説明

固体燃料

【課題】自然界に大量に生息する植物の果実の種子またはその搾りかすを利用して火力発電用に適した固体燃料を提供する。
【解決手段】唐胡麻、南京黄櫨、南洋油桐、菜種、ヤシ、トウモロコシまたはハニーメスキートの果実の種子或いはその搾りかすを乾燥重量で70重量%以上、含有する組成物よりなり、かつ加熱圧縮成型されていることを特徴とする固体燃料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体燃料に関する。さらに詳しくは、自然界に大量に生息し、かつ油脂成分を多く含有する或る種の植物の果実(殊に種子)やその種子から油脂成分を搾ったかす(滓)を有効に利用した固体燃料に関する。より具体的には、前記果実(殊に種子)やその搾りかすを効果的に利用するとともに、燃焼後有害なガスや残渣が可及的に少なく、発熱量が大きくしかも二酸化炭素発生抑制につながる固体燃料、殊に火力発電用燃料に適した固体燃料に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な環境問題のひとつでもある地球温暖化の原因に空気中に存在する二酸化炭素量の増加が挙げられる。昨今、二酸化炭素の発生抑制を行おうとの地球規模で様々な手法により取り組まれている。その手法の中の一つに石炭やガソリンといった化石燃料の代替として、バイオ燃料を造り、自動車や発電ボイラーへの利用が押し進められているが、バイオ燃料の原料として用いられているトウモロコシなどの食物を使用することにより、生態系および経済バランスが崩れつつあり、最善の手法とはいえない。このように従来、人間が生きていくうえで不可欠なバランスである衣・食・住への影響を最小限に抑えるべく、かつ同時に地球環境も考慮していく必要があるが、非常に困難な問題であるために、様々な研究がなされてはいるが、未だ、解決されていない。そこで、プラスチックを用いた固体燃料が発電用ボイラーで、石油や石炭の代替として利用されているが、二酸化炭素の発生抑制効果は、未だ十分とはいえない。
【0003】
一方自然界には食用には適さないが、比較的油脂成分の含有量が多い果実(殊に種子)が存在する。その果実(種子)から油脂成分を搾り、石鹸や工業製品などに利用されているものは多く知られている。そのうち、多量に種子が得られ、油脂成分も多く利用されているものが、例えば下記に挙げられる。
(1)唐胡麻(学名 Ricinus communis);
別名 ヒマ(蓖麻)とも称され、アフリカ、インドや中国に大量に生育する多年草である。一般にヒマシ油の原料として種子からの油脂は利用されているが、油脂は毒性が強く、食用としてはあまり利用されていない。
しかし油脂成分は、バイオ燃料、クールトオイルなどの代替燃料として検討されている。
(2)南京黄櫨(学名 Triadica sebifera)
別名 トウハゼ、カンテラギとも称され、中国と台湾に多く生息する。種子からの油脂成分は、石鹸や蝋燭の原料として利用され、一部薬用にも使用されている。
(3)南洋油桐(学名 Jatropha curcas)
別名 タイワンアブラギリ、ジャトロファまたはヤトロファとも称され、中南米原産ではあるが種子は油分に富み、収穫量も多いことからインド、中国、アフリカ、南米など多くの国で、多量に栽培されている。種子から搾った油脂は、石鹸や蝋燭として利用されているが、最近はバイオディーゼル燃料として脚光を浴びている。
(4)菜種(学名 Brassica rapa L.var.nippo−oleifera)
通称 油菜とも称され、アブラナ科アブラナ属の二年生植物。古くから野菜として、また油を採るため栽培されてきた作物で、別名としてナノハナ(菜の花)、ナタネ(菜種、厳密には採取した種子のこと)などがあり、江戸時代には胡菜または菜薹と呼ばれた。
(5)ヤシ(椰子)(学名:Palmae)
ヤシ科植物の総称。ココヤシ亜科、アレカ亜科、トウ亜科など11亜科29族(連)に分けられる。
熱帯地方に多く産生する。中近東では6000年前からナツメヤシの糖分の多い果肉(中果皮)が食料として利用され、現代でも菓子、果糖、アルコールなどの用途に供される。ココヤシやアフリカアブラヤシなどの胚乳から多量の良質な油脂(コプラ)が得られ、工業用、せっけん、マーガリンなどに利用される。また数種のサトウヤシ類からは、花柄に切り傷をつけ、切り口から出る樹液を煮つめ、乾燥して糖蜜(とうみつ)、砂糖を得る。
(6)トウモロコシ(学名:Zea mays)
イネ科の一年生植物。種子は穀物として人間の食料や家畜の飼料となるほか、デンプン(コーンスターチ)や油、バイオエタノールの原料としても重要で、年間世界生産量は6億トンに達する。そのうち約4億トンが飼料、約2億トンが人間の主食として利用される。
(7)ハニーメスキート:Honey mesquito(学名 Prosopis glandulosa)
アメリカの南西部、テキサス州からカリフォルニア州それにメキシコ北部に分布している。乾燥した平原や丘陵、砂漠などに生え、高さは6メートルほどになる。春から夏にかけて、総状花序を下垂させ、芳香のある淡黄色の花を咲かせる。果実は莢果で、夏に熟します。南西部に住むインディアンは、この莢を食用とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明者は、前記種子またはその油脂成分を搾り取った後の、かす(以下、“搾りかす”と略称する)が多量に発生することに着眼し、その有効利用、殊に二酸化炭素の発生抑制となる新しいエネルギー源として使用しうる固体燃料の開発を目的として鋭意研究を進めた。本発明者の知る限り、殊に搾りかすは、搾り取った油脂成分の量とほゞ同じ量が多量発生し、搾りかすは若干の油脂成分が残存していることもあって、それ自体種子片状であって、燃料として使用しうることが、一般的には知られていたが、その利用は小規模であった。
【0005】
本発明者は前記目的の達成のために研究を重ねた結果、前記種子、殊にその搾りかす或いはそれを主成分とする組成物を特定条件で加熱圧縮し成形すると、結合剤(例えばプラスチック)や形態保持剤(例えばゴムや粘着剤)などを意図的に可成りの量を配合しないでも、硬い成形物に成形し得ること、得られた成形物は、固体燃料として充分な発熱量を有すること、さらに驚くべきことには、成形物は、搾りかすが主成分であるにも拘わらず充分な硬度と強靭性を有していること、すなわち優れた形態保持安定性を有していることが判った。この形態保持安定性は、固体燃料として、殊に火力発電用燃料として極めて価値ある特性の1つである。固体燃料はその製造後(成形後)、貯蔵、輸送および積み卸しなどの工程が繰り返されて使用に供される。その間砕片化が起こり、小砕化が顕著になると工業用の固体燃料として不適切なものとなる。
【0006】
本発明による固体燃料は、成形後からユーザーが使用するまでの工程において、破片化や粉砕化が殆ど起らず、成形した適切な大きさで工業用燃料、殊に火力発電用燃料として長期間形状を保持しうるものであることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記知見に基づいて到達されたものであって、本発明によれば、唐胡麻、南京黄櫨、南洋油桐、菜種、ヤシ、トウモロコシまたはハニーメスキートの果実の種子或いはその搾りかすを乾燥重量で70重量%以上、含有する組成物よりなり、かつ加熱圧縮成型されていることを特徴とする固体燃料が提供される。
また本発明の好ましい態様によれば下記の固体燃料が提供される。
(1) 該組成物は、前記果実の種子またはその搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(2) 該組成物は、前記果実の種子またはその搾りかすを乾燥重量で85重量%以上含有する固体燃料。
(3) 該組成物を、80〜150℃の温度で圧縮成型することにより得られた固体燃料。
(4) 該組成物は、唐胡麻の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(5) 該組成物は、南京黄櫨の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(6) 該組成物は、南洋油桐の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(7) 該組成物は、菜種の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(8) 該組成物は、ヤシの果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(9) 該組成物は、トウモロコシの果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(10) 該組成物は、ハニーメスキートの果実の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する固体燃料。
(11) 発熱量が15〜30Mj/kgである固体燃料。
(12) 1個当たりの大きさが平均15〜3500cm3である固体燃料。
(13) 見掛け比重が0.3〜0.6g/cm3である固体燃料。
(14) 形態保持安定性の試験の結果、砕片化の割合が5重量%以下である固体燃料。
(15) 発電用として使用するための固体燃料。
(16) 前記記載の固体燃料の発電の燃料として使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自然界に大量に生息し、一部は食用或いは油脂として使用されている或る種の植物果実またはその搾りかす(滓)を利用して、形態保持安定性の優れた固体燃料成形物を提供し得たものである。特に植物の果実の搾りかすから実質的になる固形燃料として、殊に発電用の固形燃料として提供し得たものである。従って本発明の固体燃料は自然界の植物から実質的に形成されるものであり、有害なガスも発生せず、しかも二酸化炭素抑制につながるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の固体燃料は、唐胡麻、南京黄櫨、南洋油桐、菜種、ヤシ、トウモロコシまたはハニーメスキートの果実の種子或いはその搾りかすを原料とし、これら果実の種子或いはその搾りかすより実質的になる組成物より形成される。前述したように、これら果実の種子はその一部が食用や油脂の原料として利用されているものである。従って本発明の固体燃料は前記果実の種子の搾りかすを原料とすることが好ましい。種子の搾りかすとは、乾燥した種子を圧搾し、油脂分を取り除いた残渣である。搾りかすは、若干の油脂分および水分を含有しているが、本発明ではそのまま原料として使用することができる。
【0010】
本発明の固体燃料は、種子或いはその搾りかすを乾燥重量として70重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは85重量%以上含有している。ここで乾燥重量とは、種子或いは搾りかす中の水分を除去した重量を意味する。
【0011】
前記果実の種子或いは搾りかすは、油脂分を少なからず含んでいるため、特にバインダーを添加しなくとも加圧圧縮して成形することにより、形態保持安定性に優れ、且つ充分な発熱量を有する固体燃料とすることができる。
【0012】
本発明の固体燃料は前記種子或いはその搾りかす、好適には搾りかすが乾燥重量で70重量%以上、好ましくは80重量%以上の組成物であればよく、実質的に100重量%でもよい。しかし組成物当り、30重量%未満、好ましくは20重量%未満、特に好ましくは15重量%未満は他の天然物由来の成分、例えばゴム、澱粉などを含有していてもよい。
【0013】
前述した果実のうち、唐胡麻、南京黄櫨、南洋油桐、菜種またはヤシの果実が好ましく、殊に唐胡麻、南洋油桐またはヤシが好ましい。
【0014】
本発明の固体燃料を成形するには、前述した組成物を80〜150℃、好ましくは100〜130℃の温度で圧縮成形すればよい。加熱圧縮するには一軸または二軸の加熱押出機を利用することができる。
特に二軸のスクリュー押出機の使用が望ましい。押出機より圧縮押出された組成物は、具体的に円形状のノズルから排出し、適当な長さに切断することにより、円筒状の形状した成形物となる。
この際、円形状のノズルの直径を25〜50mm、好ましくは30〜40mmとすること、切断長さを20〜70mm、好ましくは25〜65mmとすることにより、固体燃料として望ましい大きさのものとすることができる。
【0015】
本発明の固体燃料は前記した成形方法で製造することが工業的に好ましいので、形状は円筒形乃至角柱形が望ましいが、特に円筒形が有利である。また大きさとしては、一個当たりの容積として平均で15〜3500cm、好ましくは20〜1000cmが望ましい。
また固体燃料の見掛け比重が0.3〜0.6g/cm、好ましくは0.4〜0.5g/cmの範囲が望ましい。
【0016】
固体燃料は発熱量が安定しておりその発熱量は15〜30MJ/kg、好ましくは20〜28MJ/kgである。従って本発明の固体燃料は発熱量も高く安定し、しかも形態保持安定性がよく、従って火力発電用の燃料として有利に使用される。
【実施例】
【0017】
実施例により得られた固体燃料の形態保持安定試験は下記方法により実施した。
固体燃料100kgを、容量200リットルの金属缶(ドラム缶)の中に入れ、距離100mの平坦なアスファルト路地上を3分間かけて回転させ、これを同様に繰り返し5往復させる(合計1000m)。その後、金属缶の中にある固体燃料をとり出し、目開きが10mm以下の篩いを通過した量の割合(%)とする。
【0018】
(評価基準)
目開きが10mm以下の篩いを通過した割合(重量)を算出し、下記の基準で評価する。
・0%〜5%以下:良い
・6%〜10%以下:普通
・11%〜15%:悪い
【0019】
[実施例1〜7]
下記表1に示した種類の果実の種子の搾りかすを原料組成物(各組成物の組成は、搾りかすを80重量%、天然ゴムを20重量%とした)とし、130℃に加熱した二軸スクリュー押出機にて、押出し直径約50mmの円筒状の固体燃料を得た(長さ65mm)。得られた固体燃料の見掛け比重(嵩比重)、発熱量および形態保持安定試験の結果を下記表1に示した。
【0020】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
唐胡麻、南京黄櫨、南洋油桐、菜種、ヤシ、トウモロコシまたはハニーメスキートの果実の種子或いはその搾りかすを乾燥重量で70重量%以上、含有する組成物よりなり、かつ加熱圧縮成型されていることを特徴とする固体燃料。
【請求項2】
該組成物は、前記果実の種子またはその搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項3】
該組成物は、前記果実の種子またはその搾りかすを乾燥重量で85重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項4】
該組成物を、80〜150℃の温度で圧縮成型することにより得られた請求項1記載の固体燃料。
【請求項5】
該組成物は、唐胡麻の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項6】
該組成物は、南京黄櫨の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項7】
該組成物は、南洋油桐の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項8】
該組成物は、菜種の果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項9】
該組成物は、ヤシの果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項10】
該組成物は、トウモロコシの果実の種子の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項11】
該組成物は、ハニーメスキートの果実の搾りかすを乾燥重量で80重量%以上含有する請求項1記載の固体燃料。
【請求項12】
発熱量が15〜30Mj/kgである請求項1記載の固体燃料。
【請求項13】
1個当たりの大きさが平均15〜3500cm3である請求項1記載の固体燃料。
【請求項14】
見掛け比重が0.3〜0.6g/cm3である請求項1記載の固体燃料。
【請求項15】
形態保持安定性の試験の結果、砕片化の割合が5重量%以下である請求項1記載の固体燃料。
【請求項16】
発電用として使用するための請求項1記載の固体燃料。
【請求項17】
請求項1記載の固体燃料の発電の燃料として使用。