説明

固体酸化物型燃料電池

【課題】エミッションの発生を抑制した上で、発電体を効率的に加熱できる固体酸化物型燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池システムの起動時に、発電体10にマイクロ波Mを照射することによって加熱するマイクロ波加熱装置11を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料電池の電解質にセラミックス系の固体電解質を用い、この固体電解質膜を燃料極と空気極とで両側から挟んでセルを形成した固体酸化物型燃料電池(以下、SOFCという)が知られている。このSOFCは、ダイレクト・メタノール型燃料電池等の固体高分子型燃料電池に比べ出力密度が高く、発電性能が高い。また、燃料ガスとして水素ガス以外に一酸化炭素やメタン等、炭化水素系燃料全般をそのまま利用できる。さらに、作動温度が800℃程度と高いため、反応にPt(白金)のように高価な触媒を利用せずに済む、等のメリットがある。
【0003】
このSOFCを、定置型の燃料電池システムに適用する場合には、燃料供給の容易さから天然ガス等のHCガス燃料を利用するのが主流である。
また近年では、燃料電池車両や携帯電子機器等の移動体の燃料電池システムに、SOFCを適用することが検討されている。この場合には、HCガス燃料に比べて密度が高く供給インフラも整っている、ガソリンやディーゼル燃料等の炭化水素系液体燃料(HC液体燃料)を利用することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−246047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したようにSOFCを用いた燃料電池システムは作動温度が高温であるため、始動時にSOFCを加熱する必要がある。
ここで、従来の加熱方法としては、燃焼ガスやヒーター等を用いてSOFCを加熱する伝熱加熱方法がある。この伝熱加熱方法では、被加熱体(例えば、SOFC)に温度勾配を与えることが必要であるが、一般的な平板構造のSOFCの構成材であるセラミックスは、割れ防止の観点から大きな温度勾配を付加できないので迅速な加熱は困難である。一方、小型円筒構造を有するSOFCは大きな温度勾配を与えても割れにくいが、SOFCの構成材であるセラミックス自体の熱拡散率が小さいため、熱移動量は小さい。したがって、伝熱加熱方法を用いるSOFCの加熱には形状の如何に関わらず時間を要する。
【0006】
さらに、加熱源からSOFCに向かって熱が伝達されながらSOFCを加熱するために、発電に関係する部位以外(SOFC以外の部位)の部位も加熱されてしまう。すなわち、SOFCが加熱源から離れている場合に、SOFCのみの選択加熱は不可能である。そのため更に、昇温時間が長く、エネルギー消費量も多くなるという問題がある。そして、燃料電池システムの起動停止を頻繁に行う場合には、起動の度に上述した問題が発生する。なお、伝熱加熱方法のうち、燃焼ガスを用いて加熱する場合には、NOx(窒素酸化物)、煤、未燃ガス、CO等のエミッションが発生してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、加熱時のエミッションの発生を抑制した上で、発電体を効率的に加熱できる固体酸化物型燃料電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、固体酸化物型燃料電池(例えば、実施形態における燃料電池システム1)の発電体(例えば、実施形態における発電体10)を構成する燃料極(例えば、実施形態におけるアノード電極41)、空気極(例えば、実施形態におけるカソード電極43)、電解質(例えば、実施形態における固体電解質膜42)のうち、少なくとも何れかが、誘電損失の十分大きい材料からなり、前記固体酸化物型燃料電池をマイクロ波照射によって加熱させるためのマイクロ波加熱装置(例えば、実施形態におけるマイクロ波加熱装置11)を設けたことを特徴とする。なお、誘電損失とは、マイクロ波が誘電体に暴露されたときにどれだけその電界エネルギーを吸収するかを示すもので、誘電損失が大きいほどマイクロ波による吸収発熱が大きくなる。
【0009】
請求項2に記載した発明は、前記マイクロ波加熱装置は、加熱部位を変更可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載した発明は、前記発電体は、誘電損失の大きいマイクロ波加熱材(例えば、実施形態におけるマイクロ波加熱材400)を混入させて形成したことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載した発明は、前記マイクロ波加熱装置は、前記発電体における前記燃料極及び前記空気極のうち、一方の電極側から他方の電極側に向けてマイクロ波を照射し、前記一方の電極の電極面には、前記マイクロ波を通過させる開口部(例えば、実施形態における開口部44)が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載した発明は、前記燃料極には炭素を含む燃料ガスを供給し、前記マイクロ波加熱装置は、前記固体酸化物型燃料電池の起動後、前記燃料ガスの炭化により前記燃料極側で析出される炭素を分解するべく、マイクロ波を照射して前記炭素を加熱しうるように形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載した発明は、前記発電体の周囲に誘電損失が前記発電体よりも小さい材料からなる断熱材を設け、前記断熱材の外側に前記マイクロ波加熱装置を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載した発明によれば、マイクロ波によって発電体を誘電加熱することで、従来の燃焼ガスやヒーターによる伝熱加熱方法と異なり、発電体以外の部位を加熱することなく、必要な箇所のみを選択的に加熱することができる。これにより、昇温時間を短縮できるとともに、加熱に要するエネルギーも低減できる。
また、燃焼ガスを用いて加熱する場合と異なり、加熱時にNOx等のエミッションを発生させることなく、クリーンに発電体を加熱できる。この場合、燃焼ガス成分による発電体の劣化を抑制できる。
したがって、エミッションの発生を抑制した上で、効果的に発電体を加熱できるので、始動時間の早い高性能な固体酸化物型燃料電池を提供できる。なお、本発明の構成によれば、発電体のうち、誘電損失の十分大きい材料からなる部位が効果的に加熱される。
【0015】
請求項2に記載した発明によれば、マイクロ波による加熱部位を変更可能に構成することで、発電体全体をより均一に加熱できる。これにより、発電体の温度分布を抑制できるので、発電体の割れや劣化等を確実に抑制した上で、発電体をより効果的に加熱できる。また、発電体が均熱化され、発電体全体で有効に発電が行われることになるので、発電性能の向上を図ることができる。
【0016】
請求項3に記載した発明によれば、マイクロ波がマイクロ波加熱材で効果的に吸収されるので、マイクロ波加熱材が混入された部位をより効果的に加熱できる。この場合、誘電損失の小さい材料にマイクロ波加熱材を混入する等して、誘電損失の異なる材料間での温度差や温度勾配を抑制できる。これにより、発電体の割れ等を確実に抑制した上で、発電体をより均一に加熱できる。また、発電体全体で有効に発電が行われるので、発電性能の向上を図ることができる。
【0017】
請求項4に記載した発明によれば、一方の電極に開口部を設けることで、この開口部内をマイクロ波の一部が通過することになる。そのため、マイクロ波が他方の電極に照射され易くなるので、一方の電極側からマイクロ波を照射した場合でも、他方の電極を効果的に加熱できる。
【0018】
ところで、固体酸化物型燃料電池の燃料にHC系の燃料を用いる場合、燃料極付近の低温箇所(例えば500℃以下程度の炭素析出温度領域)に未反応の燃料が長時間滞在すると、燃料極や、燃料極側の反応室内、燃料ガス供給路、燃料ガス排気通路に炭素が析出する。反応室付近の吸気排気通路に炭素が析出すると供給流路に目詰まりが発生し、燃料極に炭素が析出すると触媒の活性が失われて発電体が劣化する虞がある。その結果、発電体の発電性能が低下するという問題がある。また炭素を除去するために、流路内に酸素を導入すると、燃料極の劣化や燃料の無駄な消費に繋がる。
そこで、請求項5に記載した発明によれば、誘電損失が全ての材料中で最大の炭素析出物はマイクロ波によって選択的、かつ、効率的に加熱されることで、分解され、燃料として再利用できる。これにより、反応室付近の吸気排気通路の目詰まりや、燃料極の劣化を抑制できるので、固体酸化物型燃料電池の発電性能の低下を抑制できる。
なお、反応室付近で低温になり易い箇所や、炭素の析出時期、析出量等を実験やシミュレーション等で予め特定しておくことで、反応室付近の低温箇所に対してマイクロ波を照射する際、照射タイミングや、照射時間、マイクロ波のエネルギー等を所望の条件で設定できる。これにより、析出した炭素を効果的に除去できるので、運転効率の向上を図ることができる。
【0019】
発電体を保温するために、発電体の周囲に断熱材を設置する場合、従来の伝熱加熱方法では断熱材の外側から発電体を加熱することは不可能である。そのため、断熱材の内部にヒーターを設置したり、燃焼ガスのガス流路を引き回したりする必要があり、装置が大型化するという問題がある。
これに対して請求項6に記載した発明によれば、断熱材が誘電損失の小さい材料からなるため、マイクロ波を断熱材の外側から照射した場合であっても、マイクロ波が断熱材を透過して発電体に照射されることになる。そのため、断熱材の外側から発電体のみにマイクロ波を照射できるので、断熱材の内側に加熱源を引き回す必要がない。よって、構成の簡素化を実現することができるので、装置の小型軽量化及び低コスト化を図ることができる。
また、発電体の周囲に断熱材を設けることで、発電体を保温できるので、発電体の温度低下を抑制し、高い発電性能を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態における燃料電池システムのブロック図である。
【図2】第1実施形態におけるアプリケーターの内部構造を示す断面図である。
【図3】アノード電極及びカソード電極のマイクロ波の照射時間に対する温度変化を示すグラフである。
【図4】第2実施形態における燃料電池システムを示すブロック図である。
【図5】第2実施形態におけるアプリケーターの内部構造を示す断面図である。
【図6】チョッパー位置を基準点(0mm)から+X方向に移動させた際のアプリケーター内での定在波の変化を示す図である。
【図7】第3実施形態における燃料電池システムのブロック図である。
【図8】第3実施形態におけるアプリケーターの内部断面図である。
【図9】チョッパー位置と定在波(腹)の発生位置を示す図であり、アプリケーター内をZ方向から見た側面図である。
【図10】チョッパー位置と定在波(腹)の発生位置を示す図であり、アプリケーター内をY方向から見た平面図である。
【図11】チョッパー位置と定在波(腹)の発生位置を示す図であり、アプリケーター内をZ方向から見た側面図である。
【図12】チョッパー位置と定在波(腹)の発生位置を示す図であり、アプリケーター内をZ方向から見た側面図である。
【図13】第4実施形態におけるアプリケーターの内部構成を示す断面図である。
【図14】第5実施形態におけるアプリケーターの内部構造を示す断面図である。
【図15】チョッパー位置と定在波の発生位置を示す図であり、アプリケーターをZ方向から見た図である。
【図16】発電部の他の構成を示すアプリケーターの断面図である。
【図17】発電体の他の構成を示す斜視図である。
【図18】発電体の他の構成を示す斜視図である。
【図19】発電体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は第1実施形態における燃料電池システムのブロック図である。なお、アプリケーター25内部には後述する発電体10、アノードガス流通路53、カソードガス流通路51、各種電線等が設置してあるが、簡単のため図1には記載していない。
図1に示すように、燃料電池システム1は、SOFCの発電体10(図2参照)を用いて発電を行うものであって、マイクロ波加熱装置11(以下、加熱装置11という)を備えている。
加熱装置11は、マイクロ波発生装置21(以下、発生装置という)と、アイソレータ22と、検出部23と、EHチューナー24とアプリケーター25とがマイクロ波M(図2参照)の進行方向に沿って導波管26を介して接続されている。なお、以下の説明では、マイクロ波Mの進行方向を+X方向、X方向に互いに直交する方向をそれぞれY方向(図1中上下方向)及びZ方向(図1中奥行方向)とする。
【0022】
発生装置21は、図示しない電源部から電力を供給することで、マイクロ波Mを発生させるものであり、発生したマイクロ波Mは進行波電力として導波管26や各構成部材(アイソレータ22等)を伝搬してアプリケーター25に向けて+X方向に沿って進行する。なお、マイクロ波Mのうち、進行途中でインピーダンスの整合がとれていないものは、反射波電力となり発生装置21に向けて−X方向に進行する。また、本実施形態のマイクロ波Mは、周波数が例えば2.45GHz帯のものを利用している。
【0023】
アイソレータ22は、発生装置21の後段側(+X方向側)に導波管26を介して接続され、反射波電力を吸収することで、マイクロ波Mの流れを一方向に規制するためのものである。これにより、反射波電力が発生装置21まで戻らないように構成されている。その結果、発生装置21を保護することができ、発生装置21からアプリケーター25に向けて安定したマイクロ波Mを出力することができる。
検出部23は、アイソレータ22の+X方向側に接続され、アプリケーター25への入力エネルギー(進行波)と発生装置21側への反射エネルギー(反射波)とを検出するためのものである。そして、検出部23での検出結果に基づいて発生装置21に供給される電力が制御されるようになっている。なお、検出部23には、検出結果を表示するためのパワーモニタ27が接続されている。
EHチューナー24は、検出部23の+X方向側に導波管26を介して接続され、反射波に対して逆位相の電力を生成し、反射波を打ち消すことにより、インピーダンス整合するものである。
【0024】
図2はアプリケーターの内部構造を示す断面図である。
図2に示すように、アプリケーター25は、EHチューナー24の+X方向側に導波管26を介して接続され、例えばSUS等の導電性材料からなる箱型のものであり、内部に発電部31が収容されている。なお、アプリケーター25のX方向における長さは、発生装置21から発生する進行波と、アプリケーター25の+X方向側の端部で反射された反射波とが重なり合って、アプリケーター25内で定在波が生成されるように設定されている。アプリケーター25の寸法として、本実施形態では、例えばX方向の長さが180mm、Y方向の長さ54.6mm、Z方向の長さが54.6mmに形成されている。
【0025】
発電部31は、SOFCの発電体10と、この発電体10の外側を覆う外筒32と、外筒32を覆う断熱材33とを備えている。
本実施形態の発電体10は、アノード支持型(小型円筒構造)のチューブセルであって、例えば軸方向をアプリケーター25のY方向に一致させた状態で、かつX方向においてアプリケーター25内で発生する定在波の腹(加熱部位)の発生位置に合わせて配置されている。発電体10は、円筒形状のアノード電極(燃料極)41と、アノード電極41の外周面に形成された固体電解質膜(電解質)42と、固体電解質膜42の外周面に形成されたカソード電極(空気極)43とを備えている。固体電解質膜42は、例えばYSZ(Yttria Stabilized Zirconia)等の材料で構成されている。アノード電極41は例えばニッケルとYSZとの焼結体で構成され、カソード電極43は例えばランタン、ストロンチウム、マンガンの焼結体で構成されている。
【0026】
この場合、発電体10を構成するアノード電極41、カソード電極43、及び固体電解質膜42の材料は、断熱材33や外筒32、アプリケーター25内に配置された他の構成部材よりも誘電損失が十分に大きい。特に、発電体10を構成する材料のうち、アノード電極41を構成する材料(例えば、ニッケル)は、温度が100℃以上の範囲において、他の材料よりも誘電損失が十分大きい。なお、誘電損失とは、マイクロ波Mが誘電体に暴露されたときにどれだけその電界エネルギーを吸収するかを示すもので、誘電損失が大きいほどマイクロ波Mによる吸収発熱が大きくなる。本実施形態では、アノード電極41を誘電損失が十分大きい材料により構成したが、これに限らず、発電体10を構成する少なくとも何れかの材料の誘電損失が十分に大きければ構わない。
【0027】
発電体10の+Y方向(図2中上端部)側の開口部は、アプリケーター25の+Y方向端面(図2中上端面)によって閉塞されている。一方、発電体10の−Y方向側(図2中下端側)には、カソード電極43及び固体電解質膜42は形成されておらず、アノード電極41が露出している。そして、カソード電極43の−Y方向端部にはカソード集電材45が接続され、アノード電極41の−Y方向端部(露出部分)にはアノード集電材46が接続されている。これら集電材45,46は、アプリケーター25との絶縁を図った状態でアプリケーター25外に引き出されている。
【0028】
外筒32は、発電体10に比べて誘電損失が小さい材料(マイクロ波Mを透過する材料)からなる筒状の部材であり、軸方向を発電体10の軸方向(Y方向)に一致させた状態で配置されている。そして、外筒32は、+Y方向端部側(図2中上端部)側の開口部がアプリケーター25の+Y方向端面により閉塞されている。また、アプリケーター25の+Y方向端面には、外筒32の内側に連通する複数のカソードガス供給孔47が形成されており、アプリケーター25の外部に設けられた図示しないカソードガス(酸化剤ガス)の供給源から外筒32の内側に向けてカソードガス(例えば、空気)が供給される。すなわち、外筒32とカソード電極43との間は、カソードガスが流通するカソードガス流通路(第1反応室)51を構成している。カソードガス流通路51内に供給されるカソードガスは、外筒32内を−Y方向に向かって流通する(図2中矢印C参照)。
【0029】
なお、外筒32の−Y方向端部(図2中下端部)側は、発電に供されたカソードガス(カソードオフガス)を排出するための図示しないカソードオフガス排出路に接続され、カソードオフガスはカソードオフガス排出路を通って発電部31外に排出され、その後アプリケーター25外に排出される。また、カソードガス供給孔47の内径は、マイクロ波Mを透過させず、カソードガスのみを通過させることが可能な大きさで形成されており、例えば5mm程度に形成されている。
【0030】
また、発電体10(アノード電極41)には、図示しないアノードガスの供給源から引き回された燃料導入ポート52が接続されている。この燃料導入ポート52は、アプリケーター25の−Y方向端面(図2中下端面)からアノード電極41の内側に挿入され、その先端がアノード電極41の軸方向中途部に配置されている。そして、アノード電極41の内側には、燃料導入ポート52を介してアノードガス(例えば、HC系燃料ガス)が供給される。すなわち、アノード電極41の内側はアノードガスが流通するアノードガス流通路(第2反応室)53を構成している。そして、アノードガス流通路53内に供給されたアノードガスは、燃料供給ポート52から+Y方向に向かって供給された後、アプリケーター25の+Y方向端面で折り返されて−Y方向に向かって流通する(図2中矢印A参照)。なお、アノードガスにHC系燃料ガスを用いた場合、発電体10で発電により生成されたアノードガスのオフガス(HOや、CO、CH等)は、燃料導入ポート52とアノード集電材46との間に形成されたアノードオフガス排出路54を通って発電部31外に排出され、その後アプリケーター25外に排出される。
【0031】
断熱材33は、カオウール等のマイクロ波Mを透過する材料からなり、外筒32の外側を覆うように設けられている。
【0032】
(燃料電池システムの動作方法)
次に、上述した燃料電池システム動作方法について説明する。
図1,図2に示すように、まず発生装置21に電力を供給し、マイクロ波Mを発生させる。発生装置21で発生したマイクロ波Mは、導波管26を+X方向に向けて進行してアプリケーター25内に伝播する。アプリケーター25内に伝播したマイクロ波Mは、断熱材33及び外筒32を透過した後、発電体10で吸収されることで、発電体10が誘電加熱される。この場合、発電体10がマイクロ波Mの腹の発生位置に合わせて配置されているので、発電体10のみを効果的に加熱することができる。なお、上述した材料からなる発電体10では、100℃以上においてはカソード電極43よりもアノード電極41の方が、マイクロ波Mを吸収し易い(誘電損失が大きい)ため、アノード電極41の温度が積極的に上昇する。そして、アノード電極41の温度が所定の温度(約600℃〜800℃程度)まで昇温した時点で、発生装置21を停止し、アノードガス及びカソードガスの供給を開始する。
【0033】
カソードガスの供給源からカソードガス流通路51内に供給されたカソードガスは、カソード電極43の表面に倣って流通する間に、カソード電極43において触媒反応により酸素イオンとなる。すると、カソード電極43で発生した酸素イオンが、固体電解質膜42を透過してアノード電極41まで移動する。
一方、アノードガスの供給源からアノードガス流通路53内に供給されたアノードガスは、アノード電極41の表面に倣って流通する間に、アノード電極41に到達したアノードガスと、アノード電極41まで移動した酸素イオンとが結合する。この反応過程において、電子を放出することで発電が行われる(H+O2−→HO+2e)。
【0034】
そして、カソードガス流通路51内において発電に供されたカソードガスオフガスは、カソードオフガス排出路からアプリケーター25外に排出される一方、アノードガス流通路53内において発電に供されたアノードガスオフガスは、アノードオフガス排出路54からアプリケーター25外に排出される。
【0035】
なお、本実施形態の燃料電池システム1では、発電が開始すると発電に関して発生する熱によって、マイクロ波Mで加熱しなくても、発電体10の温度が上昇する。そして、そのまま発電を継続すると、発電量と放熱量とがバランスし、発電体10(アノード電極41、固体電解質膜42及びカソード電極43)が、何れも発電が最適に行われる温度(例えば、800℃程度)まで上昇し、熱自立の状態になる。すなわち、外部から熱エネルギーを与えることなく、発電体10の温度が燃料電池システム1の動作温度に維持され、保温された状態となる。
【0036】
このように、本実施形態では、マイクロ波Mを照射することによって発電体10を加熱する加熱装置11を備えた構成とした。
この構成によれば、発生装置21で発生したマイクロ波Mは、断熱材33や外筒32を透過して、発電体10のみを選択的に加熱することになる。すなわち、マイクロ波Mによって発電体10を誘電加熱することで、従来の燃焼ガスやヒーターによる伝熱加熱方法と異なり、発電体10以外の部位を加熱することなく、必要な箇所のみを加熱することができる。これにより、昇温時間を短縮できるとともに、加熱に要するエネルギーも低減できる。
また、燃焼ガスを用いて加熱する場合と異なり、加熱時にNOx等のエミッションを発生させることなく、クリーンに発電体10を加熱することができる。この場合、燃焼ガス成分による発電体10の劣化を抑制できる。
したがって、本実施形態の燃料電池システム1によれば、エミッションの発生を抑制した上で、効果的に発電体10を加熱することができるので、始動時間の早い高性能な燃料電池システム1を提供できる。
【0037】
ところで、上述した従来の伝熱加熱方法を用いて急速加熱を行うと、発電体の面内で大きな温度勾配が生じ、発電体が割れる虞がある。これに対して、発電体を小さくすることで、温度勾配を抑制し、温度勾配に起因する割れを避けることも考えられるが、発電体のヒートマス(熱容量)と熱移動速度(セラミックスの低い熱伝導率)の制約から昇温時間の限界が決まってしまい、kWクラス以上の出力を有する発電体の急速加熱は原理的に不可能である。
これに対して、本実施形態によれば、従来の伝熱加熱方法と異なり、マイクロ波周波数×誘電損失×電界の2乗で発電体10を加熱できる。また、発電体10の面内での温度勾配の発生を抑制できるので、燃料導入時等に発電体10面内の温度の高い部位が優先的に発電、及び発熱することで発生する発電体10の熱暴走を抑制できる。よって、発電体10の割れや劣化等を抑制した上で、発電体10を効果的に加熱できる。また、発電体10を均一に加熱できるので、発電体10全体で有効に発電を行うことができ、発電性能の向上を図ることができる。さらに、発電体10の急速加熱を実現できるので、燃料電池システム1の始動開始までに要する時間を短縮できる。
【0038】
図3は、アノード電極及びカソード電極のマイクロ波の照射時間に対する温度変化を示すグラフである。
図3に示すように、本実施形態の燃料電池システム1では、マイクロ波Mの加熱開始から約90秒程度でアノード電極41を約600℃まで加熱でき、発電体10の急速加熱を実現することができた。
【0039】
さらに、断熱材33がマイクロ波Mを透過する材料からなるため、マイクロ波Mを断熱材33の外側から照射した場合であっても、マイクロ波Mが断熱材33を透過して発電体10に照射されることになる。そのため、発電部31の外部から発電体10のみにマイクロ波Mを照射できるので、発電部31の内部に加熱源を引き回す必要もない。よって、構成の簡素化を実現できるので、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
また、発電体10の周囲に断熱材33を設けることで、発電体10を保温できるので、発電体10の温度低下を抑制し、高い発電性能を維持できる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、アプリケーター内に複数の発電体が配列されている点で上述した実施形態と相違している。図4は第2実施形態の燃料電池システムを示すブロック図であり、図5はアプリケーターの内部構造を示す断面図である。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
まず、図4,図5に示すように、本実施形態の燃料電池システム100は、アプリケーター25内に上述した発電部31が複数配列されている。各発電部31(発電体10)は、アプリケーター25内におけるX方向及びZ方向に沿って並んで配列されるとともに、アプリケーター25のY方向に沿って互いに平行に配列されている。そして、各発電体10のカソード電極43及びアノード電極41は、アプリケーター25の−Y方向側に設けられたカソード集電材45及びアノード集電材46にそれぞれまとめて接続されている。また、各発電体10のアノード電極41の内側(アノードガス流通路53)には、アノードガス導入ポート52が挿入されており、アノードガスの供給源から供給されるアノードガスは各アノードガス導入ポート52に分岐された後、各アノードガス流通路53に供給されるようになっている。
【0041】
そして、アプリケーター25の+X方向側には、アプリケーター25をX方向で仕切るように板状のチョッパー101が配置されている。このチョッパー101は、発生装置21で発生したマイクロ波Mを進行方向とは逆方向(−X方向)に向けて反射させるものであり、モータ等の図示しない駆動手段によってX方向に沿って無段階に移動可能に構成されている(図5中矢印Q参照)。なお、アプリケーター25のX方向における長さは、チョッパー101が最も−X方向側に配置された状態(図5中鎖線H)で180mmになるように設定されている。
【0042】
この場合、チョッパー101の位置を変化させることで、アプリケーター25のX方向における長さが変化するため、アプリケーター25内に様々な定在波を発生させることができる。すなわち、アプリケーター25内での腹(節)の発生位置をX方向で変化させることができるので、アプリケーター25内での加熱部位を変化させることができる。
【0043】
図6にチョッパー位置を基準点(0mm)から+X方向に移動させた際のアプリケーター内での定在波の変化を示す。なお、図6では、アプリケーター25内のX方向に沿って感熱紙を配置し、各チョッパー位置における基準点から最も近い感熱紙の加熱部位(腹の発生位置)までの距離を測定した。図中では、加熱部位(昇温部)をKで示し、加熱されていない部位(非昇温部)をLで示している。また、図6ではチョッパー101を最も−X方向側に配置した位置を基準点(0mm)としている。
図6(a)に示すように、チョッパー101を基準点に配置した場合、基準点から−X方向へ距離D1(3mm)の地点に昇温部Kが発生し、この地点から−X方向に沿って等間隔に昇温部Kが発生している。
次に、図6(b)に示すように、チョッパー101を基準点から+X方向に50mmの地点に配置した場合、基準点から基準点から−X方向へ距離D2(19mm)の地点に昇温部Kが発生し、この地点から−X方向に沿って等間隔に昇温部Kが発生している。
また、図6(c)に示すように、チョッパー101を基準点から+X方向に100mmの地点に配置した場合、基準点から基準点から−X方向へ距離D3(43mm)の地点に昇温部Kが発生し、この地点から−X方向に沿って等間隔に昇温部Kが発生している。
このように、チョッパー101を+X方向に沿って移動させることで、アプリケーター25内での腹の発生位置は−X方向に移動することになる。この場合、アプリケーター25内に配列された各発電体10の基準点からの距離を把握しておくことで、アプリケーター25内に配列された複数の発電体10のうち、任意の発電体10を選択的に加熱していくことができる。
【0044】
したがって、本実施形態によれば、上述した第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、アプリケーター25内に複数の発電体10が配列されている場合であっても、各発電体10に対して選択的にマイクロ波Mを照射することができる。これにより、各発電体10の温度分布を抑制できるので、発電体10の割れや劣化等を確実に抑制した上で、各発電体10をより効果的に加熱できる。また、各発電体10が均熱化され、発電体10全体で有効に発電が行われることになるので、発電性能の向上を図ることができる。
【0045】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、マイクロ波加熱装置をY方向に亘って2段備えている点で上述した第2実施形態と相違している。図7は燃料電池システムのブロック図であり、図8はアプリケーターの内部断面図である。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図7,図8に示すように、本実施形態の燃料電池システム150は、上述した加熱装置11と同様の構成からなる加熱装置(第1加熱装置11a及び第2加熱装置11b)をY方向に亘って2段備えている。そして、図8に示すように各アプリケーター(第1アプリケーター25a及び第2アプリケーター25b)には、両者間を貫通するように複数の発電体10が配列されている。すなわち、本実施形態の発電体10における軸方向の長さは、アプリケーター25a,25bのY方向における長さの約2倍に形成されている。この場合、発電体10の+Y方向側の開口部は、第2アプリケーター25bの+Y方向端面によって閉塞されている。一方、発電体10の−Y方向側は、第1アプリケーター25aの−Y方向側まで延在している。そして、カソード電極43の−Y方向端部にはカソード集電材45が接続され、アノード電極41の−Y方向端部(露出部分)にはアノード集電材46が接続されている。このような発電体10が、X方向及びZ方向に沿って並んで配列されるとともに、アプリケーター25a,25bのY方向に沿って互いに平行に配列されている。なお、上述した実施形態と同様に、発電体10の外側には、発電体10の周囲を取り囲むように外筒32及び断熱材33が設けられている。
【0046】
第1アプリケーター25aにおける+Y方向端部には、外筒32の内側に連通するカソードガス供給孔147が形成されるとともに、第1アプリケーター25aと第2アプリケーター25bとを仕切る仕切壁151には外筒32の内側に連通する連通孔152が形成され、これら連通孔152により各アプリケーター25a,25b(カソードガス流通路51)同士が連通している。なお、カソードガス供給孔147及び連通孔152の内径は、マイクロ波Mを透過させず、カソードガスのみを通過させることが可能な大きさで形成されており、例えば5mm程度に形成されている。これにより、アプリケーター25a,25b間でマイクロ波Mが透過することがないので、各アプリケーター25a,25b内で独立してマイクロ波Mの制御を行うことができ、発電体10の温度制御が容易になる。
【0047】
各アプリケーター25a,25bの+X方向側には、各アプリケーター25a,25bのX方向の長さを変化させるためのチョッパー(第1チョッパー101a及び第2チョッパー101b)がそれぞれ設けられている。これらチョッパー101a,101bは、X方向に沿って独立して移動可能に構成され、アプリケーター25a,25bでのX方向における長さを、各加熱装置11a,11b間で独立して制御できるようになっている。
【0048】
(燃料電池システムの動作方法)
次に、本実施形態の燃料電池システム150の動作方法として、発電体10の選択加熱方法について説明する。
図9,図10はチョッパー位置と定在波(腹)の発生位置を示す図であり、図9はアプリケーター内をZ方向から見た側面図、図10はY方向から見た平面図である。なお、図9,図10については、説明を分かり易くするため発電体及びチョッパーのみを図示している。まず、第1加熱装置11a及び第2加熱装置11bを同様に移動させる場合について説明する。
本実施形態のようにマイクロ波Mを用いて複数本の発電体10を加熱する場合には、複数の発電体10のうち、アプリケーター25a,25b内のX方向中央部に配列された発電体10から、±X方向に配列された発電体10へと順次に加熱していくことが好ましい。すなわち、アプリケーター25a,25b内にX方向中央部に配列された発電体10を中心にして、X方向で対称に加熱していく。具体的に、図9(a),図10(a)に示すように、まず各チョッパー101a,101bを位置X1に合わせると、発生装置21から発生したマイクロ波Mの進行波と、チョッパー101a,101bで反射した反射波とが重ね合って定在波が生成され、アプリケーター25内のX方向中央部(図9,10中位置X1’)に腹が形成される。これにより、位置X1’の周辺に配置された発電体10が効果的に加熱される。
【0049】
次いで、図9(b),図10(b)に示すように、位置X1’のアノード電極41の温度が所定の温度(約600℃〜800℃程度)まで上昇した時点で、チョッパー101a,101bを位置X1から位置X2に移動させる(例えば、+X方向に移動させる)。すると、定在波が変化して腹の発生位置が位置X1’から±X方向に移動する(図9,10中位置X2’,X2”)。これにより、位置X2’,X2”の周辺に配列された発電体10が加熱される。
同様に、図9(c),図10(c)に示すように、位置X2’,X2”のアノード電極41の温度が所定の温度まで上昇した時点で、チョッパー101a,101bを位置X2から位置X3に移動させる(例えば、+X方向に移動させる)。すると、定在波が変化して腹の発生位置が位置X2’,X2”から±X方向に移動する(図9,10中位置X3’,X3”)。これにより、位置X3’,X3”の周辺に配置された発電体10が加熱される。
【0050】
このように、チョッパー101a,101bを移動させて、アプリケーター25a,25bのX方向中央部に配列された発電体10から、±X方向に配列された発電体10へと順次加熱していくことで、図9(d),図10(d)に示すように、アプリケーター25a,25b内の全ての発電体10を均一に加熱することができる。これにより、各発電体10が均熱化され、発電体10全体で有効に発電が行われるので、発電性能の向上を図ることができる。
【0051】
また、加熱装置11a,11bを複数段に亘って設けることで、軸方向に大型の発電体10を用いることが可能になり、発電性能の更なる向上を図ることができる。この場合であっても、チョッパー101a,101bの位置を変化させ、各発電体10を選択的に加熱することで、各発電体10を均一に、かつ迅速に加熱できる。
【0052】
次に、各加熱装置11a,11bを独立して移動させる場合について説明する。図11はアプリケーター内をZ方向から見た側面図である。
本実施形態では、アプリケーター25a,25bに配列された複数の発電体10において、X方向で温度勾配が生じた場合や、各発電体10のY方向で温度勾配が生じた場合には、低温箇所の発電体10のみを選択して加熱することができる。図11(a)に示すように、例えば位置X2’,X2”に配列された発電体10における−Y方向側の温度が低下した場合には、第1加熱装置11aの発生装置21のみに電力を供給するとともに、チョッパー101aを位置X2に移動させる。これにより、第1アプリケーター25a内における位置X2’,X2”にマイクロ波Mの腹が発生し、発電体10の−Y方向側を選択して加熱することができる。
同様に、例えば位置X2’,X2”に配列された発電体10における+Y方向側の温度が低下した場合には、図11(b)に示すように、第2加熱装置11bの発生装置21のみに電力を供給するとともに、チョッパー101bを位置X2に移動させる。これにより、第2アプリケーター25b内における位置X2’,X2”にマイクロ波Mの腹が発生し、発電体10の+Y方向側を選択して加熱することができる。
【0053】
したがって、各発電体10で温度勾配が発生した場合に、各発電体10の低温箇所のみを選択して加熱できる。これにより、アプリケーター25a,25b内の各発電体10間での温度勾配を抑制して、各発電体10の温度を均一に維持できるので、発電体10の割れ等を確実に抑制できるとともに、発電体10の温度低下に伴う発電性能の低下を抑制できる。
【0054】
ところで、上述した燃料電池システム150では、アノードガスにHC系の燃料を用いる場合、アノード電極41やアノードガス流通路53(図2参照)側の低温箇所(例えば500℃以下程度の炭素析出温度領域)に未反応のアノードガスが長時間滞在すると、アノードガス流通路53やアノードオフガス排出路54、アノード電極41に炭素が析出する。アノードガス流通路53やアノードオフガス排出路54に炭素が析出するとアノードガス流通路53に目詰まりが発生し、アノード電極41に炭素が析出すると触媒の活性が失われて発電体10が劣化する虞がある。その結果、発電体10の発電性能が低下するという問題がある。炭素を除去するために、アノードガス流通路53内に酸素を導入すると、アノード電極41の劣化やアノードガスの無駄な消費に繋がる。
【0055】
そこで、本実施形態では、燃料電池システム150の起動後、発電体10に炭素が所定量析出された時点で、発電体10における炭素析出箇所にマイクロ波Mを照射して炭素を除去するようになっている。炭素析出の有無は、各発電体10における燃料(アノードガス)使用量を個別に測定し、この燃料使用量が所定値以上であるか否かで判断する。すなわち、発電体10の燃料使用量が所定値以上となった場合には、析出した炭素がアノード電極41やアノードガス流通路53等に蓄積されて発電性能の低下に繋がると判断して、炭素除去を開始する。
この場合、発電体10のY方向において炭素が析出し易いのは、発電体10の温度が低下し易いアノードガスの流通方向下流側、すなわち第1アプリケーター25aの−Y方向端部側である。そのため、図11(a)に示すように、第1加熱装置11aの発生装置21のみに電力を供給し、第1アプリケーター25a内にマイクロ波Mを入射させる。そして、炭素析出が検出された発電体10と、定在波の腹とが一致するように、チョッパー101aを移動させることで、炭素析出が検出された発電体10の−Y方向側のみが加熱される。
【0056】
すると、アノード電極41に析出した炭素(C)と、アノードガス流通路53内にアノードオフガスとして残存する二酸化炭素(CO)とが結び付き(CO+C)、一酸化炭素(CO)になる(CO+C→2CO)。このように、マイクロ波Mによって炭素を加熱することで、アノードガス流通路53側の低温箇所で析出した炭素を分解できる。これにより、アノードガス流通路53内の目詰まりや、アノード電極41の劣化を抑制できるので、燃料電池システム150の発電性能の低下を抑制できる。なお、炭素は、アプリケーター25内に配置された構成部材よりも、誘電損失が大きいのでマイクロ波Mによって選択的、かつ、効率的に加熱されるため、マイクロ波Mを照射することで、速やかに分解できる。
【0057】
さらに、本実施形態では、アノードガス流通路53内で生成された一酸化炭素(CO)が、固体電解質膜42を透過してアノード電極41まで移動してきた酸素イオン(O)と反応して、二酸化炭素(CO)になる。この二酸化炭素(CO)が生成される際に、発電が行われる(CO+O2-→CO+2e)。
これにより、仮に発電体10に未反応のアノードガス等の炭化により炭素が析出した場合であっても、この炭素をエネルギー源として利用しつつ除去することができ、発電性能の更なる向上を図ることができる。そして、図12(a)〜図12(c)に示すように、各発電体10で上述した動作を定期的に行うことで、炭素析出による発電性能の低下を抑制できるとともに、発電体10の劣化も抑制できる。なお、発電体10で低温になり易い箇所や、炭素の析出時期、析出量等を実験やシミュレーション等で予め特定しておくことで、発電体10の低温箇所に対してマイクロ波Mの照射タイミングや、照射時間、マイクロ波Mのエネルギー等を所望の条件で設定できる。これにより、析出した炭素を効果的に除去できるので、運転効率の向上を図ることができる。
【0058】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、上述した第2加熱装置11bのさらに+Y方向側に、カソードガスを加熱するための第3マイクロ波加熱装置21cを設ける点で第3実施形態と相違している。図13は、アプリケーターの内部構成を示す断面図である。なお、以下の説明では、上述した第3実施形態と同様の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
図13に示すように、本実施形態の燃料電池システム200は、第2加熱装置11bの+Y方向側に、上述した第1,2加熱装置11a,11bと略同一の装置構成からなる第3マイクロ波加熱装置11c(以下、第3加熱装置11cという)を備えている。第3加熱装置11cの第3アプリケーター25cは、その+Y方向端面にカソードガスの供給源に接続されたカソードガス供給孔247が形成されている。一方、第2アプリケーター25bと第3アプリケーター25cとを仕切る仕切壁251には、外筒32の内側に連通する連通孔252が形成され、これら連通孔252により各アプリケーター25b,25c同士が連通している。
【0059】
ここで、第3アプリケーター25c内には、予備加熱部201が設けられている。この予備加熱部201は、高誘電損失材料(例えば、SiC、Fe、NiO、WO等)がポーラス状に形成されたものであり、内部にカソードガスが通過するようになっている。また、予備加熱部201は、Y方向から見て各発電体10に重なるように配置されるとともに、第3アプリケーター25c内のY方向全域に亘って形成されている。すなわち、第3アプリケーター25c内に供給されたカソードガスは、予備加熱部201内を通過して連通孔252からカソードガス流通路51に供給されるようになっている。
【0060】
また、予備加熱部201にマイクロ波Mを照射することで、予備加熱部201が加熱されるようになっており、予備加熱部201を通過する際にカソードガスとの間で熱交換が行われる。これにより、カソードガスが、カソードガス流通路51に供給される前段で予め加熱されるようになっている。この場合も、チョッパー101cの位置を調整することで、第3アプリケーター25cのX方向における任意の予備加熱部201を加熱することができる。
【0061】
本実施形態によれば、上述した第3実施形態と同様の効果を奏することに加え、カソードガスが予備加熱部201で予め加熱された後に、発電体10に供給されるため、カソードガスの供給時に発電体10の温度低下を招くことなく、発電を行うことができる。よって、更なる発電性能の向上を図ることができる。
【0062】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態について説明する。上述した各実施形態では、アノード支持型のチューブセルを発電体10に用いる構成について説明したが、第5実施形態では平板状の発電体301を用いる点で、上述した実施形態と相違している。図14は第5実施形態におけるアプリケーターの内部構造を示す断面図である。
図14に示すように、本実施形態の燃料電池システム300は、アプリケーター25のX方向に沿って延在する平板構造の発電体301を複数備えている。発電体301は、アノード電極302とカソード電極303とで固体電解質膜304が挟持された平板状の部材である。各発電体301は、アプリケーター25のY方向に沿って間隔を空けて配列されている。この場合、隣接する発電体301間では、同じ電極が対向するように配置されている。すなわち、隣接する発電体301のアノード電極302同士の間に形成された間隔が図示しないアノードガスの供給源から供給されるアノードガスが流通するアノードガス流通路310を構成し、カソード電極303同士の間に形成された間隔が図示しないカソードガスの供給源から供給されるカソードガスが流通するカソードガス流通路311を構成している。なお、図示しないが各発電体301のアノード電極302の端部にはアノード集電材が接続される一方、カソード電極303の端部にはカソード集電材が接続されている。
【0063】
図15は、チョッパー位置と定在波の発生位置を示す図であり、アプリケーターをZ方向から見た図である。
図15に示すように、本実施形態においても、チョッパー101を位置X1〜X3まで移動させることで、定在波の腹の発生位置を変化させることができるので、発電体10のX方向における任意の位置を選択的に加熱することができる。
したがって、本実施形態によれば、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0064】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、上述した実施形態で挙げた構成等はほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
【0065】
例えば、上述した第1〜4実施形態では、断熱材33の内側に発電体10を1本ずつ配置する構成について説明したが、これに限らず、図16に示すように、断熱材33の内側に複数本の発電体10をまとめて配置しても構わない。
【0066】
上述した第1〜4実施形態の発電体では、固体電解質膜42のほぼ全面にカソード電極43を形成する構成について説明したが、図17に示すように、カソード電極43を周方向に沿って分割したり、図18に示すように、軸方向に沿って分割したりして、それらを直列接続するようにしてもよい。また、図示しないがカソード電極43を島状に形成しても構わない。すなわち、発電体10のカソード電極43を切り欠いて、固体電解質膜42を露出させる開口部44を設けても構わない。
この構成によれば、カソード電極43に開口部44を設けることで、この開口部44内をマイクロ波Mの一部が通過することになる。そのため、アノード電極43に照射され易くなるので、カソード電極43側からマイクロ波Mを照射した場合でも、アノード電極43を効果的に加熱できる。なお、本実施形態のように周波数が2.45GHzのマイクロ波透過に必要な開口部は、真円の場合、円の直径と開口部厚さの関係から容易に決定できる。例えばΦ30mmの円柱開口部の場合、円柱高さが10mm以下であればマイクロ波は確実に透過する。また開口部が長方形等の場合、真円の場合より容易にマイクロ波を透過させることができる。
【0067】
また、図19に示すように、マイクロ波Mの吸収性を向上させるために、断熱材33よりも誘電損失の大きいマイクロ波加熱材400を混入させても構わない。なお、マイクロ波加熱材400の材料としては、CuO,Fe,NiO,WO等の粉末を用いることが可能である。
この構成によれば、断熱材33を透過したマイクロ波Mがマイクロ波加熱材400で効果的に吸収されるので、マイクロ波加熱材400が混入された部位をより効果的に加熱できる。この場合、誘電損失の小さい材料(例えば、カソード電極43)にマイクロ波加熱材400を混入する等して、誘電損失の異なる材料間での温度差や温度勾配を抑制できる。これにより、発電体10の割れ等を確実に抑制した上で、発電体10をより効果的に加熱できる。また、発電体10全体で有効に発電が行われるので、発電性能の向上を図ることができる。なお、マイクロ波加熱材400は、発電体10の全体に混入する必要はなく、積極的に加熱したい部位のみに混入させればよい。
【0068】
さらに、上述した第3実施形態では、マイクロ波加熱装置を2段設ける構成について説明したが、これに限らず3段以上設けても構わない。
上述した実施形態では、カソード電極及びアノード電極の表面に沿ってそれぞれカソードガス及びアノードガスを供給する構成について説明したが、これに限らず、カソード電極及びアノード電極の表面に直交する方向にカソードガス及びアノードガスを供給しても構わない。
また、上述した実施形態では、マイクロ波Mを発電体10の外側(カソード電極43側)から照射した場合について説明したが、これに限らず発電体の内側(アノード電極41側)から照射しても構わない。
また、第5実施形態に上述した第1〜4実施形態等の各構成を組み合わせることも可能である。
【0069】
さらに、本発明は上述した実施形態に示したようなカソードガスとアノードガスを分離して、それぞれの電極(例えばアノード電極41及びカソード電極43)に供給する2室型燃料電池に限定されるものではなく、アノードガスとカソードガスを混合した混合ガスを発電体(例えば、発電体10)に供給し、発電する単室型燃料電池にも全く同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1,100,150,200…燃料電体システム 11,11a,11b,11c…マイクロ波加熱装置 41…アノード電極(燃料極) 42…固体電解質膜(電解質) 43…カソード電極(空気極) 44…開口部 400…マイクロ波加熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物型燃料電池の発電体を構成する燃料極、空気極、電解質のうち、少なくとも何れかが、誘電損失の十分大きい材料からなり、
前記固体酸化物型燃料電池をマイクロ波照射によって加熱させるためのマイクロ波加熱装置を設けたことを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記マイクロ波加熱装置は、加熱部位を変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記発電体は、誘電損失の大きいマイクロ波加熱材を混入させて形成したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記マイクロ波加熱装置は、前記発電体における前記燃料極及び前記空気極のうち、一方の電極側から他方の電極側に向けてマイクロ波を照射し、
前記一方の電極の電極面には、前記マイクロ波を通過させる開口部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記燃料極には炭素を含む燃料ガスを供給し、
前記マイクロ波加熱装置は、前記固体酸化物型燃料電池の起動後、前記燃料ガスの炭化により前記燃料極側で析出される炭素を分解するべく、マイクロ波を照射して前記炭素を加熱しうるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記発電体の周囲に前記発電体よりも誘電損失が小さい材料からなる断熱材を設け、
前記断熱材の外側に前記マイクロ波加熱装置を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の固体酸化物型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−165516(P2011−165516A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28013(P2010−28013)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】