説明

固体電解コンデンサ用セパレータ及びそれを用いた固体電解コンデンサ

【課題】レコード巻きの巻き崩れが起きにくく、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れる固体電解コンデンサ用セパレータ及びショート不良率とESRが低く、ESRのばらつきが小さい固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の下記で定義される変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmである固体電解コンデンサ用セパレータ。変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ用セパレータ及び固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子を用いる固体電解コンデンサ用セパレータとして、ビニロン繊維のみからなるセパレータ、ビニロン繊維を主体とする合繊セパレータ(例えば、特許文献1参照)が開示されている。また、ポリエステル樹脂を含有する湿式不織布からなるセパレータを用いた固体電解コンデンサも開示されている(例えば、特許文献2参照)。これらのセパレータは、繊維間の隙間が大きく、緻密性に欠けるため、導電性高分子重合溶液やモノマー溶液の吸液性が悪く、セパレータ内部における導電性高分子の重合が不均一で、固体電解コンデンサの静電容量が小さくなる、ESRのばらつきが大きくなる等の問題と、電極のバリがセパレータを貫通しやすく、ショート不良率が高くなる問題があった。また、ビニロン繊維が皮膜を形成するため、導電性高分子の導電性が悪くなり、ESRが高くなる問題があった。
【0003】
固体電解コンデンサ用セパレータとして最も一般的に使用されているのは、エスパルトや麻パルプなどのセルロース繊維100%からなる紙セパレータである。紙セパレータは、導電性高分子を重合する際に用いる酸化剤と反応し、導電性高分子の重合を阻害してしまうという欠点がある。重合を阻害しないように、紙セパレータには、予め炭化処理が施される。炭化処理は一般的に280℃以上の温度で行われることが多い。そのため、固体電解コンデンサの製造工程が煩雑になる、炭化処理によって紙セパレータが脆くなり、崩れやすくなる、電極のバリがセパレータを貫通しやすくなり、ショート不良率が高くなる、リード線や封止材などのコンデンサ部品が劣化する等の問題があった。
【0004】
また、フィブリル化アクリル繊維を含有させた固体電解コンデンサ用セパレータも開示されている(例えば、特許文献3参照)。このフィブリル化アクリル繊維を含有させたセパレータは、フィブリル化アクリル繊維の配合量が少ない場合には、繊維間の隙間が大きすぎるために、導電性高分子重合溶液の吸液性が悪く、セパレータ内部における導電性高分子の重合が不均一で、固体電解コンデンサの静電容量が小さくなる、ESRのばらつきが大きくなる等の問題と、電極のバリがセパレータを貫通しやすく、ショート不良率が高くなる問題があった。反対に、フィブリル化アクリル繊維の配合量が多い場合には、フィブリルの存在により導電性高分子の導電性が悪くなり、ESRが高くなる問題があった。
【0005】
ポリアミド繊維を主体繊維とするセパレータを具備した電解コンデンサが開示されている(例えば、特許文献4参照)。ポリアミド繊維を主体繊維とするセパレータは、隙間が大きすぎるために、導電性高分子重合溶液やモノマー溶液の吸液性が悪く、セパレータ内部における導電性高分子の重合が不均一なため、固体電解コンデンサの静電容量が小さくなる、ESRのばらつきが大きくなる等の問題、電極のバリがセパレータを貫通しやすく、ショート不良率が高くなる問題があった。また、湿熱融着樹脂を含有する場合には、該樹脂が皮膜を形成するため、導電性高分子の導電性が悪くなり、ESRが高くなる問題があった。
【0006】
本発明者らは、アクリル短繊維とフィブリル化セルロースとを含有するセパレータ(例えば特許文献5参照)、セルロース繊維、フィブリル状耐熱性繊維、アクリル短繊維を必須成分とするセパレータ(例えば、特許文献6参照)、フィブリル化セルロース、非フィブリル化繊維、軟化点、融点、熱分解温度の何れもが250℃以上、700℃以下のフィブリル化耐熱性繊維を含有する湿式不織布からなり、該湿式不織布を250℃で50時間熱処理したときのMD(マシンディレクション)とCD(MDに対して直角の方向)の寸法変化率が何れも−3%〜+1%であることを特徴とする電気化学素子用セパレータ(例えば、特許文献7参照)を開示している。これらのセパレータは、導電性高分子の吸液性が不十分な場合があり、静電容量やESRに改善の余地があった。
【0007】
さらに、特許文献1〜7のセパレータは、何れもセパレータ表面が滑りやすく、腰がないため、例えば3mm程度以下の巾にスリットして、レコード巻きといわれる同一位置で同心状に巻き取るロールに仕上げた場合、取り扱い時に巻き崩れが起きるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3319501号公報
【特許文献2】特許第3606137号公報
【特許文献3】特開2006−344742号公報
【特許文献4】特開2002−198263号公報
【特許文献5】特開2009−59730号公報
【特許文献6】特開2009−141047号公報
【特許文献7】国際公開第2005/101432号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記実情を鑑みたものであって、レコード巻きの巻き崩れが起きず、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れる固体電解コンデンサ用セパレータ及びショート不良率とESRが低く、ESRのばらつきが小さい固体電解コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、この課題を解決するために鋭意研究を行った結果、セルロース繊維の種類と濾水度の最適化、さらにはセルロース繊維の繊維長分布を最適化することによって、レコード巻きの巻き崩れが起きず、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れること、該セパレータを具備した固体電解コンデンサはショート不良率とESRが低く優れ、ESRのばらつきが小さいことを見出し、下記の本発明に至ったものである。
【0011】
(1)合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の下記で定義される変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmである固体電解コンデンサ用セパレータ。
【0012】
変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度。
【0013】
(2)叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である(1)記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
(3)叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である(2)記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【0014】
(4)叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である(1)記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
(5)叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する(4)記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【0015】
(6)(1)〜(5)の何れかに記載の固体電解コンデンサ用セパレータを具備してなる固体電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固体電解コンデンサ用セパレータ(1)は、合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmであるため、セパレータの細孔が均一に形成され、適度な緻密性を有し、導電性高分子重合溶液やモノマー溶液の吸液性に優れ、導電性高分子を均一に重合させることができる。そのため、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサはショート不良率とESRとが低く、ESRのばらつきが小さく、優れている。本発明の固体電解コンデンサ用セパレータは、合成短繊維を含有するため、炭化処理後の強度が強く、溶剤紡糸セルロース繊維を含有するため、表面が滑りにくく、静電気を帯びにくいため、レコード巻きの巻き崩れが起きない。
【0017】
また、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である固体電解コンデンサ用セパレータ(2)では、導電性高分子重合溶液の吸液性が良く、さらに、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である固体電解コンデンサ用セパレータ(3)では、導電性高分子重合溶液の吸液性がより優れている。
【0018】
そして、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である固体電解コンデンサ用セパレータ(4)では、繊維間隙が狭くなりすぎず、広くもなりすぎず、吸液性と導電性を両立できる。また、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する固体電解コンデンサ用セパレータ(5)では、このようなピークを有さない溶剤紡糸セルロース繊維よりも、吸液性が良くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度(試料濃度を0.03%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度)の関係を表したグラフである。
【図2】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフの一例である。
【図3】本発明の実施例で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度(ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度)を表したグラフである。
【図4】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図5】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の繊維長分布ヒストグラムである。
【図6】叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]及び[II]の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.0〜2.0mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合のグラフと近似直線を示した図である。
【図7】0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[i]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【図8】最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[ii]の繊維長分布ヒストグラムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、「セパレータ」と表記する場合は、固体電解コンデンサ用セパレータを意味する。本発明における皮膜とは、繊維形状ではなく、平面的に不定形に形成された膜で、貫通孔のない部分の面積が少なくとも2500μm以上である膜を指す。
【0021】
本発明における合成短繊維は、繊維長0.5〜10mmのものが用いられ、1〜6mmが好ましく用いられる。繊維長が0.5mm未満だと、セパレータから脱落しやすくなる場合があり、10mmより長いと繊維同士がよれて、地合や厚みが不均一になる場合がある。合成短繊維の繊度は0.001〜1.7dtexが好ましく、0.05〜1.1dtexがより好ましい。0.001dtex未満では繊維自身の強度が弱く、セパレータが破断しやすくなる場合がある。1.7dtexより太くなると、セパレータの厚みを薄くしにくくなる場合がある。本発明における合成短繊維としては、ポリエステル類、アクリル類、ポリアミド類の樹脂を紡糸して得られる短繊維が挙げられる。
【0022】
ポリエステル類としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートなどが挙げられる。アクリル類としては、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニルなどを共重合させたものが挙げられる。ポリアミド類としては、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが挙げられる。ポリエステル類とアクリル類からなる合成短繊維は、低ESRが得られる傾向がある。全芳香族ポリアミドからなる合成短繊維は、セパレータの耐熱性を向上させ、炭化処理を不要にできる場合がある。
【0023】
本発明における変法濾水度とは、JIS P8121に規定されるカナダ標準濾水度の測定方法に対して、試料濃度若しくはふるい板の何れか、又は、試料濃度及びふるい板の両方を変更して測定した濾水度を意味する。これまで、針葉樹木材パルプ、広葉樹木材パルプ、麻パルプ、エスパルトパルプなどの天然セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係については報告されているが、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度との関係は明らかになっていなかった。本発明では、リファイナーを用いて溶剤紡糸セルロース繊維を微細化していき、微細化の程度ごとにカナダ標準濾水度と変法濾水度を測定した結果、溶剤紡糸セルロース繊維の濾水挙動が、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動と異なることを見出した。
【0024】
図1に、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維のカナダ標準濾水度と変法濾水度の関係を表す。図1において、標準濾水度とは、JIS P8121のカナダ標準濾水度を意味している。変法濾水度とは、試料濃度を0.03%にした以外は、JIS P8121に準拠して測定した濾水度を意味する。図1の横軸は長さ加重平均繊維長を示しており、右に向かうほど微細化の程度が進んでいる。カナダ標準濾水度は、長さ加重平均繊維長が0.72mmまで濾水度が0.5mlであるが、長さ加重平均繊維長が0.55mm以下では短くなるほど濾水度が大きくなっている。一方、変法濾水度は、微細化の程度が進むに従って濾水度が大きくなっている。この濾水挙動は、特開2000−331663号公報に開示されている天然セルロース繊維の濾水挙動、すなわち、微細化の程度が進むほど、カナダ標準濾水度と変法濾水度が減少する濾水挙動とは全く異なっている。
【0025】
このように微細化の程度が進むほど濾水度が大きくなる理由は、微細化が進むに従って叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が短くなっていき、特に試料濃度が薄い場合に、繊維同士の絡みが少なくなり、繊維ネットワークが形成されにくくなるため、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維自体がふるい板の穴をすり抜けてしまうからである。つまり、微細化した溶剤紡糸セルロース繊維の場合は、JIS P8121の測定方法では正確な濾水度が計測できないのである。より詳細に説明すると、天然セルロース繊維は、微細化の程度が進むほど、繊維の幹から細いフィブリルが多数裂けた状態になるため、フィブリルを介して繊維同士が絡みやすく、繊維ネットワークを形成しやすいのに対し、溶剤紡糸セルロース繊維は、微細化処理によって繊維の長軸に平行に細かく分割されやすく、分割後の繊維1本1本における繊維径の均一性が高いため、平均繊維長が短くなるほど繊維同士が絡みにくくなり、繊維ネットワークを形成しにくいと考えられる。
【0026】
そこで、本発明では、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の正確な濾水度を測定するための検討を行った。図2は、試料濃度とふるい板の両方を変更して測定した変法濾水度の一例を表す。すなわち、JIS P8121に規定されているふるい板の代わりに80メッシュの金網を用い、試料濃度を0.1%にして測定した変法濾水度である。80メッシュの線径は直径0.14mmで、目開き0.18mmの金網(PULP AND PAPER RESEARCH INSTITUTE OF CANADA製)を使用した。図2から明らかなように、微細化の程度が進むほど濾水度は小さくなっており、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の抜けが抑えられ、より正確な濾水度を計測できたことがわかる。以下、本発明における変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度を意味し、特に断りのない限り、単に「変法濾水度」と表記する。
【0027】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長及び繊維長分布ヒストグラムは、繊維にレーザー光を当てて得られる偏光特性を利用して求めることができ、市販の繊維長測定器を用いて測定することができる。本発明では、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52「紙及びパルプの繊維長 試験方法(光学的自動計測法)」に準じてKajaaniFiberLabV3.5(Metso Automation社製)を使用して測定した。叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の「繊維長」、「平均繊維長」及び「繊維長分布」とは、上記に従って測定・算出される「長さ加重繊維長」、「長さ加重平均繊維長」及び「長さ加重繊維長分布」を意味する。
【0028】
また、微細化の条件を変えることによって、変法濾水度0〜400mlの範囲内で長さ加重平均繊維長をいかようにも調節することができるため、同程度の変法濾水度であっても、長さ加重平均繊維長の異なる叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を作製することができる。図3は、本発明の実施例9〜20で用いた叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度を表す。
【0029】
変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmの溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維径が細く、均一性が高いため、セパレータの細孔が比較的均一に形成され、セパレータ中でのモノマー溶液や重合溶液の偏りを防ぐことができ、導電性高分子がセパレータ上に満遍なく形成される。本発明の溶剤紡糸セルロース繊維は、変法濾水度が0〜300mlであることがより好ましく、0〜250mlであることがさらに好ましい。変法濾水度が400mlを超える場合は、微細化処理が不十分で、繊維の分割が十分に進まず、元の太い繊維径のまま残る割合が多くなるため、セパレータに大きな貫通孔ができ、その部分に導電性高分子の重合が不十分になり、固体電解コンデンサのESRが高くなることや、導電性高分子を重合した後でも電極箔のエッジ部分のバリが貫通しやすくなり、ショート不良率が高くなる。本発明の溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は0.40〜1.80mmが好ましく、0.50〜1.50mmがより好ましい。0.20mm未満だと、濾水性が悪くなり抄紙性が悪くなる場合や、繊維間隙が狭くなり、導電性高分子の導電性が悪くなり、固体電解コンデンサのESRが高くなる。2.00mm超では微細化が不十分で太い繊維径の割合が多くなり、セパレータに大きな貫通孔が開きやすくなる、繊維のよれが生じ、地合と厚みのばらつきが生じ、ESRのばらつきが大きくなる。本発明における溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長は、繊維にレーザー光を当てて得られる偏光特性を利用して求める市販の繊維長測定器を用いて測定することができる。
【0030】
さらに、本発明では、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmである叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、その繊維長分布ヒストグラムを詳細に検討した結果、下記に説明する第一の繊維長分布を有する場合、導電性高分子重合溶液の吸液性が向上する効果が得られ、第二の繊維長分布を有する場合、吸液性と導電性を両立させる効果が得られるため、より好ましいことを見出した。
【0031】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第一の繊維長分布は、該繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、導電性高分子重合溶液の吸液性が良いことを見出した。また、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である場合、導電性高分子重合溶液の吸液性がより優れていて、さらに好ましいことを見出した。
【0032】
図4及び図5は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である。吸液性という点で、より好ましくは、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が12%以上で高い方が好ましいが、50%程度あれば十分である。
【0033】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であることが好ましく、−2.5以上−0.8以下がより好ましく、−2.0以上−1.0以下がさらに好ましい。傾きが−3.0より小さい場合、繊維間隙が狭くなり、導電性高分子重合溶液の吸液性が低くなる場合がある。また傾きが−0.5を超えるとセパレータの地合が悪くなり、導電性高分子の重合が不均一になる場合がある。図4及び図5に示すように、「傾きが大きい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が広い状態である。「傾きが小さい」とは叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布が狭く、より繊維長が揃っている状態である。なお、図4の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[I]の傾きは、−2.9であり、図5の叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維[II]の傾きは、−0.6である。
【0034】
なお、「1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き」とは、図6に示したように1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の値に対し、最小二乗法により近似直線を算出し、得られた近似直線の傾きを意味する。
【0035】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維において、好ましい第二の繊維長分布は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。このような叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維は、繊維間隙が狭くなりすぎず、広くなりすぎず、吸液性と導電性を両立できる。また、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する場合、このようなピークを有さない溶剤紡糸セルロース繊維よりも吸液性が良くなるため好ましい。
【0036】
図7は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムであり、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である。導電性高分子の導電性を阻害しない点において、繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.30〜0.70mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が55%以上であることがより好ましい。1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合は高い方が望ましいが、75%程度あれば十分である。
【0037】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、図8に示したように、上記の最大頻度ピーク以外に、1.50〜3.50mmの間にピークを有することがより好ましく、1.75〜3.25mmの間にピークを有することがさらに好ましく、1.90〜3.00mmの間にピークを有することが特に好ましい。この範囲にピークを有することにより、さらに吸液性が良くなるため好ましい。該ピークの繊維長が1.50mmより短い場合、吸液性が悪くなる場合がある。また3.50mmを超えると、ダマが発生して厚み斑になり、セパレータの表面平滑性や地合が悪くなり、導電性高分子の重合が不均一になる場合や、繊維間隙が広くなりすぎて吸液性が悪くなる場合がある。
【0038】
変法濾水度0〜400ml、且つ、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmの溶剤紡糸セルロース繊維を得るには、溶剤紡糸セルロースの短繊維を適度な濃度で水などに分散させ、これをリファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃により剪断力を与える回転刃式ホモジナイザー、高速で回転する円筒形の内刃と固定された外刃との間で剪断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、高圧ホモジナイザーなどに通して、刃の形状、試料濃度、流量、処理回数、処理速度などの条件を調節して微細化処理すれば良い。
【0039】
本発明のセパレータ中の合成短繊維と、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmの溶剤紡糸セルロース繊維の合計含有率は、40〜100質量%が好ましく、60〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%がさらに好ましい。40質量%未満だと、導電性高分子重合溶液の吸液性が不十分になる場合や、該セパレータを具備した固体電解コンデンサのESRが高くなる場合やESRのばらつきが大きくなる場合がある。本発明のセパレータ中の合成短繊維と、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmの溶剤紡糸セルロース繊維の質量比率は、1:9〜9:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。合成短繊維の比率が1:9より少ないと、セパレータの炭化温度を十分低くできなくなる場合や、炭化処理後の強度が弱くなり、導電性高分子重合液の吸液性に支障を来たす場合がある。9:1より多いと、レコード巻きの巻き崩れが生じる場合やESRが高くなる場合がある。
【0040】
本発明のセパレータは、合成短繊維、変法濾水度0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長0.20〜2.00mmの溶剤紡糸セルロース繊維以外の繊維を含有しても良い。例えば、溶剤紡糸セルロースや再生セルロースの短繊維、天然セルロース繊維、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、変法濾水度400ml超の溶剤紡糸セルロース繊維、ガラス、アルミナ、シリカ、ロックウールなどからなる無機繊維などである。溶剤紡糸セルロース、再生セルロースの短繊維の繊度は0.001〜2.0dtexが好ましい。繊度が0.001dtex未満だと、繊維自身の強度が弱く、セパレータが破断しやすくなる場合があり、2.0dtexより太いと、セパレータの厚みを薄くしにくくなる場合や、厚みむらが生じる場合がある。無機繊維の平均繊維径は0.1〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmがさらに好ましい。無機繊維の平均繊維径が0.1μm未満だと、無機繊維が折れやすいため、セパレータから脱落しやすくなる場合があり、セパレータの空隙を閉塞する場合があり、10μmより太いと、取り扱い時にセパレータから脱落する場合がある。無機繊維の平均繊維長は0.1〜10mmが好ましく、0.1〜5mmがより好ましい。平均繊維長が0.1mm未満では、無機繊維がセパレータから脱落しやすくなる場合があり、10mmより長いと、セパレータの地合や厚みが不均一になりやすい場合がある。
【0041】
天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物を含有させる場合、その変法濾水度は0〜400mlであることが好ましい。変法濾水度が400mlを超えると、太い繊維径の割合が多くなり、セパレータに厚みむらが生じやすくなる場合がある。
【0042】
本発明のセパレータは空孔率が60.0〜86.0%が好ましく、62.0〜80.0%がより好ましい。空孔率は、セパレータの比重からセパレータの密度を差し引いて得られる値をセパレータの比重で除して100倍した値を意味する。セパレータの比重は、セパレータを構成する繊維の比重と比率から算出される。空孔率が60.0%未満では、導電性高分子の導電性が悪くなり、固体電解コンデンサのESRが高くなる場合がある。また、表面が滑りやすくなり、レコード巻きの巻き崩れが起きる。空孔率が86.0%より大きいと、繊維間隙が広くなりすぎて吸液性が悪くなり、固体電解コンデンサの容量が小さくなる場合や、電極のバリが貫通しやすく、ショート不良率が高くなる場合がある。
【0043】
本発明のセパレータは湿式抄紙法で製造することができる。1層でも良いし、2層以上の漉き合わせで製造しても良い。具体的には所定の繊維を所定濃度に分散させたスラリーを調製し、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、短網抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらを組み合わせたコンビネーション抄紙機の何れかを用いて湿式抄紙すれば良い。湿式抄紙した後は、必要に応じて熱処理、カレンダー処理、熱カレンダー処理などが施される。
【0044】
本発明のセパレータは、厚みが15〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。厚みが15μm未満では、取り扱い時や加工時に破れたり、穴が開いたりする場合がある。100μmより厚いと、固体電解コンデンサのESRが高くなる場合がある。
【0045】
本発明のセパレータは、ガーレー透気度が0.01〜5.00s/100mlが好ましく、0.05〜3.00s/100mlがより好ましく、0.10〜2.00s/100mlがさらに好ましい。ガーレー透気度はJIS P8117に準拠して測定される。ガーレー透気度が0.01s/100ml未満では、電極箔のエッジのバリが貫通しやすくなり、固体電解コンデンサのショート不良率が高くなる場合がある。5.00s/100mlより大きいと、固体電解コンデンサのESRが高くなる場合がある。
【0046】
本発明における固体電解コンデンサとは、電解質として導電性高分子を用いる固体電解コンデンサを指す。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、これらの誘導体が挙げられる。本発明においては、固体電解コンデンサが導電性高分子と電解液とを併用したものでも良い。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
≪実施例1〜8、比較例1〜3≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
(2)長さ加重平均繊維長:「平均繊維長」
を表1に示す。なお、フィブリル化した各状態の溶剤紡糸セルロース繊維は、フィブリル化していない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0048】
表1に、本発明の実施例1〜8及び比較例1〜3で使用した繊維を示した。A1〜A11は、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を意味し、フィブリル化していない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。B1は繊度0.1dtex、繊維長3mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン製、商品名:ボンネル(登録商標))、B2は繊度0.4dtex、繊維長5mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン製、商品名:ボンネル(登録商標))、B3は繊度1.0dtex、繊維長5mmのアクリル短繊維(三菱レイヨン製、商品名:ボンネル(登録商標))を意味する。B4は、溶剤紡糸セルロース短繊維(リヨセル(登録商標)短繊維、繊度1.7dtex、繊維長6mm))を意味する。C1は、フィブリル化リンター繊維を意味する。各種変法濾水度の溶剤紡糸セルロース繊維、溶剤紡糸セルロース短繊維、リンター繊維、マニラ麻、エスパルトパルプの比重は1.50とした。アクリル短繊維の比重は1.17とした。表2に、本発明の実施例1〜8及び比較例1〜3に対応するスラリーを構成する繊維と配合率を示した。表2の繊維の記号は、表1の記号に該当する。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1
繊維B2をパルパーで水に分散させた後、繊維A1を添加して所定時間攪拌し、スラリー1を調製した。これを所定濃度に希釈して、円網抄紙機に送液して湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて、実施例1のセパレータを作製した。
【0051】
実施例2〜7
スラリー1の調製と同様にして、アクリル短繊維をパルパーで水に分散させた後、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を添加して所定時間攪拌し、スラリー2〜7を調製した。スラリー2〜7を所定濃度に希釈して、実施例1と同様にして湿式抄紙し、実施例2〜7のセパレータを作製した。
【0052】
実施例8
繊維C1をパルパーで水に分散させた後、繊維B1を添加して所定時間攪拌し、さらに繊維A8を添加して所定時間攪拌し、スラリー8を調製した。これを所定濃度に希釈して、実施例1と同様にして湿式抄紙し、実施例8のセパレータを作製した。
【0053】
(比較例1)
繊維B2をパルパーで水に分散させた後、繊維A9を添加して所定時間攪拌し、スラリー9を調製した。これを所定濃度に希釈して、円網抄紙機に送液して湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて、比較例1のセパレータを作製した。
【0054】
(比較例3)
スラリー9の調製と同様にして、アクリル短繊維をパルパーで水に分散させた後、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を添加して所定時間攪拌し、スラリー10、11を調製した。スラリー10、11を所定濃度に希釈して、円網抄紙機に送液して湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて、比較例2、3のセパレータを作製した。
【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜8及び比較例1〜3のセパレータについて、下記の試験方法により評価を行い、結果を表3に示した。
【0057】
<厚み>
セパレータの厚みをJIS P8118に準拠して測定した。
【0058】
<密度>
セパレータの密度をJIS P8124に準拠して測定した。
【0059】
<空孔率>
セパレータの空孔率は、セパレータの比重からセパレータの密度を差し引いて得られる値をセパレータの比重で除した後100倍して算出した。
【0060】
<皮膜>
セパレータの表面を電子顕微鏡で観察し、皮膜の有無を調べた。貫通孔のない膜面積が2500μm以上である膜を皮膜とし、任意の観察領域40000μm当りに皮膜が1つ以上ある場合を「あり」、ない場合を「なし」とした。
【0061】
<巻き崩れ>
セパレータを2.8mm巾にスリット加工し、長さ500mのレコード巻きを作製した。セパレータの先端をテープで留め、レコード巻きの側面を指で押さえたときにセパレータ表面が滑って巻き崩れが生じるか否か調べた。
【0062】
<吸液性>
230℃で2時間炭化処理したセパレータを、20mm巾、長さ150mmに切り揃えた試料を用意した。このとき、150mm長さに切る方向はCD方向、すなわち、セパレータ巻取りの巻き長さ方向に対して直角方向(巾方向)とした。3,4−エチレンジオキシチオフェン:p−トルエンスルホン酸第二鉄の50質量%ブタノール溶液を質量比で1:20になるように混合した溶液(重合溶液)にセパレータ試料の下端10mmだけ浸漬して固定し、10分間静置したときの吸い上げ高さを計測した。吸い上げ高さが高いほど、好ましい。
【0063】
<均一性>
<吸液性>の評価後のセパレータ試料を、200℃で5分間加熱して、ポリエチレンジオキシチオフェンを重合した。次いで、メタノールで十分に洗浄し、乾燥後のセパレータを目視で観察し、導電性高分子の重合状態を調べた。導電性高分子の重合が均一な場合を「○」、導電性高分子の重合に斑があるが、斑が小さい場合を「△」、導電性高分子の重合に斑があり、斑が大きい場合を「×」とした。
【0064】
【表3】

【0065】
<固体電解コンデンサ>
厚み50μm、エッチング孔1〜5μmのアルミニウム箔の表面を酸化処理して、酸化アルミニウム誘電体を形成させ、これを陽極として用いた。酸化処理する前のアルミニウム箔を陰極として用いた。固体電解コンデンサ用セパレータを陽極の誘電体上に配置し、陰極と合わせて巻き取り、固体電解コンデンサ素子を作製した。この素子を230℃で2時間加熱してセパレータを炭化処理した後、該素子を3,4−エチレンジオキシチオフェン:p−トルエンスルホン酸第二鉄の50質量%ブタノール溶液を質量比で1:20になるように混合した溶液(重合溶液)に浸漬し、引き上げて200℃で5分加熱してポリエチレンジオキシチオフェンを重合した。この素子をメタノールで洗浄してセパレータに残留している未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸第二鉄を除去した後、120℃で乾燥させた。同様に、ポリエチレンジオキシチオフェンの重合作業をもう1回繰り返した後、素子をアルミニウム製外装缶に収納して封口し、定格電圧25V、定格静電容量33μFの固体電解コンデンサを作製した。
【0066】
実施例1〜8及び比較例1〜3の固体電解コンデンサについて、下記の試験方法により評価を行い、その結果を表4に示した。
【0067】
<ESR>
固体電解コンデンサのESRを20℃、100kHzの周波数でLCRメーターを用いて測定し、1000個の平均値を算出した。
【0068】
<ばらつき>
固体電解コンデンサのESRの標準偏差をばらつきの指標とした。標準偏差の値が小さいほど、ばらつきが小さく優れている。
【0069】
<ショート不良率>
固体電解コンデンサの導通の有無をテスターで確認した。固体電解コンデンサ1000個中に占める導通した個体の割合をショート不良率とした。
【0070】
【表4】

【0071】
実施例1〜8のセパレータは、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmであるため、レコード巻きの巻き崩れがなく、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れ、導電性高分子の重合状態が均一であった。実施例1〜8のセパレータを具備した固体電解コンデンサは、ショート不良率とESRが低く、ESRのばらつきが小さく、優れていた。
【0072】
比較例1のセパレータは、合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有するため、レコード巻きの巻き崩れはなかった。しかし、溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が0.20mm未満であるため、導電性高分子は重合状態は均一であったが、繊維間隙が狭く、導電性高分子重合溶液の吸液性が悪かった。比較例1のセパレータを具備した固体電解コンデンサは、ショート不良率とESRのばらつきが小さかったが、ESRが高かった。
【0073】
比較例2のセパレータは、合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有するため、レコード巻きの巻き崩れはなかったが、溶剤紡糸セルロース繊維の長さ加重平均繊維長が2.00mmを超えているため、繊維径の太い溶剤紡糸セルロース繊維が多く混在し、表面平滑性が悪く、導電性高分子重合溶液の吸液性が悪く、導電性高分子の重合状態が不均一であった。また、セパレータの貫通孔が大きくなり、電極箔のバリが貫通しやすくなったため、比較例2のセパレータを具備した固体電解コンデンサは、ショート不良率がやや高かった。また、ESRが高く、ESRのばらつきが大きかった。
【0074】
比較例3のセパレータは、合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有するため、レコード巻きの巻き崩れはなかったが、溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が400mlを超え、且つ、長さ加重平均繊維長が2.00mmより長いため、導電性高分子重合溶液の吸液性が悪く、導電性高分子の重合状態が不均一であった。また、セパレータの貫通孔が大きくなり、電極箔のバリが貫通しやすくなったため、比較例2のセパレータを具備した固体電解コンデンサは、ショート不良率が高く、ESRが高く、ESRのばらつきが大きかった。
【0075】
≪実施例9〜20≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について、
(1)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(2)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(3)繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾き:「割合の傾き」
(4)長さ加重平均繊維長:「平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した変法濾水度:「変法濾水度」
を表5に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維A12〜A23は、フィブリル化していない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0076】
【表5】

【0077】
スラリー1と同様にして、表6に示したスラリー12〜23を調製した。表6の繊維の記号は、表1及び表5の記号に該当する。実施例9〜20に対応するスラリーを円網抄紙機に送液して湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて、実施例9〜20のセパレータを作製した。実施例1と同様の方法で、セパレータの評価を行い、評価の結果を表7に示した。
【0078】
【表6】

【0079】
【表7】

【0080】
実施例9〜20で作製したセパレータを用いて、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製し、実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサの評価を行い、評価の結果を表8に示した。
【0081】
【表8】

【0082】
実施例9〜18で作製したセパレータは、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmで、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上であるため、レコード巻きの巻き崩れがなく、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れ、導電性高分子の重合状態が均一であった。実施例19で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有していないため、地合がやや悪く、吸液性と導電性高分子の重合状態が実施例9〜18より劣っていた。実施例20で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%未満であるため、繊維間隙が狭く、吸液性が実施例9〜18より劣っていた。
【0083】
実施例9〜18を比較すると、実施例9〜12、14〜17で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下であるため、より吸液性に優れていた。実施例9〜18で作製したセパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、ショート不良率とESRが低く、ESRのばらつきが小さく、優れていた。実施例13で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0よりマイナス側であるため、繊維間隙が狭く、実施例9〜12、14〜17より吸液性が劣っていた。実施例18で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−0.5よりプラス側であるため、地合がやや劣っており、導電性高分子の重合が実施例9〜12、14〜17より不均一であった。
【0084】
≪実施例21〜31≫
[叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の物性値]
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維について
(1)1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合:「1.00mm以上の繊維割合」
(2)繊維長分布ヒストグラムにおける最大頻度ピークの繊維長:「最大頻度ピークの繊維長」
(3)最大頻度ピーク以外のピークの繊維長:「第2ピークの繊維長」
(4)長さ加重平均繊維長:「平均繊維長」
(5)ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度:「変法濾水度」
を表9に示す。なお、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維C41〜C52は、フィブリル化していない溶剤紡糸セルロース短繊維(繊度1.7dtex、繊維長6mm、コートルズ社製)を、ダブルディスクリファイナーを用いて処理して作製した。
【0085】
【表9】

【0086】
スラリー1と同様にして、表10に示したスラリー24〜34を調製した。表10の繊維の記号は、表1及び表9の記号に該当する。実施例21〜31に対応するスラリーを円網抄紙機に送液して湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を120℃にして乾燥させて、実施例21〜31のセパレータを作製した。実施例1と同様の方法で、セパレータの評価を行い、評価の結果を表11に示した。
【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
実施例21〜31で作製したセパレータを用いて、実施例1と同様にして固体電解コンデンサを作製し、実施例1と同様の方法で、固体電解コンデンサの評価を行い、評価の結果を表12に示した。
【0090】
【表12】

【0091】
実施例21〜29で作製したセパレータは、合成短繊維と叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmで、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上であるため、レコード巻きの巻き崩れがなく、導電性高分子重合溶液の吸液性に優れ、導電性高分子の重合状態が均一であった。実施例21〜29で作製したセパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、ショート不良率とESRが低く、ESRのばらつきが小さく、優れていた。実施例30で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピークが1.00mmを超えているため、繊維間隙がやや広く、実施例21〜29よりも吸液性がやや悪く、導電性高分子の重合がやや不均一であった。そのため、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、ショート不良率は小さかったが、実施例21〜29よりESRが高く、ESRのばらつきが大きかった。実施例31で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%未満であるため、繊維間隙がやや狭く、実施例21〜29より吸液性が悪かった。そのため、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、ESRのばらつきは小さく、ショート不良率が低かったが、実施例21〜29よりESRが高かった。
【0092】
実施例21〜29を比較すると、実施例21〜23、25〜28で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有するため、より吸液性に優れていた。実施例24で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の第2ピークが1.50mm未満であるため、繊維間隙がやや狭く、導電性高分子の重合は均一であったが、実施例21〜23、25〜28より吸液性がやや劣っていた。そのため、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、実施例ESRが実施例21〜23、25〜28よりやや劣っていた。実施例29で作製したセパレータは、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の第2ピークが3.50mmを超えているため、繊維間隙が広く、地合が悪く、実施例21〜23、25〜28より、吸液性が劣っており、導電性高分子の重合が不均一であった。該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、ESRとショート不良率は低かったが、ESRのばらつきが実施例21〜23、25〜28より劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、固体電解コンデンサに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成短繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を必須成分として含有し、皮膜を含有しない湿式不織布からなり、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の下記で定義される変法濾水度が0〜400mlで、且つ、長さ加重平均繊維長が0.20〜2.00mmである固体電解コンデンサ用セパレータ。
変法濾水度:ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度0.1%にした以外はJIS P8121に準拠して測定した濾水度。
【請求項2】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が10%以上である請求項1記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項3】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、1.00〜2.00mmの間における0.05mm毎の繊維長を有する繊維の割合の傾きが−3.0以上−0.5以下である請求項2記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項4】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、0.00〜1.00mmの間に最大頻度ピークを有し、1.00mm以上の繊維長を有する繊維の割合が50%以上である請求項1記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項5】
叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維の繊維長分布ヒストグラムにおいて、最大頻度ピーク以外に1.50〜3.50mmの間にピークを有する請求項4記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の固体電解コンデンサ用セパレータを具備してなる固体電解コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−222073(P2012−222073A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84491(P2011−84491)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)