説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】静電容量が高く、低ESRであり、かつ、漏れ電流が小さくかつ高耐電圧を有する固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つ化合物の重合体を固体電解質として含む固体電解コンデンサ。特に、炭素数3〜5のアルキル基を有したものの重合体を固体電解質とする固体電解コンデンサは、漏れ電流が小さく、高耐電圧を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質層を有する固体電解コンデンサに関し、より詳しくは、高電導性を示す導電性高分子層を固体電解質層として具備し、電気特性に優れた固体電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサに用いられる固体電解質形成用材料としては、二酸化マンガン等に代表される無機導電性材料や、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体等の有機導電性材料が知られている。
さらに、それらの固体電解質形成用材料より電気電導性に優れる導電性高分子材料を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが広く実用化されている。
【0003】
この導電性高分子材料においては、3,4−エチレンジオキシチオフェン(以下、「EDOT」と略記する。)をモノマーとして重合した導電性高分子が広く知られている。
このEDOTは、重合の反応速度が穏やかであり、陽極の誘電体酸化皮膜との密着性に優れた導電性高分子層を形成できるため、固体電解コンデンサの固体電解質層形成材料として有用である。
【0004】
しかし、近年の電子機器は、より省電力化、高周波数化への対応を求められており、それらの電子機器に用いられる固体電解コンデンサにおいても、小型大容量化や低等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)化等、電気特性のさらなる向上が求められている。
固体電解コンデンサの電気特性は、用いる固体電解質形成材料種や形成方法に大きく依存するが、従来公知である3,4−エチレンジオキシチオフェンを凌駕する優れた導電性高分子モノマーの開発や、新しい固体電解質層の形成方法に期待が持たれている。
【0005】
このような背景の中、特許文献1には、3−アルキル−4−アルコキシチオフェンの重合体を固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されており、該重合体を用いることによって、高周波領域でも優れた電気特性を有する固体電解コンデンサが得られることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、アルコキシ基で置換された部位を有するアルキレンジオキシチオフェン誘導体ポリマーを固体電解質とする固体電解コンデンサが開示されている。
該ポリマーを採用することにより、ポリマー中に残留する重合用酸化剤の結晶化を抑制でき、得られる固体電解コンデンサの漏れ電流を低減できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332453号公報
【特許文献2】特開2004−096098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記文献に開示されている重合体をもってしてもなお十分な電気特性を得ることが困難であり、さらなる固体電解コンデンサの電気特性の向上が要望されている。
【0009】
本発明の目的は、静電容量、等価直列抵抗等の電気特性に優れ、かつ、漏れ電流が小さく、高耐電圧特性を有する、優れた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は鋭意検討した結果、下記一般式〔1〕で示される少なくとも1つの化合物の重合体を固体電解質として含む固体電解コンデンサが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下に示すものである。
【0011】
第1の発明は、下記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を固体電解質として含む固体電解コンデンサである。
【0012】
【化1】

【0013】
上式中、Rは炭素数3〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0014】
第2の発明は、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、上記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に形成する工程を有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【0015】
第3の発明は、前記重合体を、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に形成する工程が、上記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、ドーパント及び酸化剤を、液相にて接触させることにより重合を行い、前記重合体を誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に形成する工程であることを特徴とする第2の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0016】
第4の発明は、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することを特徴とする第3の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【0017】
第5の発明は、前記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩が20〜90重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする第4の発明に記載の固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、静電容量が高く、低ESRであり、かつ、特に漏れ電流が著しく小さくかつ極めて高い耐電圧を示す固体電解コンデンサを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明は、下記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つ化合物の重合体を固体電解質として含む固体電解コンデンサである。
【0020】
【化2】

【0021】
上記〔1〕式中、Rは、炭素数が3〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基を示す。Zは、それぞれ同一であっても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。
【0022】
炭素数が3〜5の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基としては、具体的にはn−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、ネオペンチル基などが挙げられ、さらに好ましくは重合性の面から、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基である。
【0023】
また、〔1〕式中、Zは酸素原子であることが好ましい。
【0024】
前記一般式〔1〕により表される化合物として、より好ましくは、
2−プロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−プロピル−EDOT)、
2−イソプロピル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−イソプロピル−EDOT)、
2−ブチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ブチル−EDOT)、
2−ペンチル−2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン
(2−ペンチル−EDOT)、
が挙げられる。
【0025】
上記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体は、高電導性を示し、熱安定性に優れたものとなる。
本発明に用いるモノマーは、公知の導電性高分子モノマー、例えばEDOTと比較して重合速度が改善されているものである。
すなわち、EDOTより重合速度が緩和であるにも関わらず、重合性に富むため、多孔質で複雑な形状を有している弁作用金属の孔奥深くまで浸透して重合することが可能となる。
よって、本発明に用いられるモノマーの重合体は、特に、固体電解コンデンサの固体電解質に適した導電性高分子材料となる。
【0026】
上記したモノマーにおいて、〔1〕で示される化合物を用いた場合、特に低漏れ電流特性を示し、高耐電圧を有する固体電解コンデンサが得られる。
【0027】
一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つのモノマーの重合体は、以下に示す重合方法で得ることが出来る。例えば、上記モノマー化合物を、酸化剤を用いて化学酸化重合することによっても重合体を得ることができ、また、電気化学的な酸化重合によっても重合体を得ることができる。
【0028】
化学酸化重合における前記酸化剤としては、ヨウ素、臭素、ヨウ化臭素、二酸化塩素、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜塩素酸などのハロゲン化物、5フッ化アンチモン、5塩化リン、5フッ化リン、塩化アルミニウム、塩化モリブデンなどの金属ハロゲン化物、あるいは過マンガン酸塩、重クロム酸塩、無水クロム酸、第二鉄塩、第二銅塩などの高原子価状態遷移金属イオン又はその塩、硫酸、硝酸、トリフルオロメタン硫酸などのプロトン酸、三酸化硫黄、二酸化窒素などの酸素化合物、過酸化水素、過硫酸アンモニム、過ホウ酸ナトリウムなどのペルオキソ酸及び塩、モリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸及び塩があげられる。
【0029】
また、電気化学的な酸化重合としては、上式〔1〕で示される化合物と、ドーパントを放出可能な支持電解質とを、溶媒に溶解した電解液中にて、電解酸化することによって重合体を得ることが出来る。
【0030】
上記ドーパントとしては、例えば、ヨウ素、臭素、塩素等のハロゲンイオン、ヘキサフルオロリン、ヘキサフルオロヒ素、ヘキサフルオロアンチモン、テトラフルオロホウ素、過塩素酸等のハロゲン化物イオン、又はメタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等のアルキル置換有機スルホン酸イオン、カンファースルホン酸イオン等の環状スルホン酸イオン、又はベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のベンゼンモノもしくはジスルホン酸イオン、2−ナフタレンスルホン酸、1,7−ナフタレンジスルホン酸等のスルホン酸基を1〜4個置換したナフタレンスルホン酸のアルキル置換もしくは無置換イオン、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキルビフェニルスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸等のアルキル置換もしくは無置換のビフェニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等の高分子スルホン酸イオン等、またはモリブドリン酸、タングストリン酸、タングストモリブドリン酸等のヘテロポリ酸イオンが挙げられ、これらの各種塩を支持電解質として用いることができる。
【0031】
上記溶媒としては、水、テトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、あるいはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の非プロトン性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香性の塩素化合物系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物系溶媒、あるいはメタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、または蟻酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸または該有機酸の酸無水物(無水酢酸等)を挙げることができる。
上記溶媒は、単独で使用できるのは勿論のこと、上記した溶媒の複数種を混合した混合溶媒として使用することもできる。
【0032】
電気化学的な重合方法としては、上記電解液中で、電解酸化することで、陽極上に重合体を形成することができる。
【0033】
本発明の固体電解コンデンサは、一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を含む固体電解質層を具備しており、静電容量が高く、ESRの低い優れた電気特性を有する。
さらに、従来のPEDOTを固体電解質層とする固体電解コンデンサより、著しく漏れ電流が低減されたものとなる。漏れ電流が低減される理由は、明らかになっていないが、本発明に用いる重合体が自己修復能に優れていることや、アルキル基が置換されていることにより疎水性が高まり、誘電体酸化皮膜の損傷が抑制されるものと考えられる。
【0034】
次に、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について説明する。
本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、
誘電体酸化皮膜を形成させた弁作用金属上に、
上記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を、形成する工程を有することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法である。
【0035】
弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、チタン、ニオブ又はこれらの合金を用いることができ、より好ましくは、アルミニウム、タンタル、ニオブが挙げられる。
これら弁作用金属の形態は、金属箔、あるいはこれらを主成分とする粉末の焼結体等のものが好適に使用できる。
【0036】
上記重合体を形成する工程は、上述した化学酸化重合による方法であっても良いし、電解酸化重合による方法であっても良い。
得られる固体電解コンデンサの電気特性や、より簡便な製造工程であるという面から、化学酸化重合により重合体を形成する工程であることが好ましい。
【0037】
化学酸化重合により重合体を形成する好ましい工程としては、上記〔1〕で示されるモノマー化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、ドーパント及び酸化剤を、液相にて接触させることにより弁作用金属上に重合体を形成する方法である。
【0038】
この上記モノマー化合物と、ドーパント及び酸化剤とを、液相にて接触させる方法としては、
1.上記〔1〕で示されるモノマーと、ドーパント及び酸化剤を含む溶液とを混合した溶液を調整し、該液を弁作用金属に塗布あるいは浸漬によって接触させ、重合体を得る方法。
2.前記モノマー液を準備し、別途ドーパント及び酸化剤を含有する溶液を準備して、上記モノマー液を含浸保持させた弁作用金属を、前記酸化剤溶液中に塗布あるいは浸漬し、接触させ重合体を得る方法。
3.ドーパント及び酸化剤を含有する溶液を、塗布あるいは含浸して保持させた弁作用金属に、前記モノマー液を塗布あるいは浸漬し、接触させ重合体を得る方法。
が挙げられる。
これらの方法は、特に制限されるものでない。
【0039】
弁作用金属上に重合体を形成する方法としては、弁作用金属上に保持されたモノマー、ドーパント及び酸化剤を含む液を所定温度にて所定時間保持することにより形成することができる。
ここで、所定温度とは、0℃から150℃の範囲で任意に選択することができ、所定時間とは1分から24時間の範囲で任意に選択することができる。
【0040】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法におけるより好ましい形態として、ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することができる。
ドーパント兼酸化剤である化合物とは、導電性高分子のドーパントとなるアニオン成分を含む酸化剤化合物であり、そのような化合物を用いることにより、化学重合の際に、アニオン成分が導電性高分子に取り込まれてドーパントとして機能し、導電性が向上された導電性高分子を形成することができる。
好ましいアニオン成分としては、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオン等の有機酸イオン、ホウ素化合物イオン、リン酸化合物イオン、過塩素酸イオン等の無機酸イオンなどがあげられる。
そのようなアニオン成分を含む酸化剤として特に好適なものとしては、塩化第二鉄や過塩素酸第二鉄等の無機酸の鉄(III)塩、ベンゼンスルホン酸第二鉄やパラトルエンスルホン酸第二鉄塩、アルキルナフタレンスルホン酸第二鉄塩等の有機酸の鉄(III)塩を挙げることができ、最も好適なものとして、有機スルホン酸第二鉄塩を挙げることができる。
【0041】
これらドーパント兼酸化剤の溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒が好適である。
これらの中で特に好適なものは、上記有機スルホン酸の鉄(III)が上記アルコール系溶媒に、20重量%〜90重量%、より好ましくは40重量%〜80重量%、さらに好ましくは50重量%〜70重量%溶解されたものである。
この様な濃度に溶解されたドーパント兼酸化剤を用いることで、導電性及び耐久性に優れた重合体を、複雑な形状を有する弁作用金属上に、緻密に形成することが可能となる。
【0042】
以下、本発明の固体電解コンデンサの製造方法について、アルミニウム巻回型コンデンサを作製する方法を具体例に挙げ、説明する。
【0043】
まず、陽極となるアルミニウム箔表面を、エッチングして粗面化させた後、陽極リードを接続し、ついでアジピン酸二アンモニウム等の水溶液中で化成処理して、誘電体酸化皮膜を形成させる。本発明を実施する上で、エッチング倍率の大きな箔を用いることにより、静電容量の大きなコンデンサを得ることができ、好ましい。
【0044】
別途、陰極リードを接続した対向陰極アルミニウム箔と、上記陽極アルミニウム箔との間に、マニラ紙等のセパレータを挟み込み、円筒状に巻き取り、ついで熱処理によりセパレータを炭化させて、巻回型のコンデンサ素子を準備する。
【0045】
次に、上記コンデンサ素子の陽極箔上に、導電性高分子からなる固体電解質層を形成させる。該固体電解質層を形成させる方法としては、コンデンサ素子に導電性高分子モノマーである一般式〔1〕で示される化合物を含むモノマー液を浸漬、塗布、吹き付けなどの方法により含浸させ、ついで、含浸させたモノマーに、酸化剤を接触させることによって重合反応させて固体電解質層を形成する。なお、先に酸化剤を含浸させ、その後、モノマーを接触させて重合する方法や、モノマーと酸化剤と混合した溶液を一度に含浸させて重合する方法も適用でき、特に限定されない。また、化学酸化重合は、0〜150℃の温度下、好ましくは液相中で行われる。0℃未満では、重合反応が生じにくくなり、150℃を越える温度では、コンデンサ特性が悪化する場合がある。
【0046】
上記含浸、加熱工程は複数回繰り返してもよい。
【0047】
上記工程により、陽極アルミニウム箔の微細なエッチング孔内に、導電性高分子層を十分に充填させた固体電解質層を形成することができる。
【0048】
ついで、エポキシ樹脂等を用いて、コンデンサケースを封口し、電圧を印加してエージングを行い、本発明の固体電解コンデンサを完成する。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実験例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実験例により何ら限定されるものではない。なお、実験例中、「%」は、「質量%」を表し、静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)は周波数120Hzで、等価直列抵抗(ESR)は周波数100kHzで測定した。また、容量含浸率は、固体電解質層形成前のコンデンサ素子を15%アジピン酸アンモニウム水溶液中で測定した静電容量に対し、得られた固体電解コンデンサの静電容量を百分率で示したものである。さらに、漏れ電流は4.0Vの電流を流し60秒後を数値とした。
【0050】
さらに、得られた固体電解コンデンサ素子の耐電圧は、以下のような方法にて測定した。すなわち、0Vより印加電圧を0.5V刻みで段階的に昇圧していき、各電圧で1分間保持した後の漏れ電流を測定し、コンデンサの漏れ電流が100mA以下となる最大電圧を耐電圧として評価した。
【0051】
実験例1[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
アルミニウム箔の表面をエッチングして粗面化させた後、カシメ付けにより、陽極リードを接続させ、ついで、10%アジピン酸二アンモニウム水溶液中、電圧4Vで化成処理して、表面に誘電体酸化皮膜を形成させた。
【0052】
ついで、上記陽極箔と、陰極リードとを抵抗溶接により接続させた対向陰極アルミニウム箔との間に、厚さ50μmのマニラ紙をセパレータとして挟み込み、円筒状に巻き取り、次いで、温度400℃で4分間、熱処理して、マニラ紙を炭化させて、コンデンサ素子を準備した。得られたコンデンサ素子の15%アジピン酸二アンモニウム水溶液中での静電容量は650μFであった。
【0053】
次に、モノマーである2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−プロピル−1,4−ジオキシン(2−プロピル−EDOT)と、酸化剤である50%p−トルエンスルホン酸第二鉄/n−ブタノール溶液とを準備し、両者の重量比率を1:2.5に調合した溶液に当該コンデンサ素子を120秒間浸漬後、45℃で2時間、105℃で35分、125℃で1時間加熱して、化学酸化重合を行い、コンデンサ素子中にポリ−2−プロピル−EDOTを形成させた。
【0054】
ついで、エポキシ樹脂を用いて、該コンデンサケースを封口し、両極に電圧4Vを印加させてエージングを行い、固体電解コンデンサを完成させた。
【0055】
実験例2[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ブチル−1,4−ジオキシン(2−ブチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0056】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ブチル−1,4−ジオキシン(2−ブチル−EDOT)を用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0057】
実験例3[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ペンチル−1,4−ジオキシン(2−ペンチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0058】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ペンチル−1,4−ジオキシン(2−ペンチル−EDOT)を用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0059】
実験例4[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ヘキシル−1,4−ジオキシン(2−ヘキシル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0060】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ヘキシル−1,4−ジオキシン(2−ヘキシル−EDOT)を用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0061】
実験例5[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0062】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−メチル−1,4−ジオキシン(2−メチル−EDOT)を用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0063】
実験例6[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0064】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−エチル−1,4−ジオキシン(2−エチル−EDOT)を用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0065】
実験例7[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ヒドロキシメチル−1,4−ジオキシン(2−エトキシ−EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーに2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−2−ヒドロキシメチル−1,4−ジオキシンを用いた以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0066】
実験例8[2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(EDOT)を用いた固体電解コンデンサの作製方法]
【0067】
実験例1と同様の重合前処理済みコンデンサ素子を準備し、モノマーを2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−1,4−ジオキシン(EDOT)にした以外は実験例1と同様な方法で処理を行い、固体電解コンデンサを作製した。
【0068】
それぞれ実験例1〜8にて得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、容量含浸率の電気特性を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、様々なモノマーを比較した結果、実験例1乃至6で得られた固体電解コンデンサは、実験例8のEDOTを用いた固体電解コンデンサより高耐電圧を有していることがわかった。
特に、実験例1-3で得られた固体電解コンデンサは、低ESRかつ低漏れ電流、高耐電圧を示し、極めて優れた電気特性を有する固体電解コンデンサであることがわかった。
また、実験例7のアルコキシ基を置換基に有するものを使用した固体電解コンデンサは、容量含浸率が悪く、ESRも大きいものとなった。
これらのことから、本発明の固体電解コンデンサは、従来知られている固体電解質層を有したものと異なり、優れた電気特性を有していることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式〔1〕、
【化1】

(上記〔1〕式において、Rは炭素数3〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を固体電解質として含むことを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に、下記一般式〔1〕、
【化2】

(上記〔1〕式中、Rは炭素数3〜5の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を示す。Zはそれぞれ同一でも異なっていても良い酸素原子又は硫黄原子を示す。)
で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物の重合体を、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に形成する工程を有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記重合体を、誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属上に形成する工程が、
上記一般式〔1〕で示される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物、ドーパント及び酸化剤を、液相にて接触させることにより重合を行い、前記重合体を誘電体酸化皮膜が形成された弁作用金属に形成する工程であることを特徴とする請求項2に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液を使用することを特徴とする請求項3に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記ドーパント兼酸化剤である化合物の溶液が、
有機スルホン酸第二鉄塩が20〜90重量%の範囲で有機溶媒中に溶解された溶液であることを特徴とする請求項4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2011−9314(P2011−9314A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149247(P2009−149247)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)