説明

固定用冶具

【課題】 型枠に固定しても型枠を傷めずに固定でき、型枠で隔てられた一方向からの作業により容易に締付け作業ができるようにする。
【解決手段】 固定用冶具1は型枠8の内側の所定の場所に埋設対象物18を固定するための冶具である。固定用冶具1は、型枠8の内面に当接される支持部材2と、支持部材2と型枠8にそれぞれ形成された同心上の貫通孔9,12に挿入される固定用ボルト3と、固定用ボルト3のねじ部3bに外嵌された状態で、固定用ボルト3の頭部3aと支持部材2との間に介装される変形可能な樹脂スリーブ4と、支持部材2よりも型枠8の内方へ突出する固定用ボルト3のねじ部3bに螺合されるナット5とを備える。そして、ナット5に螺合される通しボルト7を介して埋設対象物18を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばコンクリートスラブに中空ボイドを設置する際にボイド材を型枠に固定するための固定用冶具に関係する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートスラブに中空ボイドを設置する場合、コンクリート打設完了後に取り外し可能な冶具により、ボイド材を型枠に固定する方法がとられている。従来の方法では、型枠に固定する際はボルトとナットとワッシャにより型枠に固定し、コンクリート打設完了後にボルトを取り外し、コンクリート面に露出する接続部分を処理する方法が取られていた。
【特許文献1】特開2004−346566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のボルトとナットとワッシャにより型枠に固定される方法では金属であるボルト及びワッシャによって型枠に直接固定されるため、型枠が傷みやすく、型枠の転用回数が制限されていた。また、型枠の外側より1名の作業員がボルトとワッシャを設置し、別の作業員1名が型枠を隔てた内側よりナットを締付けて、固定する作業となるため、前記固定作業には少なくとも2名の作業員が必要であった。
【0004】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、型枠に固定しても型枠を傷めずに固定でき、型枠で隔てられた一方向からの作業により容易に型枠に固定することができる固定用冶具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、型枠の内側の所定の場所に埋設対象物を固定するための固定用冶具であって、前記型枠の内面に当接される支持部材と、該支持部材と前記型枠にそれぞれ形成された同心上の貫通孔に、頭部が前記型枠の外側に位置すると共に先端部が前記型枠の内側に位置するように挿入される固定用ボルトと、該固定用ボルトのねじ部に外嵌された状態で、該固定用ボルトの頭部と前記支持部材との間に介装される変形可能な樹脂スリーブと、前記支持部材よりも前記型枠の内方へ突出する前記固定用ボルトのねじ部に螺合されるナットとを備え、該ナットの前記固定用ボルトが螺合される側と逆側に螺合される通しボルトを介して、前記埋設対象物を固定することを特徴とする固定用冶具を提案している。
【0006】
この発明に係る固定用冶具で埋設対象物を固定する際は、以下のように行う。固定用冶具の構成部材である支持部材、固定用ボルト、樹脂スリーブ、ナットを、固定用ボルトの頭部が型枠の外側に位置するとともに、支持部材が型枠の内側に位置するように組み付ける。そして、型枠の内側に位置するナットを締付方向に回転させる。すると固定用ボルトが型枠内側へ引き込まれる。このため、固定用ボルトの頭部と支持部材に介装された樹脂スリーブがその両端を押圧されることにより、型枠の外側に位置する範囲にて膨出する。さらにナットを回転させると、樹脂スリーブの外径が型枠の貫通孔の径よりも大きくなり、膨出部分と支持部材との間で型枠を挟み込むこととなり、これにより固定用冶具と型枠との間に引抜抵抗が生じ、固定用冶具を型枠に固定することができる。また、固定用ボルトの頭部と型枠との間に、膨出した樹脂スリーブが介されることにより、型枠に傷を付けないで、固定作業を可能にさせる。さらに、樹脂スリーブの膨出により型枠の貫通孔と樹脂スリーブが密着するので、コンクリートを打設する際、コンクリートに含まれる水分等が型枠の貫通孔から漏出する恐れがない。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の固定用冶具であって、前記固定用ボルトの頭部の外径が前記樹脂スリーブの外径と同等であって、しかも前記型枠の貫通孔の径よりも小に設定されていることを特徴とする固定用冶具を提案している。
この発明に係る固定用冶具によれば、固定用冶具の構成部材である支持部材、固定用ボルト、樹脂スリーブ、ナットを予め組み付け、この組み付けた固定用冶具を型枠の内側から外側へ、固定用ボルトの頭部より型枠の貫通孔に挿入する。そして、支持部材を型枠の内面に当接した後、前述したようにナットを回転させることにより、固定用冶具を型枠に固定することができる。このように固定作業のすべてが型枠の内部から可能となる。また、固定用冶具の取り外しの際に、従来からの一方向より締付可能な固定用冶具では、専用の工具等が必要であったのに対して、この発明に係る固定用冶具によれば、ボルトの形状に対応した汎用の工具で取り外しが可能である。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の固定用冶具であって、前記支持部材が樹脂製であることを特徴とする固定用冶具を提案している。
この発明に係る固定用冶具によれば、型枠の内面においても型枠と当接する部分が樹脂製であり、型枠の保護効果が図れる。また、コンクリートが硬化して、型枠及び固定用ボルトを取り外した後にコンクリート面に露出する部分は、型枠に当接されていた樹脂面と固定用ボルトが嵌合されていた支持部材の貫通孔になるので、貫通孔がモルタル、樹脂材等腐食の恐れのない材料で充填されれば、露出する支持部材の取り外しまたは防食を施さなくて済む。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の固定用冶具であって、前記支持部材と前記ナットとの間に金属製の部材が介装されていることを特徴とする固定用冶具を提案している。
この発明に係る固定用冶具によれば、ナットと当接する部分が金属なので、ナットの締付効果の向上を図れる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明によれば、固定用冶具を型枠の内側より、型枠の貫通孔に挿入し、型枠の内側に位置するナットを締付けることにより、型枠に固定用冶具を固定することができるので、固定作業のすべてが型枠の内側だけで可能となる。また、固定用冶具を固定する型枠の貫通孔と膨出した樹脂スリーブが密着するので、固定した部分の水密性を確保することができ、コンクリートの品質の低下、型枠の外部の汚損を防ぐことができる。また、固定ボルトの頭部と型枠の間に膨出した樹脂スリーブを介することにより、型枠に傷を付けないようにでき、型枠の転用回数を増やすことができる。さらに、取り外し方法も汎用の工具で容易に可能な方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1から図4はこの発明に係る一実施形態を示しており、この実施形態の固定用冶具は、スラブコンクリート内に中空ボイドを設置する際に埋設されるボイド材を、型枠に固定するものである。図1から図4は型枠8の上部が内側となり、この部分にスラブコンクリート23が打設されるように図示されている。
【0012】
固定用冶具1は、図1(a)に示す支持部材2と固定用ボルト3と樹脂スリーブ4とナット5とワッシャ6、及び図4に示す通しボルト7を備えている。また、固定用冶具1を固定する型枠8の所定の位置には、軸線Lを中心として貫通孔9が形成されている。図1(a)は固定用冶具の構成部材である支持部材2、固定用ボルト3、樹脂スリーブ4、ナット5、ワッシャ6が組み付けられて、型枠8にセットされた状態を表す。
【0013】
支持部材2は樹脂によって形成され、略平板状の板状部10と、板状部10の外周に形成され型枠8の内方に向かって拡がるテーパ形状をなすテーパ部11を備えている。また、支持部材2の板状部10には貫通孔12が形成されている。支持部材2は型枠8の内面8aと端面2aで当接される。また、支持部材2の貫通孔12が型枠8の貫通孔9と軸線Lを中心として同心上に位置している。固定用ボルト3は型枠8の貫通孔9の径よりも小さい径の頭部3aとねじ部3bを備える。固定用ボルト3は頭部3aが型枠8の外側に位置し、先端部3cが型枠8の内側に位置するように、型枠8の貫通孔9及び支持部材2の貫通孔12に挿入される。このとき、固定用ボルト3の先端部3cは型枠8の内方へ突出される。略円筒状に形成された樹脂スリーブ4は、変形可能な材質例えばゴム、塩化ビニルなどからなっている。また、樹脂スリーブ4は、外径が型枠8の貫通孔9の径よりも小さく、かつ内径が固定用ボルト3のねじ部3bの外径よりも大きく、固定用ボルト3のねじ部3bに外嵌された状態で、固定用ボルト3の頭部3aの端面3dと支持部材2の端面2aの間に介装されている。さらに、樹脂スリーブ4の長さは型枠8の厚さよりも長く設定されている。また、ナット5は金属製のワッシャ6を介して、型枠8の内方へ突出している固定用ボルト3のねじ部3bに螺合される。
【0014】
次にこの固定用冶具1を型枠8に固定する方法について説明する。まず、固定用冶具1を構成する支持部材2、固定用ボルト3、樹脂スリーブ4、ナット5、ワッシャ6を図1(a)のように組み付ける。そして、この組み付けた固定用冶具1を、型枠8の内側より固定用ボルト3の頭部3aが挿入先端となるように、型枠8の貫通孔9に挿入し、支持部材2の端面2aを型枠8の内面8aに当接させる。この状態にてレンチ14によりナット5を締付方向へ回転させる。ナット5はワッシャ6により型枠8の外側へ移動しないように拘束されているので、逆に固定用ボルト3が型枠8の内側へ引き込まれる。その結果、支持部材2の端面2aと固定用ボルト3の端面3dにより、樹脂スリーブ4の両端が押圧される。これにより図2(a)に示すとおり、まず樹脂スリーブ4の全体が外径方向に膨らみ、型枠8の貫通孔9の径と等しくなる。さらに押圧されることで、型枠8の外側に位置する範囲で、樹脂スリーブ4の膨出部16が形成する。最終的に膨出した樹脂スリーブ4の膨出部16の外径は型枠8の貫通孔9の径よりも大きくなり、膨出部16と支持部材2との間で型枠8を挟むこととなる。これにより型枠8と固定用冶具1との間に引抜抵抗が生じ、固定用冶具1を型枠8に固定できる。また、固定用ボルト3の端面3dと型枠8の外面8bとの間には樹脂スリーブ4の膨出部16が介される。
これにより、固定用ボルト3及びナット5にて型枠8を傷付けることがなく、締付けることが可能となり、転用回数を増やすことができる。また、固定用冶具1の組立て、締付作業のすべてを型枠8の内側より行えるようになる。
【0015】
固定用冶具1を型枠8に固定した後、ナット5の固定用ボルト3を嵌合した側と反対側17に通しボルト7を嵌合する。図4はボイド材18を型枠8の内部に係合した状態を示す。通しボルト7にはナットストッパー19が形成され、これにより所定の位置までナット5で嵌合でき、かつ通しボルト7が緩まないようになっている。また、通しボルト7にはボイド材固定用ナット20及びボイド材固定用ワッシャ21が嵌合している。ボイド材18は貫通孔22を備え、通しボルト7はボイド材18の貫通孔22に挿入されている。また、ボイド材18はスラブコンクリート23内の所定箇所に配置された鉄筋24とボイド材固定用ワッシャ21との間に挟みこまれることで固定されている。この状態で型枠8内にスラブコンクリート23を打設することで、スラブコンクリート23内に中空ボイド25が形成される。
【0016】
次に、硬化した後の固定用冶具1の取り外し方法及び処理方法について説明する。図3はスラブコンクリート23が硬化した後の固定用冶具1及び型枠8を取り外した状態を表す。スラブコンクリート23を打設すると、固定用冶具1を構成する部品の内、支持部材2、ナット5、ワッシャ6、通しボルト7はスラブコンクリート23内に埋没される。まず、固定用ボルト3を緩める方向に回転させて、型枠8の外側へ取り外す。次に型枠8の貫通孔12に挿入されている樹脂スリーブ4を型枠8の外側へ引き抜く。樹脂スリーブ4は型枠8の外側においてのみ膨出しているので、容易に引き抜くことができる。最後に型枠8をスラブコンクリート23より取り外す。以上により、スラブコンクリート23の底面26が露出される。スラブコンクリート23の底面26には型枠8に当接されていた支持部材2の端面2aが露出している。また、固定用ボルト2を取外しているので、露出している支持部材2の端面2aには貫通孔12も露出している。
【0017】
支持部材2は前述のように、スラブコンクリート23に埋没している部分が型枠8の内方に向かってテーパ形状をしているので、脱落の恐れがなくかつ樹脂で形成されているので腐食の恐れがない。このため、固定用ボルト2及び樹脂スリーブ4を取り外し、露出している支持部材2の貫通孔12をモルタル、樹脂等腐食の恐れのない材料で充填するだけで良いので、固定用冶具1の取り外した後の処理作業も容易となっている。
【0018】
図5から図7は固定用ボルト3が十字ボルトの場合の実施形態を示す。この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材と共通の部材には同一の符号を付して、その説明を省略する。この場合についても、固定作業及び取り外し作業は同様である。このように前述の六角穴付ボルトに限らず、様々な種類のボルトで構成可能である。
【0019】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0020】
なお、前記各々の実施形態では支持部材2が略平板状の板状部10と、板状部10の外周に形成され型枠8の内方に向かって拡がるテーパ形状をなすテーパ部11を備えているものとしたが、テーパの方向を逆方向にする、またはテーパ自体を無くしてしまって、板状部のみとしても良い。この場合、固定用冶具1の取り外しの際に支持部材2も取り外し、腐食の恐れのない材料で充填すれば良い。また、ナット5は金属製のワッシャ6を介して螺合されるとしたが、ナット5が支持部材2と当接せず、金属製の部材を介して締付けることができれば良いので、ワッシャ6は例えば金属製のスリーブとしても良い。
【0021】
また、ボイド材22はスラブコンクリート23内の鉄筋24とボイド材固定用ワッシャ21に互いに当接し、ボイド材固定用ナット20にて係合されているとしたが、これに限らず、埋設対象物が溶接可能ならば溶接により通しボルト7と係合しても良いし、両端ともナット及びワッシャにより係合しても良い。
【0022】
さらに、前記各々の実施形態ではスラブコンクリートにおけるスラブ型枠にボイド材を固定するための固定用冶具としたが、これに限らず、壁コンクリートにおける壁型枠と鉄筋のサペーサなどにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)はこの発明の一実施形態の固定用冶具の取り付け状態を示す断面図、(b)は同底面図である。
【図2】(a)はこの発明の一実施形態の固定用冶具の取り付け状態を示す断面図、(b)は同底面図である。
【図3】この発明の一実施形態の固定用冶具の取り外す状態を説明する分解断面図である。
【図4】この発明の一実施形態のボイド材の取り付け状態を示す断面図である。
【図5】(a)はこの発明の他の実施形態の固定用冶具の取り付け状態を示す断面図、(b)は同底面図である。
【図6】(a)はこの発明の他の実施形態の固定用冶具の取り付け状態を示す断面図、(b)は同底面図である。
【図7】この発明の他の実施形態の固定用冶具の取り外す状態を説明する分解断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 固定用冶具
2 支持部材
3 固定用ボルト
4 樹脂スリーブ
5 ナット
6 ワッシャ
7 通しボルト
8 型枠
9 貫通孔
12 貫通孔
14 レンチ
16 膨出部
18 ボイド材(埋設対象物)
19 ナットストッパー
20 ボイド材固定用ナット
21 ボイド材固定用ワッシャ
22 貫通孔
23 スラブコンクリート
24 鉄筋
25 中空ボイド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠の内側の所定の場所に埋設対象物を固定するための固定用冶具であって、
前記型枠の内面に当接される支持部材と、
該支持部材と前記型枠にそれぞれ形成された同心上の貫通孔に、頭部が前記型枠の外側に位置すると共に先端部が前記型枠の内側に位置するように挿入される固定用ボルトと、
該固定用ボルトのねじ部に外嵌された状態で、該固定用ボルトの頭部と前記支持部材との間に介装される変形可能な樹脂スリーブと、
前記支持部材よりも前記型枠の内方へ突出する前記固定用ボルトのねじ部に螺合されるナットとを備え、
該ナットの前記固定用ボルトが螺合される側と逆側に螺合される通しボルトを介して、
前記埋設対象物を固定することを特徴とする固定用冶具。
【請求項2】
前記固定用ボルトの頭部の外径が前記樹脂スリーブの外径と同等であって、しかも前記型枠の貫通孔の径よりも小に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の固定用冶具。
【請求項3】
前記支持部材が樹脂製であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固定用冶具。
【請求項4】
前記支持部材と前記ナットとの間に金属製の部材が介装されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の固定用冶具。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−219899(P2006−219899A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34371(P2005−34371)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(390022389)サンコーテクノ株式会社 (52)