説明

固液抽出法

【課題】微量な固体サンプルからの効率的な固液抽出を行なう。
【解決手段】固体サンプル17を収容するための抽出スペース7と、抽出スペース17に溶液を送入及び送出するためのマイクロ流路9a,9bを有し、抽出スペース7とマイクロ流路9a,9bが連結する部分に固体を通さない膜15a,15bを有する構造の部材1を使用する。抽出スペース7にマイクロ流路9a,9bを通して抽出溶液を満たし、抽出スペース7内の抽出溶液を往復流で流すことで固液抽出する。抽出スペース7内の抽出溶液を往復させることで攪拌以上の抽出効率を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固液抽出法に関し、特に微量な固体サンプルを用いる固液抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分析化学の分野ではμTAS(Micro Total Analysis Systems)の研究が盛んになりつつあり、マイクロ空間を用いて分析の高速を図ることが期待されている。微小空間中の反応では、従来の化学操作を用いた反応よりも反応効率を向上できる可能性も示されている。
【0003】
μTASの分野において固液抽出を行なう場合には、ボルテックスミキサーなどにより攪拌を行ない、濾過された溶液をマイクロチップに送り込む手法が取られている。近年、微量の流体を扱ったマイクロ化学分析システムに対応した固液抽出ユニットが報告された(例えば特許文献1を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−160377号公報
【特許文献2】特開2004−156926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な固液抽出では、振とう法や攪拌法が用いられるが、密閉された微少空間では、チューブの表面張力等により溶液及び固体化合物をうまく振とうさせることができないという問題があった。また、微小な攪拌子を用いて攪拌させる方法は、操作が煩雑になりやすい。
微少量の溶液を攪拌する方法としてボルテックスミキサーを用いた方法があるが、密閉されたマイクロ抽出スペースではほとんど攪拌が起こらないという問題があった。
また、特許文献1に記載の固液抽出ユニットでは抽出効率が高いとは言えない。
【0006】
そこで本発明は、微量な固体サンプルからの効率的な固液抽出が可能な固液抽出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる固液抽出法は、固体サンプルを収容するための抽出スペースと、上記抽出スペースに溶液を送入及び送出するためのマイクロ流路を有し、上記抽出スペースと上記マイクロ流路が連結する部分に固体を通さない構造の部材を使用し、上記抽出スペースに上記マイクロ流路を通して抽出溶液を満たし、上記抽出スペース内の上記抽出溶液を往復流で流すことで固液抽出する。
抽出スペースはマイクロ流路内に固体を通さない構造の部材を有することで作製する。固体を通さない構造の部材としては例えば1μm以上の固体を通さないものを挙げることができる。固体を通さない構造の部材の具体例として、例えば膜やピラー構造、スリット構造などを挙げることができる。この抽出スペース内の抽出溶液を往復させることで攪拌以上の抽出効率を実現する。本発明の固液抽出法はマイクロ流路内に固体を通さない構造の部材を有した抽出スペースに固体化合物を入れ溶液を往復流させるだけで容易に抽出させることが可能な方法であり、マイクロ空間が狭ければ狭いほど有効な方法である。また、バルクスケールに比べマイクロ空間では溶液の粘性効果が効いてくるので、溶液と固体化合物の摩擦係数が高くなり抽出効率が高くなることが予測される。
【0008】
本発明の固液抽出法において、送液する上記抽出溶液の溶液量を設定することで所定量での抽出を行なうようにしてもよい。これにより、連続流で溶出させる場合と比較して、一定容量の溶液を往復させるので抽出された溶液が均一な濃度になり、所定量の抽出溶液での固液抽出を行なうことができる。
【0009】
さらに、上記抽出スペースを加熱しながら、又は上記抽出スペースに超音波もしくはマイクロ波をあてながら抽出を行なうようにしてもよい。これにより、抽出効率をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固液抽出法では、固体サンプルを収容するための抽出スペースと、上記抽出スペースに溶液を送入及び送出するためのマイクロ流路を有し、上記抽出スペースと上記マイクロ流路が連結する部分に固体を通さない構造の部材を使用し、上記抽出スペースに上記マイクロ流路を通して抽出溶液を満たし、上記抽出スペース内の上記抽出溶液を往復流で流すことで固液抽出するようにしたので、微量な固体サンプルからの効率的な固液抽出が可能になる。
【0011】
また、送液する上記抽出溶液の溶液量を設定することで所定量での抽出を行なうようにすれば、連続流で溶出させる場合と比較して、一定容量の抽出溶液を往復させるので抽出された溶液が均一な濃度になり、所定量の抽出溶液での固液抽出を行なうことができる。
【0012】
さらに、上記抽出スペースを加熱しながら、又は上記抽出スペースに超音波もしくはマイクロ波をあてながら抽出を行なうようにすれば、抽出効率をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は一実施例を説明するための固液抽出装置の構成を示す図である。図2はその装置で用いる固液抽出チップを示す断面図である。
まず、図1及び図2を参照して装置の構成について説明する。
【0014】
固液抽出装置は固液抽出チップ1と2つのシリンジポンプ3a,3bを備えている。
図2に示すように、固液抽出チップ1は例えばアクリル板からなる3枚の基板5a,5b,5cが重ね合わされて形成されている。
平板状の基板5a上に、貫通孔をもつ基板5bが貼り付けられている。基板5bの貫通孔により抽出スペース7が形成されている。
【0015】
基板5bの基板5aとは反対側の面に基板5cが貼り付けられている。基板5cの基板5bに対向する面に2本の溝が形成されており、基板5b,5cが貼り合わされてマイクロ流路9a,9bが形成されている。マイクロ流路9a,9bの一端は抽出スペース7に接続されている。マイクロ流路9aの他端は基板3cに形成された貫通孔11aに接続されている。マイクロ流路9bの他端は基板3cに形成された貫通孔11bに接続されている。貫通孔11aにシリンジポンプ3aが接続され、貫通孔11bにシリンジポンプ3bが接続されている。
【0016】
基板3cには抽出スペース7に対応する位置に貫通孔からなるサンプル導入口13も形成されている。マイクロ流路9a,9bに固体を通さない構造の部材としての膜15a,15bが配置されている。膜15a,15bとして1μm以上の固体を通さないもの、例えばメンブレンフィルター(MILLIPORE社製)を用いた。
抽出スペース7にはサンプル導入口13を介して固体化合物サンプル17が導入される。固体化合物サンプル17の導入後、サンプル導入口13に栓19が配置されて抽出スペース7が封止される。
【0017】
固体化合物サンプル17に含まれる目的成分の抽出時には、シリンジポンプ3a,3bを用いて抽出スペース7及びマイクロ流路9a,9bに抽出溶液を充填する。そして、シリンジポンプ3a,3bの動作を制御して、抽出スペース7内及びマイクロ流路9a,9b内で抽出溶液を往復流にすることで抽出操作を行なう。
【0018】
例えば、シリンジポンプ3aにより抽出溶液をマイクロ流路9a及び抽出スペース7に充填する。さらに、その抽出溶液をシリンジポンプ3bに吸引してマイクロ流路9bに充填する。その吸引したシリンジポンプ3bの抽出溶液を押し出して抽出スペース7側へ送液し、かつシリンジポンプ3aで吸引動作を行なう。シリンジポンプ3a,3bの吸引動作及び送液動作を繰り返すことで往復流を作り、固体化合物サンプル17から目的成分の抽出を行なう。
【0019】
図3は本発明の固液抽出法を用いた六価クロム模擬土壌試料の固液抽出結果を振とう方式(従来法)と比較したグラフである。
図3のグラフに示すように、公定法で決められている振とう方式による抽出操作での6時間の抽出時間(従来法)に比べ、本発明の固液抽出法では短時間(約15分)での抽出が行なえる。この結果は効率的な抽出が行なえていることを示す結果である。
【0020】
以上のように、本発明の固液抽出法及び上記抽出装置の構成によって、目的とする微量な固体サンプルからの効率的な固液抽出が可能にできる。なお、ここに挙げた例は一例であり、同様の機能を有する構造は他にも考えられる。
【0021】
例えば、図4(A)に示すように抽出スペース7を加温するための例えばヒータからなる加熱器21を固液抽出チップ1に配置し、加熱器21により抽出スペース7を所定温度に加温しながら固体化合物サンプル17に含まれる目的成分の抽出を行なってもよい。これにより、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0022】
また、図4(B)に示すように抽出スペース7に超音波をあてるための超音波発生器23を固液抽出チップ1に配置し、超音波発生器23により抽出スペース7に超音波をあてながら固体化合物サンプル17に含まれる目的成分の抽出を行なってもよい。これにより、抽出効率をさらに向上させることができる。
【0023】
また、図4(C)に示すように抽出スペース7にマイクロ波をあてるためのマイクロ波発生器25を固液抽出チップ1に配置し、マイクロ波発生器25により抽出スペース7にマイクロ波をあてながら固体化合物サンプル17に含まれる目的成分の抽出を行なってもよい。これにより、抽出効率をさらに向上させることができる。
また、抽出スペース7の加温と超音波又はマイクロ波の照射を組み合わせてもよい。
【0024】
また、上記実施例では固体を通さない構造の部材として膜15a,15bを用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。
図5から図8は固液抽出チップの他の例をそれぞれ示す図であり、各図において(A)は断面図、(B)は固体を通さない構造の部材を説明するための概略構成図である。
【0025】
図5に示した固液抽出チップ27では、図2に示した固液抽出チップ1と比較して膜15a,15bに代えて複数のピラー29a,29bにより形成されたピラー構造を備えている。ピラー29a,29bは例えば基板5cに支持されている。ピラー29a,29bは例えば直径が500nmの円柱状であり、ピッチが500nmで配置されている。ピラー29a,29bの高さはマイクロ流路9a,9bを形成するための基板5cの溝の深さと同じである。ピラー構造の形成方法は例えば特許文献2に記載されている。
【0026】
ピラー29a,29bは円柱状のものに限定されるものではなく、例えば四角柱状であってもよい。
図6に示した固液抽出チップ31では、ピラー33a,33bは例えば上面及び底面の一辺が500nmの正四角柱状であり、ピッチが500nmで配置されている。ピラー33a,33bの高さはマイクロ流路9a,9bを形成するための基板5cの溝の深さと同じである。
図5及び図6ではピラー29a,29b,33a,33bは一列に配置されているが、特許文献2に記載されているようにピラーは複数列の配列をもつようにしてもよい。
【0027】
また、図7に示した固液抽出チップ35では、図2に示した固液抽出チップ1と比較して膜15a,15bに代えて突起部37a,37bにより形成されたスリット構造を備えている。突起部37a,37bは例えば基板5cに支持されている。突起部37a,37bはマイクロ流路9a,9bを形成するための基板5cの溝の内部にその溝と同じ幅をもって形成されている。突起部37a,37bの高さは例えば基板5cの溝深さよりも500nmだけ小さく形成されており、突起部37a,37bの先端面は基板5cとは500nmの間隔をもって配置されてスリット構造を形成する。マイクロ流路9a,9bの長手方向での突起部37a,37bの幅は例えば20μmである。
【0028】
また、図8に示した固液抽出チップ39では、図2に示した固液抽出チップ1と比較して膜15a,15bに代えて突起部41a,41b,43a,43bにより形成されたスリット構造を備えている。マイクロ流路9a,9bは基板5bに形成された溝と基板5cに形成された溝により形成されている。
【0029】
突起部41a,41bは基板5bに支持され、基板5bの溝の内部にその溝と同じ幅をもって形成されている。突起部41a,41bの高さは例えば基板5bの溝深さよりも
250nmだけ小さく形成されている。
突起部43a,43bは基板5cに支持され、基板5cの溝の内部でその溝と同じ幅をもって突起部41a,41bに対向する位置に形成されている。突起部43a,43bの高さは例えば基板5cの溝深さよりも250nmだけ小さく形成されている。
【0030】
基板5b,5cが貼りあわされた状態で、突起部41a,41bの先端面と突起部43a,43bの先端面は500nmの間隔をもって配置され、スリット構造を形成する。マイクロ流路9a,9bの長手方向での突起部41a,41b,43a,43bの幅は例えば20μmである。
【0031】
図5から図8に示した固液抽出チップを用いても、本発明の固液抽出方法を実現することができる。
また、マイクロ流路に形成される固体を通さない構造の部材は、膜、ピラー構造及びスリット構造に限定されるものではなく、他の構造のものであってもよい。
【0032】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、実施例で用いた部材の形状、材料、配置、個数などは一例であり、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えば、土壌分析、固体薬品中の成分分析、植物及び動物中の細胞に含まれる成分分析などのチップ分析の前処理ユニットとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】一実施例を説明するための固液抽出装置の構成を示す図である。
【図2】図1の装置で用いる固液抽出チップを示す断面図である。
【図3】本発明の固液抽出法を用いた六価クロム模擬土壌試料の固液抽出結果を振とう方式(従来法)と比較したグラフである。
【図4】(A)は固液抽出チップに加熱器を配置した状態、(B)は固液抽出チップに超音波発生器を配置した状態、(C)は固液抽出チップにマイクロ波発生器を配置した状態を示す図である。
【図5】固液抽出チップの他の例を示す図であり、(A)は断面図、(B)は固体を通さない構造の部材を説明するための概略構成図である。
【図6】固液抽出チップのさらに他の例を示す図であり、(A)は断面図、(B)は固体を通さない構造の部材を説明するための概略構成図である。
【図7】固液抽出チップのさらに他の例を示す図であり、(A)は断面図、(B)は固体を通さない構造の部材を説明するための概略構成図である。
【図8】固液抽出チップのさらに他の例を示す図であり、(A)は断面図、(B)は固体を通さない構造の部材を説明するための概略構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 固液抽出チップ
3a,3b シリンジポンプ
5a,5b,5c 固液抽出チップを構成する基板
7 抽出スペース
9a,9b マイクロ流路
11a,11b 貫通孔
13 サンプル導入口
15a,15b 膜
17 固体化合物サンプル
19 栓
21 加熱器
23 超音波発生器
25 マイクロ波発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体サンプルを収容するための抽出スペースと、前記抽出スペースに溶液を送入及び送出するためのマイクロ流路を有し、前記抽出スペースと前記マイクロ流路が連結する部分に固体を通さない構造の部材を使用し、
前記抽出スペースに前記マイクロ流路を通して抽出溶液を満たし、前記抽出スペース内の前記抽出溶液を往復流で流すことで固液抽出することを特徴する固液抽出法。
【請求項2】
送液する前記抽出溶液の溶液量を設定することで所定量での抽出を行なう請求項1に記載の固液抽出法。
【請求項3】
前記抽出スペースを加熱しながら、又は前記抽出スペースに超音波もしくはマイクロ波をあてながら抽出を行なう請求項1又は2に記載の固液抽出法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−114127(P2008−114127A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298200(P2006−298200)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム マイクロ分析・生産システムプロジェクト」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】