説明

固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料,燃料極,固体酸化物形燃料電池セル,および燃料極材料の製造方法

【課題】長時間にわたって使用したときでも導電性を高く維持できる固体酸化物形燃料電池セル用燃料極およびその製造方法を提供する。また、長時間にわたって使用したときでも発電特性を高く維持できる固体酸化物形燃料電池セルを提供する。
【解決手段】SOFCセル10は、支持部材となる燃料極12と、燃料極12の上に形成された電解質層14と、電解質層14の上に形成された空気極16とから構成されている。燃料極12は、厚さ数百μmのグリーンシートを積層することによって厚さ数百μm〜数mm程度に形成されており、酸化ニッケル(NiO),ジルコニア系酸化物,および酸化アルミニウム(Al23)を含む原料を焼成することにより得られるサーメット(焼結体)から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料,固体酸化物形燃料電池セルの燃料極,固体酸化物形燃料電池セル,および固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)は、セラミックスから成る部品により構成されており、他の形態の燃料電池に比べて電気変換効率および出力密度が高いという利点がある。SOFCは、発電システム、特に分散型電源としての応用が期待されており、積極的に研究・開発がなされている。SOFCセルは、空気極,電解質層,および燃料極を順番に積層した三層構造をとり、空気極に空気(酸素)を送って酸化物イオン(O2-)を生成し、その酸化物イオン(O2-)が電解質層を透過して燃料極で燃料ガス(H+)と反応して水を生成する。これは水の電気分解の逆反応であり、電気エネルギーが生成されるので、これを電力として利用する。SOFCセル一つの電圧は高々1V程度と小さいため、通常、SOFCセルを複数直列に接続してスタックを構成したうえで発電を行なっている。
【0003】
SOFCセルの構造としては、まず、円筒型や平板型などが挙げられ、さらに、SOFCセルを構成する要素のうち、電解質層を基板とした電解質層支持型,空気極を基板とした空気極支持型,および燃料極を基板とした燃料極支持型という3つの形態に分けることができる。とりわけ、出力密度を向上させる観点から平板型・燃料極支持型SOFCセルの開発が積極的に進められている(たとえば、非特許文献1参照)。燃料極支持型SOFCセルの場合、電気抵抗が最も大きい電解質層を薄く形成することによってSOFCセルの電気抵抗を小さく抑えることができるためである。燃料極支持型SOFCセルでは、体積の大部分を燃料極が占め、燃料極の特性によってSOFCセル全体としての性能が大きく左右されるので、燃料極の特性を向上させることが肝要である。
【0004】
このSOFCセルの電解質層としては、800〜1000℃にて高いイオン伝導性を示すジルコニア系のセラミックスを用いるのが一般的である。このジルコニア系のセラミックスは、800℃以上の高温とならなければ高いイオン伝導性を示さないので、SOFCの雰囲気温度を800℃以上にしたうえで発電する必要がある。このため、燃料極は発電中800℃以上の高温で還元ガス雰囲気にさらされることになる。このような条件下でも高い導電性を示す材料として、通常、ニッケル−ジルコニアのサーメット(焼結体)を燃料極の材料として用いるのが一般的である。
【0005】
このように、燃料極の材料として一般的に用いられているニッケル−ジルコニアのサーメットの導電率は、ニッケルとジルコニアとの混合比によって大きな影響を受けることが報告されている。また、サーメット中にニッケル同士の連続した電気的接合が形成されるためには、ニッケル含有量は少なくとも50wt%以上を必要とすることも報告されている(たとえば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. Ghosh, E. Tang, M. Perry, D. Prediger, M. Pastula and R. Boersma,“STATUS OF SOFC DEVELOPMENTS AT GLOBAL THERMOELECTRIC”, Electrochemical Society Proceedings Series, (USA), The Electrochemical Society, 2001, PV 2001-16, p.100-110
【非特許文献2】S. Murakami, Y. Akiyama, N. Ishida, Y. Miyake, M. Nishioka, Y. Itoh, T. Saito and N. Furukawa,“Study on Solid Oxide Fuel Cells(I). Influence of ZrO2 Content in an Anode on Its Electrode Characteristics”, DENKI KAGAKU, 社団法人電気化学会, 1991年, 第59巻, 第4号, p.320-324
【非特許文献3】T. Fukui, S. Ohara and K. Mukai,“Long-Term Stability of Ni-YSZ Anode with a New Microstructure Prepared from Composite Powder”, Electrochemical and Solid-State Letters, (USA), The Electrochemical Society, 1998, 1(3), p.120-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のニッケル−ジルコニアのサーメットを用いたSOFCセル用燃料極では、SOFCを使用するたびに燃料極が高温雰囲気にさらされるので、燃料極中のニッケルが凝集し、その結果、燃料極の導電性が低下してしまう。このようにして燃料極の導電性が低下すると、燃料極における電気抵抗が増大してしまうので、電池の発電特性も低下してしまうという課題を生じていた。この課題は、SOFCセルからの電流を増大させるべく燃料極の面積を増大させた場合に一層顕著となる。
なお、ニッケル同士が凝集する程度については、サーメットの形成に用いる酸化ニッケル粉末(粉体)およびジルコニア粉末(粉体)の粒径や混合比によって左右されることも報告されている(たとえば、非特許文献2,3参照)。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、長時間にわたって使用したときでも導電性を高く維持できる固体酸化物形燃料電池セル用燃料極およびその製造方法を提供することを第1の目的とする。また、本発明の第2の目的は、長時間にわたって使用したときでも発電特性を高く維持できる固体酸化物形燃料電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料は、酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つを含む酸化金属添加剤と、酸化ニッケル(NiO)と、ジルコニア系酸化物とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、上述した本発明に係る燃料極材料において、酸化金属添加剤は、酸化アルミニウム(Al23)を含むものとしてもよい。加えて、前記酸化金属添加剤は、酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つをさらに含むものとしてもよい。
【0011】
さらに、酸化金属添加剤は、ジルコニア系酸化物に対して0.3〜6mol%の濃度であるものとしてもよい。
【0012】
また、上述した本発明に係る燃料極材料において、ジルコニア系酸化物は、酸化ジルコニウム(ZrO2)に対し、スカンジウム酸化物(Sc23),カルシウム酸化物(CaO),セリウム酸化物(CeO2),イットリウム酸化物(Y23)のいずれか一つをドープしたものであるものとしてもよい。
【0013】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルの燃料極は、上述の燃料極材料を焼成することにより得られる焼結体から成ることを特徴とするものである。
【0014】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルは、電解質層と、この電解質層の一方の面上に形成された燃料極と、電解質の他方の面上に形成された空気極とから成り、燃料極は、上述の燃料極であることを特徴とするものである。この際、燃料極が、電解質層および空気極よりも厚く形成された燃料極支持型の構造をもつものとしてもよい。
【0015】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料の製造方法は、酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つを含む酸化金属添加剤と、酸化ニッケル(NiO)と、ジルコニア系酸化物とを混合する工程を少なくとも備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る固体酸化物形燃料電池セル用の燃料極材料は、酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つを含む酸化金属添加剤と、酸化ニッケル(NiO)と、ジルコニア系酸化物とを含むものであり、これを焼成することにより得られる燃料極は、長時間にわたって使用したときでも導電性を高く維持することができる。したがって、このような燃料極を備えた本発明に係る固体酸化物系燃料電池セルは、長時間にわたって使用し、燃料極が長時間にわたって高温のガスにさらされたとしても、燃料極の導電性が高く維持されて電気抵抗が増大しにくいので、発電特性を高く維持することができるのである。
【0017】
また、本発明に係る燃料極材料において、酸化金属添加剤は、酸化アルミニウム(Al23)を含むとともに、酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つをさらに含むものとしてもよく、このような燃料極材料を焼成して得られる燃料極は、燃料極の初期導電率が高くなるとともに、燃料極の導電率が高く維持されて電気抵抗が増大しにくくなる。したがって、このような燃料極を備えた本発明に係る固体酸化物形燃料電池セルは、導電率の向上と長期的な安定化とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るSOFCセルの一構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係るSOFCセル用燃料極のサンプルを高温ガス雰囲気下に置いて導電率の時間変化を測定した結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るSOFCセル用燃料極のサンプルの断面のSEM写真である。
【図4】本発明の実施例1に係るSOFCセル用燃料極のサンプルの800℃雰囲気における導電率と酸化アルミニウム添加量との関係を示す図である
【図5】本発明の実施例2に係るSOFCの発電特性の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[SOFCセル用燃料極およびSOFCセルの構成]
まず、本実施の形態に係るSOFCセル用燃料極およびSOFCセルの構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るSOFCセル用燃料極およびSOFCセルの一構成例を示す断面図である。
本実施の形態に係るSOFCセル10は、図1に示すように、支持部材となる燃料極12と、燃料極12の上に形成された電解質層14と、電解質層14の上に形成された空気極16とから構成されている。
燃料極12は、厚さ数百μmのグリーンシートを積層することによって厚さ数百μm〜数mm程度に形成されており、酸化ニッケル(NiO),ジルコニア系酸化物,および酸化アルミニウム(Al23)を含む原料を焼成することにより得られるサーメット(焼結体)から構成されている。
電解質層14は、厚さ数μm〜数十μmであり、燃料極12の材料として用いたジルコニア系酸化物と酸化アルミニウム(Al23)とを含む原料を焼成して得られるセラミックスから構成されている。
空気極16は、厚さ数μm〜数百μmであり、LSM(La1-XSrXMnO3)やLNF(LaNi1-XFeX3)などのペロブスカイト型の酸化物から構成されている。
このように、SOFCセル10は、燃料極12が、電解質層14や空気極16に比べて厚く形成されており、燃料極12によって機械的な強度を確保した燃料極支持型のSOFCセルである。
なお、SOFCセル10ひとつだけでは、高々1V程度の電圧しか確保することができないので、SOFCセル10とインターコネクタ(図示せず)とを組み合わせたものを複数直列に積層し、スタックとして用いるのが一般的である。
【0021】
[SOFCセル用燃料極の製造方法]
次に、本実施の形態に係るSOFCセル用燃料極(燃料極12)の製造方法について説明する。
燃料極12は、酸化ニッケル(NiO)の粉末(たとえば、平均粒径は数μm)と、ジルコニア系酸化物の粉末(たとえば、平均粒径は数百nm)とを3:2の重量比で混ぜた混合物に対し、バインダー、可塑剤、分散剤等を添加してスラリーとした上でドクターブレード法などの手法を用いてグリーンシートを成形し、これを焼成することによって製造することができる。
ここで、ジルコニア系酸化物粉末としては、たとえば、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ:(ZrO21-X(Sc23X)に対して、少量の酸化アルミニウム(Al23)を添加した酸化アルミニウム添加スカンジア安定化ジルコニア(SASZ:(ZrO21-X-Y(Sc23X(Al23Y)を用いればよい。
なお、粉末の平均粒径については、たとえばJISのR1619に記載された方法を用いて測定することができる。
【0022】
[SOFCセルの製造方法]
次に、上述した本実施の形態に係るSOFCセル10の製造方法について説明する。
本実施の形態に係るSOFCセル10は、上述した方法によって製造した燃料極グリーンシートを厚み1mm前後まで積層したものの上に電解質を形成した燃料極/電解質積層体を一体焼結した後に電解質上に空気極を形成することによって得ることができる。
電解質層14は、ジルコニア系酸化物の粉体(たとえば、平均粒径は数μm)および酸化アルミニウム(Al23)の粉体を含む混合物(たとえば、平均粒径は数百nm)に対し、バインダー、可塑剤、分散剤等を添加してスラリーとした上でスクリーン印刷法などの手法を用いて燃料極グリーン体の上に塗布しこれらを一体焼成することによって形成することができる。
空気極16は、SOFC用空気極の材料として一般的に用いられているLSM(La1-XSrXMnO3)やLNF(LaNi1-XFeX3)などのペロブスカイト型の酸化物の粉体(たとえば、平均粒径は数十nm〜数μm)に対し、バインダー、可塑剤、分散剤等を添加してスラリーとした上でスクリーン印刷法などの手法を用いて電解質層の上に塗布し、これを焼成することによって形成することができる。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態に係るSOFCセル用燃料極12によれば、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系酸化物、および酸化アルミニウム(Al23)を含む原料を焼成することにより得られるサーメットから構成されており、長時間にわたって使用したときでも導電性を高く維持することができる。
また、本実施の形態に係るSOFCセル10によれば、長時間にわたって使用し、燃料極12が長時間にわたって高温のガスにさらされたとしても、燃料極12の導電性が維持されて電気抵抗が増大しにくいので、発電特性を高く維持することができる。
【0024】
[変形例]
なお、上述の本実施の形態では、燃料極12を形成する際の材料となるジルコニア系酸化物としてスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ:(ZrO21-X(Sc23X)を用いて説明したが、他の種類のジルコニア系酸化物を用いてもよい。たとえば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:(ZrO21-X(Y23X)や,カルシア安定化ジルコニア((ZrO21-X(CaO)X),セリア安定化ジルコニア((ZrO21-X(CeO2X)などを用いてもよい。いずれのジルコニア系酸化物を用いたとしても、本実施の形態で説明したのと同様の効果を奏するものと期待できる。
【0025】
また、上述の本実施の形態では、SOFCセル10は、燃料極12を支持部材とした燃料極支持型セルであるものとして説明したが、この形態に限られず、電解質層支持型セルや空気極支持型セルとしてもよい。また、平板型のSOFCセルだけではなく、円筒型のSOFCセルにも採用することができる。
【0026】
さらに、上述の本実施の形態では、酸化ニッケル(NiO)、ジルコニア系酸化物、および酸化アルミニウム(Al23)を含む原料を焼成することにより得られるサーメットから燃料極12を作成したが、酸化金属添加剤として酸化アルミニウム(Al23)を用いる代わりに、酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)などを用いてもよい。後述するように、酸化アルミニウム(Al23)ほどではないものの、燃料極12の導電性が維持されて電気抵抗が増大しにくくなることがわかっており、これらの酸化金属添加剤を用いても発電特性を高く維持できるようになる。
【0027】
また、酸化金属添加剤として酸化アルミニウム(Al23)を用いる代わりに、酸化コバルト(Co34),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2)を用いてもよい。後述するように、これらの酸化金属添加剤を添加したサーメットでは、Ni−ScSZサーメットの場合よりも初期の導電率σ0が高くなることが分かっている。このため、これらの酸化金属添加物を添加することにより、サーメット中の酸化ニッケル(NiO)の混合量を減少させても十分な導電率を得ることができるようになる。ここで、サーメット中の酸化ニッケル(NiO)の混合量が大きいと、酸化ニッケル(NiO)の熱膨張係数が大きいため酸化還元時における体積の変化が大きくなり、長期間にわたって使用すると強度や発電特性が損なわれてしまうという不都合が生じる。しかしながら、上述した酸化金属添加剤を添加することによって、サーメット中の酸化ニッケル(NiO)の混合量を小さくしても十分な発電特性を得ることができるようになる。したがって、上述の酸化金属添加剤を添加すると共に酸化ニッケル(NiO)の混合量を減らすことによって、長期間にわたって使用しても強度が損なわれることがなく、かつ、発電特性を高く維持することができるようになる。
【0028】
さらに、上述の酸化金属添加剤を組み合わせて使用してもよい。後述するように、特に、酸化コバルト(Co34),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2)のいずれかを酸化アルミニウム(Al23)と組み合わせて用いたときには、導電率を向上と長期的な安定化とを両立することができる。
【実施例1】
【0029】
[SOFCセル用燃料極]
次に、本発明の実施例1に係るSOFCセル用燃料極について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
本発明の実施例1に係るSOFCセル用燃料極を以下のようにして製造した。
まず、燃料極は酸化ニッケル(NiO)粉末とジルコニア系酸化物粉末を3:2の重量比で混合したものを使用した。
ここで、酸化ニッケル(NiO)粉末は平均粒径2〜4μmのものを用いた。
ジルコニア系酸化物粉末としては、ジルコニア(ZrO2)に10mol%のスカンジア(Sc23)を添加するとともに、1mol%の酸化アルミニウム(Al23)を添加したSASZ((ZrO20.89(Sc230.10(Al230.01)であって、平均粒径が0.3〜0.6μmのものを用いた。
これらの粉体にバインダー、可塑剤、分散剤等を添加してスラリーとし、ドクターブレード法でグリーンシートを成形した。
こうして成型したグリーンシートを1mm程度の厚みに積層し、適宜切り出して1300℃以上で焼結してSOFCセル用燃料極のサンプルとなるサーメット(以下、「Ni−SASZサーメット」という。)を作製した。
【0031】
なお、参考のため、ジルコニア系酸化物粉末として、ジルコニア(ZrO2)に8mol%のイットリア(Y23)を添加したイットリア安定化ジルコニア(YSZ:(ZrO20.92(Y230.08)を用いて作成したサーメット(以下、「Ni−YSZサーメット」という。)と、ジルコニア(ZrO2)に10mol%のスカンジア(Sc23)を添加したScSZ((ZrO20.90(Sc230.10)を用いて作成したサーメット(以下、「Ni−ScSZサーメット」という。)も用意した。
【0032】
[SOFCセル用燃料極の導電率を測定した結果]
次に、このようにして作成したNi−SASZサーメット,Ni−YSZサーメット,およびNi−ScSZサーメットという三つのサーメットの導電率の時間変化を測定した結果を説明する。
具体的には、Ni−SASZサーメット,Ni−YSZサーメット,およびNi−ScSZサーメットという三つのサーメットを、各々、棒状に切り出すとともに、4カ所に白金線を巻き付かせたものをサンプルとして用意し、4端子法により導電率の時間変化を測定した。測定は高温雰囲気炉中にサンプルをセッティングし、窒素ガス雰囲気で800℃まで昇温させた後に、サンプルに水素を導入して還元反応を引き起こして導電率の時間変化を測定した。
【0033】
図2は、本実施例に係るSOFCセル用燃料極の各サンプルを高温ガス雰囲気下に置いたときの導電率の時間変化を示す図であり、図2(a)は本実施例に係るNi−SASZサーメットから成るサンプルの導電率の時間変化を示し、図2(b)はNi−YSZサーメットから成るサンプルおよびNi−ScSZサーメットから成るサンプルの導電率の時間変化を示している。
Ni−SASZサーメットから成るサンプルでは、図2(a)に示すように、600時間が経過した後でも導電率が初期値600S/cm以上の値を維持することがわかった。
これに対し、Ni−YSZサーメットから成るサンプルおよびNi−ScSZサーメットから成るサンプルでは、図2(b)に示すように、いずれも時間の経過とともに導電率が大きく減少していることがわかった。
この測定結果から、Ni−SASZサーメットから成るSOFCセル用燃料極は、Ni−YSZサーメットやNi−ScSZサーメットから成るものに比べ、長時間にわたって使用したときでも導電性を高く維持できることが裏付けられた。
【0034】
[SOFCセル用燃料極の断面を観察した結果]
次に、800℃という高温の雰囲気で600時間にわたって導電率を測定した後の各サンプルの断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した結果を説明する。
図3は、各サンプルの断面のSEM写真であり、図3(a)はNi−SASZサーメット、図3(b)はNi−YSZサーメット、図3(c)はNi−ScSZサーメットのSEM写真である。
Ni−SASZサーメットでは、図3(a)に示すようにニッケルの凝集体の存在は確認されないのに対し、Ni−YSZサーメットおよびNi−ScSZサーメットでは、図3(b),(c)に示すようにニッケルの凝集体の存在が確認された。
この観察結果から、Ni−SASZサーメットから成るSOFCセル用燃料極では、Ni−YSZサーメットやNi−ScSZサーメットから成るものに比べてニッケルの凝集が抑制されるということが裏付けられた。
なお、Ni−SASZサーメットから成るSOFCセル用燃料極においてニッケルの凝集が抑制されるのは、酸化ニッケルと酸化アルミニウムとが化学反応を起こし、下記の式(1)に示すように立方晶系のスピネル型構造をもつ酸化物NiAl24が部分的に形成されるので、Ni−SASZサーメット中のニッケルが移動しづらくなるのが原因であると考えられる。
【0035】
(燃料極における部分的な化学反応)
NiO + Al23 → NiAl24 (1)
【0036】
以上、Ni−SASZサーメット,Ni−YSZサーメット,およびNi−ScSZサーメットという三つのサンプルについて導電率の時間変化を測定した結果と、SEMによって観察した結果とを照らし合わせると、SOFCセル用燃料極の導電性が経時的に劣化することの主な原因は、高温雰囲気においてニッケルが凝集することにより、ニッケル同士の接続が弱くなることにあると考えられる。
【0037】
[SOFCセル用燃料極の導電率と酸化アルミニウム添加量との関係]
次に、SASZを用いて作成したSOFCセル用燃料極において、添加した酸化アルミニウム(Al23)の量が導電率に及ぼす影響について調べた結果を説明する。
図4は、Ni−SASZサーメットの800℃雰囲気における導電率と酸化アルミニウム添加量との関係を示す図である。
図4に示すように、酸化アルミニウム(Al23)添加量を0.3〜18.5mol%と変えた場合、酸化アルミニウム(Al23)の添加量が増加するにしたがってNi−SASZサーメットの導電率が大きく減少することがわかった。
SOFCセル用燃料極としての導電性を満足するためには少なくとも200S/cm以上の導電率を確保する必要があることに照らせば、ScSZに添加する酸化アルミニウムの量は高々6mol%以下とすることが望ましいことがわかった。
なお、図4の評価に用いたNi−SASZサーメットから成るサンプルについては、それぞれの導電率を800℃という高温雰囲気に置き、600時間にわたって4端子法によって測定したが、いずれのサンプルでも経時的な導電率の低下は見られなかった。また、測定後のSEM写真からもニッケルの凝集は確認できなかった。
【実施例2】
【0038】
[SOFCセル]
次に、本発明の実施例2に係るSOFCセルについて図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本実施例に係るSOFCセルの製造手順を説明する。
電解質層の材料としては、酸化アルミニウム(Al23)を少量(1mol%)ドープしたSASZ(平均粒径は0.3〜0.6μm)を用いた。
また、燃料極の材料としては、酸化ニッケル(NiO)の粉末(平均粒径は2〜4μm)と、上記電解質層に使用したSASZの粉末(平均粒径は0.3〜0.6μm)を3:2の重量比で混合したものを使用した。
各材料粉末にバインダー、可塑剤、分散剤等を添加してスラリーとし、ドクターブレード法で電解質層は厚さ20〜50μm、燃料極は厚さ300〜600μmのグリーンシート状に成形した。
各グリーンシートが乾燥した後に燃料極シートを1mm程度の厚みに積層し、その上に電解質層をスクリーン印刷法により形成した後、適宜切り出して燃料極/電解質層ハーフセル成形体を形成した。この燃料極/電解質層ハーフセル成形体を1300℃で焼結したのち、この燃料極/電解質層ハーフセル成型体の電解質層上にLNF(LaNi1-XFeX3)粉末をバインダー溶液により分散させたペーストをスクリーン印刷により印刷し、1000℃で焼結して空気極を形成した。これにより、燃料極/電解質層/空気極を備えるSOFCセルが得られた。
【0039】
[SOFCセルの発電特性を測定した結果]
このようにして製作したSOFCセルの発電特性を測定した結果を説明する。
燃料極側に水素を供給するとともに、空気極側に空気を供給し、800℃において発電特性を測定した結果を説明する。
図5は、本実施例に係るSOFCセルの燃料極側に水素を供給するとともに、空気極側に空気を供給し、800℃において0.3A/cm2の電流を生成しつづけたときの電圧の時間変化を示す図である。
本実施例に係るSOFCセルでは、図5に示すように、2000時間という長い時間にわたって運転した後でも電圧(電力)の低下がほとんど見られないことがわかった。
したがって、SASZを用いて形成したSOFCセル用燃料極を備えたSOFCセルは、高い発電特性および高い耐久性を両立するということが裏付けられた。
【実施例3】
【0040】
次に、実施例3について詳細に説明する。
実施例3では、Ni−ScSZサーメットの安定化ジルコニア(ScSZ)に対して各種酸化金属添加剤(Al23,MgO,CaO,Fe23,CuO,TiO2,Co34)を0.7〜6mol%添加した酸化金属添加剤添加ScSZを材料として燃料極を作製し、導電率およびその長期特性への影響を評価した。表1は、各サンプルの800℃での導電率の評価結果を示すものである。ここで、表1の、導電率の低下率Δσは、σ0を初期の導電率、σ500hを500時間後の導電率としたときに、以下の式(2)によって求められるものである。
【0041】
【表1】

【0042】
Δσ=(σ0−σ500h)/σ0 (2)
【0043】
各サンプルについて、初期の導電率σ0を調べたところ、表1に示すように、Ni−ScSZサーメットの場合、初期の導電率σ0は1000S/cmであった。
これに対し、酸化コバルト(Co34),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2)を添加したサーメットでは、Ni−ScSZサーメットの場合よりも初期の導電率σ0が高くなる傾向が見られた。これは、燃料ガスが供給されると、これらの酸化金属添加剤が還元され、この還元された酸化金属添加剤に含まれる金属がニッケルと協働して導電性パスを形成しているためであると考えられる。
一方、酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO)を添加したサーメットでは、初期の導電率σ0はNi−ScSZサーメットの場合と変わらないか、やや低下する傾向が見られた。これは、これらの酸化金属添加剤に含まれる金属、すなわち、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)はイオン化傾向が比較的高いため、これらの酸化金属添加剤は燃料ガスが供給されても還元が起こりにくく、導電性パスが形成されにくいためであると考えられる。
【0044】
次に、500時間後の導電率σ500hから導電率の低下率Δσを調べたところ、表1に示すように、Ni−ScSZサーメットの場合、500時間後の導電率σ500hは556S/cmであり、導電率低下率Δσは0.44であった。
これに対し、表1に示すように、どの酸化金属添加剤を添加したときでも低下率ΔσはNi−ScSZサーメットに比べると減少する傾向が見られた。特に、酸化アルミニウム(Al23)を添加した場合では、500時間後の導電率σ500hは逆にわずかに上昇する傾向が見られた。これは、これらの酸化金属添加剤が燃料極の焼結過程においてサーメット中の酸化ニッケル(NiO)と部分的に反応して複合酸化物を形成し、燃料極の還元後でも部分的なニッケルの固定化が起こり、ニッケル同士が凝集することを阻害する効果があるためであると考えられる。
【実施例4】
【0045】
次に、実施例4について説明する。
実施例3により、酸化金属添加剤の種類により初期の導電率σ0の向上に寄与するものと長期的な導電率σ500hの低下の抑制に寄与するものがあることがわかった。
そこで、実施例4では、これらの酸化金属添加剤を組み合わせ、これらの効果を複合化することを試みた。サーメットに用いるジルコニア(ZrO2)に長期安定化に効果のある酸化アルミニウム(Al23)と初期の導電率の向上に効果のある酸化コバルト(Co34),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2)のいずれかを組み合わせた酸化金属添加剤を1〜6mol%添加したScSZを用いてNiO−ZrO2燃料極を作製し、800℃での導電率の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、すべて燃料極において初期の導電率σ0はNiO−ScSZサーメットと同等かそれ以上の値を示し、500時間後の導電率σ500hを調べても低下は見られなかった。したがって、これらの酸化金属添加剤を組み合わせてジルコニア(ZrO2)に添加したNiO−ZrO2サーメットを作製することにより、導電率の向上と長期的な安定化とを両立できることが裏付けられた。
【0048】
なお、本実施例ではジルコニア(ZrO2)として、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を用いたが、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)や、カルシア安定化ジルコニア((ZrO21-X(CaO)X)、マグネシア安定化ジルコニア((ZrO21-X(MgO)X)といったジルコニア系電解質材料を用いたサーメットならば同様の効果が期待される。
また、本実施例では酸化金属添加剤を添加した安定化ジルコニアと酸化ニッケルを原料として燃料極を作成したが、酸化金属添加剤未添加の安定化ジルコニアと酸化金属添加剤と酸化ニッケルを混合して燃料極の原料としてもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…SOFCセル、12…燃料極、14…電解質層、16…空気極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つを含む酸化金属添加剤と、酸化ニッケル(NiO)と、ジルコニア系酸化物と
を含むことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料。
【請求項2】
前記酸化金属添加剤は、酸化アルミニウム(Al23)を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料。
【請求項3】
前記酸化金属添加剤は、酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つをさらに含む
ことを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料。
【請求項4】
前記酸化金属添加剤は、ジルコニア系酸化物に対して0.3〜6mol%の濃度である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料。
【請求項5】
前記ジルコニア系酸化物は、酸化ジルコニウム(ZrO2)に対し、スカンジウム酸化物(Sc23),カルシウム酸化物(CaO),セリウム酸化物(CeO2),イットリウム酸化物(Y23)のいずれか一つをドープしたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料極材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料極材料を焼成することにより得られる焼結体から成ることを特徴とする固体酸化物形燃料電池セルの燃料極。
【請求項7】
電解質層と、この電解質層の一方の面上に形成された燃料極と、前記電解質の他方の面上に形成された空気極とから成り、
前記燃料極は、請求項6に記載の燃料極である
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項8】
前記燃料極が、前記電解質層および前記空気極よりも厚く形成された燃料極支持型の構造をもつ
ことを特徴とする請求項7に記載の固体酸化物形燃料電池セル。
【請求項9】
酸化アルミニウム(Al23),酸化マグネシウム(MgO),酸化カルシウム(CaO),酸化鉄(Fe23),酸化銅(CuO),酸化チタン(TiO2),酸化コバルト(Co34)のうち少なくとも一つを含む酸化金属添加剤と、酸化ニッケル(NiO)と、ジルコニア系酸化物とを混合する工程を含む
ことを特徴とする固体酸化物形燃料電池セルの燃料極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−198758(P2011−198758A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35856(P2011−35856)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】