説明

回転部材用物理量測定装置

【課題】回転部材が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保できる構造を実現する。
【解決手段】エンコーダ1aの被検出面に設けた複数の特性変化組み合わせ部3a1、3a2、3a3を構成する第一透孔11a1、11a2、11a3のピッチを、円周方向に関してα、β、γ(α<β<γ)の順で繰り返し変化させる。前記回転部材の回転速度が低い状態では、総てのピッチα、β、γ部分で取得したセンサ情報に基づいて物理量の算出を行う。又、前記回転速度が中程度の状態では、一部のピッチβ、γ部分で取得したセンサ情報のみに基づいて物理量の算出を行う。更に、前記回転速度が高い状態では、より少ない一部のピッチγ部分で取得したセンサ情報のみに基づいて物理量の算出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸、或いは、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材の如く、高荷重を受けつつ高速で回転する回転部材の変位量と、この回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工作機械の主軸は、先端部に刃物等の工具を固定した状態で高速回転し、加工台上に固定した被加工物に、切削等の加工を施す。前記主軸を回転自在に支持したハウジングである主軸頭(ヘッド)は、この被加工物の加工の進行に伴って、所定方向に所定量だけ移動し、この被加工物を、所定の寸法及び形状に加工する。この様な加工作業時、前記主軸頭の移動速度を適正にする事が、加工能率を確保しつつ、前記工具の耐久性及び前記被加工物の品質を確保する為に必要である。即ち、前記移動速度が高過ぎると、前記工具に無理な力が加わり、この工具の耐久性が著しく損なわれるだけでなく、前記被加工物の表面性状が悪化したり、著しい場合にはこの被加工物に亀裂等の損傷が発生したりする。逆に、前記移動速度が低過ぎると、前記被加工物の加工能率が徒に悪化する。
【0003】
前記主軸頭の移動速度の適正値は一定ではなく、工具の種類(大きさ)、被加工物の材質や形状により大きく変わる為、前記移動速度を一定としたまま、この移動速度を適正値に維持する事は難しい。この為、前記工具を固定した主軸に加わる荷重を測定する事により、前記移動速度を適正値に調節する事が、従来から知られている。即ち、工具により被加工物に切削等の加工を施す際には、加工抵抗により、この工具及びこの工具を固定した主軸に荷重が加わる。この加工抵抗、延いてはこの主軸に加わる荷重は、前記移動速度が高くなる程大きくなり、逆に、この移動速度が低くなる程小さくなる。そこで、前記荷重が所定範囲に収まる様に、前記移動速度を調節すれば、この移動速度を適正範囲に収める事ができる。
【0004】
又、この移動速度等、他の条件を同じとした場合に前記荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。そこで、前記移動速度との関係で前記荷重の大小を観察すれば、前記工具が寿命に達した事を知る事ができて、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。又、前記荷重を、前記移動速度等、他の加工条件と関連付けて継続的に観察する事により、最適な加工条件を見出して、省エネルギ化や工具の長寿命化に繋げる事もできる。更に、継続的観察により、工具破損等の事故発生時に、その原因を特定する事もできる。
【0005】
この様な目的で、工作機械の主軸等の回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する為の装置として従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、これら各荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用する為、荷重測定装置全体としてのコストが嵩む事が避けられない。
【0006】
一方、特許文献2には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式のエンコーダとセンサとにより構成する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。例えば特許文献2の段落[0066]〜[0068]には、図13に示す様なエンコーダ1を使用して、このエンコーダ1を同心に支持した回転部材の軸方向に関する変位量、延いてはこの回転部材に加わるアキシアル荷重を測定する技術が記載されている。
【0007】
前記エンコーダ1は、鋼板等の磁性金属板により全体を円筒状に造られている。このエンコーダ1の軸方向中間部には、それぞれが円周方向に離隔して設けられた第一特性変化部である第一透孔2aと第二特性変化部である第二透孔2bとから成る、複数の特性変化組み合わせ部3、3が、円周方向に関して等間隔に設けられている。これら各特性変化組み合わせ部3、3を構成する、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとの、前記エンコーダ1の軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。この様なエンコーダ1は、工作機械の主軸の如き回転部材の一部に、この回転部材と同心に固定する。これと共に、この回転部材に隣接する部分に設けられた静止部材の一部に、磁気検知式のセンサを支持した状態で、このセンサの検出部を、前記エンコーダ1の外周面に微小隙間を介して近接対向させる。
【0008】
この状態で、前記主軸4と共に前記エンコーダ1が回転すると、前記センサの検出部が、被検出面である、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記第一、第二各透孔2a、2bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する。例えば、このセンサの検出部が前記エンコーダ1の外周面のうち、図14の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図14の(b)に示す様に変化する。この図14の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3、3を構成する1対の第一透孔2a、2aに基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3を構成する第一、第二両透孔2a、2bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期δ1とする。前記センサの検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期δ1と前記全周期L1との比であるパルス周期比δ1/L1は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサの検出部が図14の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図14の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期δ2と全周期L2との比であるパルス周期比δ2/L2は、比較的大きな値となる。
【0009】
この様に、前記センサの出力信号に関するパルス周期比δ/Lは、このセンサの検出部が走査する、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。そして、この軸方向位置は、エンコーダを固定した回転部材の軸方向変位により変化する。従って、前記センサの出力信号を処理する為の演算器に、前記回転部材の軸方向変位量を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記回転部材の軸方向変位量を算出できる。又、この回転部材が、予圧を付与された転がり軸受により回転自在に支持されていた場合、この回転部材の軸方向変位量は、この回転部材に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。言い換えれば、この回転部材に加わるアキシアル荷重と、この回転部材の軸方向変位量との間には、反復・再現性のある相関関係が存在する。そして、この相関関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論により計算で求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記相関関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比δ/Lに基づいて、前記回転部材に加わるアキシアル荷重を算出できる。
【0010】
上述した様な従来構造を構成する演算器は、前記全周期Lが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行する。従って、この全周期Lが短くなれば、その分だけ、この物理量の測定に関する応答性(単位時間当たりの、この物理量の算出回数)を確保できる。一方、この全周期Lの長さは、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3、3の数が多くなる程短くなる(少なくなる程長くなる)。従って、この被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3、3の数を多くすれば、その分だけ、前記物理量の測定に関する応答性を確保できる。
【0011】
但し、前記全周期Lの長さは、前記主軸4の回転速度によっても変化する。即ち、この全周期Lの長さは、この主軸4の回転速度が高くなる程短くなる(低くなる程長くなる)。従って、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3、3の数を多くすると、前記主軸4が高速回転する状態での全周期Lが短くなり過ぎて、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる可能性がある。具体的には、先に開始した物理量の算出処理が完了する前に、次の物理量の算出処理が開始され、この物理量の算出処理が重複して実行される可能性がある。この結果、1回毎の物理量の算出処理時間が長くなったり、著しい場合には、この物理量の算出処理が全く行えなくなったりする可能性がある。この様な異常の発生は、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3、3の数を少なくする事によって、回避する事ができる。但し、この被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3、3の数を少なくすると、前記主軸4が低速回転する状態での全周期Lの長さが徒に長くなり、この状態での前記物理量の測定に関する応答性を確保する事が難しくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、回転部材が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の回転部材用物理量測定装置は、静止部材と、回転部材と、エンコーダと、センサと、演算器とを備える。
このうちの静止部材は、使用時にも回転しない。
又、前記回転部材は、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、前記静止部材に対して回転自在に支持されている。
又、前記エンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定されており、この回転部材と同心の被検出面を有する。この被検出面は、それぞれがこの被検出面の円周方向に離隔して設けられた第一特性変化部及び第二特性変化部から成る、複数の特性変化組み合わせ部を、前記被検出面の円周方向に間隔をあけて配置したもので、前記第一、第二両特性変化部に関する、前記被検出面の幅方向に対する正負の方向をも考慮した傾斜角度を、互いに異ならせている。
又、前記センサは、その検出部を前記被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されている。そして、前記各特性変化部が、前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に、出力信号を変化させる。
更に、前記演算器は、前記センサの出力信号を処理する。具体的には、前記被検出面の円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部を構成する1対の第一特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である全周期と、これら両第一特性変化部のうちの一方の第一特性変化部及び前記被検出面の円周方向に関してこれら両第一特性変化部同士の間に配置された前記第二特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期との比である、パルス周期比に基づいて、それぞれが前記被検出面の幅方向に関する、前記回転部材の変位量とこの回転部材に加わる荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出する。
特に、本発明の回転部材用物理量測定装置に於いては、前記被検出面の円周方向に関して、前記各第一特性変化部を不等ピッチで配置している。そして、前記演算器は、前記全周期が経過する毎に、この全周期と予め設定しておいた閾値とを比較して、この全周期がこの閾値を超えている場合にのみ、前記物理量の算出処理を実行する。
【0015】
本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項2に記載した発明の様に、前記閾値を、前記全周期が経過してからこの全周期中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間(この時間が、前記回転部材の回転速度や、前記センサの検出部による前記被検出面の走査位置によって変化する場合には、そのうちの最長時間)よりも長い時間とする。より好ましくは、この条件に加えて、前記閾値を、前記回転部材が最高回転速度で回転している状態での最長の全周期よりも短い時間とする。
【0016】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記被検出面の円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部を構成する1対の第一特性変化部の、この円周方向に関するピッチと、この円周方向に関してこれら両第一特性変化部同士の間に配置された前記第二特性変化部の、前記被検出面の幅方向に対する傾斜角度との比を、前記円周方向に関するピッチの大きさによらず一定にする。
【0017】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記各第一特性変化部を、前記被検出面の幅方向に形成された非傾斜特性変化部とし、前記各第二特性変化部を、前記被検出面の幅方向に対して所定角度だけ傾斜した方向に形成された傾斜特性変化部とする。これと共に、前記各第一特性変化部のうちの一部の第一特性変化部を、円周方向に関して等ピッチで配置する。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明の回転部材用物理量測定装置によれば、回転部材が高速回転する状態での物理量(変位量、荷重)の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性(単位時間当たりの、この物理量の算出回数)を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保する事が可能となる。
即ち、本発明の場合、閾値の大きさを(例えば、請求項2に記載した発明の様に)調整すれば、前記回転部材が低速回転する状態で、総ての全周期が閾値を超え、同じく高速回転する状態で、一部の全周期のみが閾値を超える様にできる。即ち、前記回転部材が低速回転する状態で、前記物理量の算出処理を、全周期が経過する毎に毎回実行し、前記回転部材が高速回転する状態で、前記物理量の算出処理を、前記全周期が経過する毎に毎回は実行せず、何回かに1回の割合(前記物理量の算出処理が重複して実行されない間隔)で実行する様にできる。この為、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部の数を多くする事によって、前記回転部材が低速回転する状態での前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保でき、しかも、前記回転部材が高速回転する状態で、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる事を防止できる。従って、前記回転部材が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記回転部材の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。
【0019】
又、請求項3に記載した発明の構成を採用すれば、前記被検出面の円周方向に関して前記各第一特性変化部が不等ピッチで配置されているにも拘らず、前記物理量の変化に対するパルス周期比の変化の割合を、総てのパルス周期比に関してそれぞれ等しくする事ができる。この為、前記回転部材に荷重が作用していない中立状態で総てのパルス周期比が互いに等しくなる様に、前記被検出面の円周方向に関する前記各第二特性変化部の配置箇所を規制すれば、前記各パルス周期比から前記物理量を算出する為の演算式として、それぞれ同じものを使用する事ができる。
【0020】
又、請求項4に記載した発明の構成を採用すれば、回転部材の変位量とこの回転部材に作用する荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為に使用するセンサの出力信号に基づいて、この物理量の変化の影響を受ける事なく、前記回転部材の回転速度を精度良く測定できる。
即ち、請求項4に記載した発明の場合には、前記各第一特性変化部を、前記被検出面の幅方向に形成された非傾斜特性変化部とすると共に、これら各第一特性変化部のうちの一部の第一特性変化部を、前記被検出面の円周方向に関して等ピッチで配置している。この為、前記センサの出力信号のうち、前記一部の第一特性変化部に基づいて発生したパルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値(前記センサの検出部が走査する、前記被検出面の幅方向位置)によらず、前記回転部材の回転速度にのみ対応して変化する。しかも、この回転速度が一定であれば、前記パルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値が変動している最中であっても、変動する事はない。従って、このパルスの周波数(又は周期)に基づいて、前記物理量の変化の影響を受ける事なく、前記回転部材の回転速度を精度良く測定する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】図1のX部拡大図。
【図3】エンコーダを取り出して示す斜視図。
【図4】被検出面である、エンコーダの外周面の一部を示す展開図。
【図5】センサユニットを取り出して、先端のセンサ装着部を被覆していない状態(a)と被覆した状態(b)とで示す斜視図。
【図6】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【図7】演算器が物理量を求める際に実行する、タスクAでの処理内容を説明する為の模式図。
【図8】主軸が低速回転する状態での演算器の動作を説明する為の模式図。
【図9】主軸の回転速度が増した状態での演算器の動作を説明する為の模式図。
【図10】シングルプロセッサを搭載した演算器が採用する閾値を説明する為の模式図。
【図11】マルチプロセッサ、或は、マルチコアプロセッサを搭載した演算器が採用する閾値を説明する為の模式図。
【図12】本発明の実施の形態の第2例を示す、エンコーダの斜視図(a)、及び、このエンコーダの外周面の一部を示す展開図(b)。
【図13】従来から知られているエンコーダの斜視図。
【図14】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[実施の形態の第1例]
図1〜11により、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第1例に就いて説明する。本例は、工作機械を構成する、回転部材である主軸4の軸方向変位量と、この主軸4に加わるアキシアル荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を測定する為の構造に、本発明を適用した例である。前記工作機械は、静止部材であるハウジング(主軸頭)5の内径側に前記主軸4を、多列転がり軸受ユニット6により回転自在に支持すると共に、電動モータ7により、前記主軸4を回転駆動自在としている。前記多列転がり軸受ユニット6を構成する複数個の転がり軸受8a〜8dのうち、先端寄りに配置した2個の転がり軸受8a、8bと、基端寄りに配置した2個の転がり軸受8c、8dとには、互いに逆向きの接触角を付与すると共に、これら各転がり軸受8a〜8dに、予圧を付与している。これにより、前記主軸4を前記ハウジング5に対して、ラジアル荷重及び両方向のアキシアル荷重を支承する状態で、がたつきなく、回転自在に支持している。前記工作機械の運転時には、前記主軸4の先端部(図1の左端部)に固定した図示しない工具を、適切な回転速度で回転させつつ被加工物に押し付け、この被加工物に、切削等の加工を施す。この様にして加工を施す際に、前記主軸4には、この被加工物に前記工具を押し付ける事の反作用として、各方向の荷重が加わる。本例の構造では、このうちの主軸4の軸方向に作用するアキシアル荷重に基づく、この主軸4の軸方向の変位量(更に必要に応じてこのアキシアル荷重)を求められる様にしている。
【0023】
この為に本例の場合も、前述した従来構造の場合と同様、図3〜4に示す様なエンコーダ1aと、図5に示す様なセンサユニット9を構成するセンサ10との組み合わせを使用する。このうちのエンコーダ1aは、前記主軸4の中間部先端寄り部分で、前記多列転がり軸受ユニット6を構成する転がり軸受8b、8c同士の間に外嵌固定している。このエンコーダ1aは、内輪間座を兼ねるもので、鋼等の磁性金属により造り、全体を円筒状としている。そして、このエンコーダ1aに、複数の特性変化組み合わせ部3a1、3a2、3a3を、円周方向に間隔をあけて形成している。これら各特性変化組み合わせ部3a1、3a2、3a3はそれぞれ、第一特性変化部である直線状の第一透孔11a1、11a2、11a3と、第二特性変化部である直線状の第二透孔11b1、11b2、11b3とを、円周方向に離隔配置して成る。
【0024】
特に、本例の場合には、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3を、前記エンコーダ1aの軸方向(図4に於ける上下方向)に形成した、非傾斜特性変化部としている。これに対し、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3を、前記エンコーダ1aの軸方向に対して傾斜した方向に形成した、傾斜特性変化部としている。又、円周方向に関する前記各第一透孔11a1、11a2、11a3のピッチを、この円周方向にα、β、γ(α<β<γ)の順で繰り返し変化させている(図示の例では、前記エンコーダ1aの中心軸を中心とする角度表記で、α=20度、β=30度、γ=40度としている)。更に、前記エンコーダ1aの軸方向に対する前記各第二透孔11b1、11b2、11b3の傾斜角度を、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3のピッチα、β、γに合わせて、円周方向にθ1、θ2、θ3(θ1<θ2<θ3)の順で繰り返し変化させている。具体的には、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a1、3a2{(3a2、3a3)、(3a3、3a1)}を構成する1対の第一透孔11a1、11a2{(11a2、11a3)、(11a3、11a1)}のピッチα(β、γ)と、これら両第一透孔11a1、11a2{(11a2、11a3)、(11a3、11a1)}の間に配置された前記第二透孔11b1(11b2、11b3)の傾斜角度θ1(θ2、θ3)との比θ1/α(θ2/β、θ3/γ)が、前記各ピッチα、β、γの大きさによらず一定(θ1/α=θ2/β=θ3/γ)となる様に、これら各ピッチα、β、γ及び前記各傾斜角度θ1、θ2、θ3を規制している。又、本例の場合、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3は、それぞれ円周方向に関して自身の両側に存在する1対の第一透孔(11a1、11a2)、(11a2、11a3)、(11a3、11a1)同士の間の丁度中央位置に配置している。
【0025】
又、前記センサユニット9は、合成樹脂製のホルダ12の先端部に、前記センサ10を包埋して成る。このセンサ10は、前記エンコーダ1aに形成した、前記第一、第二各透孔11a、11bの存在に基づいて出力信号が変化するものであり、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。この様なセンサユニット9は、前記センサ10の検出部を、被検出面である、前記エンコーダ1aの外周面に近接対向させた状態で、前記ハウジング5に支持固定している。
【0026】
上述の様な構成を有する本例の回転部材用物理量測定装置の場合も、前述した従来構造の場合と同様、前記主軸4と共に前記エンコーダ1aが回転すると、前記センサ10の検出部が、被検出面である、このエンコーダ1aの外周面を走査する。このエンコーダ1aの外周面の磁気特性は、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3、及び、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3の存在により、円周方向に変化している。この為、前記エンコーダ1aの回転に伴って、前記センサ10の出力信号が変化する。例えば、このセンサ10の検出部がこのエンコーダ1aの外周面のうち、図6の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサ10の出力信号が、この図6の(b)に示す様に変化する。この図6の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a1、3a2{(3a2、3a3)、(3a3、3a1)}を構成する1対の第一透孔11a1、11a2{(11a2、11a3)、(11a3、11a1)}に基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期Lα1(Lβ1、Lγ1)とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3a1(3a2、3a3)を構成する1対の透孔11a1、11b1{(11a2、11b2)、(11a3、11b3)}に基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期δα1(δβ1、δγ1)とする。前記センサ10の検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期δα1(δβ1、δγ1)と前記全周期Lα1(Lβ1、Lγ1)との比であるパルス周期比δα1/Lα1(δβ1/Lβ1、δγ1/Lγ1)は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサ10の検出部が図6の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサ10の出力信号が、この図6の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期δα2(δβ2、δγ2)と全周期Lα2(Lβ2、Lγ2)との比であるパルス周期比δα2/Lα2(δβ2/Lβ2、δγ2/Lγ2)は、比較的大きな値となる。
【0027】
尚、本発明を実施する場合には、パルス周期比を求める際の部分周期δとして、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3a1、3a2{(3a2、3a3)、(3a3、3a1)}の、円周方向に隣り合う1対の透孔11b2、11a3{(11b3、11a1)、(11b1、11a2)}に関するパルス間の周期を採用する事もできる。この場合には、前記パルス周期比の大小が変化する方向が、上述した場合とは逆になる。
【0028】
何れにしても、前記センサ10の出力信号に関するパルス周期比δα/Lα(δβ/Lβ、δγ/Lγ)は、このセンサ10の検出部が走査する、前記エンコーダ1aの外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。このパルス周期比δα/Lα(δβ/Lβ、δγ/Lγ)により、前記エンコーダ1aを固定した前記主軸4に関する物理量(軸方向に関する変位量とアキシアル荷重との一方又は双方)を求める原理に就いては、前述の図13〜14で説明した通りである。即ち、前記センサ10の出力信号を、図示しない演算器に送ると、この演算器が、予めインストールされたソフトウェア中の演算式により、前記パルス周期比δα/Lα(δβ/Lβ、δγ/Lγ)に基づいて、前記主軸4の軸方向に関する変位量を求める。更に、必要に応じて、この主軸4に加わるアキシアル荷重を求める。
【0029】
尚、本例の場合には、前述した様に、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3のピッチα、β、γと、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3の傾斜角度θ1、θ2、θ3との間に、θ1/α=θ2/β=θ3/γなる関係が成立する様に、これら各傾斜角度θ1、θ2、θ3を互いに異ならせている。この為、円周方向の何れの位置で取得したパルス周期比δα/Lα、δβ/Lβ、δγ/Lγに基づいて前記物理量を算出する場合でも、同じ演算式を使用する事ができる。この点に就いて、以下に詳しく説明する。
【0030】
先ず、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3のピッチα、β、γによらず、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3の傾斜角度θ1、θ2、θ3を一定(θ1=θ2=θ3)とした場合に就いて考える。ここでも、前記ピッチがα、β、γの場所での部分周期をそれぞれδα、δβ、δγとし、同じく全周期をそれぞれLα、Lβ、Lγとする。今、前記主軸4にアキシアル荷重が加わる事により、前記エンコーダ1aが軸方向変位して、部分周期がΔδだけ変化したとする。この部分周期の変化量Δδは、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3の傾斜角度θ1、θ2、θ3に依存する。但し、これら各傾斜角度θ1、θ2、θ3はそれぞれ等しい(θ1=θ2=θ3)為、前記ピッチがα、β、γの場所での部分周期の変化量Δδも、それぞれ等しくなる。従って、前記ピッチがα、β、γの場所でのパルス周期比は、
前記ピッチがαの場所で(δα+Δδ)/Lα=δα/Lα+Δδ/Lα −−−(1)
前記ピッチがβの場所で(δβ+Δδ)/Lβ=δβ/Lβ+Δδ/Lβ −−−(2)
前記ピッチがγの場所で(δγ+Δδ)/Lγ=δγ/Lγ+Δδ/Lγ −−−(3)
となる。ここで、これら(1)〜(3)式の右辺第二項(Δδ/Lα、Δδ/Lβ、Δδ/Lγ)は、アキシアル荷重に対するパルス周期比の変化量を表しているが、それぞれの分母が異なる(Lα≠Lβ≠Lγ)為、それぞれの値が異なっている(Δδ/Lα≠Δδ/Lβ≠Δδ/Lγ)。即ち、前記ピッチがα、β、γの各場所毎に、アキシアル荷重に対するゲインが異なっている事になる。従って、この場合には、パルス周期比から物理量(軸方向変位、アキシアル荷重)を算出する際に使用する演算式を、前記ピッチがα、β、γの各場所毎に変える必要がある。
【0031】
これに対して、本例の様に、前記各ピッチα、β、γと前記各傾斜角度θ1、θ2、θ3との間に、θ1/α=θ2/β=θ3/γなる関係が成立する様に、これら各傾斜角度θ1、θ2、θ3を互いに異ならせれば、前記(1)〜(3)式の右辺第二項(Δδ/Lα、Δδ/Lβ、Δδ/Lγ)に相当する変化量、即ち、アキシアル荷重に対するゲインが、それぞれ等しくなる。更に、本例の場合には、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3を、それぞれ円周方向に関して自身の両側に存在する1対の第一透孔(11a1、11a2)、(11a2、11a3)、(11a3、11a1)同士の間の丁度中央位置に配置している。この為、前記主軸4にアキシアル荷重が作用していない中立状態でのパルス周期比である、前記(1)〜(3)式の右辺第一項(δα/Lα、δβ/Lβ、δβ/Lβ)に相当する量も、それぞれ等しくなる。即ち、本例の場合には、前記主軸4に加わるアキシアル荷重(この主軸4の軸方向変位量)が一定であれば、前記ピッチがα、β、γの各場所でのパルス周期比が互いに等しくなる。この為、このパルス周期比から物理量を算出する際に使用する演算式を、前記ピッチがα、β、γの各場所毎に変える必要がなくなる。つまり、円周方向の何れの位置で取得したパルス周期比δα/Lα、δβ/Lβ、δγ/Lγに基づいて前記物理量を算出する場合でも、同じ演算式を使用する事ができる。
【0032】
又、本例の場合、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3は、このエンコーダ1aの軸方向(この被検出面の幅方向)に形成されている。更に、これら各第一透孔11a1、11a2、11a3のうちで、円周方向に2つ置きに配置された各第一透孔11a1、11a1{(11a2、11a2)、(11a3、11a3)}は、円周方向に関して等ピッチで配置されている。この為、前記センサ10の出力信号のうち、これら円周方向に2つ置きに配置された各第一透孔11a1、11a1{(11a2、11a2)、(11a3、11a3)}に基づいて発生したパルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値(前記センサ10の検出部が走査する、前記被検出面の幅方向位置)によらず、前記主軸4の回転速度にのみ対応して変化する。しかも、この回転速度が一定であれば、前記パルスの周波数(又は周期)は、前記物理量の値が変動している最中であっても、変動する事はない。従って、このパルスの周波数(又は周期)に基づいて、前記物理量の変化の影響を受ける事なく、前記主軸4の回転速度を精度良く測定する事ができる。
【0033】
又、本例の場合、前記演算器は、基本的には、前記各全周期Lα、Lβ、Lγが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行する。但し、この基本を徹底すると、前記主軸4の回転速度が高くなる事に伴って、何れかの全周期が過度に短くなった場合に、前記演算器の処理能力が追い付かなくなり、先に開始した物理量の算出処理が完了する前に、次の物理量の算出処理が開始され、この物理量の算出処理が重複して実行される可能性がある。この結果、1回毎の物理量の算出処理時間が長くなったり、著しい場合には、この物理量の算出処理が全く行えなくなったりする可能性がある。そこで、この様な異常が発生する事を回避すべく、本例の場合、前記演算器は、前記各全周期Lα、Lβ、Lγが経過する毎に、前記物理量の算出処理を実行するか否かを選択可能な機能を備えている。この点に就いて、以下、図7〜9を参照しつつ、具体的に説明する。尚、以下の説明で使用する図面では、必要に応じて、前記被検出面の特性変化パターンを、例えば図7に示す様に、複数の太線で簡略化して示す。これら各太線は、それぞれが前記被検出面の特性境界位置である、前記各透孔11a1、11b1、11a2、11b2、11a3、11b3の円周方向両側縁のうちの一方の側縁(本例の場合には、パルスの立ち上がりエッジを発生させる側縁)を示している。
【0034】
本例の場合、前記演算器は、前記物理量を求める際の演算処理を、タスクAとタスクBとに分けて実行する。このうちのタスクAでは、図7に示す様に、前記各透孔11a1、11b1、11a2、11b2、11a3、11b3に基づいて発生するパルスを検出し、円周方向に隣り合う1対のパルス間の周期Ti(T1、T2、T3、T4、T5、T6・・・)を求める。これと共に、この周期Tiをバッファに格納する。更に、前記各第一透孔11a1、11a2、11a3に基づいて発生するパルスを検出する毎に、これら各パルス間の周期である全周期L{Lα(T1+T2)、Lβ(T3+T4)、Lγ(T5+T6)}を求める。そして、この全周期L(Lα、Lβ、Lγ)をレジスタに記憶させると共に、この全周期L(Lα、Lβ、Lγ)と、予め設定しておいた閾値Tthとを比較し、これらの大小関係を確認する。
【0035】
一方、前記演算器は、上述したタスクAでの比較の結果、前記全周期L(Lα、Lβ、Lγ)が前記閾値Tthを超えている(L>Tth)場合にのみ、前記タスクBの処理を開始する。このタスクBでは、このタスクBの開始時を基準として、前記タスクAで求めた周期Tiのうち、最後に求めた周期Tnと、その1つ前に求めた周期Tn-1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=Tn-1、全周期L=Tn-1+Tn)を求める。例えば、全周期Lαの径過後に開始するタスクBでは、周期T2と周期T1とを利用して、パルス周期比δ/L(部分周期δ=T1、全周期L=T1+T2)を求める。そして、このパルス周期比δ/Lに基づいて、前記物理量を算出する。
【0036】
尚、前記閾値Tthは、前記主軸4の総ての回転速度範囲で前記タスクBが重複して実行されない様に設定した時間である。この様な閾値Tthは、前記全周期L(Lα、Lβ、Lγ)が経過してから、前記タスクBを1回実行するのに要する時間よりも長い時間に設定している。この様な閾値Tthの設定の仕方に就いては、後でより詳しく説明する。
【0037】
上述した様な演算器は、具体的には、次の様に動作する。先ず、前記主軸4が低速回転する状態を、図8に示す。この状態では、総てのピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγが、前記閾値Tthを超えている(Lα>Tth、Lβ>Tth、Lγ>Tth)。この為、前記演算器は、これら各全周期Lα、Lβ、Lγが経過する毎に、毎回、前記タスクBを実行する。尚、図8(及び次述する図9)中の出力α、出力β、出力γは、それぞれ前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγ中に取得された情報に基づいて算出された物理量を表している。
【0038】
次に、前記主軸4の回転速度が増した状態を、図9に示す。この主軸4の回転速度が増すと、その分だけ、前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγが短くなる。この為、前記主軸4の回転速度が増すと、図示の様に、前記各全周期Lα、Lβ、Lγに対する前記閾値Tthの比が増す(この閾値Tth自体が増している訳ではない)。この図9に示した状態では、前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγのうちで、最も短いピッチα部分での全周期Lαのみが、前記閾値Tthよりも小さくなっており(Lα<Tth)、残りの各ピッチβ、γ部分での全周期Lβ、Lγは、前記閾値Tthを超えている(Lβ>Tth、Lγ>Tth)。この為、前記演算器は、最も短いピッチα部分での全周期Lαが経過したタイミングでは、前記タスクBの実行をせず(スキップし)、残りの各ピッチβ、γ部分での全周期Lβ、Lγが経過する毎に、前記タスクBを実行する。
【0039】
又、図示は省略するが、前記主軸4の回転速度が更に増すと、前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγのうちで、最も長いピッチγ部分での全周期Lγのみが、前記閾値Tthを超え(Lγ>Tth)、残りの各ピッチα、β部分での全周期Lα、Lβは、前記閾値Tthよりも小さい(Lα<Tth、Lβ<Tth)状態となる。この状態で、前記演算器は、最も長いピッチγ部分での全周期Lαが経過する毎に、前記タスクBを実行し、残りの各ピッチα、β部分での全周期Lα、Lβが経過するタイミングでは、前記タスクBの実行をしない(スキップする)。
【0040】
次に、前記閾値Tthの設定の仕方に就いて説明する。前述した様に、この閾値Tthは、前記主軸4の総ての回転速度範囲で前記タスクBが重複して実行されない様に設定した時間である。本例の場合、前記演算器は、シングルプロセッサを搭載している(マルチプロセッサ、或は、マルチコアプロセッサを搭載していない)。この為、前記タスクBの実行中に、前記タスクAの実行が開始されると、このタスクBの実行は、一時的に中断される。そして、このタスクAの実行が完了した時点で、前記タスクBの実行が再開される。又、前記タスクAを実行する時間間隔(前記パルス間の周期Ti)は、前記主軸4の最高回転速度で最短になる。この為、前記タスクBの実行中に前記タスクAが実行される回数は、前記主軸4の最高回転速度で最も多くなる。従って、前記全周期L(Lα、Lβ、Lγ)が経過してから、この全周期L(Lα、Lβ、Lγ)中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理(前記タスクAの処理を優先させながらの前記タスクBの処理)を1回実行し終わるまでの間に要する時間は、前記主軸4の最高回転速度で最長になる。この最長の時間は、具体的には、前記主軸4が最高回転速度で回転している状態で、前記全周期L(Lα、Lβ、Lγ)が経過してから、前記タスクBの処理を1回実行し終わるまでの間に実行される、前記タスクAの最大実行回数MにこのタスクA単体の処理時間TAを乗じて得た時間M・TAと、前記タスクB単体の処理時間TBとの和(M・TA+TB)である。この最長の時間(M・TA+TB)よりも長い時間間隔で、前記タスクBの実行を開始する様にすれば、前記演算器がこのタスクBを重複して実行する事がなくなる。そこで、本例の場合には、前記閾値Tthを、この最長の時間(M・TA+TB)よりも長い時間(Tth>M・TA+TB)に設定している。
【0041】
この点に就いて、図10に具体例を挙げて説明する。タスクBは、第一透孔(11a1、11a2、11a3)のタスクAの終了時から実行が開始される。図10に示した例の場合、第一回目の処理では、タスクB終了までにタスクAが2回割り込みで実行されている。従って、トータルで要する処理時間は、2・TA+TBとなる。同じく第二回目の処理では、タスクAの割り込みが1回である為、トータルで要する処理時間は、1・TA+TBとなる。一方、シングルプロセッサを搭載した演算器では、タスクBの実行中に割り込まれるタスクAの回数は最大でM(前記主軸4の最高回転速度時)となる。この為、最長の処理時間はM・TA+TBとなる。従って、前記閾値Tthが満たすべき条件は、Tth>M・TA+TBとなる。
【0042】
尚、前記演算器がマルチプロセッサ、或いは、マルチコアプロセッサを搭載している場合には、前記タスクAと前記タスクBとを互いに独立して(並列に)実行する事が可能となる。従って、この場合には、前記閾値Tthを、Tth>TBに設定すれば良い。この点に就いて、図11に具体例を挙げて説明する。タスクAとタスクBが完全に並列で実行される場合には、例えば図11に示す様になる。タスクBが開始できるかの条件判定処理は、タスクA内の所定のタイミングで実行される。ここでは、分かり易くする為に、タスクA終了と同時にタスクBの実行が開始されるとする。第一透孔(11a1、11a2、11a3)のタスクAの開始タイミングの間隔は、全周期L(Lα、Lβ、Lγ)なので、同じく終了タイミングの間隔も、全周期L(Lα、Lβ、Lγ)となる。この為、タスクA内の所定のタイミング同士の間隔、即ち、タスクBの開始タイミングの最短間隔も、全周期L(Lα、Lβ、Lγ)となる。従って、この全周期L(Lα、Lβ、Lγ)がタスクBの実行時間Tbよりも長ければ、タスクBは重複して実行される事がなくなる。つまり、この場合には、前記閾値Tthを、Tth>TBに設定すれば良い。
【0043】
更に、本例の場合には、前記主軸4が最高回転速度で回転している状態で、前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγが何れも前記閾値Tth以下になる事、即ち、前記タスクBが全く実行されなくなる事を防止する為に、前記閾値Tthの設定範囲を更に制限している。具体的には、上述の様な条件を満たす閾値Tthを、前記主軸4が最高回転速度で回転している状態での最長の全周期である、前記ピッチγ部分での全周期Lγよりも短い時間であって、且つ、同じ状態で次に長い全周期である、前記ピッチβ部分での全周期Lβよりも長い時間に設定している。言い換えれば、本例の場合には、前記主軸4が最高回転速度で回転している状態で、前記ピッチγ部分での全周期Lγのみが前記閾値Tthを超える様に、前記被検出面に設ける特性変化パターンの寸法を規制している。
【0044】
上述の様に、本例の回転部材用物理量測定装置の場合には、前記主軸4の回転速度が比較的低く、前記各ピッチα、β、γ部分での全周期Lα、Lβ、Lγが総て前記閾値Tthを超えている状態では、前記物理量の算出処理(前記タスクB)を、これら各全周期Lα、Lβ、Lγが経過する毎に毎回実行する。これに対し、前記主軸4の回転速度が高くなる事に伴い、前記各全周期Lα、Lβ、Lγのうちの一部の全周期(Lα、又は、Lα及びLβ)が前記閾値Tth以下になった状態では、前記物理量の算出処理を、前記各全周期Lα、Lβ、Lγが経過する毎に毎回は実行せず、3回に2回、又は、3回に1回の割合(前記物理量の算出処理が重複して実行されない間隔)で実行する。この為、前記被検出面に設ける特性変化組み合わせ部3a1、3a2、3a3の数を多くする事によって、前記主軸4が低速回転する状態での前記物理量の測定に関する応答性を十分に確保でき、しかも、前記主軸4が高速回転する状態で、前記演算器の処理能力が追い付かなくなる事を防止できる。従って、前記主軸4が高速回転する状態での物理量の算出処理に異常が発生する事を防止しつつ、この物理量の測定に関する応答性を、前記主軸4の総ての回転速度範囲で十分に確保できる。
【0045】
尚、本発明を構成する演算器に搭載するプロセッサは、比較的安価なシングルプロセッサに限らず、比較的高価なマルチプロセッサやマルチコアプロセッサとする事もできる。但し、何れのプロセッサを搭載する場合でも、上述した効果を得られる為、比較的安価なシングルプロセッサを搭載する事によって、コストパフォーマンスの高い構造を実現できる。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図12は、請求項1〜3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、エンコーダ1bの被検出面に設けた複数の特性変化組み合わせ部3b1、3b2、3b3を構成する第一透孔11a、11aの形成方向のみが、上述した実施の形態の第1例の場合と異なる。即ち、本例の場合には、前記各第一透孔11a、11aの形成方向を、前記エンコーダ1bの軸方向(前記被検出面の幅方向)とせず、この軸方向に対して、前記各特性変化組み合わせ部3b1、3b2、3b3を構成する第二透孔11b1、11b2、11b3と反対方向に所定角度θだけ傾斜した方向としている。この様な構成を有する本例の場合には、前記各第一透孔11a、11aを、前記各第二透孔11b1、11b2、11b3と反対方向に所定角度θだけ傾斜させた分、上述した実施の形態の第1例の場合に比べて、物理量(軸方向変位量、アキシアル荷重)の変化に対するパルス周期比の変化の割合(ゲイン)を大きくできる。その他の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様である。
【0047】
尚、本発明を実施する場合には、総ての第二特性変化部の傾斜角度を等しくする事もできる。但し、この様な構成を採用する場合には、前述した様に、円周方向に関する第一特性変化部のピッチが異なる場所毎に、回転部材に作用する荷重に対するゲインが異なる様になる。この為、やはり前述した様に、パルス周期比から物理量を算出する際に使用する演算式を、前記ピッチが異なる場所毎に変える必要がある。
【0048】
又、本発明を実施する場合、磁性材製のエンコーダの被検出面に設ける第一、第二両特性変化部は、透孔ではなく、例えば凹溝や凸部とする事もできる。
又、本発明を実施する場合には、エンコーダの軸方向側面に円輪状の被検出面を設けると共に、この被検出面にセンサの検出部を軸方向に対向させる構成を採用して、回転部材に作用するラジアル荷重と、この回転部材の径方向の変位量とのうちの少なくとも一方の物理量を測定可能とする事もできる。
又、本発明は、工作機械の主軸に関する物理量を測定する構造に限らず、例えば、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材に関する物理量を測定する構造に適用する事もできる。
【符号の説明】
【0049】
1、1a エンコーダ
2a、2b 透孔
3、3a1〜3a3、3b1〜3b3 特性変化組み合わせ部
4 主軸
5 ハウジング
6 多列転がり軸受ユニット
7 電動モータ
8a〜8d 転がり軸受
9 センサユニット
10 センサ
11a、11a1〜11a3、11b1〜11b3 透孔
12 ホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しない静止部材と、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材と、この回転部材の一部に支持固定された、この回転部材と同心の被検出面を有するエンコーダと、検出部をこの被検出面に対向させた状態で前記静止部材に支持されたセンサと、このセンサの出力信号を処理する演算器とを備え、
前記エンコーダの被検出面は、それぞれがこの被検出面の円周方向に離隔して設けられた第一特性変化部及び第二特性変化部から成る、複数の特性変化組み合わせ部を、前記被検出面の円周方向に間隔をあけて配置したもので、前記第一、第二両特性変化部に関する、前記被検出面の幅方向に対する正負の方向をも考慮した傾斜角度を、互いに異ならせており、
前記センサは、前記各特性変化部が前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものであり、
前記演算器は、前記被検出面の円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部を構成する1対の第一特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である全周期と、これら両第一特性変化部のうちの一方の第一特性変化部及び前記被検出面の円周方向に関してこれら両第一特性変化部同士の間に配置された前記第二特性変化部に基づいて発生する1対のパルス間の周期である部分周期との比である、パルス周期比に基づいて、それぞれが前記被検出面の幅方向に関する、前記回転部材の変位量とこの回転部材に加わる荷重とのうちの少なくとも一方の物理量を算出するものである回転部材用物理量測定装置に於いて、
前記被検出面の円周方向に関して前記各第一特性変化部が不等ピッチで配置されており、前記演算器は、前記全周期が経過する毎に、この全周期と予め設定しておいた閾値とを比較して、この全周期がこの閾値を超えている場合にのみ、前記物理量の算出処理を実行する事を特徴とする回転部材用物理量測定装置。
【請求項2】
前記閾値は、前記全周期が経過してからこの全周期中に取得した情報を利用して前記物理量の算出処理を1回実行し終わるまでの間に要する時間よりも長い時間である、請求項1に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項3】
前記被検出面の円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部を構成する1対の第一特性変化部の、この円周方向に関するピッチと、この円周方向に関してこれら両第一特性変化部同士の間に配置された前記第二特性変化部の、前記被検出面の幅方向に対する傾斜角度との比が、前記円周方向に関するピッチの大きさによらず一定になっている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項4】
前記各第一特性変化部を、前記被検出面の幅方向に形成された非傾斜特性変化部とし、前記各第二特性変化部を、前記被検出面の幅方向に対して所定角度だけ傾斜した方向に形成された傾斜特性変化部とすると共に、前記各第一特性変化部のうちの一部の第一特性変化部を円周方向に関して等ピッチで配置している、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−163413(P2012−163413A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23151(P2011−23151)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】