説明

固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】固体電解コンデンサにおいて、低ESL化及び/又は低ESR化を実現すると共に、低コスト化を実現する。
【解決手段】本発明に係る固体電解コンデンサは、陽極体1、陽極引出し層2、誘電体層3、第1電解質層4、電気絶縁部61、及び陰極層5を備えている。陽極引出し層2は、陽極体1の外周面上に形成されている。誘電体層3は、陽極体1の外周面の内、陽極引出し層2の形成領域とは異なる領域上に形成されている。第1電解質層4は、誘電体層3上に形成されている。電気絶縁部61は、陽極引出し層2と第1電解質層4との間に介在している。陰極層5は、第1電解質層4上に形成されると共に、陽極引出し層2から離間して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、従来の固体電解コンデンサを示した断面図である。図15に示す様に、従来の固体電解コンデンサは、リードタイプのコンデンサ素子81と、該コンデンサ素子81を被覆する外装部材82と、陽極端子83と、陰極端子84とを備えている(例えば、特許文献1参照)。コンデンサ素子81は、陽極体811と、該陽極体811に植立された陽極リード812と、陽極体811の外周面上に形成された誘電体層813と、該誘電体層813上に形成された電解質層814と、該電解質層814上に形成された陰極層815とを有している。陽極端子83及び陰極端子84は、所定方向89(図15の紙面において横方向)に離間して配置されている。そして、外装部材82の下面82aには、陽極端子83及び陰極端子84の露出面がそれぞれ存在し、これらの露出面により固体電解コンデンサの陽極端子面830及び陰極端子面840が構成されている。
【0003】
コンデンサ素子81は、陽極リード812の引出し部812aを所定方向89へ向けた姿勢で、陽極端子83及び陰極端子84上に搭載されている。そして、陽極リード812の引出し部812aと陽極端子83とが、導電性を有する枕部材85を介して互いに電気的に接続されている。又、陰極層815と陰極端子84とが、これらの間に導電性接着材(図示せず)を介在させることにより、互いに電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−91784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の固体電解コンデンサにおいては、該固体電解コンデンサの電極の内、陽極側の電極が陽極体811によって構成され、陰極側の電極が電解質層814及び陰極層815によって構成されている。そして、陽極側の電極が、陽極リード812によってコンデンサ素子81の外部へ引き出されている。このため、従来の固体電解コンデンサには、低ESL(等価直列インダクタンス)化及び/又は低ESR(等価直列抵抗)化の実現に限界があった。なぜなら、陽極リード812は細い金属ワイヤから構成されており、このため、陽極リード812のインダクタンス及び抵抗を低減させることが難しいからである。
【0006】
又、従来の固体電解コンデンサには、低コスト化の実現に限界があった。なぜなら、陽極リード812は、タンタル(Ta)等の高価な金属材料から形成されており、又、陽極リード812は、固体電解コンデンサの製造を煩雑化させる要因になっているからである。
【0007】
そこで本発明の目的は、固体電解コンデンサにおいて、低ESL化及び/又は低ESR化を実現すると共に、低コスト化を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る固体電解コンデンサは、陽極体、陽極引出し層、誘電体層、第1電解質層、電気絶縁部、及び陰極層を備えている。陽極引出し層は、陽極体の外周面上に形成されている。誘電体層は、陽極体の外周面の内、陽極引出し層の形成領域とは異なる領域上に形成されている。第1電解質層は、誘電体層上に形成されている。電気絶縁部は、陽極引出し層と第1電解質層との間に介在している。陰極層は、第1電解質層上に形成されると共に、陽極引出し層から離間して配置されている。
【0009】
上記固体電解コンデンサにおいては、該固体電解コンデンサの電極の内、陽極側の電極が陽極体によって構成され、陰極側の電極が第1電解質層及び陰極層によって構成される。そして、陽極側の電極が、陽極引出し層によって固体電解コンデンサの外周面へ引き出される。又、電気絶縁部の存在により、陽極引出し層は陰極側の電極に短絡することがない。斯くして、陽極側の電極の引出しが、陽極リードを用いることなく実現されている。
【0010】
上記固体電解コンデンサの具体的構成において、陽極引出し層は、第2電解質層及び陽極層を有している。第2電解質層は、陽極体の外周面の内、陽極引出し層が形成される領域上に形成されている。陽極層は、第2電解質層上に形成されている。
【0011】
上記固体電解コンデンサの他の具体的構成において、陽極引出し層と第1電解質層との間には溝部が形成され、該溝部の底面は、少なくとも誘電体層の外周面が存在する深さ位置に達している。そして、電気絶縁部が溝部によって構成されている。
【0012】
本発明に係る固体電解コンデンサの製造方法は、工程(a)乃至工程(f)を有している。工程(a)では、陽極体の外周面上に誘電体層を形成する。工程(b)では、誘電体層に対して、該誘電体層をその外周面から内周面まで貫通した貫通孔を形成する。工程(c)は、工程(b)の後に実行される。工程(c)では、誘電体層の外周面上、並びに陽極体の外周面の内、貫通孔の形成により出現した露出面上に、電解質を主成分として含む母層を形成する。工程(d)は、母層の一部に対して加工を施すことにより、電気絶縁部を形成する工程である。工程(d)では、電気絶縁部によって互いに電気的に絶縁された第1電解質層と第2電解質層とが母層から形成され、且つ、該第1電解質層及び第2電解質層の内、第2電解質層が、貫通孔の内側を通って陽極体に対して電気的に接続されることとなる様に、電気絶縁部が形成される。工程(e)では、第1電解質層上に陰極層を形成する。工程(f)では、第2電解質層上に陽極層を形成する。
【0013】
上記製造方法の具体的態様において、工程(c)の後、工程(g)及び工程(h)を実行することにより、工程(d)乃至工程(f)を遂行する。工程(g)では、母層の外周面上に電極層を形成する。工程(h)は、工程(g)迄の過程で陽極体の外周面上に形成された積層膜に対して加工を施すことにより、少なくとも電極層及び母層を貫いた溝部を形成する工程である。工程(h)では、溝部の存在により、互いに離間して配置された陰極層と陽極層とが電極層から形成され、且つ、互いに離間して配置された第1電解質層と第2電解質層とが母層から形成されることとなる様に、溝部が形成される。そして、該溝部によって電気絶縁部が構成される。
【0014】
本発明に係る固体電解コンデンサの他の製造方法は、工程(i)乃至工程(n)を有している。工程(i)では、陽極体の外周面上に誘電体層を形成する。工程(j)では、誘電体層の外周面上に、電解質を主成分として含む母層を形成する。工程(k)では、誘電体層及び母層に対して、それらを母層の外周面から誘電体層の内周面まで貫通した貫通孔を形成する。工程(l)では、母層の内、貫通孔の形成により出現した端部を加熱することにより、該端部を電気的に絶縁化する。これにより、母層の端部が電気絶縁部となる。工程(m)では、陽極体の外周面の内、貫通孔の形成により出現した露出面上に、陽極引出し層を形成する。工程(n)では、母層の外周面の内、貫通孔の形成領域から離間した領域上に、陰極層を形成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る固体電解コンデンサ及びその製造方法によれば、低ESL化及び/又は低ESR化を実現すると共に、低コスト化を実現することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る固体電解コンデンサを、その下面側から見て示した斜視図である。
【図2】図1に示されるA−A線に沿う断面図である。
【図3】第1実施形態に係る固体電解コンデンサの変形例を示した断面図である。
【図4】第1実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法にて実行される誘電体層形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図5】該製造方法にて実行される貫通孔形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図6】該製造方法にて実行される母層形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図7】該製造方法にて実行される電極層形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図8】該製造方法にて実行される溝部形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る固体電解コンデンサを示した断面図である。
【図10】第2実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法にて実行される絶縁化工程の説明に用いられる断面図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る固体電解コンデンサを示した断面図である。
【図12】第3実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法にて実行される母層形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図13】該製造方法にて実行される貫通孔形成工程の説明に用いられる断面図である。
【図14】該製造方法にて実行される絶縁化工程の説明に用いられる断面図である。
【図15】従来の固体電解コンデンサを示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態に係る固体電解コンデンサを、その下面側から見て示した斜視図である。図2は、図1に示されるA−A線に沿う断面図である。図1及び図2に示す様に、本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体1、陽極引出し層2〜2、誘電体層3、第1電解質層4、陰極層5、及び溝部61〜61を備えている。
【0018】
陽極体1は、略直方体形状を呈した多孔質焼結体から構成されている。該多孔質焼結体を形成する材料には、タンタル(Ta)、ニオブ(Ni)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)等の弁作用金属が用いられる。
【0019】
陽極引出し層2〜2はそれぞれ、陽極体1の外周面の内、通常の使用状態において下面となる第1面11の複数箇所に設定された所定領域R〜R上に形成されている。尚、本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体1の第1面11上に2つの陽極引出し層2〜2が配列されたアレイ構造を有している(図1参照)。又、各陽極引出し層2の表面は、後述する陰極層5の外周面と略同一平面上で揃っている(図2参照)。
【0020】
各陽極引出し層2は、導電性を有すると共に、陽極体1に対して電気的に接続されている。具体的には、陽極引出し層2は、第1面11の所定領域R上に形成された第2電解質層21と、該第2電解質層21上に形成された陽極層22とから構成されている。尚、各陽極引出し層2には、図2に示す様に、誘電体層3の一部が含まれていてもよい。
【0021】
第2電解質層21は、固体電解質を主成分として含んでいる。固体電解質として、二酸化マンガン等の導電性無機材料、TCNQ(Tetracyano-quinodimethane)錯塩や導電性ポリマー等の導電性有機材料が用いられる。陽極層22は、第2電解質層21上に形成されたカーボン層(図示せず)と、該カーボン層上に形成された銀ペイント層(図示せず)とから構成されている。尚、陽極層22は、導電性を有するメッキ層から構成されていてもよい。
【0022】
誘電体層3は、陽極体1の外周面の内、陽極引出し層2〜2の形成領域とは異なる領域上に形成されている。誘電体層3は、陽極体1の外周面を酸化させることにより形成された酸化被膜から構成されている。
【0023】
第1電解質層4は、誘電体層3上に形成されている。第1電解質層4は、第2電解質層21と同様、固体電解質を主成分として含んでいる。陰極層5は、第1電解質層4上に形成されている。具体的には、陰極層5は、第1電解質層4上に形成されたカーボン層(図示せず)と、該カーボン層上に形成された銀ペイント層(図示せず)とから構成されている。尚、陰極層5は、導電性を有するメッキ層から構成されていてもよい。
【0024】
図1及び図2に示す様に、溝部61〜61はそれぞれ、各陽極引出し層2に1つずつ対応させて、陽極引出し層2〜2と陰極層5との間に形成されている。具体的には、各溝部61は、これに対応する陽極引出し層2の周囲に形成されると共に、該陽極引出し層2を包囲している。そして、各溝部61の底面は、陽極体1の第1面11(外周面)が存在する深さ位置に達している(図2参照)。従って、各陽極引出し層2と陰極層5との間には、該陽極引出し層2に対応する溝部61が介在している。そして、溝部61〜61の存在により、陰極層5は、陽極引出し層2〜2から離間して配置されている。又、各陽極引出し層2と第1電解質層4との間にも、該陽極引出し層2に対応する溝部61が介在している。そして、溝部61〜61によって、陽極引出し層2〜2と第1電解質層4とが互いに電気的に絶縁されている。斯くして、各溝部61は、これに対応する陽極引出し層2と第1電解質層4との間に介在する電気絶縁部として機能している。
【0025】
本実施形態の固体電解コンデンサは、例えば回路基板に実装される。このとき、陽極引出し層2〜2が、回路基板に設けられた陽極ランドに対して電気的に接続される。又、陰極層5の外周面の内、通常の使用状態において下面となる面の所定領域(陰極ランド接続領域)5L〜5L(図1参照)が、回路基板に設けられた陰極ランドに対して電気的に接続される。
【0026】
図3は、第1実施形態に係る固体電解コンデンサの変形例を示した断面図である。図3に示す様に、各溝部61は、その底面が、誘電体層3の外周面が存在する深さ位置に達した構成を有していてもよい。この構成においても、図2に示す構成と同様、溝部61〜61によって、陽極引出し層2〜2と第1電解質層4とが互いに電気的に絶縁されることになる。
【0027】
次に、第1実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法について説明する。該製造方法では、誘電体層形成工程、貫通孔形成工程、母層形成工程、電極層形成工程、及び溝部形成工程が、順に実行される。
【0028】
図4は、誘電体層形成工程の説明に用いられる断面図である。図4に示す様に、誘電体層形成工程では、陽極体1に対して化成処理を施すことにより、陽極体1の外周面上に誘電体層3を形成する。具体的には、陽極体1を化成液に浸漬させると共に、陽極体1に対して外部電極を電気的に接触させる。そして、この状態で外部電極と化成液との間に電圧を印加することにより、陽極体1の外周面を電気化学的に酸化させる。これにより、陽極体1の外周面上に酸化被膜が形成され、該酸化被膜が誘電体層3となる。尚、化成液として、リン酸水溶液やアジピン酸水溶液等の溶液が用いられる。
【0029】
図5、貫通孔形成工程の説明に用いられる断面図である。図5に示す様に、貫通孔形成工程では、誘電体層3に対してレーザ剥離等の加工を施すことにより、誘電体層3の所定箇所P1に、該誘電体層3をその外周面から内周面まで貫通した貫通孔71を形成する。ここで、所定箇所P1は、陽極引出し層2〜2を形成せんとする複数箇所に設定されている。
【0030】
図6、母層形成工程の説明に用いられる断面図である。図6に示す様に、母層形成工程では、電解重合法又は化学重合法を用いて、誘電体層3の外周面上、並びに陽極体1の外周面の内、各貫通孔71の形成により出現した露出面12上に、固体電解質を主成分として含む母層41を形成する。具体的には、陽極体1を重合液に浸漬させると共に、該重合液を電気的又は化学的に重合させる。これにより、誘電体層3の外周面及び陽極体1の露出面12〜12上に重合膜が形成され、該重合膜が母層41となる。又、母層41は、各貫通孔71の内側を通って、陽極体1に対して電気的に接続されることになる。
【0031】
図7、電極層形成工程の説明に用いられる断面図である。図7に示す様に、電極層形成工程では、母層41の外周面上に電極層51を形成する。具体的には、先ず、陽極体1をカーボンペーストに浸漬させることにより、母層41の外周面上にカーボン層(図示せず)を形成する。次に、陽極体1を銀ペーストに浸漬させることにより、カーボン層上に銀ペイント層(図示せず)を形成する。尚、母層41の外周面にメッキ処理を施すことにより、電極層51となるメッキ層を形成してもよい。斯くして、電極層形成工程迄の過程で、陽極体1の外周面上には、誘電体層3、母層41、及び電極層51が形成され、これらの層によって積層膜70が構成される。
【0032】
図8、溝部形成工程の説明に用いられる断面図である。図8に示す様に、溝部形成工程では、積層膜70に対してパターンエッチング等の加工を施すことにより、積層膜70の所定箇所P2に、少なくとも電極層51及び母層41を貫いた溝部61を形成する。ここで、所定箇所P2は、積層膜70の内、陽極引出し層2にならしめる部分(即ち、貫通孔71が形成されている部分)の周囲に、該部分を包囲して設定されている。尚、本実施形態においては、積層膜70の複数箇所に、陽極引出し層2にならしめる部分が設けられており、各部分の周囲に所定箇所P2が設定されている。又、各溝部61は、電極層51及び母層41に加えて誘電体層3をも貫いている。従って、各溝部61の底面は、陽極体1の第1面11(外周面)が存在する深さ位置に達している。
【0033】
溝部形成工程の実行により、各溝部61の形成箇所の内側に陽極引出し層2が形成される。ここで、母層41からは、各溝部61の形成箇所の外側に第1電解質層4が形成され、各溝部61の形成箇所の内側に第2電解質層21が形成される。これにより、第1電解質層4と第2電解質層21〜21とは、互いに離間して配置されることになる。即ち、第1電解質層4と第2電解質層21〜21とは、溝部61〜61によって互いに電気的に絶縁されることになる。又、各第2電解質層21は、貫通孔71の内側を通って陽極体1に対して電気的に接続されることになる。一方、電極層51からは、各溝部61の形成箇所の外側に陰極層5が形成され、各溝部61の形成箇所の内側に陽極層22が形成される。これにより、陰極層5と陽極層22〜22とは、互いに離間して配置されることになる。又、第1電解質層4上に陰極層5が形成され、各第2電解質層21上に陽極層22が形成されることになる。
【0034】
斯くして、図1及び図2に示す固体電解コンデンサが完成する。尚、溝部形成工程では、溝部61は、電極層51及び母層41を貫く一方で誘電体層3を貫かない構成となる様に形成されてもよい(図3参照)。
【0035】
本実施形態の固体電解コンデンサにおいては、該固体電解コンデンサの電極の内、陽極側の電極が陽極体1によって構成され、陰極側の電極が第1電解質層4及び陰極層5によって構成される。そして、陽極側の電極が、陽極引出し層2〜2によって固体電解コンデンサの下面(外周面)へ引き出されている。又、溝部61〜61の存在により、陽極引出し層2〜2は陰極側の電極に短絡することがない。斯くして、陽極側の電極の引出しが、陽極リードを用いることなく実現されている。ここで、各陽極引出し層2のインダクタンス及び抵抗はそれぞれ、陽極リードのインダクタンス及び抵抗に比べて著しく小さい。従って、本実施形態の固体電解コンデンサによれば、従来の固体電解コンデンサ(図15参照)に比べてESL及び/又はESRが減少する。よって、固体電解コンデンサの低ESR化及び/又は低ESR化が実現されることになる。
【0036】
又、本実施形態の固体電解コンデンサにおいては、陽極引出し層2〜2が、安価な導電材料を用いて形成されている。又、陽極リードを用いなくて済む分、従来の固体電解コンデンサ(図15参照)に比べて製造が簡略化されることになる。従って、本実施形態の固体電解コンデンサによれば、従来の固体電解コンデンサに比べて製造コストが減少する。よって、固体電解コンデンサの低コスト化が実現されることになる。
【0037】
更に、本実施形態の固体電解コンデンサはアレイ構造を有しており、2つの陽極引出し層2〜2が陽極体1の第1面11上に配列されている。又、各陽極引出し層2が陰極層5によって包囲されている。従って、陽極引出し層2〜2と陰極層5との間に電圧が印加されたとき、陽極引出し層2〜2から生じる磁界と陰極層5から生じる磁界とが、互いに打ち消し合い易くなる。即ち、固体電解コンデンサにおいて、電流相殺効果が生じ易くなる。よって、本実施形態の固体電解コンデンサによれば、更なる低ESL化が実現され易い。
【0038】
図9は、本発明の第2実施形態に係る固体電解コンデンサを示した断面図である。本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体1、陽極引出し層2〜2、誘電体層3、第1電解質層4、及び陰極層5を備えており(図9参照)、これらの構成は、図3に示す固体電解コンデンサの構成と同様である。その一方で、本実施形態の固体電解コンデンサは、図3に示す固体電解コンデンサが備える溝部61〜61に代えて、固体電解質を絶縁化して形成された電気絶縁部62〜62を備えている。ここで、電気絶縁部62〜62はそれぞれ、各陽極引出し層2に1つずつ対応させて、陽極引出し層2〜2と第1電解質層4との間に形成されている。具体的には、各電気絶縁部62は、これに対応する陽極引出し層2の周囲に形成されると共に、該陽極引出し層2を包囲している。従って、各陽極引出し層2と第1電解質層4との間には、該陽極引出し層2に対応する電気絶縁部62が介在している。
【0039】
次に、第2実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法について説明する。該製造方法では、第1実施形態の製造方法と同様の方法で、誘電体層形成工程、貫通孔形成工程、及び母層形成工程が、順に実行される。第2実施形態の製造方法では、その後、絶縁化工程及び電極層形成工程が順に実行される。
【0040】
図10は、絶縁化工程の説明に用いられる断面図である。図10に示す様に、絶縁化工程では、レーザ照射等の手法を用いて母層41の所定箇所P3を加熱することにより、該所定箇所P3に存在する固体電解質を電気的に絶縁化する。ここで、所定箇所P3は、母層41の内、第2電解質層21にならしめる部分の周囲に、該部分を包囲して設定されている。尚、本実施形態においては、母層41の複数箇所に、第2電解質層21にならしめる部分が設けられており、各部分の周囲に所定箇所P3が設定されている。
【0041】
固体電解質として、例えば導電性高分子であるポリピロールが用いられる。ポリピロールは、これを300℃〜400℃に加熱することにより、電気的に絶縁化される。
【0042】
絶縁化工程の実行により、母層41の各所定箇所P3に電気絶縁部62が形成される。そして、母層41からは、各電気絶縁部62の形成箇所の外側に第1電解質層4が形成され、各電気絶縁部62の形成箇所の内側に第2電解質層21が形成される。これにより、第1電解質層4と第2電解質層21〜21とは、互いに離間して配置されることになる。即ち、第1電解質層4と第2電解質層21〜21とは、電気絶縁部62〜62によって互いに電気的に絶縁されることになる。又、各第2電解質層21は、貫通孔71の内側を通って陽極体1に対して電気的に接続されることになる。
【0043】
電極層形成工程では、図9に示す様に、第1電解質層4上に陰極層5を形成し、又、各第2電解質層21上に陽極層22を形成する。具体的には、先ず、第1電解質層4及び第2電解質層21〜21上に、印刷等の手法を用いてカーボン層を選択的に形成する。その後、カーボン層上に、印刷等の手法を用いて銀ペイント層を選択的に形成する。斯くして、図9に示す固体電解コンデンサが完成する。尚、第1電解質層4及び第2電解質層21〜21の外周面にメッキ処理を選択的に施すことにより、陰極層5及び陽極層22〜22となるメッキ層を形成してもよい。又、陽極層22〜22の形成は、陰極層5の形成に並行して行われてもよいし、陰極層5の形成とは別の過程で行われてもよい。
【0044】
本実施形態の固体電解コンデンサによれば、第1実施形態の固体電解コンデンサと同様、従来の固体電解コンデンサに比べてESL及び/又はESRが減少する。よって、固体電解コンデンサの低ESR化及び/又は低ESR化が実現されることになる。又、従来の固体電解コンデンサに比べて製造コストが減少する。よって、固体電解コンデンサの低コスト化が実現されることになる。
【0045】
図11は、本発明の第3実施形態に係る固体電解コンデンサを示した断面図である。本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体1、陽極引出し層23〜23、誘電体層3、第1電解質層4、陰極層5、及び電気絶縁部62〜62を備えている(図11参照)。ここで、陽極引出し層23〜23以外の各部構成は、第2実施形態の固体電解コンデンサ(図9参照)の構成と同様である。
【0046】
陽極引出し層23〜23はそれぞれ、第1実施形態の固体電解コンデンサ(図2参照)が備える陽極引出し層2〜2と同様、陽極体1の所定領域R〜R上に形成されている。そして、各陽極引出し層23は、これに対応する所定領域R上に形成されたカーボン層(図示せず)と、該カーボン層上に形成された銀ペイント層(図示せず)とから構成されている。尚、各陽極引出し層23は、導電性を有するメッキ層から構成されていてもよい。
【0047】
次に、第3実施形態に係る固体電解コンデンサの製造方法について説明する。該製造方法では、誘電体層形成工程、母層形成工程、貫通孔形成工程、絶縁化工程、及び電極層形成工程が、順に実行される。尚、誘電体層形成工程は、第1実施形態で説明した誘電体層形成工程と同様の方法で行われる。
【0048】
図12は、母層形成工程の説明に用いられる断面図である。図12に示す様に、母層形成工程では、電解重合法又は化学重合法を用いて、誘電体層3の外周面上に、固体電解質を主成分として含む母層42を形成する。具体的には、陽極体1を重合液に浸漬させると共に、該重合液を電気的又は化学的に重合させる。これにより、誘電体層3の外周面上に重合膜が形成され、該重合膜が母層42となる。斯くして、母層形成工程迄の過程で、陽極体1の外周面上には、誘電体層3及び母層42が形成され、これらの層によって積層膜72が構成される。
【0049】
図13は、貫通孔形成工程の説明に用いられる断面図である。図13に示す様に、貫通孔形成工程では、積層膜72に対してレーザ剥離等の加工を施すことにより、積層膜72の所定箇所P4に、該積層膜72を母層42の外周面から誘電体層3の内周面まで貫通した貫通孔73を形成する。ここで、所定箇所P4は、陽極引出し層23〜23を形成せんとする複数箇所に設定されている。
【0050】
図14は、絶縁化工程の説明に用いられる断面図である。図14に示す様に、絶縁化工程では、レーザ照射等の手法を用いて、母層42の内、貫通孔73〜73の形成により出現した端部421を、各貫通孔73周りの全域に亘って加熱する。これにより、該端部421に存在する固体電解質を電気的に絶縁化する。尚、固体電解質として、例えば導電性高分子であるポリピロールが用いられる。ポリピロールは、これを300℃〜400℃に加熱することにより、電気的に絶縁化される。
【0051】
絶縁化工程の実行により、母層42の端部421が電気絶縁部62となる。そして、母層42の内、端部421とは異なる部分が、第1電解質層4となる。尚、貫通孔73の形成にレーザ光線を用いた場合、貫通孔73の形成に伴って、母層42の端部421が加熱されることになる。従って、レーザ光線を用いることにより、貫通孔形成工程と絶縁化工程とを一工程で成し遂げてもよい。
【0052】
電極層形成工程では、図11に示す様に、陽極体1の外周面の内、各貫通孔73の形成により出現した露出面13(図14参照)上に、陽極引出し層23を形成する。電極層形成工程では更に、母層42の外周面の内、貫通孔73の形成領域から離間した領域上に、陰極層5を形成する。本実施形態においては、第1電解質層4上に陰極層5が形成される。
【0053】
具体的には、先ず、陽極体1の露出面13〜13及び第1電解質層4上に、印刷等の手法を用いてカーボン層を選択的に形成する。その後、カーボン層上に、印刷等の手法を用いて銀ペイント層を選択的に形成する。斯くして、図11に示す固体電解コンデンサが完成する。尚、陽極体1の露出面13〜13及び第1電解質層4の外周面にメッキ処理を選択的に施すことにより、陽極引出し層23〜23及び陰極層5となるメッキ層を形成してもよい。又、陽極引出し層23〜23の形成は、陰極層5の形成に並行して行われてもよいし、陰極層5の形成とは別の過程で行われてもよい。
【0054】
本実施形態の固体電解コンデンサによれば、第1実施形態の固体電解コンデンサと同様、従来の固体電解コンデンサに比べてESL及び/又はESRが減少する。よって、固体電解コンデンサの低ESR化及び/又は低ESR化が実現されることになる。又、従来の固体電解コンデンサに比べて製造コストが減少する。よって、固体電解コンデンサの低コスト化が実現されることになる。
【0055】
尚、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。例えば、各実施形態の固体電解コンデンサにおいて、陽極引出し層2又は陽極引出し層23は、陽極体1の外周面上の1箇所に設けられていてもよいし、2箇所に限らない複数箇所に設けられていてもよい。又、陽極引出し層2又は陽極引出し層23は、陽極体1の外周面の内、通常の使用状態において上面又は側面となる面に形成されていてもよい。更に、陰極ランド接続領域5Lは、陰極層5の外周面上の1箇所に設定されていてもよいし、2箇所に限らない複数箇所に設定されていてもよい。又、陰極ランド接続領域5Lは、陰極層5の外周面の内、通常の使用状態において上面又は側面となる面に設定されていてもよい。
【0056】
各実施形態の固体電解コンデンサは、陽極引出し層2又は陽極引出し層23に陽極端子が電気的に接続され、又、陰極層5に陰極端子が電気的に接続された構成を有しいてもよい。この構成によれば、陽極端子及び陰極端子の配置等、陽極端子及び陰極端子に関する設計について、その自由度が、従来の固体電解コンデンサ(図15参照)に比べて高くなる。
【0057】
第1実施形態の製造方法において、溝部61の形成(溝部形成工程)は、電極層形成工程の前に、誘電体層3及び母層41の内、少なくとも母層41に対して実行されてもよい。この場合、電極層形成工程では、第1電解質層4及び第2電解質層21〜21上に選択的に電極層が形成されることになる。そして、第1電解質層4上の電極層が陰極層5となり、各第2電解質層21上の電極層が陽極層22となる。
【符号の説明】
【0058】
1 陽極体
11 第1面
12,13 露出面
2 陽極引出し層
21 第2電解質層
22 陽極層
23 陽極引出し層
3 誘電体層
4 第1電解質層
41 母層
42 母層
421 端部
5 陰極層
51 電極層
61 溝部
62 電気絶縁部
70 積層膜
71 貫通孔
72 積層膜
73 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、
前記陽極体の外周面上に形成された陽極引出し層と、
前記陽極体の外周面の内、陽極引出し層の形成領域とは異なる領域上に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に形成された第1電解質層と、
前記陽極引出し層と第1電解質層との間に介在した電気絶縁部と、
前記第1電解質層上に形成されると共に、前記陽極引出し層から離間して配置された陰極層と
を備える、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記陽極引出し層は、
前記陽極体の外周面の内、陽極引出し層が形成される領域上に形成された第2電解質層と、
前記第2電解質層上に形成された陽極層と
を有している、請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陽極引出し層と第1電解質層との間には溝部が形成され、該溝部の底面は、少なくとも誘電体層の外周面が存在する深さ位置に達しており、前記電気絶縁部が溝部によって構成されている、請求項1又は請求項2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
(a)陽極体の外周面上に誘電体層を形成する工程と、
(b)前記誘電体層に対して、該誘電体層をその外周面から内周面まで貫通した貫通孔を形成する工程と、
(c)前記工程(b)の後、前記誘電体層の外周面上、並びに前記陽極体の外周面の内、前記貫通孔の形成により出現した露出面上に、電解質を主成分として含む母層を形成する工程と、
(d)前記母層の一部に対して加工を施すことにより、電気絶縁部を形成する工程であって、該電気絶縁部によって互いに電気的に絶縁された第1電解質層と第2電解質層とが前記母層から形成され、且つ、該第1電解質層及び第2電解質層の内、第2電解質層が、前記貫通孔の内側を通って陽極体に対して電気的に接続されることとなる様に、前記電気絶縁部が形成される工程と、
(e)前記第1電解質層上に陰極層を形成する工程と、
(f)前記第2電解質層上に陽極層を形成する工程と
を有する、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)の後、
(g)前記母層の外周面上に電極層を形成する工程と、
(h)前記工程(g)迄の過程で陽極体の外周面上に形成された積層膜に対して加工を施すことにより、少なくとも電極層及び母層を貫いた溝部を形成する工程であって、該溝部の存在により、互いに離間して配置された陰極層と陽極層とが前記電極層から形成され、且つ、互いに離間して配置された第1電解質層と第2電解質層とが前記母層から形成されることとなる様に、前記溝部が形成され、該溝部によって前記電気絶縁部が構成される工程と
を実行することにより、前記工程(d)乃至工程(f)を遂行する、請求項4に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
(i)陽極体の外周面上に誘電体層を形成する工程と、
(j)前記誘電体層の外周面上に、電解質を主成分として含む母層を形成する工程と、
(k)前記誘電体層及び母層に対して、それらを母層の外周面から誘電体層の内周面まで貫通した貫通孔を形成する工程と、
(l)前記母層の内、前記貫通孔の形成により出現した端部を加熱することにより、該端部を電気的に絶縁化する工程と、
(m)前記陽極体の外周面の内、前記貫通孔の形成により出現した露出面上に、陽極引出し層を形成する工程と、
(n)前記母層の外周面の内、前記貫通孔の形成領域から離間した領域上に、陰極層を形成する工程と
を有する、固体電解コンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−243783(P2012−243783A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109007(P2011−109007)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)