説明

固体電解コンデンサの製造方法

【課題】静電容量が高く、低ESRかつ低漏れ電流、高耐電圧を示す固体電解コンデンサの製造方法を提供すること。
【解決手段】誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、下記一般式(1)で示される化合物からなり、かつ、含有水分量が50〜500ppmである重合性モノマーを、ドーパント兼酸化剤溶液を用いて化学酸化重合することにより固体電解質層を形成することを特徴とした固体電解コンデンサの製造方法である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を固体電解質層として具備した固体電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサに用いられる固体電解質形成用材料としては、二酸化マンガン等に代表される無機導電性材料や、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体等の有機導電性材料が知られている。
【0003】
さらに、それらの固体電解質形成用材料と比較して、電気電導性に優れる導電性高分子材料を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが広く実用化されている。
【0004】
この導電性高分子材料においては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」と略記する。)を重合してなる導電性高分子が知られている。(特許文献1)
【0005】
このEDOTは、重合の反応速度が比較的緩やかであり、陽極の誘電体酸化皮膜との密着性に優れた導電性高分子層を形成できるため、固体電解コンデンサの固体電解質層形成材料として広く使用されている。
【0006】
しかし、近年の電子機器は、より省電力化、高周波数化への対応を求められており、それらの電子機器に用いられる固体電解コンデンサにおいても、小型大容量、等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)の低減、高耐電圧化等、電気特性のさらなる向上が求められている。
【0007】
固体電解コンデンサの電気特性は、用いる固体電解質形成材料種や形成方法に大きく依存するが、従来公知である3,4−エチレンジオキシチオフェンを凌駕する優れた導電性高分子モノマーの開発や、新しい固体電解質層の形成方法に期待が持たれている。
【0008】
このような背景の中、特許文献2には、3−アルキル−4−アルコキシチオフェンの重合体を固体電解質層とする固体電解コンデンサが開示されており、該重合体を用いることによって、高周波領域でも優れた電気特性を有する固体電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、アルコキシ基で置換された部位を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体ポリマーを固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されている。
【0010】
該ポリマーを採用することにより、ポリマー中に残留する重合用酸化剤の結晶化を抑制でき、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−015611号公報
【特許文献2】特開2001−332453号公報
【特許文献3】特開2004−096098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記文献に開示されている重合性モノマーの重合体をもってしても十分な低ESR特性や、高耐電圧を示す固体電解コンデンサを得ることが困難であり、さらなる特性の向上された固体電解コンデンサの製造方法が要望されている。
【0013】
本発明の目的は、静電容量、等価直列抵抗の電気特性に優れ、かつ、高耐電圧特性を有する、優れた固体電解コンデンサの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は鋭意検討した結果、水分含有量が50〜500ppmである下記一般式(1)で示される重合性モノマー及びドーパント兼酸化剤溶液を用い、誘電体酸化皮膜上に化学酸化重合してなる導電性高分子層を形成した固体電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0016】
第1の発明は、
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、
導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を包含する固体電解コンデンサの製造方法において、
該固体電解質層を形成する工程が、
下記一般式(1)、
で示される重合性モノマーを含む溶液と、
ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を、
液相にて接触させることにより化学酸化重合することによって誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に一般式(1)で示される重合性モノマーの重合体を形成する工程であり、
該重合性モノマーの含有水分量が、50〜500ppmであることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0017】
【化1】

【0018】
上式中、Rは、炭素数1乃至6の直鎖あるいは分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一であっても異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0019】
第2の発明は、前記重合性モノマーのガスクロマトグラフィーにて測定される純度が少なくとも99.00%以上であることを特徴とする第1の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0020】
第3の発明は、前記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩を20〜90重量%の範囲で有機溶媒中に溶解させた溶液であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0021】
第4の発明は、
固体電解コンデンサの固体電解質形成用重合性モノマー組成物であって、
下記一般式(1)
で示され、
重合性モノマー全重量に対し、50〜500ppmの水分を含有してなることを特徴とする重合性モノマー組成物である。
【0022】
【化2】

【0023】
式中、Rは、炭素数1乃至6の直鎖あるいは分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一であっても異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、静電容量が高く、低ESRであり、かつ、極めて高い耐電圧を示す固体電解コンデンサの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、下記一般式(1)で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を固体電解質層として形成することを特徴としている。
【0027】
【化3】

【0028】
上記(1)式中、Rは、炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一であっても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0029】
炭素数が1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−ヘキシル基、iso−ヘキシル基、sec−ヘキシル基などが挙げられ、さらに好ましくは重合性の面から、メチル基、エチル基、n−プロピル基である。
【0030】
前記一般式(1)により表される化合物として、具体的には、
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−メチル−EDOT)、
2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−エチル−EDOT)、
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−プロピル−EDOT)、
2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソプロピル−EDOT)、
2−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ブチル−EDOT)、
2−イソブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソブチル−EDOT)、
2−ペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ペンチル−EDOT)、
2−イソペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソペンチル−EDOT)、
2−ヘキシル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ヘキシル−EDOT)、
2−イソヘキシル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソヘキシル−EDOT)、
2−メチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−エチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−プロピル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−イソプロピル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−ブチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−イソブチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−ペンチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−イソペンチル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−ヘキシル−3,4−エチレンジチアチオフェン、2−イソヘキシル−3,4−エチレンジチアチオフェン、が挙げられる。
これらの中でも特に好ましいものは、(1)式中、Rが炭素数1〜4の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基で、かつ、Zは酸素原子であるものであり、
具体的には、
2−メチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−メチル−EDOT)、
2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−エチル−EDOT)、
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−プロピル−EDOT)、
2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソプロピル−EDOT)、
2−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ブチル−EDOT)、が挙げられる。
【0031】
〔重合性モノマーの製造方法〕
上式(1)で示される重合性モノマーは以下(イ)〜(ハ)の工程にて準備することができる。
【0032】
(イ)ハロゲン化チオフェンとアルカリ金属アルコキシドとを、アルコール系溶媒中で反応させ、ジアルコキシチオフェンを得る工程。
例えば、まず、下記一般式(2)で示される3位および4位の位置にハロゲン原子が置換されたハロゲン化チオフェンを準備する。
【0033】
【化4】

【0034】
上式(2)中、Xはそれぞれ独立し、互いに同じであっても異なっていても良いフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子のいずれかを示す。
【0035】
上記ハロゲン化チオフェンとしては具体的には、3,4−ジフルオロチオフェン、3,4−ジクロロチオフェン、3,4−ジブロモチオフェン、3,4−ジヨードチオフェン、3−クロロ−4−フルオロチオフェン、3−ブロモ−4−フルオロチオフェン、3−ヨード−4−フルオロチオフェン、3−ブロモ−4−クロロチオフェン、3−クロロ−4−ヨードチオフェン、3−ブロモ−4−ヨードチオフェン等を挙げることができる。
これらの中でも価格や取扱の面で3,4−ジフルオロチオフェン、3,4−ジクロロチオフェン、3,4−ジブロモチオフェン、3,4−ジヨードチオフェン等が好ましく、3,4−ジブロモチオフェンであればさらに好ましい。
【0036】
上記ハロゲン化チオフェンと、アルカリ金属アルコキシドとを作用させ、下記一般式(3)で示されるジアルコシキチオフェンを得る。
【0037】
【化5】

【0038】
上式(3)中、R及びRはそれぞれ独立し、互いに同じであっても異なっていても良い、鎖状のまたは分岐鎖状の炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を示す。
【0039】
上記アルカリ金属アルコキシドとしては、鎖状のまたは分岐鎖状の炭素数が1〜20の水酸基含有脂肪族化合物とアルカリ金属とを反応させたもの、鎖状のまたは分岐鎖状の炭素数が1〜20の水酸基含有芳香族化合物等とアルカリ金属とを反応させたものであり、具体的には、例えば、炭素数が1〜20の脂肪族第一級アルコールとアルカリ金属とを反応させて得られたもの、炭素数が1〜20の脂肪族第二級アルコールとアルカリ金属とを反応させて得られたもの、炭素数が1〜20の脂肪族第三級アルコールとアルカリ金属とを反応させて得られたもの、炭素数が1〜20の水酸基含有芳香環含有化合物とアルカリ金属とを反応させて得られたもの等をあげることができる。
【0040】
さらに具体的には、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムブトキシド、リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等を挙げることができる。
これらの中でも取扱性の面でナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムブトキシド等が好ましく、ナトリウムメトキシド等を挙げることができる。
【0041】
上式(3)で示されるジアルコシキチオフェンを得る反応においては、
アルコール系溶媒中にて上記ハロゲン化チオフェンと上記アルカリ金属アルコキシドとを反応させる工程で行うことができ、好ましくは、アルコール系溶媒を反応系外へ留去する操作を含む工程とすることができる。
【0042】
(ロ)前記ジアルコシキチオフェンと酸素原子を含む化合物とを、反応により生じる副生成物を反応系外へ留去しながら反応させ、(1)式で表される化合物を得る工程
【0043】
次に、得られた上記ジアルコキシチオフェンとジオール化合物又はジチオール化合物とを反応させることで、(1)式で表される重合性モノマーを得ることができる。
【0044】
上記ジオール化合物としては、プロパン−1,2−ジオール、ブタン−1,2−ジオール、ペンタン−1,2−ジオール、ヘキサン−1,2−ジオール、が挙げられ、
上記ジチオール化合物としては、プロパン−1,2−ジチオール、ブタン−1,2−ジチオール、ペンタン−1,2−ジチオール、ヘキサン−1,2−ジチオール、が挙げられる。
【0045】
ジアルコキシチオフェンとジオール化合物又はジチオール化合物とを反応させ、(1)式で表されるチオフェン誘導体を得る反応においては、一般式(4)で示される化合物を反応系外へ留去しながら反応させる工程とすることが好ましい。
留去の方法としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族有機溶媒と、前記一般式(4)で表される化合物とを共沸させて反応系外へ留去させることが挙げられる。
【0046】
【化6】

【0047】
(4)式中、R及びRはそれぞれ独立し、互いに同じであっても異なっていても良い、鎖状のまたは分岐鎖状の炭素数が1〜20のアルキル基またはアリール基を示す。
【0048】
このジアルコキシチオフェンとジオール化合物またはジチオール化合物とを反応させ、(1)で示される重合性モノマーを得る工程は、酸触媒の存在下で実施することが好ましい。
【0049】
前記酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸、
アルキル置換有機スルホン酸、置換または無置換の芳香族スルホン酸等の
有機スルホン酸が挙げられる。これらの中でも、芳香族スルホン酸が反応性の面で好ましく、具体的には、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メシチレンスルホン酸、クメンスルホン酸等が好ましく挙げられる。
【0050】
反応終了後、得られた(1)式で示される重合性モノマーの粗生成物は水洗後濾過を行い、反応溶液を乾燥させる。
乾燥方法としては、例えば、前記水洗後の反応溶液を減圧下に加熱還流させ共沸する水を分離除去する等の操作により実施することが出来る。
乾燥後、溶媒を留去することにより、目的の重合性モノマーの粗生成物を得ることができる。
【0051】
(ハ)得られる粗生成物を蒸留により精製する工程
ついで、得られた重合性モノマーの粗生成物を蒸留することにより精製する。この精製工程によって、(1)式で示される重合性モノマーの水分含有量を50〜500ppmに調整することができる。
この蒸留は例えば、回分式蒸留装置を用いて行うことができる。
この際、留出液量と還流する量との比である還流比は0.1〜10の範囲で行うことが好ましい。
この還流比を制御することで、上記範囲の水分量に調整することができる。
【0052】
上記一般式(1)で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体は、高電導性を示し、熱安定性に優れたものとなる。
そして本発明に使用する重合性モノマーは、50〜500ppmの水分を含有しているため、多孔性の弁作用金属に浸透しやすい粘性率を有しており、誘電体酸化皮膜との親和性に優れる。水分量が50ppmより少ないと重合物が多孔質で複雑な形状を有している弁作用金属の孔奥深くまで浸透しにくく、水分量500ppmを超えると重合性モノマーの重合反応が抑制される。
そのため、50〜500ppmの水分を含有している本発明に使用する重合性モノマーは、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上で該重合性モノマーが緻密に重合でき、優れた固体電解質層を形成することができる。
【0053】
また、重合性モノマーの純度は、少なくとも99.00%であることが好ましい。純度を少なくとも99.00%とするには蒸留によって達成することができる。
ここで、純度とはガスクロマトグラフィーによって測定される純度である。
モノマー純度が99.00%未満であると、重合において不純物の影響を受けやすくなり、良好な固体電解質層の形成が阻害され、得られる固体電解コンデンサの特性に悪影響が及ぼされる場合がある。
以上のことより、上記した純度及び水分量を有する上記一般式(1)で示された重合性モノマーを固体電解質層の形成時に使用することによって、得られる固体電解コンデンサが低ESRであり、かつ、特に低漏れ電流で、高耐電圧を有する固体電解コンデンサが得られることが見出された。
【0054】
(ポリマーの製造工程)
一般式(1)で示される重合性モノマーは、以下に示す重合方法で重合体とすることが出来る。例えば、上記重合性モノマー化合物を、酸化剤を用いて化学酸化重合することによって重合体を得ることができる。
【0055】
化学酸化重合における前記酸化剤としては、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、二酸化塩素、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜塩素酸などのハロゲン化物、5フッ化アンチモン、5塩化リン、5フッ化リン、塩化アルミニウム、塩化モリブデンなどの金属ハロゲン化物、あるいは過マンガン酸塩、重クロム酸塩、無水クロム酸、第二鉄塩、第二銅塩などの高原子価状態遷移金属イオン又はその塩、硫酸、硝酸、トリフルオロメタン硫酸などのプロトン酸、三酸化硫黄、二酸化窒素などの酸素化合物、過酸化水素、過硫酸アンモニム、過ホウ酸ナトリウムなどのペルオキソ酸及びそれらの塩、モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸及びそれらの塩があげられる。
【0056】
次に、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、
誘電体酸化皮膜を形成させた弁作用金属上に、
上記一般式(1)で示される化合物の重合体を形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0057】
弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ又はこれらの合金を用いることができ、より好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブが挙げられる。
【0058】
これら弁作用金属の形態は、金属箔、あるいはこれらを主成分とする粉末の焼結体等のものが好適に使用できる。
【0059】
得られる固体電解コンデンサの電気特性や、より簡便な製造工程であるという面から、化学酸化重合により重合体を形成する工程であることが好ましい。
【0060】
化学酸化重合により重合体を形成する好ましい工程としては、上式(1)で示される重合性モノマーからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、ドーパント及び酸化剤を、液相にて接触させ加熱乾燥することにより弁作用金属上に重合体を形成する方法である。
【0061】
この上記重合性モノマーと、ドーパント及び酸化剤とを、液相にて接触させる方法としては、
1.上記(1)式で示される重合性モノマーと、ドーパント及び酸化剤を含む溶液とを混合した溶液を調整し、該液を弁作用金属に塗布あるいは浸漬によって接触させる方法。
2.前記重合性モノマー液を準備し、別途ドーパント及び酸化剤を含有する溶液を準備して、上記重合性モノマー液を含浸保持させた弁作用金属を、前記酸化剤溶液中に塗布あるいは浸漬し、接触させる方法。
3.ドーパント及び酸化剤を含有する溶液を、塗布あるいは含浸して保持させた弁作用金属に、前記重合性モノマー液を塗布あるいは浸漬し、接触させる方法。
が挙げられる。
【0062】
これらの方法は、特に制限されるものでない。
【0063】
弁作用金属上に保持された重合性モノマー、ドーパント及び酸化剤を含む液を付着させ、所定温度にて所定時間保持することにより形成することができる。
【0064】
ここで、所定温度とは、0℃から200℃の範囲で任意に選択することができ、所定時間とは1分から24時間の範囲で任意に選択することができる。
【0065】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法におけるより好ましい形態として、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することができる。
【0066】
ドーパント兼酸化剤である化合物とは、導電性高分子のドーパントとなるアニオン成分を含む酸化剤化合物であり、そのような化合物を用いることにより、化学重合の際に、アニオン成分が導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能し、導電性が向上された導電性高分子を形成することができる。
【0067】
好ましいアニオン成分としては、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオン等の有機酸イオン、ホウ素化合物イオン、リン酸化合物イオン、過塩素酸イオン等の無機酸イオンなどがあげられる。
【0068】
そのようなアニオン成分を含む酸化剤として特に好適なものとしては、塩化第二鉄や過塩素酸第二鉄等の無機酸の鉄(III)塩、ベンゼンスルホン酸第二鉄やパラトルエンスルホン酸第二鉄塩、アルキルナフタレンスルホン酸第二鉄塩等の有機酸の鉄(III)塩を挙げることができ、最も好適なものとして、有機スルホン酸第二鉄塩を挙げることができる。
【0069】
これらドーパント兼酸化剤の溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒が好適である。
【0070】
これらの中で特に好適なものは、上記有機スルホン酸の鉄(III)が上記アルコール系溶媒に、20重量%〜90重量%、より好ましくは30重量%〜80重量%、さらに好ましくは40重量%〜70重量%溶解されたものである。
【0071】
この様な濃度に溶解されたドーパント兼酸化剤を用いることで、導電性及び耐久性に優れた重合体を、複雑な形状を有する弁作用金属上に、緻密に形成することが可能となる。
【0072】
重合性モノマーとドーパント兼酸化剤溶液を液相にて混合することにより化学酸化重合の反応が行われるが、該重合性モノマーとドーパント兼酸化剤溶液の混合重量比は40:1〜1:40、より好ましくは30:1〜1:30、さらに好ましくは20:1〜1:20の範囲とすることが好ましい。重合性モノマーの混合比率がこの範囲よりも少ない場合、ポリマーの生成量が低減し、結果として得られる固体電解コンデンサの静電容量の低下やESRの増大が招来される。また、重合性モノマーの混合比率がこの範囲よりも大きい場合、酸化力不足で重合反応が進行せず、結果として静電容量の低下やESRの増大が招来される。
【0073】
以下、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について、アルミニウム巻回型コンデンサを作製する方法を具体例に挙げ、より詳しく説明する。
【0074】
まず、陽極となるアルミニウム箔表面を、エッチングして粗面化させた後、陽極リードを接続し、ついでアジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で化成処理して、誘電体酸化皮膜を形成させる。本発明を実施する上で、エッチング倍率の大きな箔を用いることにより、静電容量の大きなコンデンサを得ることができ、好ましい。
【0075】
別途、陰極リードを接続した対向陰極アルミニウム箔と、上記陽極アルミニウム箔との間に、マニラ紙等のセパレータを挟み込み、円筒状に巻き取り、ついで熱処理によりセパレータを炭化させて、巻回型のコンデンサ素子を準備する。
【0076】
次に、上記コンデンサ素子の陽極箔上に、導電性高分子からなる固体電解質層を先に述べた方法にて形成させる。
【0077】
上記工程により、陽極アルミニウム箔の微細なエッチング孔内に、導電性高分子層を十分に充填させた固体電解質層を形成することができる。
【0078】
ついで、エポキシ樹脂等を用いて、コンデンサケースを封口し、電圧を印加してエージングを行い、本発明の固体電解コンデンサを完成する。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は本実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例中、「%」は、「重量%」を表し、静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)は周波数120Hzで、等価直列抵抗(ESR)は周波数100kHzで測定した。また、容量含浸率は、固体電解質層形成前のコンデンサ素子を15重量%アジピン酸二アンモニウム水溶液中で測定した静電容量に対し、得られた固体電解コンデンサの静電容量を百分率で示したものである。
【0080】
さらに、得られた固体電解コンデンサ素子の耐電圧を、以下のような方法にて測定した。すなわち、0Vより印加電圧を0.5V刻みで段階的に昇圧していき、各電圧で1分間保持した後の漏れ電流を測定し、コンデンサの漏れ電流が100mAを超えた時の電圧を耐電圧として評価した。
【0081】
実施例1
2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
アルミニウム箔の表面をエッチングして粗面化させた後、カシメ付けにより、陽極リードを接続させ、ついで、10重量%アジピン酸二アンモニウム水溶液中、電圧4Vで化成処理して、表面に誘電体酸化皮膜を形成させた。
【0082】
ついで、上記陽極箔と、陰極リードとを抵抗溶接により接続させた対向陰極アルミニウム箔との間に、厚さ50μmのマニラ紙をセパレータとして挟み込み、円筒状に巻き取り、次いで、温度400℃で4分間、熱処理して、マニラ紙を炭化させて、コンデンサ素子を準備した。得られたコンデンサ素子の15%アジピン酸二アンモニウム水溶液中での静電容量は150μFであった。
【0083】
次に、モノマーである水分370ppmを含んだ純度99.32%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)と、酸化剤である40%p−トルエンスルホン酸第二鉄/n−ブタノール溶液とを準備し、両者の重量比率を1:5に調合した溶液に当該コンデンサ素子を100秒間浸漬後、45℃で1時間、200℃で20時間加熱して、化学酸化重合を行い、コンデンサ素子中にポリ−2−エチル−EDOTを形成させた。
【0084】
ついで、エポキシ樹脂を用いて、該コンデンサケースを封口し、両極に電圧4Vを印加させてエージングを行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0085】
実施例2
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分300ppmを含んだ純度98.02%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0086】
実施例3
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分55ppmを含んだ純度99.30%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0087】
実施例4
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分470ppmを含んだ純度99.28%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0088】
実施例5
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0089】
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分350ppmを含んだ純度99.34%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0090】
実施例6
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分300ppmを含んだ純度98.54%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0091】
実施例7
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分60ppmを含んだ純度99.15%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0092】
実施例8
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分450ppmを含んだ純度99.23%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0093】
比較例1
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分1020ppmを含んだ純度99.27%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0094】
比較例2
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分980ppmを含んだ純度97.94%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0095】
比較例3
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分30ppmを含んだ純度99.47%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0096】
比較例4
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分600ppmを含んだ純度99.34%の2−エチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0097】
比較例5
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分820ppmを含んだ純度99.19%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0098】
比較例6
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分1200ppmを含んだ純度98.48%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0099】
比較例7
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分20ppmを含んだ純度99.20%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0100】
比較例8
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分550ppmを含んだ純度99.10%の2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0101】
比較例9
[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0102】
実施例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに水分270ppmを含んだ純度99.84%の2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(EDOT)にした以外は実施例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0103】
それぞれ実施例1−8と比較例1−9にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率の電気特性を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、様々な純度、水分量のモノマーを比較した結果、実施例1−8で得られた固体電解コンデンサは、比較例1−8のモノマーを用いた固体電解コンデンサより特性がよく、使用するモノマーの水分量が得られる固体電解コンデンサの特性に与える影響が大きいものとなった。さらに、比較例9のEDOTモノマーと比較した結果、低ESRかつ高耐電圧を示し、きわめて優れた電気特性を有する固体電解コンデンサであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、
導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を包含する固体電解コンデンサの製造方法において、
該固体電解質層を形成する工程が、
下記一般式(1)、
【化1】

(上式中、Rは、炭素数1乃至6の直鎖あるいは分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一であっても異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で示される重合性モノマーを含む溶液と、
ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を、
液相にて接触させることにより化学酸化重合することによって誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に一般式(1)で示される重合性モノマーの重合体を形成する工程であり、
かつ、該重合性モノマーの含有水分量が、50〜500ppmであることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記重合性モノマーのガスクロマトグラフィーにて測定される純度が少なくとも99.00%以上であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩を20〜90重量%の範囲で有機溶媒中に溶解させた溶液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
固体電解コンデンサの固体電解質形成用重合性モノマー組成物であって、
下記一般式(1)、
【化2】

(式中、Rは、炭素数1乃至6の直鎖あるいは分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一であっても異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で示され、
重合性モノマー全重量に対し、50〜500ppmの水分を含有してなることを特徴とする重合性モノマー組成物。

【公開番号】特開2011−258808(P2011−258808A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133011(P2010−133011)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)