説明

固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】特定のシランカップリング剤を用いることにより、耐電圧を商業的に受け入れられるにまで高める。
【解決手段】酸化皮膜11aを有する陽極電極箔11と、陰極電極箔12とをセパレータ13を介して巻回もしくは積層してなるコンデンサ素子10に、導電性高分子からなる固体電解質16を形成してなる固体電解コンデンサにおいて、陽極電極箔11の酸化皮膜11a上にフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層15を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子からなる固体電解質を有する固体電解コンデンサおよびその製造方法に関し、さらに詳しく言えば、陽極酸化皮膜を保護することにより耐電圧の向上と低ESR(等価直列抵抗)化をはかる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解質として固体電解質を用いる固体電解コンデンサは、液状の電解質(電解液)を用いる例えばアルミニウム電解コンデンサでしばしば生ずる電解液の漏れや蒸散と言った問題がほとんどなく、しかも小型でありながら比較的大きな静電容量が得られ、また、低ESR化が容易であることなどからして、近年急速に普及されている。
【0003】
固体電解コンデンサには、タンタルやアルミニウムなどの弁作用金属の粉末を焼結してなる焼結ペレット型と、弁作用金属箔を用いる箔型とがあるが、箔型の固体電解コンデンサにおいては、その陽極電極箔に誘電体としての酸化皮膜が形成された例えばアルミニウム箔が用いられる。陽極電極箔がアルミニウム箔である場合、陰極電極箔には、陽極電極箔と同じくアルミニウム箔(酸化皮膜なし)が用いられる。
【0004】
その製造にあたっては、酸化皮膜が形成された陽極電極箔と、陰極電極箔の各々にタブ端子をかしめもしくは溶接などによって取り付け、陽極電極箔と陰極電極箔とをセパレータを介して渦巻き状に巻回してコンデンサ素子を作成する。積層型の場合には、陽極電極箔と陰極電極箔との間にセパレータを挟んで幾層にか積層する。
【0005】
次に、コンデンサ素子に所定のモノマー(例えば、チオフェンモノマー)と酸化剤とを含浸し重合して、導電性高分子よりなる固体電解質を形成する。その後、コンデンサ素子を有底筒状のアルミニウム製のケース内に収納し、そのケース開口部を封口ゴムなどの封口部材で封口する。
【0006】
固体電解コンデンサは、概略上記のようにして製造されるが、陽極電極箔の裁断面には酸化皮膜がなく、また、タブ端子の取り付け時に酸化皮膜の一部分が破壊するため、固体電解質を形成する前に、修復化成を行うようにしている。修復化成は、コンデンサ素子を例えばアジピン酸アンモニウム水溶液中に浸漬し、所定の電圧を印加することにより行われる。
【0007】
しかしながら、電解質に導電性高分子を用いた固体電解コンデンサにおいては、電解質内に酸化皮膜修復用の酸素供給源がなく、電解液を用いた一般のアルミニウム電解コンデンサのような自己修復能力が乏しいため、修復化成を行ったとしても、酸化皮膜が劣化しやすく、耐電圧が低い、という問題がある。
【0008】
特許文献1には、固体電解コンデンサのESRの低減と、静電容量の向上および耐電圧の向上を目的として、導電性高分子からなる固体電解質を形成する前に、コンデンサ素子に所定のカップリング剤を含有させることが提案されている。
【0009】
そのカップリング剤として、シランカップリング剤が例示されている。シランカップリング剤は下記の一般式(2)、
Y−Si(OR) …(2)
(式中、Yは有機官能基)で表される組成を持つ。
【0010】
このうち、Yが有機材料と結合する役割を担い、Si(OR)が無機材料と結合する役割を担うため、コンデンサ素子内にシランカップリング剤層を形成することにより、陽極電極箔と導電性高分子からなる固体電解質との結合が高められる。
【0011】
しかしながら、上記一般式(2)から分かるように、その組成中に、有機材料に対する結合基と無機材料に対する結合基がそれぞれひとつしか存在しないため、耐電圧が高められるにしても、商業的には未だ十分とは言えない。
【0012】
【特許文献1】国際特開WO2003/088287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の課題は、導電性高分子からなる固体電解質を有する固体電解コンデンサにおいて、特定のシランカップリング剤を用いることにより、耐電圧を商業的に受け入れられるにまで高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
特開平4−193887号公報には、特に撥水性、撥油性、耐薬品性に優れたフルオロ系シランカップリング剤が開示されている。本発明者らは、このフルオロ系シランカップリング剤に着目し、その特性を利用することにより、耐電圧を高めることに成功した。
【0015】
すなわち、本発明は、酸化皮膜を有する陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回もしくは積層してなるコンデンサ素子に、導電性高分子からなる固体電解質を形成してなる固体電解コンデンサにおいて、
上記陽極電極箔の酸化皮膜上に下記の一般式(1)、
【化3】


(式中、Rはフルオロアルキル基,Rはアルキル基,xは2または3)で表されるフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層が形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、上記酸化皮膜を有する陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回もしくは積層して上記コンデンサ素子を作成したのち、上記コンデンサ素子に上記導電性高分子からなる固体電解質を形成する前に、上記コンデンサ素子に上記したフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することを特徴としている。
【0017】
上記製造方法において、上記コンデンサ素子に上記フルオロ系シランカップリング剤を所定の溶媒に含ませたシランカップリング剤溶液を含浸させたのち、所定の温度で乾燥させて、上記陽極電極箔の酸化皮膜上に上記フルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することが好ましい。
【0018】
上記シランカップリング剤溶液中に含まれる上記フルオロ系シランカップリング剤の濃度は、好ましくは0.1wt%以上、5.0wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上、2.0wt%以下である。
【0019】
上記溶媒としては、アルコール類および/または水が好ましく用いられる。上記カップリング剤層を形成するにあたっては、上記コンデンサ素子に上記シランカップリング剤溶液を複数回にわたって含浸させることが好ましい。
【0020】
また、上記コンデンサ素子に含浸された上記シランカップリング剤溶液を50〜120℃で乾燥させることが好ましく、その際、より好ましくは減圧雰囲気下で乾燥を行うとよい。
【0021】
本発明によれば、上記コンデンサ素子に上記導電性高分子からなる固体電解質を形成する前に、上記カップリング剤層が形成されるが、この場合、上記コンデンサ素子を修復化成したのちに、上記陽極電極箔の酸化皮膜上に上記フルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電極箔上に撥水性、撥油性、耐薬品性に優れたフルオロ系シランカップリング剤層を形成することにより、陽極酸化皮膜が効果的に保護されるため、耐電圧の高い固体電解コンデンサが提供される。また、電極箔と導電性高分子層間の密着性も向上するため、低ESR化をはかることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、図1ないし図4により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサのコンデンサ素子を示す模式的な分解斜視図、図2はコンデンサ素子の要部拡大断面図、図3は組立工程を示す模式的な斜視図、図4は製造工程を示すフローチャート、図5はフルオロ系シランカップリング剤層の作用,効果を説明するための模式図である。
【0024】
まず、図1および図2に示すように、この実施形態に係るコンデンサ素子10は、箔巻回型で、陽極電極箔11と陰極電極箔12とを、それらの間にセパレータ13,13を挟んで渦巻き状に巻回することにより形成される。なお、セパレータ13,13は、炭化されることがあるため、図2の拡大断面図ではその図示が省略されている。
【0025】
陽極電極箔11と陰極電極箔12には、タンタルやアルミニウムなどの弁作用を有する金属箔が用いられるが、この例では、陽極電極箔11と陰極電極箔12には、ともにアルミニウム箔が用いられる。
【0026】
陽極電極箔11には、エッチング処理により表面が粗面化され、その後に例えば陽極酸化法にて誘電体としての酸化皮膜11aが形成されたアルミニウム箔が用いられる。これに対して、陰極電極箔12には、エッチング処理により表面が粗面化されただけのアルミニウム箔が用いられる。
【0027】
巻回するに先だって、陽極電極箔11と陰極電極箔12には、タブ端子14がそれぞれ取り付けられる。タブ端子14には、アルミニウムの丸棒線の一端側をプレスして羽子板状とした端子本体と、端子本体の他端側に残されている丸棒線の端部にCP線(ハンダメッキ銅被覆鋼線)を溶接したタブ端子が用いられてよい。
【0028】
また、陽極電極箔11と陰極電極箔12とに対するタブ端子14の取り付けは、かしめもしくは溶接、さらには冷間圧接などが採用されてよい。
【0029】
図2に示すように、陽極電極箔11の酸化皮膜11aと陰極電極箔12とに、それぞれカップリング剤層15,15が形成されている。本発明において、カップリング剤層15,15には、下記の一般式(1)、
【化4】


(式中、Rはフルオロアルキル基,Rはアルキル基,xは2または3)で表されるフルオロ系シランカップリング剤が用いられる。
【0030】
陽極電極箔11と陰極電極箔12と間、この実施形態ではカップリング剤層15,15の間に、導電性高分子からなる固体電解質16が形成される。
【0031】
導電性高分子には、3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましく採用されるが、ピロール,チオフェン,フラン,アニリンおよびそれらの誘導体等、酸化重合により導電性ポリマーとなる各種モノマーを用いてもよい。
【0032】
酸化剤としては、水溶液系の酸化剤と有機溶剤系の酸化剤が挙げられる。水溶液系の酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸およびそのNa塩,K塩,NH塩,硝酸セリウム(IV),硝酸セリウム(IV)アンモニウム,硫酸鉄(III),硝酸鉄(III),塩化鉄(III)等を使用することができる。
【0033】
また、有機溶剤系の酸化剤としては、有機スルホン酸の第二鉄塩、例えばパラトルエンスルホン酸第二鉄,ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III),p−トルエンスルホン酸鉄(III)等を使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
酸化剤溶液の溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン,ジエチルエーテル等のエーテル類;アセトン,メチルエチルケトン等のケトン類,ジメチルホルムアミド,アセトニトリル,ベンゾニトリル,N−メチルピロリドン(NMP),ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性溶媒、メタノール,ブタノール,プロパノール等のアルコール類、または水あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。好ましくは、水、アルコール類またはケトン類あるいはそれらの混合系である。
【0035】
この実施形態において、固体電解質16が形成されたコンデンサ素子10は、図3に示すように、タブ端子14,14側に封口ゴム17が装着された状態で、有底円筒状のアルミニウム製の外装ケース18内に収納され、外装ケース18の開口部側の周壁に横絞り溝を形成するとともに、開口部の端縁にカール加工を施すことにより組立られる。
【0036】
次に、図4のフローチャートに沿って上記コンデンサ素子10を有する固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
【0037】
まず、素子巻き取り工程では、エッチング処理により表面が粗面化され、例えば陽極酸化法にて酸化皮膜が形成されたマザーのアルミニウム箔から、陽極電極箔11を所定幅として切り出す。同様に、エッチング処理により表面が粗面化されたマザーのアルミニウム箔から、陰極電極箔12を所定幅として切り出す。そして、陽極電極箔11と陰極電極箔12とにタブ端子14,14をそれぞれ取り付けたのち、陽極電極箔11と陰極電極箔12との間にセパレータ13,13を挟み込みながら、各電極箔11,12を渦巻き状に巻回してコンデンサ素子10を得る。
【0038】
次に、複数個のコンデンサ素子10をバッチ処理するため、各コンデンサ素子10のタブ端子14,14のCP線を図示しないフープ材に溶接した状態で修復化成を行う。この修復化成で、マザーのアルミニウム箔から切り出された各電極箔11,12の切断面に化成皮膜を形成するとともに、タブ端子14の取り付け時に生じた酸化皮膜の欠損部を修復する。
【0039】
修復化成は、コンデンサ素子10をアジピン酸アンモンを主成分とする化成液に例えば20〜60分間浸漬し、所定の電圧を印加することにより行う。その後、好ましくは、コンデンサ素子10にセパレータが炭化する200℃以上の熱を加えてセパレータを炭化したのち、リン酸アンモンを主成分とする化成液に例えば5〜20分間浸漬して再化成を行う。
【0040】
修復化成後に、カップリング剤層15を形成する。カップリング剤には、上記一般式(1)で表されるフルオロ系シランカップリング剤を用いる。
【0041】
このカップリング剤層の形成工程では、コンデンサ素子10にフルオロ系シランカップリング剤を所定の溶媒に含ませたシランカップリング剤溶液を含浸させたのち、所定の温度で乾燥させて、陽極電極箔11の酸化皮膜11a上と陰極電極箔12上にフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層15を形成する。
【0042】
シランカップリング剤溶液中に含まれるフルオロ系シランカップリング剤の濃度(含有量)は、好ましくは0.1wt%以上、5.0wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上、2.0wt%以下である。
【0043】
好ましい溶媒は、アルコール類および/または水である。また、コンデンサ素子10にシランカップリング剤溶液を複数回にわたって含浸させ、その後、シランカップリング剤溶液を50〜120℃で乾燥させることが好ましい。より好ましくは、減圧雰囲気下で乾燥させる。
【0044】
カップリング剤層を形成したのち、コンデンサ素子10に所定のモノマー(例えば、チオフェンモノマー(3,4−エチレンジオキシチオフェン))と酸化剤を含浸し、化学重合させて導電性高分子からなる固体電解質16を形成する。
【0045】
そして、組立工程として、図3に示すように、タブ端子14,14側に封口ゴム17を装着したコンデンサ素子10を有底円筒状のアルミニウム製の外装ケース18内に収納し、外装ケース18の開口部側の周壁に横絞り溝を形成するとともに、開口部の端縁にカール加工を施す。組立後にエージングと、例えばタブ端子等の加工を行う。
【0046】
本発明によれば、陽極電極箔11の酸化皮膜11aと固体電解質16との間に、フルオロ系シランカップリング剤よりなるカップリング剤層15が介在しているため、陽極電極箔11の酸化皮膜11aが効果的に保護される。
【0047】
その理由は、フルオロ系シランカップリング剤はオリゴマーで、その組成中に、酸化皮膜11aと結合する結合基(Si(OR))が複数存在するため、酸化皮膜11aに対してより強い結合力が得られる。さらに、図5に模式的に示すように、分子同士の架橋により幾層もの層構造をとるため、酸化皮膜11aの膜強度も高められる。
【0048】
また、フルオロアルキル基(R−(CH−CH)−R)が固体電解質16の導電性高分子と結合するため、固体電解質16側に撥水性,撥油性,耐薬品性に優れた膜が形成される。これにより、耐電圧の高い固体電解コンデンサが得られ、また、各電極箔11,12と固体電解質16間の密着性も向上するため、低ESR化をはかることができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明の具体的な実施例1〜4と、その比較例1〜11について説明する。
【0050】
《実施例1》
エッチング処理により表面を粗面化したのち、陽極酸化法にて誘電体酸化皮膜を形成したマザーのアルミニウム箔(化成電圧30V)から、厚み100μm,幅4mmの陽極電極箔を裁断し、また、エッチング処理により表面を粗面化したマザーのアルミニウム箔から、厚み50μm,幅4mmの陰極電極箔を裁断した。各電極箔にタブ端子をかしめ法にて接続し、セパレータとともに巻き取りコンデンサ素子を作成した。その後、コンデンサ素子を60℃のアジピン酸アンモニウム水溶液に浸漬し、陽極電極箔化成電圧(30V)の90%の電圧を30分間印加し、修復化成を行った。次に、コンデンサ素子に上記一般式(1)の組成を有するフルオロ系シランカップリング剤を0.5wt%含むシランカップリング溶液(溶媒:メタノール)を含浸し、105℃にて乾燥を行い、各電極箔上にシランカップリング剤層を形成した。次に、コンデンサ素子に、エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸第二鉄ブタノール溶液との混合液を含浸し、100℃の雰囲気内に60分間放置し、導電性高分子であるポリエチレンジオキシチオフェンを陽極電極箔と陰極電極箔との間に形成した。その後、コンデンサ素子を封口ゴムとともに、有底円筒状のアルミニウム材からなる外装ケースに収納し、外装ケースの開口部周壁に横絞り溝を形成し、また、開口部端縁をカール加工して封口した。最後に、各タブ端子のCP線を面実装用の座板に挿通し、CP線を座板面に沿って折り曲げて面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量(μF),ESR(mΩ),漏れ電流(μA),耐電圧(V)を測定したところ、静電容量101.2μF,ESR14.3mΩ,漏れ電流32.2μA,耐電圧20Vであった。
【0051】
《実施例2》
シランカップリング剤層を形成するためのシランカップリング溶液に、フルオロ系シランカップリング剤を1.0wt%含むシランカップリング溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量100.6μF,ESR14.7mΩ,漏れ電流21.3μA,耐電圧23Vであった。
【0052】
《実施例3》
シランカップリング剤層を形成するためのシランカップリング溶液に、フルオロ系シランカップリング剤を2.0wt%含むシランカップリング溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量99.6μF,ESR14.8mΩ,漏れ電流12.1μA,耐電圧25Vであった。
【0053】
《実施例4》
シランカップリング剤層を形成するためのシランカップリング溶液に、フルオロ系シランカップリング剤を5.0wt%含むシランカップリング溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量82.1μF,ESR28.2mΩ,漏れ電流11.9μA,耐電圧26Vであった。
【0054】
〈比較例1〉
上記実施例1におけるフルオロ系シランカップリング剤によるシランカップリング剤層の形成工程を省略したほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.3μF,ESR15.2mΩ,漏れ電流49.6μA,耐電圧19Vであった。
【0055】
〈比較例2〉
シランカップリング剤層を形成するためのシランカップリング溶液に、フルオロ系シランカップリング剤を0.1wt%含むシランカップリング溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.1μF,ESR14.9mΩ,漏れ電流50.3μA,耐電圧19Vであった。
【0056】
〈比較例3〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン0.5wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.1μF,ESR15.3mΩ,漏れ電流48.2μA,耐電圧19Vであった。
【0057】
〈比較例4〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン1.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量92.2μF,ESR17.2mΩ,漏れ電流30.2μA,耐電圧21Vであった。
【0058】
〈比較例5〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン2.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量88.5μF,ESR23.2mΩ,漏れ電流15.2μA,耐電圧22Vであった。
【0059】
〈比較例6〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.5wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.3μF,ESR14.6mΩ,漏れ電流46.3μA,耐電圧19Vであった。
【0060】
〈比較例7〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−アミノプロピルトリメトキシシラン1.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量100.2μF,ESR15.2mΩ,漏れ電流40.2μA,耐電圧20Vであった。
【0061】
〈比較例8〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−アミノプロピルトリメトキシシラン2.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量98.2μF,ESR16.3mΩ,漏れ電流32.1μA,耐電圧21Vであった。
【0062】
〈比較例9〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン0.5wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.6μF,ESR15.2mΩ,漏れ電流50.1μA,耐電圧19Vであった。
【0063】
〈比較例10〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン1.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.5μF,ESR15.1mΩ,漏れ電流48.2μA,耐電圧19Vであった。
【0064】
〈比較例11〉
シランカップリング剤層を形成するために、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン2.0wt%含有メタノール溶液を用いたほかは、上記実施例1と同じとして、面実装型の固体電解コンデンサを作製した。静電容量102.3μF,ESR15.3mΩ,漏れ電流51.2μA,耐電圧19Vであった。
【0065】
上記実施例1〜4および上記比較例1〜11の各測定値を次表に示す。
【表1】

【0066】
これから分かるように、電極箔上にフルオロ系シランカップリング剤よりなるカップリング剤層を形成することにより、耐電圧の向上が見られる。比較例2でもフルオロ系シランカップリング剤によるカップリング剤層を形成しているが、その含有量が0.1wt%と少ないため、耐電圧の向上は見られなかった。したがって、本発明で好ましいフルオロ系シランカップリング剤の好ましい含有量は0.5〜5wt%である。
【0067】
また、フルオロ系シランカップリング剤によるカップリング剤層があることにより、ESRの値も改善されている。これは、電極箔と導電性高分子層との密着性が高まったことによるものと考えられる。
【0068】
比較例3〜5のように、メルカプト系カップリング剤を用いた場合、耐電圧の向上が見られるが、本発明の実施例に比べると耐電圧向上の効果が小さく、静電容量が大きく減少し、ESRも上昇する。
【0069】
比較例6〜8のように、アミノ系カップリング剤を用いた場合にも、耐電圧の向上が見られるが、本発明の実施例に比べると耐電圧向上の効果が小さい。また、比較例9〜11のように、イソシアネート系カップリング剤を用いた場合には、耐電圧向上の効果は見られない。
【0070】
以上説明したように、フルオロ系シランカップリング剤を用いることにより、特に陽極電極箔の酸化皮膜との密着性が高まり、耐電圧の向上に大きく寄与する。また、低ESR化をはかることもできる。なお、本発明は、箔積層型の固体電解コンデンサにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る固体電解コンデンサのコンデンサ素子を示す模式的な分解斜視図。
【図2】コンデンサ素子の要部拡大断面図。
【図3】組立工程を示す模式的な斜視図。
【図4】製造工程を示すフローチャート。
【図5】フルオロ系シランカップリング剤層の作用,効果を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0072】
10 コンデンサ素子
11 陽極電極箔
11a 酸化皮膜
12 陰極電極箔
13 セパレータ
14 タブ端子
15 カップリング剤層
16 固体電解質(導電性高分子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化皮膜を有する陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回もしくは積層してなるコンデンサ素子に、導電性高分子からなる固体電解質を形成してなる固体電解コンデンサにおいて、
上記陽極電極箔の酸化皮膜上に下記の一般式(1)、
【化1】


(式中、Rはフルオロアルキル基,Rはアルキル基,xは2または3)で表されるフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層が形成されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
酸化皮膜を有する陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回もしくは積層してなるコンデンサ素子に、導電性高分子からなる固体電解質が形成される固体電解コンデンサの製造方法において、
上記酸化皮膜を有する陽極電極箔と、陰極電極箔とをセパレータを介して巻回もしくは積層して上記コンデンサ素子を作成したのち、上記コンデンサ素子に上記導電性高分子からなる固体電解質を形成する前に、上記陽極電極箔の酸化皮膜上に下記の一般式(1)、
【化2】


(式中、Rはフルオロアルキル基,Rはアルキル基,xは2または3)で表されるフルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
上記コンデンサ素子に上記フルオロ系シランカップリング剤を所定の溶媒に含ませたシランカップリング剤溶液を含浸させたのち、所定の温度で乾燥させて、上記陽極電極箔の酸化皮膜上に上記フルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することを特徴とする請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
上記シランカップリング剤溶液中に含まれる上記フルオロ系シランカップリング剤の濃度が0.1wt%以上、5.0wt%以下であることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
上記シランカップリング剤溶液中に含まれる上記フルオロ系シランカップリング剤の濃度が0.5wt%以上、2.0wt%以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
上記溶媒として、アルコール類および/または水が用いられることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
上記コンデンサ素子に上記シランカップリング剤溶液を複数回にわたって含浸させることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
上記コンデンサ素子に含浸された上記シランカップリング剤溶液を50〜120℃で乾燥させることを特徴とする請求項3ないし7のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
上記コンデンサ素子に含浸された上記シランカップリング剤溶液の乾燥を減圧雰囲気下で行うことを特徴とする請求項3ないし8のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
上記コンデンサ素子を修復化成したのちに、上記陽極電極箔の酸化皮膜上に上記フルオロ系シランカップリング剤からなるカップリング剤層を形成することを特徴とする請求項2ないし9のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−246138(P2009−246138A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90859(P2008−90859)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【出願人】(000103220)エルナー株式会社 (48)