説明

固体濃縮分離方法および固体濃縮分離装置

【課題】膜分離プロセスを利用して、濃縮物を十分高い濃度に濃縮して回収することができる固体濃縮分離方法および固体濃縮分離装置を提供する。
【解決手段】精密ろ過膜1、眼外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用い、所定量の原液11を分離して膜面上にケーク層C1を形成させた後、そのケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換して、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する固体濃縮分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離プロセスを利用して固体濃縮物を回収する固体濃縮分離方法および固体濃縮分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用いて、原液(原水を含む)中の固形分を濃縮する濃縮分離処理が行われている。この処理では、予め前処理を経た原液をろ過膜で分離することによって、原液中の微生物、またコロイドやシルト中の高分子や有機化合物などの懸濁ないし溶解性成分を濃縮し、所定濃度となるまで濃縮処理が行われる。この濃縮処理は、ペースト状物質を経て、最終的に脱水乾燥工程で固形化される場合もある。
【0003】
近年、このような分離膜による分離プロセスが、加熱処理を用いないため、食品や医薬製薬プロセスに導入されている。そして、膜分離プロセスによって濃縮処理を行う場合、回収率80%程度を上限として、供給水の粘度等の増加により、これ以上の妥当な濃縮レベルまで膜処理ができないことが、しばしば経験されている。これは、膜面上にケーク層が堆積し、ろ過抵抗を増大せしめるからである。
【0004】
また、清澄工程に使用する孔径0.1μmの精密ろ過膜(MF)や、分画分子量20,000Daltons、名目孔径0.007μm限外ろ過膜(UF)を用いて得られる濃縮水が、濃縮倍率20倍以上で急激な粘度増加を示することもしばしば認められている。この増粘の原因は、濁質成分や溶解性成分が、UFやMFにより濃縮され、溶液中に存在するためである。
【0005】
従来、懸濁物を固液分離する方法として、フィルタープレス装置を用いる方法が知られている。このフィルタープレス装置は、懸濁物を含む原液をろ布で固液分離するものであり、全量ろ過処理の方式で行われている。しかし、フィルタープレス装置は、分離膜を使用するものではなく、濃縮物を回収するための装置ではない。従って、圧搾操作の後にろ布とろ過ケークの分離が困難であり、ペーストの取り出し操作が、原液成分により異なり、簡便に膜面から掻き取るための装置上の工夫が求められる。
【0006】
一方、従来から知られているオリバー型ろ過器は、ろ布などを用いた回転式の多室円筒型の真空ろ過器であり、円筒型ろ過器を原液槽に浸して回転させながら連続真空ろ過を行うものである。このオリバー型ろ過器は、スクレーパによりケークを除去する機構を有するものの、分離対象物がろ布で分離可能なものであり、ろ過圧力差を十分大きくできないなど、装置上の制約の理由から、前記の分離膜を用いた濃縮処理には適用されていない。
【0007】
また、精密ろ過膜等を用いた膜分離装置において、分離操作を行う際に、膜の供給側に生成するケーク層を、メッシュを介してゴム製ブレードで掻き取り除去して、ケーク層の厚みを一定に制御する発明が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、この分離方法は、掻き取ったケークを回収するものではなく、液相中で掻き取りを行うため、これを回収しようとしても濃縮物を十分高い農度に濃縮して回収するのは困難であった。
【特許文献1】特開平10−33951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、膜分離プロセスを利用して、濃縮物を十分高い濃度に濃縮して回収することができる固体濃縮分離方法および固体濃縮分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、MF等の分離膜の表面にケークとして付着する成分を一時的に気体中に取り出して回収することで、粘度増加を抑制でき、高濃縮操作が容易に行えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の固体濃縮分離方法は、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用い、所定量の原液を分離して膜面上にケーク層を形成させた後、そのケーク層に隣接する原液を気体で置換して、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収することを特徴とする。
【0012】
本発明の固体濃縮分離方法によると、原液を膜分離してケーク層を形成させるため、濁質成分や溶解性成分を高濃度に濃縮できる。そして、このケーク層に隣接する原液を気体で置換するため、高濃度のケーク層のみを分離でき、気体雰囲気下で膜面上のケースを回収するため、液相中で回収を行う場合と比較して、濃縮物が高濃度を維持することができる。
【0013】
上記において、前記分離の操作を、全量ろ過方式で行うことが好ましい。本発明では、ケークを回収するため、再び膜分離を行う際にケーク層がろ過抵抗になりにくいので、全量ろ過方式を採用することができる。従って、全量ろ過方式で分離を行うことで、濃縮物の回収率をほぼ100%とすることができ、不必要な廃液も発生しなくなる。
【0014】
また、前記原液が、非水系溶剤を含むものである場合に本発明は特に有効となる。原液が非水系溶剤を含む場合、原液の廃液処理が一般に煩雑となり、原液に含まれる固形分を高濃度かつ高回収率で回収するのが望ましいため、これが可能な本発明が特に有効となる。
【0015】
一方、本発明の固体濃縮分離装置は、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜からなる分離膜と、その分離膜の両側に差圧を生じさせて原液の分離を行う差圧発生手段と、前記分離膜の膜面上のケーク層に隣接する原液を気体で置換する液体置換手段と、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収する回収手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の固体濃縮分離装置によると、差圧発生手段により原液が分離膜で分離されて膜面上にケーク層を形成することができ、濁質成分や溶解性成分を高濃度に濃縮できる。更に、液体置換手段によってケーク層に隣接する原液を気体で置換することで、高濃度のケーク層のみを分離できる。その後、回収手段により気体雰囲気下で膜面上のケークを回収するため、液相中で回収を行う場合と比較して、濃縮物が高濃度を維持することができる。
【0017】
上記において、前記液体置換手段は、原液槽に浸漬された前記分離膜を引き上げるか、原液槽の液面を低下させるか、または前記分離膜の膜面に気体を供給する機構を備えることが好ましい。これらの機構によると、簡易な機構及び操作で、分離膜の膜面上のケーク層に隣接する原液を気体で置換することができる。
【0018】
また、前記回収手段は、ゴム製ブレードにて平膜の表面に沿って掻き取りを行うか、またはチューブ状膜の内部でスポンジ状物体を移動させる機構を備えることが好ましい。これらの機構によると、簡易な機構及び操作にて、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら第1実施形態〜第4実施形態の順で説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の固体濃縮分離装置の第1実施形態の例を示す概略斜視図である。この図は、原液槽10に浸漬された分離膜1を引き上げて、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収している状態を示している。
【0020】
本発明の固体濃縮分離装置は、図1に示すように、分離膜1と、その分離膜1の両側に差圧を生じさせて原液11の分離を行う差圧発生手段2と、分離膜1の膜面上のケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換する液体置換手段3と、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する回収手段4とを備える。
【0021】
本実施形態では、分離膜1が円盤状平膜であり、液体置換手段3が原液槽10に浸漬された分離膜1を引き上げる機構を有し、回収手段4がベルトコンベヤ4aを備える例を示す。
【0022】
本発明では、分離膜1として、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用いることができるが、比較的大きな差圧が必要なNF膜や逆浸透膜を用いる場合、差圧発生手段2として加圧ポンプと圧力容器を組み合わせて実施するのが好ましい。
【0023】
本発明の分離対象となる原液11としては、濁質成分や溶解性成分を含有するものであれば何れでもよく、上記の分離膜1に対応して種々のものを対象とすることができるが、本発明は、溶媒としてアルコール、アセトン、油など非水系溶剤を用いた原液の場合に特に有効である。
【0024】
分離膜1は円盤状の膜支持体1aの両面に固着され、内部に透過液の流路空間が形成される。この流路空間は、膜支持体1aの中央に連結された回転軸1bの内部空間に連通しており、更に吊り下げパイプ3aの内部空間に連通している。この吊り下げパイプ3aは吸引ポンプ2aによって減圧され、同時に透過液がこれらの空間を経由して外部に排出される。
【0025】
分離膜1を固着した膜支持体1aは、3体が回転軸1bに連結されており、吊り下げパイプ3aの先端に回転可能に軸支されている。この吊り下げパイプ3aを駆動させることで、原液11を分離する際には、好ましくは分離膜1の全体が、原液槽10の原液11に浸漬された状態とする。
【0026】
この状態で、吸引ポンプ2aによって、分離膜1の両側に差圧を生じさせると、原液11が分離され、分離膜1の膜面上にケーク層C1を形成させることができる。原液槽10には、必要に応じて原液供給管12から原液11が追加供給される。また、原液11の一部を原液槽10から排出してもよいが、本発明では排出せずに全量ろ過方式で行うのが好ましい。
【0027】
所定量の原液11を分離すると、適当な厚みのケーク層C1が形成されるが、この工程で形成するケーク層C1の厚みは、1〜9mmが好ましい。このような厚みになるまでの処理時間は、原液11に含まれる濁質成分や溶解性成分の濃度や、処理圧、膜の種類や性能によって異なるが、10〜180分間程度、分離を行うようにするのが好ましい。
【0028】
次いで、液体置換手段3によって、原液槽10に浸漬された分離膜1を引き上げることで、ケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換する。液体置換手段3は、この例では、吊り下げパイプ3aと、これを上下に駆動するモータ3bと、モータ3bの取付体3cを左右にスライドさせるモータ3dで主に構成することができる(フレームは図示省略)。
【0029】
分離膜1の引き上げに続いて、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する操作が行われる。回収のための回収手段4は、ベルトコンベヤ4aと回収容器4bと回転駆動モータ4cとで主に構成される。
【0030】
回転駆動モータ4cが回転軸1bと分離膜1とを矢印A1の方向に回転させながら、また、ベルトコンベヤ4aを矢印A2の方向に駆動させながら、回転軸1bを矢印A3の方向に移動させることで、膜面上のケーク層C1がベルトコンベヤ4aのベルトで掻き取られて搬送され、回収容器4bに濃縮物として回収される。
【0031】
膜面上のケーク層C1からケークCが十分回収されると、再び分離膜1を原液槽10に浸漬して、膜分離を行い、以上の操作を繰り返す。再び膜分離を行う前に、予め原液に含まれる液体成分や透過液を用いて、膜面を洗浄してもよい。
【0032】
本発明の固体濃縮分離方法は、以上のように、精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用い、所定量の原液を分離して膜面上にケーク層を形成させた後、そのケーク層に隣接する原液を気体で置換して、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収するものである。
【0033】
本発明によると、膜分離プロセスを利用して、濃縮物を十分高い濃度に濃縮して回収することができることから、安定した膜分離操作を確保し、かつ固形物の脱水・乾燥操作からなる後処理を容易にすることができる。
【0034】
〔第2実施形態〕
図2は、本発明の固体濃縮分離装置の第2実施形態の例を示す概略斜視図である。この図は、原液槽10の原液11を一旦排出して、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収している状態を示している。
【0035】
本実施形態では、分離膜1が円筒状平膜であり、液体置換手段3が原液槽10の液面を低下させる機構を有し、回収手段4がゴム製ブレード4dを備える例を示す。この例では、原液槽10を加圧し易い構造のため、比較的大きな差圧が必要なNF膜や逆浸透膜を用いることも可能である。
【0036】
分離膜1は円柱状の膜支持体1aの外周面に固着され、内部に透過液の流路空間が形成される。この流路空間は、膜支持体1aの中央に連結された回転軸1bの内部空間に連通しており、吸引ポンプ2aによって減圧され、同時に透過液がこれらの空間を経由して外部に排出される。
【0037】
分離膜1を固着した膜支持体1aは、3体が回転軸1bに連結されており、原液槽10に回転可能に軸支されている。この原液槽10に原液供給管12から原液11を供給することで、原液11を分離する際には、好ましくは分離膜1の全体が、原液槽10の原液11に浸漬された状態とする。
【0038】
この状態で、吸引ポンプ2aによって、分離膜1の両側に差圧を生じさせると、原液11が分離され、分離膜1の膜面上にケーク層C1を形成させることができる。また、原液槽10を圧力容器で構成し、内部の加圧を行うことで、分離膜1の両側に差圧を生じさせることも可能である。
【0039】
所定量の原液11を分離すると、適当な厚みのケーク層C1が形成される。その際、膜支持体laを回転させても、回転させなくてもよいが、急速な回転はケーク層C1の形成に不利となる。逆に、適度な回転はより均一な腰分離を行う点から好ましい。
【0040】
次いで、液体置換手段3によって、原液槽10の原液11の液面を低下させることで、ケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換する。液体置換手段3は、この例では、原液11を排水する排水ポンプと、これを貯留する貯留タンクとで主に構成することができる(図示省略)。
【0041】
原液11の液面低下に続いて、図2に示すように、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する操作が行われる。回収のための回収手段4は、ゴム製ブレード4dと回収容器4bと吊り下げステー4eとその駆動機構(図示省略)とで主に構成される。
【0042】
回転軸1bと分離膜1とを矢印A4の方向に回転させながら、ゴム製プレード4dを回収容器4bと共に矢印A5の方向に移動させることで、膜面上のケーク層C1がゴム製ブレード4dで掻き取られて、回収容器4bに濃縮物として回収される。
【0043】
膜面上のケーク層C1からケークCが十分回収されると、再び貯留タンクから原液槽10に原液11を供給して、膜分離を行い、以上の操作を繰り返す。
【0044】
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の固体濃縮分離装置の第3実施形態の例を示す概略斜視図である。図3(a)は、原液槽10の原液11を膜分離している状態を、図3(b)は、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収している状態を示している。
【0045】
本実施形態では、分離膜1が膜支持体1aに取り付けられ平膜(プレート・フレームタイプ)であり、液体置換手段3が原液槽10に浸漬された分離膜1を引き上げる機構を有し、回収手段4がゴム製ブレード4dを備える例を示す。
【0046】
分離膜1は長方形の膜支持体1aの両面に固着され、スペーサ等により内部に透過液の流路空間が形成される。この流路空間は、膜支持体1aの上部に連結されたホース3fに連通しており、吸引ポンプ等(図示省略)によって減圧され、同時に透過液がこれらの空間を経由して外部に排出される。
【0047】
図3(a)に示すように、分離膜1を固着した膜支持体1aは、複数がホース3fまたは吊り下げステーによって原液槽10に支持されて、原液11に浸漬された状態とする。この状態で、吸引ポンプ2aによって、分離膜1の両側に差圧を生じさせると、原液11が分離され、分離膜1の膜面上にケーク層C1を形成させることができる。また、原液槽10を圧力容器で構成し、内部の加圧を行うことで、分離膜1の両側に差圧を生じさせることも可能である。所定量の原液11を分離すると、適当な厚みのケーク層C1が形成される。
【0048】
次いで、液体置換手段3によって、原液槽10に浸漬された分離膜1を引き上げることで、ケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換する。液体置換手段3は、第1実施形態と同様の機構を採用することが可能であるが、ロボットハンド等を用いることも可能である。
【0049】
続いて、図3(b)に示すように、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する操作が行われる。回収のための回収手段4は、回収容器4bとゴム製ブレード4dとその駆動機構(図示省略)とで主に構成される。
【0050】
分離膜1を固定した状態で、ゴム製ブレード4dを矢印A6の方向に揺動させることで、膜面上のケーク層C1がゴム製ブレード4dで掻き取られて、回収容器4bに濃縮物として回収される。
【0051】
膜面上のケーク層C1からケークCが十分回収されると、再び分離膜1を原液槽10に浸漬して、膜分離を行い、以上の操作を繰り返す。
【0052】
〔第4実施形態〕
図4は、本発明の固体濃縮分離装置の第4実施形態の例を示す概略斜視図である。図4(a)は、原液11を供給して膜分離している状態を、図4(b)〜(c)は、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収している状態を示している。
【0053】
本実施形態では、分離膜1がチューブ状膜であり、液体置換手段3がチューブ状膜に気体を供給する機構を有し、回収手段4がスポンジボール4fを備える例を示す。
【0054】
分離膜1は、例えば端部支持体に固着されて一亘のみが開口する膜エレメントが形成され、膜エレメントは適当な容器内に収納される。チューブ状膜の内部空間には原液11がポンプ等によって供給され、容器内のチューブ状膜の外周側には、透過液の流路空間が形成される。透過液はこの空間を経由して外部に排出される。また、原液11の一部を分離膜1から排出してもよいが(クロスフロー方式)、本発明では排出せずに全量ろ過方式で行うのが好ましい。
【0055】
図4(a)に示すように、分離膜1の内部に原液11を供給する際、加圧ポンプ2bで加圧することによって、分離膜1の両側に差圧を生じさせる。これによって、原液11が分離され、分離膜1の膜面上にケーク層C1を形成させることができる。所定量の原液11を分離すると、適当な厚みのケーク層C1が形成される。
【0056】
次いで、液体置換手段3によって、分離膜1の内部に空気や窒素等の気体を供給することで、ケーク層C1に隣接する原液11を気体で置換する。液体置換手段3としては、コンプレッサーやガスボンベなどが利用できる。
【0057】
続いて、図4(b)〜(c)に示すように、気体雰囲気下で膜面上のケークCを濃縮物として回収する操作が行われる。回収のための回収手段4は、スポンジボール4fとこれを膜内で移動させるためのガス供給装置や押し込み装置等(図示省略)とで主に構成される。また、スポンジボール4f等のスポンジ状物体に代えて、球状ゴムや円柱状ゴム、又は球状樹脂や円柱状樹脂などを使用することも可能である。
【0058】
ガス供給装置としては、空気や窒素等を供給するコンプレッサーやガスボンベなどが利用でき、上記の液体置換手段3と兼用することも可能である。押し込み装置としては、ワイヤーやロッドを伸縮動作できる装置が利用可能である。
【0059】
分離膜1を固定し、下流側端部を開口した状態で、スポンジボール4fを矢印A7の方向に揺動させることで、膜面上のケーク層C1がスポンジボール4fで掻き取られて、下流側端部の開口から排出され、回収容器4bに濃縮物として回収される。
【0060】
膜面上のケーク層C1からケークCが十分回収されると、分離膜1の下流側端部を閉じて、再び分離膜1に原液11を供給して、膜分離を行い、以上の操作を繰り返す。
【0061】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、図1〜図4に示すような形態の分離膜および膜支持体を用いる例を示したが、本発明における分離膜の形態は、膜面上に空間を有し、機械的に膜面上のケーキ層を掻き取ることが可能な膜エレメント等であれば何れでもよい。例えば、平膜、外圧型中空糸、回転・円筒(円板)式、管状型膜エレメントに適応可能である。また、装置の大きさは、1000L規模から100ml規模に適用可能である。
【0062】
(2)前述の実施形態では、膜面上に形成されたケーク層を直接、物理的に回収する例を示したが、本発明では、膜面上に樹脂、金属、繊維のメッシュや多孔板などを配置しておき、これらを分離膜との間に介在させつつ、ケークを掻き取るなどして回収してもよい。これによると、膜面をより傷付けにくくすることができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例等について説明する。
【0064】
実施例1
0.1μmの精密ろ過膜を用いて、酵母エキスをバッチ方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は1.8g/100mLであり、加圧条件0.3MPaで30分間全量ろ過を行った。その後、約3mmの厚みのケーク層をゴム製ブレードで掻き取って回収したところ、濃縮物は濃度65g/100mLであった。このとき透過水(定常濃度8.0mg/100mL)の流束(フラックス)は、初期値の1/3まで減少したが、30分間での減少幅は小さかった。
【0065】
比較例1
0.1μmの精密ろ過膜を用いて、酵母エキスをクロスフロー方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は3g/100mLであり、加圧条件0.3MPaで連続的にろ過を行い、原液の下流側から濃縮物を回収した。その結果、濃縮物は濃度15g/100mLであった。このとき透過水(定常濃度15g/100mL)の流束(フラックス)は、初期値の1/20まで大幅に減少した。
【0066】
実施例2
分画分子量2万Daltonsの限外ろ過膜を用いて、水溶性蛋白質溶液をバッチ方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は12.7体積%であり、予備加圧条件0.6MPaで5℃の条性で25分間全量ろ過を行った。その後、約2mmの厚みのケーク層をゴム製ブレードで掻き取って回収したところ、濃縮物は濃度40体積%であった。このとき透過水(定常濃度8体積%)の流束(フラックス)は、初期値の1/3まで減少したが、25分間での減少幅は小さかった。
【0067】
比較例2
分画分子量2万Daltonsの限外ろ過膜を用いて、水溶性蛋白質溶液をクロスフロー方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は12.0体積%であり、予備加圧条件0.6MPaで5℃の条件で連続的にろ過を行い、原液の下流側から濃縮物を回収した。その結果、濃縮物は濃度24体積%であった。このとき透過水の流束(フラックス)は、初期値の1/10以下まで大幅に減少した。また、濃縮限界は濃度24体積%であった。
【0068】
実施例3
分画分子量100万Daltonsの管状限外ろ過膜を用いて、トマト果汁をバッチ方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は1.2体積%であり、予備加圧条件0.6MPaで5℃の条件で60分間全量ろ過を行った。その後、管内部の原液を排出し、約5mmの厚みのケーク層をスポンジボールで掻き取って回収したところ、濃縮物は濃度30体積%であった。このとき透過水の流束(フラックス)は、初期値の1/4まで減少したが、60分間での減少幅は小さかった。
【0069】
比較例3
分画分子量100万Daltonsの管状限外ろ過膜を用いて、トマト果汁をクロスフロー方式で濃縮処理した。その際、初期濃度は1.2体積%であり、予備加圧条件0.6MPaで5℃の条件で連続的にろ過を行い、原液の下流側から濃縮物を回収した。その結果、濃縮物は濃度10体積%であった。このとき透過水の流束(フラックス)は、初期値の1/10以下まで大幅に減少した。また、濃縮限界は濃度10体積%であった。
【0070】
以上の実施例に示すように、膜面上に全量ろ過操作により、意図的に固形物を堆積させ、単離させることで、溶液中の固形分濃度を低減できるので、比較例1、2に示すように、従来法で濃縮と共に起こるFlux低下を低減できる。このためので、分離プロセスとしては、効果的な膜分離手段を提供できる。また、濃縮物の濃度も大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1は、本発明の固体濃縮分離装置の第1実施形態の例を示す概略斜視図
【図2】図2は、本発明の固体濃縮分離装置の第2実施形態の例を示す概略斜視図
【図3】図3は、本発明の固体濃縮分離装置の第3実施形態の例を示す概略斜視図
【図4】図4は、本発明の固体濃縮分離装置の第4実施形態の例を示す概略斜視図
【符号の説明】
【0072】
1 分離膜
2 差圧発生手段
3 液体置換手段
4 回収手段
4d ゴム製ブレード
4f スポンジボール
10 原液槽
11 原液
C ケーク
C1 ケーク層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜を用い、所定量の原液を分離して膜面上にケーク層を形成させた後、そのケーク層に隣接する原液を気体で置換して、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収する固体濃縮分離方法。
【請求項2】
前記分離の操作を、全量ろ過方式で行う請求項1記載の固体濃縮分離方法。
【請求項3】
前記原液は、非水系溶剤を含むものである請求項1又は2に記載の固体濃縮分離方法。
【請求項4】
精密ろ過膜、限外ろ過膜、NF膜、または逆浸透膜からなる分離膜と、その分離膜の両側に差圧を生じさせて原液の分離を行う差圧発生手段と、前記分離膜の膜面上のケーク層に隣接する原液を気体で置換する液体置換手段と、気体雰囲気下で膜面上のケークを濃縮物として回収する回収手段とを備える固体濃縮分離装置。
【請求項5】
前記液体置換手段は、原液槽に浸漬された前記分離膜を引き上げるか、原液槽の液面を低下させるか、または前記分離膜の膜面に気体を供給する機構を備える請求項4に記載の固体濃縮分離装置。
【請求項6】
前記回収手段は、ゴム製ブレードにて平膜の表面に沿って掻き取りを行うか、またはチューブ状膜の内部でスポンジ状物体を移動させる機構を備える請求項4又は5に記載の固体濃縮分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−102595(P2006−102595A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290435(P2004−290435)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】