固型腫瘍の治療方法及び組成物
【課題】 最小の毒性で長期にわたる定期的投与を避ける腫瘍の治療を成功させる困難な問題のための新しい方法と物質が相変らず必要である。
【解決手段】
(a)生分解性ポリマーと、
(b)胸部腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内に投与することによる、哺乳動物内の胸部腫瘍を治療する方法と上記の組成物。
【解決手段】
(a)生分解性ポリマーと、
(b)胸部腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内に投与することによる、哺乳動物内の胸部腫瘍を治療する方法と上記の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固型腫瘍の治療方法に関し、特に、生分解性組成物から抗腫瘍剤を長期に放出させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パクリタキセルのような抗腫瘍剤は各種の固型腫瘍の治療に使用されてきた。例えば、各種の抗腫瘍剤を水性スラリーの形態で腫瘍自体(病巣内あるいは“腫瘍内”という。)に投与する試みがなされてきた。Luckら、米国特許第4,978,332号参照。しかしながら、このような水性の組成物はまたこの薬剤の作用を局在化させる血管収縮性の医薬の存在が必要であった。
【0003】
これと反対のアプローチが腫瘍内注入用の水不混和性の脂肪酸エステルマトリックス。例えばパクリタキセル、を処方することによってなされた。1995年7月6日発行のWO95/17901とBrownら、米国特許第5,573,781号参照。しかしながら、脂質キャリヤーに入れられた抗腫瘍剤を長い期間、例えば3又は4週間にわたってコントロールしながら腫瘍内に放出しつづけることはまだ開されていない。
【0004】
こうして、インビボで各種の異なる抗腫瘍剤を、それらがパクリタキセルのような小さな疎水性医薬であれあるいは治療に有用な蛋白などの大きな嵩ばる生体高分子であれ、固型腫瘍内にコントロ−ルしながら放出する方法の必要性が存在している。しかも、生理食塩水や水不溶性有機溶剤などの生理的に受容可能な液体ベヒクルが相当量存在することを要求せずに抗腫瘍剤が有効に放出されることが好ましい。
【0005】
生体適合性ポリマー物質は各種の治療薬デリバリ−及び医療上の移植への適用に用いられてきた。もし、医療上の移植が薬のデリバリ−や他のコントロ−ルされた放出システムとしての使用を意図しているのであれば、生分解性ポリマーキャリ−の使用は治療薬をコントロ−ルされたやり方で局所的に配達する1つの有効な手段である。Langerら.,“Chemical and Physical Structures of Polymers
as Carriers for Controlled Release of Bioactive Agents”,J.Macro, Science
Rev. Macro. Chem. Phys.,C23(1),61−126(1983)参照。このやり方では、要求される薬の全量が少なくなり、有毒な副作用を最小限にすることができる。
【0006】
ポリマーは、時折治療薬を局所的に放出を維持させるキャリヤ−として使用されている。Leongら.,“PoLymeric Controlled Drug Delivery”,Advanced Drug
Delivery Rev.,1:199〜233(1987);Langer,“New Methods of Drug Delivery”,Science,249:1527〜33(1990);Chienら.,Novel
Drug Delivery Systems(1982)参照。このようなデリバリ−システムは治療効果の増進と全体としての毒性の減少の可能性を提供する。可能な固体の生分解性材料として研究された合成ポリマーのクラスの例には、ポリエステル(Pittら、Biodegradable
Drug Delivery Systems Based on Aliphatic Polyesters:Application to
Contraceptives and Narcotic Antagonists,Controlled Relese of Bioactive
Materials, 19〜44(Richard Baker ed., 1980);PoLy (amino acids)及びシュ−ドポリアミノ酸(Pulapuraら.,“Trends
in the Development of Bioresorbable Polymers for Medical Applications”,J.of Biomaterials Appl.,6:1,216〜50(1992);ポリウレタン(Bruinら,.“Biodegradable
Lysine Diisocyanate−based Poly(Glycolide−co− ε Caprolactone)−Urethane Network in
Artificial Skin”,Biomaterials, 11:4,291〜95(1990);ポリオルトエステル(Hellerら.,“Release
of Norethindrone from Poly(Ortho Esters)”,Polymer Engineering Sci.,21:11,727〜31(1981):及びポリアンハイドライド(Leongら.,“Polyanhydrides
for Controlled Release of Bioactive Agents”,Biomaterials 7:5,364〜71(1986)が含まれる。
【0007】
より詳しくは、WalterらはNeurosurgery,37:6,1129−45(1995)にポリアンハイドライドPCPP−SAを腫瘍内投与用の固体キャリヤーとして使用することを開示している。他の者はポリ乳酸を腫瘍内投与の固体キャリヤー、例えば病巣に直接注入できる針などとして用いてきた。Kaetsuら、J.Controlled
Release,6:249−63(1987)、及びYamadaら、米国特許第5,303,377号参照。
【0008】
しかしながら、他の者はこれらの材料の問題に遭遇した。パクリタキセルをポリε−カプロラクトンでカプセル化したが、インビトロの試験では6週間以上かかって約25%の薬が放出されたにすぎなかった。Dordunooら、“Taxol Encapsulation in Poly (epsilon-caprolactone)
Microspheres”,Cancer Chemotherapy & Pharmacology, 36:279−82(1995)。ポリ乳酸−コ−グリコール酸微小球がパクリタキセルのカプセル化に用いられ、それはインビトロで3週間以上比較的一定な放出速度を示したが、インビボではこれらの処方は評価されなかった。Wangら、“Preparation
and Characterization of Poly (lactic−co−glycolic acid) Microspheres for
Targeted Delivery of a Novel Anticancer Agent, Taxol”,Chemical &
Pharmaceutical Bulletin, 44:1935−40(1996)。パクリタキセルはまたポリアンハイドライドディスクでもカプセル化されたが、得られた放出速度は臨床用としてはあまりにも遅いものであった。Parkら、“Biodegradable
polyanhydride Devices of Cefaxolin Sodium, Bupivacaine, and Taxol for Local
Drug Delivery:Preparation and Kinetics and Mechanism of in vitro Release”,J.of
Controlled Release, 52:179−89(1998)”
ポリホスフェ−ト、ポリホスホネ−ト及びポリホスファイトと呼ばれるホスホエステル結合を有するポリマーが知られている。Penczekら.,Handbook of Polymer Synthesis, Chapter 17:“Phosphorus−Containing
Polymers”(Hans R.Kricheldorf ed.,1992)参照。それぞれリン原子に結合されている異なる側鎖を有するこれらの三つのクラスの化合物のそれぞれの構造は次の通りである。
【0009】
【化9】
これらのポリマーの多用性は、反応の多重性が知られているリン原子の多能から来ている。その結合は3P軌道や各種の3S−3P混成軌道を含み、d軌道も受け入れられるのでspd混成軌道もまた可能である。こうして、これらのポリホスホエステルの物理化学的性質はRまたはR’基のどちらかを変えることによって容易に変えることができる。このポリマー生分解性は基本的にこのポリマーの主鎖における生理学的に不安定なホスホエステル結合によるものである。主鎖や側鎖を操作することによって広範囲の生分解率を得ることができる。
【0010】
ポリホスホエステルの付加的特徴は官能側基を利用しうることである。リンは5価になりうるので、薬の分子あるいは他の生物学的活性物質をこのポリマーに化学的に結合させることができる。たとえば、−o−カルボキシル基を持っている薬を加水分解可能なホスホエステル結合を介してリンに結合させることができる。Leong,USP
5,194,581, USP 5,256,765参照。この主鎖におけるP−O−C基はポリマーのガラス転移温度も下げ、さらに重要なことに特性決定と処理に望ましい普通の有機溶剤への溶解性を与える。
【0011】
共に出願中の1998年4月2日に出願された米国特許出願09/053,648号、それはPCT/US98/0681(1998年10月8日にWO98/44021として公開された)に対応している、には生分解性テレフタレートポリエステル−ポリホスフェート組成物が開示されている。共に出願中の1998年4月2日に出願された米国特許出願09/053,649号、それはPCT/US98/06380(1998年10月8日にWO98/44020として公開された)に対応している、には鎖がホスホエステルで延ばされたポリマーを含む生分解性組成物が開示されている。さらに、共に出願中の1998年4月30日に出願された米国特許出願09/070,204号、それはPCT/US98/09185に対応している、にはポリ脂環式ホスホエステル化合物よりなる生分解性組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらの開示にはいずれも特に固型腫瘍の腫瘍内治療用の生分解性ポリホスホエステル組成物の用途は示唆されていない。
【0013】
こうして、最小の毒性で長期にわたる定期的投与を避ける腫瘍の治療を成功させる困難な問題のための新しい方法と物質が相変らず必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、
(a)生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b)固型腫瘍の成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる生分解性ポリマー組成物が固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与による治療に適することを発見した。
好ましい態様においてはこの組成物は、
(a)ホスホロジハライデートとジオールの反応プロセスによってつくられるポリホスホエステル生分解性ポリマーと、
(b)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなるものである。
【0015】
あるいは、それは、
(a)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
(b)(1)少なくとも1つの複素環化合物を
H−Y−L−Y−H
式中、Hは水素であり、
Yは−O−、−S−又は−NR4−でR4はH又はアルキルであり、そして、
Lは炭素原子数が1−20で分岐又は直鎖の2価の脂肪族基である。
と反応させてプレポリマーを形成させ、
(2)このプレポリマーをさらにホスホロジハライデートと反応させてポリホスホエステルを形成させる
工程よりなる方法によってつくられるポリホスホエステル生分解性ポリマー。
【0016】
本発明は、また、固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与に適する物品であって、
(a)生分解性ポリホスホエステルと、
(b)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる物品よりなる。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、
(a)生分解性ポリマーと、
(b)胸部腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内に投与することによる、哺乳動物内の胸部腫瘍を治療する方法を提供するものである。
【0018】
哺乳動物内の固型腫瘍を治療する別の方法は
(a) 生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b) 前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内投与することによるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、多種類の抗腫瘍剤、例えばパクリタキセルのような疎水性医薬から蛋白やDNAのような大きな水溶性高分子の両方を相当量のデリバリー液あるいは規則的な繰返し投与を必要とせずに長期間にわたってデリバーするのに使用することが可能である。本発明の方法は、抗腫瘍剤が放出される有効投与期間を著しく増加させるのに使用することができる。さらに、腫瘍の成長を予期できない程度まで鈍化される。さらに、腫瘍に罹っている患者を最小の副作用で、かつ腫瘍内の抗腫瘍剤の相当な濃度を維持しつづけるための周期的な一連の非経口治療の不快感なしで治療することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ポリ(ビス−ヒドロキシエチルテレフタレート−コ−エチルホスフェート/テレフタレートクロライド)(80:20)[ポリ(BHET−EOP/TC,80/20)]のフィルムからのパクリタキセルのような疎水性小分子のコントロールされたデリバリーを示すものである。
【図2】図2Aから2Cは、全てポリ(D,L−ラクチド−コ−エチルホスフェート[ポリ(DAPG−EOP)]の分解データを示すものである。
【図3】図3は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた24mg/kgのパクリタキセルで腫瘍内治療したA549腫瘍結節とポリ(DAPG−EOP)キャリヤーのみで治療したものの経時変化を示している。
【図4】図4は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた3つの異なる投与量(4mg/kg,12.5mg/kg又は24mg/kg)のパクリタキセルで腫瘍内治療したA549腫瘍結節の経時変化を示している。
【図5】図5は通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腹膜内投与、通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与、及びポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与で治療したA549腫瘍結節の経時変化を示している。
【図6】図6は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた24mg/kgパクリタキセルの腫瘍内、及びこのポリ(DAPG−EOP)ポリマーキャリヤーのみで治療したH1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図7】図7は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた3つの異なる投与量(4mg/kg,12.5mg/kg又は24mg/kg)のパクリタキセルで腫瘍内治療したA1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図8】図8は通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腹膜内投与、通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与、及びポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与で治療したA1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図9】図9は、コントロールとしての賦形剤又は通常の液体処方のもしくはポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24 mg/kgで治療したA549腫瘍を有するマウスの体重変化を示している。
【図10】図10は、コントロールとしての賦形剤又は通常の液体処方のもしくはポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24 mg/kgで治療したA1299腫瘍を有するマウスの体重変化を示している。
【図11】図11は、A549腫瘍細胞について図4−6に示されているものから引き出されたデータに基いて算出した腫瘍体積倍加時間を示している。示されているP値は、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセルの24mg/kg群と対応群の間の差を表わしている。
【図12】図12は、A1299腫瘍細胞について図7−9に示されているものから引き出されたデータに基いて算出した腫瘍体積倍加時間を示している。示されているP値は、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセルの24mg/kg群と対応群の間の差を表わしている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明のポリマー組成物]
ここで使用されている“哺乳動物”の表現は、マウス、ラット、モルモット、猫、犬、人間、牛、馬、羊あるいは他の家畜などの如何なる哺乳類の患者も意味している。
【0022】
“癌”は、細胞増殖の増加及び/又はアポプトーシスの減少のいずれかによって成長する組織よりなるものである。
【0023】
“癌を有する哺乳動物”は、特に限定されないが、現にこの病気の症状に罹っている患者及びこの病気の他の治療方法、例えば手術、化学療法又はその他の治療方法によって回復しつつある患者を含んでいる。
【0024】
ここで使用されている“治療”の用語は、
(i)この病気、不調、状態を抑えること、すなわち、それが進行しないよう抑えること、及び
(ii)この病気、不調、状態軽減すること、すなわちこの病気、不調及び/又は状態を退行させること、を含む。
【0025】
“腫瘍の体積”は、立法単位で測定された、主に動物の腫瘍によって占められた3次元空間を意味する。
【0026】
“腫瘍内”投与は、抗腫瘍剤の貯蔵器を腫瘍内に差し込むことを意味する。腫瘍内投与は腫瘍の治療に好都合である。何故なら、腫瘍の外側細胞層は、しばしば壊死細胞及び/又は結合及び支持組織で高い比率で構成され、それは固型腫瘍の中心部で活発に成長している癌細胞への治療薬を腫瘍外の血管からあるいは非経口で送り込むのを遅らせ及び/又は妨げるからである。
【0027】
“倍加時間”は、癌細胞数が2倍になるのに要する時間又は腫瘍の体積が2倍になるのに要する時間を意味する。
【0028】
“生分解性”は、生物学的に分解されうることを意味する。“生分解性”ポリマーは、生物学的システムから除かれることができ、及び/又は化学的に生物学的システムに取り込ませることができる構成単位まで生物学的に分解されうるものである。本発明による固型腫瘍の成長抑制は腫瘍倍加時間の遅れとして測定される。本発明の使用によって、通常倍加時間は有意に、好ましくは少なくとも2倍に、より好ましくは少なくとも4倍に、最も好ましくは8〜10倍に延ばされる。
【0029】
本発明による固型腫瘍の成長抑制のもう一つの方法は腫瘍の体積の減少として測定されるものである。本発明の使用によって、通常腫瘍体積は有意に、好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約30%、さらに好ましくは少なくとも約50%、最も好ましくは少なくとも約70%減少する。
【0030】
“固型腫瘍”は、細胞の大部分が腫瘍細胞又は腫瘍関連細胞である腫瘍細胞の場所を意味する。
【0031】
生分解性ポリマーは、それらがインビボでの療法中に分解しうる点で非生分解性ポリマーと異なっている。これは、一般にこのポリマーのモノマー性サブユニットまでの分解を含んでいる。原則として、本発明で用いられるポリマーの究極の加水分解産物はジオール、脂肪族アルコール及びリン酸である。これらの分解産物はすべて無毒になりうるものである。しかしながら、加水分解の中間オリゴマー産物は性質が異なっていてもよい。こうして、体内に挿入される生分解性ポリマーの毒性は、たとえそれが明らかに無害なモノマー構造体から合成されたものだとしても、通常一以上の毒性分析が行われてから決定される。
【0032】
ここで用いられている“放出が延ばされる”の表現は、放出のコントロール、放出時間の設定、放出の持続放出を遅らせること、長時間作用、パルス的送込、即時放出を各種の速度で起こすことなど、放出の各種の形態を制限なく含んでいる。これらの放出が延ばされる、放出のコントロール、放出時間の設定、放出の持続放出を遅らせること、長時間作用、パルス的送込、及び即時放出は、当業者にとって入手可能な周知の方法や技術を用いて得ることができる。これらの技術や方法は本発明の発明的特徴を構成しない。
【0033】
本発明は、生分解ポリマー組成物、物品及び固型腫瘍を有する患者の治療方法を対象としている。本発明の治療は広範囲の固型腫瘍のいずれにも答えることができ、それらは特に限定されないが、喉頭部の腫瘍、脳腫瘍及び頭部と首部のその他の腫瘍、結腸、直腸及び前立腺腫瘍、前胸部及び胸部固型腫瘍、卵巣及び子宮腫瘍、食道、胃、膵臓及び肝臓の腫瘍、膀胱及び胆ノウ腫瘍、メラノーマなどの皮膚腫瘍などを含んでいる。さらに、本発明で治療される腫瘍は、体内のいかなる部位の癌細胞の胸部への転移をもたらす一次又は二次腫瘍でもよい。
【0034】
好ましくは、腫瘍は喉頭部、結腸、直腸、前立腺、前胸部、胸部、膀胱又は皮膚腫瘍である。より好ましくは、腫瘍は胸部腫瘍、特に限定されないが、例えば、気管支腫瘍、例えば一次及び/又は転移肺癌[非小細胞性肺癌(NSCLC)及び小細胞性肺癌(SCLC)の両方]、悪性胸膜滲出、肺柔組織、気管、胸壁及び胸膜腔の癌などである。しかしながら、最も好ましくは、腫瘍は肺固型腫瘍である。
【0035】
“脂肪族”の用語は、直鎖、分岐あるいは環状のアルカン、アルケン又はアルキンを意味する。本発明のポリ脂環式ホスホエステル組成物における好ましい直鎖又は分岐脂肪族基は約1から20の炭素原子を有するものである。好ましい脂環式基は、1以上の不飽和部分、すなわち二重又は三重結合を有しているが芳香性のないものである。
【0036】
ここで使用されている“アリ−ル”の用語は、4n+2のπ電子を有する不飽和環状炭素化合物を意味する。ここで使用されている“複素環式”の用語は、環の1以上の原子か炭素以外、例えば窒素、酸素あるいは硫黄である、飽和又は不飽和の環式化合物を意味する。“ヘテロアリ−ル”は4n+2の電子を有する複素環式化合物を意味する。
【0037】
ここで使用されている“非阻害性置換基”の用語は、そのモノマ−と反応せず、その重合反応を触媒、停止あるいは他の妨害をせず、そして得られたポリマーと分子内又は分子間反応をしない置換基を意味する。
【0038】
本発明の生分解性で注入可能なポリマー組成物は生分解性ポリホスホエステルポリマーよりなる。本発明で用いられるポリホスホエステルポリマーは厳密には組成物に用いられる抗腫瘍剤の親水性又は疎水性、所望の物質、及び所望の放出プロフィールによって幅広く変わりうる。有用なポリホスホエステルの例には、ポリホスフェート、ポリホスファイト又はポリホスホネート、ポリカルボン酸で修飾したポリホスホエステル、Friendman米国特許第3,422,982号に記載されているようなポリフェニルネオカルボキシレートホスファイトとポリペンタエリスリチルネオカルボキシレートホスファイト、Vandenberg米国特許第3,655,586号に記載されているような環状シクロアルキレンホスフェートと環状アリーレンホスフェート、Kerst米国特許第3,664,975号に記載されているような置換エタンジホスホネート、Cohenら米国特許第3,664,974号に記載されているようなポリヒドロキシクロロプロピルホスフェート−ホスフェート、Herwigら米国特許第3,875,263号に記載されているようなジホスフィン酸エステル、Desiterら米国特許第3,927,231号に記載されているようなポリフェニルホスホネート、Readerら米国特許第3,932,566号に記載されているようなポリテレフタレートホスホネート、Meyerら米国特許第3,981,847号に記載されているようなポリアミドカルボン酸(ポリアミック酸とも呼ばれている。)、Hechenbleikner米国特許第4,082,897号に記載されているようなジメチルペンタエリスリトールジホスファイト、アルキルアルキレンホスファイト、1,3,2−ジオキサホスホリナン、アリールアルキレンホスホナイト及び1,3,2−オキサ−アザ−ホスホレイン、Loginら米国特許第4,259,222号、第4,315,847号及び第4,315,969号に記載されているようなリン酸とハロゲン化ジオールの直鎖飽和ポリエステル、Schmidtら米国特許第4,328,174号と第4,374,971号に記載されているような芳香族ジカルボン族と芳香族ジヒドロキシ化合物に基いたポリエステルホスホネート、Beseckeら米国特許第4,463,159号と第4,472,570号に記載されているようなリンを含むポリアリーレンエステル、Seriniら米国特許第4,482,693号と第4,491,656号に記載されているようなインダン−5−オールとトリフェニルホスフェートから製造されたポリホスフェート、Leong米国特許第5,176,907号に記載されているようなポリホスホエステル−ウレタン、Leong米国特許第5,194,581号と第5,256,765号に記載されているようなビスフェノールAのような化合物から作製されたポリホスホエステル、等が含まれ、
それらの記述はここでは文献名で加えられている。
【0039】
しかしながら、特に好ましいポリホスホエステルには、共に出願中の1998年4月2日に出願した米国特許出願第09/053,648号、1998年4月2日に出願した第09/053,649号、及び1998年4月30日に出願した第09/070,204号、これらはそれぞれPCT/US98/0681(1998年10月8日にWO98/44021として公開)、PCT/US98/06380(1998年10月8日にWO98/44020として公開)及びPCT/US98/09185が対応している、に記載されているものが含まれる。それらの記述はここでは全て文献名で加えられている。
【0040】
しかしながら、好ましくは、このポリホスホエステルは式Iで示される繰返しモノマー単位を有するものである。
【0041】
【化10】
式中、Xは−O−又は−NR4−で、R4はH又は、メチル、エチル、1,2−ジメチルエチル、n−プロピル、イソプロピル、2−メチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル又は第3ブチル、n−ペンチル、第3ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル等のアルキルである。
【0042】
式IにおけるY基は−O−、−S−又は−NR4−で、R4は前記定義の通りである。
R1とR2はそれぞれ、無置換又は1以上の非阻害性置換基で置換されていてもよい2価の有機部分であることができ、この部分とその置換基はこのポリマーの重合、共重合又は生分解反応を望ましくなく阻害しない限り、如何なるものであってもよい。特に、R1とR2はそれぞれ分岐又は直鎖の脂肪族基、好ましくは炭素数が約1〜20のものであることができる。R1とR2は例えばアルキレン、例えばメチレン、エチレン、1−メチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、2−メチルプロピレン、2,2’−ジメチルプロピレン又は第3ブチレン、n−ペンチレン、第3ペンチレン、n−ヘキシレン、n−ヘプチレン、n−オクチレン、n−ノニレン、n−デシレン、n−ウンデシレン、n−ドデシレン、等であることができる。
【0043】
R1とR2はまたアルケニレン、例えばエテニレン、プロペニレン、2−ビニルプロペニレン、n−ブテニレン、3−エテニルブチレン、n−ペンテニレン、4−(3−プロペニル)ヘキシレン、n−オクテニレン、1−(4−ブテニル)−3−メチルデシレン、ドデセニレン、2−(3−プロペニル)ドデシレン、ヘキサデセニレン等であることができる。R1とR2はまたアルキニレン、例えばエチニレン、プロピニレン、3−(2−エチニル)ペンチレン、n−ヘキシニレン、オクタデセニニレン、2−(2−プロビニル)デシレン等であることができる。
【0044】
R1とR2はまた非阻害性置換基、例えばヒドロキシ、ハロゲン又は窒素基で置換された、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン基などの脂肪族基であることができる。このような基の例には、2−クロロ−n−デシレン、1−ヒドロキシ−3−エテニルブチレン、2−プロピル−6−ニトロ−10−ドデシニレン等が含まれるが、これらには限定されない。
【0045】
さらに、R1とR2は脂環式基、例えばシクロペンチレン、メチルシクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘキセニレン等であることができる。
【0046】
R1とR2はそれぞれ2価の芳香族基、例えばフェニレン、ベンジレン、ナフタレン、フェナントレニレン等、又は非阻害性の置換基で置換された2価の芳香族基であってもよい。さらに、R1とR2はそれぞれ2価の複素環式基、例えばピロリレン、フラニレン、チオフェニレン、アルキレン−ピロリレン−アルキレン、ピリジレン、ピリジニレン、ピリミジニレン等、又はこれらの非阻害性置換基で置換された如何なるものであってもよい。
【0047】
好ましくは、R1とR2は炭素数が約1〜20のものであって、アルキレン基、脂環式基、フェニレン基又は下記の式を有する2価の基である。
【0048】
【化11】
式中、Zは酸素、窒素又は硫黄であり、nは1ないし3である。より好ましくは、R1とR2はそれぞれ1〜7個の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアルキレン基である。最も好ましくは、R1とR2はそれぞれメチレン基、エチレン基、n−プロピレン、2−メチル−プロピレン又は2,2’−ジメチルプロピレン基である。
【0049】
本発明の1つの態様においては、R1とR2の一方又は両方が生理的環境で放出されうる形態の抗腫瘍剤であることができる。このやり方で抗腫瘍剤がポリホスホエステル主鎖の1部になっているときには、本発明の組成物の分解によって形成されるポリマーマトリックスとして放出される。
【0050】
本発明のポリマー組成物におけるLは、いかなる炭素数が1〜20の2価の分岐又は直鎖脂肪族基、脂環式基、又は次式の基であることができる。
【0051】
【化12】
Lが分岐又は直鎖アルキレン基である場合には、炭素数が1〜7のアルキレン基、例えば2−メチルメチレン又はエチレンであることが好ましい。Lが脂環式基である場合には、それがこの組成物のポリマーの重合又は生分解反応を阻害しない限り如何なる2価の脂環式基であってもよい。有用な無置換及び置換脂環式L基の具体例には、シクロアルキレン基、例えばシクロペンチレン、2−メチルシクロペンチレン、シクロヘキシレン、2−クロロシクロヘキシレン等、シクロアルケニレン等、例えばシクロヘキセニレン、及び1以上の側部に環が融合又は架橋によって付加されている構造を有するシクロアルキレン基、例えばテトラリニレン、デカリニレン及びノルピナニレン等が含まれる。
【0052】
本発明のポリマー組成物におけるR3は、H、アルキル、アルコキシ、アリ−ル、アリ−ルオキシ、複素環式及びヘテロシクロオキシ残基よりなる群から選ばれる。
【0053】
R3がアルキル又はアルコキシである場合には、好ましくは約1から約20の炭素原子、より好ましくは約1から約15の炭素原子、最も好ましくは約1−7の炭素原子を含む。このような基の例には、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、n−プロピル、イソプロポキシ、n−ブトキシ、t−ブチル、−C8H17、非阻害性置換基、例えばハロゲン、アルコキシ又はニトロで置換されたアルキル、生物学的に活性な物質と共役してペンダント医薬送込システムを形成しているアルキル等が含まれる。
【0054】
R3がアリ−ル又はそれに対応するアリールオキシ基である場合には、それは典型的には約5から約14、好ましくは約5から12の炭素原子を含んでおり、互いに融合した1以上の環を含んでいてもよい。特に適する芳香族基にはフェニル、フェノキシ、ナフチルアントラセニル、ファナントレニル等が含まれる。
【0055】
R’が複素環式又はヘトロシクロオキシの場合には、それは典型的には約5から約14の環形成原子、好ましくは約5から約12の環形成原子と、1以上の異種原子を含む。適する複素環式基の例には、フラン、チオフェン、ピロール、イソピロ−ル、3−イソピロール、ピラゾール、2−イソイミダゾ−ル、1,2,3−トリアゾ−ル、1,2,4−トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3、4−オキサトリアゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3−ジオキサゾール、1,2,4−ジオキサゾール、1,3,2−ジオキサゾール、1,3,4−ジオキサゾール、1,2,5−オキサトリアゾール、1,3−オキサチオール、1,2−ピラン、1,4−ピロン、1,2−ピロン、1,4−ピロン、1,2−ジオキシン、1,3−ジオキシン、ピリジン、N−アルキルピリジニウム、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−オキサジン、1,3,2−オキサジン、1,3,5−オキサジン、1,4−オキサジン、o−イソオキサジン、P−イソオキサジン、1,2,5−オキサチアジン、1,2,6−オキサチアジン、1,4,2−オキサジアジン、1,3,5,2−オキサジアジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、1,2,4−ジアゼピン、インデン、イソインデン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、チオナフテン、イソチオナフテン、インドール、インドレニン、2−イソベンザゾ−ル、1,4−ピリンジン、ピランド[3,4−b]−ピロ−ル、イソインダゾール、インドキサジン、ベンゾキサゾール、アントラニル、1,2−ベンゾピラン、1,2−ベンゾピロン、1,4−ベンゾピロン、2,1−ベンゾピロン、2,3−ベンゾピロン、キノリン、イソキノリン、1、2−ベンゾジアジン、1,3−ベンゾジアジン、ナフチリジン、ピリド[3,4−b]−ピリジン、ピリド[3,2−b]−ピリジン、ピリド[4,3−b]ピリジン、1,3,2−ベンゾキサジン、1,4,2−ベンゾキサジン、2,3,1−ベンゾキサジン、3,1,4−ベンゾキサジン、1,2−ベンズイソキサジン、1,4−ベンズイソキサジン、カルバゾ−ル、キサントレン、エクリジン、プリン、等が含まれる。好ましくは、R3が複素環式又はヘテロシクロオキシの場合には、それがフラン、ピリジン、N−アルキルピリジン、1,2,3−及び1,2,4−トリアゾール、インデン、アントラセン並びにプリン環よりなる群から選ばれる。
【0056】
特に好ましくい態様においては、R3はアルキル基、アルコキシ基、フェニル基フェノキシ基又はヘテロシクロオキシ基であり、さらに好ましくは、1から10個の炭素原子を有するアルコキシ基である。最も好ましくは、R3はエトキシとヘキシルオキシ基である。
【0057】
一方、この側鎖R3は例えばイオン結合や共有結合でポリマー主鎖にペンダント結合させた抗腫瘍剤や他の生物学的に活性な物質であることができる。このペンダントシステムでは、抗腫瘍剤や他の生物学的に活性な物質は生理学的な状態の下で開裂されるリン原子に結合しているR3として放出される。
【0058】
繰返しモノマー単位の数はポリマーに要求される生分解性と放出特性によって大きく変わることができるが、典型的には約5から1,000の間で変わる。この繰返し単位の数は好ましくは約5から約500であり、最も好ましくは約5から約400である。
【0059】
本発明の方法で使用されるときには、このポリマー組成物は、1以上の固型腫瘍を有する患者のこの腫瘍への抗腫瘍剤の放出を延ばし、好ましくは約1日間より長く延ばす。さらに好ましくは、この放出プロフィールは少なくとも約15日間を越えて、さらに好ましくは少なくとも約30日間を越えて、例えば少なくとも約4週間から1年間まで延ばす。
【0060】
しかしながら、より好ましい本発明のポリホスホエステルポリマーはホスホエステル−コ−エステルである。
【0061】
1つの態様では、本発明の生分解性ポリホスホエステルは約2から500キロダルトンの分子量を有し、式IIとIIIで表わされるモノマー単位よりなる
【0062】
【化13】
式中、R1、R2及びR5はそれぞれ2価の有機部分であり、そして、R3はアルコキシ、アリールオキシ及びヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。より好ましくは、R1、R2及びR5はそれぞれ独立に1−7個の炭素原子を有するアルキレン基であって、R3は1−7個の炭素原子を有するアルコキシ基である。最も好ましくは、R1、R2及びR5はそれぞれ独立にエチレン、n−プロピレン、2−メチルプロピレン及び2,2−ジメチルプロピレンよりなる群から選ばれたものであり、R3はエトキシである。
【0063】
別の態様では、本発明のポリマー組成物は、約2から500キロダルトンの分子量を有し、式IV、V、VI及びVIIで表わされるモノマー単位よりなる生分解性ポリホスホエステルよりなる。
【0064】
【化14】
式中、Xは−O−又は−NR4−であり、
Yは−O−、−S−又は−NR4−であり、
R4はH又はアルキルであり、
M1とM2はそれぞれ独立に、(1)炭素原子数が1−20の分岐もしくは直鎖脂肪族基、又は(2)炭素原子数が1−20の分岐もしくは直鎖のオキシ、カルボキシもしくはアミノ脂肪族基であり、
Lは炭素原子数1−20で分岐又は直鎖の2価の脂肪族基であり、そして、
R3はH、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環又はヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。
式IV−VIIにおいて、各種モノマー相互のモル比はポリマーに要求される生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、一般的にはそれぞれ約1;10;1;10である。
【0065】
式VとVIIにおけるM1とM2はそれぞれ好ましくは分岐又は直鎖のアルキレン又はアルコキシレン基、より好ましくは1−20個の炭素原子を有するものである。
【0066】
式V及びVIIにおいて、M 1とM 2はそれぞれ好ましくは分岐又は直鎖のアルキレン又はアルコキシレン基であり、より好ましくは1〜20の炭素原子を有するものである。さらに好ましくは、M
1とM 2の少なくとも一方が、−(CH2)a−、−(CH2)a−O−、及び−(CH2)a−O−(CH2)b−、式中、aとbはそれぞれ1−7である、よりなる群より選ばれた式を有するアルキレン又はアルコキシレン基である。
【0067】
M1又はM2のいずれかが1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖のカルボキシ脂肪族基である場合には、それはまた、例えば2価のカルボン酸エステル、例えばギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸アリル、アクリル酸t−ブチル、酪酸n−ブチル、クロル酢酸ビニル、2−メトキシカルボニルシクロヘキサノン、2−アセトキシシクロヘキサノン等に対応する2価のラジカルなどであることができる。M1又はM2が分岐又は直鎖のカルボキシ脂肪族基である場合には、それは好ましくは式−CHR’−O−CHR”−、式中、R’とR”はそれぞれ独立にH、アルキル、アルコキシ、アリ−ル、アリ−ルオキシ、複素環式又はヘテロシクロオキシである、を有するものである。
【0068】
M1又はM2のいずれかが1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアミノ酸脂肪族基である場合には、それは2価のアミン、例えば−CH2NH−、−(CH2)2N、−CH2(C2H5)N−、−n−C4H9−NH−、−TC4H9−、NH−、−CH2(C3H6)N−、−C2H5(C3H6)N−、−CH2(C8H17)N−等であることができる。M1又はM2が分岐又は直鎖のアミノ脂肪族基である場合には、それは好ましくは、式−(CH2)a−NR’、式中、R’はH又は低級アルキルで“a”は1から7まである、を有するものである。
【0069】
M1及び/又はM2は好ましくは、式−O−(CH2)a−、式中aは1から7である、を有するアルキレン基であり、そして最も好ましくは、2価のエチレン基である。別の特に好ましい態様においては、M1とM2はそれぞれn−ペンチレンと酢酸メチルに対応する2価のラジカルである。
【0070】
好ましくは、式IV−VIIのR3はアルコキシ基であり、XとYはそれぞれであり、そして、M1、M2及びLはそれぞれ独立に1−7個の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアルキレン基である。さらに好ましくは、R3は1−7個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、Lはアルキレンであり、そして、M1とM2はそれぞれ独立に1−3個の炭素原子を有するアルキレン基である。
式VIIIとIXの好ましいポリマーでは、
【0071】
【化15】
式中、X、Y及びR3の定義は前記の通りである。
【0072】
M1とM2は、それぞれ独立に、(1)約1−20の炭素原子、より好ましくは約1−7の炭素原子を有する分岐又は直鎖脂肪族基、又は(2)約1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖オキシ、カルボキシ又はアミノ脂肪族基、例えばエトキシレン、2−メチルエトキシレン、プロポキシレン、ブトキシレン、ペントオキシレン、デドシルオキシレン、ヘキサデシルオキシレン等であり、
Lは、1−20個の炭素原子を有する2価の分岐又は直鎖脂肪族基であり、xとyはそれぞれ約1から1,000であり、
x:yのモル比は、ポリマーに望まれる生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、約1であり、
q:rのモル比もまた、ポリマーに望まれる生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、典型的には約1:20と200:1の間、好ましくは1:150から150:1の間、そして最も好ましくは約1:99と99:1の間で変わる。
【0073】
さらに別の好ましい態様においては、本発明のポリマー組成物は、約2から500キロダルトンの分子量を有し、式Xで表わされるモノマー単位よりなる生分解性ポリホスホエステルよりなる。
【0074】
【化16】
式中、R1とR2はそれぞれ独立に、無置換又は1以上の非阻害性置換基で置換された直鎖又は分岐の脂肪族であり、そして、
Lは2価の脂環式基であり、そして、
R3はH、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環式又はヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。
【0075】
好ましくは、R1とR2はそれぞれメチレン基であり、R3は1−6個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、そしてLはシクロヘキシレンである。
【0076】
最も好ましくは、生分解性組成物は胸部固型腫瘍を有する哺乳動物を腫瘍内投与で治療するのに適するものであって、この組成物は、
(a)パクリタキセルと、
(b)約2から500キロダルトンの分子量を有し、式XIで示されるモノマー単位よりなる生分解性ポリマー
よりなり、
【0077】
【化17】
腫瘍倍加時間の遅れを少なくとも2倍に延ばすものである。一般的には、式XIにおけるx:yのモル比は約1:1である。
【0078】
本発明の組成物に用いられるポリマーの分子量は、硬い固体状態(より高い分子量)が望まれるか、あるいは、流動しうるもしくは柔軟な状態(より低い分子量)が望まれているかによって大きく変わりうる。分子量は当業者によく知られている標準的な方法、例えばGPCや光散乱法によって求める。しかしながら、一般的には、重量平均分子量(Mw)では、典型的には約2,000から約500,000ダルトンまで、好ましくは約5,000から約200,000ダルトンまで、そして、さらに好ましくは約5,000から100,000ダルトンまで変わる。
【0079】
分子量を決定する一つの方法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(“GPC”)と光散乱法の組合せ、例えば、混合床カラム、CH2CL2溶剤、屈折率検出器、及び光散乱式検出器よりなるものである。オフラインdn/dc測定が一般的に用いられる。
【0080】
本発明で使用される生分解性ポリマーは好ましくはそれ自身が生体適合性を有するのに充分に純粋であり、生分解の際に生体適合性を残している。“生体適合性”は生分解産物やポリマー自身が無毒であり、血管形成組織に注入され、あるいは密着させて置かれたときに最小限の組織への刺激をもたらすにすぎない。生体適合性の要求は、本発明のポリマー組成物では有機溶剤を存在させる必要がないのでより容易に達成される。
【0081】
しかしながら、本発明で使用されるポリマーは合成、精製及び取扱いを容易にするために1以上の一般の有機溶媒に溶けることが好ましい。一般の有機溶媒には、エタノ−ル、クロロホルム、ジクロロメタン(ジメチルクロライド)、アセトン、酢酸エチル、DMAC、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドなどの溶媒が含まれる。このポリマーは上記の溶媒の少なくとも1つに溶けることが好ましい。
【0082】
本発明の生分解性ポリマーは、追加の生体適合性モノマ−単位が生分解性と本発明の望ましい流動性を阻害しない限り、このモノマ−単位も含むことができる。この追加のモノマ−単位は目的とする医薬デリバリ−に望まれる正確な放出プロフィ−ル又は他の用途に望まれる生分解の正確な速度の設計により大きな適応性を与えうる。しかしながら、この追加のモノマ−単位を使用するときには、それらは生成される生分解性コポリマーが所望の物性、例えば硬さ、粘度、流動性、柔軟性あるいは特定の形態など、を有することが保証されるように充分少ない量を使用すべきである。
【0083】
このような追加の生体適合性モノマ−の例には、他のポリホスホエステル、ポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリアンハイドライド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタ−ル、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシ酪酸エステルポリヒドロキシ吉草酸エステル、ポリアルキレンオキザレ−ト、ポリアルキレンサクシネ−ト、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコ−ル、ポリヒドロキシセルロ−ス、キチン、キトサンに見出される繰返し単位、及び上記物質のコポリマー、3元共重合体、又は組合せ又は混合物を含む。しかしながら、好ましいポリホスホエステルは本発明で使用される組成物の主成分である。
【0084】
追加のモノマ−単位が使用される場合には、より結晶化度が低く、かつより疎水性が大きいものが好ましい。望ましい物性をもった特に好ましい繰返し単位はポリラクチド、ポリカプロラクトン、及びそれらとグリコライドとのコポリマー由来のものである。
【0085】
ポリホスホエステルポリマーの合成
ポリホスフェ−トを製造する最も普通の一般反応は下記の式によるホスホロジクロリデ−トなどのホスホロジハライデートとジオ−ルの間の脱塩酸反応である。
【0086】
【化18】
大部分のポリホスフェ−トは、適当に置換されたジクロライドとジオ−ルとの縮合によっても得られる。
【0087】
ポリホスフェ−トは、グリコ−ルから二段縮合反応によって製造されている。グリコ−ルと反応させるのに20%モル過剰量のジメチルホスファイトが使用され、次いで高温によって真空下でオリゴマ−中のメトキシホスホニル末端基を除去する。
【0088】
溶融重縮合の利点は溶媒と多量の他の添加剤の使用を避けて精製をより簡単にできることである。それはまた、適度に高分子量のポリマーを提供することができる。しかしながら、しばしばある程度厳密な条件が要求され、直鎖酸分解(もし水が存在していれば加水分解)をもたらす。もしポリマーの主鎖が高分子ラジカルの再結合が続いて起こる水素原子引抜きや酸化を受けやすい場合には、架橋反応のような望ましくない熱で引き起こされる副反応もまた起こりうる。
【0089】
これらの副反応を最少限にするために重合反応はまた溶液中で行なうことができる。溶液重縮合反応はプレポリマーとリン成分の両方が共通の溶媒に溶けることが必要である。一般的には塩素化有機溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタンあるいはジクロロエタン等が使用される。
【0090】
溶液重合は好ましくは等モル量の反応体と化学量論量の酸受容体、通常はピリジンやトリエチルアミン等の第三アミンの存在下で行なわれる。全体としてより温和な反応条件を用いることができるので、副反応を最小限にすることができ、より敏感な官能基をポリマーに組み込むことができる。
【0091】
高分子量ポリマーを高い反応速度で得たいときには界面重縮合法を用いることができる。温和な条件によって副反応を最小限にすることができ、溶液法における出発物質のジオ−ルとジクロリデ−トの間の化学量論的な当量への必要性もない。界面重縮合後のポリマーの収率と分子量は反応時間、モノマ−のモル比率、混ざり合わない溶媒の容量比率、酸受容体の種類、及び相移動触媒の種類と濃度によって影響される。
【0092】
この重合反応の目的は、(i) 2価の有機繰返し単位と(ii) ホスホエステル繰返し単位よりなるポリマーを形成することにある。その結果物はホモポリマー、比較的均質なコポリマー、ブロックコポリマーでありうる。これら3つの態様はいずれもコントロ−ルされた放出をする媒体としての用いるのに適している。
【0093】
一方、このプロセスは、塊状でも、溶液でも、界面重縮合でもあるいは他の如何なる好都合な重合方法でよいが、好ましくは溶液条件下のプロセスである。特に有用な溶媒には、メチレンクロライド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、他の多種の不活性な有機溶媒が含まれる。
【0094】
特に、溶液重合反応が用いられるときには、重合反応の間酸受容体を存在させるとよい。酸受容体の特に好ましいクラスには、第3アミン、例えばピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、置換アニリン、及び置換アミノピリジン等が含まれる。最も好ましい酸受容体は置換アミノピリジン4−ジメチルアミノピリジン(“DMAP”)である。
【0095】
本発明の特に好ましい態様においては、例えば、式VIII又はIXの生分解性ポリマーは次のステップからなる方法によって製造される:
(a) 式XII、XIIIまたはXIV
【0096】
【化19】
【0097】
【化20】
式中、M1、M2およびXは上記に定義したとおりである。
を有する複素環式化合物と式
H−Y−L−Y−H
式中、YおよびLは上記に定義したとおりである。
を有する開始剤とを反応させて以下に示した式XVまたはXVI
【0098】
【化21】
式中、X、M1、M2、Y、L、x、y、qおよびrは上記に定義した
とおりである。
を有するプレポリマーを生成させ、そして
(b) さらにこのプレポリマーを式XVII
【0099】
【化22】
「haro」はBr、CLまたはIであり、R3は上記に定義したとおりで
ある。
を有するホスホロジハリデ−トを反応させて式VIIIまたはIXのポリマーを生成させる。
【0100】
第1反応ステップ(a)の機能は、開始剤を使用して式XII、XIIIまたはXIVの複素環式化合物の環を開環することである。有用な式XII、XIIIまたはXIVの複素環式化合物の例は、ラクトン、ラクタム、グリシン無水物のようなアミノ酸無水物、シクロアルキレンカーボネート、ジオキサノン、グリコリド、ラクチド等が包含される。
【0101】
本発明の化合物が式VIIIを有する場合は、M1を含む式XIIの複素環式化合物の一つだけを用いてステップ(a)におけるプレポリマーを製造してもよい。本発明の化合物が式IXを有する場合は、そのときはステップ(a)においてM1を含む式XIIの複素環式化合物とM2含む式XIIIの複素環式化合物とを組み合わせて使用してもよい。あるいは、本発明の化合物が式IXを有する場合は、M1およびM2の両方を含む式XIVの複素環式化合物の一つをステップ(a)に使用することができる。
【0102】
適当な開始剤の例は少なくとも2個の活性水素を含む幅広い種類の化合物
(H−Y−L−Y−H)
式中、Hは水素であり、Lは結合基で、上記に定義されており、Yは−O−、−S−、
または−NR4、このR4は上記に定義されているとおりである、
が包含される。結合基Lは直鎖基、例えばアルキレンでよいが、これはまた1以上のさらなる活性水素を含む基で置換されていてもよい。例えば、Lはおのおのが−OH、−SH、または−NH2のような活性化された活性水素部位を生ずる、1以上の追加的なアルキル基で置換された直鎖アルキレン基であってもよい。この方法においては、分岐した活性水素開始剤を用いて種々の分岐したポリマーを製造して、得られるポリマーが所望とする性質を有するように設計することができる。しかしながら、分岐したポリマーを酸塩化物と反応させるときは、架橋したポリマーになって了う。
【0103】
反応ステップ(a)は、反応体の副反応の形成しやすさ、および触媒の存在に応じて幅広い温度で行うことができる。しかしながら好ましくは、反応ステップ(a)は融解条件の約110℃から約+235℃までの温度で行われる。カチオン性またはアニオン性の触媒のいずれかを用いてある程度低い温度が可能であろう。
【0104】
一方、この反応ステップ(a)は塊状でも、溶液でも、界面重縮合でも、あるいは他のいかなる好都合な重合方法でもよい。好ましくは、この反応ステップ(a)は融解条件下で行われる。
特に有用な式XVIのプレポリマーの例には次のものが包含される。
(i) ラクチドおよびグリコリドから得られたOH−末端コポリマー
【0105】
【化23】
(ii) ラクチドおよびカプロラクトンから得られたOH−末端コポリ
マ−
【0106】
【化24】
;および
(iii) グリコリドカプロラクトンから得られOH−末端コポリマー
【0107】
【化25】
ステップ(b)の重合反応の目的は、(i)ステップ(a)の結果製造されたプレポリマーと、(ii)連続するホスホリル化された単位からなるポリマーを生成させることにある。結果として得られるブロック又はランダムコポリマーは、特にコントロ−ルされた放出をする媒体として用いるのに適している。
【0108】
本発明の重合ステップ(b)は、通常ステップ(a)の温度よりもやや低い温度で行われるが、用いる重合反応の種類、1以上の触媒の存在、所望とする分子量および反応体の望まない副反応のしやすさによってやはり大きく変わりうる。融解条件が使用されるときは、温度は約0〜150℃から変わりうる。しかしながら、重合ステップbが溶液重合反応で行われるときには、一般的に約−40と100℃との間の温度で行われる。
【0109】
抗腫瘍剤
一般的に言って、本発明の抗腫瘍剤は、固型腫瘍の成長を鈍化させ、あるいは実際にサイズを縮小させるために選択される薬理的な戦略に基づいて巾広く変更しうる。この抗腫瘍剤は単一物又は組合せ物として記載されている。組成物、物品及び方法は、水溶性の小さいものはもとより水溶性の大きな抗腫瘍剤でもそれとともに使用されて、コントロ−ルされた放出速度を有する送込システムをつくり出すように設計されている。
【0110】
抗腫瘍剤の語は、白金系薬剤、例えばカルボプラチンやシスプラチン等、ナイトロジェンマスタ−ドアルキル化剤、ニトロソウレアアルキル化剤、例えばカルムスチン(BCNU)等、及び他のアルキル化剤、代謝拮抗物質、例えばメトトレキセート等、プリン類縁代謝拮抗物質、ピリミジン類縁体代謝拮抗物質、例えばフルオロウラシル(5−FU)やゲムシタビン等、ホルモン性抗腫瘍剤、例えばゴセレリン、ロイプロリド、タモキシフェン等、天然抗腫瘍剤、例えばタキサン(例えばド−セタキセルやパクリタキセル)、アルデスロイキン、インターロイキン−2、エトポサイド(VP−16)、インターフェロンα、及びトレチノイン(ATRA)等、抗生物質天然抗腫瘍剤、例えばブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びマイトマイシン等、並びにビンカアルカロイド天然抗腫瘍剤、例えばビンブラスチンやビンクリスチン等が含まれるがこれらに限定されない。
【0111】
抗腫瘍剤は、好ましくは、パクリタキセル、ド−セタキセル及び他の合成タキサンを含むかそれらに限定されないタキサンと他の抗チューブリンよりなる群から選ばれたものである。このタキサンは、15員タキサン環システムとそれに結合している4員オキセタン環よりなる複合エステルである。パクリタキセルとド−セタキセルでは、例えば、タキサン環は、抗腫瘍活性に重要であると考えられるこの環のC−13位置に取り付けられたエステル側鎖として結合されている。パクリタキセルとド−セタキセルの構造はC−10タキサン環位置とC−13に取り付けられたエステル側鎖の置換が異なっている。最も好ましい抗腫瘍剤はパクリタキセルであり、その構造はド−セタキセルとその前駆体タキサン10−デアセチル−バッカチンIIIとともに下記に示す。
【0112】
【化26】
化合物10−デアセチル−バッカチンIIIはやはり抗腫瘍効果を発揮する各種の関連化合物の作製に用いることができる。
【0113】
さらに、次の追加の医薬を、それら自身は抗腫瘍剤であるとは考えられていなくても、抗腫瘍剤と組み合わせて使用しうる。それらは、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCL、ド−セタキセル、ドキソルビシンHCL、エポエチンα、エトポサイド(VP−16)、ガンシクロビルナトリウム、ゲンタマイシン硫酸塩、インタ−フェロンα、ロイプロライド酢酸塩、メペリジンHCL、メタドンHCL、ラニチジンHCL、ビンブラスチン硫酸塩、及びジドブジン(AZT)である。例えば、フルオロウラシルは、最近エピネフリンと牛コラ−ゲンと組合せると特に有効な組合せとなる処方がなされた。
【0114】
さらに、下記のアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、蛋白、多類及び他の大きな分子もまた使用しうる。それらは、変異種及び類縁体を含むインタ−ロイキン1〜18、インタ−フェロン又はサイトカイン、例えばインタ−フェロンα,β及びγ等、ホルモン、例えば黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)及び類縁体、並びにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)等、成長因子、例えば形質転換成長因子−β(TGF−B)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子相同因子(FGFHF)、肝細胞成長因子(HGF)、及びインシュリン成長因子(IGF)、腫瘍壊死因子α及びβ(TNF−αとβ)、侵入阻止因子−2(IIF−2)、骨形態形成蛋白1−7(BMP1−7)、ソマトスタチン、サイモシン−α−1、γ−グロブリン、ス−パ−オキシドジスムタ−ゼ(SOD)、補体因子、抗血管形成因子、抗原物質、並びにプロドラッグである。
【0115】
特に好ましい態様においては、本発明の組成物は、他の生物学的に活性な物質、好ましくは治療薬又はプロドラッグ、例えば、他の化学療法剤、抗生物質、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗炎症薬、血管収縮神経薬及び抗凝血薬、癌ワクチンへの適用に有用な抗原又は対応するプロドラッグ、を含んでいてもよい。
【0116】
抗腫瘍剤及び/又は他の生物学的に活性な薬剤は各種の形態で使用しうる。これらには、腫瘍体内に移植され、注入されあるいは他の手段で置かれたときに生物学的に活性化される、非帯電分子、分子錯体、塩、エ−テル、エステル、アミド、等の形態が含まれるが、これらには限定されない。
【0117】
ポリマー組成物
抗腫瘍剤は治療に有効な量が用いられるが、それは用いる抗腫瘍剤の種類によって大きく変わる。組成物に組み込まれる抗腫瘍剤の量もまた所望の放出プロフィ−ル、生物学的効果を要求される薬剤の濃度、及び抗腫瘍剤が治療のために放出されなければならない時間の長さに依存している。
【0118】
この組成物に望まれる物性を維持するための受容可能な溶液又は分散液の粘度を除いて、組み込まれる抗腫瘍剤の量には臨界的上限はない。差込システムに組み込まれる抗腫瘍剤の下限はこの医薬の活性と治療に必要な時間の長さに依存している。こうして、抗腫瘍剤の量は所望の生理学的な効果を生み出せない程少なくはなく、また、抗腫瘍剤の放出がコントロ−ルされなくなってしまう程多くない量にすべきである。
【0119】
典型的には、抗腫瘍剤は、これらの制限内であって、重量%で約1%から約65%まで、好ましくは約1%から約30%までの量を本送込システムに含有させることができる。しかしながら、特によく効く抗腫瘍剤では、より少ない量で治療の薬効レベルを達成しうる。
【0120】
さらに、本発明の生分解性ポリマー組成物は、他の生体適合性ポリマー又はコポリマーがこの組成物の生分解性や物理的特性を望ましくなく阻害しない限り、本発明のポリマーとこの追加のポリマー又はコポリマーとの混合物よりなるものであってもよい。好ましくは、本発明の生分解性ポリマーはこの混合物の約50%より多い。本発明のポリマーとこのような他のポリマーとの混合物は、目標とする医薬送込システムに望まれる正確な放出プロフィ−ルや望まれる生分解の正確な速度の設計により大きな柔軟性をもたらすだろう。このような追加の生体適合性ポリマーの例には、他のポリホスホエステル、ポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリアンハイドライド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサン、ポリアセタート、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシセルロース、キチン、キトサン、及び上記物質のコポリマー、ターポリマー又は組合せ又は混合物が含まれる。
【0121】
薬剤として受け入れられるキャリヤ−は広範囲の材料からなるものであることができる。特に限定されないが、そのような材料には特定の医薬組成物をつくるための周知の希釈剤、結合剤及び接着剤、滑剤、崩壊剤、着色料、増量剤、芳香剤、甘味料、及びその他の各種の材料、例えばバッファ−及び吸着剤などが含まれる。このような材料の添加は本発明のポリマー組成物に望まれる生体適合性、生分解性及び物理的状態を阻害しないこれらの追加の材料に限られる。
【0122】
抗腫瘍剤又はいくつかの他の生物学的に活性な物質の差込のために、この薬剤又は物質をポリマー組成物に加える。この薬剤又は物質はこのポリマー組成物に溶かして手頃な一定の濃度の均質な溶液としてもよく、あるいはポリマー組成物に分散して所望の“充填”(生物学的に活性な物質を含む全組成物のグラム当りのこの生物学的に活性な物質のグラム数、通常はパ−セントで表わされる)レベルの懸濁液又は分散液としてもよい。
【0123】
一方、生分解性ポリマー又は生物学的に活性な薬剤を無毒な少量の溶媒に溶かして、より効率的に、柔軟な又は流動可能な組成物内に生物学的に活性な薬剤の非晶質のモノリシックな分布又は微細分散物をつくることができるが、好ましい態様においては、所望の組成物をつくるのに溶媒を必要としないというのが本発明の利点である。
【0124】
本発明のポリマー組成物は硬い固体物品、柔軟な固体物品もしくは材料あるいは流動可能な材料でありうる。“流動可能な”によって意味するものは、体温においてそれを含む空間の形状を時間を越えて呈する能力である。これには、例えば、ある部位にスプレ−し、例えば24ゲ−ジ針を嵌め込んだ手動操作注射器による注入、あるいはカテ−テルで送入可能な液体組成物が含まれる。
【0125】
また、“流動可能な”の用語に含まれるものは、高粘性であるが相変らず流動可能な物質を注ぎ、チュ−ブから絞り出しあるいは手動手段のみによって発揮される注入圧よりも大きな注入圧を出しうる市販の圧力注入器具のいずれかによる注入によって所望の部位に送入できる室温で高粘性の“ゲル状”物質である。このような流動性ポリマー組成物は、たとえ処方に大きな生体高分子を含んでいたとしても抗腫瘍剤をコントロール可能な有効な放出を続けられるという利点がある。
【0126】
使用されるポリマー自身が流動可能であれば、本発明のポリマー組成物は、それが粘性であったとしても、生体適合性溶媒が微量あるいは残留量残っていても、流動可能な溶媒を含む必要はない。ポリマーの粘度はポリマーの主鎖にジオールのシス−とトランス異性体を混合させることはもとより、ポリマーの分子量によっても調整可能である。
【0127】
本発明のポリマー組成物は各種のル−トで投入可能である。例えば、もし流動可能であれば、それをTurner Biopsy NeedleやChiba Biopsy Needleのような針で治療する固型腫瘍内に直接注入することができる。肺内の固型腫瘍を治療するときには、例えばこの組成物を気管支樹にカニューレを挿入しうる気管支鏡又は他の器具(例えばCook
Catheter Companyからのもの)を用いて胸腔入に注入してもよい。気管支樹を通じて利用しうる量は広く入手可能な経気管支吸引針のひとつ(例えばMilrose又はBoston
Scientificからのもの)を用いることによって直接注入される。この組成物は、標準の胸腔穿刺術を用いて肋骨の間から胸腔に胸腔穿刺カテーテル又は針を挿入することによって胸腔内に投与することもできる。
【0128】
本発明のポリマー組成物はまた、針、杆、微粒子又はステントなどの腫瘍内に移植可能な個体器具のコーティングをつくるのに用いることもできる。
【0129】
移植及び送込システム
その最も簡単な形態は、生分解性ポリマー送込システムは抗腫瘍剤をポリマー主鎖に不安定な(生分解性の)結合が組み込まれているポリマーマトリックスに溶解又は分散させた溶液又は分散物よりなる。特に好ましい態様においては、本発明の組成物よりなる固体物品が、例えば目に見える癌組織の部位の除去手術中や後に移植、注入、あるいは治療される患者の腫瘍内に入れる他の手段によって治療される固型腫瘍内に挿入される。
【0130】
この組成物の抗腫瘍剤及びポリマーは例えば微小球の形態の均質なマトリックスを形成してもよく、あるいは抗腫瘍剤がポリマーのなかに何らかの他の方法でカプセル化されていてもよい。例えば、抗腫瘍剤がまず微小球のなかにカプセル化され、次に、少なくとも微小球構造体の1部が維持されるやり方でポリマーと組み合わせる。あるいは、抗腫瘍剤が、本発明のポリマーに溶解されるというよりはむしろ小さな液滴として分解されるのに充分な程ポリマーに対して不活性であってもよい。
【0131】
構造用医療器具として、本発明のポリマー組成物は、この組成物がインビボで無毒の残留物に分解するということに加えて、治療される腫瘍内への挿入に適する特定の化学的、物理的及び機械的な性質を有する多種類の物理的な形態を提供する。特に、組成物自体を腫瘍の塊に手で挿入できる針やピンの形に加工してもよい。
【0132】
生分解性医薬送込物品はいくつかのやり方でつくることができる。このポリマーは通常の押出し又は射出成形技術を用いて溶融加工することができ、あるいは、これらの産物は適当な溶媒に溶解してこの器具を形成し、次いで溶媒を蒸発又は抽出除去によって、例えば噴霧乾燥でつくることができる。これらの方法によって、ポリマーをほとんどいかなるサイズあるいは所望の形態の物品、例えば移植可能なあるいは注入可能な針、杆、微小球又は他の微粒子に形成することができる。典型的な医療物品には、他の移植器具に配置される被覆なども含まれる。
【0133】
一旦挿入されると、本発明のポリマー組成物は腫瘍細胞及び腫瘍に見出される生物学的液、例えば血液や血管形成に関連する各種のホルモンや酵素などと少なくとも一部が接触状態にされなければならない。移植又は注入された組成物は、その腫瘍内のマトリックス内に含まれている抗腫瘍剤をコントロ−ルされた速度でこの物質が使い尽されるまで放出され、硬い、柔軟なあるいは流動可能な生分解性ポリマーマトリックスからの拡散又は溶解の一般ル−ルに従う。
【0134】
本発明の方法は、
(a)生分解性ポリマーと、
(b)腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内投与することによって哺乳動物内の固型腫瘍を治療するのに用いることができる。
【0135】
本発明の方法は、前述のように多種多様の固型腫瘍の治療に利用でしるが、この方法は特に胸部癌、特に限定されないが例えば一時及び/又は転移肺癌(NSCLCとSCLCの両方)、悪性胸膜滲出、又は胸部内の如何なる部位でも転移した非胸部癌などに適用できる。
【0136】
胸部腫瘍の治療用組成物に用いられる生分解性ポリマーは、ポリホスホエステルポリマーに限定されるというよりはむしろ、いかなる生分解性ポリマーよりなっていてもよい。本発明の実施するのに適する生分解性ポリマーの具体例には、ポリアンハイドライド、ポリエステル、ポリホスホエステル、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリアルオレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸並びに上記のもののコポリマー、ターポリマー及び組合せ及び混合物などを含むが特にこれらに限定されない。しかしながら、好ましい生分解性ポリマーはポリホスホエステルよりなるものである。
【0137】
次の実施例は本発明の好ましい態様を説明するものであるが、何ら本発明を限定するものではない。全てのポリマー分子量は特に誤記がない限り重量平均分子量である。全てのパ−セントは、特に注記がない限り、最後の送込システムあるいは調製される処方の重量パ−セントであり、全ての合計は100重量%と等しい。
【実施例1】
【0138】
コポリマーP(BHET−EOP/TC,80:20)の合成
【0139】
【化27】
アルゴン気流下で、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレ−ト(BHET)10g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)9.61g、及びメチレンクロライド70mlをロ−トを備えた250
mlフラスコの入れた。このフラスコのなかの溶液を攪拌しながら−40℃まで冷し、エチルホスホロジクロリデ−ト(EOP)(使用前に蒸留した)5.13gをメチレンクロライド20
mlに溶解した溶液をロ−トを通じて滴下して加えた。添加完了後、この混合物を室温で4時間攪拌してBHET−EOPホモポリマーを生成させた。
【0140】
テレフタロイルクロライド(TC)1.60g(Aldrich Chemical Companyから入手して使用前にヘキサンで再結晶した。)をメチレンクロライド20
mlに溶解した溶液を1滴づつ加えた。温度を約45〜50℃まで徐々に上げ、この反応混合物を一夜還流させてコポリマーP−(BHET−EOP/TC)を生成させるホモポリマーP(BHET−EOP)と追加のモノマ−TCの共重合を完結させた。
【0141】
溶媒を蒸発させ、残渣を約100 〜200 mlのクロロホルムに再溶解した。このクロロホルム溶液を飽和NaCl溶液で3回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、エ−テルに入れて急冷した。この沈殿物をクロロホルムに再溶解し、エ−テルに入れて再度急冷した。その結果強靱なオフホワイトの固形沈殿物を濾取して真空下で乾燥した。収率82%。
【0142】
このP(BHET−EOP/TC,80/20)の構造を1H−NMR 、31P−NMR及びFT−1Rスペクトルで確かめた。この構造をまた元素分析で確認したところ、理論値と極めて相関していた。構造の例は公開されたPCT出願WO98/440221に見出すことができる。
【0143】
P(BHET−EOP/TC,80/20)の分子量は最初にポリスチレンを検定の標準に用いたゲルパ−ミエ−ションクロマトグラフィ−(GPC)で測定した。得られたグラフから、重量平均分子量(Mw)が約6100で数平均分子量(Mm)が約2200であることが決定された。蒸気圧浸透圧法(“VPO”)で求めたこのコポリマーのMw値は約7900であった。
【実施例2】
【0144】
他のジオール変種
構造的にBHETのものに関連しているジオ−テレフタレートを、TCをその構造を下記に示すn−プロピレンジオ−又は2−メチルプロピレンのどちらかと反応させて対応するジオールテレフタレートを生成させて合成した。
【0145】
【化28】
これらのジオ−ルテレフタレ−トを次いでEOPと反応させて対応するホモポリマーを生成させた。このようにして生成させたホモポリマーはTCとの第2の反応で本発明のコポリマーを製造するのに利用した。
【実施例3】
【0146】
ポリ(BHET-EOP/TC)コポリマーからのパクリタキセルのインビトロでの放出
ポリビス−ヒドロキシエチルテレフタレート−コ−エチルホスフェート/テレフタレートクロライド(80:20)ポリマーを実施例1で述べたようにして作製した。このポリマーとパクリタキセルを両方ともCH2CL2に溶解した。この溶液をコールドテフロン金型に流し込み、室温で真空下で48時間乾燥した。このフィルムを金型から取り外した。37℃のリン酸緩衡生理食塩水中でこのポリ(BHET−EOP/TC,80:20)フィルムからのパクリタキセルの放出を図1に示す。
【実施例4】
【0147】
リドカインを含むポリ(BHDPT−EOP/TC,50/50)微小球の作製
1.35gのPVAと270mlの脱イオン水を合わせて600mlビーカー内に0.5%w/vポリビニルアルコール(PVA)水溶液を作製した。この溶液を1時間攪拌し濾過した。900mgのポリ(BHDPT−EOP/TC,50/50)コポリマーと100mgのリドカインを9mlのメチレンクロライドに加えて渦化混合し、コポリマー/医薬溶液を作製した。
【0148】
前記PVA溶液をオーバーヘッドミキサーで800rpmで攪拌しながら前記ポリマー/医薬混合物を滴下した。これを1.5時間攪拌した。こうして生成された微小球を次いで濾過し、脱イオン水で洗浄し、一夜凍結乾燥した。この実験では3.7%のリドカインを含む微小球625mgが得られた。
【0149】
リドカイン含有微小球はまたP(BHDPT−HOP/TC,50/50)からも同じプロセスで作製した。この実験では5.3%W/Wリドカインを含む微小球676mgが得られた。
【実施例5】
【0150】
ポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェート)[ポリ
(LAEG−EOP)]の合成
【0151】
【化29】
(3S)−cis−3,6−ジメチル−1,4−ジオアン−2,5−ジオン(L−ラクチド)(アルドリッチ ケミカル会社から入手し、酢酸エチルを用いて再結晶、昇華、再び酢酸エチルを用いて再結晶した)20g(0.139モル)およびエチレングリコール(99.8%、無水、アルドリッチから入手)を乾燥アルゴンで満たされた250mlの丸底フラスコに入れた。フラスコを真空下に閉じ、140℃に加熱された炉に入れた。フラスコを時々振とうさせながらこの温度で48時間保持した。
【0152】
次いで、フラスコを乾燥アルゴンで充満し、135℃に加熱した油浴中に入れた。アルゴン気流下、攪拌しながらエチルホスホロジクロリデ−ト1.13gを添加した。1時間攪拌後、系に低真空(約20mmHg)をかけ、一夜放置した。仕上げ前の1時間、高真空をかけた。冷却後、ポリマーをクロロホルム200mlに溶解し、1リットルのエーテルに2回クエンチし僅かに灰色がかった白色沈殿とし、真空下に乾燥した。
【0153】
得られたポリマーは、目的とする生成物ポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェ−ト)[P(LAEG−EOP)]であることがNMR分光学によって確認した。
【実施例6】
【0154】
非溶媒層としてポリビニルアルコールを用いてリドカインを含有するポリ(LAEG−EOP)微小球の調製
600mlビーカー中でPVA1.05gと脱イオン水210mlと合わせて脱イオン水溶液中のポリビニルアルコール(PVA)0.5% w/v溶液を調製した。その溶液を1時間攪拌し、濾過した。塩化メチレン7ml中にポリマー630mgとリドカイン70mgとを合わせ、渦によって混合してポリマー/薬剤溶液を調製した。PVA溶液をオーバーヘッドミキサ−を用いて500rpm.で混合し、これにポリマー/薬剤溶液を滴下した。30分の混合後、冷脱イオン水200mlを攪拌しているPVA溶液に添加した。得られた混合物を全体で3.5時間攪拌した。形成した微小球を濾別、脱イオン水で洗浄し、一夜凍結乾燥した。
このようにしてリドカイン4.2% w/wを充填させた微小球を得た。
【実施例7】
【0155】
ポリ(DAEG−EOP)の合成
ポリ(L−ラクチド−コ−プロピルホスフェート)のd,Lラセミ混合物[「ポリ(DAPG−EOP)」]を次のように調製した。
【0156】
【化30】
生産物は有機溶媒に溶ける白い固体として得られた。反応条件によって、次にまとめて示すように極限粘度と分子量の異なるものが得られた。
【0157】
【表1】
【実施例8】
【0158】
非溶媒層としてシリコン油を用いてリドカインを有するポリ(DAPG−EOP)微小球体の調製
「スパン−85」の商品名でアルドリッチから市販されているソルビタン−トリオレエート2%を、400mlビーカー中で「スパン−85」3mlとシリコン油150mlとを合わせ、500rpm.にセットしたオ−バ−ヘッド攪拌機を用いて混合することによって調製した。実施例5で前述した方法によって調製した重合体400mgおよびリドカイン100mgを塩化メチレン4.5mlに溶解してポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスホネ−ト)ポリ(DAEG−EOP)のDLラセミ混合物ポリマー/薬剤溶液を調製した。得られたポリマー/薬剤溶液をシリコン油/スパン混合物に攪拌しながら滴下した。この混合物を1時間15分攪拌した。このようにして形成した微小球を濾別、石油エーテルで洗浄してシリコン油/スパン混合物を除去し、一夜凍結乾燥した。
【0159】
このようにしてリドカイン7.6%w/wを充填した微小球を得た。約10mgの微小球を37℃、振とう機上のホスフェート緩衝食塩水(0.1M,PH7.4)に入れ、きちんとサンプリングした。その結果をパクリタキセルを含むポリ(DAPG−EOP)微小球についても図2A、2B及び2Cに示すように、同様のデータが得られた。放出したリドカイン%対日数時間としてプロットした。
【実施例9】
【0160】
マウス腹腔におけるポリ(DAPG−EOP)微小球の生体適合性
本発明の生分解性ポリ(ホスホエステル)微小球の生体適合性を次のとおり試験した。
【0161】
凍結乾燥したポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェート)微小球30mg/mlの3試料、第1番目の試料は75ミクロンより大きい直径を有し、第2番目の試料は75〜125ミクロンの範囲内の直径を有し、そして第3番目の試料は125〜250ミクロンの範囲内の直径を有する各試料を実施例10で前述した方法によって調製した。各試料を開始体重25gの雌マウス1グループ18匹に腹腔内注入した。各グループの動物を2,7,14日並びに1,2,3ヶ月に秤量して屠殺し、剖検した。剖検時に検出した障害は、0は処置に対して何らの反応を示さず、4は処置に対して激しい反応を示すことを以て0から4の等級で等級をつけた。
【0162】
炎症障害は腹腔表面あるいは脂肪組織内で微小球と連合しているところに限って観察され、異物単離およびカプセル化と一致していた。中皮過形成を伴なった病巣性ないし多病巣性支持腹膜脂肪組織炎が2〜7日目に観察されたが、後の屠殺時には大食細胞の浸入、炎症性巨大細胞の形成並びに微小球の繊維状カプセル化によって徐々に分解された。炎症反応を伴なった微小球の肝臓および横隔膜への癒着も時折見られた。微小球に関連した障害は腹腔または胸器官内では見られなかった。研究期間中に検出された微小球は初期の屠殺では透明に見えたが、後期では内部で結晶性物質に進化した。身体の成長には何の影響も観察されなかった。腹膜反応は微小球にじかに隣接している部位に限って観察されたが、それは主な胸部あるいは腹腔器官には明確な有害効果を伴わないものであった。
雄及び雌のS−Dラットの腹膜内にDAPG−EOPを同様に注入して次の結果を得た。
【0163】
【表2】
a 試験期間中に死亡又は瀕死の状態で屠殺された動物を示す。
M=雄,F=雌
【実施例10】
【0164】
ポリホスホエステルポリ(トランス−CHDM−HOP)の合成
【0165】
【化31】
アルゴン気流下で、10gのトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル(CHDM)、1.794gの4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、15.25ml(14.03g)のN−メチルモルホリン(NMN)、及び50mlのメチレンクロライドをロ−トを備えた250mlフラスコに移した。このフラスコのなかの溶液を攪拌しながら−15℃まで冷却し、15.19gのヘキシルホスホロジクロリデ−ト(HOP)を30mlのメチレンクロライドに溶解した溶液をロ−トを通じて加えた。反応混合物の温度を沸点まで徐々に上界させ、一夜還流温度に保った。
【0166】
この反応混合物を濾過し、濾液を蒸発乾固した。残渣を100mlのクロロホルムに再溶解した。この溶液をHClとNaClの混合物の0.1M溶液で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、500mlエ−テルに入れて急冷した(quenched)。生成した流動可能な沈殿物を集めて真空下で乾燥し、粘稠なシロップの流動性をもつ透明な淡黄色ゲル状のポリマーを得た、このポリマーの収率は70〜80%であった。ポリ(トランス−CHDM−HOP)の構造を31P−NMRと1H−NMRスペクトルと、TF−IRスペクトルで確認した。分子量(Mw=8584:MN=3076)は、ポリスチレンを検定標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で決定した。
【実施例11】
【0167】
パクリタキセルのポリ(CHDM−HOP)又はポリ(CHDM−HOP)への含有
ポリ(CHDM−HOP)とポリ(CHDM−EOP)のポリマーのそれぞれ100mgをエタノ−ルに約50%の濃度で溶解した。ポリマーが完全に溶解してから、5mgのパクリタキセル粉末(化学療法薬)をこの溶液に加えてこの粉末が完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を氷水に注入してポリマー組成物を沈殿させた。得られた懸濁液を遠心し、傾瀉し、一夜凍結乾燥して粘稠なゲル状生成物を得た。
【実施例12】
【0168】
パクリタキセルのポリ(CHDM−HOP)とポリ(CHDM−EOP)からのインビトロでの放出
次の2つのポリマーを作製した。
ポリ(CHDM−EOP)と
ポリ(CHDM−HOP)
パクリタキセルを各ポリマーに10%の充填量で室温で混合して均一のペーストを形成した。試験するパクリタキセルポリマー処方の両方5mgを1.7mlの小型プラスチック遠心管に入れて、80%PBSと20%PEG400の混合緩衝液1mlとともに37℃でインキュベートした。供試する各処方の4つのサンプルを調製した。およそ毎日である特定時点で、このPBS:PEG緩衝液をHPLCによるパクリタキセル分析用に注ぎ出し、この小型遠心管に新しい緩衝液を加えた。この放出研究は26日目で停止し、この時点でポリマーに残っているパクリタキセルを溶媒で押出してパクリタキセルの物質収支を求めた。
【0169】
両ポリマーからパクリタキセルを放出する放出研究を行ったところ、パクリタキセルの全回収率はポリ(CHDM−HOP)処方では65%、ポリ(CHDM−HOP)処方では75%であった。
【実施例13】
【0170】
溶剤希釈法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
パクリタキセルを含有するp(DAPG−EOP)微小球の調製に溶剤希釈(蒸発)法を用いた。約10グラムのパクリタキセルと90グラムのポリマーを計量して、250mlの酢酸エチルに溶解した。非溶媒相を作製するために、酢酸エチル(90ml)を1リットルの0.5%PVAに加えて1分間均質化した。この医薬−ポリマー溶液とPVA−酢酸エチル溶液をインラインホモゲナイガーを経てフラスコに移した。この溶液をオーバーヘッドスターラーで撹拌した。次いで、約900mlの水をこのフラスコに加えた。次いで、この溶液を30分間撹拌した。この微小球懸濁液を150μmと25μmの篩を有する濾過/乾燥ユニットに移した。微小球を1リットルの脱イオン水で洗ってから一夜乾燥した。25μm篩上の乾燥微小球を集めて容器に入れた。
【実施例14】
【0171】
溶剤蒸発法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
パクリタキセル(10.08g)とポリマー(90.1g)を計量して酢酸エチルに充分に溶解したところ、全量が250mlになった。酢酸エチル(90ml)を1リットルの0.5%PVAに加え、1分間均質化した。この医薬−ポリマー溶液とPVA−酢酸エチル溶液をインラインホモゲナイザーを経て12リットル3首フラスコに移した。この溶液をオーバーヘッドスターラーで撹拌した。真空と空気を用いて酢酸エチルを蒸発させた。この真空と空気は泡立が過度になったので40分後に止めた。撹拌をさらに20分間続けた。この微小球懸濁液を250μmと25μmの篩を有する濾過/乾燥ユニットに移し、1リットルの脱イオン水で洗浄した。25μm篩上に残った物質を脱イオン水で洗ってから2つの1リットル遠心ボトルに入れ、沈殿させた。沈殿後、上清を捨て、微小球を−40℃で1時間凍結させ、次いで72時間凍結乾燥した。
【実施例15】
【0172】
噴霧乾燥法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
p(DAPG−EOP)をメチレンクロライドに5−20%(w/v)の濃度に溶解する。パクリタキセルをこのポリマー溶液に加えて最終パクリタキセル添加量を10%(w/w)とする。医薬が完全に溶解してからこの溶液をBuchi噴霧乾燥機で噴霧乾燥する。こうして得られる微小球を集める。
【実施例16】
【0173】
噴霧乾燥法によるリドカイン含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
p(DAPG−EOP)をメチレンクロライドに5−20%(w/v)の濃度に溶解する。リドカインをこのポリマー溶液に加えて最終リドカイン添加量を10%(w/w)とする。医薬が完全に溶解してからこの溶液をBuchi噴霧乾燥機で噴霧乾燥する生産物を集める。
【実施例17】
【0174】
ポリ(DAPG−EOP)からのパクリタキセルのインビトロでの放出
微小球からのパクリタキセルのインビトロでの放出をリン酸緩衡生理食塩水(pH7.4)中37℃で行った。シンクの状態を維持するために、PBSの上にオクタノール層を設けて水相から放出されるパクリタキセルを連続的に抽出した。放出されたパクリタキセルはHPLC法を用いて定量し、ポリマーのインビトロでの質量損失を重量分析で求めた。結果を図2Aに示す。
【実施例18】
【0175】
インビボモデルでのA549腫瘍へのパクリタキセルの徐放性の比較研究
固型腫瘍の治療効果研究用として広く使用されて容認されている、マウス腫瘍結節モデルを固型腫瘍への徐放性の確認に用いた。無胸腺症ヌードBalb/cマウスに、ヒト非小細胞性肺癌細胞株(A549とH1299、両方ともAmerican Type Culture
Collectionから入手した。)を植え付けた。
【0176】
これらの細胞を成長させて、10%牛胎児血清添加DME M/Fは培地(Mediatech,Herndon,VA)に抗生物質のない条件下で37℃で5%CO2雰囲気で交会させた。これらの標準の組織培養条件下で成長させてから、これらの細胞を酵素で分離して計数し、所望の濃度に調整した。
【0177】
Matrigel(商標)をエンハンサーとして用いてこれらの細胞を1:1で混合し、2×106個の細胞をわき腹に皮下注射した。腫瘍を体積が約200−400mm3になるまで成長させ、次式で定量した。
腫瘍体積=長さ×幅×高さ
各試験動物の腫瘍のこれらの寸法はカリパスで直接測った。腫瘍を持った試験動物にパクリタキセルを各種の処方で全身又は腫瘍内投与した。投与量を報告するmg/kgの量に調整するために、各動物は治療を行う際に計量した。全身投与は試験動物の腹膜腔内に試験組成物を注入することによって行った。腹膜内(“IP”)投与では、動物に全注入量で約1mlを投与した。
【0178】
一方、腫瘍内投与(“IT”)は次の手順で行った。
(1)単一量で約100μl(0.1ml)の試験組成物を腫瘍結節の中心に21−25ゲージ針を用いて10−20秒間かけて注入し、
(2)この量を約10−15秒間かけて浸出させて、さらに針を約10−20秒放置し、そして、
(3)針を引抜く。
治療に続いて、全てのマウスに標識を付け、腫瘍を週に3回カリパスで測った。試験動物はまた週1回体量を測定した。
【0179】
試験した各種の処方は次の通りであった。
(1)12.5%クレモホ−ル(cremophor)/12.5%エタノールに1:
1で溶解し、次いで、0.9%NaClで適当な濃度に(注入量が全て
のグループで同じようになるように)希釈して、NaClの115mM
溶液(パクリタキセルの“通常”の処方)としたパクリタキセ
ルと、
(2)10%デキストラン40希釈剤に懸濁した0.1mgパクリタキセル
/1mgポリ(DAPG−EOP)を含むポリ(DAPG−EOP)微小
球(“PTX/Poly”)
結果を、2つの実験±S、E、Mの平均で図3−5にグラフで示す。図3では次の治療結果を比較している。
【0180】
IP液体ベヒクルニパクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
ITポリベヒクルニパクリタキセルのないポリ(DAPG−EOP)微小
球の腫瘍内投与(対照)、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内投与
【0181】
図4では次の治療結果を比較している。
IT PTX4/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小球に
入れた4mg/kgのパクリタキセル
IT PTX12.5/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小
球に入れた12.5mg/kgのパクリタキセル、そして、
IT PTX24/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小球
に入れた24mg/kgのパクリタキセル
【0182】
図5では次の治療結果を比較している。
IP PTX24=従来の液体処方での24mg/kgのパクリタキセルの腹膜
内注入
IT PTX24=従来の液体処方での24mg/kgのパクリタキセルの腹膜
内注入、そして
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
【実施例19】
【0183】
インビトロモデルでのH1299腫瘍へのパクリタキセルの徐放性の比較研究
次のように治療を変えて、H1299腫瘍結節の成長及び/又はサイズの経時変化を求めた。結果は2つの実験±S、E、Mの平均で図6−8にグラフで示す。
【0184】
図6では次の治療結果を比較している。
IP液体ベヒクルニパクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
ITポリベヒクルニパクリタキセルのないポリ(DAPG−EOP)微小
球の腫瘍内投与(対照)、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内投与
【0185】
図7では、全て腫瘍内投与での次の治療結果を比較している。
IT PTX4/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた4mg/kgの
パクリタキセル
IT PTX12.5/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた12.5mg
/kgのパクリタキセル、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセル
【0186】
図8では次の治療結果を比較している。
IP PTX24=従来の液体ベヒクルでの24mg/kgのパクリタキセルの
腹膜内注入
IT PTX24=従来の液体ベヒクルでの24mg/kgのパクリタキセルの
腹膜内注入、そして
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
【実施例20】
【0187】
次の治療でのマウスの体重変化
実施例18と19で前述した方法で治療した動物を次の治療後0日、7日、14日、21日、及び28日目に体重を測定した。
IP液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IP PTX24=従来のクレモホール/エタノールベヒクルに入れた
24mg/kgのパクリタキセルの腹膜内注入
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
IT PTX 24=従来の液体ベヒクルに入れた24mg/kgのパクリタ
キセルの腫瘍内注入
ITポリベヒクル=パクリタキセルのないポリ(DAPG=EOP)微小
球の腫瘍内投与、そして
IT PTX 24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
A549細胞株の1回の実験結果を図9にグラフで示す。H1299細胞株の2回の実験±S、E、M、の平均を図10に示す。動物の体重は全てのグループでグループ間の有意差なく増加しつづけ、そして治療グループで明らかな毒性と関連づけられたもはなかった。
【実施例21】
【0188】
腫瘍倍加時間
前述した図3−8に示されるデータから腫瘍倍加時間を算出した。示されているP値はポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kgのパクリタキセルを腫瘍内注入したグループと参照グループの間の差を表わしている。参照の治療は次の通りである。
IP液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタノ
ールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IP PTX24=従来のクレモホール/エタノールベヒクルに入れた
24mg/kgのパクリタキセルの腹膜内注入
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腫瘍内投与(対照)
IT PTX4=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた4mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX12=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた12mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX24=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
ITポリベヒクル=パクリタキセルなしのポリ(DAPG−EOP)微小
球腫瘍内投与(対照)
IT PTX4/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた4mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX12/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた12mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
腫瘍体積倍加時間は全ての治療グループで腫瘍を測って求めた。結果は、A549細胞株腫瘍の治療については図11に、H1299細胞株腫瘍の治療については図12にグラフで示す。
【0189】
A549細胞では、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24mg/kgグループの倍加時間は60±9.4日と算出され、これと比較される腹膜内あるいは腫瘍内ルートで24mg/kgの従来処方のパクリタキセルが与えられたものはそれぞれ11.5±2.3日と10.2±4.7日であった。パクリタキセル/ポリ(DAPG−EOP)24mg/kgグループのH1299細胞倍加時間は35±8日と算出され、これと比較される腹膜内あるいは腫瘍内ルートで従来処方のパクリタキセル(24mg/kg)が与えられたものはそれぞれ12±1.2と11.2±1.9日であった。
【0190】
まとめると、ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24 mg/kgのパクリタキセルの場合、A549結節の腫瘍体積倍加時間は約60日、H1299結節では約35日であり、これと比較される腫瘍内投与による同じ投与量の従来のパクリタキセルで治療された結節ではそれぞれ10と11日であった。
【実施例22】
【0191】
他の固型腫瘍への効果
American Type Culture Collectionから得られる次の種類の癌細胞株を培養増殖させ、免疫抑制マウスに前述のようにして植え付けた。
【0192】
【表3】
ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れたパクリタキセルの徐放性処方での一連の投与を、24mg/kgより幾分高いレベルを含む異なる投与量レベルで前述のようにして行う。腫瘍体積をその間ずっと追跡する。従来のクレモホール/エタノール溶液に入れたパクリタキセルを与えた試験動物と比較すると、マウスの腫瘍結節モデルでは、多種類の固型腫瘍の成長のコントロール、その成長速度の減少、及びいくつかの場合には実際の腫瘍のサイズの減少にもかなりの改善を示す。
【実施例23】
【0193】
胸郭内の塊への投与
ポリ(DAPG−EOP)に入れた徐放性パクリタキセルを、気管支の1次腫瘍と胸部に移転した癌を含む肺癌腫瘍の塊へ投与する。このパクリタキセル−ポリ(DAPG−EOP)処方を、Turner
Biopsy針で肺癌腫瘍の塊へ1回又は複数回投与する。透視装置やCT(コンピュータ断層撮影)をガイダンスに用いる。2−96mg/kgの投与量を用いることができる。投与量は体重や腫瘍体積に基づくことができる。従来のクレモホール/エタノール溶媒に入れたパクリタキセルの同じ投与量の腫瘍内投与への比較は、本発明のポリホスホエステル組成物と方法の予期せぬ利益を示している。
【0194】
これまで説明してきた本発明は、多くのやり方に変えられることは明らかであろう。このような変更は本発明の精神と範囲からの離脱とみなされないものであり、全てのこのような変更は次のクレームの範囲に含まれることを意味している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、固型腫瘍の治療方法に関し、特に、生分解性組成物から抗腫瘍剤を長期に放出させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パクリタキセルのような抗腫瘍剤は各種の固型腫瘍の治療に使用されてきた。例えば、各種の抗腫瘍剤を水性スラリーの形態で腫瘍自体(病巣内あるいは“腫瘍内”という。)に投与する試みがなされてきた。Luckら、米国特許第4,978,332号参照。しかしながら、このような水性の組成物はまたこの薬剤の作用を局在化させる血管収縮性の医薬の存在が必要であった。
【0003】
これと反対のアプローチが腫瘍内注入用の水不混和性の脂肪酸エステルマトリックス。例えばパクリタキセル、を処方することによってなされた。1995年7月6日発行のWO95/17901とBrownら、米国特許第5,573,781号参照。しかしながら、脂質キャリヤーに入れられた抗腫瘍剤を長い期間、例えば3又は4週間にわたってコントロールしながら腫瘍内に放出しつづけることはまだ開されていない。
【0004】
こうして、インビボで各種の異なる抗腫瘍剤を、それらがパクリタキセルのような小さな疎水性医薬であれあるいは治療に有用な蛋白などの大きな嵩ばる生体高分子であれ、固型腫瘍内にコントロ−ルしながら放出する方法の必要性が存在している。しかも、生理食塩水や水不溶性有機溶剤などの生理的に受容可能な液体ベヒクルが相当量存在することを要求せずに抗腫瘍剤が有効に放出されることが好ましい。
【0005】
生体適合性ポリマー物質は各種の治療薬デリバリ−及び医療上の移植への適用に用いられてきた。もし、医療上の移植が薬のデリバリ−や他のコントロ−ルされた放出システムとしての使用を意図しているのであれば、生分解性ポリマーキャリ−の使用は治療薬をコントロ−ルされたやり方で局所的に配達する1つの有効な手段である。Langerら.,“Chemical and Physical Structures of Polymers
as Carriers for Controlled Release of Bioactive Agents”,J.Macro, Science
Rev. Macro. Chem. Phys.,C23(1),61−126(1983)参照。このやり方では、要求される薬の全量が少なくなり、有毒な副作用を最小限にすることができる。
【0006】
ポリマーは、時折治療薬を局所的に放出を維持させるキャリヤ−として使用されている。Leongら.,“PoLymeric Controlled Drug Delivery”,Advanced Drug
Delivery Rev.,1:199〜233(1987);Langer,“New Methods of Drug Delivery”,Science,249:1527〜33(1990);Chienら.,Novel
Drug Delivery Systems(1982)参照。このようなデリバリ−システムは治療効果の増進と全体としての毒性の減少の可能性を提供する。可能な固体の生分解性材料として研究された合成ポリマーのクラスの例には、ポリエステル(Pittら、Biodegradable
Drug Delivery Systems Based on Aliphatic Polyesters:Application to
Contraceptives and Narcotic Antagonists,Controlled Relese of Bioactive
Materials, 19〜44(Richard Baker ed., 1980);PoLy (amino acids)及びシュ−ドポリアミノ酸(Pulapuraら.,“Trends
in the Development of Bioresorbable Polymers for Medical Applications”,J.of Biomaterials Appl.,6:1,216〜50(1992);ポリウレタン(Bruinら,.“Biodegradable
Lysine Diisocyanate−based Poly(Glycolide−co− ε Caprolactone)−Urethane Network in
Artificial Skin”,Biomaterials, 11:4,291〜95(1990);ポリオルトエステル(Hellerら.,“Release
of Norethindrone from Poly(Ortho Esters)”,Polymer Engineering Sci.,21:11,727〜31(1981):及びポリアンハイドライド(Leongら.,“Polyanhydrides
for Controlled Release of Bioactive Agents”,Biomaterials 7:5,364〜71(1986)が含まれる。
【0007】
より詳しくは、WalterらはNeurosurgery,37:6,1129−45(1995)にポリアンハイドライドPCPP−SAを腫瘍内投与用の固体キャリヤーとして使用することを開示している。他の者はポリ乳酸を腫瘍内投与の固体キャリヤー、例えば病巣に直接注入できる針などとして用いてきた。Kaetsuら、J.Controlled
Release,6:249−63(1987)、及びYamadaら、米国特許第5,303,377号参照。
【0008】
しかしながら、他の者はこれらの材料の問題に遭遇した。パクリタキセルをポリε−カプロラクトンでカプセル化したが、インビトロの試験では6週間以上かかって約25%の薬が放出されたにすぎなかった。Dordunooら、“Taxol Encapsulation in Poly (epsilon-caprolactone)
Microspheres”,Cancer Chemotherapy & Pharmacology, 36:279−82(1995)。ポリ乳酸−コ−グリコール酸微小球がパクリタキセルのカプセル化に用いられ、それはインビトロで3週間以上比較的一定な放出速度を示したが、インビボではこれらの処方は評価されなかった。Wangら、“Preparation
and Characterization of Poly (lactic−co−glycolic acid) Microspheres for
Targeted Delivery of a Novel Anticancer Agent, Taxol”,Chemical &
Pharmaceutical Bulletin, 44:1935−40(1996)。パクリタキセルはまたポリアンハイドライドディスクでもカプセル化されたが、得られた放出速度は臨床用としてはあまりにも遅いものであった。Parkら、“Biodegradable
polyanhydride Devices of Cefaxolin Sodium, Bupivacaine, and Taxol for Local
Drug Delivery:Preparation and Kinetics and Mechanism of in vitro Release”,J.of
Controlled Release, 52:179−89(1998)”
ポリホスフェ−ト、ポリホスホネ−ト及びポリホスファイトと呼ばれるホスホエステル結合を有するポリマーが知られている。Penczekら.,Handbook of Polymer Synthesis, Chapter 17:“Phosphorus−Containing
Polymers”(Hans R.Kricheldorf ed.,1992)参照。それぞれリン原子に結合されている異なる側鎖を有するこれらの三つのクラスの化合物のそれぞれの構造は次の通りである。
【0009】
【化9】
これらのポリマーの多用性は、反応の多重性が知られているリン原子の多能から来ている。その結合は3P軌道や各種の3S−3P混成軌道を含み、d軌道も受け入れられるのでspd混成軌道もまた可能である。こうして、これらのポリホスホエステルの物理化学的性質はRまたはR’基のどちらかを変えることによって容易に変えることができる。このポリマー生分解性は基本的にこのポリマーの主鎖における生理学的に不安定なホスホエステル結合によるものである。主鎖や側鎖を操作することによって広範囲の生分解率を得ることができる。
【0010】
ポリホスホエステルの付加的特徴は官能側基を利用しうることである。リンは5価になりうるので、薬の分子あるいは他の生物学的活性物質をこのポリマーに化学的に結合させることができる。たとえば、−o−カルボキシル基を持っている薬を加水分解可能なホスホエステル結合を介してリンに結合させることができる。Leong,USP
5,194,581, USP 5,256,765参照。この主鎖におけるP−O−C基はポリマーのガラス転移温度も下げ、さらに重要なことに特性決定と処理に望ましい普通の有機溶剤への溶解性を与える。
【0011】
共に出願中の1998年4月2日に出願された米国特許出願09/053,648号、それはPCT/US98/0681(1998年10月8日にWO98/44021として公開された)に対応している、には生分解性テレフタレートポリエステル−ポリホスフェート組成物が開示されている。共に出願中の1998年4月2日に出願された米国特許出願09/053,649号、それはPCT/US98/06380(1998年10月8日にWO98/44020として公開された)に対応している、には鎖がホスホエステルで延ばされたポリマーを含む生分解性組成物が開示されている。さらに、共に出願中の1998年4月30日に出願された米国特許出願09/070,204号、それはPCT/US98/09185に対応している、にはポリ脂環式ホスホエステル化合物よりなる生分解性組成物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらの開示にはいずれも特に固型腫瘍の腫瘍内治療用の生分解性ポリホスホエステル組成物の用途は示唆されていない。
【0013】
こうして、最小の毒性で長期にわたる定期的投与を避ける腫瘍の治療を成功させる困難な問題のための新しい方法と物質が相変らず必要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、
(a)生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b)固型腫瘍の成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる生分解性ポリマー組成物が固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与による治療に適することを発見した。
好ましい態様においてはこの組成物は、
(a)ホスホロジハライデートとジオールの反応プロセスによってつくられるポリホスホエステル生分解性ポリマーと、
(b)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなるものである。
【0015】
あるいは、それは、
(a)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
(b)(1)少なくとも1つの複素環化合物を
H−Y−L−Y−H
式中、Hは水素であり、
Yは−O−、−S−又は−NR4−でR4はH又はアルキルであり、そして、
Lは炭素原子数が1−20で分岐又は直鎖の2価の脂肪族基である。
と反応させてプレポリマーを形成させ、
(2)このプレポリマーをさらにホスホロジハライデートと反応させてポリホスホエステルを形成させる
工程よりなる方法によってつくられるポリホスホエステル生分解性ポリマー。
【0016】
本発明は、また、固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与に適する物品であって、
(a)生分解性ポリホスホエステルと、
(b)前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる物品よりなる。
【0017】
本発明のさらに別の態様では、
(a)生分解性ポリマーと、
(b)胸部腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内に投与することによる、哺乳動物内の胸部腫瘍を治療する方法を提供するものである。
【0018】
哺乳動物内の固型腫瘍を治療する別の方法は
(a) 生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b) 前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内投与することによるものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の組成物は、多種類の抗腫瘍剤、例えばパクリタキセルのような疎水性医薬から蛋白やDNAのような大きな水溶性高分子の両方を相当量のデリバリー液あるいは規則的な繰返し投与を必要とせずに長期間にわたってデリバーするのに使用することが可能である。本発明の方法は、抗腫瘍剤が放出される有効投与期間を著しく増加させるのに使用することができる。さらに、腫瘍の成長を予期できない程度まで鈍化される。さらに、腫瘍に罹っている患者を最小の副作用で、かつ腫瘍内の抗腫瘍剤の相当な濃度を維持しつづけるための周期的な一連の非経口治療の不快感なしで治療することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ポリ(ビス−ヒドロキシエチルテレフタレート−コ−エチルホスフェート/テレフタレートクロライド)(80:20)[ポリ(BHET−EOP/TC,80/20)]のフィルムからのパクリタキセルのような疎水性小分子のコントロールされたデリバリーを示すものである。
【図2】図2Aから2Cは、全てポリ(D,L−ラクチド−コ−エチルホスフェート[ポリ(DAPG−EOP)]の分解データを示すものである。
【図3】図3は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた24mg/kgのパクリタキセルで腫瘍内治療したA549腫瘍結節とポリ(DAPG−EOP)キャリヤーのみで治療したものの経時変化を示している。
【図4】図4は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた3つの異なる投与量(4mg/kg,12.5mg/kg又は24mg/kg)のパクリタキセルで腫瘍内治療したA549腫瘍結節の経時変化を示している。
【図5】図5は通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腹膜内投与、通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与、及びポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与で治療したA549腫瘍結節の経時変化を示している。
【図6】図6は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた24mg/kgパクリタキセルの腫瘍内、及びこのポリ(DAPG−EOP)ポリマーキャリヤーのみで治療したH1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図7】図7は、ポリ(DAPG−EOP)に入れた3つの異なる投与量(4mg/kg,12.5mg/kg又は24mg/kg)のパクリタキセルで腫瘍内治療したA1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図8】図8は通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腹膜内投与、通常の液体処方のパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与、及びポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル(24mg/kg)の腫瘍内投与で治療したA1299腫瘍結節の経時変化を示している。
【図9】図9は、コントロールとしての賦形剤又は通常の液体処方のもしくはポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24 mg/kgで治療したA549腫瘍を有するマウスの体重変化を示している。
【図10】図10は、コントロールとしての賦形剤又は通常の液体処方のもしくはポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24 mg/kgで治療したA1299腫瘍を有するマウスの体重変化を示している。
【図11】図11は、A549腫瘍細胞について図4−6に示されているものから引き出されたデータに基いて算出した腫瘍体積倍加時間を示している。示されているP値は、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセルの24mg/kg群と対応群の間の差を表わしている。
【図12】図12は、A1299腫瘍細胞について図7−9に示されているものから引き出されたデータに基いて算出した腫瘍体積倍加時間を示している。示されているP値は、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセルの24mg/kg群と対応群の間の差を表わしている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明のポリマー組成物]
ここで使用されている“哺乳動物”の表現は、マウス、ラット、モルモット、猫、犬、人間、牛、馬、羊あるいは他の家畜などの如何なる哺乳類の患者も意味している。
【0022】
“癌”は、細胞増殖の増加及び/又はアポプトーシスの減少のいずれかによって成長する組織よりなるものである。
【0023】
“癌を有する哺乳動物”は、特に限定されないが、現にこの病気の症状に罹っている患者及びこの病気の他の治療方法、例えば手術、化学療法又はその他の治療方法によって回復しつつある患者を含んでいる。
【0024】
ここで使用されている“治療”の用語は、
(i)この病気、不調、状態を抑えること、すなわち、それが進行しないよう抑えること、及び
(ii)この病気、不調、状態軽減すること、すなわちこの病気、不調及び/又は状態を退行させること、を含む。
【0025】
“腫瘍の体積”は、立法単位で測定された、主に動物の腫瘍によって占められた3次元空間を意味する。
【0026】
“腫瘍内”投与は、抗腫瘍剤の貯蔵器を腫瘍内に差し込むことを意味する。腫瘍内投与は腫瘍の治療に好都合である。何故なら、腫瘍の外側細胞層は、しばしば壊死細胞及び/又は結合及び支持組織で高い比率で構成され、それは固型腫瘍の中心部で活発に成長している癌細胞への治療薬を腫瘍外の血管からあるいは非経口で送り込むのを遅らせ及び/又は妨げるからである。
【0027】
“倍加時間”は、癌細胞数が2倍になるのに要する時間又は腫瘍の体積が2倍になるのに要する時間を意味する。
【0028】
“生分解性”は、生物学的に分解されうることを意味する。“生分解性”ポリマーは、生物学的システムから除かれることができ、及び/又は化学的に生物学的システムに取り込ませることができる構成単位まで生物学的に分解されうるものである。本発明による固型腫瘍の成長抑制は腫瘍倍加時間の遅れとして測定される。本発明の使用によって、通常倍加時間は有意に、好ましくは少なくとも2倍に、より好ましくは少なくとも4倍に、最も好ましくは8〜10倍に延ばされる。
【0029】
本発明による固型腫瘍の成長抑制のもう一つの方法は腫瘍の体積の減少として測定されるものである。本発明の使用によって、通常腫瘍体積は有意に、好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約30%、さらに好ましくは少なくとも約50%、最も好ましくは少なくとも約70%減少する。
【0030】
“固型腫瘍”は、細胞の大部分が腫瘍細胞又は腫瘍関連細胞である腫瘍細胞の場所を意味する。
【0031】
生分解性ポリマーは、それらがインビボでの療法中に分解しうる点で非生分解性ポリマーと異なっている。これは、一般にこのポリマーのモノマー性サブユニットまでの分解を含んでいる。原則として、本発明で用いられるポリマーの究極の加水分解産物はジオール、脂肪族アルコール及びリン酸である。これらの分解産物はすべて無毒になりうるものである。しかしながら、加水分解の中間オリゴマー産物は性質が異なっていてもよい。こうして、体内に挿入される生分解性ポリマーの毒性は、たとえそれが明らかに無害なモノマー構造体から合成されたものだとしても、通常一以上の毒性分析が行われてから決定される。
【0032】
ここで用いられている“放出が延ばされる”の表現は、放出のコントロール、放出時間の設定、放出の持続放出を遅らせること、長時間作用、パルス的送込、即時放出を各種の速度で起こすことなど、放出の各種の形態を制限なく含んでいる。これらの放出が延ばされる、放出のコントロール、放出時間の設定、放出の持続放出を遅らせること、長時間作用、パルス的送込、及び即時放出は、当業者にとって入手可能な周知の方法や技術を用いて得ることができる。これらの技術や方法は本発明の発明的特徴を構成しない。
【0033】
本発明は、生分解ポリマー組成物、物品及び固型腫瘍を有する患者の治療方法を対象としている。本発明の治療は広範囲の固型腫瘍のいずれにも答えることができ、それらは特に限定されないが、喉頭部の腫瘍、脳腫瘍及び頭部と首部のその他の腫瘍、結腸、直腸及び前立腺腫瘍、前胸部及び胸部固型腫瘍、卵巣及び子宮腫瘍、食道、胃、膵臓及び肝臓の腫瘍、膀胱及び胆ノウ腫瘍、メラノーマなどの皮膚腫瘍などを含んでいる。さらに、本発明で治療される腫瘍は、体内のいかなる部位の癌細胞の胸部への転移をもたらす一次又は二次腫瘍でもよい。
【0034】
好ましくは、腫瘍は喉頭部、結腸、直腸、前立腺、前胸部、胸部、膀胱又は皮膚腫瘍である。より好ましくは、腫瘍は胸部腫瘍、特に限定されないが、例えば、気管支腫瘍、例えば一次及び/又は転移肺癌[非小細胞性肺癌(NSCLC)及び小細胞性肺癌(SCLC)の両方]、悪性胸膜滲出、肺柔組織、気管、胸壁及び胸膜腔の癌などである。しかしながら、最も好ましくは、腫瘍は肺固型腫瘍である。
【0035】
“脂肪族”の用語は、直鎖、分岐あるいは環状のアルカン、アルケン又はアルキンを意味する。本発明のポリ脂環式ホスホエステル組成物における好ましい直鎖又は分岐脂肪族基は約1から20の炭素原子を有するものである。好ましい脂環式基は、1以上の不飽和部分、すなわち二重又は三重結合を有しているが芳香性のないものである。
【0036】
ここで使用されている“アリ−ル”の用語は、4n+2のπ電子を有する不飽和環状炭素化合物を意味する。ここで使用されている“複素環式”の用語は、環の1以上の原子か炭素以外、例えば窒素、酸素あるいは硫黄である、飽和又は不飽和の環式化合物を意味する。“ヘテロアリ−ル”は4n+2の電子を有する複素環式化合物を意味する。
【0037】
ここで使用されている“非阻害性置換基”の用語は、そのモノマ−と反応せず、その重合反応を触媒、停止あるいは他の妨害をせず、そして得られたポリマーと分子内又は分子間反応をしない置換基を意味する。
【0038】
本発明の生分解性で注入可能なポリマー組成物は生分解性ポリホスホエステルポリマーよりなる。本発明で用いられるポリホスホエステルポリマーは厳密には組成物に用いられる抗腫瘍剤の親水性又は疎水性、所望の物質、及び所望の放出プロフィールによって幅広く変わりうる。有用なポリホスホエステルの例には、ポリホスフェート、ポリホスファイト又はポリホスホネート、ポリカルボン酸で修飾したポリホスホエステル、Friendman米国特許第3,422,982号に記載されているようなポリフェニルネオカルボキシレートホスファイトとポリペンタエリスリチルネオカルボキシレートホスファイト、Vandenberg米国特許第3,655,586号に記載されているような環状シクロアルキレンホスフェートと環状アリーレンホスフェート、Kerst米国特許第3,664,975号に記載されているような置換エタンジホスホネート、Cohenら米国特許第3,664,974号に記載されているようなポリヒドロキシクロロプロピルホスフェート−ホスフェート、Herwigら米国特許第3,875,263号に記載されているようなジホスフィン酸エステル、Desiterら米国特許第3,927,231号に記載されているようなポリフェニルホスホネート、Readerら米国特許第3,932,566号に記載されているようなポリテレフタレートホスホネート、Meyerら米国特許第3,981,847号に記載されているようなポリアミドカルボン酸(ポリアミック酸とも呼ばれている。)、Hechenbleikner米国特許第4,082,897号に記載されているようなジメチルペンタエリスリトールジホスファイト、アルキルアルキレンホスファイト、1,3,2−ジオキサホスホリナン、アリールアルキレンホスホナイト及び1,3,2−オキサ−アザ−ホスホレイン、Loginら米国特許第4,259,222号、第4,315,847号及び第4,315,969号に記載されているようなリン酸とハロゲン化ジオールの直鎖飽和ポリエステル、Schmidtら米国特許第4,328,174号と第4,374,971号に記載されているような芳香族ジカルボン族と芳香族ジヒドロキシ化合物に基いたポリエステルホスホネート、Beseckeら米国特許第4,463,159号と第4,472,570号に記載されているようなリンを含むポリアリーレンエステル、Seriniら米国特許第4,482,693号と第4,491,656号に記載されているようなインダン−5−オールとトリフェニルホスフェートから製造されたポリホスフェート、Leong米国特許第5,176,907号に記載されているようなポリホスホエステル−ウレタン、Leong米国特許第5,194,581号と第5,256,765号に記載されているようなビスフェノールAのような化合物から作製されたポリホスホエステル、等が含まれ、
それらの記述はここでは文献名で加えられている。
【0039】
しかしながら、特に好ましいポリホスホエステルには、共に出願中の1998年4月2日に出願した米国特許出願第09/053,648号、1998年4月2日に出願した第09/053,649号、及び1998年4月30日に出願した第09/070,204号、これらはそれぞれPCT/US98/0681(1998年10月8日にWO98/44021として公開)、PCT/US98/06380(1998年10月8日にWO98/44020として公開)及びPCT/US98/09185が対応している、に記載されているものが含まれる。それらの記述はここでは全て文献名で加えられている。
【0040】
しかしながら、好ましくは、このポリホスホエステルは式Iで示される繰返しモノマー単位を有するものである。
【0041】
【化10】
式中、Xは−O−又は−NR4−で、R4はH又は、メチル、エチル、1,2−ジメチルエチル、n−プロピル、イソプロピル、2−メチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル又は第3ブチル、n−ペンチル、第3ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル等のアルキルである。
【0042】
式IにおけるY基は−O−、−S−又は−NR4−で、R4は前記定義の通りである。
R1とR2はそれぞれ、無置換又は1以上の非阻害性置換基で置換されていてもよい2価の有機部分であることができ、この部分とその置換基はこのポリマーの重合、共重合又は生分解反応を望ましくなく阻害しない限り、如何なるものであってもよい。特に、R1とR2はそれぞれ分岐又は直鎖の脂肪族基、好ましくは炭素数が約1〜20のものであることができる。R1とR2は例えばアルキレン、例えばメチレン、エチレン、1−メチルエチレン、1,2−ジメチルエチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、2−メチルプロピレン、2,2’−ジメチルプロピレン又は第3ブチレン、n−ペンチレン、第3ペンチレン、n−ヘキシレン、n−ヘプチレン、n−オクチレン、n−ノニレン、n−デシレン、n−ウンデシレン、n−ドデシレン、等であることができる。
【0043】
R1とR2はまたアルケニレン、例えばエテニレン、プロペニレン、2−ビニルプロペニレン、n−ブテニレン、3−エテニルブチレン、n−ペンテニレン、4−(3−プロペニル)ヘキシレン、n−オクテニレン、1−(4−ブテニル)−3−メチルデシレン、ドデセニレン、2−(3−プロペニル)ドデシレン、ヘキサデセニレン等であることができる。R1とR2はまたアルキニレン、例えばエチニレン、プロピニレン、3−(2−エチニル)ペンチレン、n−ヘキシニレン、オクタデセニニレン、2−(2−プロビニル)デシレン等であることができる。
【0044】
R1とR2はまた非阻害性置換基、例えばヒドロキシ、ハロゲン又は窒素基で置換された、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン基などの脂肪族基であることができる。このような基の例には、2−クロロ−n−デシレン、1−ヒドロキシ−3−エテニルブチレン、2−プロピル−6−ニトロ−10−ドデシニレン等が含まれるが、これらには限定されない。
【0045】
さらに、R1とR2は脂環式基、例えばシクロペンチレン、メチルシクロペンチレン、シクロヘキシレン、シクロヘキセニレン等であることができる。
【0046】
R1とR2はそれぞれ2価の芳香族基、例えばフェニレン、ベンジレン、ナフタレン、フェナントレニレン等、又は非阻害性の置換基で置換された2価の芳香族基であってもよい。さらに、R1とR2はそれぞれ2価の複素環式基、例えばピロリレン、フラニレン、チオフェニレン、アルキレン−ピロリレン−アルキレン、ピリジレン、ピリジニレン、ピリミジニレン等、又はこれらの非阻害性置換基で置換された如何なるものであってもよい。
【0047】
好ましくは、R1とR2は炭素数が約1〜20のものであって、アルキレン基、脂環式基、フェニレン基又は下記の式を有する2価の基である。
【0048】
【化11】
式中、Zは酸素、窒素又は硫黄であり、nは1ないし3である。より好ましくは、R1とR2はそれぞれ1〜7個の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアルキレン基である。最も好ましくは、R1とR2はそれぞれメチレン基、エチレン基、n−プロピレン、2−メチル−プロピレン又は2,2’−ジメチルプロピレン基である。
【0049】
本発明の1つの態様においては、R1とR2の一方又は両方が生理的環境で放出されうる形態の抗腫瘍剤であることができる。このやり方で抗腫瘍剤がポリホスホエステル主鎖の1部になっているときには、本発明の組成物の分解によって形成されるポリマーマトリックスとして放出される。
【0050】
本発明のポリマー組成物におけるLは、いかなる炭素数が1〜20の2価の分岐又は直鎖脂肪族基、脂環式基、又は次式の基であることができる。
【0051】
【化12】
Lが分岐又は直鎖アルキレン基である場合には、炭素数が1〜7のアルキレン基、例えば2−メチルメチレン又はエチレンであることが好ましい。Lが脂環式基である場合には、それがこの組成物のポリマーの重合又は生分解反応を阻害しない限り如何なる2価の脂環式基であってもよい。有用な無置換及び置換脂環式L基の具体例には、シクロアルキレン基、例えばシクロペンチレン、2−メチルシクロペンチレン、シクロヘキシレン、2−クロロシクロヘキシレン等、シクロアルケニレン等、例えばシクロヘキセニレン、及び1以上の側部に環が融合又は架橋によって付加されている構造を有するシクロアルキレン基、例えばテトラリニレン、デカリニレン及びノルピナニレン等が含まれる。
【0052】
本発明のポリマー組成物におけるR3は、H、アルキル、アルコキシ、アリ−ル、アリ−ルオキシ、複素環式及びヘテロシクロオキシ残基よりなる群から選ばれる。
【0053】
R3がアルキル又はアルコキシである場合には、好ましくは約1から約20の炭素原子、より好ましくは約1から約15の炭素原子、最も好ましくは約1−7の炭素原子を含む。このような基の例には、メチル、メトキシ、エチル、エトキシ、n−プロピル、イソプロポキシ、n−ブトキシ、t−ブチル、−C8H17、非阻害性置換基、例えばハロゲン、アルコキシ又はニトロで置換されたアルキル、生物学的に活性な物質と共役してペンダント医薬送込システムを形成しているアルキル等が含まれる。
【0054】
R3がアリ−ル又はそれに対応するアリールオキシ基である場合には、それは典型的には約5から約14、好ましくは約5から12の炭素原子を含んでおり、互いに融合した1以上の環を含んでいてもよい。特に適する芳香族基にはフェニル、フェノキシ、ナフチルアントラセニル、ファナントレニル等が含まれる。
【0055】
R’が複素環式又はヘトロシクロオキシの場合には、それは典型的には約5から約14の環形成原子、好ましくは約5から約12の環形成原子と、1以上の異種原子を含む。適する複素環式基の例には、フラン、チオフェン、ピロール、イソピロ−ル、3−イソピロール、ピラゾール、2−イソイミダゾ−ル、1,2,3−トリアゾ−ル、1,2,4−トリアゾール、オキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、1,2,3−オキサジアゾール、1,2,4−オキサジアゾール、1,2,5−オキサジアゾール、1,3,4−オキサジアゾール、1,2,3、4−オキサトリアゾール、1,2,3,5−オキサトリアゾール、1,2,3−ジオキサゾール、1,2,4−ジオキサゾール、1,3,2−ジオキサゾール、1,3,4−ジオキサゾール、1,2,5−オキサトリアゾール、1,3−オキサチオール、1,2−ピラン、1,4−ピロン、1,2−ピロン、1,4−ピロン、1,2−ジオキシン、1,3−ジオキシン、ピリジン、N−アルキルピリジニウム、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−オキサジン、1,3,2−オキサジン、1,3,5−オキサジン、1,4−オキサジン、o−イソオキサジン、P−イソオキサジン、1,2,5−オキサチアジン、1,2,6−オキサチアジン、1,4,2−オキサジアジン、1,3,5,2−オキサジアジン、アゼピン、オキセピン、チエピン、1,2,4−ジアゼピン、インデン、イソインデン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、チオナフテン、イソチオナフテン、インドール、インドレニン、2−イソベンザゾ−ル、1,4−ピリンジン、ピランド[3,4−b]−ピロ−ル、イソインダゾール、インドキサジン、ベンゾキサゾール、アントラニル、1,2−ベンゾピラン、1,2−ベンゾピロン、1,4−ベンゾピロン、2,1−ベンゾピロン、2,3−ベンゾピロン、キノリン、イソキノリン、1、2−ベンゾジアジン、1,3−ベンゾジアジン、ナフチリジン、ピリド[3,4−b]−ピリジン、ピリド[3,2−b]−ピリジン、ピリド[4,3−b]ピリジン、1,3,2−ベンゾキサジン、1,4,2−ベンゾキサジン、2,3,1−ベンゾキサジン、3,1,4−ベンゾキサジン、1,2−ベンズイソキサジン、1,4−ベンズイソキサジン、カルバゾ−ル、キサントレン、エクリジン、プリン、等が含まれる。好ましくは、R3が複素環式又はヘテロシクロオキシの場合には、それがフラン、ピリジン、N−アルキルピリジン、1,2,3−及び1,2,4−トリアゾール、インデン、アントラセン並びにプリン環よりなる群から選ばれる。
【0056】
特に好ましくい態様においては、R3はアルキル基、アルコキシ基、フェニル基フェノキシ基又はヘテロシクロオキシ基であり、さらに好ましくは、1から10個の炭素原子を有するアルコキシ基である。最も好ましくは、R3はエトキシとヘキシルオキシ基である。
【0057】
一方、この側鎖R3は例えばイオン結合や共有結合でポリマー主鎖にペンダント結合させた抗腫瘍剤や他の生物学的に活性な物質であることができる。このペンダントシステムでは、抗腫瘍剤や他の生物学的に活性な物質は生理学的な状態の下で開裂されるリン原子に結合しているR3として放出される。
【0058】
繰返しモノマー単位の数はポリマーに要求される生分解性と放出特性によって大きく変わることができるが、典型的には約5から1,000の間で変わる。この繰返し単位の数は好ましくは約5から約500であり、最も好ましくは約5から約400である。
【0059】
本発明の方法で使用されるときには、このポリマー組成物は、1以上の固型腫瘍を有する患者のこの腫瘍への抗腫瘍剤の放出を延ばし、好ましくは約1日間より長く延ばす。さらに好ましくは、この放出プロフィールは少なくとも約15日間を越えて、さらに好ましくは少なくとも約30日間を越えて、例えば少なくとも約4週間から1年間まで延ばす。
【0060】
しかしながら、より好ましい本発明のポリホスホエステルポリマーはホスホエステル−コ−エステルである。
【0061】
1つの態様では、本発明の生分解性ポリホスホエステルは約2から500キロダルトンの分子量を有し、式IIとIIIで表わされるモノマー単位よりなる
【0062】
【化13】
式中、R1、R2及びR5はそれぞれ2価の有機部分であり、そして、R3はアルコキシ、アリールオキシ及びヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。より好ましくは、R1、R2及びR5はそれぞれ独立に1−7個の炭素原子を有するアルキレン基であって、R3は1−7個の炭素原子を有するアルコキシ基である。最も好ましくは、R1、R2及びR5はそれぞれ独立にエチレン、n−プロピレン、2−メチルプロピレン及び2,2−ジメチルプロピレンよりなる群から選ばれたものであり、R3はエトキシである。
【0063】
別の態様では、本発明のポリマー組成物は、約2から500キロダルトンの分子量を有し、式IV、V、VI及びVIIで表わされるモノマー単位よりなる生分解性ポリホスホエステルよりなる。
【0064】
【化14】
式中、Xは−O−又は−NR4−であり、
Yは−O−、−S−又は−NR4−であり、
R4はH又はアルキルであり、
M1とM2はそれぞれ独立に、(1)炭素原子数が1−20の分岐もしくは直鎖脂肪族基、又は(2)炭素原子数が1−20の分岐もしくは直鎖のオキシ、カルボキシもしくはアミノ脂肪族基であり、
Lは炭素原子数1−20で分岐又は直鎖の2価の脂肪族基であり、そして、
R3はH、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環又はヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。
式IV−VIIにおいて、各種モノマー相互のモル比はポリマーに要求される生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、一般的にはそれぞれ約1;10;1;10である。
【0065】
式VとVIIにおけるM1とM2はそれぞれ好ましくは分岐又は直鎖のアルキレン又はアルコキシレン基、より好ましくは1−20個の炭素原子を有するものである。
【0066】
式V及びVIIにおいて、M 1とM 2はそれぞれ好ましくは分岐又は直鎖のアルキレン又はアルコキシレン基であり、より好ましくは1〜20の炭素原子を有するものである。さらに好ましくは、M
1とM 2の少なくとも一方が、−(CH2)a−、−(CH2)a−O−、及び−(CH2)a−O−(CH2)b−、式中、aとbはそれぞれ1−7である、よりなる群より選ばれた式を有するアルキレン又はアルコキシレン基である。
【0067】
M1又はM2のいずれかが1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖のカルボキシ脂肪族基である場合には、それはまた、例えば2価のカルボン酸エステル、例えばギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸アリル、アクリル酸t−ブチル、酪酸n−ブチル、クロル酢酸ビニル、2−メトキシカルボニルシクロヘキサノン、2−アセトキシシクロヘキサノン等に対応する2価のラジカルなどであることができる。M1又はM2が分岐又は直鎖のカルボキシ脂肪族基である場合には、それは好ましくは式−CHR’−O−CHR”−、式中、R’とR”はそれぞれ独立にH、アルキル、アルコキシ、アリ−ル、アリ−ルオキシ、複素環式又はヘテロシクロオキシである、を有するものである。
【0068】
M1又はM2のいずれかが1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアミノ酸脂肪族基である場合には、それは2価のアミン、例えば−CH2NH−、−(CH2)2N、−CH2(C2H5)N−、−n−C4H9−NH−、−TC4H9−、NH−、−CH2(C3H6)N−、−C2H5(C3H6)N−、−CH2(C8H17)N−等であることができる。M1又はM2が分岐又は直鎖のアミノ脂肪族基である場合には、それは好ましくは、式−(CH2)a−NR’、式中、R’はH又は低級アルキルで“a”は1から7まである、を有するものである。
【0069】
M1及び/又はM2は好ましくは、式−O−(CH2)a−、式中aは1から7である、を有するアルキレン基であり、そして最も好ましくは、2価のエチレン基である。別の特に好ましい態様においては、M1とM2はそれぞれn−ペンチレンと酢酸メチルに対応する2価のラジカルである。
【0070】
好ましくは、式IV−VIIのR3はアルコキシ基であり、XとYはそれぞれであり、そして、M1、M2及びLはそれぞれ独立に1−7個の炭素原子を有する分岐又は直鎖のアルキレン基である。さらに好ましくは、R3は1−7個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、Lはアルキレンであり、そして、M1とM2はそれぞれ独立に1−3個の炭素原子を有するアルキレン基である。
式VIIIとIXの好ましいポリマーでは、
【0071】
【化15】
式中、X、Y及びR3の定義は前記の通りである。
【0072】
M1とM2は、それぞれ独立に、(1)約1−20の炭素原子、より好ましくは約1−7の炭素原子を有する分岐又は直鎖脂肪族基、又は(2)約1−20の炭素原子を有する分岐又は直鎖オキシ、カルボキシ又はアミノ脂肪族基、例えばエトキシレン、2−メチルエトキシレン、プロポキシレン、ブトキシレン、ペントオキシレン、デドシルオキシレン、ヘキサデシルオキシレン等であり、
Lは、1−20個の炭素原子を有する2価の分岐又は直鎖脂肪族基であり、xとyはそれぞれ約1から1,000であり、
x:yのモル比は、ポリマーに望まれる生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、約1であり、
q:rのモル比もまた、ポリマーに望まれる生分解性と放出特性によって大きく変わりうるが、典型的には約1:20と200:1の間、好ましくは1:150から150:1の間、そして最も好ましくは約1:99と99:1の間で変わる。
【0073】
さらに別の好ましい態様においては、本発明のポリマー組成物は、約2から500キロダルトンの分子量を有し、式Xで表わされるモノマー単位よりなる生分解性ポリホスホエステルよりなる。
【0074】
【化16】
式中、R1とR2はそれぞれ独立に、無置換又は1以上の非阻害性置換基で置換された直鎖又は分岐の脂肪族であり、そして、
Lは2価の脂環式基であり、そして、
R3はH、アルキル、アルコキシ、アリール、アリールオキシ、複素環式又はヘテロシクロオキシよりなる群から選ばれたものである。
【0075】
好ましくは、R1とR2はそれぞれメチレン基であり、R3は1−6個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、そしてLはシクロヘキシレンである。
【0076】
最も好ましくは、生分解性組成物は胸部固型腫瘍を有する哺乳動物を腫瘍内投与で治療するのに適するものであって、この組成物は、
(a)パクリタキセルと、
(b)約2から500キロダルトンの分子量を有し、式XIで示されるモノマー単位よりなる生分解性ポリマー
よりなり、
【0077】
【化17】
腫瘍倍加時間の遅れを少なくとも2倍に延ばすものである。一般的には、式XIにおけるx:yのモル比は約1:1である。
【0078】
本発明の組成物に用いられるポリマーの分子量は、硬い固体状態(より高い分子量)が望まれるか、あるいは、流動しうるもしくは柔軟な状態(より低い分子量)が望まれているかによって大きく変わりうる。分子量は当業者によく知られている標準的な方法、例えばGPCや光散乱法によって求める。しかしながら、一般的には、重量平均分子量(Mw)では、典型的には約2,000から約500,000ダルトンまで、好ましくは約5,000から約200,000ダルトンまで、そして、さらに好ましくは約5,000から100,000ダルトンまで変わる。
【0079】
分子量を決定する一つの方法は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(“GPC”)と光散乱法の組合せ、例えば、混合床カラム、CH2CL2溶剤、屈折率検出器、及び光散乱式検出器よりなるものである。オフラインdn/dc測定が一般的に用いられる。
【0080】
本発明で使用される生分解性ポリマーは好ましくはそれ自身が生体適合性を有するのに充分に純粋であり、生分解の際に生体適合性を残している。“生体適合性”は生分解産物やポリマー自身が無毒であり、血管形成組織に注入され、あるいは密着させて置かれたときに最小限の組織への刺激をもたらすにすぎない。生体適合性の要求は、本発明のポリマー組成物では有機溶剤を存在させる必要がないのでより容易に達成される。
【0081】
しかしながら、本発明で使用されるポリマーは合成、精製及び取扱いを容易にするために1以上の一般の有機溶媒に溶けることが好ましい。一般の有機溶媒には、エタノ−ル、クロロホルム、ジクロロメタン(ジメチルクロライド)、アセトン、酢酸エチル、DMAC、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドなどの溶媒が含まれる。このポリマーは上記の溶媒の少なくとも1つに溶けることが好ましい。
【0082】
本発明の生分解性ポリマーは、追加の生体適合性モノマ−単位が生分解性と本発明の望ましい流動性を阻害しない限り、このモノマ−単位も含むことができる。この追加のモノマ−単位は目的とする医薬デリバリ−に望まれる正確な放出プロフィ−ル又は他の用途に望まれる生分解の正確な速度の設計により大きな適応性を与えうる。しかしながら、この追加のモノマ−単位を使用するときには、それらは生成される生分解性コポリマーが所望の物性、例えば硬さ、粘度、流動性、柔軟性あるいは特定の形態など、を有することが保証されるように充分少ない量を使用すべきである。
【0083】
このような追加の生体適合性モノマ−の例には、他のポリホスホエステル、ポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリアンハイドライド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリアセタール、ポリケタ−ル、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシ酪酸エステルポリヒドロキシ吉草酸エステル、ポリアルキレンオキザレ−ト、ポリアルキレンサクシネ−ト、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコ−ル、ポリヒドロキシセルロ−ス、キチン、キトサンに見出される繰返し単位、及び上記物質のコポリマー、3元共重合体、又は組合せ又は混合物を含む。しかしながら、好ましいポリホスホエステルは本発明で使用される組成物の主成分である。
【0084】
追加のモノマ−単位が使用される場合には、より結晶化度が低く、かつより疎水性が大きいものが好ましい。望ましい物性をもった特に好ましい繰返し単位はポリラクチド、ポリカプロラクトン、及びそれらとグリコライドとのコポリマー由来のものである。
【0085】
ポリホスホエステルポリマーの合成
ポリホスフェ−トを製造する最も普通の一般反応は下記の式によるホスホロジクロリデ−トなどのホスホロジハライデートとジオ−ルの間の脱塩酸反応である。
【0086】
【化18】
大部分のポリホスフェ−トは、適当に置換されたジクロライドとジオ−ルとの縮合によっても得られる。
【0087】
ポリホスフェ−トは、グリコ−ルから二段縮合反応によって製造されている。グリコ−ルと反応させるのに20%モル過剰量のジメチルホスファイトが使用され、次いで高温によって真空下でオリゴマ−中のメトキシホスホニル末端基を除去する。
【0088】
溶融重縮合の利点は溶媒と多量の他の添加剤の使用を避けて精製をより簡単にできることである。それはまた、適度に高分子量のポリマーを提供することができる。しかしながら、しばしばある程度厳密な条件が要求され、直鎖酸分解(もし水が存在していれば加水分解)をもたらす。もしポリマーの主鎖が高分子ラジカルの再結合が続いて起こる水素原子引抜きや酸化を受けやすい場合には、架橋反応のような望ましくない熱で引き起こされる副反応もまた起こりうる。
【0089】
これらの副反応を最少限にするために重合反応はまた溶液中で行なうことができる。溶液重縮合反応はプレポリマーとリン成分の両方が共通の溶媒に溶けることが必要である。一般的には塩素化有機溶媒、例えばクロロホルム、ジクロロメタンあるいはジクロロエタン等が使用される。
【0090】
溶液重合は好ましくは等モル量の反応体と化学量論量の酸受容体、通常はピリジンやトリエチルアミン等の第三アミンの存在下で行なわれる。全体としてより温和な反応条件を用いることができるので、副反応を最小限にすることができ、より敏感な官能基をポリマーに組み込むことができる。
【0091】
高分子量ポリマーを高い反応速度で得たいときには界面重縮合法を用いることができる。温和な条件によって副反応を最小限にすることができ、溶液法における出発物質のジオ−ルとジクロリデ−トの間の化学量論的な当量への必要性もない。界面重縮合後のポリマーの収率と分子量は反応時間、モノマ−のモル比率、混ざり合わない溶媒の容量比率、酸受容体の種類、及び相移動触媒の種類と濃度によって影響される。
【0092】
この重合反応の目的は、(i) 2価の有機繰返し単位と(ii) ホスホエステル繰返し単位よりなるポリマーを形成することにある。その結果物はホモポリマー、比較的均質なコポリマー、ブロックコポリマーでありうる。これら3つの態様はいずれもコントロ−ルされた放出をする媒体としての用いるのに適している。
【0093】
一方、このプロセスは、塊状でも、溶液でも、界面重縮合でもあるいは他の如何なる好都合な重合方法でよいが、好ましくは溶液条件下のプロセスである。特に有用な溶媒には、メチレンクロライド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、他の多種の不活性な有機溶媒が含まれる。
【0094】
特に、溶液重合反応が用いられるときには、重合反応の間酸受容体を存在させるとよい。酸受容体の特に好ましいクラスには、第3アミン、例えばピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、置換アニリン、及び置換アミノピリジン等が含まれる。最も好ましい酸受容体は置換アミノピリジン4−ジメチルアミノピリジン(“DMAP”)である。
【0095】
本発明の特に好ましい態様においては、例えば、式VIII又はIXの生分解性ポリマーは次のステップからなる方法によって製造される:
(a) 式XII、XIIIまたはXIV
【0096】
【化19】
【0097】
【化20】
式中、M1、M2およびXは上記に定義したとおりである。
を有する複素環式化合物と式
H−Y−L−Y−H
式中、YおよびLは上記に定義したとおりである。
を有する開始剤とを反応させて以下に示した式XVまたはXVI
【0098】
【化21】
式中、X、M1、M2、Y、L、x、y、qおよびrは上記に定義した
とおりである。
を有するプレポリマーを生成させ、そして
(b) さらにこのプレポリマーを式XVII
【0099】
【化22】
「haro」はBr、CLまたはIであり、R3は上記に定義したとおりで
ある。
を有するホスホロジハリデ−トを反応させて式VIIIまたはIXのポリマーを生成させる。
【0100】
第1反応ステップ(a)の機能は、開始剤を使用して式XII、XIIIまたはXIVの複素環式化合物の環を開環することである。有用な式XII、XIIIまたはXIVの複素環式化合物の例は、ラクトン、ラクタム、グリシン無水物のようなアミノ酸無水物、シクロアルキレンカーボネート、ジオキサノン、グリコリド、ラクチド等が包含される。
【0101】
本発明の化合物が式VIIIを有する場合は、M1を含む式XIIの複素環式化合物の一つだけを用いてステップ(a)におけるプレポリマーを製造してもよい。本発明の化合物が式IXを有する場合は、そのときはステップ(a)においてM1を含む式XIIの複素環式化合物とM2含む式XIIIの複素環式化合物とを組み合わせて使用してもよい。あるいは、本発明の化合物が式IXを有する場合は、M1およびM2の両方を含む式XIVの複素環式化合物の一つをステップ(a)に使用することができる。
【0102】
適当な開始剤の例は少なくとも2個の活性水素を含む幅広い種類の化合物
(H−Y−L−Y−H)
式中、Hは水素であり、Lは結合基で、上記に定義されており、Yは−O−、−S−、
または−NR4、このR4は上記に定義されているとおりである、
が包含される。結合基Lは直鎖基、例えばアルキレンでよいが、これはまた1以上のさらなる活性水素を含む基で置換されていてもよい。例えば、Lはおのおのが−OH、−SH、または−NH2のような活性化された活性水素部位を生ずる、1以上の追加的なアルキル基で置換された直鎖アルキレン基であってもよい。この方法においては、分岐した活性水素開始剤を用いて種々の分岐したポリマーを製造して、得られるポリマーが所望とする性質を有するように設計することができる。しかしながら、分岐したポリマーを酸塩化物と反応させるときは、架橋したポリマーになって了う。
【0103】
反応ステップ(a)は、反応体の副反応の形成しやすさ、および触媒の存在に応じて幅広い温度で行うことができる。しかしながら好ましくは、反応ステップ(a)は融解条件の約110℃から約+235℃までの温度で行われる。カチオン性またはアニオン性の触媒のいずれかを用いてある程度低い温度が可能であろう。
【0104】
一方、この反応ステップ(a)は塊状でも、溶液でも、界面重縮合でも、あるいは他のいかなる好都合な重合方法でもよい。好ましくは、この反応ステップ(a)は融解条件下で行われる。
特に有用な式XVIのプレポリマーの例には次のものが包含される。
(i) ラクチドおよびグリコリドから得られたOH−末端コポリマー
【0105】
【化23】
(ii) ラクチドおよびカプロラクトンから得られたOH−末端コポリ
マ−
【0106】
【化24】
;および
(iii) グリコリドカプロラクトンから得られOH−末端コポリマー
【0107】
【化25】
ステップ(b)の重合反応の目的は、(i)ステップ(a)の結果製造されたプレポリマーと、(ii)連続するホスホリル化された単位からなるポリマーを生成させることにある。結果として得られるブロック又はランダムコポリマーは、特にコントロ−ルされた放出をする媒体として用いるのに適している。
【0108】
本発明の重合ステップ(b)は、通常ステップ(a)の温度よりもやや低い温度で行われるが、用いる重合反応の種類、1以上の触媒の存在、所望とする分子量および反応体の望まない副反応のしやすさによってやはり大きく変わりうる。融解条件が使用されるときは、温度は約0〜150℃から変わりうる。しかしながら、重合ステップbが溶液重合反応で行われるときには、一般的に約−40と100℃との間の温度で行われる。
【0109】
抗腫瘍剤
一般的に言って、本発明の抗腫瘍剤は、固型腫瘍の成長を鈍化させ、あるいは実際にサイズを縮小させるために選択される薬理的な戦略に基づいて巾広く変更しうる。この抗腫瘍剤は単一物又は組合せ物として記載されている。組成物、物品及び方法は、水溶性の小さいものはもとより水溶性の大きな抗腫瘍剤でもそれとともに使用されて、コントロ−ルされた放出速度を有する送込システムをつくり出すように設計されている。
【0110】
抗腫瘍剤の語は、白金系薬剤、例えばカルボプラチンやシスプラチン等、ナイトロジェンマスタ−ドアルキル化剤、ニトロソウレアアルキル化剤、例えばカルムスチン(BCNU)等、及び他のアルキル化剤、代謝拮抗物質、例えばメトトレキセート等、プリン類縁代謝拮抗物質、ピリミジン類縁体代謝拮抗物質、例えばフルオロウラシル(5−FU)やゲムシタビン等、ホルモン性抗腫瘍剤、例えばゴセレリン、ロイプロリド、タモキシフェン等、天然抗腫瘍剤、例えばタキサン(例えばド−セタキセルやパクリタキセル)、アルデスロイキン、インターロイキン−2、エトポサイド(VP−16)、インターフェロンα、及びトレチノイン(ATRA)等、抗生物質天然抗腫瘍剤、例えばブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、及びマイトマイシン等、並びにビンカアルカロイド天然抗腫瘍剤、例えばビンブラスチンやビンクリスチン等が含まれるがこれらに限定されない。
【0111】
抗腫瘍剤は、好ましくは、パクリタキセル、ド−セタキセル及び他の合成タキサンを含むかそれらに限定されないタキサンと他の抗チューブリンよりなる群から選ばれたものである。このタキサンは、15員タキサン環システムとそれに結合している4員オキセタン環よりなる複合エステルである。パクリタキセルとド−セタキセルでは、例えば、タキサン環は、抗腫瘍活性に重要であると考えられるこの環のC−13位置に取り付けられたエステル側鎖として結合されている。パクリタキセルとド−セタキセルの構造はC−10タキサン環位置とC−13に取り付けられたエステル側鎖の置換が異なっている。最も好ましい抗腫瘍剤はパクリタキセルであり、その構造はド−セタキセルとその前駆体タキサン10−デアセチル−バッカチンIIIとともに下記に示す。
【0112】
【化26】
化合物10−デアセチル−バッカチンIIIはやはり抗腫瘍効果を発揮する各種の関連化合物の作製に用いることができる。
【0113】
さらに、次の追加の医薬を、それら自身は抗腫瘍剤であるとは考えられていなくても、抗腫瘍剤と組み合わせて使用しうる。それらは、ダクチノマイシン、ダウノルビシンHCL、ド−セタキセル、ドキソルビシンHCL、エポエチンα、エトポサイド(VP−16)、ガンシクロビルナトリウム、ゲンタマイシン硫酸塩、インタ−フェロンα、ロイプロライド酢酸塩、メペリジンHCL、メタドンHCL、ラニチジンHCL、ビンブラスチン硫酸塩、及びジドブジン(AZT)である。例えば、フルオロウラシルは、最近エピネフリンと牛コラ−ゲンと組合せると特に有効な組合せとなる処方がなされた。
【0114】
さらに、下記のアミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、蛋白、多類及び他の大きな分子もまた使用しうる。それらは、変異種及び類縁体を含むインタ−ロイキン1〜18、インタ−フェロン又はサイトカイン、例えばインタ−フェロンα,β及びγ等、ホルモン、例えば黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)及び類縁体、並びにゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)等、成長因子、例えば形質転換成長因子−β(TGF−B)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子相同因子(FGFHF)、肝細胞成長因子(HGF)、及びインシュリン成長因子(IGF)、腫瘍壊死因子α及びβ(TNF−αとβ)、侵入阻止因子−2(IIF−2)、骨形態形成蛋白1−7(BMP1−7)、ソマトスタチン、サイモシン−α−1、γ−グロブリン、ス−パ−オキシドジスムタ−ゼ(SOD)、補体因子、抗血管形成因子、抗原物質、並びにプロドラッグである。
【0115】
特に好ましい態様においては、本発明の組成物は、他の生物学的に活性な物質、好ましくは治療薬又はプロドラッグ、例えば、他の化学療法剤、抗生物質、抗ウィルス剤、抗菌剤、抗炎症薬、血管収縮神経薬及び抗凝血薬、癌ワクチンへの適用に有用な抗原又は対応するプロドラッグ、を含んでいてもよい。
【0116】
抗腫瘍剤及び/又は他の生物学的に活性な薬剤は各種の形態で使用しうる。これらには、腫瘍体内に移植され、注入されあるいは他の手段で置かれたときに生物学的に活性化される、非帯電分子、分子錯体、塩、エ−テル、エステル、アミド、等の形態が含まれるが、これらには限定されない。
【0117】
ポリマー組成物
抗腫瘍剤は治療に有効な量が用いられるが、それは用いる抗腫瘍剤の種類によって大きく変わる。組成物に組み込まれる抗腫瘍剤の量もまた所望の放出プロフィ−ル、生物学的効果を要求される薬剤の濃度、及び抗腫瘍剤が治療のために放出されなければならない時間の長さに依存している。
【0118】
この組成物に望まれる物性を維持するための受容可能な溶液又は分散液の粘度を除いて、組み込まれる抗腫瘍剤の量には臨界的上限はない。差込システムに組み込まれる抗腫瘍剤の下限はこの医薬の活性と治療に必要な時間の長さに依存している。こうして、抗腫瘍剤の量は所望の生理学的な効果を生み出せない程少なくはなく、また、抗腫瘍剤の放出がコントロ−ルされなくなってしまう程多くない量にすべきである。
【0119】
典型的には、抗腫瘍剤は、これらの制限内であって、重量%で約1%から約65%まで、好ましくは約1%から約30%までの量を本送込システムに含有させることができる。しかしながら、特によく効く抗腫瘍剤では、より少ない量で治療の薬効レベルを達成しうる。
【0120】
さらに、本発明の生分解性ポリマー組成物は、他の生体適合性ポリマー又はコポリマーがこの組成物の生分解性や物理的特性を望ましくなく阻害しない限り、本発明のポリマーとこの追加のポリマー又はコポリマーとの混合物よりなるものであってもよい。好ましくは、本発明の生分解性ポリマーはこの混合物の約50%より多い。本発明のポリマーとこのような他のポリマーとの混合物は、目標とする医薬送込システムに望まれる正確な放出プロフィ−ルや望まれる生分解の正確な速度の設計により大きな柔軟性をもたらすだろう。このような追加の生体適合性ポリマーの例には、他のポリホスホエステル、ポリエステル、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリアンハイドライド、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリジオキサン、ポリアセタート、ポリケタール、ポリカーボネート、ポリイミノカーボネート、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリアルキレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシセルロース、キチン、キトサン、及び上記物質のコポリマー、ターポリマー又は組合せ又は混合物が含まれる。
【0121】
薬剤として受け入れられるキャリヤ−は広範囲の材料からなるものであることができる。特に限定されないが、そのような材料には特定の医薬組成物をつくるための周知の希釈剤、結合剤及び接着剤、滑剤、崩壊剤、着色料、増量剤、芳香剤、甘味料、及びその他の各種の材料、例えばバッファ−及び吸着剤などが含まれる。このような材料の添加は本発明のポリマー組成物に望まれる生体適合性、生分解性及び物理的状態を阻害しないこれらの追加の材料に限られる。
【0122】
抗腫瘍剤又はいくつかの他の生物学的に活性な物質の差込のために、この薬剤又は物質をポリマー組成物に加える。この薬剤又は物質はこのポリマー組成物に溶かして手頃な一定の濃度の均質な溶液としてもよく、あるいはポリマー組成物に分散して所望の“充填”(生物学的に活性な物質を含む全組成物のグラム当りのこの生物学的に活性な物質のグラム数、通常はパ−セントで表わされる)レベルの懸濁液又は分散液としてもよい。
【0123】
一方、生分解性ポリマー又は生物学的に活性な薬剤を無毒な少量の溶媒に溶かして、より効率的に、柔軟な又は流動可能な組成物内に生物学的に活性な薬剤の非晶質のモノリシックな分布又は微細分散物をつくることができるが、好ましい態様においては、所望の組成物をつくるのに溶媒を必要としないというのが本発明の利点である。
【0124】
本発明のポリマー組成物は硬い固体物品、柔軟な固体物品もしくは材料あるいは流動可能な材料でありうる。“流動可能な”によって意味するものは、体温においてそれを含む空間の形状を時間を越えて呈する能力である。これには、例えば、ある部位にスプレ−し、例えば24ゲ−ジ針を嵌め込んだ手動操作注射器による注入、あるいはカテ−テルで送入可能な液体組成物が含まれる。
【0125】
また、“流動可能な”の用語に含まれるものは、高粘性であるが相変らず流動可能な物質を注ぎ、チュ−ブから絞り出しあるいは手動手段のみによって発揮される注入圧よりも大きな注入圧を出しうる市販の圧力注入器具のいずれかによる注入によって所望の部位に送入できる室温で高粘性の“ゲル状”物質である。このような流動性ポリマー組成物は、たとえ処方に大きな生体高分子を含んでいたとしても抗腫瘍剤をコントロール可能な有効な放出を続けられるという利点がある。
【0126】
使用されるポリマー自身が流動可能であれば、本発明のポリマー組成物は、それが粘性であったとしても、生体適合性溶媒が微量あるいは残留量残っていても、流動可能な溶媒を含む必要はない。ポリマーの粘度はポリマーの主鎖にジオールのシス−とトランス異性体を混合させることはもとより、ポリマーの分子量によっても調整可能である。
【0127】
本発明のポリマー組成物は各種のル−トで投入可能である。例えば、もし流動可能であれば、それをTurner Biopsy NeedleやChiba Biopsy Needleのような針で治療する固型腫瘍内に直接注入することができる。肺内の固型腫瘍を治療するときには、例えばこの組成物を気管支樹にカニューレを挿入しうる気管支鏡又は他の器具(例えばCook
Catheter Companyからのもの)を用いて胸腔入に注入してもよい。気管支樹を通じて利用しうる量は広く入手可能な経気管支吸引針のひとつ(例えばMilrose又はBoston
Scientificからのもの)を用いることによって直接注入される。この組成物は、標準の胸腔穿刺術を用いて肋骨の間から胸腔に胸腔穿刺カテーテル又は針を挿入することによって胸腔内に投与することもできる。
【0128】
本発明のポリマー組成物はまた、針、杆、微粒子又はステントなどの腫瘍内に移植可能な個体器具のコーティングをつくるのに用いることもできる。
【0129】
移植及び送込システム
その最も簡単な形態は、生分解性ポリマー送込システムは抗腫瘍剤をポリマー主鎖に不安定な(生分解性の)結合が組み込まれているポリマーマトリックスに溶解又は分散させた溶液又は分散物よりなる。特に好ましい態様においては、本発明の組成物よりなる固体物品が、例えば目に見える癌組織の部位の除去手術中や後に移植、注入、あるいは治療される患者の腫瘍内に入れる他の手段によって治療される固型腫瘍内に挿入される。
【0130】
この組成物の抗腫瘍剤及びポリマーは例えば微小球の形態の均質なマトリックスを形成してもよく、あるいは抗腫瘍剤がポリマーのなかに何らかの他の方法でカプセル化されていてもよい。例えば、抗腫瘍剤がまず微小球のなかにカプセル化され、次に、少なくとも微小球構造体の1部が維持されるやり方でポリマーと組み合わせる。あるいは、抗腫瘍剤が、本発明のポリマーに溶解されるというよりはむしろ小さな液滴として分解されるのに充分な程ポリマーに対して不活性であってもよい。
【0131】
構造用医療器具として、本発明のポリマー組成物は、この組成物がインビボで無毒の残留物に分解するということに加えて、治療される腫瘍内への挿入に適する特定の化学的、物理的及び機械的な性質を有する多種類の物理的な形態を提供する。特に、組成物自体を腫瘍の塊に手で挿入できる針やピンの形に加工してもよい。
【0132】
生分解性医薬送込物品はいくつかのやり方でつくることができる。このポリマーは通常の押出し又は射出成形技術を用いて溶融加工することができ、あるいは、これらの産物は適当な溶媒に溶解してこの器具を形成し、次いで溶媒を蒸発又は抽出除去によって、例えば噴霧乾燥でつくることができる。これらの方法によって、ポリマーをほとんどいかなるサイズあるいは所望の形態の物品、例えば移植可能なあるいは注入可能な針、杆、微小球又は他の微粒子に形成することができる。典型的な医療物品には、他の移植器具に配置される被覆なども含まれる。
【0133】
一旦挿入されると、本発明のポリマー組成物は腫瘍細胞及び腫瘍に見出される生物学的液、例えば血液や血管形成に関連する各種のホルモンや酵素などと少なくとも一部が接触状態にされなければならない。移植又は注入された組成物は、その腫瘍内のマトリックス内に含まれている抗腫瘍剤をコントロ−ルされた速度でこの物質が使い尽されるまで放出され、硬い、柔軟なあるいは流動可能な生分解性ポリマーマトリックスからの拡散又は溶解の一般ル−ルに従う。
【0134】
本発明の方法は、
(a)生分解性ポリマーと、
(b)腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤
よりなる組成物を腫瘍内投与することによって哺乳動物内の固型腫瘍を治療するのに用いることができる。
【0135】
本発明の方法は、前述のように多種多様の固型腫瘍の治療に利用でしるが、この方法は特に胸部癌、特に限定されないが例えば一時及び/又は転移肺癌(NSCLCとSCLCの両方)、悪性胸膜滲出、又は胸部内の如何なる部位でも転移した非胸部癌などに適用できる。
【0136】
胸部腫瘍の治療用組成物に用いられる生分解性ポリマーは、ポリホスホエステルポリマーに限定されるというよりはむしろ、いかなる生分解性ポリマーよりなっていてもよい。本発明の実施するのに適する生分解性ポリマーの具体例には、ポリアンハイドライド、ポリエステル、ポリホスホエステル、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ポリエステルアミド、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリアルオレンオキサレート、ポリアルキレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリアミノ酸並びに上記のもののコポリマー、ターポリマー及び組合せ及び混合物などを含むが特にこれらに限定されない。しかしながら、好ましい生分解性ポリマーはポリホスホエステルよりなるものである。
【0137】
次の実施例は本発明の好ましい態様を説明するものであるが、何ら本発明を限定するものではない。全てのポリマー分子量は特に誤記がない限り重量平均分子量である。全てのパ−セントは、特に注記がない限り、最後の送込システムあるいは調製される処方の重量パ−セントであり、全ての合計は100重量%と等しい。
【実施例1】
【0138】
コポリマーP(BHET−EOP/TC,80:20)の合成
【0139】
【化27】
アルゴン気流下で、1,4−ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレ−ト(BHET)10g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)9.61g、及びメチレンクロライド70mlをロ−トを備えた250
mlフラスコの入れた。このフラスコのなかの溶液を攪拌しながら−40℃まで冷し、エチルホスホロジクロリデ−ト(EOP)(使用前に蒸留した)5.13gをメチレンクロライド20
mlに溶解した溶液をロ−トを通じて滴下して加えた。添加完了後、この混合物を室温で4時間攪拌してBHET−EOPホモポリマーを生成させた。
【0140】
テレフタロイルクロライド(TC)1.60g(Aldrich Chemical Companyから入手して使用前にヘキサンで再結晶した。)をメチレンクロライド20
mlに溶解した溶液を1滴づつ加えた。温度を約45〜50℃まで徐々に上げ、この反応混合物を一夜還流させてコポリマーP−(BHET−EOP/TC)を生成させるホモポリマーP(BHET−EOP)と追加のモノマ−TCの共重合を完結させた。
【0141】
溶媒を蒸発させ、残渣を約100 〜200 mlのクロロホルムに再溶解した。このクロロホルム溶液を飽和NaCl溶液で3回洗浄し、無水Na2SO4で乾燥し、エ−テルに入れて急冷した。この沈殿物をクロロホルムに再溶解し、エ−テルに入れて再度急冷した。その結果強靱なオフホワイトの固形沈殿物を濾取して真空下で乾燥した。収率82%。
【0142】
このP(BHET−EOP/TC,80/20)の構造を1H−NMR 、31P−NMR及びFT−1Rスペクトルで確かめた。この構造をまた元素分析で確認したところ、理論値と極めて相関していた。構造の例は公開されたPCT出願WO98/440221に見出すことができる。
【0143】
P(BHET−EOP/TC,80/20)の分子量は最初にポリスチレンを検定の標準に用いたゲルパ−ミエ−ションクロマトグラフィ−(GPC)で測定した。得られたグラフから、重量平均分子量(Mw)が約6100で数平均分子量(Mm)が約2200であることが決定された。蒸気圧浸透圧法(“VPO”)で求めたこのコポリマーのMw値は約7900であった。
【実施例2】
【0144】
他のジオール変種
構造的にBHETのものに関連しているジオ−テレフタレートを、TCをその構造を下記に示すn−プロピレンジオ−又は2−メチルプロピレンのどちらかと反応させて対応するジオールテレフタレートを生成させて合成した。
【0145】
【化28】
これらのジオ−ルテレフタレ−トを次いでEOPと反応させて対応するホモポリマーを生成させた。このようにして生成させたホモポリマーはTCとの第2の反応で本発明のコポリマーを製造するのに利用した。
【実施例3】
【0146】
ポリ(BHET-EOP/TC)コポリマーからのパクリタキセルのインビトロでの放出
ポリビス−ヒドロキシエチルテレフタレート−コ−エチルホスフェート/テレフタレートクロライド(80:20)ポリマーを実施例1で述べたようにして作製した。このポリマーとパクリタキセルを両方ともCH2CL2に溶解した。この溶液をコールドテフロン金型に流し込み、室温で真空下で48時間乾燥した。このフィルムを金型から取り外した。37℃のリン酸緩衡生理食塩水中でこのポリ(BHET−EOP/TC,80:20)フィルムからのパクリタキセルの放出を図1に示す。
【実施例4】
【0147】
リドカインを含むポリ(BHDPT−EOP/TC,50/50)微小球の作製
1.35gのPVAと270mlの脱イオン水を合わせて600mlビーカー内に0.5%w/vポリビニルアルコール(PVA)水溶液を作製した。この溶液を1時間攪拌し濾過した。900mgのポリ(BHDPT−EOP/TC,50/50)コポリマーと100mgのリドカインを9mlのメチレンクロライドに加えて渦化混合し、コポリマー/医薬溶液を作製した。
【0148】
前記PVA溶液をオーバーヘッドミキサーで800rpmで攪拌しながら前記ポリマー/医薬混合物を滴下した。これを1.5時間攪拌した。こうして生成された微小球を次いで濾過し、脱イオン水で洗浄し、一夜凍結乾燥した。この実験では3.7%のリドカインを含む微小球625mgが得られた。
【0149】
リドカイン含有微小球はまたP(BHDPT−HOP/TC,50/50)からも同じプロセスで作製した。この実験では5.3%W/Wリドカインを含む微小球676mgが得られた。
【実施例5】
【0150】
ポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェート)[ポリ
(LAEG−EOP)]の合成
【0151】
【化29】
(3S)−cis−3,6−ジメチル−1,4−ジオアン−2,5−ジオン(L−ラクチド)(アルドリッチ ケミカル会社から入手し、酢酸エチルを用いて再結晶、昇華、再び酢酸エチルを用いて再結晶した)20g(0.139モル)およびエチレングリコール(99.8%、無水、アルドリッチから入手)を乾燥アルゴンで満たされた250mlの丸底フラスコに入れた。フラスコを真空下に閉じ、140℃に加熱された炉に入れた。フラスコを時々振とうさせながらこの温度で48時間保持した。
【0152】
次いで、フラスコを乾燥アルゴンで充満し、135℃に加熱した油浴中に入れた。アルゴン気流下、攪拌しながらエチルホスホロジクロリデ−ト1.13gを添加した。1時間攪拌後、系に低真空(約20mmHg)をかけ、一夜放置した。仕上げ前の1時間、高真空をかけた。冷却後、ポリマーをクロロホルム200mlに溶解し、1リットルのエーテルに2回クエンチし僅かに灰色がかった白色沈殿とし、真空下に乾燥した。
【0153】
得られたポリマーは、目的とする生成物ポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェ−ト)[P(LAEG−EOP)]であることがNMR分光学によって確認した。
【実施例6】
【0154】
非溶媒層としてポリビニルアルコールを用いてリドカインを含有するポリ(LAEG−EOP)微小球の調製
600mlビーカー中でPVA1.05gと脱イオン水210mlと合わせて脱イオン水溶液中のポリビニルアルコール(PVA)0.5% w/v溶液を調製した。その溶液を1時間攪拌し、濾過した。塩化メチレン7ml中にポリマー630mgとリドカイン70mgとを合わせ、渦によって混合してポリマー/薬剤溶液を調製した。PVA溶液をオーバーヘッドミキサ−を用いて500rpm.で混合し、これにポリマー/薬剤溶液を滴下した。30分の混合後、冷脱イオン水200mlを攪拌しているPVA溶液に添加した。得られた混合物を全体で3.5時間攪拌した。形成した微小球を濾別、脱イオン水で洗浄し、一夜凍結乾燥した。
このようにしてリドカイン4.2% w/wを充填させた微小球を得た。
【実施例7】
【0155】
ポリ(DAEG−EOP)の合成
ポリ(L−ラクチド−コ−プロピルホスフェート)のd,Lラセミ混合物[「ポリ(DAPG−EOP)」]を次のように調製した。
【0156】
【化30】
生産物は有機溶媒に溶ける白い固体として得られた。反応条件によって、次にまとめて示すように極限粘度と分子量の異なるものが得られた。
【0157】
【表1】
【実施例8】
【0158】
非溶媒層としてシリコン油を用いてリドカインを有するポリ(DAPG−EOP)微小球体の調製
「スパン−85」の商品名でアルドリッチから市販されているソルビタン−トリオレエート2%を、400mlビーカー中で「スパン−85」3mlとシリコン油150mlとを合わせ、500rpm.にセットしたオ−バ−ヘッド攪拌機を用いて混合することによって調製した。実施例5で前述した方法によって調製した重合体400mgおよびリドカイン100mgを塩化メチレン4.5mlに溶解してポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスホネ−ト)ポリ(DAEG−EOP)のDLラセミ混合物ポリマー/薬剤溶液を調製した。得られたポリマー/薬剤溶液をシリコン油/スパン混合物に攪拌しながら滴下した。この混合物を1時間15分攪拌した。このようにして形成した微小球を濾別、石油エーテルで洗浄してシリコン油/スパン混合物を除去し、一夜凍結乾燥した。
【0159】
このようにしてリドカイン7.6%w/wを充填した微小球を得た。約10mgの微小球を37℃、振とう機上のホスフェート緩衝食塩水(0.1M,PH7.4)に入れ、きちんとサンプリングした。その結果をパクリタキセルを含むポリ(DAPG−EOP)微小球についても図2A、2B及び2Cに示すように、同様のデータが得られた。放出したリドカイン%対日数時間としてプロットした。
【実施例9】
【0160】
マウス腹腔におけるポリ(DAPG−EOP)微小球の生体適合性
本発明の生分解性ポリ(ホスホエステル)微小球の生体適合性を次のとおり試験した。
【0161】
凍結乾燥したポリ(L−ラクチド−コ−エチルホスフェート)微小球30mg/mlの3試料、第1番目の試料は75ミクロンより大きい直径を有し、第2番目の試料は75〜125ミクロンの範囲内の直径を有し、そして第3番目の試料は125〜250ミクロンの範囲内の直径を有する各試料を実施例10で前述した方法によって調製した。各試料を開始体重25gの雌マウス1グループ18匹に腹腔内注入した。各グループの動物を2,7,14日並びに1,2,3ヶ月に秤量して屠殺し、剖検した。剖検時に検出した障害は、0は処置に対して何らの反応を示さず、4は処置に対して激しい反応を示すことを以て0から4の等級で等級をつけた。
【0162】
炎症障害は腹腔表面あるいは脂肪組織内で微小球と連合しているところに限って観察され、異物単離およびカプセル化と一致していた。中皮過形成を伴なった病巣性ないし多病巣性支持腹膜脂肪組織炎が2〜7日目に観察されたが、後の屠殺時には大食細胞の浸入、炎症性巨大細胞の形成並びに微小球の繊維状カプセル化によって徐々に分解された。炎症反応を伴なった微小球の肝臓および横隔膜への癒着も時折見られた。微小球に関連した障害は腹腔または胸器官内では見られなかった。研究期間中に検出された微小球は初期の屠殺では透明に見えたが、後期では内部で結晶性物質に進化した。身体の成長には何の影響も観察されなかった。腹膜反応は微小球にじかに隣接している部位に限って観察されたが、それは主な胸部あるいは腹腔器官には明確な有害効果を伴わないものであった。
雄及び雌のS−Dラットの腹膜内にDAPG−EOPを同様に注入して次の結果を得た。
【0163】
【表2】
a 試験期間中に死亡又は瀕死の状態で屠殺された動物を示す。
M=雄,F=雌
【実施例10】
【0164】
ポリホスホエステルポリ(トランス−CHDM−HOP)の合成
【0165】
【化31】
アルゴン気流下で、10gのトランス−1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル(CHDM)、1.794gの4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、15.25ml(14.03g)のN−メチルモルホリン(NMN)、及び50mlのメチレンクロライドをロ−トを備えた250mlフラスコに移した。このフラスコのなかの溶液を攪拌しながら−15℃まで冷却し、15.19gのヘキシルホスホロジクロリデ−ト(HOP)を30mlのメチレンクロライドに溶解した溶液をロ−トを通じて加えた。反応混合物の温度を沸点まで徐々に上界させ、一夜還流温度に保った。
【0166】
この反応混合物を濾過し、濾液を蒸発乾固した。残渣を100mlのクロロホルムに再溶解した。この溶液をHClとNaClの混合物の0.1M溶液で洗浄し、無水Na2SO4上で乾燥し、500mlエ−テルに入れて急冷した(quenched)。生成した流動可能な沈殿物を集めて真空下で乾燥し、粘稠なシロップの流動性をもつ透明な淡黄色ゲル状のポリマーを得た、このポリマーの収率は70〜80%であった。ポリ(トランス−CHDM−HOP)の構造を31P−NMRと1H−NMRスペクトルと、TF−IRスペクトルで確認した。分子量(Mw=8584:MN=3076)は、ポリスチレンを検定標準として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で決定した。
【実施例11】
【0167】
パクリタキセルのポリ(CHDM−HOP)又はポリ(CHDM−HOP)への含有
ポリ(CHDM−HOP)とポリ(CHDM−EOP)のポリマーのそれぞれ100mgをエタノ−ルに約50%の濃度で溶解した。ポリマーが完全に溶解してから、5mgのパクリタキセル粉末(化学療法薬)をこの溶液に加えてこの粉末が完全に溶解するまで攪拌した。この溶液を氷水に注入してポリマー組成物を沈殿させた。得られた懸濁液を遠心し、傾瀉し、一夜凍結乾燥して粘稠なゲル状生成物を得た。
【実施例12】
【0168】
パクリタキセルのポリ(CHDM−HOP)とポリ(CHDM−EOP)からのインビトロでの放出
次の2つのポリマーを作製した。
ポリ(CHDM−EOP)と
ポリ(CHDM−HOP)
パクリタキセルを各ポリマーに10%の充填量で室温で混合して均一のペーストを形成した。試験するパクリタキセルポリマー処方の両方5mgを1.7mlの小型プラスチック遠心管に入れて、80%PBSと20%PEG400の混合緩衝液1mlとともに37℃でインキュベートした。供試する各処方の4つのサンプルを調製した。およそ毎日である特定時点で、このPBS:PEG緩衝液をHPLCによるパクリタキセル分析用に注ぎ出し、この小型遠心管に新しい緩衝液を加えた。この放出研究は26日目で停止し、この時点でポリマーに残っているパクリタキセルを溶媒で押出してパクリタキセルの物質収支を求めた。
【0169】
両ポリマーからパクリタキセルを放出する放出研究を行ったところ、パクリタキセルの全回収率はポリ(CHDM−HOP)処方では65%、ポリ(CHDM−HOP)処方では75%であった。
【実施例13】
【0170】
溶剤希釈法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
パクリタキセルを含有するp(DAPG−EOP)微小球の調製に溶剤希釈(蒸発)法を用いた。約10グラムのパクリタキセルと90グラムのポリマーを計量して、250mlの酢酸エチルに溶解した。非溶媒相を作製するために、酢酸エチル(90ml)を1リットルの0.5%PVAに加えて1分間均質化した。この医薬−ポリマー溶液とPVA−酢酸エチル溶液をインラインホモゲナイガーを経てフラスコに移した。この溶液をオーバーヘッドスターラーで撹拌した。次いで、約900mlの水をこのフラスコに加えた。次いで、この溶液を30分間撹拌した。この微小球懸濁液を150μmと25μmの篩を有する濾過/乾燥ユニットに移した。微小球を1リットルの脱イオン水で洗ってから一夜乾燥した。25μm篩上の乾燥微小球を集めて容器に入れた。
【実施例14】
【0171】
溶剤蒸発法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
パクリタキセル(10.08g)とポリマー(90.1g)を計量して酢酸エチルに充分に溶解したところ、全量が250mlになった。酢酸エチル(90ml)を1リットルの0.5%PVAに加え、1分間均質化した。この医薬−ポリマー溶液とPVA−酢酸エチル溶液をインラインホモゲナイザーを経て12リットル3首フラスコに移した。この溶液をオーバーヘッドスターラーで撹拌した。真空と空気を用いて酢酸エチルを蒸発させた。この真空と空気は泡立が過度になったので40分後に止めた。撹拌をさらに20分間続けた。この微小球懸濁液を250μmと25μmの篩を有する濾過/乾燥ユニットに移し、1リットルの脱イオン水で洗浄した。25μm篩上に残った物質を脱イオン水で洗ってから2つの1リットル遠心ボトルに入れ、沈殿させた。沈殿後、上清を捨て、微小球を−40℃で1時間凍結させ、次いで72時間凍結乾燥した。
【実施例15】
【0172】
噴霧乾燥法によるパクリタキセル含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
p(DAPG−EOP)をメチレンクロライドに5−20%(w/v)の濃度に溶解する。パクリタキセルをこのポリマー溶液に加えて最終パクリタキセル添加量を10%(w/w)とする。医薬が完全に溶解してからこの溶液をBuchi噴霧乾燥機で噴霧乾燥する。こうして得られる微小球を集める。
【実施例16】
【0173】
噴霧乾燥法によるリドカイン含有p(DAPG−EOP)微小球の調製
p(DAPG−EOP)をメチレンクロライドに5−20%(w/v)の濃度に溶解する。リドカインをこのポリマー溶液に加えて最終リドカイン添加量を10%(w/w)とする。医薬が完全に溶解してからこの溶液をBuchi噴霧乾燥機で噴霧乾燥する生産物を集める。
【実施例17】
【0174】
ポリ(DAPG−EOP)からのパクリタキセルのインビトロでの放出
微小球からのパクリタキセルのインビトロでの放出をリン酸緩衡生理食塩水(pH7.4)中37℃で行った。シンクの状態を維持するために、PBSの上にオクタノール層を設けて水相から放出されるパクリタキセルを連続的に抽出した。放出されたパクリタキセルはHPLC法を用いて定量し、ポリマーのインビトロでの質量損失を重量分析で求めた。結果を図2Aに示す。
【実施例18】
【0175】
インビボモデルでのA549腫瘍へのパクリタキセルの徐放性の比較研究
固型腫瘍の治療効果研究用として広く使用されて容認されている、マウス腫瘍結節モデルを固型腫瘍への徐放性の確認に用いた。無胸腺症ヌードBalb/cマウスに、ヒト非小細胞性肺癌細胞株(A549とH1299、両方ともAmerican Type Culture
Collectionから入手した。)を植え付けた。
【0176】
これらの細胞を成長させて、10%牛胎児血清添加DME M/Fは培地(Mediatech,Herndon,VA)に抗生物質のない条件下で37℃で5%CO2雰囲気で交会させた。これらの標準の組織培養条件下で成長させてから、これらの細胞を酵素で分離して計数し、所望の濃度に調整した。
【0177】
Matrigel(商標)をエンハンサーとして用いてこれらの細胞を1:1で混合し、2×106個の細胞をわき腹に皮下注射した。腫瘍を体積が約200−400mm3になるまで成長させ、次式で定量した。
腫瘍体積=長さ×幅×高さ
各試験動物の腫瘍のこれらの寸法はカリパスで直接測った。腫瘍を持った試験動物にパクリタキセルを各種の処方で全身又は腫瘍内投与した。投与量を報告するmg/kgの量に調整するために、各動物は治療を行う際に計量した。全身投与は試験動物の腹膜腔内に試験組成物を注入することによって行った。腹膜内(“IP”)投与では、動物に全注入量で約1mlを投与した。
【0178】
一方、腫瘍内投与(“IT”)は次の手順で行った。
(1)単一量で約100μl(0.1ml)の試験組成物を腫瘍結節の中心に21−25ゲージ針を用いて10−20秒間かけて注入し、
(2)この量を約10−15秒間かけて浸出させて、さらに針を約10−20秒放置し、そして、
(3)針を引抜く。
治療に続いて、全てのマウスに標識を付け、腫瘍を週に3回カリパスで測った。試験動物はまた週1回体量を測定した。
【0179】
試験した各種の処方は次の通りであった。
(1)12.5%クレモホ−ル(cremophor)/12.5%エタノールに1:
1で溶解し、次いで、0.9%NaClで適当な濃度に(注入量が全て
のグループで同じようになるように)希釈して、NaClの115mM
溶液(パクリタキセルの“通常”の処方)としたパクリタキセ
ルと、
(2)10%デキストラン40希釈剤に懸濁した0.1mgパクリタキセル
/1mgポリ(DAPG−EOP)を含むポリ(DAPG−EOP)微小
球(“PTX/Poly”)
結果を、2つの実験±S、E、Mの平均で図3−5にグラフで示す。図3では次の治療結果を比較している。
【0180】
IP液体ベヒクルニパクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
ITポリベヒクルニパクリタキセルのないポリ(DAPG−EOP)微小
球の腫瘍内投与(対照)、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内投与
【0181】
図4では次の治療結果を比較している。
IT PTX4/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小球に
入れた4mg/kgのパクリタキセル
IT PTX12.5/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小
球に入れた12.5mg/kgのパクリタキセル、そして、
IT PTX24/ポリ=腫瘍内に注入した、ポリ(DAPG−EOP)微小球
に入れた24mg/kgのパクリタキセル
【0182】
図5では次の治療結果を比較している。
IP PTX24=従来の液体処方での24mg/kgのパクリタキセルの腹膜
内注入
IT PTX24=従来の液体処方での24mg/kgのパクリタキセルの腹膜
内注入、そして
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
【実施例19】
【0183】
インビトロモデルでのH1299腫瘍へのパクリタキセルの徐放性の比較研究
次のように治療を変えて、H1299腫瘍結節の成長及び/又はサイズの経時変化を求めた。結果は2つの実験±S、E、Mの平均で図6−8にグラフで示す。
【0184】
図6では次の治療結果を比較している。
IP液体ベヒクルニパクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
ITポリベヒクルニパクリタキセルのないポリ(DAPG−EOP)微小
球の腫瘍内投与(対照)、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内投与
【0185】
図7では、全て腫瘍内投与での次の治療結果を比較している。
IT PTX4/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた4mg/kgの
パクリタキセル
IT PTX12.5/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた12.5mg
/kgのパクリタキセル、そして、
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセル
【0186】
図8では次の治療結果を比較している。
IP PTX24=従来の液体ベヒクルでの24mg/kgのパクリタキセルの
腹膜内注入
IT PTX24=従来の液体ベヒクルでの24mg/kgのパクリタキセルの
腹膜内注入、そして
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
【実施例20】
【0187】
次の治療でのマウスの体重変化
実施例18と19で前述した方法で治療した動物を次の治療後0日、7日、14日、21日、及び28日目に体重を測定した。
IP液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IP PTX24=従来のクレモホール/エタノールベヒクルに入れた
24mg/kgのパクリタキセルの腹膜内注入
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのないクレモホール/エタノール
ベヒクルの腫瘍内投与(対照)
IT PTX 24=従来の液体ベヒクルに入れた24mg/kgのパクリタ
キセルの腫瘍内注入
ITポリベヒクル=パクリタキセルのないポリ(DAPG=EOP)微小
球の腫瘍内投与、そして
IT PTX 24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
A549細胞株の1回の実験結果を図9にグラフで示す。H1299細胞株の2回の実験±S、E、M、の平均を図10に示す。動物の体重は全てのグループでグループ間の有意差なく増加しつづけ、そして治療グループで明らかな毒性と関連づけられたもはなかった。
【実施例21】
【0188】
腫瘍倍加時間
前述した図3−8に示されるデータから腫瘍倍加時間を算出した。示されているP値はポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/kgのパクリタキセルを腫瘍内注入したグループと参照グループの間の差を表わしている。参照の治療は次の通りである。
IP液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタノ
ールベヒクルの腹膜内投与(対照)
IP PTX24=従来のクレモホール/エタノールベヒクルに入れた
24mg/kgのパクリタキセルの腹膜内注入
IT液体ベヒクル=パクリタキセルのない従来のクレモホール/エタ
ノールベヒクルの腫瘍内投与(対照)
IT PTX4=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた4mg/kg
のパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX12=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた12mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX24=クレモホール/エタノールベヒクルに入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
ITポリベヒクル=パクリタキセルなしのポリ(DAPG−EOP)微小
球腫瘍内投与(対照)
IT PTX4/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた4mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX12/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた12mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
IT PTX24/ポリ=ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24mg/
kgのパクリタキセルの腫瘍内注入
腫瘍体積倍加時間は全ての治療グループで腫瘍を測って求めた。結果は、A549細胞株腫瘍の治療については図11に、H1299細胞株腫瘍の治療については図12にグラフで示す。
【0189】
A549細胞では、ポリ(DAPG−EOP)に入れたパクリタキセル24mg/kgグループの倍加時間は60±9.4日と算出され、これと比較される腹膜内あるいは腫瘍内ルートで24mg/kgの従来処方のパクリタキセルが与えられたものはそれぞれ11.5±2.3日と10.2±4.7日であった。パクリタキセル/ポリ(DAPG−EOP)24mg/kgグループのH1299細胞倍加時間は35±8日と算出され、これと比較される腹膜内あるいは腫瘍内ルートで従来処方のパクリタキセル(24mg/kg)が与えられたものはそれぞれ12±1.2と11.2±1.9日であった。
【0190】
まとめると、ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れた24 mg/kgのパクリタキセルの場合、A549結節の腫瘍体積倍加時間は約60日、H1299結節では約35日であり、これと比較される腫瘍内投与による同じ投与量の従来のパクリタキセルで治療された結節ではそれぞれ10と11日であった。
【実施例22】
【0191】
他の固型腫瘍への効果
American Type Culture Collectionから得られる次の種類の癌細胞株を培養増殖させ、免疫抑制マウスに前述のようにして植え付けた。
【0192】
【表3】
ポリ(DAPG−EOP)微小球に入れたパクリタキセルの徐放性処方での一連の投与を、24mg/kgより幾分高いレベルを含む異なる投与量レベルで前述のようにして行う。腫瘍体積をその間ずっと追跡する。従来のクレモホール/エタノール溶液に入れたパクリタキセルを与えた試験動物と比較すると、マウスの腫瘍結節モデルでは、多種類の固型腫瘍の成長のコントロール、その成長速度の減少、及びいくつかの場合には実際の腫瘍のサイズの減少にもかなりの改善を示す。
【実施例23】
【0193】
胸郭内の塊への投与
ポリ(DAPG−EOP)に入れた徐放性パクリタキセルを、気管支の1次腫瘍と胸部に移転した癌を含む肺癌腫瘍の塊へ投与する。このパクリタキセル−ポリ(DAPG−EOP)処方を、Turner
Biopsy針で肺癌腫瘍の塊へ1回又は複数回投与する。透視装置やCT(コンピュータ断層撮影)をガイダンスに用いる。2−96mg/kgの投与量を用いることができる。投与量は体重や腫瘍体積に基づくことができる。従来のクレモホール/エタノール溶媒に入れたパクリタキセルの同じ投与量の腫瘍内投与への比較は、本発明のポリホスホエステル組成物と方法の予期せぬ利益を示している。
【0194】
これまで説明してきた本発明は、多くのやり方に変えられることは明らかであろう。このような変更は本発明の精神と範囲からの離脱とみなされないものであり、全てのこのような変更は次のクレームの範囲に含まれることを意味している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与に注入される組成物であって、
(a) 生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b) 前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤よりなり、微小球の形態の均質なマトリックスを形成している生分解性ポリマー組成物。
【請求項1】
固型腫瘍を有する哺乳動物の腫瘍内投与に注入される組成物であって、
(a) 生分解性ポリホスホエステルポリマーと、
(b) 前記腫瘍内に注入投与したときにその成長を抑制するのに有効な量の少なくとも1つの抗腫瘍剤よりなり、微小球の形態の均質なマトリックスを形成している生分解性ポリマー組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−219483(P2011−219483A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132938(P2011−132938)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2000−607603(P2000−607603)の分割
【原出願日】平成12年3月20日(2000.3.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(509282066)エーザイ インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2000−607603(P2000−607603)の分割
【原出願日】平成12年3月20日(2000.3.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(509282066)エーザイ インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
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