説明

固形腫瘍を予防および治療するための方法および組成物

【課題】 乳癌などの固形腫瘍を予防または治療するための組成物と方法を提供する。
【解決手段】 エンドセリンBアゴニストおよび化学療法薬を有効成分として利用して、ヒトを含む哺乳動物での固形腫瘍を治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2002年10月24日に出願された米国仮特許出願第60/420,960号の優先権の利益を主張する。
【0002】
本願発明は、治療有効量のエンドセリンアゴニストおよび化学療法薬を投与すること、あるいは治療有効量のエンドセリンアンタゴニストを投与することによって、哺乳動物での乳房腫瘍などの固形腫瘍を予防および治療することに関する。
【背景技術】
【0003】
本願は主として乳房腫瘍に関するが、本願明細書で開示かつ請求する発明は、後述するような一般的な固形腫瘍の治療および予防においても応用できる。
【0004】
乳癌の発生率は、ここ10年間で大幅に増大してきており、米国では40歳〜49歳の女性における主要な死因の一つとなっている。 乳癌については、2001年に、192,000例の症例数と40,000例の死亡者数が報告されており、表在性皮膚癌に次いで、発生頻度が高く、癌に起因する第二位の死亡原因となっている(Lacey et al., Environ Mol Mutagen, 39(2-3):82-88(2002))。
【0005】
乳癌は、環境因子や遺伝因子などの様々な因子の組み合わせが関与する複雑なプロセスを経て発生する。 研究が比較的進んでいる乳房腫瘍のモデルの一つに、化学的に誘導されたラット乳癌の発癌モデルがある(参考文献9、18、19、39、54)。 ラットにおいて化学的に誘導された乳房の腫瘍形成は、ヒトの癌に最も近いモデルである(40)。
【0006】
化学的に誘導されたラット乳房の発癌は、通常、7,12-ジメチルベンゼン(a)アントラセン(DMBA)(37)またはN-メチルニトロソ尿素(MNU)(37)を投与することで実現される。 DMBAまたはMNUによって誘導される腫瘍には、様々な形態学的特徴がある。 特に、MNUによって誘導される腫瘍は、乳房に局在することが多く、転移する可能性は低い(25)。 このため、MNUは、ラットでの乳房腫瘍の特異的誘導のための化学剤としてしばしば選択される。 これら乳房腫瘍は、線維腺腫および乳頭種を伴う良性の場合があり、または悪性の場合もある(54)。 ラットには、頚部に一対、胸部に二対、腹部に一対、そして鼠蹊部に二対の計六対の乳腺がある(4、54)。 MNUで処置した処女ラットでは、腹部より胸部にかけて多数の腫瘍が発生する(41)。
【0007】
腫瘍血管構造の発生については、広範な研究が行われてきている。 数ミリメートルを超える大きさの腫瘍は、持続的な栄養素補給を必要とするので、固有の血管床および血流を有している(10)。 先在血管からの新規の血管構造の構築は、「血管形成」と呼ばれている。 この構築中に血管からの持続的な栄養補給がなければ、腫瘍は低酸素性になり、その後死滅する。 このため、腫瘍の血管構造は、かなり以前より抗癌療法の標的とされてきた(10)。
【0008】
腫瘍血管は、正常血管構造とは実質的に個別に発達するので、正常血管とは異なる特性を有している。 単層状の上皮細胞は、最初に急速に形成される腫瘍血管である。 これらの血管は、腫瘍が低酸素状態に反応して血管内皮増殖因子(VEGF)のような一定の増殖因子を分泌した場合に構築されるといわれてきた(23)。 新規に形成されたこれらの腫瘍血管は、平滑筋層または神経分布を有していない(29、36、57)。
【0009】
腫瘍は、自己調節機能をすべて具備した成熟血管も組み込んでしまう(29)。 正常な組織血管緊張は、H+、K+、Ca2+、pO2、pCO2、一酸化窒素(NO)のような多数の内因性因子の宿主、ならびにエンドセリン(ET-1)のような他の調節物質によって支配される(24、46)。
【0010】
ET-1は、強力な血管収縮剤であり、血管緊張の調節に密接に寄与する(61)。 乳癌組織中では、ETB受容体が、間質性線維芽細胞上で見い出されている(5、34)。 エンドセリンは、線維芽細胞(53)、メラノサイト、血管平滑筋、および内皮に対して細胞分裂促進性であることが見出されている(3、35、52)。 研究者らは、乳癌における、ET-1、ET-3およびETB受容体発現の増加を実証している(1)。 ET-1およびET-3の双方は、重要な血管形成因子であるVEGFの増加を招くことが実証されている(35)。 ET-1の増加は、腫瘍増殖を促進する。 乳房腫瘍においてET-1レベルが上昇する、との研究報告も数件ある(1、21、31、33、59、60)。
【0011】
本願発明は、エンドセリンアンタゴニストおよびエンドセリンアゴニストが、全身性血行動態および固形腫瘍組織中の血液循環に及ぼす作用に関する。 本願発明は、さらに固形腫瘍の治療におけるエンドセリンアゴニストおよびエンドセリンアンタゴニストの使用に関するものでもある。
【発明の開示】
【0012】
本願発明は、固形腫瘍を治療すべく、治療有効量のエンドセリンアゴニストおよび化学療法薬を、治療を必要とする個体へ投与することに関する。 さらに、本願発明は、乳房腫瘍などの固形腫瘍を予防および治療すべく、治療有効量のエンドセリンアンタゴニストを、治療を必要とする個体へ投与することに関する。
【0013】
とりわけ、腫瘍は増殖するために血液の供給を必要とする。 ETは、強力な血流量調節剤である。 ETA受容体は、血管収縮剤であることが見出されており、また、ETB受容体は、血管拡張剤であることが知られている。 本願発明によって、乳房腫瘍組織が、ETB受容体に富んでいること、そして、ETB受容体アンタゴニストが、ET-1によって誘導された乳房腫瘍組織への血流量増加を遮断できることが実証されている。 従って、エンドセリンアンタゴニスト、特に、ETB受容体アンタゴニストは、血流量を調節するETB受容体を保有する乳房腫瘍または他の固形腫瘍の増殖を防止する上で有用である。
【0014】
さらに、ETB受容体は血管拡張剤であるので、ETB受容体アゴニストを化学療法薬と併用すると、乳癌において認められる腫瘍、特に、固形腫瘍などの治療において有用であることが見出されている。 この実施態様によれば、ETB受容体アゴニストは、乳房腫瘍に化学療法薬を効果的に送達し、効果的な治療を実現する。
【0015】
従って、本願発明の一態様によれば、治療有効量のエンドセリンアゴニストおよび化学療法薬を、治療を必要とする哺乳動物へ投与する工程を含む固形腫瘍の治療方法が提供される。
【0016】
本願発明の他の態様によれば、エンドセリンアゴニスト、特に、ETBアゴニストを含む組成物が提供される。 この組成物は、固形腫瘍の治療において有用である。 エンドセリンアゴニストは、化学療法薬と共に使用される。 とりわけ、本願発明は、固形腫瘍を治療するための組成物および方法、すなわち、エンドセリンアゴニストを含有する組成物および化学療法薬と共にエンドセリンアゴニストを投与する方法に関する。
【0017】
本願発明のさらに他の態様によれば、エンドセリンアゴニスト、固形腫瘍の治療において有用な第二の治療薬および賦形剤を含む組成物が提供される。
【0018】
本願発明のさらに他の態様によれば、治療有効量のエンドセリンアンタゴニストを、治療を必要とする哺乳動物へ投与する工程を含む、固形腫瘍を予防または治療する方法が提供される。 エンドセリンアンタゴニストとして、エンドセリンBアンタゴニストまたは混合エンドセリンA/Bアンタゴニストがある。 好ましくは、エンドセリンアンタゴニストは、特異的エンドセリンB(ETB)アンタゴニストを含む。 エンドセリンアンタゴニストは、任意に、血管形成阻害剤、照射療法またはその双方と共に使用することができる。
【0019】
本願発明のさらに他の態様によれば、治療を必要とする個体に用いるための組成物、すなわち、エンドセリンアンタゴニスト、特に、ETBアンタゴニストを含む組成物が提供される。 この組成物は、固形腫瘍の予防および治療において有用である。
【0020】
本願発明のさらに他の態様によれば、エンドセリンアンタゴニスト、固形腫瘍の予防および治療において有用な第二治療薬および賦形剤を含む組成物が提供される。
【0021】
本願発明のさらに他の態様によれば、(a)容器、および(b1)エンドセリンアゴニストを含む包装済組成物、および任意の(b2)固形腫瘍の治療において有用な第二治療薬を含む包装済組成物、および(c)固形腫瘍の治療時に同時または連続して投与される一種以上の組成物の取扱に関する指示事項を含む添付文書を含む、ヒト用製剤として利用される製品が提供される。 好ましい実施形態によれば、エンドセリンアゴニストは、ETB受容体アゴニストであり、また、第二治療薬は、化学療法薬である。
【0022】
本願発明のさらに他の態様によれば、(a)容器、および(b1)エンドセリンアンタゴニストを含む包装済組成物、および任意の(b2)固形腫瘍の治療において有用な第二治療薬を含む包装済組成物、および(c)固形腫瘍の治療時に同時または連続して投与される一種以上の組成物の取扱に関する指示事項を含む添付文書を含む、ヒト用製剤として利用される製品が提供される。 好ましい実施形態によれば、エンドセリンアンタゴニストは、ETB受容体アンタゴニストであり、また、第二治療薬は、血管形成阻害剤、照射療法またはその双方である。
【0023】
本願発明に関する上記態様ならびにその他の新規の態様は、図面を参照しつつ、以下の本願発明の好ましい実施形態の詳細な説明によって明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本願発明は、乳房腫瘍などの固形腫瘍を予防および治療するための組成物および方法に関する。 特に、本願発明は、(a)エンドセリンアゴニストおよび任意の化学療法薬、または(b)エンドセリンアンタゴニストおよび任意の血管形成阻害剤のいずれかを含む医薬組成物に関する。
【0025】
本願発明はまた、エンドセリンアンタゴニスト、および個別または一緒に包装された任意の血管形成阻害剤、ならびに固形腫瘍を予防または治療する際のこれら活性物質の取り扱いに関する指示事項を含む添付文書を含む製品に関する。
【0026】
さらに、本願発明は、エンドセリンアゴニスト、および個別または一緒に包装された任意の化学療法薬、ならびに固形腫瘍を治療する際のこれら活性物質の取り扱いに関する指示事項を含む添付文書に関する。
【0027】
本願明細書に開示したある方法によれば、固形腫瘍の治療に際して、エンドセリンアゴニストと化学療法薬を利用する。 このアゴニストおよび化学療法薬は、所望の治療作用を達成するに十分な量が、同時または連続的に投与される。
【0028】
本願明細書に開示した他の方法によれば、固形腫瘍の治療に際して、任意の血管形成阻害剤と共にエンドセリンアンタゴニストを利用する。 このアンタゴニストおよび血管形成阻害剤は、所望の治療作用を達成するに十分な量が、同時または連続的に投与される。
【0029】
本願明細書で使用する「治療」の用語は、固形腫瘍を予防、進行遅延、縮小または除去することを含む。 したがって、「治療」の用語には、治療的および/または予防的投与の双方の意味が含まれる。
【0030】
「容器」の用語は、医薬品の保存、輸送、分配および/または取り扱いに適した容器およびクロージャーを意味する。
【0031】
「添付文書」の用語は、医薬品に付随する情報であって、医師、薬剤師および患者が製品の使用上の情報を入手して用法を決定する上で必要な安全性および有効性に関する情報の他、当該医薬品の投与方法に関する情報を意味する。 包装された添付文書は、一般に、医薬品の「ラベル」と見なされる。
【0032】
「プロドラッグ」の用語は、例えば、加水分解によって、in vivoで、本願発明において有用な化合物へ迅速に変換する化合物を意味する。 プロドラッグに関する詳細な考察は、Higuchi et al., Prodrugs as Novel Delivery Systems, A.C.S.D. Symposium Series、vol.14およびRoche (eds), Bioreversible Carriers in Drug Design, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987に記載されている。
【0033】
エンドセリンは、血流量を調節することが知られている血管作動性物質であり、さらに細胞分裂促進特性も有している。 エンドセリンは、乳癌組織中では正常乳房組織より高濃度で存在する。 本願発明によると、乳癌では、あるサブタイプのエンドセリン受容体(ETB)も増加することが、実証されている。 エンドセリンは、ETB受容体に作用して、血管拡張や、乳房腫瘍組織への血流量増加を招く。 重要なことに、ETB受容体アンタゴニストが、エンドセリンによって誘導された腫瘍血流量の増加を遮断できることも、見出されている。
【0034】
エンドセリンおよびETB受容体は、乳癌では過剰発現するので、例えば、BQ788のような選択的ETB受容体アンタゴニストを使用すると、乳房腫瘍組織におけるエンドセリン誘導性血管拡張を阻害し、そして、乳房腫瘍が増殖する上で必要な血液供給および栄養素供給を切断または減少させることができる。 ETBアンタゴニストはそれ単独で、または腫瘍組織内での新規血管の形成を阻害するサリドマイドのような血管形成阻害剤と共に使用できる。 腫瘍組織への血液供給および栄養素供給が減少させられると、腫瘍の増殖は抑制される。
【0035】
さらに、ほとんどの化学療法薬は、癌細胞を破壊することを目的とする細胞毒性特性を有しているが、その過程において、身体の正常な生理学的系に対して好ましくない過度の負担を負わすこととなる。 このため、化学療法薬を腫瘍組織へ選択的に送達することは極めて有用である。 したがって、腫瘍への血液供給を選択的に増加させるETB受容体アゴニストは、化学療法薬の送達および有効性を増大させることができる。 このため、ETB受容体アゴニストは、タモキシフェンのような化学療法薬の乳房腫瘍への送達を選択的に増大せしめ、その結果、化学療法薬の有効性を向上させることができる。
【0036】
具体的には、腫瘍への血液供給は、癌療法における標的となってきた。 エンドセリン-1(ET-1)を含む数種の血管作動性物質については、血流量を調節することが知られている。 ET-1は、正常乳房組織(すなわち、0.12pg/組織mg)よりも、乳癌組織(すなわち、11.95pg/組織mg)において、高濃度で存在する(Kojima et al., Surg. Oncol., 4(6):309-315(1995);Kurbel et al., Med. Hypotheses, 52(4):329-333(1999);Patel et al., Mol. Cell Endocrinol., 126(2):143-151(1997);Yamashita et al., Cancer Res., 52(14):4046-4049(1992);Yamashita et al., Res. Commun. Chem. Pathol. Pharmacol., 74(3):363-369(1991))。
【0037】
これまでの試験は、ET-1、ET-3およびETB受容体発現が、乳癌において増大することを実証している(コントロール群におけるネガティブ染色と比較して、グレードIIIの強度の染色)(Alanen et al., Histopathology, 36(2):161-167(2000))。 ET-1が、ETB受容体を刺激することによって、乳房腫瘍への血流量を増加させていることも見出されている。 ETB受容体アンタゴニストであるBQ788は、腫瘍血流量のET-1誘導的な増加を完全に遮断した。 胸部腫瘍組織は、ETB受容体発現を増強したので、ETB受容体アンタゴニストを使用すると、乳房腫瘍への血液供給を選択的に減少させることができ、ETB受容体アゴニストを使用すると、乳房腫瘍への血液供給を増加させることができる。
【0038】
従って、ETB受容体アゴニストを、化学療法薬と共に用いることで、乳房腫瘍の増殖が減少する。 さらに、ETB受容体アンタゴニストを、それ単独で、または血管形成阻害剤と共に用いることで、乳房腫瘍の増殖が有意に減少する。
【0039】
ETB受容体アゴニストを、化学療法薬と共に用いることで、卵巣癌、結腸癌、カポジ肉腫、乳癌および黒色腫などを含めたその他の固形腫瘍を、治療または予防することもできる。 エンドセリンアンタゴニストを、それ単独で、または血管形成阻害剤と一緒にして、固形腫瘍の治療および予防のために利用することができる。
【0040】
様々な固形腫瘍でのET受容体発現を、以下の表にまとめた。
【0041】
【表1】

【0042】
本願発明のある実施態様によれば、化学療法薬と共にエンドセリンアゴニストを使用して、固形腫瘍が治療される。 この方法では、エンドセリンアゴニスト、特に、ETBアゴニストは、ETB受容体に富んだ乳房腫瘍内の血流量を増加させる。 このため、ETBアゴニストは、化学療法薬に向けた選択性に優れた標的を提供し、化学療法薬の化学療法作用を向上させる。
【0043】
本願発明において有用なETBアゴニストとして、ET-1、ET-2、ET-3、BQ3020、IRL1620、サラフォトキシンS6c、[Ala1、3、11、15]ET-1、およびこれらの混合物があるが、これらに限定されない。
【0044】
エンドセリンアゴニストが、ETB受容体を刺激して腫瘍血管を拡張し、それによって、腫瘍への化学療法薬の送達を増加させる、との理論付けはなされているが、信頼はできない。 また、エンドセリンアゴニストは、固形腫瘍の血液潅流も増加させ、それによって、組織の酸素化を促す。 酸素化を改善することで、化学療法薬の治療作用が増強されることが知られている。 エンドセリンの細胞分裂作用は、化学療法薬と共に投与した場合に、化学療法薬の作用を増大させる働きをする。 エンドセリンアゴニストの細胞分裂促進作用は、分裂中の細胞内への化学療法薬の取り込みを改善し、さらに化学療法薬の有効性を高めることができる。
【0045】
この実施態様では、ETBアゴニストは、化学療法薬と共に使用される。 ETBアゴニストは、誘導化学療法および一次(ネオアジュバント)化学療法を含めた化学療法での治療有効性を高める。 さらに、化学療法は、癌の治療において外科的処置を行う際の補助的手段として頻繁に利用されている。 アジュバントを用いた化学療法の目標は、原発性腫瘍が抑制された場合に、再発の危険性を低下させて、無再発での生存期間を高めることにある。 化学療法は、疾患が転移性である場合には、癌に対する治療用アジュバントとしても頻繁に利用されている。 このため、ETBアゴニストは、化学療法と併用することで、固形腫瘍の治療、特に、手術後において有用である。
【0046】
本願方法において使用できる化学療法薬として、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン剤およびそれらのアンタゴニスト、放射性同位体、抗体、ならびに天然物、およびそれらの混合物があるが、これらに限定されない。 例えば、ETBアゴニストは、ドキソルビシンおよびその他のアントラサイクリン類似体などの抗生物質、シクロホスファミドなどのナイトロジェンマスタード、5-フルオロウラシル、シスプラチン、ヒドロキシ尿素、タキソールなどのピリミジン類似体、ならびにそれらの天然および合成誘導体などと併用して投与することができる。 また他の例として、腫瘍が性腺刺激ホルモン依存性細胞および性腺刺激ホルモン非依存性細胞を含む乳房の腺癌などの混合腫瘍の症例では、ETBアゴニストを、ロイプロリドまたはゴセレリン(LH-RHの合成ペプチド類似体)と併用して投与することができる。 本願発明の方法において有用な化学療法薬の例を、以下の表に列挙した。
【0047】
【表2】

【0048】
ETBアゴニストと併用する上で特に有用な化学療法薬として、例えば、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、インターフェロン(α、β、γ)、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、ならびにそれらの治療上有効な類似体および誘導体が含まれる。
【0049】
本願発明のさらに他の実施態様では、本願方法発明および組成物に用いられるエンドセリンアンタゴニストとして、当該技術分野で周知のETB受容体アンタゴニストとする。
【0050】
ETB受容体は、強力な血管拡張剤である。 ETBアンタゴニストは、ETBの活性を阻害し、血流量を制限するために使用される。
【0051】
本願発明において有用なETBアンタゴニストは、選択的ETBアンタゴニストまたは平衡化ETA/ETBアンタゴニストとすることができる。 固形腫瘍の治療および/または予防において有用なETB受容体アンタゴニスト、および平衡化ETA/ETBアンタゴニストを、本願明細書の付表AからCに記載した。 さらに他の有用なエンドセリンアンタゴニストは、米国特許出願公開第2002/0082285 A1号に記載されており、この米国公開公報は、本明細書の一部を構成するものとして、その内容を援用する。
【0052】
本願発明において有用なETBアンタゴニストとして、例えば、アトラセンタン、テゾセンタン、ボセンタン、シタクスセンタン、エンラセンタン、Ro468443、TBC10950、TBC10894、A192621、A308165、SB209670、SB217242、A182086、(s)-Lu302872、J-104132、TAK-044、サラフォトキシンS6c、IRL2500、RES7011、アセラシンA、BおよびC、Ro470203、Ro462005、スルファメトキサゾール、コチンミシンI、IIおよびIII、L749329、L571281、L754142、J104132、CGS27830、A182086、PD142893、PD143296、PD145065、PD156252、PD159020、PD160672、PD160874、TM-ET-1、IRL3630、Ro485695、L753037、LU224332、PD142893、LU302872、PD145065、Ro610612、SB217242、BQ788、ならびにそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。 BQ788は、好ましい特異的エンドセリンBアンタゴニストであり、そして、N-シス-2,6-ジメチルピペリジノカルボニル-L-γ-メチルロイシル-D-1-メトキシカルボニルトリプトファニル-DNIeのナトリウム塩である(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:4892-4896(1994)を参照)。
【0053】
従来型のエンドセリンアンタゴニストに加えて、内因性エンドセリンの形成を阻害する化合物もまた、本願発明におけるエンドセリンアンタゴニストとして使用できる。 このような化合物は、それらがエンドセリンの形成を防止し、このためエンドセリン受容体の活性を低下させるので、有用である。 エンドセリン転換酵素(ECE)阻害剤は、そのような化合物のクラスの一つである。 有用なECE阻害剤として、CGS34225(すなわち、N-((1-(2-(S)-(アセチルチオ)-1-オキソペンチル)-アミノ)-1-シクロペンチル)-カルボニル-S-4-フェニルフェニル-アラニンメチルエステル)およびホスホラミドン(すなわち、N-(1-ラムノピラノシルオキシヒドロキシホスフィニル)-Leu-Trp)があるが、これらに限定されない。
【0054】
以下に詳細に説明する通り、ETB受容体アンタゴニストは、血管形成阻害剤と併用することができる。 上記したように、血管形成とは、先在する血管からの新規血管構造の形成である。 血管形成阻害剤は、新規血管構造の形成を遅延させ、または排除する。
【0055】
当該技術分野で周知のあらゆる血管形成阻害剤が、本願発明におけるETBアンタゴニストと併用できる。 血管形成阻害剤として、例えば、サリドマイド、マリマスタット、COL-3、BMS-275291、スクアラミン、2-ME、SU6668、ネオバスタット、Medi-522、EMD121974、CAI、セレコキシブ、インターロイキン-12、IM862、TNP470、アバスチン、グリーバック、ハーセプチン、およびそれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
血流量を制限して新規血管構造の形成を阻害するために、ETBアンタゴニストおよび任意の血管形成阻害剤を、治療を必要とする個体に投与して固形腫瘍を治療する本願発明の一方法によれば、照射療法および/または放射線増感剤を、その個体に対してさらに適用して処置することもできる。
【0057】
本願明細書で使用する「放射線増感剤」の語は、電磁放射線に対する細胞の感受性を増加させるため、および/または電磁放射線を用いて処置できる疾患の治療を促進するために、ヒトまたは他の動物へ、その治療有効量が投与される化合物と定義される。 放射線増感剤は、ETBアンタゴニストおよび任意の血管形成阻害剤と併用して投与できる。
【0058】
本願明細書で使用する「電磁放射線」および「放射線」の語には、10〜20から100メートルの波長を有する放射線が含まれる。 本願発明の好ましい実施態様によれば、γ線(10〜20から10〜13m)、X線(10〜12から10-9m)、紫外線(10nmから400nm)、可視光線(400nmから700nm)、赤外線(700nmから1.0mm)、およびマイクロ波放射線(1mmから30cm)の電磁放射線を用いる。
【0059】
現在用いられている癌治療プロトコールの多くは、例えば、X線のような電磁放射線によって活性化される放射線増感剤を利用する。 X線活性化放射線増感剤として、例えば、メトロニダゾール、ミソニダゾール、デスメチルミソニダゾール、ピモニダゾール、エタニダゾール、ニモラゾール、マイトマイシンC、RSU1069、SR 4233、E09、RB6145、ニコチンアミド、5-ブロモデオキシウリジン(BUdR)、5-ヨードデオキシウリジン(IUdR)、ブロモデオキシシチジン、フルオロデオキシウリジン(FUdR)、ヒドロキシ尿素、シスプラチン、およびそれらの治療上有効な類似体および誘導体などがあるが、これらに限定されない。
【0060】
癌の光力学療法(PDT)は、増感剤での放射線活性化剤として可視光線を利用する。 光力学的放射線増感剤として、例えば、ヘマトポルフィリン誘導体、PHOTOFRIN(登録商標)、ベンゾプリフィリン誘導体、NPe6、錫エチオポルフィリン(SnET2)、フェオボライド-a、バクテリオクロロフィル-a、ナフタロシアニン類、フタロシアニン類、亜鉛フタロシアニン、およびそれらの治療上有効な類似体および誘導体などがあるが、これらに限定されない。
【0061】
すなわち、乳房腫瘍の血管の構造、成長および機能は、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のような増殖因子、エンドセリン-1(ET-1)のような血管拡張性物質、およびサイトカイン産生時の変化に起因して、正常乳房組織の血管の構造、成長および機能とは顕著に相違する。 乳房腫瘍血管形成におけるET-1の役割は、十分には理解されていない。 これまでに実施された試験では、プロET-1、プロET-3、およびETB受容体が乳房腫瘍において増加することが証明されている。 しかしながら、乳房腫瘍でのET-1誘導性血管反応における変化の有無は不明である。 そこで、乳房腫瘍を有するラットにおいて、全身性血行動態および局所循環に対してET-1が及ぼす作用を調査した。
【0062】
ET-1がETB受容体を刺激することによって、乳房腫瘍への血流量が増加することが初めて証明された。 ETB受容体アンタゴニストであるBQ788は、ET-1誘導性の腫瘍血流量の増加を完全に遮断した。 乳房腫瘍組織は、ETB受容体発現が強いので、ETB受容体アンタゴニストを用いることで、腫瘍組織への血液供給を選択的に減少させることができる。
【0063】
同様に、ETB受容体アゴニストは、腫瘍組織への血液供給を増加させ、それによって腫瘍への化学療法薬の投与を促進する。 したがって、ETB受容体アゴニストは、乳房組織のような固形腫瘍の治療において、化学療法薬と共に使用できる。 さらに、ほとんどの化学療法薬は、細胞毒性特性を有しており、また、癌細胞を破壊することを目標とする。 しかしながら、その作用過程において、化学療法薬は、好ましくない多大な影響を身体の正常な生理系に及ぼす。 このため、腫瘍への血液供給を選択的に増加させるETB受容体アゴニストは、化学療法薬の送達および有効性を増加させることができる。
【0064】
ETB受容体アンタゴニストは、乳癌の治療において、単独で、または血管形成阻害剤と併用して利用できる。 血管形成阻害剤は、腫瘍増殖のために必要とされる新規血管の形成を阻止する。 このため、乳房腫瘍組織への血液供給を選択的に減少させるETB受容体アンタゴニストと血管形成阻害剤とを併用することで、腫瘍の増殖は有意に減少する。
【0065】
このため、ETB受容体アゴニストは、化学療法薬と併用することで、固形腫瘍の増殖を減少する。 さらに、ETB受容体アンタゴニストは、単独で、または血管形成阻害剤と併用することで、固形腫瘍の増殖を有意に減少させる。
【実施例】
【0066】
材料および方法
動 物
体重180〜200gのメスのSprague Dawley系ラット(Harlan社、マディソン、ウィスコンシン州)を使用した。 すべての動物は、温度(23±1℃)および湿度(50±10%)が調節され、人工照明(6時〜18時)が装備された室内で、個別のかごに、3匹ずつ収容した。 動物には、餌料および水を自由に摂取させた。少なくとも4日間かけて動物を飼育環境へ順化させた後に、実験を行った。
【0067】
薬 剤
N-メチルニトロソ尿素(MNU)は、Ash Stevens社(デトロイト、ミシガン州)から購入した。 BQ788(N-シス-2,6-ジメチルピペリジノカルボニルL-γ-メチル-ロイシル-D-1-メトキシカルボニルトリプトファニル-D-Nle)、IRL1620、およびエンドセリン-1(ET-1)は、American Peptide社(サニーベール、カリフォルニア州)から入手した。 BQ788は、生理食塩水に溶解し、また、ET-1は0.1%アルブミンに溶解した。
【0068】
IRL1620およびタキソールが乳房腫瘍の潅流に及ぼす作用についての方法
メスのSprague Dawley系ラットに、MNU(50mg/kg、腹腔内)または生理食塩水(1ml/kg、腹腔内)を投与した。 腫瘍が、直径2〜4cmに達した後、血流量実験を実施した。 動物は、以下のグループに分けた。
【0069】
(i) 生理食塩水を注射して15分後に、タキソール(3mg/kg)を注射した、正常ラット(N=4);
(ii) IRL1620(3nmol/kg)を注射して15分後に、タキソール(3mg/kg)を注射した、正常ラット(N=4);
(iii) 生理食塩水を注射して15分後に、タキソール(3mg/kg)を注射した、腫瘍を有するラット(N=4);および
(iv) IRL1620(3nmol/kg)を注射して15分後に、タキソール(3mg/kg)を注射した、腫瘍を有するラット(N=4)
外科的準備
ウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals社、セントルイス、ミズーリ州)で、ラットを麻酔状態にした。 薬物投与のために、左大腿静脈にカニューレ(PE 50チュービング、Clay Adams社、パーシパニー、ニュージャージー州)を穿刺した。 参照血液試料を採取するために、左大腿動脈にカニューレを穿刺した。 右大腿動脈をカニューレを穿刺し、そして、7PIプリアンプを介して、Grass P7Dポリグラフ(Grass Instrument社、クインシー、マサチューセッツ州、米国)で血圧を記録するために、Gould P23 ID圧トランスデューサーへ接続した。 心拍数(HR)は、血圧信号に反応する7P4B Grassタコグラフ(Grass Instrument社、クインシー、マサチューセッツ州)で記録した。
【0070】
レーザードップラー流速計(LDF)による乳房での血液潅流測定
ラットの乳腺への血液潅流を、レーザードップラー流速計で測定した。 動物の乳頭周囲を剃毛し、乳腺周囲の皮膚を切開した。 標準的モデルの光ファイバープローブを乳腺動脈へ固定し、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流速計(Perimed KB、ストックホルム、スウェーデン国)へ接続した。 時定数を1.5秒に設定し、帯域幅を4KHzに設定した。
【0071】
統計的解析
すべてのデータは、平均値±SEMとして表示した。 データは、分散分析を用いて分析し、その後にDuncan検定を実施した。 p<0.05のレベルを、統計的な有意差とみなした。
【0072】
結 果
IRL1620およびタキソールが乳房腫瘍の潅流に及ぼす作用
生理食塩水またはIRL1620およびタキソールの投与後に、正常ラットの乳房組織への血流量の変化は、観察されなかった。 ベースラインからのIRL1620注射(36.3%、p<0.05)後の血流量とタキソール投与(51.9%、p<0.0-5)後の血流量との間で、有意差が観察された(図5を参照)。
【0073】
IRL1620およびタキソールが血圧に及ぼす作用
正常ラットおよび腫瘍を有するラットにおいて、生理食塩水またはIRL1620およびタキソールの投与後に、血圧の変化は観察されなかった。
【0074】
ET-1をラットへ注入するための実験プロトコール
全身性血行動態ならびに正常ラットおよび腫瘍を有するラットでの乳房組織への血流量に関して、ET-1の注入が及ぼす作用を評価するために、以下の動物グループについて試験を行った。
【0075】
(i) 30分かけてET-1(50ng/kg/分)を注入した生理食塩水処置ラットグループ(N=6);および
(ii) 30分かけてET-1(50ng/kg/分)を注入したMNU(50mg/kg、腹腔内)処置ラットグループ(N=6)。
【0076】
ETB受容体が、正常ラットおよび腫瘍を有するラットの全身性血行動態ならびに乳房組織への血流量に関して、ET-1の注入によって誘導された変化に及ぼす作用を評価するために、以下の動物グループについて試験を行った。
【0077】
(i) 20分かけてBQ788(0.5μmol/kg)を注入した後に、30分かけてET-1(50ng/kg/分)を注入した生理食塩水処置ラットグループ(N=5);
(ii)20分かけてBQ788(0.5μmol/kg)を注入した後に、30分かけてET-1(50ng/kg/分)を注入したMNU(50mg/kg、腹腔内)処置ラットグループ(N=5)。
【0078】
MNUおよび生理食塩水による処置は、試験3ヵ月前の腹腔内(腹腔内)注射によって行った。 処置して4週間後から、ラットを定期的に触診した。 腫瘍が最適なサイズ(すなわち、直径4〜8mm)になった時点に、実験を開始した。全身性血行動態および局所循環パラメーターは、ベースライン時、ET-1(50ng/kg/分)を注入して30分後、60分後および120分後に測定した。 ET-1注入は、30分かけて行ったので、30分後のデータは、ET-1の作用を示し、そして60分後および120分後のデータは、ET-1作用の持続を示している。
【0079】
外科的準備
ウレタン(1.5g/kg、腹腔内)(Sigma Chemicals社、セントルイス、ミズーリ州)で、ラットを麻酔状態にした。 手術領域すべてを剃毛し、アルコール綿で消毒した。 薬物投与のために、左大腿静脈にカニューレ(PE 50チュービング、Clay Adams社、パーシパニー、ニュージャージー州)を穿刺した。 血液採取用ポンプ(モデル22、Harvard Apparatus社、サウスナティック、マサチューセッツ州)を使用してミクロスフェア試験用の参照血液試料を採取するために、左大腿動脈にカニューレ(PE 50チュービング)を穿刺した。 右大腿動脈をカニューレ(PE 50チュービング)を穿刺し、そして、7PIプリアンプを介して、Grass P7Dポリグラフ(Grass Instrument社、クインシー、マサチューセッツ州、米国)で血圧を記録するために、Gould P23 ID圧トランスデューサーへ接続した。 心拍数(HR)は、血圧信号に反応する7P4B Grassタコグラフ(Grass Instrument社、クインシー、マサチューセッツ州)で記録した。 右頸動脈を露出せしめ、次いで、PE 50チュービングを総頸動脈に通して左室内へ誘導した。 左室内のカニューレの存在は、Statham P23 DC圧トランスデューサー(Grass Instrument社、クインシー、マサチューセッツ州)を用いて、Grassポリグラフ上で血圧を記録することによって確認した。 カニューレが左室に到達すると、拡張期圧がゼロへ低下した。 血中pO2、pCO2、およびpH定数を維持するために、また、呼吸が血圧およびHRに及ぼす作用を回避するために、齧歯類用ベンチレーター(683型、Harvard Apparatus社、サウスナティック、マサチューセッツ州)に接続した気管内カニューレを挿入することで、動物の定速人工換気を維持した。
【0080】
全身性血行動態および局所循環の測定
全身性血行動態および局所血液循環は、文献(13、16、47)に記載の方法に従って測定した。 各測定では、46Sc(スカンジウム)、113Sn(錫)、141Ce(セリウム)または95Nb(ニオブ)で標識した約100,000個のマイクロスフェア(直径15±1μm)(New England Nuclear社、ボストン、マサチューセッツ州、米国)を生理食塩水0.2mlで完全に混合して得た懸濁液を左室内に注入し、15秒間にわたって、生理食塩水0.3mlでフラッシュ洗浄した。 血流量を計算するために、0.5 mL/分の速度で右大腿動脈から動脈血を採取した。 血液の採取は、マイクロスフェア注射の約5〜10秒間前に開始し、90秒間継続した。 実験終了時に、過剰量のペントバルビタールナトリウムで、動物を致死せしめた。 全組織および器官を切除し、計量し、バイアルに入れた。 標準物質、血液試料および組織試料での放射能は、放射性同位体エネルギーを識別するための、プリセットウィンドウを装備したPackard Minaxi Auto-Gamma 5000シリーズのγ線カウンター(Packard Instruments社、ダウナーズグローブ、イリノイ州)で計数した。 次のパラメーターを、計算した。 (1)心拍出量(CO)((注射された放射能×動脈血の採取速度)/採取した動脈血液での放射能)、(2)一回拍出量(SV)(CO/HR)、(3)全末梢血管抵抗(TPR)(平均動脈圧(MAP)/CO)、(4)局所血流量((組織内の放射能×動脈血の採取速度)/採取した動脈血液での放射能)、および(5)局所血管抵抗(MAP/局所血流量)。 データは、文献(45)に記載されたコンピュータプログラムを使用して計算処理した。
【0081】
レーザードップラー流速計(LDF)による乳房の血液潅流測定
ラット乳腺への血液潅流は、文献(50、51)に記載の方法に従って、レーザードップラー流速計を用いて測定した。 動物の乳頭周囲を剃毛した。 乳腺周囲の皮膚は、幅約6cmおよび長さ4cmの皮弁となるよう切開した。 標準モデルの光ファイバープローブを、切開皮膚の表面へ適用し、両面接着テープで組織へ固定した。 切開皮膚を、金属製ホルダー内に置き、テープで固定し、次いで、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流速計(Perimed KB社、ストックホルム、スウェーデン)に接続した。 時定数を1.5秒に設定し、また、帯域幅を4KHzに設定した。
【0082】
統計的解析
すべてのデータは、平均値±SEMとして表示した。 データは、分散分析を用いて分析し、その後にDuncan検定を実施した。 p<0.05のレベルを、統計的な有意差とみなした。
【0083】
結 果
正常ラットおよび腫瘍を有するラットの全身性血行動態に対するET-1の効果
正常(生理食塩水処置)ラットでのベースライン時の全身性血行動態パラメーターは、MAP:111.1±4.8mmHg;CO:268.6±17.6ml/分;SV:0.87±0.06ml;TPR:419.6±24.37mmHg.分/ml;およびHR:312.5±20.2回/分であった。 正常ラットでは、MAPにおける有意な増加は、ET-1注入の30分後(14.5%;p<0.05)に、また、減少は、120分後(17.8%;p<0.05)に認められた。 TPRは、120分後に増加した(49.2%;p<0.05)。 COは、ET-1注入の60分後および120分後(各々、22.9%および42.5%;p<0.05)に低下した。 SVは、60分後および120分後(各々、20.9%および36%;p<0.05)に低下した。 HRにおける有意な変化は、観察されなかった(図1)。
【0084】
腫瘍を有する(MNU処置)ラットにおけるベースライン時の全身性血行動態パラメーターは、正常ラットにおけるパラメーターと類似していた。 腫瘍を有するラットでは、MAPにおける有意な増加はET-1注入の30分後(19.1%;p<0.05)および60分後(15.3%;p<0.05)で認められた。 TPRは、ET-1の投与から30分後(73.9%;p<0.05)、60分後(39.7%;p<0.05)、および120分後(71.4%;p<0.05)に増加した。 COは、30分後、60分後および120分後(各々、29.4%、16.7%および36.1%;p<0.05)に低下した。 SVは、30分後、60分後および120分後(各々、31.1%、17.9%および32.1%;p<0.05)に有意に低下した。HRにおける変化は観、察されなかった(図1)。
【0085】
正常ラットおよび腫瘍を有するラットの乳房組織での局所血流量および局所血管抵抗に対するET-1の効果
ET-1の投与後に、生理食塩水で処置した正常ラットの乳房組織での血流量の変化は観察されなかった。 60分後には血管抵抗にて有意な減少(18.61%;p<0.05)が観察されたが、この現象は、正常ラットの乳房組織においてはET-1注入の30分後で認められた(図2)。
【0086】
腫瘍を有する(MNU処置)ラットおよび正常(生理食塩水処置)ラットの乳房組織において、血流量と局所血管抵抗との間で有意差が認められた。 正常ラットに比較して認められた、腫瘍を有するラットの乳房組織での血流量の有意な増加(153%;p<0.05)は、ET-1を投与して60分後に認められた。 腫瘍を有するラットでの血管抵抗は、正常ラットに比較して、ベースライン時(102%;p<0.05)およびET-1を投与して60分後(147%;p<0,05)のそれとは有意に相違していた。
【0087】
LDFによって測定した、正常ラットおよび腫瘍を有するラットの乳房組織での血液潅流に対するET-1の効果
腫瘍を有するラットおよび正常ラットの乳房組織での潅流、移動性血球濃度(CMBC)および赤血球(RBC)の速度変化を、図3に示している。 ET-1を投与した後は、正常ラットの乳房組織での血液潅流に変化は認められなかった。 ET-1を投与して30分後に、腫瘍を有するラットの乳房組織での潅流は、正常ラットのそれと比較して、有意に増加した(176%;p<0.05)。 ET-1を投与して60分後および120分後に、腫瘍を有するラットでの潅流は、ベースライン時のレベルにまで回復した。
【0088】
腫瘍を有するラットにおけるCMBCは、正常ラットと比較して、ET-1を投与して60分後には有意に増加した(54%;p<0.05)。 CMBCは、ET-1を投与して120分後には、ベースライン時のレベルにまで回復した。 RBCの速度は、ET-1を投与して30分後に、正常ラットのそれと比較して、有意に増加した(252%;p<0.05)。 ET-1を投与して2時間(120分)後には、腫瘍を有するラットでのRBCの速度は、ベースライン時のレベルにまで回復した。
【0089】
LDFによって測定した、正常ラットおよび腫瘍を有するラットの乳房組織での血液潅流におけるET-1誘導性変化に対するBQ788の効果
腫瘍を有するラットおよび正常ラットでの血液潅流、CMBCおよびRBCの速度の各々におけるET-1で誘導された変化に対するBQ788の効果を、図4に示している。 正常ラットの乳房組織での血液潅流は、BQ788投与後またはET-1注入後において有意な変化を示さなかった。 しかし、腫瘍を有するラットの乳房腫瘍組織での潅流は、BQ788前処置ラットにET-1を注入して30分後(25.25±5.7%;p<0.05)および60分後(25.17±2.8%;p<0.05)に有意に減少した。 BQ788を用いた前処置は、腫瘍を有するラットにおいて、ET-1が誘導した潅流の増加を後退せしめた。 BQ788前処置ラットにET-1を注入した後では、腫瘍を有するラットの乳房組織での潅流と、正常ラットの乳房組織での潅流との間での差異は全く認められなかった。
【0090】
腫瘍を有するラットのベースライン時のCMBCは、正常ラットの乳房組織でのベースライン時のCMBCより有意に高かった(42.4%;p<0.05)。 しかしながら、BQ788を注入した後には、腫瘍を有するラットのCMBCと正常ラットのCMBCとの間では差異は認められなかった。 さらに、RBCの速度についても、二つのグループ間には差異は認められなかった。
【0091】
上記の試験は、生理食塩水およびMNUで処置した腫瘍を有するラットでの全身性血行動態および乳房組織への血流量に対するET-1の効果を示している。 ET-1が、VEGFの産生を促すことによって血管形成を刺激することは知られている。 これまでに実施された試験は、ET-1が、乳癌(60)、乳腺葉状腫瘍(59)、前立腺癌(31)、肝癌(21)および一部の髄膜腫(33)などの多数の癌組織にて増加することを示している。 上記の試験は、乳房腫瘍におけるET-1誘導性血管反応での変化を実証している。 これらの試験で使用された方法は、全身性血行動態および局所血液循環を試験するために確立された放射性ミクロスフェア技術である(12〜15)。
【0092】
ET-1は、強力な血管収縮剤である(61)。 ET-1は、約21個のアミノ酸を有するペプチドファミリーに属する。 ET受容体には、少なくとも三つの形態が存在しており、ETA、ETBおよびETCとして知られている。 ETAは、ET-1に対して高い親和性を示すが、ETBは、ET-1およびET-3の双方に対して同等の親和性を示す(2、17、42)。 ET-1は、複雑な心血管作用を示す。 人工換気された麻酔状態のラットにそれを投与すると、血圧が即座に低下し、そして、持続的な血圧上昇がその後に観察される(22)。 ETA受容体は、血管収縮剤反応を担っており、そして、ETB受容体は、ET-1の血管拡張作用を担っている。 ET-1の投与は、ETBの血管拡張作用に起因すると考えられる、皮膚腫瘍への血流量の増加を招く(6)。 乳房腫瘍では、ET-1およびETBが増加するので、ラットの乳房腫瘍での血流量においても、同様の結果が予想される。
【0093】
50ng/kg/分のET-1を注入すると、血圧の二相反応、すなわち、即時的だが短時間持続する血圧減少と、それに続く持続的な血圧上昇を引き起こした。 これらの結果は、以前の試験結果と一致している(20、30、38、56)。 ET-1は、正常ラットおよび腫瘍を有するラットのいずれにおいても、顕著な血圧上昇と共に、SVおよびCOの顕著な減少を招いた。 TPRは、正常ラットおよび腫瘍を有するラットのいずれにおいても有意に上昇しており、前出の血圧上昇の裏付けとなるかもしれない。
【0094】
腫瘍を有するラットの乳房腫瘍でのベースライン時の血流量は、正常動物での血流量よりも多かった。 このことは、これまでの試験において観察されていて理論化されてはいるが、腫瘍での新規血管の構築に関与していることから、信頼はできない(55)。 ET-1を投与した後の乳房腫瘍への血流量は、正常ラットの乳房組織で観察された血流量と比較して、有意に増加した。 乳房腫瘍への血液潅流の増加を示したレーザードップラー流速計は、ET-1を投与した後の乳房腫瘍組織で観察された血流量の増加を明確にした。 血液潅流の増加が理論化されているが、RBCの速度またはCMBCの速度のいずれか、またはその双方における増加に基づくものであるので、信頼はできない。 ET-1注入の終了時にはRBC速度の増加が認められ、また、CMBCの増加は、ET-1を注入して30分後に観察された。
【0095】
さらに、ET-1に対して認められる血流量の増加が理論化されているが、このものは、ETB媒介性血管拡張に基づくものであるので、信頼はできない。 これまでの試験は、ET-1およびETB受容体発現が、乳癌組織で強化されることを示している(1、60)。 本願発明によって、腫瘍組織への血流量のET-1誘導的増加が、BQ788の投与によってブロックされることが明らかになった。 BQ788(すなわち、N-シス-2,6-ジメチル-ピペリジノカルボニル-L-γ-メチルロイシル-D-1-メトキシ-カルボニルトリプトファニル-D-Nle)は、特異的ETB受容体アンタゴニストである。 BQ788は、1.2nMのIC50値で、ETB受容体への結合を阻害する。
【0096】
乳房腫瘍でのET-1誘導性血管拡張においてETB受容体が果たす役割を決定するために、BQ788を使用した。 その結果、ET-1誘導性血管拡張反応が、ETB受容体で媒介されていることが示唆された。 ETB受容体の発現は、平滑筋細胞内よりも、内皮細胞内の方が有意に高く、そして、その発現は、様々な増殖因子およびサイトカインによって調節される(49)。 正常乳房組織は、ETA受容体よりも高レベルのETB受容体を有しており(1)、乳癌期間中に、ETB受容体が過剰発現することが理論化されているものの、腫瘍組織への血流量が維持されているので、信頼はできない。
【0097】
腫瘍の増殖が進むにつれて、栄養素を供給するための新規の血管が構成される。 これには、腫瘍内への先在血管の取り込みや、新規血管の構成が関与する可能性がある(7)。
【0098】
これまでに実施された試験は、新規の血管が、正常血管とは異なる物理的特性を有することを示している。 正常血管とは異なり、これらの血管は、平滑筋層または神経支配を具備しておらず、単層の内皮細胞だけから構成されている。
【0099】
以上のことから、本願実施例は、ET-1の注入によって、血流量の増加および乳房腫瘍組織での血管抵抗性の低下を招き、そして、血流量の増加は、例えば、BQ788のようなETB受容体アンタゴニストによってブロックできることを明白に実証している。
【0100】
ラット乳房腫瘍で認められた血流量の増加の原因は、ETB受容体の増加にある。 そのため、これら受容体をブロックすることで、腫瘍への血流量を減少させることができる。
【0101】
これら所見の臨床的意義は、ETB受容体アンタゴニストが、乳房腫瘍組織への血流量の減少に対してある程度の役割を果たし、それにより、乳房腫瘍および一般的な固形腫瘍の増殖を防止および/または減少させることにある。
【0102】
したがって、本願実施例での試験結果は、BQ788のようなETBアンタゴニストが、固形腫瘍を予防または治療できることを明白に実証している。 ETBアンタゴニストは、ETBアンタゴニストの効果を増強するために、任意に、血管形成阻害剤と併用することができる。
【0103】
ETBアンタゴニスト、任意の血管形成阻害剤、ETBアゴニストおよび化学療法薬(以下、「有効成分」と総称する)は、経口投与または非経口投与用の適切な賦形剤を用いて処方できる。 このような賦形剤は、当該技術分野において周知である。 有効成分は、一般的には、組成物内に約0.1重量%〜約75重量%で存在する。
【0104】
有効成分を含有する医薬組成物は、ヒトまたは他の哺乳動物への投与に適している。 通常、医薬組成物は無菌であり、投与することで、有害反応を引き起こす毒性、発癌性または変異原性の化合物を含有していない。 医薬組成物は、固形腫瘍の増殖前、増殖中または増殖後に投与できる。
【0105】
本願発明の方法は、上記した有効成分、または生理学的に許容可能なそれらの塩、誘導体、プロドラッグまたは溶媒和物を用いることができる。 有効成分は、純品化合物として、または一方または双方の要素を含有する医薬組成物として投与できる。
【0106】
有効成分は、例えば、経口、経頬、吸入、舌下、直腸、経膣、腰椎穿刺を起点とする槽内、尿道、鼻孔、経皮または非経口(静脈内、筋肉内、皮下および冠動脈内を含む)などの適切な経路によって投与できる。 非経口投与は、針およびシリンジを使用して、またはPOWDERJECT(登録商標)のような高圧技術を使用して実施することができる。
【0107】
医薬組成物には、所定の目的を果たす上で有効な量の有効成分が投与される医薬組成物が含まれる。 具体的には、「治療有効量」とは、固形腫瘍の発達を予防、排除、進行遅延または減量させる上で有効な量を意味する。 治療有効量の決定は、本願明細書の詳細な説明を考慮すれば、当業者にとって自明の事項である。
【0108】
「治療有効用量」とは、結果的に所望の作用を呈する有効成分の量を意味する。 有効成分の毒性および治療有効性は、細胞培養または実験動物での、例えば、LD50(集団の50%に対する致死的用量)およびED50(集団の50%での治療上有効な用量)を決定するための標準的な薬学的手法によって決定できる。 毒性作用と治療作用との用量比は、LD50とED50との比率として示される治療指数である。 治療指数は、大きい値の方が好ましい。 入手したデータは、ヒトでの用量範囲を決定するために使用することができる。 有効成分の用量は、毒性をほとんどまたは全く呈さず、かつED50を含む循環濃度の範囲内に調整される。 用量は、使用される剤形、および利用される投与経路によって、用量範囲内で変動させることができる。
【0109】
正確な処方、投与経路および用量は、患者の状態に照らして、個々の医師によって決定される。 投与の量および間隔は、十分な活性成分レベルを提供して、治療効果または予防効果を維持するために、個々に調整することができる。
【0110】
投与される医薬組成物の量は、治療対象、対象の体重、苦痛の重度、投与方法および処方する医師の判定に依存している。
【0111】
具体的には、乳癌の治癒的または予防的治療のためにヒトに投与する場合の有効成分の経口用量は、一般的には、平均的成人患者(70kg)に対して、通常、1日2〜3回の投与で、1日約10〜約200mgである。 よって、一般的な成人患者向けの錠剤またはカプセル剤は、1日当たり1回または数回、単一用量または多重用量を投与するために、適切な薬学的に許容される賦形剤または担体内に約0.1〜約50mgの有効成分を含有する。 静脈内、経頬または舌下投与のための用量は、一般的には、必要に応じて、1回の投与につき約0.1〜約10mg/kgである。 実際は、個々の患者に関する最も適切な実際の投与計画を医師が決定するが、用量は、年齢、体重および患者個々の反応によって変化する。 上記した用量値は、平均的症例での代表値であるが、症例に応じて用量を高めまたは低めに設定することも可能であり、このような用量値も本願発明の範囲に含まれる。
【0112】
有効成分は、単独で、または所定の投与経路および標準的製薬学的手順に関して選択された医薬担体との混合物として投与することができる。 よって、本願発明に従って使用するための医薬組成物は、薬学的に使用可能な製剤への有効成分の加工処理を容易ならしめる1つ以上の生理学的に許容される賦形剤および補助剤を含む担体を使用して、従来の方法で処方することができる。
【0113】
これらの医薬組成物は、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠形成、乳化、カプセル封入、エントラッピング、または凍結乾燥などの従来型の方法で製造できる。 適正な製剤は、選択された投与経路によって異なる。 治療有効量の有効成分が経口投与される場合、この組成物は、通常は、錠剤、カプセル剤、散剤、液剤またはエリキシル剤に加工される。 錠剤で投与される場合、この組成物に対して、ゼラチンまたはアジュバントなどの固形担体をさらに加えることができる。 錠剤、カプセル剤および散剤は、約5%〜約95%、好ましくは約25%〜約90%の有効成分を含有している。 液状で投与される場合、水、鉱油または動物または植物由来の油脂などの液状担体を添加することができる。 液状の組成物には、生理食塩水、デキストロースまたはその他の糖液、またはグリコール類をさらに加えることができる。 液状で投与される場合、この組成物は、約0.5重量%〜約90重量%、好ましくは約1%〜約50%の有効成分を含有している。
【0114】
治療有効量の有効成分が、静脈内、皮内または皮下注射によって投与される場合、この組成物は、発熱性物質を含まない、非経口的に許容される水溶液とする。 pH、等張性、安定性などを十分に考慮して調製された非経口的に許容される溶液は、当該技術分野で周知のものである。 静脈内、皮内または皮下注射のための好ましい組成物は、通常、等張性賦形剤をさらに含有する。
【0115】
適切な有効成分は、当該技術分野で周知の薬学的に許容される担体と、容易に併用することができる。 そのような担体は、処置を必要とする患者が有効成分を経口摂取するために用いる錠剤、ピル剤、糖衣剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤などの調製を可能にする。 経口用途の医薬製剤は、有効成分に固形賦形剤を添加して得られた混合物を、必要に応じて粉砕し、そして、錠剤または糖衣剤コアを所望する場合には適切な補助剤を添加した後に、この混合物を造粒することによって取得できる。 適切な賦形剤として、例えば、充填剤およびセルロース製剤などがある。 所望であれば、崩壊剤を添加することができる。
【0116】
有効成分は、例えば、ボーラス注射または持続性輸注などの注射による非経口投与用に処方することもできる。 注射用調製物は、添加された保存料と共に、例えば、アンプルまたは多用量容器内で単位服用量で調製することができる。 組成物は、懸濁剤、液剤または油性または水性賦形剤中の乳剤のような剤型とすることができ、そして、懸濁剤、安定剤および/または分散剤のような処方用剤を含めることもできる。
【0117】
非経口投与用医薬組成物は、水溶性有効成分の水溶液を含む。 さらに、有効成分の懸濁剤は、適切な注射用油性懸濁剤として調製できる。 適切な親油性溶媒または賦形剤は、脂肪油または合成脂肪酸エステルを含む。 注射用水性懸濁液は、懸濁剤の粘度を増加させる物質を含むことができる。 懸濁剤は、適切な安定剤、または化合物の溶解度を増加させ、かつ高濃縮液の調製を許容する薬剤も任意に含むことができる。 あるいは、本願発明の組成物は、その使用前に、適切な賦形剤、例えば、発熱性物質を含まない滅菌した水と組み合わせて用いる散剤とすることができる。
【0118】
有効成分は、例えば、従来型の坐剤基剤を含有する坐剤または停留浣腸剤などの直腸用製剤としても調製できる。 上記した調製物に加えて、有効成分を、デポ製剤として調製することもできる。 このような持続的作用性調製物は、移植(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射によって投与できる。 そして、有効成分は、例えば、適切なポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容可能な油中エマルジョンとして)またはイオン交換樹脂を用いて調製することができ、また、難溶性の誘導体、例えば、難溶性の塩として調製することもできる。
【0119】
特に、デンプンまたは乳糖などの賦形剤を含む錠剤の剤型で、またはカプセル剤または卵形剤またはそれらと賦形剤との混合物と共に、または着香剤または着色剤を含むエリキシル剤または懸濁剤の剤型で、有効成分を、経口、経頬または舌下で投与することができる。 このような液状製剤は、懸濁化剤などの薬学的に許容される添加物を用いて調製することができる。 有効成分は、例えば、静脈内、筋肉内、皮下または冠動脈内のような非経口経路に注射することもできる。 有効成分の非経口投与において、例えば、塩、マンニトールまたはグルコースなどの単糖類などの物質を含み、血液に対して等張性を示す無菌水溶液が最も好適である。
【0120】
獣医学分野での使用にあっては、有効成分は、通常の獣医学的手順に従って、許容可能な適切な調製物として投与される。 獣医師であれば、特定の動物において最も適切な投与計画や投与経路を容易に決定できる。
【0121】
上記したように、固形腫瘍を治療および予防する上で、ETBアンタゴニストを、単独で、または血管形成阻害剤と共に使用することが有用である、との知見が得られたのである。
【0122】
ETBアンタゴニストのような血管形成阻害剤は、その所定の機能を引き出すために、その有効量が投与される。 血管形成阻害剤は、通常は、血管形成阻害剤を含む組成物を使用して、適切な手段によって投与することができる。
【0123】
血管形成阻害剤は、ETBアンタゴニストと同時に、またはETBアンタゴニストの投与前または投与後に投与できる。 ETBアンタゴニストおよび任意の血管形成阻害剤は、固形腫瘍の放射線療法および任意の放射線増感剤と併せて投与することができる。
【0124】
他の実施態様によれば、固形腫瘍は、治療有効量のETBアゴニストと化学療法薬を投与することによって治療することができる。 ETBアゴニストおよび化学療法薬は、ETBアンタゴニストおよび血管形成阻害剤に関する前出の記述の通りに投与することができる。
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上記した本願発明の修正および変更は、本願発明の趣旨および範囲から逸脱せずに行うことができるので、添付の特許請求の範囲の記載の限定事項のみが、本願発明に付加されるべきである。
【0125】
【化1】

【0126】
【化2】

【0127】
【化3】

【0128】
【化4】

【0129】
【化5】

【0130】
【化6】

【0131】
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【0132】
【化8】

【0133】
【化9】

【0134】
【化10】

【0135】
【化11】

【0136】
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【0137】
【化13】

【0138】
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【0139】
【化15】

【0140】
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【0143】
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【0145】
【化21】

【0146】
【化22】

【0147】
【化23】

【0148】
【化24】

【0149】
【化25】

【0150】
【化26】

【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】生理食塩水およびMNUで処置され、かつ腫瘍を有するラットでの全身性血行動態に関するET-1の効果を示す棒グラフである。
【図2】生理食塩水およびMNUで処置されたラットの乳房組織における血流量および局所血管抵抗に関するET-1の効果を示す棒グラフである。
【図3】生理食塩水で処置されたラットの乳房組織およびMNUで処置されたラットの腫瘍組織における血液潅流、CMBCおよび血球速度に関するET-1の効果を示すグラフである。
【図4】生理食塩水で処置されたラットの乳房組織およびMNUで処置されたラットの腫瘍組織における血液潅流、CMBCおよび血球速度におけるET-1が誘発した変化に関するBQ788の効果を示したグラフである。
【図5】腫瘍潅流においてパクリタキセルが誘発した変動に関するIRL1620の効果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量のエンドセリンBアゴニスト、および、治療有効量の化学療法薬を、治療を必要とする哺乳動物に投与する工程を含む、固形腫瘍を治療する方法。
【請求項2】
前記固形腫瘍が、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝腫瘍、および、乳腺葉状腫瘍からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形腫瘍が、乳房腫瘍である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記エンドセリンアゴニストが、ET-1、ET-2、ET-3、BQ3020、IRL1620、サラフォトキシン56c、[Ala1、3、11、15]ET-1、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エンドセリンBアゴニストが、IRL1620を含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、α-、β-またはγ-インターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、および、これらの混合物からなるグループから選択される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エンドセリンBアゴニスト、および、前記化学療法薬が、同時に投与される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エンドセリンBアゴニスト、および、前記化学療法薬が、単一組成物で投与される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エンドセリンBアゴニスト、および、前記化学療法薬が、別個の組成物で投与される請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記エンドセリンBアゴニスト、および、前記化学療法薬が、連続して投与される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記化学療法薬が、前記エンドセリンBアゴニストに先駆けて投与される請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記エンドセリンBアゴニストが、前記化学療法薬に先駆けて投与される請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記哺乳動物が、ヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項14】
化学療法薬、エンドセリンBアゴニスト、および、任意の賦形剤を含む組成物。
【請求項15】
(a) エンドセリンBアゴニストを含む包装済組成物、
(b) 哺乳動物の固形腫瘍を治療するために(a)を投与する際の指示事項を含む添付文書、および
(c) (a)および(b)を収容するための容器、を含む製品。
【請求項16】
(a) エンドセリンBアゴニストを含む包装済組成物、
(b) 化学療法薬を含む包装済組成物、
(c) 哺乳動物の固形腫瘍を治療するために(a)および(b)を同時または連続的に投与する際の指示事項を含む添付文書、および
(d) (a)、(b)および(c)を収容するための容器、を含む製品。
【請求項17】
(a) エンドセリンBアゴニストおよび化学療法薬を含む包装済組成物、
(b) 哺乳動物の固形腫瘍を治療するために(a)を投与する際の指示事項を含む添付文書、および
(c) (a)および(b)を収容するための容器、を含む製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95547(P2010−95547A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20534(P2010−20534)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【分割の表示】特願2004−547110(P2004−547110)の分割
【原出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(503063593)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (12)
【Fターム(参考)】