説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】
固体電解コンデンサの陰極層を形成する工程において、重合時に使用する電解重合液は電気特性の問題から処理電気量があるレベルに達すると全液廃棄交換しており、材料コスト、工数、環境負荷、品質で重要な課題となっている。
【解決手段】
固体電解コンデンサの陰極層を形成する工程において、使用する電解重合液の使い込みにより変動したpH値を、重合液を通す物質で包んだイオン捕捉性物質またはイオン交換性物質を投入することで、略通電前の値に戻し、重合液の老化を防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体皮膜層を形成し、該誘電体皮膜層上に導電性高分子層を含む陰極層を形成した固体電解コンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体皮膜層を形成し、該誘電体皮膜層上に導電性高分子層を含む陰極層を形成した固体電解コンデンサにおいて、導電性高分子層の形成方法としては、従来、化学的酸化重合法や電解酸化重合法が知られている。ここで化学的酸化重合法とは、モノマーに酸化剤を作用させてモノマーを化学的に酸化重合することにより高分子を生成する方法であり、電解酸化重合法とは、モノマーを含む溶液に通電してモノマーを電解酸化重合することにより高分子を生成する方法である。一般に、電解酸化重合法の方が製造装置は複雑となるが、化学的酸化重合法に比べて重合条件のコントロールが容易であり、導電率、機械的強度、均質性に優れた導電性高分子を生成しやすい。
【0003】
陰極層の主要部を構成する導電性高分子層を電解酸化重合法により形成するには、誘電体皮膜上に第一陰極層を形成し、その上に第二陰極層としての導電性高分子層を電解酸化重合法により形成する。第一陰極層は、硝酸マンガンの熱分解による二酸化マンガン層や、化学的酸化重合法による導電性高分子層からなる。第二陰極層は、第一陰極層をアノード、金属板をカソードとして、モノマーと支持電解質兼ドーパント剤とを含む溶液(電解重合液)に通電することにより形成される。
【0004】
導電性高分子層を電解酸化重合法により形成する工程において、電解重合液中では、重合処理の継続または繰り返しに伴い、モノマーが消費されるとともに支持電解質もドーパントとして高分子中に取り込まれて消費される。支持電解質としては芳香族スルホン酸の金属塩等が用いられ、ドーパントとして高分子中に取り込まれるのは塩のアニオンの場合とカチオンの場合があり、前者をp型ドーピング、後者をn型ドーピングという。
【0005】
p型ドーピングではアニオンがドーパントとして高分子中に取り込まれるので、カチオンが電解重合液中に残って該溶液のpHは次第に塩基性の方向へ変化し、生成される導電性高分子の導電率が低下し、電解コンデンサとしてのESR(等価直列抵抗)が増大するという弊害をもたらす。n型ドーピングでは逆にカチオンがドーパントとして高分子中に取り込まれるので、アニオンが電解重合液液中に残って該溶液のpHは次第に酸性の方向へ変化し、この場合も何らかの弊害がもたらされる可能性がある。
【0006】
このような問題の解決策として、特許文献1には、電解重合液中に硫酸等のpH調整剤を添加する技術が記載されている。
【特許文献1】特許第3505370号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような硫酸を添加するpH調整法においても、電解重合液の使用継続に伴って電解重合液中の硫酸根濃度が累積的に増大し、ドーパントとして高分子中に取り込まれる芳香族スルホン酸イオンと硫酸イオンとの割合をコントロールするのが難しくなるとともに、電解重合液の老化が進み電解コンデンサのESRが上昇するため、定期的に全液を交換しなければならない。
【0008】
本発明は上述のような問題点に鑑み、電解重合液の老化による導電性高分子層の導電率の低下や、電解コンデンサとしてのESRの上昇を防ぎながら、電解重合液を半永久的に使用することができるような固体電解コンデンサの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体皮膜層を形成する工程と、該誘電体皮膜層上に導電性高分子層を含む陰極層を形成する工程とを備える固体電解コンデンサの製造方法において、
前記導電性高分子層を形成する際に使用するモノマーとドーパント剤とを含む溶液を、イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHを調整することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の固体電解コンデンサの製造方法において、前記ドーパント剤は、ドーパントとして前記導電性高分子層に取り込まれるカチオンまたはアニオンと、その対イオンとを含む塩からなり、
前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させて前記対イオンを交換または捕捉することにより、該溶液のpHを調整することを特徴とする。
【0011】
さらに、前記導電性高分子層は、前記溶液に通電して前記モノマーを電解酸化重合するとともに前記ドーパント剤からドーパントを取り込むことにより形成され、
前記通電を継続または繰り返した後に該通電を止めて、前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHを前記通電前の値に近づけることを特徴とする。
【0012】
または、前記通電中に前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHの変化を継続的に抑制することを特徴とする。
【0013】
または、前記溶液を通す物質で包んだ前記イオン交換性または捕捉性物質を前記溶液中に投入することにより、前記pHの調整を行っても良い。
【0014】
あるいは、前記イオン交換性または捕捉性物質が装填された装置に前記溶液を導入して回収することにより、前記pHの調整をおこなってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解重合液は無限に回収再利用ができるので、廃棄液に含まれるモノマーや支持電解質のロスが無くなり、薬品代の低減、廃液処理費用節減、環境負荷低減、重合液調合工程数低減などの効果がある。
【0016】
また、従来法では液の老化でESRが徐々に上昇するので全液交換の前後でコンデンサのESRにばらつきが生じるが、本発明では全液交換の必要性がなく、ESR上昇はないのでESRのばらつきが改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。固体電解コンデンサは、陽極リードを具えた弁金属からなる陽極体の周面に、誘電体酸化皮膜、固体電解質からなる陰極層、陰極引出層を順次形成してコンデンサ素子を形成する。ここで、弁作用金属とは、緻密で耐久性を有する誘電体酸化皮膜が形成される金属を指し、具体的にはタンタル、ニオブ、アルミニウム、チタン等のことをいう。
誘電体酸化皮膜上に導電性高分子からなる陰極層を形成する方法としては、化学的酸化重合や電解酸化重合を利用する方法があるが、電解酸化重合で形成された層の方が、化学酸化重合のみで形成された層に比べて強度が強く、導電率が高く、且つ均一で良質な層となるので、電解酸化重合を用いる方がより好ましい。電解重合液には、導電性高分子となり得るモノマー、適当な支持電解質、界面活性剤等の添加剤などが含まれる。電解重合液は、通電量の増加にともない、pH値が変動する。これを、イオン捕捉性物質またはイオン交換性物質を用いて、pH値を略通電前の値になるよう調整する。ここで、イオン捕捉性または交換性物質とは、電解重合液中のイオンを捕捉したり、同符号のイオンと交換したりする物質のことをいい、具体的には、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、キレート樹脂等が挙げられる。また、pH値を調整する方法としては、通電を停止してイオン捕捉性または交換性物質を用いる方法と、通電中にイオン捕捉性または交換性物質を用いる方法等がある。また、イオン捕捉性または交換性物質を用いる方法としては、イオン捕捉性または交換性物質を、重合液を通す物質で包含し、前記物質を重合液中に入れる方法や、イオン捕捉性または交換性物質を充填した装置に、重合液を通す方法等がある。ここで、重合液を通す物質とは、例えばガーゼ等のことをいう。前記のような方法で電解重合を行い、導電性高分子層を含む陰極層を形成する。その後、陰極層の周面にカーボン層、銀ペースト層からなる陰極引出層を形成してコンデンサ素子を作製する。
【0018】
以上の工程を経て形成された固体電解コンデンサ素子に、陽極体と陰極引出層からそれぞれ陽極リードと陰極リードを取り出し、エポキシ樹脂等で被覆しエージング処理を行って本実施形態の固体電解コンデンサが完成する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の実施例と比較例を説明する。
(実施例)まず、Nbの焼結体を燐酸水溶液に浸漬し、直流電圧を印加して陽極酸化を行い、Nb焼結体の表面に誘電体酸化皮膜を形成した。次に、誘電体酸化皮膜の表面に、化学的酸化重合法によりポリピロールからなる第一陰極層を形成した。次に、電解酸化重合を行うため、ピロールモノマーと、支持電解質として芳香族スルホン酸のナトリウム塩と、硫酸を微量含み、pHを5.0に調整した電解重合液を準備し、電解酸化重合を行い、第一陰極層の表面に、ポリピロールからなる電解酸化重合層を形成して初回処理のコンデンサを完成させた。さらに同じ電解重合液を用いて次々とコンデンサ素子を取替えて処理を続け、同電解重合液での通電電気量を増やした。この間、pHが8.0に達したら通電を停止し、ピロール濃度、支持電解質濃度が規定濃度になるようピロールモノマーや支持電解質を補充すると共に、重合液を通す物質で包まれたカチオン交換樹脂を挿入してpHを5.0に下げ、再び電解酸化重合処理を続けることを繰り返した。この間処理電気量が500クーロン、1000クーロン、1500クーロン、2500クーロンの各時点で電解重合液中の硫酸根の濃度を測定するとともに、各時点で処理した素子をコンデンサとして完成させESR特性を測定した。
(比較例)実施例と同様のコンデンサ素子を作製し、カチオン交換樹脂で処理せず硫酸を添加してpH調整したこと以外は実施例と同様にして電解酸化重合処理を行った。この間、処理電気量が500クーロン、1000クーロン、1500クーロンの各時点での電解重合液の硫酸根濃度と、コンデンサ素子のESR特性を測定した。
【0020】
実施例と比較例のESR比較、硫酸根濃度比較を表1、2に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
実施例及び比較例の通電電気量によるESR変化のグラフを図1に示す。


【0024】
表1、図1から、pH調整をカチオン交換樹脂で行った本実施例では、新調合液で電解酸化重合したコンデンサも、通電後の液で電解酸化重合したコンデンサも、通電量の増加に関わらずESRはほぼ同じ値を示した。これに対しpH調整を硫酸で行った比較例では、通電電気量の増加に従い、次第にESRが増大している。このことより、カチオン交換樹脂による処理のほうが良好で安定していることがわかる。
【0025】
その理由は明確ではないが、350mlの液で1500クーロンまで処理した実施例と比較例について、波長600nmでの両電解重合液の光吸収率を比較すると、実施例では62%に対し比較例では78%であり、実施例/比較例の比は79%であった。また、波長400nmから観測上限の900nmまでの前記光吸収の比は、同程度で特定波長での特異点はなかった。このことから、光吸収の差の主原因は重合で生じるオリゴマー濃度であり、本発明がオリゴマーの発生が少ないと考えられる。オリゴマーの生成は、電気伝導度の低い「枝分かれ高分子」の生成と密接な関係があると考えられ、従ってESRの大小とも因果関係があると推定される。表2に示すように、実施例では硫酸根濃度は終始変化しないのに対し、比較例では硫酸根が蓄積され濃度が高くなっており、このことが枝分かれ高分子の生成と何らかの関係があり、ESR増大につながっていくものと推定される。
【0026】
従来法では、一定電気量を処理すると全液廃棄交換が必要で、その前後で製品の特性にばらつきを生じる。例えば500クーロン/350mlで全液交換すると前後で約4mΩのESR差を生む、本発明では、液の交換の必要がないのでESR差は起こらず、常に低く安定した特性を得ることができる。
【0027】
pH処理したカチオン交換樹脂はナトリウムイオンを吸着しているが、硫酸で処理すると復元し、何度でも繰り返して使用することができるので、イオン交換樹脂の消費もなく、理想のリサイクルシステムを構築できる。
【0028】
上記実施形態の説明は、本発明を説明するものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を減縮する様に解すべきではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。たとえば、陰極層として形成する導電性高分子がポリアニリンであるならば、ポリアニリンは酸性溶液中で重合した場合のみ導電性を示すから、電解酸化重合工程において、電解重合液のpHは6以下に維持する必要がある。このように、電解重合液において維持すべきpHの範囲は、形成される導電性高分子によって変更する必要がある。また本発明は陰極形成方法に関するものであるから、陽極の種類がニオブでなくタンタル焼結体であっても、あるいはアルミニウム箔積層体であっても、同様の手法が適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例と比較例のESR変化図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属からなる陽極体の表面に誘電体皮膜層を形成する工程と、該誘電体皮膜層上に導電性高分子層を含む陰極層を形成する工程とを備える固体電解コンデンサの製造方法において、
前記導電性高分子層を形成する際に使用するモノマーとドーパント剤とを含む溶液を、イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHを調整することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記ドーパント剤は、ドーパントとして前記導電性高分子層に取り込まれるカチオンまたはアニオンと、その対イオンとを含む塩からなり、
前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させて前記対イオンを交換または捕捉することにより、該溶液のpHを調整することを特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記導電性高分子層は、前記溶液に通電して前記モノマーを電解酸化重合するとともに前記ドーパント剤からドーパントを取り込むことにより形成され、
前記通電を継続または繰り返した後に該通電を止めて、前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHを前記通電前の値に近づけることを特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記導電性高分子層は、前記溶液に通電して前記モノマーを電解酸化重合するとともに前記ドーパント剤からドーパントを取り込むことにより形成され、
前記通電中に前記溶液を前記イオン交換性または捕捉性物質に接触させることにより、該溶液のpHの変化を継続的に抑制することを特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記溶液を通す物質で包んだ前記イオン交換性または捕捉性物質を前記溶液中に投入することにより、前記pHの調整を行うことを特徴とする請求項3または4記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記イオン交換性または捕捉性物質が装填された装置に前記溶液を導入して回収することにより、前記pHの調整を行うことを特徴とする請求項3または4記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−98401(P2008−98401A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278473(P2006−278473)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(595122132)サン電子工業株式会社 (17)