説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】陽極体への溶液の被覆量を均一化することにより均質な固体電解質層を形成した固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】表面に誘電体層を形成した陽極体の複数個を、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し、引き上げ、陽極体の表面を被覆した溶液を重合する操作を繰り返して陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程において、複数個の陽極体を取り付けた支持基板を、その表裏方向に複数枚、隣り合う陽極体間の間隔が1〜8mmとなるように平行に並べて保持した冶具を用い、前記冶具を上下に移動することによる前記浸漬及び引き上げを、前記引き上げの際の液面からの陽極体の下端の高さが隣り合う陽極体間で交互に0.01〜1mmずつ異なるように行う固体電解コンデンサの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性重合体を固体電解質層として用いた固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。さらに詳しく言えば、弁作用金属からなる陽極体の表面を被覆する、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液の付着量を均一化することにより得られる品質の安定性と生産性が向上した固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中へ陽極体を浸漬して被覆する塗布技術は、安価で大量生産に向いていることから現在広く使用されている。近年、この浸漬による塗布技術においてもコストダウンのために、同一処理面積の中により多くの陽極体を配置することによって生産性を上げる手法がとられている。具体的には、陽極体自体のサイズを減らす方法、左右または前後に隣り合う陽極体間の隙間を減らす方法などによって処理個数を増大させる手法が採用されている。
【0003】
浸漬において生産性を上げる手法としては、同一処理面積内の陽極体の配置密度を高めて陽極体間の隙間を減らす方法が利用されているが、陽極体間の隙間を減らしすぎると、溶液から引き上げる際に陽極体間の液切れに偏りが生じ陽極体への溶液付着量が特定の場所で多くなってしまうことがあった。特に溶液への浸漬工程と乾燥工程を繰り返して陽極体の表面を厚く被覆する場合においては、溶液付着量の不均一性は特定の場所にある陽極体表面への被覆材料の厚膜化を増長し、これは得られる固体電解コンデンサの品質のバラツキを増大させる重大な要因となる。
【0004】
特開2006−324656号公報(特許文献1)には、固体電解コンデンサ素子用導体を複数個、支持板に列状に取り付け、この導体列をモノマー含有溶液と酸化剤含有溶液に順次浸漬し引き上げることにより各導体表面上に固体電解質層を形成するに際し、各導体の高さが異なるように支持板を引き上げる工程を採用することによって、同一支持板に取り付けた固体電解コンデンサ素子に形成する固体電解質層の厚みを均一にできることが開示されている。
【0005】
また、特開2007−95935号公報(特許文献2)には、複数の弁作用金属箔を平行に配置して固体電解質を形成する過程において、前後の弁作用金属箔の間隔を箔の厚みの20倍以上とすることにより電気特性が改善されることが開示されているが、固体電解質の形成過程における固体電解質層の厚さのバラツキについては言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−324656号公報
【特許文献2】特開2007−95935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
化学酸化重合により固体電解質層を形成する方法によれば、微細孔を有するアルミニウム箔やタンタル、ニオブ及びその合金等の焼結体の微細孔の深部にまでモノマー溶液と酸化剤溶液が浸透し重合膜が形成され、高容量の固体電解コンデンサを製造することができる。このためには、薄いモノマー溶液と酸化剤溶液を複数回繰り返して浸漬する必要がある。1回の浸漬でのわずかな付着量の差が複数回の浸漬後には大きな付着量の差、ひいては膜厚の差となって現れ、品質に対する影響が無視できなくなってくる。高容量の積層型の固体電解コンデンサを製造する場合はコンデンサ素子を複数枚積層するが、特定の場所に配置された陽極体の固体電解質形成に偏りがあり、特にその陽極体を固体電解質形成処理時に配置された順番に従って積層して素子を形成すると、厚い素子が連続して同一チップ内に積層されることになるため、所定のケースサイズに収まらないことがあった。
【0008】
これに対し、固体電解コンデンサ用導体を複数個列状に取り付けた支持板を複数回の引き上げ工程で左右交互に斜めに引き上げる特許文献1の方法では、固体電解質がより均一に付着されるようになるが、それでも中央部分に配置された素子の固体電解質層が、その他の部分に配置されたものよりも薄くなり易いという課題が残されていた。
【0009】
従って、本発明は、上記課題を解決し、陽極体への溶液の被覆量を均一化することによって均質な固体電解質層を形成した固体電解コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み、複数の陽極体を取り付けた支持基板を複数枚同時に溶液に浸漬し引き上げられるように陽極体を配置する冶具を用いて鋭意検討した結果、浸漬後引き上げる際に発生する陽極体下端と溶液との液切れは、各陽極体で同時に起こるのではなく、常に2方向から開始していることを見出した。すなわち、これら液切れは、「周辺部に配置された陽極体から開始する液切れ」と「中央部に配置された陽極体から開始する液切れ」である。両液切れは、最終的に周辺部の若干内側に配置された陽極体で合流して、すべての陽極体の液切れは終了するが、この終了部分に配置された陽極体表面への液付着量は多くなっていた。そこで、この現象が生じないように液切れをランダムに発生させることによって特定の場所で液付着量が多くなる現象を解消させることを着想した。
また、「溶液液面と陽極体先端の距離が長い陽極体」は、「溶液液面と陽極体先端の距離が短い陽極体」よりも優先的に液切れが開始されることを見出した。
【0011】
これらの知見に基づき、溶液液面からの隣り合う陽極体下端の距離を交互に異なるように配置したところ、液切れの始点が増え、液切れの開始及び終了がランダムに頻発し、陽極体に均一に液が付着することを確認して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の固体電解コンデンサの製造方法、固体電解コンデンサ、及び固体電解コンデンサの製造方法に用いる治具を提供する。
【0012】
[1]表面に誘電体層を形成した弁作用金属からなる陽極体の複数個を、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し引き上げることにより、陽極体の表面を前記溶液で被覆し、重合して前記陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、
前記複数個の陽極体を取り付けた支持基板を、その表裏方向に複数枚、隣り合う陽極体間の間隔が1〜8mmとなるように平行に並べて保持した冶具を用い、前記冶具を上下に移動することによる前記浸漬及び引き上げを、前記引き上げの際の液面からの陽極体の下端の高さが隣り合う陽極体間で交互に0.01〜1mmずつ異なるように行うことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
[2]陽極体を1〜8mm間隔で複数個、鉛直方向に垂下した状態で取り付けた支持基板を使用する前項[1]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[3]支持基板を隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下するよう保持した冶具を用いる前項[1]または[2]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[4]前記冶具が、前記支持基板の下端との接触面を有し、前記接触面に隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下する凹みが設けられている前項[1]〜[3]のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[5]前記引き上げの際の陽極体の下端の液面からの高さが隣り合う陽極体間で0.01〜1mm異なるように陽極体を取り付けた支持基板を用いる前項[1]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[6]長さが0.01〜1mm異なる陽極体を使用して、陽極体の下端の液面からの高さが隣り合う陽極体間で0.01〜1mm異なるように調整する前項[5]に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[7]重合して導電性高分子となる原料を含む溶液の粘度が1〜1000mPa・Sの範囲にある前項[1]〜[6]のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
[8]前項[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法によって製造される固体電解コンデンサ。
[9]陽極体が箔であり、固体電解質が形成された陽極体の厚さの標準偏差が、前記陽極体の厚さに対して0.05以下である前項[8]に記載の固体電解コンデンサ。
[10]表面に誘電体層を形成した弁作用金属からなる陽極体の複数個を、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し、引き上げることにより、陽極体の表面を前記溶液で被覆し、重合して前記陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において使用する、前記複数個の陽極体を取り付けた支持基板を、その表裏方向に複数枚、隣り合う陽極体間の間隔が1〜8mmとなるように平行に並べて保持する冶具であって、支持基板の下端との接触面を有し、接触面に隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下する凹み(段差)が設けられている冶具。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面に誘電体層を形成した弁作用金属からなる陽極体の複数個を同時に、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し、引き上げ、陽極体の表面を被覆した溶液を重合する操作を繰り返して陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程において、溶液液面からの隣り合う陽極体下端の距離を交互に異なるように配置することによって複数個の陽極体に均一に溶液を被覆でき、均質な固体電解質層を形成した固体電解コンデンサを工業的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】平板状の陽極体を鉛直方向に垂下して取り付けた支持基板(ワークA)の模式図
【図2】線材の先端に柱状の陽極体が固定されたワークAの正面図
【図3】図2の陽極体の拡大図
【図4】浸漬装置の浸漬部分の模式図
【図5】ワークAの左右及び前後の水平を維持するための基準板側面の拡大図
【図6】ワークAが設置された基準板の側面図
【図7】実施例1におけるワークB内の30枚のワークA毎のコンデンサ素子の平均厚さを示す。
【図8】比較例1におけるワークB内の30枚のワークA毎のコンデンサ素子の平均厚さを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、表面に誘電体層を形成した複数の陽極体(以下、単に「陽極体」と言うことがある。)を鉛直方向に垂下した状態で上下方向に下降・上昇させ、溶液への浸漬と引き上げの過程で陽極体に溶液を付着させ、引き続き溶剤を乾燥させることによって溶液中に溶け込んでいた成分で陽極体を被覆する装置を使用する。
【0016】
以下、本発明の実施形態の1例として、添付の図面を参照しつつ前記装置を使用した固定電解コンデンサの製造例を挙げて本発明の固体電解コンデンサの製造方法を説明する。
【0017】
本発明において浸漬装置で浸漬処理される陽極体は、箔状、柱状、円柱状、円錐状のもの、または柱状または円柱状の線の先端に取り付けられた陽極体である。特に箔状、柱状の陽極体が好ましい。
【0018】
特に固体電解コンデンサを製造する場合においては、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、珪素などの弁作用金属単体、またはこれらの合金の金属板、箔あるいはこれらを主成分とする焼結体等を挙げることができる。陽極体のより具体的な例として、圧延箔のエッチング物、微粉焼結体などを挙げることができる。
【0019】
本発明では、陽極体を1〜8mmピッチで複数個、鉛直方向に垂下した状態で取り付けた支持基板(以下、ワークAと略すことがある。)を1単位とし、このワークAをその表裏方向に1〜8mmピッチで複数枚配置した冶具(以下、ワークBと略すことがある。)を1セットとして、浸漬装置で浸漬処理する。
【0020】
図1は、支持基板(3)に幅(5a)mmの平板状の陽極体(2)を(5b)mmピッチで12枚取り付けた状態のワークA(1)の模式図である。陽極体は溶液を付着させる領域と溶液を付着させない領域とを区別するための境界領域(4)にマスキング材(ポリイミド)が塗布されている。
【0021】
陽極体は、接着、圧着、熔接等の方法によって、各陽極体の下端の位置が0〜0.005mm未満の範囲で均一になるように支持基板へ取り付ける。柱状または円柱状の線の先端に取り付けられる陽極体では、線を接着、圧着、熔接するほか、支持基板に取り付けられたソケットに線を差し込む等の方法を使用することもできる。
【0022】
図2は、柱状の陽極体が線状の部材を介して支持基板に取り付けたワークAの一例の模式図であり、図3は、図2の線状部材を含む柱状陽極体部分の拡大図である。境界領域(4)は線状の部材部分に形成されている。
【0023】
図4は浸漬装置の浸漬部分の模式図である。この浸漬装置では、ワークAをその表裏方向に10〜200枚の範囲で配置したワークBを1単位として浸漬処理する。
ワークBの水平状態を維持するために基準板(6)が設置されている。浸漬装置は、ワークBを載せた基準板(6)がステッピングモーターを介して昇降動作を実施する。陽極体は、溶液で満たした浸漬槽(7)内を昇降することによって、境界領域(4)の下側が浸漬処理され溶液が塗布される。
【0024】
図5は、ワークAあるいはワークBの前後左右の水平状態を維持する基準板(6)の側面の拡大模式図である。基準板(6)は、奇数番号のワークAと偶数番号のワークAすなわち表裏(前後)方向に隣り合う陽極体下端の位置に段差(9)をつけるために、上面に凹部が設けられている。凹部には奇数番号のワークAが、凹部と隣り合う凹部との間には奇数番号のワークAがそれぞれ配置される。
【0025】
すなわち、本発明では、ワークBを構成するワークAの溶液表面からの高さを奇数番号のワーク(A2n-1)と偶数番号のワーク(A2n){nは正の整数}とで交互に変えた状態で浸漬処理する。
こうすることにより、ワークB内に配置された陽極体の液切れのタイミングが、奇数番号と偶数番号のワークで異なり、液切れをランダムに発生させることによってワークB内の液付着量をバラツキの範囲内で均一にすることができる。
【0026】
奇数番号の陽極体と溶液表面との距離と偶数番号の陽極体と溶液表面の距離との差(高低差)は、陽極体と液面の液切れがランダムに進行するに十分な高低差であれば問題ない。具体的には0.01〜1mmが好ましく、0.01〜0.3mmがより好ましく、0.05〜0.2mmが特に好ましい。奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の溶液表面までの距離の差が0.01mm未満では、溶液の表面張力によって液が陽極体間で保持され実質的に高低差がないのと同等となり効果が現れなくなる。一方、奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の液表面までの距離の差が1mmを超えると、高低差に伴う液の付着量が大きく変わり、この液付着量の差が無視できなくなるため好ましくない。
【0027】
図6は、ワークAが基準板(6)に設置された側面の模式図である。奇数番号のワークAと偶数番号のワークAの先端から溶液の液面までの距離の差が基準板に形成された段差(9)によって確保され、ワークAが前後方向に並んだワークBが一体となって陽極体が溶液に浸漬される。
【0028】
本発明で使用される溶液は、半導体層を形成するための、重合して導電性重合体となる原料モノマーの溶液である。
前記溶液の粘度は、溶剤の種類や固形分濃度によって変動し、また、隣り合う陽極体間のピッチやワークA間のピッチによって大きく影響を受けるために一概には規定できないが、少なくとも、陽極体を溶液に浸漬し引き上げる過程において陽極体と溶液の液切れの後もなお、前後で隣り合うワークAの陽極体間で液が溜まって橋渡しする状態とならない粘度であればよい。本発明を好ましく適用するためには、粘度は1〜1000mPa・Sの範囲が好ましく、1〜100mPa・Sがより好ましい。
【0029】
陽極体間の液切れは付着させる溶液の粘度が高いほど起こり難いことから、奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の液表面までの距離の差は、前記高低差の範囲内でできるだけ大きく設けることが好ましい。
【0030】
具体的には、10〜50mPa・Sの粘度を有する溶液を付着させる場合は、奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の液表面までの距離の差は0.05〜0.2mmが好ましい。
【0031】
奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の液表面までの距離とを変える方法としては、奇数番号と偶数番号とで、陽極体の長さを変える方法、支持基板に陽極体を取り付ける位置を変える方法、及び浸漬装置の浸漬槽に設置された支持基板を載せる部分の高さを変える方法がある。
【0032】
陽極体の長さを変える方法は、例えば平板状の陽極体の場合には、奇数番号となるワークAと偶数番号となるワークAとで支持基板に取り付ける陽極体の長さを0.01〜1mmの範囲で変更することにより実施できる。線状の部分と柱状あるいは平板状の部分で構成された陽極体の場合には、奇数番号となるワークAと偶数番号となるワークAとで支持基板に取り付ける線状の部分の長さを0.01〜1mmの範囲で変更することにより実施できる。
【0033】
浸漬装置の浸漬槽に設置された支持基板を載せる部分の高さを変える方法は、図3で説明したように、ワークBを構成するワークAのピッチに対応して奇数番号と偶数番号のワークAが配置される基準板(6)の位置に0.01〜1mmの範囲で凹部(段差)を設け、凹部に奇数番号のワークA、凹部と隣り合う凹部との間に奇数番号のワークAをそれぞれ配置することにより実施できる。
基準板(6)は、ワークBの一部で構成してもよいし、ワークBとは独立したワークAの両端を個々に支える1対の板状の冶具で構成してもよい。
【0034】
陽極体は、1〜8mmのピッチ(間隔)で支持基板に取り付けられる。ピッチ(間隔)が1mmよりも狭いときは、陽極体と溶液の液切れの後もなお、陽極体と陽極体の間に液が溜まって橋渡しする状態が容易に形成されてしまう。一方、8mmピッチよりも間隔が広い場合は、本発明の方法によらずとも陽極体に対して均一に液を付着させることができるため意味がない。
【0035】
本発明では、ワークAを前後方向に1〜8mmピッチで複数枚配置された平面状に配置されたワークBを1回の浸漬処理単位として操作することによって生産効率を向上させることができる。1mmピッチよりも間隔が狭いときは、陽極体と溶液の液切れの後もなお、前後で隣り合うワークAの陽極体の間に液が溜まって橋渡しする状態が容易に形成されてしまうため好ましくない。また、8mmピッチよりも間隔が広い場合は、本発明の方法によらずとも陽極体に対して均一に液を付着させることができるため無意味である。
【0036】
本発明では、陽極体の溶液を付着させる領域と溶液を付着させない領域とを区別するために溶液で侵食されないマスキング材料を両領域の境界部分(4)に一定の幅で塗布することが好ましい。マスキング材料の塗布幅は、使用される陽極体の材質・形態、使用される溶液等の種類によって異なるため一概に規定できないが、奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の溶液表面までの距離の差よりも大きければ良く、奇数番号の陽極体と偶数番号の陽極体の液表面までの距離の差の1.5倍〜10倍が好ましく、2倍〜5倍がより好ましい。
【0037】
陽極体の溶液への浸漬は、陽極体の下端と液面の距離が長い方の陽極体を基準に浸漬深さを決めることが望ましい。すなわち、陽極体の下端と液面の距離が長い方の陽極体は、溶液を付着させる領域と溶液を付着させない領域との境界であるマスキング材料塗布部の下端まで浸漬され、液面の距離が短い方の陽極体は、距離が長い陽極体との距離の差だけマスキング材料塗布部を覆う形で浸漬される。奇数番号と偶数番号の陽極体の液表面までの距離差は、奇数番号と偶数番号の陽極体への付着量の差となって現れるが、この差は、境界領域を覆う量が変わるだけで、溶液を付着させるべき領域(コンデンサの陰極として機能する領域)への付着量は実質的に同一となる。
【実施例】
【0038】
以下に代表的な例を示して本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0039】
実施例1:
ステンレス鋼製の支持基板に陽極体として幅3.3mmのアルミニウム化成箔(厚み:100μm)を5mmピッチで30枚、10mmの長さで列状に取り付けた。アルミニウム化成箔の先端から4.5mmの高さに、溶液を浸漬塗布する領域と浸漬塗布しない領域を区分するためのポリイミドを0.8mm幅に塗布してワークAを作製した。
アルミニウム化成箔を列状に取り付けたワークAを、5質量%アジピン酸アンモニウム水溶液上に移動させ、前記溶液に向けて垂直に降下させることにより、各化成箔の3.3mm×4.5mmの部分を溶液に浸漬させ、そのまま、4Vの電圧を印加して切り口部分に化成し、誘電体酸化皮膜を形成し、引き続き、陽極体の陰極部に固体電解質層を形成した。
【0040】
ワークAを載せる基準板の1つおきのワークAと接する接触面に深さ0.15mm、幅3.0mmの凹みを設け、30枚のワークAを4mmピッチで配置しワークBを構成した。
陽極体に被覆する溶液として、25質量%の3,4−エチレンジオキシチオフェンを含む2−プロパノール溶液を使用し、図2に示した基準板(6)を昇降する浸漬装置を用いて陽極体を浸漬した。陽極体への浸漬塗布は、ポリイミドの液面との距離が長い方の陽極体の塗布領域が覆われる高さまで(ポリイミドの塗布領域の下端まで)行った。液面との距離が短い方の陽極体は、基準板(6)の上部に設けた凹みの段差(0.15mm)分だけポリイミドの塗布領域の下端を越える部分まで溶液が被覆された状態となった。
【0041】
浸漬後に25℃で3分乾燥した後、25質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を浸漬し40℃で5分乾燥した。この2種類の液を交互に浸漬して乾燥する操作を20回繰り返した。続いて、不要な過硫酸アンモニウムを水洗除去し、125℃で30分加熱乾燥してアルミニウム化成箔の表面に導電性高分子を形成した。
上記の実験を同一条件で行ない、合計で600個の素子(固体電解質層を形成した陽極体)を作成した。これら素子を個々に膜厚計(Peacock社製:デジタルダイヤルゲージ DG−205,精度3μm)の測定部にゆっくりと挟んで厚みを測定した。ワークB内におけるワークAの30枚のコンデンサ素子の平均厚さの分布は図8に示すように均一であった。600素子の平均膜厚(平均素子厚)及び標準偏差(σ/平均素子厚)を表1にまとめて示す。
【0042】
次に、固体電解質層を形成した3.3mm×4.5mmの部分を、5質量%アジピン酸アンモニウム溶液中に浸漬し、再化成を行なった。
さらに、陰極部にカーボンペースト、銀ペーストで被覆して電極を形成し、コンデンサ素子を完成させた。
塗布したマスキング材を含む部分をリードフレーム上にAgペーストで接合しながら7枚のコンデンサ素子を重ねた。重ねたコンデンサ素子の固体電解質のついていない部分に陽極リード端子を溶接により接続し、全体をエポキシ樹脂で封止し、固体電解コンデンサを得た。得られた固体電解コンデンサの外観の不良率は0%であった。なお、目視による観察で、コンデンサ素子が封止樹脂からはみ出し完全に覆われていないものを外観の不良とした。
【0043】
実施例2:
ステンレス鋼製の支持基板に幅3.3mmのアルミニウム化成箔を5mmピッチで30枚、10mmの長さで取り付けた。アルミニウム化成箔の先端から4.5mmの高さに0.8mm幅でポリイミドを塗布したワークA1を15本作製した。一方、ステンレス鋼製の支持基板に幅3.3mmのアルミニウム化成箔を5mmピッチで30枚、9.8mmの長さで取り付けた。さらに、アルミニウム化成箔の先端から4.7mmの高さに0.8mm幅でポリイミドを塗布したワークA2を15本作製した。アルミニウム化成箔の長さの異なるワークA1を奇数位置にワークA2を偶数位置に配置してワークBを構成した。
実施例1で使用した固体電解質層の形成の際に使用した基準板の上部に凹みを設けないこと以外は実施例1と同様にしてコンデンサ素子を形成した。600素子の平均膜厚(平均素子厚)、標準偏差(σ/平均素子厚)及び外観概観不良率を表1にまとめて示す。実施例1と同様にして7枚の素子を重ねて作成したエポキシ樹脂で封止後の固体電解コンデンサの外観の不良率は0%であった。
【0044】
実施例3:
ステンレス鋼製の支持基板に幅3.3mmのアルミニウム化成箔を10mmの長さで15枚、9.8mmの長さで15枚をそれぞれ交互に5mmピッチで30枚取り付けた。10mmのアルミニウム化成箔に関してはアルミニウム化成箔の先端から4.5mmの高さに、また9.8mmのアルミニウム化成箔に関してはアルミニウム化成箔の先端から4.7mmの高さに、それぞれ0.8mm幅でポリイミドを塗布した。
実施例1で使用した固体電解質層の形成の際に使用する基準板の上部に凹みを設けないこと以外は実施例1と同様にしてコンデンサ素子を形成した。600素子の平均膜厚(平均素子厚)、及び標準偏差(σ/平均素子厚)を表1にまとめて示す。実施例1と同様にして7枚の素子を重ねて作成したエポキシ樹脂で封止後の固体電解コンデンサの外観の不良率は0%であった。
【0045】
比較例1:
実施例1で使用した固体電解質層の形成の際に使用する基準板の上部に凹みを設けないこと以外には実施例1と同様にしてコンデンサ素子を形成した。
ワークB内におけるワークAの30枚の固体電解質形成後の素子の平均厚さの分布は、図9に示す通りワークBの手前と奥側のワークAの平均厚さが高くなっていた。
塗布したマスキング材を含む部分をリードフレーム上にAgペーストで接合しながら7枚重ねた。固体電解質のついていない部分に陽極リード端子を溶接により接続し、全体をエポキシ樹脂で封止したところ外観の不良率は50%であった。
【0046】
【表1】

【0047】
表1の結果に示される通り、本発明を適用すると固体電解質が形成された陽極体箔の厚さの標準偏差(σ/平均素子厚)を前記陽極体の厚さに対して0.05以下とすることができた。
さらに、上記実施例1〜3及び比較例1で得られた素子7枚を積層し樹脂封止したコンデンサを作成し、それらの中から一部を任意に抽出し、初期特性として120Hzにおける容量と損失係数(tanδ×100(%))、等価直列抵抗(ESR)及び定格電圧印加1分後の漏れ電流を測定した。その結果は表2に示す通り、特にESRと漏れ電流は、本発明の製品(実施例製品)が比較例製品に対して優っていた。
【0048】
【表2】

【符号の説明】
【0049】
1 平板状の陽極体が複数個設置された支持基板
2 平板状の陽極体
3 支持基板
4 浸漬するエリアと浸漬しないエリアを区別する境界領域
5a 平板状の陽極体の幅
5b 陽極体間のピッチ
6 ワークAの左右前後の水平を維持するための基準板
7 浸漬槽
8 ステッピングモーター
9 奇数番号のワークAと偶数番号のワークAとが設置される部分の高低差(段差)
10 段差のピッチ
11 線材の先端に柱状の陽極体が固定されたワークA
12 柱状の陽極体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体層を形成した弁作用金属からなる陽極体の複数個を、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し引き上げることにより、陽極体の表面を前記溶液で被覆し、重合して前記陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において、
前記複数個の陽極体を取り付けた支持基板を、その表裏方向に複数枚、隣り合う陽極体間の間隔が1〜8mmとなるように平行に並べて保持した冶具を用い、前記冶具を上下に移動することによる前記浸漬及び引き上げを、前記引き上げの際の液面からの陽極体の下端の高さが隣り合う陽極体間で交互に0.01〜1mmずつ異なるように行うことを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
陽極体を1〜8mm間隔で複数個、鉛直方向に垂下した状態で取り付けた支持基板を使用する請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
支持基板を隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下するよう保持した冶具を用いる請求項1または2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記冶具が、前記支持基板の下端との接触面を有し、前記接触面に隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下する凹みが設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記引き上げの際の陽極体の下端の液面からの高さが隣り合う陽極体間で0.01〜1mm異なるように陽極体を取り付けた支持基板を用いる請求項1に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
長さが0.01〜1mm異なる陽極体を使用して、陽極体の下端の液面からの高さが隣り合う陽極体間で0.01〜1mm異なるように調整する請求項5に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
重合して導電性高分子となる原料を含む溶液の粘度が1〜1000mPa・Sの範囲にある請求項1〜6のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造される固体電解コンデンサ。
【請求項9】
陽極体が箔であり、固体電解質が形成された陽極体の厚さの標準偏差が、前記陽極体の厚さに対して0.05以下である請求項8に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項10】
表面に誘電体層を形成した弁作用金属からなる陽極体の複数個を、重合して導電性高分子となる原料を含む溶液に浸漬し、引き上げることにより、陽極体の表面を前記溶液で被覆し、重合して前記陽極体の表面に導電性高分子からなる固体電解質層を形成する工程を含む固体電解コンデンサの製造方法において使用する、前記複数個の陽極体を取り付けた支持基板を、その表裏方向に複数枚、隣り合う陽極体間の間隔が1〜8mmとなるように平行に並べて保持する冶具であって、支持基板の下端との接触面を有し、接触面に隣り合う支持基板間で交互に0.01〜1mmずつ上下する凹み(段差)が設けられている冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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