aによって接続されている。即ち、前記両エンコーダ9a、9cのうちの互いに対向する軸方向側面に、これら各熱変形部材15a、15aの両端を、それぞれねじ等によって連結固定している。
上述の様に構成する本例の回転機械の温度測定装置の場合には、前記回転部材1aの温度変化に伴い前記各熱変形部材15a、15aの軸方向寸法が変化すると、両センサ11a、11bの出力信号同士の間に存在する位相差が変化する。即ち、前記回転部材1aの温度上昇によって前記各熱変形部材15a、15aの軸方向寸法が大きくなると、前記両センサ11a、11bのうちの他方のセンサ11bの検出部が対向している、前記被検出面10cの幅方向位置が変化する。この結果、前記両センサ11a、11bのうちの一方のセンサ11aの出力信号に対する、同じく他方のセンサ11bの出力信号の位相遅れ(位相差)が大きくなる。尚、前記回転機械の使用による前記回転部材1aの温度上昇によっては、この位相差が前記両センサ11a、11bの出力信号の周期を超えない様に、且つ、このセンサ11bの検出部から、前記エンコーダ9cの被検出面10cが外れる事がない様に、前記各熱変形部材15a、15aの寸法や材質、及びこのエンコーダ9cの各部の寸法を、適切に規制する。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、同等部分に関する図示並びに説明は省略する。
【符号の説明】
【0019】
1 回転部材
2 静止部材
3 複列円すいころ軸受
4 外輪
5 内輪
6 円すいころ
7 センサ取付孔
8 温度センサ
9a〜9c エンコーダ
10a〜10c 被検出面
11a、11b センサ
12 転がり軸受
13、13a 凹部
14、14a 凸部
15、15a 熱変形部材
16 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止部材及び回転部材と、1対のエンコーダと、1対のセンサと、これら両センサの出力信号を処理する演算器とを備えた回転機械の温度測定装置であって、前記両エンコーダは、前記回転部材と同心の被検出面を有すると共に、この被検出面の特性を円周方向に関して交互に且つ等間隔に変化させており、前記両エンコーダのうちの一方のエンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定されており、同じく他方のエンコーダは、この回転部材の一部に、この回転部材に対する変位を可能に支持され、温度変化に伴い形状又は寸法が変化する熱変形部材により、前記一方のエンコーダに対して、この一方のエンコーダと同期した回転を可能に接続しており、前記両センサは、前記静止部材の一部に支持固定されていて、これら両センサのうちの一方のセンサは、その検出部を前記一方のエンコーダの被検出面に、同じく他方のセンサは、その検出部を前記他方のエンコーダの被検出面に、それぞれ対向させていて、これら両被検出面の特性変化に対応してそれぞれの出力信号を変化させるものであり、前記演算器は、前記両センサの出力信号同士の間に存在する位相差に基づいて、前記回転部材の温度を算出する事を特徴とする回転機械の温度測定装置。
【請求項2】
前記熱変形部材は、温度変化に伴い周方向に関する長さ寸法を変化させるものであり、前記他方のエンコーダが前記回転部材に、この回転部材に対する回転を可能に支持されており、前記両エンコーダの被検出面である、それぞれの外周面に存在する、特性変化の境界が前記回転部材の回転中心に対し平行であり、前記熱変形部材の両端部が、前記両エンコーダに接続されている、請求項1に記載した回転機械の温度測定装置。
【請求項3】
前記熱変形部材は、温度変化に伴い、前記回転部材の軸方向に関する寸法を変化させるものであり、前記他方のエンコーダが前記回転部材に、この回転部材の軸方向の変位のみを可能に支持されており、前記両エンコーダの被検出面である、特性変化の境界が、前記一方のエンコーダに関しては、前記回転部材の回転中心に対し平行であり、前記他方のエンコーダに関しては、この回転中心に対し傾斜しており、前記熱変形部材の両端部が、前記両エンコーダに接続されている、請求項1に記載した回転機械の温度測定装置。
【請求項4】
前記熱変形部材がバイメタルである、請求項3に記載した回転機械の温度測定装置。
【請求項5】
前記一方のエンコーダに被検出面を対向させたセンサの出力信号に基づいて、前記回転部材の回転速度を算出する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した回転機械の温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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