説明

回転電機の回転子

【課題】磁石ホルダ内での永久磁石の移動と永久磁石の破損を防止することができる回転電機の回転子を提供すること。
【解決手段】車両用交流発電機100の回転子1は、複数の磁極爪部123、143が形成された一対の界磁鉄心12、14と、磁極爪部123、143からの漏洩磁束を防ぐ向きに着磁されてこれらの間に配置された複数の永久磁石15と、永久磁石を包囲する磁石ホルダ40とを備えている。永久磁石15は直方体形状であり、磁石ホルダ40は、磁極爪部123、143間に装着されたときに外周側に配置される外周面42と、この外周面42に対して垂直な向きをなす複数の側面44と、外周面42と側面44とで永久磁石15を包囲したときに永久磁石15と外周面42との間に配置されて外周面42よりも小さい補助部材48とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車やトラック等に搭載される車両用回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用交流発電機は、軸方向一端側にて支持されて軸方向に延在する複数の磁極爪部と、軸方向他端側にて支持されて軸方向に延在する複数の磁極爪部とが周方向交互に配置されるランデル型回転子を備えている。周方向に隣接する二つの磁極爪部は、反対向きに磁化されているため、両者間で漏洩磁束が発生して出力減少を招く。このため、周方向に隣接する二つの磁極爪部間に漏洩磁束低減のための永久磁石を配設した構造が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この永久磁石は磁石ホルダに収容された状態で磁極爪部間に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−336723号公報(第4−7頁、図1−10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1等に開示された磁石ホルダでは、外周面と側面との間の角部のR寸法(曲面の半径)が永久磁石の角部のR寸法よりも大きいと、これらの角部が干渉して永久磁石の磁石ホルダとの間に隙間が生じ、回転子が回転したときに発生する遠心力によって永久磁石が磁石ホルダ内で移動したり、永久磁石の角部が破損するおそれがあるという問題があった。このような場合の対策としては、外周面と側面との間の角部のR寸法を極端に小さくする場合が考えられるが、磁石ホルダを板材の折り曲げにより形成する場合にはこのR寸法をあまり小さくすることはできない。また、永久磁石の角部を加工してそのR寸法を大きくすることで対策することもできるが、加工工程の追加によるコスト増加につながるため、有効な対策とはいえない。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、磁石ホルダ内での永久磁石の移動と永久磁石の破損を防止することができる回転電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の回転電機の回転子は、複数の磁極爪部が形成された一対の界磁鉄心と、磁極爪部からの漏洩磁束を防ぐ向きに着磁されて一対の界磁鉄心の磁極爪部間に配置された複数の永久磁石と、永久磁石を包囲する磁石ホルダとを備えた回転電機の回転子において、永久磁石は直方体形状であり、磁石ホルダは、磁極爪部間に装着されたときに外周側に配置される外周面と、この外周面に対して垂直な向きをなす複数の側面と、外周面と側面とで永久磁石を包囲したときに永久磁石と外周面との間に配置されて外周面よりも小さい補助部材とを有している。
【0007】
これにより、外周面と側面との間の角部のR形状(曲面形状)に干渉することなく永久磁石の外周側の面を補助部材に当接させることができるため、回転時の遠心力によって永久磁石が外周側に移動したり、この移動に伴って永久磁石の角部が破損することを防止することができる。
【0008】
また、上述した外周面と側面は連続しており、連続する外周面と側面の境界と、補助部材との間に隙間が形成されていることが望ましい。これにより、確実に永久磁石の角部の破損を防止することが可能となる。
【0009】
また、上述した磁石ホルダは、1枚の板材を折り曲げることで形成され、補助部材は、外周面と連続する板材を折り曲げることにより形成されていることが望ましい。1枚の板材を用いて磁石ホルダを形成することにより、面倒な接合工程をなくして工程の簡略化が可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0010】
また、上述した補助部材を折り曲げる箇所の板材が部分的に切り抜かれていることが望ましい。また、矩形形状の補助部材の折り曲げは、矩形形状の長辺において行われることが望ましい。これにより、板材の折り曲げによって生じるスプリングバックを低減することができ、補助部材の全面を外周面や永久磁石に確実に接触させることが可能となる。
【0011】
また、上述した磁石ホルダは、永久磁石を補助部材に押圧するバネを有することが望ましい。これにより、補助部材の全面を外周面や永久磁石にさらに確実に接触させることが可能となる。
【0012】
また、上述した永久磁石は、含浸材を用いて磁石ホルダに固着されていることが望ましい。これにより、磁石ホルダ内での永久磁石の移動を防止し、永久磁石の角部が破損することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の車両用交流発電機の軸方向断面図である。
【図2】回転子の斜視図である。
【図3】回転子の部分的な断面図である。
【図4】永久磁石を含む磁石ホルダの拡大断面図である。
【図5】折り曲げて磁石ホルダを形成する前の板材の展開図である。
【図6】板材を折り曲げることで形成された磁石ホルダの斜視図である。
【図7】変形例の磁石ホルダを形成する前の板材の展開図である。
【図8】板バネを追加した変形例の磁石ホルダを含む回転子の部分的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した一実施形態の車両用交流発電機について、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態の車両用交流発電機の軸方向断面図である。図1に示すように、本実施形態の車両用交流発電機100は、回転子1、固定子2、フロントハウジング3、リアハウジング4、プーリ5、ブラシ装置7、整流器8、レギュレータ9を含んで構成されている。
【0015】
固定子2は、回転子1と対向配置されており、固定子鉄心21に固定子巻線22を巻装することで構成されている。この固定子2は、フロントハウジング3およびリアハイジング4の内周面に固定されている。フロントハウジング3およびリアハウジング4は、固定子2を囲んた状態でボルトにより締結されている。フロントハウジング3およびリアハウジング4は、軸受けを介して回転子1の回転軸11を回転自在に支持している。
【0016】
回転子1は、回転軸11に固定された前側(プーリ側)の界磁鉄心12と、界磁巻線13と、後側(反プーリ側)の界磁鉄心14と、永久磁石15およびこれを保持する磁石ホルダ40とにより構成されている。永久磁石15は、非磁性金属板で構成された箱形形状の磁石ホルダ40によって包囲されている。磁石ホルダ40の詳細については後述する。
【0017】
界磁鉄心12、14は、ランデル式回転子の一対の界磁鉄心と同じ形状を有する。前側の界磁鉄心12は、円柱形状のボス部121と、ボス部121の前端側から径方向外側へ延在する円盤状のディスク部122と、ディスク部122から軸方向後方へ延在する複数の磁極爪部123とからなる。後側の界磁鉄心14も界磁鉄心12と同一形状を有し、ボス部141、ディスク部142、複数の磁極爪部143からなる。界磁鉄心12の後端面と界磁鉄心14の前端面とが接面され、界磁巻線13が界磁鉄心12、14により囲まれている。界磁鉄心12、14は軟磁性体材料により形成されており、界磁鉄心12の磁極爪部123と界磁鉄心14の磁極爪部143とが周方向に交互に配置される。
【0018】
次に、回転子1に含まれる磁石ホルダ40の詳細について説明する。図2は、回転子1の斜視図である。なお、回転子1の界磁鉄心12、14のそれぞれの軸方向端面には冷却ファンが溶接等により固定されているが、図2ではこれらの冷却ファンが省略されている。また、図3は回転子1の部分的な断面図であり、界磁鉄心12、14の合わせ面近傍における回転軸11に垂直な向きの断面形状が示されている。図4は、永久磁石15を含む磁石ホルダ40の拡大断面図である。
【0019】
永久磁石15は、直方体形状であって、漏洩磁束を防ぐ向きに着磁されて、一対の界磁鉄心12、14のそれぞれの磁極爪部123、143の間に、磁石ホルダ40に収容された状態で配置されている。例えば、界磁巻線13に励磁電流が流れたときに一方の界磁鉄心12の磁極爪部123がN極に、他方の界磁鉄心14の磁極爪部143がS極にそれぞれ磁化されるものとすると、永久磁石15は、磁極爪部123に対向する側がN極に、磁極爪部143に対向する側がS極になるように着磁されたものが用いられる。
【0020】
また、一方の界磁鉄心12の磁極爪部123には、磁石ホルダ40の外径側(回転軸11を中心とした場合の外径側)への移動を拘束するつば部123Aが外径端部から径方向に張り出す形状に形成されている。同様に、他方の界磁鉄心14の磁極爪部143には、磁石ホルダ40の外径側への移動を拘束するつば部143Aが外径端部から径方向に張り出す形状に形成されている。
【0021】
磁石ホルダ40は、周方向に隣接する磁極爪部123、143間に装着されたときに外周側に配置される外周面42と、この外周面42に対して垂直な向きをなす複数の側面44、46と、外周面42と側面44、46とで永久磁石15を包囲したときに永久磁石15と外周面42との間に配置されて外周面42よりも小さい補助部材48とを有する。外周面42と側面44とは連続しており、これらの連続する外周面42と側面44の境界となる角部と補助部材48との間には隙間が形成されている。
【0022】
本実施形態では、磁石ホルダ40は1枚の板材を折り曲げることで形成されており、補助部材48は外周面42と連続する板材を折り曲げることにより形成されている。図5は、折り曲げて磁石ホルダ40を形成する前の板材の展開図である。また、図6は板材を折り曲げることで形成された磁石ホルダ40の斜視図である。A〜Gの符号はこれらの図における各面の対応関係を示している。この磁石ホルダ40は、永久磁石15を収容した状態で磁極爪部123、143間に装着されると、Aの面が補助部材48、Bの面が外周面42、C、E、Fの面が側面44に、Gの面が側面46となる。また、これらの図から明らかなように、矩形形状を有する補助部材48の折り曲げは、矩形形状の長辺側において行われている。
【0023】
このように、本実施形態の回転子1に含まれる磁石ホルダ40では、外周面42と側面44との間の角部のR形状に干渉することなく永久磁石15の外周側の面を補助部材48に当接させることができるため、回転時の遠心力によって永久磁石15が外周側に移動したり、この移動に伴って永久磁石の角部が破損することを防止することができる。特に、連続する外周面42と側面44の境界(角部)と補助部材48との間には隙間が形成されているため、永久磁石15の角部と磁石ホルダ40との干渉を回避して、確実に永久磁石15の角部の破損を防止することが可能となる。また、1枚の板材を用いて磁石ホルダ40を形成することにより、面倒な接合工程をなくして工程の簡略化が可能となり、コスト低減を図ることができる。
【0024】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。上述した実施形態では、図5に示すようにAおよびBで示された面の長辺全体で板材を折り曲げるようにしたが、図7に示すように、補助部材(Aで示される面)を折り曲げる箇所の板材を部分的に切り抜くようにしてもよい。これにより、板材の折り曲げによって生じる補助部材48のスプリングバックを低減することができ、補助部材48の全面を外周面42や永久磁石15の対向面に確実に接触させることが可能となる。
【0025】
また、上述した実施形態では、磁石ホルダ40内に単に永久磁石15を収容するようにしたが、磁石ホルダ40内にバネを追加して、補助部材48に永久磁石15の対向面を押圧するようにしてもよい。図8は、バネを追加した磁石ホルダ40Aの変形例を示す断面図である。この磁石ホルダ40Aは、図3等に示した磁石ホルダ40に対して永久磁石15内周側に板バネ49が追加された点が異なっている。この板バネ49によって永久磁石15が外径側に押圧されるため、補助部材48に永久磁石15の対向面を確実に当接させることができ、回転時の永久磁石15の移動を防止することができる。なお、この板バネ49は、図5や図7に示した板材のDで示された面の一部を切り起こして形成するようにしてもよい。あるいは、板バネ49の代わりにコイルバネを用いるようにしてもよい。
【0026】
また、図3や図8に示された磁石ホルダ40、40A内に永久磁石15を収容した状態で含浸材をしみ込ませて、永久磁石15を磁石ホルダ40、40A内に固着させるようにしてもよい。これにより、磁石ホルダ40、40A内での永久磁石15の移動を確実に防止することができる。
【0027】
また、上述した実施形態では、1枚の板材を用いて磁石ホルダ40等を形成する場合について説明したが、磁石ホルダ40等を樹脂材料を用いて型成形によって形成する場合にも本発明を適用することができる。型形状によっては外周面42と側面44との境界となる角部にR形状が形成される場合があり、このR形状と永久磁石15との干渉を避けるために補助部材48を追加することは有効である。
【0028】
また、上述した実施形態では、補助部材48は1枚の板材により形成したが、板材を複数回折り返すことにより、補助部材48を2枚以上の板材を重ねることで形成するようにしてもよい。
【0029】
また、上述した実施形態では、車両用交流発電機100の回転子1について本発明を適用したが、同様の構造を有するものであれば、車両用交流発電機100以外の車両用回転電機(例えば、電動機や電動発電機)の回転子に本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
上述したように、本発明によれば、磁石ホルダ40の外周面42と側面44との間の角部のR形状に干渉することなく永久磁石15の外周側の面を補助部材48に当接させることができるため、回転時の遠心力によって永久磁石15が外周側に移動したり、この移動に伴って永久磁石の角部が破損することを防止することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 回転子
2 固定子
3 フロントハウジング
4 リアハウジング
5 プーリ
7 ブラシ装置
8 整流器
9 レギュレータ
11 回転軸
12、14 界磁鉄心
13 界磁巻線
15 永久磁石
40、40A 磁石ホルダ
42 外周面
44、46 側面
48 補助部材
49 板バネ
100 車両用交流発電機
123、143 磁極爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極爪部が形成された一対の界磁鉄心と、前記磁極爪部からの漏洩磁束を防ぐ向きに着磁されて前記一対の界磁鉄心の前記磁極爪部間に配置された複数の永久磁石と、前記永久磁石を包囲する磁石ホルダとを備えた回転電機の回転子において、
前記永久磁石は直方体形状であり、
前記磁石ホルダは、前記磁極爪部間に装着されたときに外周側に配置される外周面と、この外周面に対して垂直な向きをなす複数の側面と、前記外周面と前記側面とで前記永久磁石を包囲したときに前記永久磁石と前記外周面との間に配置されて前記外周面よりも小さい補助部材とを有することを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項2】
請求項1において、
前記外周面と前記側面は連続しており、
連続する前記外周面と前記側面の境界と、前記補助部材との間に隙間が形成されていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記磁石ホルダは、1枚の板材を折り曲げることで形成され、
前記補助部材は、前記外周面と連続する板材を折り曲げることにより形成されていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項4】
請求項3において、
前記補助部材を折り曲げる箇所の板材が部分的に切り抜かれていることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項5】
請求項3または4において、
矩形形状の前記補助部材の折り曲げは、前記矩形形状の長辺において行われることを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記磁石ホルダは、前記永久磁石を前記補助部材に押圧するバネを有することを特徴とする回転電機の回転子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記永久磁石は、含浸材を用いて前記磁石ホルダに固着されていることを特徴とする回転電機の回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−152000(P2012−152000A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8461(P2011−8461)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】