説明

回転電機のロータ

【課題】永久磁石が減磁するのを回避して高温動作が可能となる回転電機のロータを提供する。
【解決手段】磁性体からなる円盤状のロータコア11と、ロータコア11に、周方向に並ぶ2個一組からなり、交互に極性を変え周方向に沿って配置した複数の永久磁石13,14と、ロータコア11に、隣接する異極の永久磁石13,14の間に配置して形成した非磁性部とを有する。非磁性部は、ロータコア11に開けられた空間によって形成された空気層である。非磁性部は、隣接する異極の永久磁石13,14をつなぐように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機のロータに関し、特に、永久磁石モータとして用いられる回転電機のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車用走行モータに用いられる回転電機が知られている。この回転電機は、永久磁石の使用量を維持しつつも、永久磁石を構成する永久磁石片の数を抑えて、弱め磁束制御の際に発生する渦電流損失の抑制を効率的に行うIPM(Interior Permanent Magnet)構造のモータである(特許文献1参照)。
【0003】
このIPM構造のモータは、回転子に永久磁石を埋め込むことで、永久磁石N極方向の磁気抵抗より、永久磁石N極、S極間方向の磁気抵抗を小さくし、d軸とq軸の磁気抵抗の差によるリラクタンスを発生させている。
【特許文献1】特開2004−96868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のIPM構造のモータに用いられる永久磁石、特に汎用されている高BHmaxのNeFeBr系のものは、高温状態にあると、また、強い反磁界が加わると減磁が発生し、本来持っていた磁束を出すことができない。このため、永久磁石モータにおいては、永久磁石温度が減磁する温度を超えない範囲で、また、永久磁石に強い反磁界が加わらない状態で使用している。特に、永久磁石温度が減磁する温度を超えない範囲で使用することを考慮して、モータ冷却系の強化や、永久磁石を分割して可能な限り磁石が発熱しないようにする等の対策を必要とするため、コストが非常に高くなることが避けられなかった。
【0005】
この発明の目的は、永久磁石が減磁するのを回避して高温動作が可能となる回転電機のロータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明に係る回転電機のロータは、磁性体からなる円盤状のロータコアと、前記ロータコアに、周方向に並ぶ2個一組からなり、交互に極性を変え周方向に沿って配置した複数の永久磁石と、前記ロータコアに、隣接する異極の前記永久磁石の間に配置して形成した非磁性部とを有している。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る回転電機のロータにより、極性の異なる複数の永久磁石の異極間に、非磁性部を配置して、同一極毎に周方向に並ぶ2個の磁石間のロータ半径方向の磁気抵抗が、磁石表面に沿った磁気抵抗よりも小さくなるようにしたため、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことができ、順凸極型となる。順凸極型となることにより、磁石磁束の磁気回路抵抗が小さいため、逆凸極型に対し少ない磁石量で磁束を発生させることができ、また、磁界を強めるようにd軸電流を流すため、反磁界による減磁が低下してリラクタンストルクを出力することができる。よって、永久磁石が減磁するのを回避して高温動作が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、この発明の第1実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。図1に示すように、回転電機のロータ10は、円盤状のロータコア11と、ロータコア11の回転軸となるシャフト12を有する。ロータコア11は、例えば、電磁鋼板を積層した磁性体により形成されており、ロータコア11の外周縁近傍には、それぞれ周方向に並ぶ2個一組のN極永久磁石13とS極永久磁石14が交互に周方向に沿って複数組(図1では2組ずつ計4組)配置されている。
【0009】
この回転電機は、ロータ(回転子)に備えた永久磁石が回転してできる回転磁界と同期させて電機子巻線に電流を通電し、トルクを発生させる永久磁石型同期電動機として機能する。回転電機のロータ10において、図1に示すようにd軸、q軸を定義すれば、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことが可能となり、順凸極型となる。これとは逆の場合(Ld<Lq)は逆凸極型となる。
【0010】
ところで、これまでの逆凸極型の永久磁石モータでリラクタンストルクを出力するためには、d軸電流を負にする必要があった。ここで、負のd軸電流とは永久磁石の磁束を打ち消すように電機子巻線に電流を通電することであり、磁石にとっては反磁界がかかることになる。磁石に反磁界がかかった場合、磁石内部には反磁界を打ち消すべく磁界を発生しようと渦電流が流れる。この渦電流は磁石内部で損失となり、磁石の温度を上昇させるために強い反磁界が加わったような動作点であれば、永久減磁状態になってしまう。
【0011】
また、高トルクを少ない永久磁石量で実現しようとすれば、磁石磁束分のトルクが低下した分をリラクタンストルクで補うことになる。これを、従来の逆凸極型で実現しようとすれば、d軸磁路、即ち永久磁石磁束の回路に大きい磁気抵抗を挿入することになる。このような場合、磁石量を大きくしても磁気抵抗も大きくなるので磁石量を更に大きくする必要性があった。また、必要なリラクタンストルクを出力しようとした場合、前述したように負のd軸電流を通電する必要があるが、実際は、磁石が減磁しないようにd軸電流に制限を設けている。この制限により、リラクタンストルクを増加することができないため、結果として、トルクを大きくすることができない。
【0012】
順凸極型でこれらを実現する場合、磁石磁束の磁気回路抵抗が小さいため、逆凸極型に対し少ない磁石量で磁束を発生させることができ、また、磁界を強めるようにd軸電流を流すため、反磁界による減磁が低下してリラクタンストルクを出力することができる。この発明に係る回転電機のロータ10は、このような状態を実現することができるロータ構造を有するものである。
【0013】
回転電機のロータ10のN極永久磁石13とS極永久磁石14は、それぞれ平面形状が線対称の台形状を有し、離間して対向配置された2個一組からなり、N極永久磁石13とS極永久磁石14の間には、ロータコア11の表裏面を貫通し外周縁側に開口する凹部15が形成されている。この凹部15は、各永久磁石13,14のロータコア半径方向長さの略半分の深さを有しており、異極の永久磁石間に空気層を設けている。つまり、同一極毎に周方向に並ぶ2個の磁石間のロータ半径方向の磁気抵抗が、磁石表面に沿った磁気抵抗よりも小さくなるようにした。
【0014】
このため、q軸の磁気抵抗が大きくなり、q軸インダクタンスを低下させることができる。一方、同一極の永久磁石間には空気層は設けられておらず、d軸の磁束は、同一極の永久磁石間に形成される経路を通るため、d軸の磁気抵抗はq軸の磁気抵抗より小さくなる。従って、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことができ、順凸極型となる。
【0015】
図2は、この発明の第2実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。図2に示すように、回転電機のロータ20は、ロータコア21に、凹部15に代えて、開口面が長方形状の幅広のスリット22を有している。このスリット22は、長軸がq軸と直交すると共に、各永久磁石13,14のロータコア半径方向長さの中心より若干外周縁側に位置するように、配置されており、異極の永久磁石間に空気層を設けている。その他の構成及び作用は、ロータ10と同様である。これにより、結果としてq軸の磁気抵抗がd軸の磁気抵抗よりも大きくなり、順凸極型を実現することができる。
【0016】
図3は、この発明の第3実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。図3に示すように、回転電機のロータ30は、ロータコア31にN極永久磁石32とS極永久磁石33を有している。N極永久磁石32とS極永久磁石33は、それぞれ平面形状が同一の細長い長方形状を有し、長軸方向が略ロータコア半径方向に沿う逆ハの字型に離間するように配置した、2個一組からなる。同一極の永久磁石の間には、2個の永久磁石のそれぞれの内側に位置する2個の第1スリット34,34が開けられ、異極の永久磁石の間には、1個の第2スリット35が開けられている。その他の構成及び作用は、ロータ10と同様である。
【0017】
2個の第1スリット34,34は、共にd軸に平行に配置されており、永久磁石のロータコア半径方向長さの略中心から第2スリット35のシャフト12側に達する長さを有している。また、各第1スリット34には、永久磁石のシャフト12側端のシャフト12側に、永久磁石側に延びて永久磁石の短軸方向反対側辺に達し第2スリット35に隣接する長さの枝部34aを有している。第2スリット35は、各永久磁石のシャフト12側端からシャフト12側に離間して隣接する永久磁石間に位置し、且つ、長軸がq軸と直交するように、配置されている。
【0018】
このロータ30は、同一極の永久磁石を逆ハの字型に配置しているので、同一極の永久磁石を平行に配置した場合(ロータ10,20、図1,2参照)に比べて、ステータと鎖交する磁石磁束を大きくすることができる。また、各第1スリット34による空気層がd軸と平行に配置されており、隣接する同一極の永久磁石間において対向するエアギャップが平行に位置する。このため、永久磁石端部の漏れ磁束の低減が可能になると共に、q軸の磁気抵抗を大きくすることができる。従って、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことができ、順凸極型となる。
【0019】
図4は、この発明の第4実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。図4に示すように、回転電機のロータ40は、ロータコア41に、N極永久磁石32とS極永久磁石33を、2個一組の永久磁石がd軸に平行に、且つ、離間するように配置している。また、第1スリット34を形成せず、第2スリット35が、両端を、異極の各永久磁石のシャフト12側端の側辺に隣接させて、隣接する永久磁石間に位置するように配置している。その他の構成及び作用は、ロータ30と同様である。
【0020】
つまり、隣接する同一極の永久磁石は、逆ハの字型ではなく、ロータコア半径方向と平行に配置されており、異極の永久磁石間には、隣接する永久磁石をつなぐように空気層が設けられることになる。また、隣接する永久磁石間が、異極の距離よりも同一極の距離の方が格段に短く、即ち、隣接異極ピッチが隣接同一極ピッチより大きくなり、その結果、異極の2個の永久磁石と第2スリット35とロータコア41の外周で囲まれるコア面積が広くなったため、d軸の磁気抵抗をq軸の磁気抵抗よりも小さく保つことができる。これにより、結果として、q軸の磁気抵抗がd軸の磁気抵抗よりも大きくなり、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことができ、順凸極型を実現することができる。
【0021】
図5は、この発明の第5実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。図5に示すように、回転電機のロータ50は、ロータコア51に、N極永久磁石32とS極永久磁石33を、2個一組の永久磁石が、長軸方向を略ロータコア半径方向に沿う逆ハの字型に離間するように、配置している。その他の構成及び作用は、ロータ40と同様である。
【0022】
つまり、隣接する同一極の永久磁石は、平行ではなく逆ハの字型に配置されており、その結果、異極の2個の永久磁石と第2スリット35とロータコア41の外周で囲まれるコア面積が、ロータ40のコア面積よりも小さくなる。小さくなった分、d軸のインダクタンスLdとq軸のインダクタンスLqの比である凸極比(Ld/Lq)は低下するが、永久磁石の磁束を大きくすることができる。
【0023】
このように、この発明によれば、極性の異なる複数の永久磁石の異極間に、非磁性部を配置して、同一極毎に周方向に並ぶ2個の磁石間のロータ半径方向の磁気抵抗が、磁石表面に沿った磁気抵抗よりも小さくなるようにしたため、d軸のインダクタンスLdをq軸のインダクタンスLqより大きくする(Ld>Lq)ことができ、順凸極型となる。
【0024】
順凸極型となることにより、磁石磁束の磁気回路抵抗が小さいため、逆凸極型に対し少ない磁石量で磁束を発生させることができ、また、磁界を強めるようにd軸電流を流すため、反磁界による減磁が低下してリラクタンストルクを出力することができる。よって、永久磁石が減磁するのを回避して高温動作が可能となる。
【0025】
なお、上記各実施の形態において、凹部15、スリット22、第1スリット34、第2スリット35によりエアギャップを形成したが、これに限るものではなく、凹部15、スリット22、第1スリット34、第2スリット35に、例えば埋設状態に非磁性材料を装着して、エアギャップと同様の効果を得てもよい。非磁性材料としては、銅、ステンレス、アルミニウム、真鍮等を用いることができる。また、N極永久磁石13(32)、S極永久磁石14(33)と、凹部15、スリット22、第1スリット34、第2スリット35は、それぞれの配置等の構成において、任意に組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。
【図2】この発明の第2実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。
【図3】この発明の第3実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。
【図4】この発明の第4実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。
【図5】この発明の第5実施の形態に係る回転電機のロータの平面図である。
【符号の説明】
【0027】
10,20,30,40,50 ロータ
11,21,31,41,51 ロータコア
12 シャフト
13,32 N極永久磁石
14,33 S極永久磁石
15 凹部
22 スリット
34 第1スリット
35 第2スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体からなる円盤状のロータコアと、
前記ロータコアに、周方向に並ぶ2個一組からなり、交互に極性を変え周方向に沿って配置した複数の永久磁石と、
前記ロータコアに、隣接する異極の前記永久磁石の間に配置して形成した非磁性部と
を有する回転電機のロータ。
【請求項2】
前記非磁性部は、前記ロータコアに開けられた空間によって形成された空気層である請求項1に記載の回転電機のロータ。
【請求項3】
前記非磁性部は、隣接する異極の前記永久磁石をつなぐように配置されている請求項1または2に記載の回転電機のロータ。
【請求項4】
隣接する同一極の前記永久磁石をロータコア半径方向と平行に配置し、前記永久磁石の隣接異極ピッチを隣接同一極ピッチより大きくした請求項1から3のいずれかに記載の回転電機のロータ。
【請求項5】
前記非磁性部を、前記非磁性部と隣接する異極の前記永久磁石と前記ロータコアの外周で囲まれる面積が最大となる位置に形成した請求項1から4のいずれかに記載の回転電機のロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−81377(P2006−81377A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265642(P2004−265642)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】