説明

固体酸化物形燃料電池システム

【課題】 大容量化するSOFC装置に関し、短絡などによって急激な電位変化を起こした場合であってもSOFCセルを損傷させない。
【解決手段】 固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池スタックと、複数の前記燃料電池スタックを電気的に接続する導電性部材と、を備える燃料電池システムであって、複数の前記燃料電池スタックと、前記導電性部材と、を備える電気回路を有し、前記燃料電池スタックの間には前記電気回路を開閉する回路開閉部を備えることを特徴とする燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池(以下、SOFCと示す)システムに関し、特に燃料電池スタック間の電気的接続に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物燃料電池セルの1本の出力は限られているため、実際のSOFCでは、SOFCセルを複数本集合させて使用する。通常は、複数のSOFCセルからなるスタックを基本単位とし、複数個のスタックを集電板で電気的に接続したモジュールが提案されている。(例えば、下記特許文献1参照)
【0003】
ところで、固体酸化物燃料電池システムが大きくなるに従って膨大なセル数を必要とする。固体高分子形燃料電池では、ある1つのセルの特性が劣化すると、その他のセルのもつ起電力により、問題のセルに起電力反応とは逆の電気分解反応が強要される。この現象は「転極」と称し、ひとたび問題が発生すると加速的に劣化が進むことが指摘され(例えば、下記非特許文献1参照、下記非特許文献2参照)、システム的な対策が提案されている。(例えば、下記特許文献3参照、下記特許文献4参照)
【0004】
しかし、固体高分子形燃料電池で起こるこの課題はSOFCで生じにくい。なぜならSOFCの使用温度は800℃以上の高温であり、SOFCセルの材料は800℃以上の温度で化学的に安定な材料で構成されている。低温で駆動する高分子形燃料電池と比べると材料の化学的な安定性は高く、大容量化するSOFCシステムにおいてSOFCは「転極」による劣化を生じるとは予想されていなかった。
【特許文献1】特開2007−157424号公報
【特許文献2】特開2008−21606号公報
【特許文献3】特開2007−250271号公報
【非特許文献1】燃料電池設計技術 サイエンスフォーラム 昭和62年9月30日発行
【非特許文献2】電子とイオンの機能化学シリーズ vol.1 エヌ・ティ・エス 2001年6月25日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、SOFCの開発は急速であり、特にSOFCシステムの大容量化が進んでいるが、依然としていくつかの欠点がある。現行の大容量化したSOFCシステムの問題点の1つは、例えば電流取り出しのための外部電極間が短絡するなどの急激な電位変化を起こすと、多数あるセルの1つが劣化することを本発明者は実験で明らかにした。例えば、立ち上げ時、温度上昇に伴って構成部材が熱膨張し位置ずれを生じ、また供給ガスの不燃物生成や構成材料から発生する煤によって電気的な短絡を起こす可能性があり、大容量化によって、その確率はさらに高まるが、現行のSOFCシステムは短絡によるセル劣化を回避できない。セルが劣化し、損傷に至ると、その周辺の健全なセルもダメージを受けて被害は拡大する。
【0006】
本発明は、大容量化するSOFCシステムに関し、短絡などによって急激な電位変化を起こした場合であってもSOFCセルを損傷させない、特にSOFCスタック間の電気的接続手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、本発明の燃料電池システムは、固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池スタックと、複数の前記燃料電池スタックを電気的に接続する導電性部材と、を備える燃料電池システムであって、複数の前記燃料電池スタックと、前記導電性部材と、を備える電気回路を形成し、前記燃料電池スタックの間には電気回路を開閉する回路開閉部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大容量化するSOFCシステムに関し、短絡などによって急激な電位変化を起こした場合であってもSOFCセルを損傷させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用効果について説明する。
【0010】
本発明の燃料電池システムは、固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池スタックと、複数の前記燃料電池スタックを電気的に接続する導電性部材と、を備える燃料電池システムであって、複数の前記燃料電池スタックと、前記導電性部材と、を備える電気回路を形成し、前記燃料電池スタックの間には電気回路を開閉する回路開閉部を備えることを特徴とする。
【0011】
例えば立ち上げ時、温度上昇に伴って構成部材が熱膨張し位置ずれを生じ、または供給ガスの不燃物生成や構成材料から発生する煤によって外部電極312の間が短絡しても、回路開閉部によってSOFCスタック同士の電気的接続が遮断されているため、燃料電池モジュールに電位の変化は生じず、セルの劣化や損傷を回避することができる。固体高分子形燃料電池では正常な運転であっても「転極」による劣化が進行するが、SOFCでは短絡などによる急激な電位変化がなければ「転極」はおこらず、長期的に安定した発電性能が得られる。
【0012】
本発明の燃料電池システムは、前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、を備える燃料電池システムであって、前記負荷制御部は前記電気回路に配置され、前記負荷制御部が前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する際に前記回路開閉部を閉じていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【0013】
例えば立ち上げ時、外部電極312の間が短絡していても、回路開閉部によって、燃料電池スタックに固定された第一の金属部材と、第二の金属部材とが非接触な状態に移動し、SOFCスタック同士の電気的接続が遮断されるため、燃料電池モジュールに電位の変化は生じず、セルの劣化や損傷を回避することができる。また外部電極312の間が短絡せず、運転可能になると、燃料電池スタックに固定された第一の金属部材と、第二の金属部材とが接触な状態に移動し、SOFCスタック同士の電気的に接続される。
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。尚、特に限定されないが以下の各実施例は、筒状固体酸化物形燃料電池として好適なSOFCシステムである。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る燃料電池システム4を構成する燃料電池セル1の概略図である。しかしながら、これらは1例であり限定されるものではない。燃料電池セル1は、筒状の電解質12の内面に空気極11を、外面に燃料極13が形成されており、空気極11へ電気的に接続されたインターコネクタ14が燃料極13と通電せず電気的に接続される構造で形成されている。このとき、空気極11は多孔質のLaCoO3、LaMnO3、LaFeO3等のペロブスカイト型酸化物でSrやCa等をLaサイトにドープしたもの、あるいはドープしないもの、またはそれらの複合材により形成されている。電解質12は、Y、Sc、Caなどをドープした安定化ジルコニアにより形成されている。インターコネクタ14はLaCrO3にSrやCa等をドープしたものにより形成されている。
【0016】
図2は、本発明に係る燃料電池システム4を構成する燃料電池スタック2の基本構造の概略図である。本実施例では、燃料電池スタック2が12本の燃料電池セル1を電気的に2並列×6直列に配置した構成になっているが、例えば1並列×5直列、3並列×3直列など、これらは1例であり限定されるものではない。図1に示した円筒形状の燃料電池セル1が図2の図示中、インターコネクタを上向きに2並列6直列で複数積み重ねられた燃料電池セル12本の周囲を、導電性部材を兼ねる保持部材28a、28b、ならびに保持部材28cにより囲まれている。これらの燃料電池セル1は、導電性部材29および導電性部材210により、直列および/または並列に電気的に接続される。すなわち図示していなが、燃料極13とインターコネクタ14とが接続され、および/または燃料極13と燃料極13とが接続され、および/またはインターコネクタ14とインターコネクタ14とが接続される。燃料極セルは上下保持部材28aおよび28bによって押し圧されており、上下保持部材28aおよび28bが接続部212により側面保持部材28cに連結されることで押し圧をかけた状態で固定されている。保持部材28bは複数の燃料電池セル1の空気極側と電気的に接続し、接続部212により側面保持部材28cと絶縁されている。一方、保持部材28cは燃料電池セル1の燃料極側と電気的に接続し、接続部212により側面保持部材28cと絶縁されている。接続部212はアルミナ、ムライト、マグネシア、ジルコニア等を用いることができる。保持部材28a、28bには燃料電池バンドル間の電気的接続のために導電性部材213a、213bが一体化されている。発電された電力は、導電性部材213aと213bの間に出力される。
【0017】
図3は、本発明に係る燃料電池システム4を構成する燃料電池モジュール3の横断面の概略図であって電気的な接続が遮断される状態を示す。本実施例では、燃料電池スタック2が3×5の15組、電気的に直列に配置された構成になっているが、例えば、2×10、5×5など、これらは1例であり限定されるものではない。燃料電池スタック2同士の間には仕切り部材330が配置され、燃料電池スタック同士が電気的に短絡するのが防止される。燃料電池モジュール3は、15個の燃料電池スタック2が導電性部材311を介して直列に接続配置されており、外部電極312を介して、電力を外部に供給している。燃料電池ジュール3では、ガス気密容器321により燃料電池モジュール3の内部のガスが外部に漏洩するのを防止する。また断熱と電気絶縁を兼ねたセラミック部材322、317により、燃料電池モジュール3から外部への放熱を抑制するとともに、燃料電池スタック2あるいは導電性部材311あるいは外部電極312が、ガス気密容器321と電気的に短絡するのを防止する。また、回路開閉部315は移動可能であって、電気的な接続が遮断されているとき、回路開閉部315と燃料電池スタック2の間に絶縁空間316が形成される。外部電極312に燃料電池スタック2が接続され、その燃料電池スタック2と他の燃料電池スタック2が導電性部材311により電気的に接続され、同じ構成を繰り返して、燃料電池スタック2が外部電極312に接続されている。
【0018】
図4は、本発明に係る燃料電池システムの概略図である。しかしながら、これらは1例であり限定されるものではない。SOFCモジュール4は、電圧計測器45、電圧変換器(負荷制御部)44、例えばDC−DCコンバータに接続される。AC電流を供給する場合は、電圧変換器44は、DC−ACコンバータに置き換えられる。SOFCモジュールは地絡48し安全を図る。またSOFCモジュール3内部の温度計測器47、ならびに電圧計測器46が接続されている。燃料電池システム4は連系用遮断器41を経て電力ネットワーク42に接続される。図2、図3、図4に示されるように電気回路を形成されている。
【0019】
本システムの運転について説明する。しかしながら、これらは1例であり限定されるものではない。温度計測器47により発電可能な温度を判断する。発電可能な温度は、SOFCモジュールの構成部材が熱膨張し位置ずれを生じ、または供給ガスの不燃物生成や構成材料から発生する煤によるなど、外部電極312の間の短絡が発生する確率が低下する温度であって、またSOFCモジュール内の温度が均一になりSOFCセルの内部抵抗ばらつきが少なくなり、またSOFCモジュール内の燃料雰囲気が均一になりSOFCセルの起電力ばらつきが少なくなる温度であって、通常は600℃以上に設定するのが望ましい。好ましくは750℃以上に設定するのが望ましい。
【0020】
電圧計測器45により発電可能な電位の判断する。発電可能な電位は、SOFCモジュールの構成部材と接地との間が絶縁されていることが保証できる電位であって、通常はセル単体の開回路電圧として0.5V以上に設定するのが望ましい。
【0021】
燃料電池システム4を立ち上げ時、回路開閉部315によってSOFCスタック間の電気的な接続を遮断する。温度計測器47により発電可能な温度であると判断され、電圧計測器45により発電可能な電位であると判断されたとき、電気的な接続を遮断している回路開閉部315は移動し、SOFCスタック間を電気的に接続する。温度計測器47により発電可能な温度であると判断されても電圧計測器45により発電可能な電位でないと判断されたとき回路開閉部315による電気的な接続の遮断は継続される。また電圧計測器45により発電可能な電位であると判断されても温度計測器47により発電可能な温度でないと判断されたとき回路開閉部315による電気的な接続の遮断は継続される。
【0022】
図5は、本発明に係る燃料電池システム1を構成する回路開閉部315の概略図である。しかしながら、これらは1例であり限定されるものではない。図5の上図は電流遮断の状態にある回路開閉部315であって、保持部材28aに電気的接続を良好にするためのNiなどの導電性部材213aを具備するSOFCスタック2に、金属部材51(第2の金属部材)を対面配置する。図5は、金属部材51と導電性部材213aの電気的接続を良好にするため、金属部材51はNiなどの導電性部材であってもよい。また金属部材51は、図示しないが、2つの隣り合うSOFCスタックの導電性部材213aを良好に電気的接続するだけの面積を有している。そして金属部材51は保持部材52、絶縁保持部材53と一体になっている。移動ジグ54は一体となる棒55を出し入れすることで絶縁保持部材53を図5の左右に動かす。捧55とガス気密容器321はネジ57で会合し、気密性を保っている。棒55は、モーター56によって可動することができる。なお、図5は導電性部材213aと金属部材51が離れ、電気的に遮断している様子を示す。負荷制御部が固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する前の電気開閉部の状態を表している。図6は導電性部材213aと金属部材51が接続し、電流通電している様子を示す。負荷制御部が固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御している時の電気開閉部の状態を表している。
【0023】
電気的に接続する金属部材51と駆動部の間に絶縁保持部材53を介することにより、ガス気密容器と金属部材を電気的に絶縁できる。なお金属部材51はニッケルなどの電気導電性が高く耐熱性のある材料を用いることができる。さらには導電性部材を用いて電気的な接続の信頼性を高めてもよい。駆動部は耐熱鋼など強度のある金属材質を用いることができる。絶縁部材はアルミナ、ムライトなどのセラミックを用いても良い。
【0024】
棒55を移動させるモーター56の駆動は、判定を受けて自動で行ってもよい。自動の場合は油圧シリンダ、空圧シリンダ、モーターなどによって駆動することができる。
【0025】
なお、捧55とガス気密容器321はネジ57で会合することが望ましいが、磁気シール、耐熱パッキン、セラミックしゅう動材料を用いたかん合、金属フレキなどを用いて気密性を保っても良い。
【0026】
本発明者は、数多くの信頼性試験ならびに実験的検証によって短絡によるセル損傷のメカニズムを明らかにすることで本発明を考案するに至った。以下、空気極を支持体とする円筒縦縞型SOFCセルを用いた検証試験の1例を次に説明する。
【0027】
本検証実験で用いたSOFCセル1は有効長600mmとし、空気極支持体11の組成はLa0.75Sr0.25MnO3で厚み2mm、固体電解質12の組成は90mol%ZrO2―10mol%Sc2O3で厚み30μm、燃料極13の組成は、Niと90mol%ZrO2―10mol%Y2O3からなる混合材料で厚み100μm、インターコネクター14の組成は、La0.8Ca0.2CrO3で厚み30μmである。
【0028】
前記SOFCセル2本を電気的に並列接続した組を、電気的に6組直列接続したSOFCセル12本からなるスタックを構成し、該スタック8個を電気的に直列接続してモジュールを形成する。そして2つの該モジュールを2つ電気的に直列接続することで10KW級発電システムが得られる。
【0029】
発電試験は、SOFCセル内側に空気を、外側に燃料ガス(H2+N2混合ガス)を供給した。表1に示す条件を経た後、900℃まで昇温させ、発電を実施した。
【0030】
【表1】

【0031】
通常の立ち上げ、運転、終了が支障なく稼動する発電システムであることを確認した後、改めて発電システムを立ち上げる途中、発電システムから10KW発電を取り出す外部電極の両端を短絡させ、外部電極間の電位を急激に下げて0Vにすると、モジュール2個を構成しているSOFCセル180個のうちの1つが劣化した。
【0032】
本試験によって劣化したSOFCセルの空気極と電解質の界面近傍を電子顕微鏡で観察した結果を図7に示す。図7の71の範囲は空気極、72の範囲は空気極触媒層である。図7から空気極と空気極触媒層の界面近傍の組織に微小な凹凸が発生しているのがわかる。エネルギー分散型X線分析装置(EDX)やエックス線回折装置(XRD)などによる詳細な分析によって、この微小な凹凸が空気極材料の還元分解した結果であることがわかった。また短絡した状態で運転を継続するとSOFCセルは破壊し、周囲の正常なSOFCセルは損傷した。
【0033】
本発明者が検討した結果、SOFCセルの劣化はセルを直列に配置して外部電極間の電位が100V以上の大型発電システムにおいて、短絡などの急激な電圧変化を伴った場合にのみ生じることを突き止めた。
【0034】
本発明者は検討を重ね、外部電極間の短絡によって特定のSOFCセルが劣化するメカニズムを明らかにし、立ち上げ時の短絡が特定のセルを劣化することを予測した。以下にその詳細を述べる。
【0035】
セルnの電位Enは起電力Vn、電流i、内部抵抗Rnを用い式1で説明される。
式1 En=Vn−iRn
またセルn個が直列で接続されているときの両端の電位E は式2で説明される。
式2 E=ΣEn
=ΣVn−iΣRn
短絡したときはE=0であるから式2から式3が求められる。
式3 ΣVn=iΣRn
つまりセルnに流れる電流iは式4となる。
式4 i=ΣVn/ΣRn
式4、式1からセルnの電位(=起電力)が求まる。
式5 En=Vn−Rn・ΣVn/ΣRn
各セルの起電力の平均値をVave、内部抵抗Raveとし、セルnの平均値との差をΔV、ΔRとすれば式5は式6のように変換される。
式6 En=(Vave+ΔV)−(Rave+ΔR)・Vave/Rave
=ΔV−ΔR・i
【0036】
SOFC燃料電池システムで、出力端子の両端を短絡させた場合、式6は起電力が平均より低く、且つ内部抵抗が平均より高いセルにマイナス電位、すなわち「転極」が発生することを意味している。起電力が低い場合としては酸素ポテンシャル、すなわち電解質間の酸素濃度差が小さい、セルの品質粗悪などが考えられる。内部抵抗が高い場合としてはセル温度が低い、セルの品質粗悪などが考えられる。酸素濃度差はSOFCモジュール内の酸素雰囲気の不均一さと密接に関係し、セル温度差はSOFCモジュール内の温度分布と密接に関係している。
【0037】
ところでSOFCに用いるセルは、酸素イオン(O2-)透過性を有し、かつ、ガス透過性の無い固体電解質薄膜(ZrO2、CeO2等)と、固体電解質薄膜を挟む一方に空気電極(LaMnO3等)、一方に燃料極(Ni基サーメット等)が形成される。このうち空気極は、空気中の酸素と電子の反応場であり、外部の負荷から反応場へ電子を供給する導電路の働きもする。これらの機能を満足する材料として、高い導電性を持つペロブスカイト型酸化物が使われる。ところで同酸化物は近傍の酸素分圧が低下すると、空気極の還元分解を生じる。材料によって酸素濃度依存性は異なるが、導電性と酸素安定性を両立させた場合の空気極材料(例えば、(La0.75Sr0.25)yMnO3)の雰囲気温度と還元分解を生じる酸素濃度の閾値を実験的に求めた結果を表2に示す。閾値を下回ると空気極材質は分解し、分解膨張による内部応力が発生しセル劣化が加速する。
【0038】
【表2】

【0039】
またセルnの起電力Vnの理論値(開回路電圧:OCV)は式7で与えられる。μ(O2、a)はアノードの酸素ポテンシャル、μ(O2、c)はカソードの酸素ポテンシャル、Fはファラデー定数である。すなわち起電力Vnは電解質の両側の酸素ポテンシャル差で決定されることを示している。

式7 Vn=−(μ(O2、a)−μ(O2、c))/4F
【0040】
通常の運転条件下ではカソードの酸素濃度は閾値を下回ることはない。また「転極」によってマイナス電位を生じても、小規模のSOFCシステムであれば酸素濃度の閾値を下回るだけの電位がセルに発生することはなく、たとえ品質の悪いセルであっても空気極が劣化することはない。
【0041】
しかし、SOFCシステムが大規模になり、SOFCモジュール内の雰囲気や温度のばらつきが大きくなると、酸素濃度は閾値を下回ることになる。
【0042】
本発明者は、SOFCセル1を1本用い、SOFCセル81に直流安定化電源82を接続しセル電極間の電位計83によりセル電極間にマイナスの電位を作用させる実験を実施した。図7に回路図を示す。本系統的実験で用いたSOFCセル1は有効長600mmとし、空気極支持体11の組成はLa0.75Sr0.25MnO3で厚み2mm、固体電解質12の組成は90mol%ZrO2―10mol%Sc2O3で厚み30μm、燃料極13の組成は、Niと90mol%ZrO2―10mol%Y2O3からなる混合材料で厚み100μm、インターコネクター14の組成は、La0.8Ca0.2CrO3で厚み30μmである。
【0043】
本実験において、−0.5Vのセル電位ではセルの劣化は見られないが、−1.0Vのセル電圧になると若干の内部抵抗の増加が認められ、−2.0Vのセル電位になるとセルは劣化した。
【0044】
すなわち酸素分圧の閾値を越える電位がかかったときにセルが劣化する。このような事象は大容量のSOFC装置において短絡などの不具合が発生したときに限られた現象である。また酸素分圧の閾値を越える電位はモジュール温度が600℃以下の場合、モジュール内の温度ばらつきによってセル内部抵抗ばらつきが大きく、またモジュールないの雰囲気ばらつきによってセル起電力ばらつきが大きく、特に危険である。一旦短絡を生じると、現在のSOFC装置においては、セルに大きなダメージを生じるという認識はなく、セル破損に至り、SOFCモジュール全体を損傷することになってしまう。本発明によってかかる損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態のSOFCセルを示す図である。
【図2】本実施形態のSOFCスタックを示す図である。
【図3】本実施形態のSOFCモジュールを示す図である。
【図4】本実施形態の燃料電池システムの概略図である。
【図5】本実施形態の回路開閉部を示す図である。(電流遮断の状態)
【図6】本実施形態の回路開閉部を示す図である。(電流導通の状態)
【図7】本試験によって劣化したSOFCセルの空気極と電解質の界面近傍を電子顕微鏡像である。
【図8】セル電極間にマイナスの電位を作用させる実験に用いた回路図である。
【符号の説明】
【0046】
1…SOFCセル、2…SOFCバンドル、3…SOFCモジュール、4…SOFC発電装置、213a…導電性部材、315…回路開閉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池スタックと、
複数の前記燃料電池スタックを電気的に接続する導電性部材と、
を備える燃料電池システムであって、
複数の前記燃料電池スタックと、前記導電性部材と、を備える電気回路を有し、前記燃料電池スタックの間には前記電気回路を開閉する回路開閉部を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、
を備える燃料電池システムであって、
前記負荷制御部は前記電気回路に配置され、
前記負荷制御部が前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する際に前記回路開閉部を閉じていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
固体酸化物形燃料電池セルを備える燃料電池スタックと、
複数の前記燃料電池スタックを電気的に接続する導電性部材と、
前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する負荷制御部と、
を備える燃料電池システムの運転方法であって、
複数の前記燃料電池スタックと、前記導電性部材と、を備える電気回路を形成し、前記燃料電池スタックの間には電気回路を開閉する回路開閉部を備え、前記負荷制御部は前記電気回路に配置され、
前記負荷制御部が前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御する前には前記回路開閉部が開いており、
前記負荷制御部が前記固体酸化物形燃料電池セルから電流を流すように制御している時には前記回路開閉部を閉じていることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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