説明

固形石鹸組成物

【課題】 石鹸組成物が析出して突出する細毛の量や、突出速度を十分に得ることができ、また細毛の量や突出速度を制御することが可能になる固形石鹸組成物を提供する。
【解決手段】 脂肪酸塩と、金属酸化物粒子0.5〜8.0質量%と、水分13.0〜25.0質量%とを含有すると共に、脂肪酸塩中にオレイン酸塩を19.0〜60.0質量%含有して、固形石鹸組成物を調製する。この固形石鹸組成物は、開放状態に放置することによって、表面から細毛状態に石鹸組成物が析出する。そして金属酸化物粒子の含有量、水分の含有量、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を上記の範囲内で調整することによって、細毛の量や突出速度を制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中などに開放した状態に放置することによって、表面から細毛状態に石鹸組成物を析出させることができるようにした固形石鹸組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固形の石鹸組成物中に酸化チタンや酸化ケイ素などの金属酸化物の微粒子を含有させることによって、石鹸組成物が固形石鹸の表面に析出して細毛状に突出する現象が、本出願人によって見出されている(特許文献1参照)。
【0003】
そして、この石鹸組成物を動物などの形に成型した固形石鹸は、フィルム袋などで密閉した状態では、細毛は生じないが、フィルム袋から取り出して空気中に放置すると、表面に毛が生えるように細毛が突出するので、全体形状が毛の生えた動物のような態様にすることができ、置物として見た目においても楽しむことができるなど、商品価値を高めることができるものである。
【特許文献1】特公平4−9837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、固形石鹸組成物に金属酸化物粒子を含有させることによって、表面から石鹸組成物を析出させて細毛状に突出させることが本出願人によって特許文献1で提案されているが、場合によっては、石鹸組成物の析出が不十分になって、細毛が突出する量が不十分であったり、細毛の突出速度が遅く、細毛が突出してくるのに時間がかかり過ぎるということがあった。ましてや、細毛の量や突出速度を所望するものに制御するようなことは到底できないというのが現状である。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、石鹸組成物が析出して突出する細毛の量や、突出速度を十分に得ることができ、また細毛の量や突出速度を制御することが可能になる固形石鹸組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る固形石鹸組成物は、脂肪酸塩と、金属酸化物粒子0.5〜8.0質量%と、水分13.0〜25.0質量%とを含有すると共に、脂肪酸塩中にオレイン酸塩を19.0〜60.0質量%含有して形成され、開放状態に放置することによって、表面から細毛状態に石鹸組成物が析出することを特徴とするものである。
【0007】
また請求項2の発明は、請求項1において、上記金属酸化物粒子が、ケイ酸粒子と酸化チタン粒子のうち少なくとも一方であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属酸化物粒子の含有量を0.5〜8.0質量%の範囲に、水分の含有量を13.0〜25.0質量%の範囲に設定し、さらに脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を19.0〜60.0質量%の範囲に設定することによって、石鹸組成物が析出して細毛として突出する量や、突出速度を十分に得ることができるものであり、またこれらの数値範囲の中で含有量を増減して調整することによって、細毛の量や突出速度を制御することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0010】
本発明に係る固形石鹸組成物は、脂肪酸塩と金属酸化物粒子と水分とを含有するものであり、まず、金属酸化物粒子を含有する固形石鹸組成物において、表面に細毛が析出して突出する機構について説明する。
【0011】
固形石鹸組成物を成型した固形石鹸には水分が含有されているが、この固形石鹸を空気中に開放状態で放置すると、固形石鹸の表面から水分が発散していく。この際に、固形石鹸中に微粒子状の金属酸化物を含有させておくと、金属酸化物粒子によって固形石鹸の内部に細孔が形成され、水分は毛細管現象でこの細孔を通って表面に出て蒸発する。そしてこの水分と共に石鹸組成物も細孔を通って表面に押出され、水分が蒸発した跡に石鹸組成物が析出し、この析出した石鹸組成物が成長して、細毛のような形態となって突出するものと推定される。
【0012】
従って、石鹸組成物が表面に析出して突出する細毛の量や突出速度は、石鹸組成物中の金属酸化物粒子の含有量や、水分の含有量などに依存するということが考えられる。ここで特筆すべきは、固形石鹸の表面に突出する細毛を分析したところ、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有比率が元の石鹸組成物よりも高いことが本発明者等によって見出されたことである。例えば、元の石鹸組成物の脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有比率が30質量%程度の場合、細毛においてはオレイン酸塩の含有比率は50質量%以上であることが見出された。これは、オレイン酸塩は他の脂肪酸塩よりも水に易溶であるため、水分と共に押出されて形成される細毛においてオレイン酸塩の含有比率が高くなっているものと推量される。従って、細毛の突出量や突出速度はオレイン酸塩の含有比率にも依存すると考えられる。
【0013】
このように、石鹸組成物中の金属酸化物粒子の含有量、水分の含有量、オレイン酸塩の含有比率を調整することによって、固形石鹸の表面に突出する細毛の量や突出速度を、十分なものにしたり、最適なものに制御したりすることが可能になるものである。
【0014】
本発明において用いる脂肪酸塩としては、特に制限されるものではないが、炭素数8以上の飽和又は不飽和脂肪酸からなる塩であることが好ましい。このような炭素数8以上の飽和又は不飽和脂肪酸としては、特に限定されるものではないが、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸などを挙げることができる。飽和又は不飽和脂肪酸の炭素数の上限は特に設定されるものではないが、実用上、炭素数22以下の飽和又は不飽和脂肪酸であることが望ましい。具体的には、脂肪酸塩を構成する脂肪酸として、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ヒマシ油、オリーブ油などの植物油脂、もしくは牛脂、豚脂などの動物油脂を用いることができる。また脂肪酸塩を構成する塩としては、特に限定されるものではないが、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミン塩等を挙げることができる。脂肪酸塩は、上記の植物油脂や動物油脂を直接鹸化することによって、あるいは植物油脂や動物油脂を分解精製して得られた脂肪酸の中和によって、製造することができるものである。
【0015】
そして本発明では、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有比率を19.0〜60.0質量%の範囲に設定するものであり、20.0〜50.0質量%の範囲がより好ましい。オレイン酸塩の含有比率がこの範囲より少ないと、固形石鹸の表面への石鹸組成物の析出が不十分になり、均一に細毛を突出させることができない。逆にオレイン酸塩の含有比率がこの範囲を超えて多くなると、石鹸組成物が柔らかくなり過ぎて、石鹸組成物を成型して固形石鹸を作製する際の成型性が悪くなると共に、固形石鹸の使用時の溶け崩れが発生し易くなる。
【0016】
また本発明において用いる金属酸化物としては、特に制限されることなく任意のものを用いることができるものであり、例えば、ケイ酸、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化銅などを挙げることができるが、これらのなかでも、ケイ酸や酸化チタンが特に好ましく、また内部に細孔を多く有する網目構造の粒子であることが望ましい。さらに、塊状化防止や分散性改良等のために、任意の処理剤により表面処理が施されたものであってもよい。金属酸化物粒子は一種を単独で用いる他、二種以上を併用するようにしてもよい。金属酸化物粒子の粒子径は、平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。金属酸化物粒子の粒子径がこれより大きいと、細毛を均一に突出させることが難しくなる場合がある。金属酸化物粒子の粒子径の下限は特に設定されないが、実用的には1nm程度が下限である。
【0017】
そして本発明では、固形石鹸組成物中の金属酸化物粒子の含有量を0.5〜8.0質量%の範囲に設定するものである。金属酸化物粒子の含有量がこの範囲より少ないと、固形石鹸の表面への石鹸組成物の析出が不十分になり、細毛とならずに粉が吹いたような状態になってしまう場合がある。逆に金属酸化物粒子の含有量がこの範囲を超えて多くなっても、細毛の突出する量は増えず、却って突出を阻害してしまう場合もあり、製造コストが上昇するだけである。
【0018】
さらに本発明は、固形石鹸組成物中の水分の含有量を13.0〜25.0質量%の範囲に設定するものであり、17.0〜24.0質量%の範囲がより好ましい。水分の含有量がこの範囲より少ないと、固形石鹸の表面への石鹸組成物の析出が不十分になり、細毛が部分的に突出しない場合がある。逆に水分の含有量がこの範囲より多いと、固形石鹸組成物の混練を十分に行なうことができず、混練が不均一になったり成型性が悪くなったりする。
【0019】
本発明の固形石鹸組成物には、上記の各成分の他に、油性成分、水溶性成分、界面活性剤、保湿剤、金属封鎖剤、防腐剤、顔料、高分子粉体、pH調整剤、植物抽出物、香料、色素等を、本発明に必要な特性を損なわない範囲内で適宜配合することができる。
【0020】
そして、本発明に係る固形石鹸組成物を動物の形など任意の形状に成型することによって、固形石鹸を得ることができるものである。この固形石鹸は、フィルム袋などの外気を遮断する袋に入れて密閉包装した状態では、固形石鹸中の水分は蒸発しないので、固形石鹸の表面に石鹸組成物が析出しない状態に保つことができる。従って、固形石鹸を密閉包装しておけば、表面に細毛が生えていない形のままで販売に供することがきる。次に、固形石鹸を密閉包装から取り出して空気中に開放した状態で放置すると、固形石鹸中の水分が表面から蒸発し、水分のこの蒸発に伴って石鹸組成物が固形石鹸の表面に析出し、無数に密生した細毛として突出する(後出の図1参照)。
【0021】
このとき、本発明では、金属酸化物粒子の含有量、水分の含有量、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を上記の範囲に設定してあるので、石鹸組成物の析出が十分に行なわれ、細毛の突出量や、突出速度を十分に得ることができるものである。また、金属酸化物粒子の含有量を0.5〜8.0質量%の範囲で、水分の含有量を13.0〜25.0質量%の範囲で、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を19.0〜60.0質量%の範囲で増減調整することによって、細毛の量や突出速度を制御することができるものである。すなわち、これらの各成分の含有量を増加することによって、細毛の量を多くしたり突出速度を速くしたりすることができると共に、これらの各成分の含有量を減少することによって、細毛の量を少なくしたり突出速度を遅くしたりすることができるものであり、細毛の量や突出速度を最適なものに制御することが可能になるものである。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0023】
表1の「混合脂肪酸1」に示す脂肪酸組成のヤシ油由来の混合脂肪酸73質量部に、50質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を27質量部添加し、80℃で10分間攪拌混合することによって、水分量が13.0質量%の石鹸素地1を調製した。
【0024】
また表1の「混合脂肪酸2」に示す脂肪酸組成のヤシ油由来の混合脂肪酸に、同様に水酸化ナトリウム水溶液を添加して攪拌混合することによって、水分量が13.0質量%の石鹸素地2を調製した。
【0025】
さらに上記の石鹸素地1をロールに10回通すことによって、水分量を8.5質量%に調整した石鹸素地3を得た(石鹸素地3の脂肪酸組成は石鹸素地1と同じ)。
【0026】
【表1】

【0027】
次に、表2及び表3に示す配合成分をパドルミキサーで混合し、さらに3本ロールで均一化して、実施例1〜11及び比較例1〜8の固形石鹸組成物を得た。ここで、表2及び表3において、酸化チタンは、テイカ(株)製の微粒子酸化チタン「MT−100T」(平均粒子径15nm)を、ケイ酸は、(株)トクヤマ製の無水ケイ酸「レオロシールQS−30」(平均粒子径20nm)をそれぞれ用いた。そして得られた固形石鹸組成物を押出し機で混練・加圧圧縮して棒状石鹸にした後、型打ち機で成型することによって、実施例1〜11及び比較例1〜8の固形石鹸を製造した。
【0028】
このようにして得た固形石鹸について、製造直後の水分量を測定し、また脂肪酸塩組成をガスクロマトグラフにより分析し、全脂肪酸塩に対するオレイン酸塩量を測定した。
【0029】
この実施例1〜11及び比較例1〜8の固形石鹸の、細毛についての効果を確認するために、次の方法で評価を行なった。すなわち、製造直後の固形石鹸を温度25℃、湿度60%の恒温恒湿器内に静置した。そして7日経過した後に、各固形石鹸の表面に突出した細毛を採取してその質量を測定し、固形石鹸の元の質量に対する細毛の質量の比率を求めた。試料の数は3個ずつであり、その3個の平均値を算出して評価値とした。結果を表2及び表3に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
表2にみられるように、金属酸化物粒子の含有量を0.5〜8.0質量%の範囲、水分の含有量を13.0〜25.0質量%の範囲、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を19.0〜60.0質量%の範囲に設定した各実施例のものは、細毛の突出量が良好に得られるものであり、また、金属酸化物粒子の含有量、水分の含有量、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を変えることによって、細毛の突出量を調整することができるものであった。例えば、図1(a)は水分量が13質量%の実施例7の細毛の突出状態を、図1(b)は水分量が23質量%の実施例9の細毛の突出状態を示すものである。
【0033】
これに対して表3にみられるように、金属酸化物粒子を配合しない比較例1では細毛が全く発生せず、金属酸化物粒子の含有量が少ない比較例2,3、脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量が少ない比較例4,5,6、水分の含有量が少ない比較例7,8のものは、細毛の突出量が極めて少ないものであった。
【0034】
また、実施例1〜3及び実施例7〜11については、製造日より1日後、3日後、7日後、14日後の各試料について、上記と同様にして細毛の質量比率を求めた。結果を表4及び図2(a)(b)(c)に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
図2(a)は金属酸化物粒子の含有量を変化させた実施例1、実施例2、実施例3についてのものであり、実施例1、実施例2、実施例3へと順に金属酸化物粒子の含有量を増やすことによって、細毛の突出量が増大すると共に細毛の初期の突出速度が速くなることが確認される。
【0037】
図2(b)は水分の含有量を変化させた実施例7、実施例8、実施例2、実施例9についてのものであり、実施例7、実施例8、実施例2、実施例9へと順に水分の含有量を増やすことによって、細毛の突出量が増大すると共に細毛の初期の突出速度が速くなることが確認される。
【0038】
図2(c)は脂肪酸塩中のオレイン酸塩の含有量を変化させた実施例2、実施例10、実施例11についてのものであり、実施例2、実施例10、実施例11へと順にオレイン酸塩の含有量を増やすことによって、細毛の突出量が増大することが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は実施例7の固形石鹸の製造7日後の細毛の状態を示すカラー写真、(b)は実施例9の固形石鹸の製造7日後の細毛の状態を示すカラー写真である。
【図2】(a)は金属酸化物粒子の含有量と細毛の質量との関係を示すグラフ、(b)は水分の含有量と細毛の質量との関係を示すグラフ、(c)はオレイン酸塩の含有量と細毛の質量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸塩と、金属酸化物粒子0.5〜8.0質量%と、水分13.0〜25.0質量%とを含有すると共に、脂肪酸塩中にオレイン酸塩を19.0〜60.0質量%含有して形成され、開放状態に放置することによって、表面から細毛状態に石鹸組成物が析出することを特徴とする固形石鹸組成物。
【請求項2】
金属酸化物粒子が、ケイ酸粒子と酸化チタン粒子のうち少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の固形石鹸組成物。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−63376(P2007−63376A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250142(P2005−250142)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(390029654)株式会社マックス (7)
【Fターム(参考)】