説明

固体農薬組成物

【課題】製造時の製造操作性の改善効果に優れ、強度のある固体農薬組成物を提供する。
【解決手段】 下記の(A)、及び(B)成分を含有する固体農薬組成物である。
(A)数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維
(B)農薬有効成分

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体農薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農薬の剤型として、粉剤、粒剤、顆粒剤などの固体製剤、乳剤、液剤、フロアブル剤、油剤、エマルション製剤、などの液体製剤などが利用されている。
近年、農薬散布者や環境に対する安全性の配慮から、固体製剤においては、農薬散布時の粉立ちやドリフト(漂流飛散)の少ない、顆粒剤、粒剤、ジャンボ剤、等の製剤が好まれる。
粒状の固体農薬製剤の製造方法としては、一般的に、農薬有効成分、増量剤、および、その他の助剤を水で混練した後、押出し造粒して製造される。その際に、
混練時の混合性改良、混練時の加水量低減、造粒時の保形性改善、押出し性の改善等の製造性改良剤として、界面活性剤や水溶性高分子が添加される。水溶性高分子は、製造性改良剤としての効果に加え、結合剤としての効果を期待して添加される。
従来の固体農薬組成物に配合する結合剤、分散剤、排出性改良剤等の製造性改良剤として、各種の界面活性剤や水溶性高分子の例が記載されている。中でも、セルロース系の水溶性高分子は粘度鉱物質との親和性が高く、生分解性で安全性が高いため、カルボキシメチルセルロースに代表されるセルロース系の水溶性高分子が使用されてきた(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、農薬製剤ガイド、1997年、P15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1に記載のセルロース系の水溶性高分子は水溶性が強いため、得られる農薬粒剤の強度を十分なものとするには、比較的配合量を多くしなければならないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、少ない添加量でも、固体農薬製造時の製造操作性の改善効果に優れ、強度のある固体農薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の(A)、及び(B)成分を含有することを特徴とする固体農薬組成物を第一の要旨とする。
(A)数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維
(B)農薬有効成分
すなわち、本発明者らは、少ない添加量で固体農薬製造時の製造操作性の改善効果に優れ、強度のある固体農薬組成物を得るために、鋭意研究を重ねた。その過程で数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維を用いると、少ない添加量で固体農薬製造時の製造操作性の改善効果に優れ、強度の優れた固体農薬組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0007】
本発明の固体農薬組成物は、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維を配合することにより、少ない添加量で固体農薬製造時の製造操作性の改善効果に優れ、強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明の固体農薬組成物は、特定のセルロース繊維(成分A)と、農薬有効成分(成分B)とを用いて得ることができる。
上記特定のセルロース繊維(成分A)は、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維である。以下、さらに詳しく、本発明の組成物に使用するセルロース繊維について説明する。
【0009】
上記特定のセルロース繊維(成分A)は、I型結晶構造を有する天然物由来のセルロース固体原料を表面酸化し、ナノサイズにまで微細化した繊維である。原料となる、天然物由来のセルロースはほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーが多束化して高次構造を取っているため、そのままでは容易にはナノサイズにまで微細化して分散させることができない。上記特定のセルロース繊維(成分A)はその水酸基の一部を酸化しアルデヒド基およびカルボキシル基を導入し、ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めて、分散処理し、ナノサイズにまで微細化したものである。
【0010】
上記特定のセルロース繊維(成分A)の繊維径は、数平均繊維径が2〜150nmである。分散安定性の点から、さらに好ましくは、数平均繊維径が3〜80nmである。数平均繊維径が2nm未満であると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、逆に数平均繊維径が150nmを超えると、セルロース繊維そのものの分散安定性が低下し、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができない。
上記数平均繊維径は、例えば次のようにして測定することができる。すなわち、セルロース繊維に水を加え希釈した試料を分散処理し、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出することができる。
上記特定のセルロース繊維(成分A)を構成するセルロースが、I型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことから同定することができる。
【0011】
上記特定のセルロース繊維(成分A)のカルボキシル基の量は、好ましくは0.6〜2.2mmol/gの範囲である。カルボキシル基の量が0.6mmol/g未満であると、セルロース繊維そのものの分散安定性に乏しく、セルロース繊維の沈澱を生じる場合があり、また水性農薬組成物の分散安定性が低下する。カルボキシル基の量が2.2mmol/g以上であると、セルロース繊維の水溶性が強くなり、水性農薬組成物の分散安定性が低下する傾向にある。
上記特定のセルロース繊維(成分A)のカルボキシル基量の測定は、例えば電位差滴定により行うことができる。すなわち、乾燥させた上記特定のセルロース繊維(成分A)を水に分散させ、0.01規定の塩化ナトリウム水溶液を加えて、十分に攪拌して分散させる。つぎに、0.1規定の塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04規定の水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、セルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出することができる。なお、上記カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより、行うことができる。
【0012】
上記特定のセルロース繊維(成分A)を構成するグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化されているかどうかは、例えば、13C-NMR分析により確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れることで確認できる。
【0013】
次に、本発明の固体農薬組成物は、上記特定のセルロース繊維(成分A)とともに農薬有効成分(成分B)が用いられる。
【0014】
上記農薬有効成分(成分B)としては特に限定されるものではなく、例えば、
有機リン系殺虫剤、カーバメート系殺虫剤、ピレスロイド系殺虫剤、ネライストキシン系殺虫剤、ネオニコチノイド系殺虫剤、昆虫成長制御剤、その他の合成殺虫剤、天然殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、くん蒸剤、生物由来の殺虫剤、銅殺菌剤、無機殺菌剤、有機硫黄殺菌剤、有機リン系殺菌剤、メラニン生合成阻害剤、ベンゾイミダゾール系殺菌剤、ジカルボキシイミド系殺菌剤、酸アミド系殺菌剤、ステロール生合成阻害剤、メトキシアクリレート系殺菌剤、合成抗細菌剤、土壌殺菌剤、その他の合成殺菌剤、抗生物質殺菌剤、天然物殺菌剤、生物由来の殺菌剤、フェノキシ酸系除草剤、カーバメート系除草剤、酸アミド系除草剤、尿素系除草剤、スルホニル尿素系除草剤、ピリミジルオキシ安息香酸系除草剤、トリアジン系除草剤、ダイアジン系除草剤、ダイアゾール系除草剤、ビピリジリウム系除草剤、ジニトリロアニリン系除草剤、芳香族カルボン酸系除草剤、脂肪酸系除草剤、有機リン系除草剤、アミノ酸系除草剤、その他の有機除草剤、無機除草剤、生物由来の除草剤、植物成長調整剤、誘引剤、忌避剤、殺鼠剤、展着剤、等が挙げられる。さらに、社団法人日本植物防疫協会発行の農薬要覧(2008年版)に記載されている農薬有効成分等が挙げられる。これらは、2種類以上を併用しても良い。
【0015】
本発明の固体農薬組成物には、その効果を妨げない範囲内において、任意の成分を添加しても良い。
任意の成分としては、粘土鉱物類・充填剤、着色剤、界面活性剤類、溶剤類・オイル類、グリコール類・糖類、水溶性高分子類、防腐剤、凍結防止剤、無機塩類、紫外線遮蔽剤、ラテックス類、エマルジョン類、消泡剤、pH調整剤、香料類・消臭剤類、肥料等が挙げられる。
【0016】
上記粘土鉱物類、充填剤、としては、アルミナ、ジルコニア、蛙目粘土、カオリナイト、カオリン、カルシウムベントナイト、クロマイトサンド、けい砂、けい砂シリカ、珪酸ジルコニウム、けい石粉、珪藻土、窒化アルミニウム、炭酸バリウム、サポナイト、コレマナイト、焼成珪藻土、シラス、シラスバルーン、シリコンカーバイド、ジルコン砂、ジルコン、ジルコンフラワー、水酸化アルミニウム、ゼオライト、石英ガラス粉、ソジウムベントナイト、ソジウムモンモリトナイト、長石粉、陶石、ハロサイト、硼砂、マグネシア、木節粘土、蝋石、パーライト、セメント、炭酸カルシウム、マイカ、カオリンクレー、滑石、石筆石、石鹸石、ガラスビーズ、アルミナ、燐酸カルシウム、硅灰石、ワラストナイト、軽質炭酸カルシウム、合成ハイドロタルサイト、合成マイカ、重質炭酸カルシウム、焼成クレー、シルクパウダー、消石灰、セリナイト、炭酸カルシウム、超微粒酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム、ドロマイト粉末、ナイロン粉体、硫酸バリウム、微粒子水酸化アルミニウム、ポリエチレンワックス、ホワイトカーボン、有機ベントナイト、溶融シリカ、ロウ石、等が挙げられる。
【0017】
上記着色剤としては、亜鉛華、亜酸化銅、一酸化鉛、ウォッチングレッド、塩素法酸化チタン顔料、オイルファーネスブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、オキシサルファイド蛍光体、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、蛍光顔料、黒鉛、黒色酸化鉄、極微細炭酸カルシウム、コバルト青、コバルト緑、コバルト紫、胡粉、紺青、サーマルブラック、酸化クロム、酸化チタン(アタナース)、酸化チタン(ルチル)、酸化テルビウム、酸化銅、ジスアゾイエロー、赤色酸化鉄、造粒カーボンブラック、茶色酸化鉄、チャンネルブラック、超微粒子状酸化チタン、鉄黒、天然黒鉛粉末、天然土状黒鉛、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン、パーマネントレッド、バナデート蛍光体、微粒子酸化チタン、ファストイエロー10G、ベンガラ、モリブデンレッド、等が挙げられる。
【0018】
上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、が挙げられる。
【0019】
上記アニオン界面活性剤としては、アルキル(炭素数10〜15)ベンゼンスルホン酸塩、アルキル(炭素数6〜18)硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜30モル)アルキル(炭素数6〜18)エーテル硫酸エステル塩、脂肪酸(炭素数6〜18)塩、アルカン(炭素数6〜18)スルホン酸塩、オレフィン(炭素数8〜18)スルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、リグニンスルホン酸塩、アルキル(炭素数6〜18)スルホコハク酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜30モル)アルキル(炭素数6〜18)エーテルスルホコハク酸塩 、アルキル(炭素数6〜18)リン酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜30モル)アルキル(炭素数6〜18)エーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜30モル)アルキル(炭素数6〜18)エーテル酢酸塩、等が挙げられる。上記の塩としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニア、アルカノールアミンなどのアミン、等が挙げられる。
【0020】
上記非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜50モル)アルキル(炭素数6〜18)エーテル、 ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜50モル)アシル(炭素数6〜18)エステル、アルキル(炭素数6〜18)ジエタノールアミド、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜100モル)トリグリセリド(脂肪酸炭素数6〜18)エーテル、ソルビタン脂肪酸(炭素数6〜18)エステル、ショ糖脂肪酸(炭素数6〜18)エステル、ポリオキシアルキレン(付加モル数1モル〜50モル)ソルビタン脂肪酸(炭素数6〜18)エステル、アルキル(炭素数6〜18)ポリグリコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、等が挙げられる。
【0021】
上記カチオン界面活性剤としては、モノアルキル(炭素数6〜18)アミン塩、ジアルキル(炭素数6〜18)アミン塩、トリアルキル(炭素数6〜18)アミン塩、アルキル(炭素数6〜18)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(炭素数6〜18)ジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキル(炭素数6〜18)ジメチルアミノプロピルアミド、等が挙げられる。上記の塩としては、塩素、臭素等のハロゲンが挙げられる。
【0022】
上記両性界面活性剤としては、アルキル(炭素数6〜18)ベタイン、脂肪酸(炭素数6〜18)アミドプロピルベタイン、2−アルキル(炭素数6〜18)−N−カルボキシルメチル−N−ヒドロキシエチル−イミダゾリニウムベタイン、アルキル(炭素数6〜18)ジエチレントリアミノ酢酸、ジアルキル(炭素数6〜18)ジエチレントリアミノ酢酸、アルキル(炭素数6〜18)アミンオキシド、等が挙げられる。
【0023】
上記溶剤類・オイル類としては、例えば、エタノール、イソプロパノール、1−ブタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、酢酸、無水酢酸、アセトフェノ、オレイン酸メチル、ヤシ油、ナタネ油、大豆油、ひまし油、アマニ油、パラフィン油、ケロシン、高級アルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、へキシレングリコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピルセロソルブ、γ−ブチロラクトン、脂肪酸メチルエステル、メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、クロロベンゼン、クロロトルエン、ジクロロアニリン、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン、ノルマルパラフィン、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、シクロヘキサノン、アセトニトリル、灯油、マシン油、芳香族溶剤、等が挙げられる。これらは2種類以上を混合しても良い。
【0024】
上記グリコール類・糖類としては例えば、ジオール化合物、グリセリンとその誘導体、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、ショ糖、ブドウ糖、果糖、等が挙げられる。
【0025】
上記水溶性高分子としては、例えば、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、リグニンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、デンプン、デキストリン、ベントナイト、ポリビニルピロリドン、等が挙げられる。上記水溶性高分子は本発明の効果を妨げない範囲で、最少量の添加が好ましい。
【0026】
上記防腐剤としては、例えば、安息香酸塩、ソルビン酸塩、パラベン類、1,2-ベンツチアゾリン-3-オン、等が挙げられる。
【0027】
上記凍結防止剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、等が挙げられる。
【0028】
上記紫外線遮蔽剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、等が挙げられる。
【0029】
上記肥料としては、例えば、窒素質肥料、リン酸質肥料、カリ質肥料、石灰質肥料、苦土質肥料、ケイ酸質肥料、微量要素肥料、動物質肥料、植物質肥料、
等が挙げられる。
【0030】
上記特定のセルロース繊維(成分A)は、例えば、次のようにして作成することができる。すなわち、木材パルプ等の天然セルロースを、水に分散させてスラリー状としたものに、臭化ナトリウム、N-オキシラジカル触媒を加え、十分攪拌して分散・溶解させる。つぎに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の共酸化剤を加え、pH10〜11を保持するように0.5規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながらpH変化がなくなるまで反応を行う。上記反応により得られたスラリーから未反応原料、触媒等を除去するために、水洗、ろ過を行い精製することにより、繊維表面が酸化され、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維の水分散物が得られる。このようにして得られた該セルロース繊維の水分散物を水中で混合・分散処理することで、数平均繊維径が2〜150nmの上記特定のセルロース繊維(成分A)が得られる。
【0031】
上記N-オキシラジカル触媒としては、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)、4-アセトアミド-TEMPO等が挙げられる。特に好ましくは、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)である。上記N−オキシラジカル触媒の添加量は触媒量で十分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは、0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等が挙げられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N-オキシラジカル触媒に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0032】
本発明の固体農薬組成物の製造方法は以下の通りである。すなわち、上記のようにして得られたセルロース繊維の水分散体を、予め水中で混合・分散処理して、平均繊維径を2〜150nmにした特定のセルロース繊維を調製しておき、本発明の固体農薬組成物の製造時に配合してもよく、また、本発明の固体農薬組成物製造時の混合操作と同時にセルロース繊維の混合・分散を行い、平均繊維径を2〜150nmとしても良い。
上記混合・分散処理する装置としては、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、真空乳化装置、ディスパー、プロペラミキサー、等が挙げられる。
本発明の固体農薬組成物のうち、粒状や顆粒状の固体農薬組成物の製造方法としては、例えば、農薬有効成分、通常、増量剤として粘土鉱物類や充填剤、および、必要であれば、界面活性剤、その他の任意の添加物を混合した後、予め平均繊維径を2〜150nmとしたセルロース繊維、水、必要ならその他の任意の添加物を加えて、混練し、押出造粒物を乾燥、整粒することにより得られる。その混合方法と混合順序には制約はない。
上記混練機としては、例えば、ニーダー、ナウターミキサー、万能混合ミキサー、レディゲミキサー等が挙げられる。
上記押出造粒機としては、例えば、スクリュー型押出造粒機、ロール型押出造粒機、ディスクペレッター型押出造粒機、ペレットミル型押出造粒機、バスケット型押出造粒機、プレード型押出造粒機、オシレーティング型押出造粒機、ギア式押出造粒機、リングダイス式押出造粒機等が挙げられる。
上記製造方法において、液状または、固体の農薬有効成分を、予め増量剤、必要なら任意の添加物と混ぜ合わせ、必要なら粉砕して使用しても良く、液状または、固体の農薬有効成分を、吸着剤や担体に吸着または包接して使用しても良く、また、マイクロカプセル化して使用しても良い。さらに、液状または固体の農薬有効成分を、水、または溶剤やオイルに溶解または懸濁分散して用いても良い。
【0033】
本発明の固体農薬組成物における農薬有効成分(成分B)の配合量は、農薬有効成分の種類によって生物活性が異なるため、農薬有効成分ごとに異なるが、一般的にいって、通常、0.01%〜80%、好ましくは0.1%〜30%の範囲である。0.01%以下では経済的でなく、80%以上では固体農薬組成物製造時のハンドリング性が悪くなる傾向がある。
【0034】
本発明の固体農薬組成物における、上記特定のセルロース繊維(成分A)の配合量は、通常0.1%〜3%、好ましくは0.2%〜1%の範囲内である。0.1%以下では固体農薬製造時の製造性改善効果が不足し、固体農薬組成物の強度が不足するので好ましくなく、3%以上では製造性改善効果及び固体農薬組成物の強度が向上しなくなり不経済となるので好ましくない。
【実施例】
【0035】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
先ず、実施例に先立ち、次のようにしてセルロース繊維を作製した。
〔セルロース繊維T1(実施例用)の作製〕
針葉樹パルプ2g(乾燥重量)に対し水150g、臭化ナトリウム0.025g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンノオキシラジカル(TEMPO)0.025gを加え十分攪拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.4mmol/g-セルロースとなるように加え、pHを10〜11に保持するように0.5規定水酸化ナトリウム溶液を滴下しながらpH変化が見られなくなるまで反応させた。(反応時間は120分)反応終了後、0.1規定塩酸を添加して中和した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。
〔セルロース繊維T2、T3(実施例用)、セルロース繊維H1、H2(比較例用)〕
添加する次亜塩素酸ナトリウム量および反応時間を、下記の表1に示すとおりに変更する以外は、セルロース繊維T1の作製に準じて、各セルロース繊維を作製した。
【0037】
【表1】

このようにして得られたセルロース繊維T1〜T3(実施例用)、セルロース繊維H1、H2(比較例用)を用い、下記の基準に従って各項目の測定を行った。これらの結果を、上記の表1に併せて示した。
<数平均繊維径>
得られたセルロース繊維の数平均繊維径は、以下のようにして測定した。すなわち、セルロース繊維に水を加え希釈した試料を真空乳化装置を用いて12000rpmで15分間分散した後、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、これを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、得られた画像から、数平均繊維径を測定算出した。
<セルロースI型結晶構造の確認>
得られたセルロース繊維がI型結晶構造を有することの確認を次のようにして行った。すなわち、広角X線回折像測定により得られた回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークを持つことからI型結晶構造を有することを確認した。
<カルボキシ基量の測定>
得られたセルロース繊維のカルボキシル基量を、次のようにして測定した。
すなわち、乾燥させたセルロース繊維0.3gを水55mlに分散させ、0.01規定の塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて、十分に攪拌してセルロース繊維を分散させた。つぎに、0.1規定の塩酸溶液をpH2.5〜3.0になるまで加え、0.04規定の水酸化ナトリウム水溶液を毎分0.1mlの速度で滴下し、得られたpH曲線から過剰の塩酸の中和点と、セルロース繊維由来のカルボキシル基の中和点との差から、カルボキシル基量を算出した。
<アルデヒド基量の測定>
得られたセルロース繊維のアルデヒド基量を、次のようにして測定した。
すなわち、得られたセルロース繊維を水に分散させ、酢酸酸性下で亜塩酸ナトリウムを用いてアルデヒド基を全てカルボキシル基まで酸化させた試料のカルボキシル基量を測定し、酸化前のカルボキシル基量との差をもってアルデヒド基量とした。
<アルデヒド基およびカルボキシル基の確認>
得られたセルロース繊維を構成するグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にアルデヒド基およびカルボキシル基に酸化されているかどうかの確認を行った。すなわち、酸化前のセルロースの13C-NMRチャートで確認されたグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れたことを確認した。
【0038】
つぎに、上記で得られたセルロース繊維(T1〜T3、H1〜H2)を用いて以下のようにして固体農薬組成物を調整した。
〔実施例1〕
上記セルロース繊維T1を固形分換算で1.0重量部(以下「部」と略す)及び水50部をホモミキサーを用いて12000rpmで15分間分散させた。
万能混合ミキサーに、農薬有効成分として炭酸カルシウム(展着剤)40部、その他の任意成分として、焼成珪藻土(粘土鉱物質)57部、ラウリル硫酸ナトリウム(アニオン界面活性剤)2部を仕込み予備混合した。
さらに、予め調整しておいた、上記セルロース繊維分散液を加え、同、万能混合ミキサーで混練を行った。続いて、混練物を0.7mm開孔径を有するバスケット型押出し造粒装置で押出し造粒し、造粒物を80℃で送風乾燥した後、0.5mmから1.0mmの範囲に整粒して、顆粒状の固体農薬組成物を製造した。
〔実施例2、3、比較例1〜3〕
下記の表2に示すように、各成分の種類及び配合量を変更する以外は、実施例1に準じて顆粒状の固体農薬組成物を製造した。
〔実施例4〕
上記セルロース繊維T1を固形分換算で0.8部、及び水33部をホモミキサーを用いて12000rpmで15分間分散させた。
万能混合ミキサーに、農薬有効成分としてカスガマイシン(殺菌剤)2.0部、その他の任意成分として、タルク(粘土鉱物質)30.0部およびクレー(粘土鉱物質)65.2部、ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸エステル塩(アニオン界面活性剤)2.0部を仕込み予備混合した。
さらに、予め調整しておいた、上記セルロース繊維の分散液を加え、同、万能混合ミキサーで混練を行った。続いて、混練物を1.0mm開孔径を有するバスケット型押出し造粒装置で押出し造粒し、造粒物を60℃で送風乾燥した後、0.8mmから1.2mmの範囲に整粒して、粒状の固体農薬組成物を製造した。
〔実施例5〜7〕
下記の表2に示すように、各成分の種類及び配合量を変更する以外は、実施例4に準じて粒状の固体農薬組成物を製造した。
【0039】
【表2】

このようにして得られた各固体農薬組成物を用い、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。これらの結果を、上記の表2に併せて示した。
(混練時の操作性)
製造時の混練操作性について、混練装置の負荷、混練物の均一性、装置への付着状態を判定し、総合評価した。
◎:極めて操作性が良い。
○:操作性が良い。
△:若干操作性が悪い。
× :極めて操作性が悪い。
(押出造粒時の操作性)
押出造粒時の操作性について、造粒装置の負荷、押出の速さ、造粒装置への付着状態、造粒物の直径の均一性を判定し、総合評価した。
◎:極めて操作性が良い。
○:操作性が良い。
△:若干操作性が悪い。
× :極めて操作性が悪い。
(強度)
得られた固体農薬組成物を、加圧試験機(レオメーターNRM−2010J、不動産業株式会社製)で加圧(レンジ1kg重)し、固体農薬粒子が破壊した時の加重を測定した。10回測定値の平均値を強度とした。
表2の結果から明らかなように、実施例1〜7品は、製造時の混練操作性に優れ、押出造粒の操作性に優れ、強度のある個体農薬組成物が得られた。また、本発明者らは、上記セルロース繊維T1〜T3に代えて、カルボキシル基量が0.6mmol/g(下限)のセルロース繊維、及びカルボキシル基量が2.2mmol/g(上限)のセルロース繊維を用いた場合にも、セルロース繊維T1〜T3を用いた場合と同様の優れた効果が得られることを実験により確認している。
これに対して、実施例品のセルロース繊維T1〜T3に代えてセルロース繊維H1を用いた比較例1品は、セルロース繊維中のカルボキシル基量が0.5mmol/gと低いため、混練時の操作性、押出造粒時の操作性が実施例品より劣っており、組成物の強度も実施例品より劣っていた。
【0040】
また、セルロース繊維H2を用いた比較例2品はセルロース繊維中のカルボキシル基量が2.35mmol/gと高いため、セルロース繊維の水溶性が強くなり、混練時の操作性、押出造粒時の操作性は実施例1品と同等程度であったが、組成物の強度が実施例より劣っていた。
【0041】
カルボキシメチルセルロースを用いた比較例3品はカルボキシメチルセルロースの水溶性が強いため、混練時の操作性、押出造粒時の操作性は実施例1品と同等程度であったが、組成物の強度が実施例品より劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の活用例として、農作物の防除を目的に、農薬として、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、展着剤、等に利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、及び(B)成分を含有することを特徴とする固体農薬組成物。
(A)数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基およびカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.2mmol/gであるセルロース繊維
(B)農薬有効成分
【請求項2】
上記(A)成分のセルロース繊維が、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであることを特徴とする請求項1記載の固体農薬組成物。
【請求項3】
固体農薬組成物が、粒剤、顆粒水和剤、粉粒剤、又はジャンボ剤であることを特徴とする請求項1または請求項2の固体農薬組成物。



【公開番号】特開2011−57572(P2011−57572A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205922(P2009−205922)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】