説明

固定金物

【課題】床パネル等の建材を被固定部材に固定する際の作業の低下を好適に抑制すること。
【解決手段】パネル固定金物10は、本体金具20、ボルト30、パネル当接板40及び可動式のフック50を備えている。ボルト30の回転によりパネル当接板40及びフック50の間隔が小さくなってそれらパネル当接板40及びフック50によって床パネルと梁材とが挟みこまれる。本体金具20は、その長手方向に延び互いに対向する一対の側壁部21を有している。フック50は、側壁部21の間に収容された収容状態となる位置と、同側壁部21によって挟まれた領域から突出し上記挟み込みが許容される突出状態となる位置とに回動可能となっている。側壁部21とそれに対向するフック50の側壁部51とは、上記収容状態においてそれら側面部21及び側面部51の間の離間距離が大小異なる部分を有するように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の建築に用いられる床パネル等の建材を、梁材等の被固定部材に固定するための固定金物に関する。
【背景技術】
【0002】
建物における床パネルの固定構造として、床パネルと梁材との重なり部分を座金部材とフックとで挟み込むことにより、床パネルを梁材に固定する固定金物を用いる技術が提案されている(特許文献1参照)。この固定金物は、ボルトの締め付けによってフックをボルトの軸線方向に移動させ、床パネルの表面に置かれた座金部材と同フックとの間の距離を縮めるようになっている。
【0003】
フックは、金物本体に収容された状態(収容状態)となる位置と、同金物本体から突出した状態(突出状態)となる位置とに回動可能に保持されている。固定金物が床パネルに形成された固定用貫通孔に挿入される際には、フックが収容状態となることで同床パネルに対する引っ掛かりが回避される。そして、当該フックは、固定用貫通孔を通り過ぎた後に突出状態となって床パネル等を挟んで座金部材と対峙し、上記挟み込みが可能となる。
【0004】
かかる固定金物を用いれば、固定金物を床パネルの固定用貫通孔等に挿入してボルトを締め付けることにより床パネルと梁材とを挟み込んで同床パネルを梁材に固定でき、例えばクリップ金物とクリップビスを用いた固定作業に比べて作業の容易化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−146807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した固定金物においては上記効果を享受できる反面、可動式フックを用いたことにより以下の不都合が生じ得る。すなわち、フックと金物本体との隙間に水が入り込み、その入り込んだ水が同隙間にとどまる可能性が有り、当該水がフックの回動を妨げる要因となり得る。仮にこのような事象が発生すると、固定金物を用いて床パネル等の固定を行う際にフックが突出状態となる位置へと上手く回動せず、固定作業がやりにくくなるおそれがある。特に、施工現場では、床パネル等によりフックの視認及びアクセスが妨げられた状況下にて固定作業が行われることが多く、上記事象に起因した作業性の低下が顕著になりやすい。
【0007】
本発明は、上記例示した事情等に鑑みてなされたものであり、床パネル等の建材を被固定部材に固定する際の作業の低下を好適に抑制することができる固定金物の提供を主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下においては、理解の容易のため、発明の実施の形態において対応する構成を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0009】
手段1.長尺状をなす金物本体(本体金具20及びナット板部材60)と、
前記金物本体に対して当該金物本体の一端側から同金物本体に螺合させて設けられ、同金物本体の長手方向と同じ方向に延びるボルト(ボルト30)と、
前記金物本体の長手方向に相互に離して設けられた一対の挟持部(パネル当接板40及びフック50)と
を備え、
前記ボルトの回転により前記一対の挟持部の間隔が小さくなってそれら挟持部により固定対象物(例えば床パネル102)が挟み込まれることでその固定対象物を固定する固定金物であって、
前記金物本体は、その長手方向に延び互いに対向する一対の側面部(側壁部21)を有し、
前記一対の挟持部のうち一方は、一端が前記金物本体に設けられた支持部(回動軸27)によって回動可能に支持された可動式挟持部(フック50)であり、
当該可動式挟持部は、前記一対の側面部の間に収容された収容状態となる位置と、当該一対の側面部によって挟まれた領域から突出し前記挟み込みが許容される突出状態となる位置と、に回動可能となっており、
前記一対の側面部とそれに対向する前記可動式挟持部の対向部(側壁部51)とは、前記収容状態においてそれら側面部及び対向部の間の離間距離が大小異なる部分を有するように形成されていることを特徴とする固定金物。
【0010】
手段1によれば、金物本体に取り付けられたボルトを回転させると、当該ボルトの軸方向(金物本体の長手方向)に金物本体が変位し、両挟持部の距離が縮まる。これにより、それら挟持部によって固定対象物が挟み込まれ、同固定対象物が固定される。
【0011】
固定金物を固定対象物に対して取り付ける場合には、可動式挟持部を収容状態とすることで当該可動式挟持部が取り付けの邪魔になることを抑制することができる。その後、可動式挟持部が突出状態となることで、固定対象物の挟み込みが許容される。このように可動式挟持部を収容する構成を採用した場合には、可動式挟持部(対向部)と側面部との隙間に入り込んだ水が同隙間にとどまることにより、同水を媒介として側面部と対向部とが密着する等して可動式挟持部の回動が妨げられると懸念される。このような水の影響によって突出状態となる位置への回動が妨げられることは、固定金物を使いづらくする要因となり得るため好ましくない。
【0012】
この点、本手段に示すように側面部及び対向部が両者の離間距離が大小異なる部分を有するように形成すれば、少なくとも隙間が大きい部分においては隙間が小さい部分よりも水をとどまりにくくすることができる。つまり、水が側面部と対向部との間の隙間全域にとどまることを抑制することができる。また、仮に上記密着が生じた場合であっても側面部及び対向部の全体が密着の対象となることを抑制することができる。これにより、水の影響を抑え、可動式挟持部が収容状態のままとなったり突出状態となる位置へ上手く到達しなかったりして上記固定作業が困難になるといった不都合を生じにくくすることができる。
【0013】
手段2.前記対向部と前記側面部との離間距離は、前記収容状態にて、前記可動式挟持部の回動基端部側よりも回動先端部側のほうが大きくなっていることを特徴とする手段1に記載の固定金物。
【0014】
手段1に示したように可動式挟持部を回動可能に保持する構成を採用している場合、回動先端部寄りとなる位置及び回動基端部寄りとなる位置では同可動式挟持部の回動を妨げる抵抗が発生した際の影響に差が生じる。具体的には、回動先端部における抵抗の影響は回動基端部における抵抗の影響よりも大きくなりやすい。
【0015】
そこで、本手段に示すように、回動先端部側での隙間を回動基端部側での隙間よりも大きくすれば、回動先端部における上記抵抗の発生を抑えることができる。これにより、可動式挟持部の回動を円滑化に貢献できる。
【0016】
手段3.前記側面部及び前記対向部の何れか一方は、前記収容状態における前記側面部と前記対向部と離間距離が、前記可動式挟持部の回動基端部側から回動先端部側へ向けて大きくなるように、他方に対して傾斜していることを特徴とする手段1又は手段2に記載の固定金物。
【0017】
手段3に示す固定金物では、収容状態において側面部及び対向部の何れか一方が他方に対して傾斜し、側面部と対向部との間に形成される隙間は回動先端部側へ向けて大きくなっている。これにより、収容状態において上記隙間全域に水がとどまることを抑えることができる。また、隙間を拡げておくことで、金物本体へ可動式挟持部を組み付ける際の(収容部に対して可動式挟持部を入れる際の)作業の容易化に貢献することができる。
【0018】
手段4.前記両対向部は、前記一対の側面部にそれぞれ対向し、相互に平行となるようにして形成されており、
前記一対の側面部は、前記収容状態における前記可動式挟持部の回動基端部から回動先端部に向けて互いの離間距離が大きくなるようにして形成されていることを特徴とする手段3に記載の固定金物。
【0019】
手段4によれば、両対向部を平行とするとともに側面部同士の離間距離が収容状態における可動式挟持部の回動基端部から回動先端部に向けて互いの大きくなるように同側面部を形成する(側面部を対向部対して傾斜させる)ことにより、逆の構成(両側面部を平行とするとともに対向部を傾斜させる構成)を採用する場合と比較して、可動式挟持部においてその回動基端部と回動先端部との重量差を小さくすることができる。したがって、突出状態となる位置への可動式挟持部の回動に際して同可動式挟持部の自重の利用を容易とし、同位置への回動の円滑化に貢献できる。
【0020】
手段5.前記固定金物は、建材(床パネル102)の固定用貫通孔(固定用貫通孔103)に挿入され、建材と同建材の被固定部材(梁材101)との重なり部分を前記両挟持部で挟み込むことにより前記建材を前記被固定部材に固定するものであり、
前記金物本体には、一端側に前記支持部が設けられ、それとは反対側の端部に前記ボルトと螺合する螺合部(ナット板部材60)が設けられており、
前記ボルトは、前記金物本体が前記固定用貫通孔に挿入された状態で同固定用貫通孔に対して偏心するようにして配されており、
前記金物本体における前記螺合部側の端部は、少なくとも前記金物本体が前記ボルトが回転した場合に前記固定用貫通孔の内面に当接する内面当接部となっていることを特徴とする手段4に記載の固定金物。
【0021】
本手段に示す構成に対して手段4に示した技術的思想を適用することにより、ボルトを回転させた際に同回転に追従して固定金物が回転することを好適に回避できる。
【0022】
手段6.前記側面部及び前記対向部の一方は、平面状をなし、
他方は、自身の長手方向における途中位置にて屈曲していることを特徴とする手段1乃至手段5のいずれか1つに記載の固定金物。
【0023】
手段1に示したように一対の側面部の間に可動式挟持部を収容する構成においては、同可動式挟持部がそれら両側面部の一方側へ傾いたり偏倚したりする可能性がある。ここで、本手段に示すように側面部及び対向部の何れか一方を平面状とし、他方が自身の長手方向における途中位置にて屈曲している構成とすれば、仮に上記傾き等が発生した場合であっても、屈曲部分を境に隙間が小さい部分と、それよりも隙間が大きい部分とに分かれることとなる。これにより、上記隙間がその全域にて極小となることを回避して水による影響が大きくなることを抑制できる。
【0024】
例えば、「前記側面部は、前記可動式挟持部の回動基端部を挟んだ両側に位置し互いに平行となるように形成された第1壁部(第1壁部21aAや下側壁部21aC)と、前記収容状態にて前記第1壁部よりも前可動式挟持部の回動先端部側に位置し、相互の間隔が前記第1壁部同士の間隔よりも大きくなるように形成された第2壁部(第2壁部21bAや下側壁部21bC)とを有する」構成を採用するとよい。本構成によれば、可動式挟持部が両側面部のうち一方に偏移して当該可動式挟持部と第1壁部との隙間が極小となった場合であっても、第2壁部と可動式挟持部と間に所定の隙間を確保することができる。また、可動式挟持部が両側面部のうち一方側に傾いて当該可動式挟持部と第2壁部との隙間が極小となった場合であっても、第1壁部と可動式挟持部と間に所定の隙間を確保することができる。これにより、上述した水による抵抗の発生を抑制することができる。
【0025】
なお、第1壁部同士の間隔を可動式挟持部の回動が疎外されない程度に小さくしておくことにより、回動中心部付近での可動式挟持部の位置ばらつきを抑制し、回動先端部側にて可動式挟持部と第2壁部とが面当たりすることを抑制することができる。これにより、側面部と可動式挟持部との間に水が入り込んだとしてもそれに起因した抵抗が回動先端部側にて大きくなることを好適に回避することができる。
【0026】
手段7.前記一対の側面部によって挟まれた領域は、前記可動式挟持部が前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する際の回動方向における先側へ開放されており、
前記可動式挟持部は、前記一対の側面部の開放端部の間を通って前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する構成となっており、
前記一対の側面部は、前記開放端部の相互の離間距離が、同開放端部とは反対側の反開放端部の相互の離間距離よりも大きくなっており、
前記収容状態での前記側面部と前記対向部との離間距離が、前記反開放端部側から前記開放端部側へ向けて大きくなっていることを特徴とする手段1乃至手段6のいずれか1つに記載の固定金物。
【0027】
手段7によれば、可動式挟持部と側面部との隙間に水が入り込んだ水が同隙間にとどまり続けることを抑制することができ、水による抵抗の発生を抑えることができる。
【0028】
手段8.前記可動式挟持部を前記突出状態となる位置へ付勢する付勢部材を備えていることを特徴とする手段1乃至手段7のいずれか1つに記載の固定金物。
【0029】
手段8によれば、付勢部材の付勢力によって突出状態となる位置へ付勢することにより、固定金物の取り付け姿勢等の制約を抑え、同固定金物の使いやすさを高めることができる。
【0030】
手段9.前記一対の側面部によって挟まれた領域は、前記可動式挟持部が前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する際の回動方向における先側へ開放されており、
前記可動式挟持部は、前記一対の側面部の開放端部(開放部24)の間を通って前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する構成となっており、
前記可動式挟持部は、前記収容状態にて重心位置が前記支持部により回動可能とされた支持点位置よりも前記開放端部寄りとなっていることを特徴とする手段1乃至手段8のいずれか1つに記載の固定金物。
【0031】
手段9によれば、可動式挟持部は収容状態となる位置から突出状態となる位置へと自重によって回動する。このように、突出状態となる位置への回動を促すことにより、可動式挟持部が収容状態となる位置にとどまり続けるといった不都合を生じにくくすることができる。
【0032】
なお、手段7に示す構成(側面部は、前記可動式挟持部の回動中心部側から前記開放部側へ相互の間隔が拡がるように傾斜している構成)との組合せにおいては特に、収容状態にて開放部側に先細り状をなすようにして可動式挟持部を形成しなくても上記隙間の拡張を実現できる。故に、上記隙間を確保しつつ重心位置を開放部分側に近づけることが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】パネル固定金物を示す(a)側面図、(b)正面図。
【図2】金物本体の横断面図。
【図3】ナット板を示す(a)分解斜視図、(b)平面図。
【図4】パネル当接板の平面図。
【図5】(a)本体金具とフックとの関係を示す拡大図、(b)図5(a)のA−A線断面図、(c)図5(a)のB−B線断面図。
【図6】床パネルの設置構造を示す斜視図。
【図7】床パネルの固定作業を示す概略図(図6のC−C線部分断面図)。
【図8】床パネルの固定作業を示す概略図(図6のC−C線部分断面図)。
【図9】本体金具の供回りを規制するための構造を示す概略図。
【図10】パネル固定金具の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、固定金物の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。この実施の形態では、鉄骨軸組工法によって建てられた建物において、固定対象物及び建材としての床パネルを被固定部材としての梁材に固定するパネル固定金物に具体化されている。
【0035】
はじめに、図6を参照しながら、建物における床パネルの設置構造と、本実施形態のパネル固定金物10との関係を簡単に説明する。なお、図6は、床パネルの設置構造を示す斜視図である。
【0036】
同図に示されているように、建物の梁材101はH形鋼によって構成され、この梁材101によって形成されたパネル設置領域に多数の床パネル102が設置されるようになっている。各床パネル102は軽量気泡コンクリート(ALC)によって矩形状に形成され、いずれも同じパネル厚を有している。その設置に際しては、各床パネル102の短辺部が梁材101の上フランジ101aに載置され、長辺部同士を隣り合わせた状態で連設されている。
【0037】
なお、床パネル102の設置態様としては、床パネル102の上面と梁材101の上面とを同一平面とすべく、梁材101のウエブ101bに設けられた載置レールに床パネル102が載置された構成、その他各種の設置態様を採用してもよい。また、床パネル102には、前述したALC等のコンクリート系床材の他、金属性ハニカムパネル等の金属製床材など、各種の高剛性板材を採用することもできる。
【0038】
図6に示した床パネル102の設置構造では、床パネル102の短辺部にはその中央部において床パネル102の上下方向に貫通する固定用貫通孔103が形成されている。この固定用貫通孔103は開口断面が円形状に形成されており、ここにパネル固定金物10が上方から挿入されるようになっている。
【0039】
ちなみに、図6では図示を省略しているが、この固定用貫通孔103には座掘部104が設けられている(後述する図7及び図8を参照)。座掘部104は床パネル102の上面側に設けられ、固定用貫通孔103にパネル固定金物10が挿入された場合に、その頭部を床パネル102の上面から後退させて突出しないようにしている。この座掘部104は固定用貫通孔103と一致する中心軸線を有し、その固定用貫通孔103よりも大径となっている。このため、固定用貫通孔103の上面側開口部は座掘部104の底面中央部に設けられている。
【0040】
次に、パネル固定金物10について、図1及び図2を参照しながら詳しく説明する。図1はパネル固定金物10を示しており、(a)は側面図、(b)は正面図である。図2はパネル固定金物10の一部材である金物本体の横断面図である。
【0041】
このパネル固定金物10について、その全体の概要を簡単に説明すると、図1に示されているように、当該パネル固定金物10は全体として略L字状をなしている。パネル固定金物10はその主要な構成要素として金物基体である本体金具20と、ボルト30と、パネル当接板40とを有しており、これらが組み付けられて構成されている。
【0042】
次に、それら各構成要素について、順に詳しく説明する。
【0043】
まず、本体金具20については、図1に示されているように長尺状をなす金属製部材であり、その横断面は略コ字状の溝形に形成されている。図2も参照すると、この本体金具20が有する形状により、本体金具20にはその一対の側壁部21と背面壁部22とでコ字状溝23が長手方向に沿って形成されている。このコ字状溝23は、背面壁部22側とは反対に開放されているとともに長手方向両端で開放されている。背面壁部22側とは反対に開放されている部分が開放部24である。
【0044】
また、本体金具20は、図2に示すように、コ字状をなす四方の角部がそれぞれ床パネル102の固定用貫通孔103の内面に当接するように、同固定用貫通孔103の径に合わせて形成されている。このため、パネル固定金物10が固定用貫通孔103の挿入された状態では、四方の角部が固定用貫通孔103の内面に当接している。つまり、本体金具20では側壁部21における開放部24側の端部(詳しくはその一部)と、同側壁部21及び背面壁部22の連結部分の角部とによって内面当接部が構成されている。
【0045】
ここで、パネル固定金物10は、その本体金具20の長手方向を上下にして固定用貫通孔103に挿入されて用いられる。そこで、説明の便宜のため、これ以降は本体金具20の長手方向を上下方向に言い換えて説明することとする。
【0046】
本体金具20には挟持部の一方となるフック50と、ボルト30及び本体金具20を繋ぐナット板部材60とが設けられている。フック50は、本体金具20の下端部に設けられている。図1に示されているように、このフック50は本体金具20に対して90°に近い角度をなすように、先端を本体金具20の側方に向けた状態で設けられている。フック50は本体金具20よりは短い長尺状をなし、本体金具20の同一材質によって構成されている。その横断面はU字状をなす上開放の溝形に形成され、長手方向に沿って同一寸法となっている。その寸法は、フック50の側壁部51間の外寸法が本体金具20の側壁部21間の内寸法よりも若干小さく、かつ上下寸法が本体金具20の側壁部21の幅寸法よりも小さく形成されている。なお、本体金具20に対するフック50の角度については、必ずしも金具本体に対して直交する角度(90°)にする必要はなく、例えば斜め上向きとなる角度(例えば85°程度)にすることとも可能である。
【0047】
一方、このフック50を設けるために、本体金具20の下端部は相対向する一対の側壁部21のみが下方向に延長されており、この延長されている部分がフック50の取付部26となっている。
【0048】
この取付部26の間にはフック50を保持する保持部としての回動軸27が設けられ、この回動軸27によってフック50の基端部が軸支されている。フック50の基端部には、フック50の回動を規制する規制部55が設けられている。規制部55は相対向する一対の側壁部51が基端側に延長されて形成されており、その上端縁部が本体金具20の背面壁部22の下端と当接することで、前述した90°に近い角度をなす状態を超えるフック50の回動が規制されている。そして、この回動規制によって先端を本体金具20の側方に向けた状態から本体金具20側にフック50を回動させると、フック50は本体金具20の側壁部21の間に形成されたコ字状溝23(側壁部21によって挟まれた収容領域)に収容される。
【0049】
フック50がかかる構成を備えているため、その先端を本体金具20の側方に向けた通常の位置から回動させて、フック50を本体金具20の側壁部21間に形成されたコ字状溝23に収容することが可能となっている。つまり、フック50は本体金具20からの突出が抑えられた退避位置と、当該退避位置よりも同本体金具20からの突出量が大きく挟持部としての機能が有効化される突出位置とに回動可能となっている。
【0050】
ここで、フック50と回動軸27との関係について補足説明する。フック50は、コ字状溝23に収容された状態にて、同フック50の重心が回動軸27(詳しくは回動中心軸線C6)よりも上記開放部24寄りとなるように形成されている。このため、フック50は、自重によって突出位置へ回動し、退避位置にとどまりにくくなっている。これは、フック50の突出位置への回動を促すための工夫である。
【0051】
本体金具20においてフック50が取り付けられている側とは反対側の端部(上端部)に本体金具20と同じ材質からなる上記ナット板部材60が配されており、同本体金具20及びナット板部材60によって金物本体が構成されている。以下、図3に基づきナット板部材60について説明する。図3は同じくパネル固定金物10の一部材であるナット板部材を示す図であり、(a)はナット板部材の取付構造を示す分解斜視図、(b)は平面図である。
【0052】
図3(a)に示されているように、ナット板部材60は平板状をなしており、その中央部分には自身の厚さ方向(上下方向)に貫通するボルト螺合孔61が設けられている。ボルト螺合孔61の内面には、前記ボルト30が螺合される雌ねじ部が形成されている。このナット板部材60を本体金具20に取り付けるため、本体金具20の上端部にはナット取付孔28が形成されている。ナット取付孔28は本体金具20の上下方向(長手方向)に対して直交するように、側壁部21間を貫通して形成されている。ナット取付孔28の上下方向の幅は、ナット板部材60の板厚よりも若干幅広となっている。そして、そのナット取付孔28に同ナット取付孔28が貫通する方向にナット板部材60を挿入することで、本体金具20にナット板部材60が取り付けられる。
【0053】
なお、ナット取付孔28に挿入された状態のナット板部材60は、本体金具20に対して溶接等による固定がなされておらず、ナット板部材60を押し出して取り外すことが可能となっている。もっとも、前述したように、ナット取付孔28の上下幅はナット板部材60の板厚よりも若干幅広となっているだけであるから、ナット板部材60が簡単にずり落ちてしまうおそれは少ない。
【0054】
ここで、前記ナット板部材60はそのボルト螺合孔61が所定の位置に位置決めされるように形成されており、その点に特徴を有している。その所定位置とは、図3(b)に示されているように、パネル固定金物10が床パネル102の固定用貫通孔103に挿入された場合に、その固定用貫通孔103に対して偏心した位置である。この偏心により、ボルト螺合孔61の中心軸線C1(後述するように、ボルト30の中心軸線C3と一致する)は固定用貫通孔103の中心軸線C2に対してずれることになる。
【0055】
また、ナット板部材60はボルト螺合孔61を挟んだ両側端部は床パネル102の固定用貫通孔103の内面と当接するように形成され、その両端部が内面当接部としての当接縁部63となっている。各当接縁部63は、それぞれ全域にわたって固定用貫通孔103の内面と当接するように、固定用貫通孔103の内面に合わせた円弧状に形成されている。このため、各当接縁部63では、平面視におけるボルト螺合孔61の中心軸線C1との間の距離L1が固定用貫通孔103の半径Rより長くなる当接点(一例として、図3(b)のX点)が無数に確保されている。その結果、ボルト螺合孔61に螺合したボルト30を締め付けたり、緩ませたりすることによって、その中心軸線C1を中心とした回転力がナット板部材60に加わったとしても、ナット板部材60の供回りが規制される。
【0056】
加えて、このようにボルト螺合孔61の中心軸線C1が固定用貫通孔103の中心軸線C2に対して偏心していることにより、本体金具20自身の供回りも規制される。前述した図2の横断面図を参照すると、本体金具20が固定用貫通孔103の内面と当接する角部25とボルト螺合孔61の中心軸線C1との間の距離L2が、固定用貫通孔103の半径Rより長くなっている。それにより、ボルト螺合孔61の中心軸線C1を中心とした回転力が本体金具20自身に加わったとしても、本体金具20自身の供回りが規制される。
【0057】
ちなみに、このボルト螺合孔61の位置を別の視点からみてみると、図3(b)において、中心軸線C1を通る直線上でX点と中心軸線C1との間の距離L1は、その反対側と中心軸線C1との間の距離L1aよりも長くなっている。また、図2においても、中心軸線C1を通る直線上で角部25と中心軸線C1との間の距離L2は、その反対側と中心軸線C1との間の距離L2aよりも長くなっている。
【0058】
次に、前記ボルト30は、一般的に用いられる六角ボルトである。本体金具20の上端部にナット板部材60が取り付けられた状態で、図1に示されているように、本体金具20の上方からコ字状溝23にボルト30の先端部が挿入され、その先端部がナット板部材60のボルト螺合孔61に螺合されている。これにより、本体金具20とボルト30との両者が一体的に組み付けられている。
【0059】
この組付け状態では、図1及び図2に示されているように、ボルト30の中心軸線C3はボルト螺合孔61の中心軸線C1と一致するとともに、本体金具20の中心線C4に対して偏心している。なお、ここでいう本体金具20の中心線C4とは、本体金具20の長手方向に延びてその横断面の中心を通る仮想的な線のことである。そして、パネル固定金物10が固定用貫通孔103に挿入されると、この中心線C4は図2に示した固定用貫通孔103の中心軸線C2と一致する。
【0060】
なお、ボルト30の抜け止めのため、ナット板部材60から下方向に突出したボルト30の先端部は、つぶし加工が施されたつぶし部33となっている。かかる構成では、本体金具20のコ字状溝23がボルト挿通溝となっている。
【0061】
使用されるボルト30の長さ寸法は、床パネル102のパネル厚に合わせて決められる。その場合、図示の如くボルト30の先端部がナット板部材60に螺合され、ボルト30の頭部31と本体金具20の側方を向いたフック50との間に十分な長さを確保して固定用貫通孔103に挿入された状態で、フック50の回動が許容されることが必要となる。
【0062】
図1に示されているように、本体金具20とボルト30とが組み付けられた状態で、本体金具20の上端とボルト30の頭部31との間に上記パネル当接板40が介在している。以下、図4を参照してパネル当接板40について説明する。図4はパネル固定金物10の一部材であるパネル当接板40の平面図である。
【0063】
パネル当接板40は平面視において略矩形状をなし、本体金具20と同一の材質からなる平板部材である。パネル当接板40にはボルト30の軸部32を挿通するボルト挿通孔41が形成されており、このボルト挿通孔41にボルト30の軸部32を挿通させた上で、本体金具20にボルト30が組み付けられている。
【0064】
図4に示されているように、挟持部の他方となる座板部材としてのパネル当接板40は、床パネル102の固定用貫通孔103に設けられた座掘部104内に収容される大きさに形成されている。前記ボルト挿通孔41は、パネル当接板40が座掘部104に収容されて底面上に載置されると、座掘部104及び固定用貫通孔103の中心軸線C2から偏心した位置に中心軸線C5が配置されるように形成されている。なお、ボルト挿通孔41にボルト30が挿通されると、両者の中心軸線C3,C5は一致する。
【0065】
そして、平面視において、パネル当接板40が有する一対の短辺部42のうち、一方は座掘部104の内面に合わせた円弧状に形成され、他方もその一方と同じ向きの円弧状に形成されている。このように、一対の短辺部42が同じ向きの円弧状に形成されていることで、パネル当接板40には長辺方向の一方向に向けた方向性を認識させる方向性認識機能が付与されている。
【0066】
パネル当接板40には当該パネル当接板40の厚さ方向に貫通する水抜き孔43が形成されている。水抜き孔43は、パネル当接板40において上記固定用貫通孔103に対峙する部分に配設されており、パネル当接板40上に水が溜まった場合にその水を当該水抜き孔43を通じて本体金具20側に排出することが可能となっている。また、パネル当接板40とボルト30の頭部31との間にスプリングワッシャ35を介在させ、ボルト30の頭部31の座りをよくするとともに、締め付け後の緩みを抑制している。
【0067】
以上がパネル固定金物10の主な構成である。そして、回動自在なフック50をその先端が本体金具20の側方に向けた通常の位置(突出位置)に配置してパネル固定金物10を略L字状とし、かつ本体金具20が供回りしない状態とした上でボルト30を締め付ける。すると、ボルト30の軸部32は本体金具20のコ字状溝23内に入り込み、ボルト30の頭部31とフック50との間の距離が縮まる。このため、パネル当接板40とフック50との間に、梁材101の上フランジ101aとその上に載置された床パネル102とを介在させれば、両者の重なり部分はパネル当接板40とフック50とで挟まれる。この挟み込みによって、床パネル102を梁材101に対して固定することができる。
【0068】
本実施の形態におけるパネル固定金物10においては、水に起因した動作不良を抑制するための工夫が施されていることを特徴の1つとしている。以下、図5を参照して当該工夫にかかる構成について説明する。図5(a)は本体金具20とフック50との関係を示す図1(b)の部分拡大図、図5(b)は図5(a)のA−A線部分断面図、図5(c)は図5(a)のB−B線部分断面図である。なお、図5においては便宜上、フック50が退避位置に配置された状態を示している。
【0069】
図5(a)に示すように、本体金具20の両側壁部21は、退避位置に配置されたフック50(上記収容領域)を隔てて相対向しているものの、両者の間隔(回動中心軸線C6と同一の方向における距離寸法)は一定となっていない。具体的には、側壁部21は、互いの距離が本体金具20におけるフック50を保持している側の端部(下端部)では相対的に小さく同本体金具20におけるフック50を保持している側とは反対側の端部(ボルト30が挿入されている側の端部:上端部)では相対的に大きくなるようにして互いに離れる側に傾いている。つまり、両側壁部21については、フック50の回動中心部寄りとなる下端部での距離寸法LWよりも同フック50が上記退避位置に配置されている状態にて当該フック50の回動先端部寄りとなる上端部での間隔寸法UWのほうが大きくなるようにして傾いており、本体金具20の正面視にて上方に間隔が拡がる略V字状をなしている。
【0070】
これら側壁部21については回動中心軸線C6に対して斜めに交差しており、これに対してフック50の各側壁部51については回動中心軸線C6と直交するとともに互いに平行となるようにして形成されている。このため、本体金具20の側壁部21とフック50の側壁部51との隙間については、フック50の回動中心部(回動基端部)寄りとなる箇所では相対的に小さく、同フック50の回動先端部寄りとなる箇所では相対的に大きくなっている。より詳しくは、両壁部21,51の隙間は本体金具20の上端部に近くづにつれて徐々に大きくなっている。
【0071】
また、図5(b),(c)に示すように、各側壁部21の距離は、背面壁部22側と開放部24側とで一部相違する構成となっている。以下、先ずかかる距離の相違について説明し、その後、上下方向での相違点について説明する。
【0072】
図5(b)に示すように、本体金具20の各側壁部21は、背面壁部22から開放部24に近づくにつれて上記距離が大きくなるようにして互いに離れる側へ傾いている。つまり、両側壁部21は、回動中心部(背面壁部22)寄りとなる基端部での距離寸法RW1,RW2よりも開放部24寄りとなる先端部での距離寸法FW1,FW2のほうが大きくなるようにして傾いており、本体金具20の平面視にて開放部24側に拡張された略ハの字状をなしている。
【0073】
ここで、フック50の側壁部51については、上述の如く回動中心軸線C6と直交するとともに互いに平行となるように形成されている。このため、開放部24寄りとなる位置での側壁部21と側壁部51との隙間寸法FD1,FD2は、背面壁部22寄りとなる位置(回動中心部)での側壁部21及び側壁部51の隙間寸法RD1,RD2よりも大きくなっている。より詳しくは、両壁部21,51の隙間は開放部24に近くづにつれて徐々に大きくなっている。
【0074】
このような側壁部21,51同士の関係については、程度の差はあるものの、本体金具20の長手方向における全域(最下端を除く)で同様となっている。具体的には、両側壁部21の正面側への開き具合は、下端部から上端部に向けて徐々に大きくなるように設定されている。このため、フック50が退避位置に配置されている状態では、同フック50の回動先端部付近での両隙間寸法FD1,RD1の相違量については、回動基端部付近での両隙間寸法FD2,RD2の相違量よりも大きくなっている。
【0075】
以上詳述したように、本体金具20の側壁部21とフック50の側壁部51との間の隙間に大小関係を付与することにより、同隙間の全体に水がとどまるといった不都合を生じにくくし、水に起因した動作不良を抑制可能となっている。
【0076】
次に、この床パネル102を梁材101に対して固定する固定作業を、図7及び図8(床パネルの固定作業を示す概略図:図6のC−C線部分断面図)を参照して説明する。なお、固定作業は、図7(a)→図7(b)→図8(a)→図8(b)の順に行われる。
【0077】
まず、図7(a)に示されているように、床パネル102の固定用貫通孔103にその上方からパネル固定金物10を挿入、つまり落とし込む。この場合、パネル固定金物10は、ボルト30を緩めてボルト30の頭部31と本体金具20との間を十分に離した状態としておく。その際、前述したようにボルト30の先端部はつぶし部33となって抜け止めが図られているため、ボルト30を意図せず本体金具20から外してしまうことはない。落とし込み時には、パネル固定金物10のフック50は先端を本体金具20の側方に向けた通常の位置から回動させ、本体金具20に収容した状態としておく。また、パネル固定金物10を特定の向きに定めて固定用貫通孔103に落とし込む。具体的には、本体金具20が有するコ字状溝部分の開口を梁材101に向けて、つまり収容されたフック50が回動して突出位置に配置された場合に、平面視でのフック50の向きが梁材101の延びる方向と直交する向きに定める。このように向きを定める上では、パネル当接板40が有する方向性認識機能を利用できる。
【0078】
パネル固定金物10を固定用貫通孔103に落とし込むと、図7(b)に示されているように、パネル当接板40が座掘部104の底面で支持されるとともに、スプリングワッシャ35を介してボルト30の頭部31がパネル当接板40に支持される。また、本体金具20の下端側が床パネル102の下面から突出する。これにより、それまで固定用貫通孔103の内面によって退避位置から突出位置への回動が規制されていたフック50が、自身の自重によって突出位置へ回動する。すなわち、フック50は、先端が本体金具20の側方を向いた突出位置に復帰する。なお、落とし込み時にパネル固定金物10に加わる衝撃等によってフック50の回動が促進されることとなる。そして、前述した特定の向きが定められているため、突出位置に復帰したフック50は梁材101の上フランジ101aの下方で、その先端をウエブ101bに向けて配置されている。
【0079】
既に説明したようにパネル固定金物10は屋外等の水が付着し得る環境下にて使用されることがある。本実施の形態におけるパネル固定金物10においては、上述した隙間の工夫が施されているため、仮に上記落とし込み作業を行う際(フック50が退避位置へ回動した際)に同フック50の側壁部51と本体金具20の側壁部21との隙間に水が入り込んだとしても、フック50の突出位置への復帰が妨げられにくくなっている。
【0080】
次いで、図8(a)に示されているように、ボルト30を締め付ける。パネル固定金物10が固定用貫通孔103に挿入された状態では、前述したように、本体金具20は四方の角部が固定用貫通孔103の内面に当接している(図2参照)。また、ナット板部材60の当接縁部63も同じく固定用貫通孔103の内面に当接し、それに加えてボルト30の中心軸線C3が固定用貫通孔103の中心軸線C2から偏心した位置に配置されている(図3参照)。このため、ボルト30の締め付けによる回転力が本体金具20に加わったとしても、本体金具20の供回りが規制される。それにより、ボルト30の締め付けとともに本体金具20が上昇して、フック50とボルト30の頭部31及びパネル当接板40との間の距離が縮まる。
【0081】
そして、フック50の上端面52が上フランジ101aの下面に当接した後にもさらにボルト30を締め付けると、図8(b)に示されているように、上フランジ101a及び床パネル102はパネル当接板40とフック50とによって挟まれる。この場合、ボルト30の締め付けを強固に行うことで、斜め上向き状態であったフック50は水平向きとなり、互いに平行をなすフック50の上端面52とパネル当接板40とで上フランジ101a及び床パネル102が強固に挟み込まれる。この挟み込みによって、床パネル102が梁材101に対して固定される。
【0082】
以上詳述したパネル固定金物10においては、施工現場等で実際に使用される際には挟持機能が付与されたフック50が床パネル102の下方に位置するため、上述したように作業者がフック50の向きを確認することは困難になると想定される。つまり、目視にて、梁材101の上フランジ101a(図6等参照)とフック50との掛かり代を確認することが困難になると考えられる。そこで、フック50に付与された挟持機能を好適に発揮させるには、上述した供回り規制機能レベルの向上が必要となる。
【0083】
本実施の形態においては、側壁部21の距離が開放部24側に拡がるようにして同側壁部21を傾斜させることにより、上述した供回り規制機能の向上と水による抵抗を抑える機能とが好適に実現されている。以下、図9を参照して詳しく説明する。図9は本体金具の供回りを規制するための構造を示す概略図であり、(a)は当該工夫のベースとなった構造、(b)は本実施の形態におけるパネル固定金物10の構造を示している。
【0084】
既に説明したように、本体金具20の側壁部21は、開放部24側に向けて相互の距離(間隔)が大きくなるように傾いている。これにより、固定用貫通孔103の内面との当接箇所を側方へ偏移させることが可能となっている。このように、当接箇所を側方に偏移させることで、図9(a)→図9(b)に示すように、供回りが生じ得る角度を減縮し、規制を強めることが可能となっている。
【0085】
確かに、図9(a)に示すように、両側壁部21が平行となっている構成においても、各側壁部21の背面壁部22からの起立量を小さくするとともに両側壁部21の距離を大きくすることで、当接箇所が本実施の形態の同様となるようにすることも可能である。しかしながら、単にこのような構成を採用した場合には、以下の不都合が生じ得る。
【0086】
すなわち、本実施の形態におけるフック50は、回動軸27によって回動軸線方向への移動が許容された状態で軸支されているため、仮に両側壁部21のうち一方側へフック50が偏移した場合にはフック50と側壁部21との隙間が一定になる。これでは、同隙間からの水の排出を促すことが難しくなり、上述した水による抵抗の増加を抑えることが困難になる。
【0087】
この点、図9(b)に示すように、両側壁部21を傾斜させて当接箇所を側方にずらす構成とすれば、仮に両側壁部21のうち一方側へフック50が偏移した場合であっても、フック50の側壁部51と本体金具20の側壁部21との隙間が一様に小さくなることを抑制し、上記水の影響を抑制する機能を好適に発揮させることができる。
【0088】
以上詳述した実施の形態によれば、以下の優れた効果を奏する。
【0089】
パネル固定金物10においては可動式のフック50が採用されていることで、例えばクリップ金物とクリップビスを用いた固定作業に比べて作業の容易化が期待できる。
【0090】
パネル固定金物10を固定用貫通孔103に挿入した状態では、ボルト30が固定用貫通孔103に対して偏心して設けられている。その上、本体金具20の側壁部21、及びナット板部材60の当接縁部63が、固定用貫通孔103の内面に当接する。これにより、ボルト30の中心軸線C1との距離が固定用貫通孔103の半径Rよりも長くなった当接部分が確保される。そのため、床パネル102を固定するためにボルト30を締め付けても、本体金具20及びそれに設けられたフック50の供回りが規制される。
【0091】
このパネル固定金物10を用いた場合、固定用貫通孔103にパネル固定金物10を挿入し、ボルト30を締め付けるという作業で済み、例えば固定箇所ごとにクリップ金物を取り付けなければならない従来に比べて、作業性を向上させることができる。また、ビス止めによる固定ではないことから、建物のリフォームをする場合等に床パネル102の張替えを行うこともできる。さらに、前述した供回り規制の構成により、床パネル102に爪を食い込ませることで供回り規制を実現させる等の従来技術と異なり、床パネル102の破損を回避することもできる。
【0092】
フック50は、それを本体金具20側に回動してコ字状溝23に収容されるようになっている。このため、パネル固定金物10を固定用貫通孔103に挿入する場合にそのフック50が固定用貫通孔103の開口部に干渉することがない。これにより、パネル固定金物10の挿入を容易に行うことができるし、フック50には挟持に必要な十分な長さを確保することもできる。
【0093】
本実施の形態においてはフック50の回動中心部での同フック50と側壁部21との隙間よりも隙間が大きくなる部分を設けることで、水が入り込んでとどまる領域を少なくしてフック50の回動が妨げられるといった不都合を生じにくくしている。つまり、少なくとも隙間が拡がっている部分では、例えば隙間が狭くなっている部分よりも水がとどまりにくくなり、水を媒介として側壁部21,51同士が密着した状態となる部位が広範囲に及ぶことを抑制可能となっている。
【0094】
これにより、フック50が退避位置にとどまり続けたり突出位置へ上手く到達しなかったりして上記固定作業が困難になるといった不都合を生じにくくすることができる。また、フック50が突出位置へ変位していない状態で固定作業が行われて当該固定が不完全なものとなるといった不都合を生じにくくすることができる。故に、パネル固定金物10の信頼性の担保に貢献することができる。
【0095】
本実施の形態においてはフック50を回動可能な構成を採用しているため、回動中心部(回動基端部)付近で上記抵抗が生じる場合と回動先端部付近で上記抵抗が生じた場合の影響に差が生じることとなる。具体的には、回動先端側にて抵抗が生じた場合の影響は比較的大きくなり、フック50の円滑な回動を妨げる要因となりやすい。この点、本実施の形態においては、回動先端部付近での隙間が回動中心部付近での隙間よりも大きくなるように設定している。これにより、上記抵抗による影響を抑え、フック50の円滑な回動の実現に貢献することができる。
【0096】
本体金具20の側壁部21とフック50の側壁部51との隙間は同フック50の回動先端部側へ向けて徐々に大きくなっている。これにより、両壁部21,51の隙間全域に水がとどまることを抑え、仮に当該隙間に水が入り込んだ場合であっても同水の排出を促すことができる。また、隙間を徐々に大きくしておくことで、本体金具20へフック50を組み付ける際に、隙間が大きい側から同フック50を挿入することで、本体金具20とフック50とが干渉して挿入作業が妨げられるといった不都合を生じにくくすることができる。これにより、組み付け作業の容易化に貢献することができる。
【0097】
また、本体金具20の側壁部21を傾斜させるとともにフック50の側壁部51を平行とすることで、逆の構成を採用する場合と比較して、フック50の突出位置への回動に際して同フック50の自重を利用しやすくなる。これにより、突出位置への変位の円滑化に貢献することができる。
【0098】
本体金具20の側壁部21とフック50の側壁部51との隙間は、本体金具20の背面壁部22側(回動中心部側)よりも開放部24側にて大きくなるように構成されている。これにより、隙間に水がとどまることを抑制し、上記抵抗の発生を抑制している。特に、開放部24側にて、すなわちフック50が退避位置から突出位置へ回動する際の回動先側にて隙間を大きくしておくことで、フック50の回動の円滑化に好適に貢献することができる。
【0099】
また、フック50が退避位置と突出位置との途中位置に到達した場合には、開放部24を通じた水の排出が促進され、当該途中位置にて動きが止まるといった不都合を生じにくくすることができる。
【0100】
このような、水平断面における隙間の差違を設定するための構成として、本体金具20の側壁部21を傾斜させるとともにフック50の側壁部51を平行とすることで、逆の構成を採用する場合と比較して、フック50の突出位置への回動に際して同フック50の自重を利用しやすくなる。これにより、突出位置への変位の更なる円滑化を図っている。
【0101】
なお、上述した実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。因みに、以下の別形態の構成を、上記実施の形態における構成に対して、個別に適用してもよく、相互に組み合わせて適用してもよい。
【0102】
(a)図10(a)の概略図に示すパネル固定金物10A(側壁部21A全体を傾斜させるのではなく、平行となる部分を設けたパネル固定金物10A)を採用することも可能である。具体的には、本体金具20Aの各側壁部21Aについては、フック50の回動中心部側の少なくとも一部が互いに平行となるように形成してもよい。つまり、側壁部21Aを、回動中心軸線C6に対して直交するとともに互いに平行となるように形成された第1壁部21aAと、同第1壁部21aAに対してボルト30の挿入口側に連なるとともに相互の間隔が第1壁部21aAの間隔よりも徐々に大きくなるようにして回動中心軸線C6に対して傾けて形成された第2壁部21bAとによって構成してもよい。
【0103】
かかる構成を採用することにより、仮に、フック50が両側壁部21Aの一方側に偏移したり倒れ込んだりしたとしても、フック50の側壁部51が両壁部21aA,21bAの両者に対して面接触することを好適に抑制することができる。
【0104】
(b)上記実施の形態では、各側壁部21が平板状をなす構成としたが、これを変更し、相手側に向けて凸又は相手とは反対側に凸となる曲板状をなす構成としてもよい。
【0105】
また、本体金具20の長手方向における途中位置にて各側壁部21が折れ曲ることにより、折れ曲り部分を境界として同側壁部21の傾きに差違を生じさせてもよい。例えば、正面視にて相手側に凸となるくの字状をなす構成とすることも可能である。
【0106】
(c)上記実施の形態では、本体金具20の側壁部21を回動中心軸線C6に対して傾けるとともに、フック50の側壁部51を回動中心軸線C6に対して直交させることで、隙間に差違を生じさせたが、図10(b)に示すようにフック50Bが回動先端側へ向けて先細り状をなすようにして側壁部51Bを傾けるとともに(回動中心軸線C6に対して傾けるとともに)、本体金具20Bの側壁部21Bを互いに平行となるにように(回動中心軸線C6に対して直交するように)形成することで隙間に差違を生じさせることも可能である。
【0107】
(d)上記実施の形態では、本体金具20の側壁部21を回動中心軸線C6に対して傾けることで、同側壁部21とフック50の側壁部51との隙間を大小相違させたが、少なくとも当該隙間を大小相違させることが可能であればたり、例えば側壁部51を以下のように変形することも可能である。以下、図10(c)の概略図を参照してパネル固定金物10Cについて説明する。
【0108】
本体金具20Cの側壁部21Cについては、同本体金具20Cの長手方向(上下方向)における途中位置にて折れ曲っており、全体として下端における距離寸法よりも上部における距離寸法が大きくなるように形成されたクランク状をなしている。より具体的には、側壁部21Cは、回動中心軸線C6に対して直交する二つの壁部(下側壁部21aC及び上側壁部21bC)を有してなり、下側壁部21aCとフック50との隙間寸法よりも上側壁部21bCとフック50との隙間寸法のほうが大きくなるように形成されている。
【0109】
かかる構成を採用することにより、仮に、フック50が両側壁部21Cの一方側に偏移したり倒れ込んだりしたとしても、フック50の側壁部51が両壁部21aC,21bCの両者に対して面接触することを好適に抑制することができる。
【0110】
(e)上記実施の形態では、パネル固定金物10の横断面において本体金具20の開放部24側と同開放部24とは反対側(回動中心部側)とで、本体金具20の側壁部21とフック50との隙間が相違する構成とした。具体的には、側壁部21を開放部24側に向けて互いの距離が大きくなるようにして回動中心軸線C6に対して傾けるとともに、フック50の側壁部51を互いに平行となるようにして回動中心軸線C6に対して直交させることにより、開放部側での隙間が、回動中心部での隙間よりも大きくなるようにした。少なくとも、開放部側での隙間を大きくできるのであれば本体金具20の側壁部21を傾ける必要は必ずしもない。
【0111】
例えば、図10(d)の概略図に示すパネル固定金物10Dのように、本体金具20Dの側壁部21Dを回動中心軸線C6に対して直交する(互いに平行となる)ように形成するとともに、フック50Dの側壁部51Dを回動中心軸線C6に対して傾ける構成とする。より詳しくは、側壁部51Dの間隔が開放部24に近づくにつれて小さくなるように傾ける。これにより、回動中心部での隙間よりも開放部寄りとなる位置での隙間を大きくすることができる。
【0112】
(f)上記実施の形態では、退避位置から突出位置へのフック50の移動を促す手段として、同フック50の自重を利用したが、フック50の回動先端部等に重りを装着することで、同重りによって突出位置への移動を促す構成とすることも可能である。
【0113】
また、フック50の自重や上記重り等を利用してフック50を突出位置へ付勢するのではなく、例えばバネ等の付勢部材を用いてフック50を突出位置へ向けて付勢することも可能である。但し、バネ等の付勢部材を利用する場合には、当該付勢部材の装着対象をフック50とし、同フック50が突出位置へ到達した後はバネが本体金具20側から離間することで付勢機能が無効となる構成とすることが望ましい。
【0114】
なお、フック50の自重等とバネ等の付勢部材による付勢力を併用することも可能である。
【0115】
(g)上記各実施の形態では、固定金物を、床パネル102を固定するパネル固定金物10として具体化したが、固定対象となる建材としては床パネル102だけでなく根太、壁パネル等であってもよく、それらを固定するための固定金物として利用してもよい。
【符号の説明】
【0116】
10…固定金物としてのパネル固定金物、20…金物本体を構成する本体金具、21…側面部としての側壁部、24…開放部、27…保持部を構成する回動軸、30…ボルト、40…挟持部としてのパネル当接板、43…水抜き孔、50…可動式挟持部としてのフック、51…対向部としての側壁部、60…金物本体を構成するナット板部材、101…梁材、102…固定対象物又は建材としての床パネル、103…固定用貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状をなす金物本体と、
前記金物本体に対して当該金物本体の一端側から同金物本体に螺合させて設けられ、同金物本体の長手方向と同じ方向に延びるボルトと、
前記金物本体の長手方向に相互に離して設けられた一対の挟持部と
を備え、
前記ボルトの回転により前記一対の挟持部の間隔が小さくなってそれら挟持部により固定対象物が挟み込まれることでその固定対象物を固定する固定金物であって、
前記金物本体は、その長手方向に延び互いに対向する一対の側面部を有し、
前記一対の挟持部のうち一方は、一端が前記金物本体に設けられた支持部によって回動可能に支持された可動式挟持部であり、
当該可動式挟持部は、前記一対の側面部の間に収容された収容状態となる位置と、当該一対の側面部によって挟まれた領域から突出し前記挟み込みが許容される突出状態となる位置と、に回動可能となっており、
前記一対の側面部とそれに対向する前記可動式挟持部の対向部とは、前記収容状態においてそれら側面部及び対向部の間の離間距離が大小異なる部分を有するように形成されていることを特徴とする固定金物。
【請求項2】
前記対向部と前記側面部との離間距離は、前記収容状態にて、前記可動式挟持部の回動基端部側よりも回動先端部側のほうが大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載の固定金物。
【請求項3】
前記側面部及び前記対向部の何れか一方は、前記収容状態における前記側面部と前記対向部と離間距離が、前記可動式挟持部の回動基端部側から回動先端部側へ向けて大きくなるように、他方に対して傾斜していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の固定金物。
【請求項4】
前記両対向部は、前記一対の側面部にそれぞれ対向し、相互に平行となるようにして形成されており、
前記一対の側面部は、前記収容状態における前記可動式挟持部の回動基端部から回動先端部に向けて互いの離間距離が大きくなるようにして形成されていることを特徴とする請求項3に記載の固定金物。
【請求項5】
前記固定金物は、建材の固定用貫通孔に挿入され、建材と同建材の被固定部材との重なり部分を前記両挟持部で挟み込むことにより前記建材を前記被固定部材に固定するものであり、
前記金物本体には、一端側に前記支持部が設けられ、それとは反対側の端部に前記ボルトと螺合する螺合部が設けられており、
前記ボルトは、前記金物本体が前記固定用貫通孔に挿入された状態で同固定用貫通孔に対して偏心するようにして配されており、
前記金物本体における前記螺合部側の端部は、少なくとも前記金物本体が前記ボルトが回転した場合に前記固定用貫通孔の内面に当接する内面当接部となっていることを特徴とする請求項4に記載の固定金物。
【請求項6】
前記側面部及び前記対向部の一方は、平面状をなし、
他方は、自身の長手方向における途中位置にて屈曲していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の固定金物。
【請求項7】
前記一対の側面部によって挟まれた領域は、前記可動式挟持部が前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する際の回動方向における先側へ開放されており、
前記可動式挟持部は、前記一対の側面部の開放端部の間を通って前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する構成となっており、
前記一対の側面部は、前記開放端部の相互の離間距離が、同開放端部とは反対側の反開放端部の相互の離間距離よりも大きくなっており、
前記収容状態での前記側面部と前記対向部との離間距離が、前記反開放端部側から前記開放端部側へ向けて大きくなっていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の固定金物。
【請求項8】
前記可動式挟持部を前記突出状態となる位置へ付勢する付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の固定金物。
【請求項9】
前記一対の側面部によって挟まれた領域は、前記可動式挟持部が前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する際の回動方向における先側へ開放されており、
前記可動式挟持部は、前記一対の側面部の開放端部の間を通って前記収容状態となる位置から前記突出状態となる位置へ回動する構成となっており、
前記可動式挟持部は、前記収容状態にて重心位置が前記支持部により回動可能とされた支持点位置よりも前記開放端部寄りとなっていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の固定金物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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