説明

固体潤滑剤を含むフッ素系複合材料の潤滑方法及び当該材料用潤滑油組成物

【課題】 摺動部に固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料を有する装置の摩耗及び固体潤滑剤の溶出を抑制する潤滑油組成物、特に緩衝器用として好適な潤滑油組成物を提供し、併せて当該装置の潤滑方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置に用いる潤滑油組成物であって、当該潤滑油組成物が、潤滑油基油と(A)酸性添加剤と(B)塩基性添加剤とを含み、かつ、(A)の総モル数(a)及び(B)の総モル数(b)の差が(a)及び(b)の多い方に対して35%以内となるように調製されてなることを特徴とする潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物を用いて当該装置を潤滑する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置の潤滑方法及び当該装置用の潤滑油組成物に関し、詳しくはピストンに装着された当該複合材料とシリンダーとで構成される摺動部を有する装置の潤滑方法及び当該装置用の潤滑油組成物、さらに詳しくは、前記摺動部を有する緩衝器の潤滑方法及び当該緩衝器用の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機やすべり軸受け、油圧作動装置等の各種機械装置等の各種摺動面あるいは潤滑油やガスを封入するシール部分には、潤滑油存在下あるいは無潤滑状態での摺動面の摺動特性を良好に維持するために固体潤滑膜あるいは固体潤滑剤を摺動面に被覆して用いられることがある。固体潤滑膜には、各種ゴム材や各種樹脂材あるいは、自己潤滑性を有する二硫化モリブデンやグラファイト、あるいはその他各種固体潤滑剤を含む各種樹脂材等が使用されることがある。
【0003】
ところで、油圧作動装置の1種として緩衝器がある。緩衝器にはさまざまな形式があるが、基本的には弁の付いたピストンとシリンダー(外筒若しくはチューブともいう)からなる。ピストンはロッドに固定されており、ピストンに装着された弁はシリンダー内面を摺動し、ロッドはロッドガイド部のシールを摺動する。緩衝器は、作動油と必要によりガスを封入し、弁を通過する作動油の抵抗により緩衝作用を行う。
緩衝器のロッドとロッドガイド部のシール材にはニトリルゴムやフッ素系ゴム等が使用され、ピストンには、ピストンバンドと呼ばれる摺動材が装着される。このピストンバンドとしては、上記シール材や耐久性の高いフッ素樹脂系材料が使用され、中でも低摩擦性や耐久性をさらに付与するために自己潤滑性を有する固体潤滑剤、例えばグラファイト等の炭素材を含む樹脂材料が使用されることがある。
【0004】
しかし低摩擦性や耐久性を付与するためにこのような固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料を用いた場合、使用する潤滑油の組成によっては当該複合材料の摩耗や固体潤滑剤の溶出により、当該複合材料自体の強度が低下し、損傷・剥離とともに潤滑油の汚染や沈殿などの問題が発生する恐れがあることがわかってきた。緩衝器においてこの複合材料の摩耗や損傷・剥離が発生すると、ピストンとシリンダー間のシール性が十分でなくなり、十分な減衰力が発生しなくなるばかりでなく、最終的にはピストンを構成する金属部とシリンダーを構成する金属間が直接接触し、焼付の発生や、緩衝器自体が破損するにいたる恐れがある。
【0005】
従来、緩衝器用油圧作動油としては、摩擦調整剤や摩耗防止剤の最適化により、緩衝器の摩擦特性、摩耗防止性あるいは耐久性等の改善が行われてきた(例えば、特許文献1〜6参照。)が、上記のような固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料を用いた場合に生じる問題に対する解決策は明確にされていない。
【特許文献1】特開平7−224293号公報
【特許文献2】特開平7−258678号公報
【特許文献3】特開平6−128581号公報
【特許文献4】特開2000−192067号公報
【特許文献5】特開2002−194376号公報
【特許文献6】特開平5−255683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置において、固体潤滑剤の溶出や沈殿を抑制できるとともに、当該複合材料の摩耗や破損を防止できる潤滑方法及び潤滑油組成物、特に緩衝器等のピストンに装着された当該複合材料とシリンダーとで構成される摺動部を有する装置の潤滑方法及び当該装置用の潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、潤滑油に配合する酸性添加剤や塩基性添加剤を単独で使用したり、そのバランスを欠く配合とした場合にこの複合材料における固体潤滑剤の溶出により強度が低下し、摩耗や破損が促進される原因の1つであることが判明した。そして、酸性添加剤と塩基性添加剤を最適なバランスで配合することによりこの複合材料の摩耗や破損を防止できることが判明した。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置の潤滑方法であって、当該摺動部を、潤滑油基油と(A)酸性添加剤と(B)塩基性添加剤とを含み、かつ、(A)の総モル数(a)及び(B)の総モル数(b)の差が(a)及び(b)の多い方に対して35%以内となるように調製されてなる潤滑油組成物で潤滑することを特徴とする潤滑方法にある。
【0009】
また、本発明は、少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置に用いる潤滑油組成物であって、当該潤滑油組成物が、潤滑油基油と(A)酸性添加剤と(B)塩基性添加剤とを含み、かつ、(A)の総モル数(a)及び(B)の総モル数(b)の差が(a)及び(b)の多い方に対して35%以内となるように調製されてなることを特徴とする潤滑油組成物にある。
【0010】
前記摺動部が、ピストンに装着された前記複合材料とシリンダーとで構成される摺動部であることが好ましい。
また、本発明の潤滑方法及び潤滑油組成物は、前記装置が緩衝器である場合に特に好適である。
また、本発明の潤滑方法及び潤滑油組成物は、前記複合材料がグラファイトを含むフッ素樹脂系複合材料である場合に特に好適である。
また、前記酸性添加剤が、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル、カルボン酸、及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上の酸性を示す添加剤であることが好ましい。
また、前記塩基性添加剤が、アミノ基、イミノ基又はアミド基を有する化合物、及びこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上の塩基性を示す添加剤であることが好ましい。
【0011】
以下、本発明について詳述する。
【0012】
本発明における固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料としては、フッ素系樹脂と固体潤滑剤とを含有するフッ素樹脂系複合材料であれば特に制限はない。
【0013】
フッ素系樹脂としては、フッ素を含有する樹脂であれば特に制限はなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が例示され、これらの中でもポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンが特に好ましい。また、必要に応じ、その他の成分、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シラン変性ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンサルファイド等の各種樹脂材料、ガラス繊維、アラミド繊維、可塑剤等を含有していても良く、ヨウ素、臭素、塩素等を含有する上記のような樹脂を含有するものでも良い。
【0014】
固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、アルミナ、シリカ、酸化鉄、二酸化クロム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、硫化亜鉛、硫化銀、硫化銅、鉛、すず、タンタル、ビスマス、天然グラファイト、合成グラファイト、各種カーボンブラック、炭素繊維等の固体潤滑剤が挙げられ、これらの中でも二硫化モリブデン、グラファイト等の炭素系潤滑剤が好ましく、グラファイトが特に好ましい。
【0015】
本発明においては、上記複合材料の構成比は特に制限はないが、フッ素系樹脂は、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99質量%、さらに好ましくは70〜95質量%であり、固体潤滑剤は、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜40質量%、特に好ましくは5〜30質量%である
【0016】
これら固体潤滑剤を含有するフッ素樹脂系複合材料としては、上記のようなフッ素系樹脂及び固体潤滑剤、必要に応じてさらにその他の成分を公知の方法により分散させ成型されたものであり、例えばフッ素系樹脂(その他の樹脂を含んでも良い)を溶融させた状態、あるいはパウダー状又は微粒子状としたものに微粒子状の固体潤滑剤や各種樹脂を練混して均一に分散させ、あるいはフッ素系樹脂の表面に固体潤滑剤を分散させ、所望の形状に成型されたものが挙げられる。
なお、これら固体潤滑剤を含有するフッ素樹脂系複合材料が緩衝器のピストンバンドとして使用される場合、ピストンのシリンダーとの摺動部に圧着されて使用される。その場合の厚さは、通常0.01〜5mm、好ましくは0.1〜2mm、特に好ましくは0.2〜1mmであり、この範囲の厚さで薄いほど損傷又は破断しやすくなるため、本発明の潤滑油組成物が特に有用となる。
【0017】
また、固体潤滑剤を含有するフッ素樹脂系複合材料と摺動部を構成する相手方の摺動材料としては、鋼材系、アルミニウム系材料、マグネシウム系材料、チタン系材料、銅系材料、鉛系材料等、又はこれらの各種合金からなる金属系材料、若しくは窒化クロム、窒化チタン、ダイヤモンド、ダイヤモンドイド、ダイヤモンドライクカーボン(炭素のみからなってもよく、金属、ケイ素、水素等を含んでいても良い。)等の硬質薄膜コーティングがなされた金属系材料、あるいはグラファイト、炭素繊維等の炭素系材料、上記に挙げた樹脂系あるいは各種ゴム系等様々なものが挙げられ、特に制限はなく使用できる。これらの中では、上記に挙げた各種金属系材料を使用する場合、摺動条件がより厳しくなるため、本発明の潤滑油組成物が特に有用となる。
【0018】
本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油としては、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油および合成系基油が使用できる。
【0019】
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油等が例示できる。
【0020】
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油;これらの混合物等が例示できる。
【0021】
本発明における潤滑油基油としては、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
【0022】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、例えば緩衝器用潤滑油組成物として使用される場合には、40℃における動粘度が、好ましくは3mm/s以上、より好ましくは6mm/s以上であり、また、好ましくは60mm/s以下、より好ましくは40mm/s以下、さらに好ましくは20mm/s以下であり、さらに好ましくは10mm/s以下、特に好ましくは9mm/s以下であることが望ましい。
【0023】
また、本発明において使用する潤滑油基油の粘度指数も特に限定されず任意であるが、例えば、緩衝器用潤滑油組成物として使用される場合には、温度による摩擦特性の変化をできるだけ小さくするという観点から、粘度指数は80以上が好ましく、より好ましくは95以上のものを用いるのが望ましい。
【0024】
次に、(A)酸性添加剤について説明する。
本発明の潤滑油組成物に用いられる(A)酸性添加剤としては、酸性を示す化合物であれば特に制限はなく、例えば酸性を示すリン化合物、カルボン酸、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0025】
酸性を示すリン化合物としては、具体的には、リン酸、酸性リン酸エステル、亜リン酸、酸性亜リン酸エステル、チオリン酸、酸性チオリン酸エステル、チオ亜リン酸、酸性チオ亜リン酸エステル、(チオ)(亜)リン酸の塩、酸性(チオ)(亜)リン酸エステル類の塩、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも摩擦特性の経時変化が小さい点で硫黄を含まない酸性有機リン化合物、すなわち、酸性(亜)リン酸エステル及びその塩から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0026】
ここで酸性(亜)リン酸エステルとしては、一般式(1)で表されるリン酸エステル類(リン酸ジエステル、リン酸モノエステル)、一般式(2)で表される亜リン酸エステル類(亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル)、及びこれらの混合物等を示す。
【0027】
【化1】

【0028】
上記(1)式中、R、R及びRはそれぞれ個別に水素原子若しくは炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜18の炭化水素基であり、R、R及びRのうち少なくとも1つが水素原子である。
また上記(2)式中、R、R及びRはそれぞれ個別に水素原子若しくは炭素数1〜30、好ましくは炭素数4〜18の炭化水素基であり、R、R及びRのうち少なくとも1つが水素原子である。
なお、上記(2)式において、Rが水素原子である酸性亜リン酸ジエステルや、R及びRが水素原子である酸性亜リン酸モノエステルである場合、それぞれ、互変異性体である下記一般式(3)、(4)の形で表されることもあるが、これらは同じ化合物を示すものである。
【0029】
【化2】

【0030】
上記のような炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、二重結合の位置は任意である);シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基:トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18の各アルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また置換位置も任意である);ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12の各アリールアルキル基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また置換位置も任意である);等が挙げられる。
【0031】
また、上述した(亜)リン酸エステル類の塩としては、具体的には、酸性リン酸モノエステル、酸性リン酸ジエステル、酸性亜リン酸モノエステル、酸性亜リン酸ジエステル等に、アンモニアや炭素数1〜30の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物、及び/又は、金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩等が例示できる。
【0032】
この含窒素化合物としては、具体的には、アンモニア;モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノプロピルアミン、モノブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン、モノヘプチルアミン、モノオクチルアミン、モノノニルアミン、モノデシルアミン、モノウンデシルアミン、モノドデシルアミン、モノトリデシルアミン、モノテトラデシルアミン、モノペンタデシルアミン、モノヘキサデシルアミン、モノヘプタデシルアミン、モノオクタデシルアミン、モノエテニルアミン、モノプロペニルアミン、モノブテニルアミン、モノペンテニルアミン、モノヘキセニルアミン、モノヘプテニルアミン、モノオクテニルアミン、モノノネニルアミン、モノデセニルアミン、モノウンデセニルアミン、モノドデセニルアミン、モノトリデセニルアミン、モノテトラデセニルアミン、モノペンタデセニルアミン、モノヘキサデセニルアミン、モノヘプタデセニルアミン、モノオクタデセニルアミン、ジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン(アルキル基、アルケニル基は直鎖状でも分岐状でもよく、アルケニル基の二重結合の位置は任意である);モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノブタノールアミン、モノペンタノールアミン、モノヘキサノールアミン、モノヘプタノールアミン、モノオクタノールアミン、モノノナノールアミン、ジメタノールアミン、メタノールエタノールアミン、ジエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、エタノールプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールブタノールアミン、プロパノールブタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、ジヘプタノールアミン、ジオクタノールアミン等のアルカノールアミン(アルカノール基は直鎖状でも分岐状でもよい);及びこれらの混合物等が例示できる。
【0033】
本発明においては、これらのうち、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステルが好ましい。
【0034】
本発明において、特に好ましい酸性リン酸エステルとしては、緩衝器の耐久性、摩擦特性を好適に調整できる点で、モノブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、モノ2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジ2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート等の炭素数4〜18のアルキル基又はアルケニル基を有する酸性リン酸エステル及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0035】
なお、上記酸性添加剤のうち、塩基性化合物との塩にした形で使用されているものでも完全に中和された状態にない限り、上記フッ素樹脂系複合材料への影響はある。たとえば、モノとジのアルキル燐酸亜鉛混合物と1級アミン等の脂肪族アミン化合物が等モルで塩を形成している化合物でもこの場合は酸性となるため、上記に挙げた酸性添加剤に含まれる。
【0036】
また、カルボン酸としては、具体的には、炭素数1〜30、好ましくは炭素数8〜30、より好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を有するカルボン酸及びその誘導体等が挙げられる。
カルボン酸としては、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸、ヘンエイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸(これらアルキル基、アルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアルケニル基の二重結合の位置は任意である。)等のモノカルボン酸の他、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等のポリカルボン酸等が挙げられる。これらの中でもオレイン酸、ステアリン酸等の炭素数12〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するモノカルボン酸が好ましい。
【0037】
また、カルボン酸の誘導体としては、例えば、窒素含有カルボン酸や、カルボン酸又は窒素含有カルボン酸に、金属塩基やアルコール類を作用させて、残存する酸性水素の一部を中和した塩、あるいはエステル化又はエーテル化した化合物等が例示できる。
【0038】
窒素含有カルボン酸としては、カルボキシル基と窒素が分子中にある限りにおいて特に制限はなく、ジカルボン酸、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等のポリカルボン酸に、前記したような含窒素化合物を作用させて、一部をアミド化して得られる化合物であってもよく、また酸性を示すものであれば塩基性極性基を含むカルボン酸でもよい。
【0039】
塩基性極性基を含むカルボン酸としては、例えば、下記一般式(5)で表されるサルコシン類及びその誘導体が挙げられる。
【化3】

【0040】
一般式(5)において、R及びRは、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、Rは単結合又は炭素数1〜4のアルキレン基を示す。なお、本発明において単結合とは直接結合を意味し、ここではRが存在せず、窒素と炭素とが直接結合することを意味する。なお、本発明において、上記サルコシン類を使用する場合は、一般式(5)におけるR及びRの少なくとも一方は、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基であることが望ましい。
【0041】
また、サルコシン類の誘導体としては、上記一般式(5)で表されるサルコシン類に炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のカルボン酸をアミノ基又はイミノ基に作用させてアミド化した化合物等が挙げられ、例えば、一般式(6)で表される化合物等が挙げられる。
【0042】
【化4】

【0043】
上記一般式(6)において、R10及びR11は、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、R10及びR11の少なくとも一方は、炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基であり、R12は単結合又は炭素数1〜4のアルキレン基を示す。
【0044】
本発明における窒素含有カルボン酸としては、一般式(6)で表されるサルコシン類の誘導体であることが好ましく、一般式(5)において、Rが水素であり、Rがメチル基、Rがメチレン基であるサルコシンに、炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を有するカルボン酸を反応させて得られるサルコシン誘導体であることがより好ましい。この炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基としては、炭素数12〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基であることが望ましく、例えば、直鎖状又は分枝状のドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0045】
これら炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を有するカルボン酸の中でもオレイン酸、ステアリン酸であることが特に好ましい。
また、上記R11としては、水素又は炭素数1〜4であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。
また、上記R12としては、単結合又は炭素数1〜4であることが好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。
本発明において、一般式(6)で表される化合物の特に好ましい具体例としては、式(7)で表されるN−オレオイルサルコシン等が挙げられる。
【0046】
【化5】

【0047】
本発明の潤滑油組成物における(A)酸性添加剤の配合量は、(B)塩基性添加剤の配合量にもよるが、通常、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。(A)成分の配合量が0.01質量%未満の場合、摩耗防止性あるいは摩擦調整効果が発揮されず、また、10質量%を超えても配合量に見合う摩耗防止性あるいは摩擦調整効果が得られず経済的にも好ましくない。
【0048】
次に、(B)塩基性添加剤について説明する。
本発明の潤滑油組成物に用いられる(B)塩基性添加剤は、炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基及び塩基性極性基を有する塩基性化合物である。ここでいう塩基性極性基は、特に制限はないが、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基等の窒素含有極性基及びこれらの変性基が挙げられる。
【0049】
(B)塩基性添加剤の具体例としては、炭素数8以上のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するアミン化合物及びその誘導体が挙げられ、より具体的には、(B1)炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を有するアミン化合物及びその誘導体、(B2)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するアミン化合物及びその誘導体が挙げられる。
【0050】
(B1)成分としては、より具体的には、
(B1−1)下記の一般式(8)で表される脂肪族モノアミン若しくはそのアルキレンオキシド付加物、
(B1−2)下記の一般式(9)で表される脂肪族ポリアミン及びその誘導体、
(B1−3)下記の一般式(10)又は(11)で表されるコハク酸イミド及びその誘導体、
(B1−4)下記一般式(12)で表されるイミダゾリン化合物及びその誘導体、
(B1−5)炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸アミド、
等が挙げられる。
【0051】
(B2)成分としては、より具体的には、
(B2−1)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド及びその誘導体、
(B2−2)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するポリアミン及びその誘導体、
(B2−3)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するベンジルアミン及びその誘導体、
等の高分子塩基性化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】

【0053】
式(8)中、R13は炭素数8〜30、好ましくは12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R14及びR15は、それぞれ個別に、炭素数1〜4、好ましくは2〜3のアルキレン基を示し、R16及びR17は、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、a及びbは、それぞれ個別に、0〜10、好ましくは0〜6の整数を示し、かつa+b=0〜10、好ましくは0〜6の整数である。
【0054】
【化7】

【0055】
式(9)中、R18は炭素数8〜30、好ましくは12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R19は炭素数1〜4、好ましくは2〜3のアルキレン基を示し、R20及びR21は、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、cは1〜5、好ましくは1〜4の整数を示す。
【0056】
【化8】

【0057】
上記一般式(10)及び(11)において、R22及びR23は、それぞれ個別に、炭素数8〜30、好ましくは炭素数12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R24及びR25は、それぞれ個別に、炭素数1〜4、好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基を示し、R26は水素原子又は炭素数1〜30、好ましくは炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を示し、nは1〜7の整数を示し、好ましくは1〜3の整数である。
【0058】
【化9】

【0059】
式(12)中、R27は炭素数8〜30、好ましくは12〜24のアルキル基又はアルケニル基を示し、R28はエチレン基又はプロピレン基を示し、R29は水素又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、dは0〜10、好ましくは0〜6の整数を示す。
【0060】
なお、R13、R18、R22、R23及びR27で示されるアルキル基又はアルケニル基としては、直鎖状でも分枝状でも良いが、その炭素数は8〜30、好ましくは12〜24が望ましい。アルキル基又はアルケニル基の炭素数を8〜30とすることでより摩擦特性に優れた組成物を得ることができる。
13、R18、R22、R23及びR27で示されるアルキル基又はアルケニル基としては、具体的には、前記窒素含有カルボン酸の項で挙げた、炭素数8〜30の直鎖状又は分枝状のアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。これらのうち、摩擦調整効果に優れる点から、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、オレイル基等が特に好ましい。
【0061】
また、R16、R17、R20、R21、R26及びR29で示される基としては、具体的には、水素及び前記酸性(亜)リン酸エステルの項で挙げた炭素数1〜30の炭化水素基が挙げられる。
【0062】
(B1−1)前記式(8)で表される脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物としては、摩擦低減効果に優れる点から、式(8)において、R16及びR17が、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜6のアルキル基であり、かつa=b=0である脂肪族モノアミンや、R16及びR17が水素であり、a及びbが、それぞれ個別に、0〜6であり、かつa+b=1〜6となる数である、脂肪族モノアミンのアルキレンオキシド付加物がより好ましく用いられ、摩擦調整効果に特に優れる点で、脂肪族モノアミンであることが特に好ましい。
【0063】
また、(B1−2)前記式(9)で表される脂肪族ポリアミンとしては、摩擦調整効果に優れる点から、式(9)において、R20及びR21が、それぞれ個別に、水素又は炭素数1〜6のアルキル基である脂肪族ポリアミンがより好ましく用いられ、R20及びR21が、水素である脂肪族ポリアミンが特に好ましく用いられる。
なお、アミノ基の置換位置はアルキル基の末端炭素にあることが好ましいが、末端より一つ内側の炭素であってもかまわない。
【0064】
また、(B1−3)前記式(10)又は(11)で表されるコハク酸イミドとしては、摩擦調整効果に優れる点から、式(10)においてR22及びR23が炭素数12〜18のアルキル基又はアルケニル基、R24及びR25が炭素数1〜4のアルキレン基であるビスタイプのコハク酸イミド、式(11)においてR22が炭素数12〜18のアルキル基又はアルケニル基、R24が炭素数1〜4のアルキレン基、R26が水素原子であるモノタイプのコハク酸イミドが特に好ましく用いられる。
【0065】
また、(B1−4)前記式(12)で表されるイミダゾリン化合物としては、摩擦調整効果に優れる点から、式(12)においてR29が、水素又は炭素数1〜6のアルキル基であるイミダゾリン化合物がより好ましく用いられる。
【0066】
また、(B1−5)炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を少なくとも1つ有する脂肪酸アミド化合物としては、具体的には、炭素数8〜30のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸やその酸塩化物をアンモニアや炭素数1〜30の炭化水素基又は水酸基含有炭化水素基のみを分子中に含有するアミン化合物等の含窒素化合物を反応させて得られる脂肪酸アミド等が挙げられる。
この含窒素化合物としては、具体的には、前記(A)成分、(亜)リン酸エステル類の塩の項で挙げた含窒素化合物等が挙げられる。
【0067】
脂肪酸アミドとしては、具体的には、摩擦低減効果に優れる点から、ラウリン酸アミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸アミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、パルミチン酸アミド、パルミチン酸ジエタノールアミド、パルミチン酸モノプロパノールアミド、ステアリン酸アミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸アミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ヤシ油脂肪酸アミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸アミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸ジエタノールアミド、炭素数12〜13の合成混合脂肪酸モノプロパノールアミド、及びこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0068】
これらの中でも、(B1)成分としては、具体的には、摩擦特性に優れる点から、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルコハク酸イミド、イソステアリルコハク酸イミド、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等のアミン化合物;ステアリルアミンエチレンオキサイド付加物等の、これらアミン化合物のアルキレンオキシド付加物;これらアミン化合物のアルキレンオキシド付加物;又はこれらの混合物等が特に好ましく用いられる。
【0069】
また、(B2−1)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとしては、前記式(10)及び(11)において、R22及びR23が炭素数31〜400、好ましくは40〜350のアルキル基又はアルケニル基であるコハク酸イミドが例示でき、(B2−2)炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するポリアミンとしては、前記式(9)においてR18が炭素数31〜400、好ましくは40〜350のアルキル基又はアルケニル基であるポリアミンが例示でき、(B2−3)炭素数31〜400、好ましくは40〜350のアルキル基又はアルケニル基を有するベンジルアミン等とともに、組成物中の酸性添加剤が過剰な場合に、前記複合材料の摩耗や破断を防止するために配合することができ、さらにこれら炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する塩基性化合物は、組成物中の劣化物を分散させる添加剤としても有用である。
【0070】
一方、上記アミン化合物の誘導体としては、具体的には例えば、前記式(8)〜(12)のようなアミン化合物や炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド、アミン又はベンジルアミン等に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる酸変性化合物;式(8)〜(12)のようなアミン化合物や炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド、アミン又はベンジルアミンにホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和した、いわゆるホウ酸変性化合物;式(8)〜(12)のようなアミン化合物や炭素数31〜400のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド、アミン又はベンジルアミンに、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを反応させた、いわゆるアミン化合物のアルキレンオキシド付加物;これらの中から選ばれる2種以上の変性を組み合わせて得られるアミン化合物の変性物;等が挙げられる。
【0071】
本発明において、(B)成分としては、前記した各種の塩基性化合物の中から選ばれる1種若しくは2種以上を用いることができる。
なお、ホウ酸変性された上記アミン化合物(例えば、ホウ酸変性コハク酸イミド等)は単独では、上記複合材料への影響は小さいが、ホウ酸より強い酸(例えば、酸性リン酸エステルや酸性亜リン酸エステル等)に対しては塩基性を示すため、このような強い酸性を示す添加剤とともに使用する場合は塩基性を示すものとして考える必要がある。
【0072】
本発明の潤滑油組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分の配合量にもよるが、組成物全量基準で、0.01〜10質量%であり、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%である。(B)成分の配合量が0.01質量%未満では、摩擦調整効果が発揮されず、また、10質量%を超えても配合量に見合うだけの効果が得られず、経済的にも好ましくない。
【0073】
本発明の潤滑油組成物において、前記(A)酸性添加剤及び(B)塩基性添加剤の配合割合は、上記フッ素樹脂系複合材料への影響を考慮し、酸塩基バランスを調整することが必要であり、酸塩基の多い方に対する酸の総モル数及び塩基の総モル数の差(酸塩基バランス)が35%以内、好ましくは30%以内、さらに好ましくは25%以内、特に好ましくは20%以内となるように配合することが望ましい。酸塩基バランスが35%を超える場合は上記フッ素樹脂系複合材料の摩耗や固体潤滑剤の溶出が著しくなり、場合により破断に至る恐れがある。
【0074】
本発明の潤滑油組成物には、必要に応じて、その性能をさらに向上させるために、又は、その他の目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、摩擦調整剤、摩耗防止剤、酸化防止剤、流動性向上剤、粘度指数向上剤、金属不活性化剤、金属系清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、消泡剤、及び着色剤等の各種添加剤を挙げることができる。
【0075】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、上記に例示した(A)成分及び(B)成分以外の摩擦調整剤、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン等のモリブデン系摩擦調整剤、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤等、あるいは、完全に中和された、(A)及び(B)成分に該当しない摩擦調整剤が挙げられ、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%の範囲で含有させることが可能である。
【0076】
摩耗防止剤としては、潤滑油の摩耗防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、(亜)リン酸トリエステル類、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカーバメート、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これらの摩耗防止剤は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%の範囲で本発明の組成物に含有させることが可能である。
【0077】
酸化防止剤としては、潤滑油の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%の範囲で本発明の組成物に含有させることが可能である。
【0078】
粘度指数向上剤としては、潤滑油の粘度指数向上剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0079】
粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500,000、好ましくは3,000〜200,000のものが用いられる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常組成物基準で0.1〜20質量%である。
【0080】
流動性向上剤としては、潤滑油の流動性向上剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ポリメタクリレート系流動性向上剤等が挙げられる。
【0081】
金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0082】
金属系清浄剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート及びホスホネート等が挙げられる。
【0083】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0084】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0085】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0086】
消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0087】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、流動性向上剤、金属系清浄剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0001〜0.01質量%の範囲で通常選ばれる。
【0088】
なお、本発明の潤滑油組成物において、(A)成分、(B)成分の項で挙げた化合物のうち、完全に中和され、中性を示す化合物は(A)成分あるいは(B)成分に含まないものとして除外するものとする。また、フェノール系酸化防止剤やアルコール性水酸基を有する化合物は亜リン酸エステルのような強酸と比べ非常に弱い酸と考えられるので、上記フッ素樹脂系複合材料への影響は小さいものとして(A)成分から除外しても良い。また、芳香族アミン系酸化防止剤は脂肪族アミン化合物に比べ非常に弱い塩基と考えられるので、上記フッ素樹脂系複合材料への影響は小さいものとして(B)成分から除外しても良い。
【0089】
上記に例示した(A)成分及び(B)成分を本願規定の割合で配合し、上記に例示した(A)成分及び(B)成分以外の酸性添加剤及び塩基性添加剤及びこれらに類するものを配合する場合、上記フッ素樹脂系複合材料の摩耗や固体潤滑剤の溶出が発生する場合には、酸塩基バランスを適宜調整することで本願発明と同等の効果が期待できる。この場合、本願発明と同等の効果が得られる限りにおいて、酸塩基バランスが35%を若干超えても良い。
【発明の効果】
【0090】
上述のように、ピストンのシリンダーとの摺動部位にフッ素樹脂系複合材料が使用されている緩衝器等、フッ素樹脂系複合材料が摺動部に使用されている装置において、当該複合材料の摩耗又は破損あるいは固体潤滑剤の溶出を防止できる当該装置の潤滑方法及び潤滑油組成物が得られる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0092】
[実施例1〜6および比較例1〜9]
40℃動粘度が6.1mm/sの潤滑油基油に、表1〜表4に示す組成の添加剤を配合した本発明に係る潤滑油組成物(実施例1〜6)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜9)をそれぞれ調製した。これらの組成物に対して、以下に示す摩擦試験を実施し、グラファイトを含むフッ素樹脂を主成分とする複合材料の破断の有無を評価した。
【0093】
また、表1〜表4には、以下の式で示される酸塩基バランスを算出し、併記した。
酸塩基バランス(%)=[(A)と(B)のモル数の差(絶対値:mmol/100
g)]/[(A)と(B)の多い方のモル数(mmol/100g)]×100
なお、(A)成分、(B)成分のモル数は各成分の(平均)分子量と添加量から算出した。
【0094】
(摩擦試験)
SRV摩擦試験機を用い、試験鋼球下部が露出するように固定するための円筒冶具に厚さ約0.8mmの上記複合材料を入れ、該複合材料が摺動部として半球状に露出するよう上から試験鋼球を圧入し固定した。相手方の摺動材料として試験用鋼材ディスクをセットし、これに試験油を数滴滴下した後に110℃、一定過重、3時間の条件で摩擦試験を行った。
【0095】
表1〜表4から明らかなように、(A)成分と(B)成分の酸塩基バランスが35%を超える場合はグラファイトを含むフッ素樹脂を主成分とする複合材料の摩耗が著しく破断(穴あき)に至り、酸塩基バランスが35%以内の場合、破断(穴あき)に至らなかったことが分かる。なお、酸塩基バランスが小さいほど、グラファイトの溶出に伴う潤滑油の着色度合いが小さいことが分かった。
【0096】
【表1】

【0097】
【表2】

【0098】
【表3】

【0099】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置の潤滑方法であって、当該摺動部を、潤滑油基油と(A)酸性添加剤と(B)塩基性添加剤とを含み、かつ、(A)の総モル数(a)及び(B)の総モル数(b)の差が(a)及び(b)の多い方に対して35%以内となるように調製されてなる潤滑油組成物で潤滑することを特徴とする潤滑方法。
【請求項2】
少なくとも一方が固体潤滑剤を含むフッ素樹脂系複合材料である摺動部を有する装置に用いる潤滑油組成物であって、当該潤滑油組成物が、潤滑油基油と(A)酸性添加剤と(B)塩基性添加剤とを含み、かつ、(A)の総モル数(a)及び(B)の総モル数(b)の差が(a)及び(b)の多い方に対して35%以内となるように調製されてなることを特徴とする潤滑油組成物。
【請求項3】
前記摺動部が、ピストンに装着された前記複合材料とシリンダーとで構成される摺動部であることを特徴とする請求項2に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2006−335963(P2006−335963A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164734(P2005−164734)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】