説明

回転電機の磁気回路構造

【課題】無負荷時のモータ鉄損の低減及びコギングトルクの低減を実現することができる回転電機の磁気回路構造を提供する。
【解決手段】回転方向に沿い交互に極性を変えて複数の永久磁石を配置したロータと、電気子コイルが巻かれ、ロータとの間にエアギャップを有して配置されたステータを有する回転電機の磁気回路構造において、無負荷時に、エアギャップg及び電機子コイル14と鎖交する永久磁石磁束より、エアギャップg又は電機子コイル14と鎖交しない永久磁石磁束の方を大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機の磁気回路構造に関し、特に、永久磁石モータとして用いられる回転電機の磁気回路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータに備えられた複数の永久磁石が、ロータ円周方向に永久磁石の円弧長と等しい円弧長の間隔をもって配列され、永久磁石の間の少なくとも一部に、軟磁性材料からなり、永久磁石の厚さと等しい厚さを有する突極を有する永久磁石モータが知られている。(特許文献1参照)。
【0003】
この永久磁石モータにより、発生トルクを確保しつつ、永久磁石の使用量を減少させることができ、また逆起電力も低減させることができる。
【特許文献1】特開平7−336919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した永久磁石モータは、通常の逆突極性のIPM(Interior Permanent Magnet)構造を有するものであり、磁束は常に静止した磁性材料(ステータティース)と鎖交している。このため、無負荷時のコギングトルクの発生やモータ鉄損の発生が避けられなかった。
【0005】
つまり、従来の永久磁石モータは、電機子電流が通電しない状態(トルク=0)においても、磁石から発生した磁束が静止している磁性材料と鎖交するような構成を有していたため、次のような状況が生じることになる。
1.無負荷時にモータ鉄損が発生しフリクションとなっていた。
2.無負荷でもモータ鉄損のためにモータ温度が上昇してしまい動作点を広くすることができなかった。
3.特に大トルクを実現するような永久磁石モータでは、磁束(磁石磁束)を大きくしているためにコギングトルクも大きくなりそれに伴う振動が発生する。
【0006】
また、高回転時に、コントローラやインバータの故障により供給電流が停止した場合には、回転を伴っていることから誘起電圧が発生し、インバータを構成するパワーデバイスやその他の電気部品の許容耐圧を越えてしまって破壊することがあった。加えて、通常は逆凸極性であるためトルクを増大するには界磁を弱めるが、このことは永久磁石に対しては反磁界となり、NeFeBr系の磁石では永久減磁する可能性があった。
この発明の目的は、無負荷時のモータ鉄損の低減及びコギングトルクの低減を実現することができる回転電機の磁気回路構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明に係る回転電機の磁気回路構造は、回転方向に沿い交互に極性を変えて複数の永久磁石を配置したロータと、電気子コイルが巻かれ、前記ロータとの間にエアギャップを有して配置されたステータを有する回転電機の磁気回路構造において、無負荷時に、前記エアギャップ及び前記電機子コイルと鎖交する永久磁石磁束より、前記エアギャップ又は前記電機子コイルと鎖交しない永久磁石磁束の方を大きくする。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る回転電機の磁気回路構造により、電機子コイルに電流を流さない無負荷状態では、永久磁石からの磁束はステータと殆ど鎖交せずに永久磁石の両端の磁性材料を介して漏れ出すことになり、電機子コイルを通過する永久磁石磁束が少ないので、コギングトルクも小さくなる。つまり、無負荷時のモータ鉄損の低減及びコギングトルクの低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、この発明に係る回転電機の磁気回路構造における動作原理を説明する簡易等価磁気回路である。図1に示す簡易等価磁気回路において、次の式(1)〜(4)が成立する。
φm=φl+φg…(1)
φr=Br・αm…(2)
Fe−Rm・φm=Rm(φr−φm)=Rg・φg−Ni…(3)
Rm(φr−φm)=φl・Rl…(4)
【0010】
ここで、φmは永久磁石磁束、φlは漏れ磁束、φgはエアギャップ磁束、Rlは磁石端の漏れ磁気抵抗、Niは電機子コイルによる起磁力、φrは永久磁石に磁界がない場合の磁束、Brは永久磁石の残留磁束密度、αmは磁石断面積、Feは永久磁石による起磁力、Rmは永久磁石の磁気抵抗、Rgはエアギャップ磁気抵抗である。
【0011】
上記式(1)〜(4)を、φgとφlについて解けば、
【数1】


【数2】


が得られることになる。
【0012】
式(5)は、第一項が永久磁石の残留磁束密度Brで決まる項、第二項が電機子コイルによる起磁力で決まる項である。通電していないと第一項のみとなるが、通電するとエアギャップ磁束φgが増加し、これによって、式(6)から漏れ磁束φlが減少する。従って、無負荷の場合は、漏れ磁束φlを大きくとることにより、逆に、エアギャップ磁束φgを小さくすることができる。
【0013】
磁性体を形成する際に実際に用いられる電磁鋼板は、磁界の強さを大きくして行くとある強さを超えた時点で飽和してしまい、それ以上の磁束を流すことができなくなる。この特性を簡単に表現すると、次式となる。
【数3】


式(7)から、最終的に、エアギャップ磁束φgは、ティース電磁鋼板が飽和していない状態では式(8)となり、電機子コイル電流と共に線型に増加する。
【数4】

【0014】
一方、電機子コイル電流を大きくすれば、上述した飽和によって一定値に近づく。この値であるエアギャップ磁束φg、即ち、ティース磁束は、電磁鋼板の飽和磁束密度をBmax、ティース断面積をαtとすれば、Bmax×αtとなる。このときの電流とエアギャップ磁束密度の関係は、図2に示すようになる。図2は、電機子コイル電流とティース磁束の関係をグラフで示す説明図であり、iは電機子コイル電流、φはティース磁束である。一般的には、磁束密度が飽和領域にあっても、式(7)のように完全な一定値になるわけではなく、磁束密度と磁界の比が真空の透字率μに漸近するため、傾きを持つことになる。
【0015】
以下、上述した状態を実現するための具体的な例について説明する。この例においては、ディスク型のロータを備える所謂アキシャルギャップ型モータ、或いはラジアルギャップ型モータのいずれでもよい。
【0016】
図3は、この発明の第1実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの部分断面図である。図3に示すように、回転電機10は、ロータ11とステータ12の間にエアギャップgを有している。磁性材料からなるロータ11には、異なった極性(N極とS極)を有する永久磁石13a,13bがロータ回転方向に沿って交互に埋め込まれており、ステータ12のティース12aには電機子コイル14が巻かれている。つまり、回転電機10は、ロータ(回転子)11に装着した永久磁石13a,13bが回転してできる回転磁界と同期させて電機子コイル14に通電し、トルクを発生させる永久磁石型同期モータである。
【0017】
この回転電機10のN極またはS極は、それぞれ2つの永久磁石から構成されており、同一極の永久磁石(13a,13a又は13b,13b)の距離は、ステータティース幅とほぼ同じに、異なった極の永久磁石(13a,13b又は13a,13b)の距離は、ステータティース幅より狭く、即ち、同一極の永久磁石の距離より狭く配置されている。なお、同一極を形成する永久磁石は2つに限らず3個以上でもよい。このように、同一極を形成する永久磁石の数を複数とすれば、磁石の表面積を大きくすることができるので、主磁束を少ない体積で増加させることができる。
【0018】
図4は、電機子コイルに電流を流さない状態の永久磁石からの磁束を模式的に示す図3と同様の部分断面図であり、図5は、電機子コイルに電流を流した状態の永久磁石からの磁束を模式的に示す図3と同様の部分断面図である。回転電機10において、電機子コイル14に電流を流さない無負荷状態では、永久磁石13a,13bからの磁束はステータ12と殆ど鎖交せず、永久磁石13a,13bの両端に位置する磁性材料(ロータ11)を介して漏れ出す。即ち、エアギャップg又は電機子コイル14と鎖交しない永久磁石磁束(漏洩磁束a)となっている(図4参照)。つまり、無負荷時、電機子コイル14を通過する主磁束bが少ないので、コギングトルクも小さくなりモータ鉄損も少なくなる。
【0019】
一方、電機子コイル14に正のd軸電流を(着磁方向に)通電した負荷状態では、永久磁石13a,13bの漏洩磁束aが激減し、殆どがステータ12のティース12aと鎖交して、電機子コイル14を通過する。即ち、エアギャップg及び電機子コイル14と鎖交する永久磁石磁束(主磁束b)となって、界磁を強める電流となる(図5参照)。この状態でq軸電流を重畳すればロータ12にトルクが発生する。
【0020】
このように、電機子コイル14に通電して複数の永久磁石13a,13bの動作点を増磁方向に移動させ、エアギャップg又は電機子コイル14と鎖交しない永久磁石磁束を低減させる。つまり、有負荷時の磁束を向上させるために、永久磁石の着磁方向と同一方向になるように電機子コイル14に通電することで、主磁気回路の磁束を増加させることができ、また、温度上昇に伴う永久減磁を回避することができる。
【0021】
図6は、この発明の第2実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの部分断面図である。図6に示すように、回転電機20は、N極またはS極を形成する同一極の二つの永久磁石(13a,13a又は13b,13b)の距離を、ステータ12のティース12aの幅よりも狭くしている。その他の構成及び作用は、回転電機10(図3参照)と同様である。
【0022】
回転電機10におけるロータ12のレイアウトでは、N極またはS極を形成する同一極の二つの永久磁石(13a,13a又は13b,13b)の距離がステータティース幅とほぼ同等であることから、d軸インダクタンスがq軸インダクタンスよりも小さく、即ち逆凸極性となる。このため、正のd軸電流通電状態でq軸電流を重畳するとトルクが下がってしまう。
【0023】
つまり、モータトルクは、磁石トルクとリラクタンストルクの和であり、リラクタンストルクTは、T=(Ld−Lq)id×iqで表される。ここで、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、idはd軸電気子電流、iqはq軸電気子電流である。回転電機10におけるロータ12のレイアウト(図3参照)では、d軸電流の抵抗Rdはq軸電流の抵抗Rqより大きくなり(Rd>Rq)、d軸インダクタンスLdはq軸インダクタンスLqより小さくなって(Ld<Lq)、リラクタンストルクTが負の方向に働く。
【0024】
そこで、N極またはS極を形成する同一極の二つの永久磁石(13a,13a又は13b,13b)の距離を、ステータ12のティース12aの幅よりも狭くして、即ち、各永久磁石13a,13bの距離が同一極間より異なった極間の方が長くなる(図6参照)ようにして、d軸インダクタンスLdがq軸インダクタンスLqより大きくなるようにすれば、順凸極性となる。
【0025】
つまり、q軸電流の抵抗Rqが大きくなっているので、d軸電流の抵抗Rdがq軸電流の抵抗Rqより小さく(Rd<Rq)なり、d軸インダクタンスLdはq軸インダクタンスLqより大きく(Ld>Lq)なって、リラクタンストルクTは正の方向に働く。この結果、正のd軸電流通電状態でq軸電流を重畳しても、d軸電流のリラクタンストルクTを利用することができるので、トルクが低減することはなく効率が向上する。
【0026】
このように、電機子コイル14の直軸インダクタンスを横軸インダクタンスよりも大きくすることにより、d軸インダクタンスLdをq軸インダクタンスLqより大きく(Ld>Lq)することができ、界磁強めに伴うリラクタンストルクを利用することができる。
なお、各永久磁石13a,13bの距離が同一極間より異なった極間の方が長くなる(図6参照)ようにすれば、電機子コイル14の直軸インダクタンスを横軸インダクタンスよりも大きくすることを、簡単、且つ、容易に実現することができる。
【0027】
図7は、この発明の第3実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの断面図である。図7に示すように、回転電機25は、ステータ26、ロータ27及び永久磁石28a,28bで構成されている3相8極のラジアルギャップ型永久磁石モータである。ステータ26のティース26aには、図示しない電機子コイル(巻線)が巻回されている。
【0028】
図7において、ロータ27に装着した永久磁石28a,28bは、1極対分を示しており、その他は、図示した状態を繰り返して配置されている。この永久磁石28a,28bは、ロータ27表面に放射状に並設されており、エアギャップg面に対し、直交することなく任意の角度を有して配置されている。これにより、永久磁石28a,28bを、エアギャップg面に対し直交配置する場合に比べ、磁石断面積を大きくすることができ、永久磁石28a,28bによる磁束を大きくすることができる。
【0029】
電機子コイルに電流を通電しない状態では、永久磁石28a,28bの磁束が磁石両端A,A´で漏れることにより、ステータ26を貫通する磁束は、電機子コイルに電流を通電した状態に比べ小さくなる。この結果、無負荷時の誘起電圧を低減することができ、また、コギングトルクも同様に低減することができる。
【0030】
また、各永久磁石28a,28bの距離を、同一極間より異なった極間の方が長くなるようにすることで、順凸極性となり、磁石の漏れを低減し、これをステータ26へ導くための電流の位相とトルクを発生させるための電流の位相を合致させることができる。このため、永久磁石28a,28bの磁束をステータ26へと貫通させながら、より大きなトルクを発生することができる。
【0031】
図8は、この発明の第4実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明し、(a)はロータとステータの断面図、(b)はロータの平面図である。図8に示すように、回転電機30は、ステータ31、ロータ32及び永久磁石33a,33bで構成されている3相8極のアキシャルギャップ型永久磁石モータである。ステータ31は、ヨーク31aに対し略垂直に突設されて略等間離間して12本配置されたティース31bを有しており、ティース31bには、図示しない電機子コイル(巻線)が巻回されている。
【0032】
図8において、ロータ32に装着した永久磁石33a,33bは、1極対分を示しており、その他は、図示した状態を繰り返して配置されている。この永久磁石33a,33bは、ロータ32表面に放射状に並設されており、ロータ32外周縁に対し、直交することなく任意の角度を有して配置されている。これにより、永久磁石33a,33bの磁石断面積を、ロータ32外周縁に対し直交配置する場合に比べ、大きくすることができ、永久磁石33a,33bによる磁束を大きくすることができる。
【0033】
電機子コイルに電流を通電しない状態では、永久磁石33a,33bの磁束が磁石両端A,A´(図8(a)参照)及びB,B´(図8(b)参照)で漏れることにより、ステータ31へ貫通する磁束は、電機子コイルに電流を通電したときに比べて小さくなる。この結果、無負荷時の誘起電圧を低減することができ、また、コギングトルクも同様に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明に係る回転電機の磁気回路構造における動作原理を説明する簡易等価磁気回路である。
【図2】電機子コイル電流とティース磁束の関係をグラフで示す説明図である。
【図3】この発明の第1実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの部分断面図である。
【図4】電機子コイルに電流を流さない状態の永久磁石からの磁束を模式的に示す図3と同様の部分断面図である。
【図5】電機子コイルに電流を流した状態の永久磁石からの磁束を模式的に示す図3と同様の部分断面図である。
【図6】この発明の第2実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの部分断面図である。
【図7】この発明の第3実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明するロータとステータの断面図である。
【図8】この発明の第4実施の形態に係る回転電機の磁気回路構造を説明し、(a)はロータとステータの断面図、(b)はロータの平面図である。
【符号の説明】
【0035】
10,20,25,30 回転電機
11,27,32 ロータ
12,26,31 ステータ
12a,26a,31b ティース
13a,13b,28a,28b,33a,33b 永久磁石
14 電機子コイル
31a ヨーク
g エアギャップ
a 漏洩磁束
b 主磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転方向に沿い交互に極性を変えて複数の永久磁石を配置したロータと、電気子コイルが巻かれ、前記ロータとの間にエアギャップを有して配置されたステータを有する回転電機の磁気回路構造において、
無負荷時に、前記エアギャップ及び前記電機子コイルと鎖交する永久磁石磁束より、前記エアギャップ又は前記電機子コイルと鎖交しない永久磁石磁束の方が大きい回転電機の磁気回路構造。
【請求項2】
前記電機子コイルに通電して前記複数の永久磁石の動作点を増磁方向に移動させ、前記エアギャップ又は前記電機子コイルと鎖交しない永久磁石磁束を低減する請求項1に記載の回転電機の磁気回路構造。
【請求項3】
前記各永久磁石は、2個以上の永久磁石により同一極を形成する請求項1または2に記載の回転電機の磁気回路構造。
【請求項4】
前記電機子コイルの直軸インダクタンスが横軸インダクタンスよりも大きい請求項3に記載の回転電機の磁気回路構造。
【請求項5】
前記各永久磁石の距離が、同一極間より異なった極間の方が長い請求項4に記載の回転電機の磁気回路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−115684(P2006−115684A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262320(P2005−262320)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】