説明

固体電解コンデンサおよびその製造方法

【課題】電気特性の経時劣化の少ない固体電解コンデンサとその製造方法を提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサ1は、表面に陽極酸化皮膜21aが形成された陽極箔21と、陰極箔22とがセパレータ23を介して巻回され、セパレータ23に、導電性高分子からなる固体電解質層24が保持されたコンデンサ素子2を備え、陽極酸化皮膜21aと固体電解質層24との間に炭酸水素ナトリウム21bが分散される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を電解質に用いた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、アルミニウムやタンタルやニオブ等の弁作用金属からなる陽極箔や陽極体を備えており、陽極箔や陽極体の表面には、誘電体となる酸化皮膜が形成されている。この酸化皮膜からの電気的な引き出しは、酸化皮膜に接触している導電性を有する電解質によって行われ、電解コンデンサにおける真の陰極は、この電解質が担っている。この真の陰極として機能する電解質は、電解コンデンサの電気特性に大きな影響を及ぼすため、様々な種類の電解質が採用された電解コンデンサが提案されている。
【0003】
このような電解コンデンサのうち、固体電解コンデンサは、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などの導電性高分子を電解質として用いるものであり、液状の電解質を用いた電解コンデンサと比較して高周波領域におけるインピーダンス特性に優れている(たとえば、特許文献1参照)。
このような導電性高分子からなる固体電解質層には、電子受容性の物質(ドーパント、例えば、p−トルエンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸)が添加されており、このドーパントが高分子鎖から電子を引き抜いて、高分子内に正孔(キャリア)を発生させることにより、高分子は導電性を有する。
【0004】
近年、各種電子機器のデジタル化が進み、固体電解コンデンサには、大容量化と小形化が求められている。そして、このような要求を満たす固体電解コンデンサとして、巻回型の固体電解コンデンサがある。
巻回型の固体電解コンデンサは、酸化皮膜が形成された陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回され、このセパレータに導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子を備え、このコンデンサ素子が有底筒状のケースに収納されて、さらに、その開口部が電極箔に接続されたリード線が貫通されたゴム製の封口材により密封された構造を有する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2001−102254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、近年、固体電解コンデンサが高周波領域で使用されることが多いため、電気特性の向上といった要求が固体電解コンデンサに求められている。しかしながら、固体電解コンデンサにおいては、固体電解質に含まれた強酸性のドーパント(例えば、p−トルエンスルホン酸)が陽極箔の酸化皮膜を劣化させるため、電気特性の経時劣化が生じる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気特性の経時劣化が小さい固体電解コンデンサおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の固体電解コンデンサは、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに、導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサであって、前記陽極箔と前記固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに、導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサの製造方法であって、前記コンデンサ素子を形成するコンデンサ素子形成工程と、前記コンデンサ素子を炭酸水素ナトリウム溶液に浸漬することによって、前記陽極箔と前記固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させる炭酸水素ナトリウム分散工程とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明によると、陽極箔と固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムが分散されているため、コンデンサ素子内の固体電解質に含まれたドーパント(例えば、p−トルエンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸)が中和される。これにより、陽極酸化皮膜の劣化を抑制し、電気特性の経時劣化の小さい固体電解コンデンサを提供することが可能になる。
【0011】
本発明においては、前記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、ポリエチレンジオキシチオフェンの何れかであることが好ましい。これにより、固体電解質層の導電性および耐熱性が向上する。
【0012】
また、本発明においては、前記炭酸水素ナトリウム溶液の濃度が、5%から飽和状態の範囲にあることが好ましい。かかる範囲をとることで、コンデンサ素子内の固体電解質に含まれたドーパントとの中和反応が好適に進み、陽極酸化皮膜の劣化を抑制し、電気特性の経時劣化を抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、陽極箔と固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムが分散されているため、コンデンサ素子内の固体電解質に含まれたドーパントが中和される。これにより、陽極酸化皮膜の劣化を抑制し、電気特性の経時劣化の小さい固体電解コンデンサを提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の固体電解コンデンサ1の外観および内部構造を示す概略図である。図2は、コンデンサ素子2の分解斜視図である。図3は、固体電解コンデンサ1の構成を示す概念図である。
図1に示すように、本実施形態の固体電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、外装ケース4と、封口材5とを備える。
【0015】
図2に示すように、コンデンサ素子2は、陽極箔21と、陰極箔22とがセパレータ23を介して巻回された構造を有する。
また、陽極箔21および陰極箔22にはリードタブ(図示省略)がそれぞれ接続されており、このリードタブを介して陽極箔21および陰極箔22からそれぞれリード線25a、25bが引き出されている。
【0016】
陽極箔21は、アルミニウム、タンタル、ニオブ等の弁作用金属で形成されている。図3に示すように、陽極箔21の表面は、エッチング処理により粗面化されるとともに、陽極酸化(化成)による陽極酸化皮膜21aが形成されている。さらに、陽極酸化皮膜21aの表面には、炭酸水素ナトリウム21bが分散されている。
また、陰極箔22も、陽極箔21と同様にアルミニウム等で形成され、その表面は粗面化されているとともに、自然酸化皮膜22aが形成されている。
【0017】
また、セパレータ23は、導電性高分子からなる固体電解質層24を保持している。つまり、陽極箔21とセパレータ23との間、および、陰極箔22とセパレータ23の間には、固体電解質層24が形成されている。また、陽極酸化皮膜21aと固体電解質層24とに炭酸水素ナトリウム21bが分散されている。
固体電解質層24の導電性高分子としては、導電性および耐熱性に優れた、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等を用いることができる。このような導電性高分子は、モノマーの化学重合により生成される。また、固体電解質層24には、ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸が含有されている。なお、ドーパントとしてp−スチレンスルホン酸が含有されていてもよい。
【0018】
外装ケース4は、アルミニウム等からなり、有底筒形状に形成されている。そして、外装ケース4は、コンデンサ素子2を収納している。
【0019】
封口材5は、外装ケース4の開口部を封止するものであり、樹脂やゴム等で形成されている。コンデンサ素子2のリード線25a、25bは、封口材5に形成された貫通孔を介して、外装ケース4から引き出されている。
【0020】
次に、固体電解コンデンサ1の製造方法について、図4を参照しつつ説明する。図4は、固体電解コンデンサ1の製造方法を示す工程フロー図である。先ず、電極の実効表面積を大きくするために、陽極箔21および陰極箔22にエッチング処理を施して表面を粗面化する(エッチング)。さらに、粗面化された陽極箔21の表面に化成処理を施して陽極酸化皮膜21aを形成する。そして、粗面化された陰極箔22の表面には、自然酸化皮膜22aが形成される(酸化皮膜形成)。
次に、陽極酸化皮膜21aが形成された陽極箔21および自然酸化皮膜22aが形成された陰極箔22を所定の寸法に裁断し、それぞれにリードタブを介してリード線25a、25bを接続するとともに、これら陽極箔21と陰極箔22とをセパレータ23を介して巻回する(電極箔巻回)。その後、アジピン酸アンモニウム水溶液中で、電圧を印加して素子化成を行い、さらに、セパレータ23の炭化処理を施して、円筒形のコンデンサ素子2を作製する(切り口化成)。
【0021】
作製したコンデンサ素子2を、ドーパントを含む酸化剤に浸漬することにより、コンデンサ素子2に酸化剤を含浸させる(酸化剤含浸)。次に、酸化剤を含浸させたコンデンサ素子2に、−80〜0℃の冷却雰囲気中において、モノマー溶液を滴下して含浸させる(モノマー含浸)。
【0022】
その後、コンデンサ素子2を加熱することにより、酸化剤およびモノマーがさらに化学重合し、陽極箔21の陽極酸化皮膜21aおよび陰極箔22の自然酸化皮膜22aとセパレータ23との間に導電性高分子からなる固体電解質層24を形成する(固体電解質形成)。
【0023】
次に、室温にて、コンデンサ素子2を、表1に示す濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液に3分間浸漬することにより、陽極箔21の陽極酸化皮膜21aと固体電解質層24との間に炭酸水素ナトリウム21bを分散させた。その後、100℃にて10分間乾燥を行った。
【0024】
そして、円筒形のコンデンサ素子2を有底筒状の外装ケース4に収納し、封ロ材5により開口部を封止して固体電解コンデンサ1を組み立てる(組み立て)。最後に、エージング処理を行い(エージング)、固体電解コンデンサ1を完成させた。
【0025】
以上のような固体電解コンデンサ1によると、陽極酸化皮膜21aと固体電解質層24との間に炭酸水素ナトリウム21bが分散されているため、固体電解質層24に含まれたドーパント(p−トルエンスルホン酸)が中和される。
これにより、陽極酸化皮膜21aの劣化が抑制されるので、固体電解コンデンサの静電容量の低下や、等価直列抵抗(ESR)の増加という固体電解コンデンサ1の経時劣化を抑制することができる。
【0026】
次に、本発明の具体的な実施例を従来例と合わせて説明する。
【0027】
[実施例1〜3]炭酸水素ナトリウム水溶液中浸漬、濃度比較
実施例1〜3では、炭酸水素ナトリウムの濃度を各々、3、5、10wt%とした炭酸水素ナトリウム水溶液中にコンデンサ素子を浸漬させて、陽極箔の酸化皮膜と固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させ、コンデンサ試料を作製した。なお、実施例3の炭酸水素ナトリウム濃度を10wt%としたものは30℃で飽和状態にある。
【0028】
(従来例)
従来例では、陽極箔の酸化皮膜と固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させなかった以外は、実施例1〜3と同様にして、コンデンサ試料を作製した。
【0029】
上記の実施例1〜3、および従来例の固体電解コンデンサの定格は、電圧2.5V、静電容量1200μFとした。
【0030】
上記の実施例1〜3、および従来例の固体電解コンデンサについて、初期の電気特性(静電容量、tanδ、等価直列抵抗(ESR)、および漏れ電流)を測定し、125℃の恒温槽中にて定格電圧を2000時間印加した後、再度電気特性を測定した。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より明らかなように、実施例1〜3の固体電解コンデンサは、従来例と比較して、電圧印加後の静電容量の低下率、tanδ、ESRの増加率が小さく、特に漏れ電流の増加を抑制しており、電気特性が安定していることが分かる。また、炭酸水素ナトリウム濃度を、5wt%以上、10wt%(30℃飽和状態)以下とした水溶液を用いた場合が特に良好である。
このように陽極箔の酸化皮膜と固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させることにより、コンデンサ素子内の固体電解質に含まれたp−トルエンスルホン酸による陽極酸化皮膜の劣化が抑制され、固体電解コンデンサの電気特性の経時劣化が小さくなることが確認された。
【0033】
なお、上記実施例においては、固体電解質層の導電性高分子としてPEDOTを用いたが、ポリアニリン、ポリピロールまたはポリチオフェンを用いた場合にも同様の効果が得られることが確認されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の固体電解コンデンサの外観および内部構造を示す概略図である。
【図2】本発明の固体電解コンデンサにおけるコンデンサ素子の分解斜視図である。
【図3】本発明の固体電解コンデンサの構成を示す概念図である。
【図4】本発明の固体電解コンデンサの製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0035】
1 固体電解コンデンサ
2 コンデンサ素子
4 外装ケース
5 封口材
21 陽極箔
21a 酸化皮膜
21b 炭酸水素ナトリウム
22 陰極箔
23 セパレータ
24 固体電解質層
25a、25b リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに、導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサであって、
前記陽極箔と前記固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記導電性高分子が、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、および、ポリエチレンジオキシチオフェンの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔とがセパレータを介して巻回され、前記セパレータに、導電性高分子からなる固体電解質層が保持されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子が収納されるケースとを備えた固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記コンデンサ素子を形成するコンデンサ素子形成工程と、
前記コンデンサ素子を炭酸水素ナトリウム溶液に浸漬することによって、前記陽極箔と前記固体電解質層との間に炭酸水素ナトリウムを分散させる炭酸水素ナトリウム分散工程とを備えていることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記炭酸水素ナトリウム溶液の濃度が、5%から飽和状態の範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−21419(P2010−21419A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181475(P2008−181475)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)