説明

固溶系Y型六方晶フェライト材料及び該材料を用いた成型体

【課題】従来のY型六方晶フェライト材料及び該材料を用いた成型体が有する課題を解決することにある。
【解決手段】Y型六方晶フェライト材料において、該固溶系Y型六方晶フェライト材料を構成する固溶系Y型六方晶フェライトBa22Fe222のMの部分を、2価金属(Feを除く)とするとともに、Zn、Ni、Co、Mn、Mgの郡から選ばれる、少なくとも、2種類以上の2価金属を含む粉末とし、また、該粉末を、平均粒径D50が、6μm以下で、且つ、アスペクト比が、5以上の略六角板状の形状としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GHz以上の高周波数帯域で透磁率及び誘電率を調整できる電波吸収体、磁性アンテナに適した固溶系Y型六方晶フェライト材料及び該固溶系Y型六方晶フェライト材料を用いた成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ETC、次世代携帯電話、無線LAN等さまざまな情報通信技術の高度化に伴い、使用周波数もMHz帯域からGHz帯域に拡大している。このように高周波帯域での電波利用が多様化する中で、デジタル機器同士の干渉による故障や誤動作、通信妨害などが懸念され、その対策が重要となっている。
【0003】
金属等の導電性材料を用いた電磁波シールドは、反射ノイズによる2次的な影響が問題となる。このため、電磁波を吸収する電波吸収体の要求が増大している。電波吸収体には、フェライト粉を焼結して作製するフェライトタイル、フェライト粉やカルボニル鉄粉等の軟磁性粉を樹脂に混ぜたシート状のものが知られており、電波暗室、TVゴースト防止用、レーダー偽像防止用、その他不要輻射防止用などに広く普及している。
【0004】
しかし、情報通信の高速化と大容量化に伴い、パソコン、携帯電話、DVDなどの電子回路の交流周波数や情報通信に用いる電磁波周波数は高くなりつつあり、従来から用いられてきたフェライトや軟磁性粉では効果的な電磁波吸収が困難な場合も生じてきた。
【0005】
このように、従来ではあまり使用されることのなかった高い周波数領域の電磁波を利用するケースが増加しつつあるが、これらの電磁波を送受信する電子機器及びその周辺機器の誤動作防止、反射波による通信障害等を、簡便かつ有効に防止できる材料が得られていなかった。
【0006】
Y型六方晶フェライトはフェロックス・プレーナ型の結晶構造をしており、c軸に対して垂直な面内に磁化容易面を持っている。従って、スピネル型フェライトの周波数限界(スネークの限界)を超えた周波数帯まで所定の透磁率を維持することができる。そのため、優れた電波吸収性能を得るために必要な複素透磁率の虚部μ’’も高周波領域までのび、かつ高い値を持っており、GHz以上での電波吸収材料として有効である。
【0007】
また、携帯電話や無線LAN等の通信機器のアンテナも、数百MHzから数GHzの周波数帯域で高利得、且つ、小型、低背であることが要求される。さらに、地上波デジタル放送では、470MHzから770MHzという広い周波数帯域に対応する必要がある。
【0008】
従来、特許文献1に開示されているように、小型のアンテナとして、誘電体セラミックスを用いたチップアンテナが知られている。特許文献1ではミアンダ電極を設けることで波長短縮を図っている。しかし、誘電体アンテナでは、小型化、高利得の点で限界があり、磁性体を用いたアンテナの研究が盛んになってきている。アンテナに磁性体を用いる場合、スピネル型フェライトにはスネークの限界があり、高周波領域で用いるには限界がある。これに対して、六方晶フェライトはc軸に対して垂直な面内に磁化容易面を持つため、スピネル型フェライトの周波数限界(スネークの限界)を超えた周波数帯まで特定の透磁率を維持することから、特許文献2に開示されているように、アンテナ用の磁性体の一つとして提案されている。
【0009】
また、固溶系Y型六方晶フェライト材料を用いた成型体は、特許文献3に開示されており、更に、GHz以上の高周波領域に共鳴周波数を持つ六方晶フェライトと二酸化ケイ素等との複合体からなる焼結体が、特許文献4に開示されている。
【0010】
更に、BaCoFe1222(いわゆるCoY)を使用することで、誘電体アンテナよりも小型化を図ることができる固溶系Y型六方晶フェライトを使用した磁性体アンテナが、特許文献5に開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開平10−145123号公報
【特許文献2】特開2003−243218号公報
【特許文献3】特開2004−262683号公報
【特許文献4】特開2008−066364号公報
【特許文献5】特開2008−5124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した特許文献1に開示されているように、小型のアンテナとして、誘電体セラミックスを用いたチップアンテナが知られている。周波数を一定とすれば、より誘電率の高い誘電体を用いることにより、チップアンテナの小型化を図ることができる。特許文献1ではミアンダ電極を設けることで波長短縮を図っている。しかし、誘電体アンテナでは、小型化、高利得の点で限界がり、磁性体を用いたアンテナの研究が盛んになってきている。アンテナに磁性体を用いる場合、スピネル型フェライトにはスネークの限界があり、高周波数領域で用いるには限界がある。
【0013】
特許文献2に開示されている焼結体は、軟磁性樹脂組成物より重く、柔軟性に欠け、複雑形状での使用が難しい。また、2.2GHz以上の領域に共鳴周波数を有するものが例示されているが、6GHz程度の周波数が限界であり、これ以上の周波数では電波吸収体としては使用できず、周波数調整も難しい。
【0014】
特許文献3にも、Y型六方晶フェライト焼結体が開示されているが、これも焼結体であり、軟磁性樹脂組成物を使用した電波吸収体ではないため、柔軟性に欠け、複雑形状での使用が難しい。また、ある特定の周波数で複素透磁率の実部μ’を向上させることはできるが、周波数調整はできない。
【0015】
特許文献4には、粒径を制御することにより複素透磁率の虚部μ’’を向上させることが出来ると開示されている。粒径を制御することで、複素透磁率の虚部μ’’を向上させることはできるが、周波数調整はできない。また、ある程度の特性向上は見込めるが、粒径制御だけでは磁気特性の大幅な向上は望めず、優れた電波吸収性能を得るのに限界がある。
【0016】
特許文献5に開示されているY型六方晶フェライトを使用した磁性体アンテナについては、BaCoFe1222(いわゆるCoY)を使用することで誘電体アンテナよりも小型化を図ることができると記載されている。しかし、CoYは1GHzを超えて複素透磁率の実部μ’が維持されるが、もともとの複素透磁率の実部μ’が低く、より高性能のアンテナ特性を得ることは難しい。軟磁性組成物として使用するとなると、より高い複素透磁率の実部μ’が必要となる。
【0017】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、高周波帯域で優れた電波吸収性能及びアンテナ性能を得るために有効な固溶系Y型六方晶フェライト原料とこれを用いた樹脂組成物及び成型体、この成型体からなる電波吸収体、磁性アンテナを提供することを目的とする。より詳しくは、Y型六方晶フェライトBa22Fe1222の組成において、Mの部分に2価の金属を2種類以上使用し、固溶体を形成することで、従来の単一系Y型六方晶フェライトより高い電波吸収性能及びアンテナ性能が得られる固溶系Y型六方晶フェライト材料及び該材料を用いた成型体に提供しようというものである。
【0018】
本発明は、上述した従来の固溶系Y型六方晶フェライト材料および該材料を用いた成型体が有する課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上述した目的を達成するために、第1には、固溶系Y型六方晶フェライト材料において、該固溶系Y型六方晶フェライト材料を構成する固溶系Y型六方晶フェライトBaFe1222のMの部分を、2価金属(Feを除く)とするとともに、Zn、Ni、Co、Mn、Mgの郡から選ばれる、少なくとも、2種類以上の金属を含む粉末とし、また、該粉末を、平均粒径D50が6μm以下で、且つ、アスペクト比が、5以上の略六角板状の形状としたものである。
【0020】
また本発明は、固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222の組成において、a+b+c=1で0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、0.0≦c≦0.9としたものである。
【0021】
第3には、固溶系Y型六方晶フェライト10〜60体積%に、熱可塑性樹脂を40〜90体積%混合した組成物により、成型体を形成したものである。
【0022】
第4には、固溶系Y型六方晶フェライト10〜97体積%に熱硬化性樹脂を3〜90体積%混合した組成物により、成型体を形成したものである。
【0023】
第5には、成型体を、電波吸収体としたものである。
【0024】
第6には、成型体を、磁性アンテナとしたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、固溶系Y型六方晶フェライト材料において、該固溶系Y型六方晶フェライト材料を構成する固溶系Y型六方晶フェライトBaFe1222のMの部分を、2価金属(Feを除く)とするとともに、Zn、Ni、Co、Mn、Mgの郡から選ばれる、少なくとも、2種類以上の金属を含む粉末とし、また、該粉末を、平均粒径D50が6μm以下で、且つ、アスペクト比が、5以上の略六角板状の形状としたので、従来の単一系Y型六方晶フェライトより高い電波吸収性能及びアンテナ性能を得ることができるとともに、電波吸収性能のコントロールや磁性アンテナとしての使用が可能となる。
【0026】
固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222において、a+b+c=1.0、0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、及び、0.0≦c≦0.9としたので、電波吸収体としては従来の単一系Y型六方晶フェライトより整合厚が薄くでき、又、同等の厚さでは、電波吸収性能の優れた材料として使用できる。
【0027】
固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222において、a+b+c=1.0、0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、及び、0.0≦c≦0.9としたので、磁性アンテナとしては従来の単一系Y型六方晶フェライトより磁気特性を上げ、磁性アンテナとしての性能を上げるという効果を奏することができる。
【0028】
固溶系Y型六方晶フェライト材料の10〜60体積%に、熱可塑性樹脂を40〜90体積%混合した組成物により、成型体を形成したので、透磁率特性の電波吸収性能及びアンテナ性能を高めることができる。
【0029】
固溶系Y型六方晶フェライト材料の10〜97体積%に、熱硬化性樹脂を3〜90体積%混合した組成物により、成型体を形成したので、透磁率特性の電波吸収性能及びアンテナ性能を高めることができる。
【0030】
成型体を、電波吸収体として構成することにより、従来の焼結体により形成された電波吸収体に比べ、複雑形状での使用が可能となるとともに、6GHzを超える周波数においても、電波吸収体として使用することができ、且つ、周波数調整が容易になる。
【0031】
成型体を磁性アンテナとして構成することにより、従来の誘電体により形成された誘電体アンテナに比べ、小型化を図ることができ、また、複雑形状での使用が可能となるとともに、周波数調整が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、固溶系Y型六方晶フェライト粉末についてのX線回折パターンである。
【図2】図2は、実施例1〜6及び比較例4〜6で得られたY型六方晶フェライト粉末を使用した電波吸収体について反射減衰量の周波数特性を整合厚みでシミュレーションしたグラフである。
【図3】図3は、実施例4及び比較例5、6、11で得られたY型六方晶フェライト粉末を使用した磁性アンテナについて複素透磁率の実部μ’の周波数特性を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例4及び比較例5、6、11で得られたY型六方晶フェライト粉末を使用した磁性アンテナについて複素透磁率の虚部μ’’の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について具体的な最良の形態について説明する。
【0034】
ところで、大きな不要輻射の減衰を実現するためには、磁気損失が大きい、すなわち複素透磁率の虚部μ’’の大きい材料が必要となり、また、GHz以上で優れた電波吸収性能を有するためには、GHz以上で複素透磁率の虚部μ’’の大きい材料が必要となり、更には、高周波帯域で優れたアンテナ性能を有するためには、電波吸収性能とは逆に、複素透磁率の実部μ’が大きく、虚部μ’’が小さい材料が必要となる。
【0035】
本発明における固溶系Y型六方晶フェライトはフェロックス・プレーナ型の結晶構造をしており、また、c軸に対して垂直な面内に磁化容易面を持っている。従って、スピネル型フェライトの周波数限界(スネークの限界)を超えた周波数帯まで所定の透磁率を維持することができる。そのため、優れた電波吸収性能を得るために必要な複素透磁率の虚部μ’’も高周波領域までのび、且つ、高い値を持っており、GHz以上での電波吸収材料として有効である。
【0036】
また、本発明の固溶系Y型六方晶フェライトは、ソフトフェライトとしては、比較的高い保磁力を有するとともに、磁化されにくい性質を持ち、周波数限界(スネークの限界)を超えた周波数帯まで所定の透磁率を維持することから、高周波帯域での磁性アンテナとして有効でもある。
【0037】
本発明の固溶系Y型六方晶フェライトは、従来の一般的なフェライトの製造法に準じて行うことができる。即ち、Ba、M、Feが所定の割合で含まれるように金属酸化物や金属塩(例えば炭酸塩)などを配合し、混合、造粒したのち、これを焼成することにより固溶系Y型六方晶フェライトを合成することができる。焼成温度は概ね1100〜1300℃、焼成雰囲気は大気、焼成時間は1〜4h程度とすればよい。またその原料に、フラックスとして金属塩化物を使用してもよい。
【0038】
フラックスとして使用する金属塩化物としては、例えばBaClやSrCl等がある。これらは単独で使用することもできるし、複合で使用することもできる。なお、Ba2(A2Fe1222で表される固溶系Y型六方晶フェライトを構成するBaは、この金属塩化物以外の主原料で賄うように秤量すればよい。添加剤である金属塩化物は、焼成により生成した固溶系Y型六方晶フェライトの表面に被着するか、或いは、結晶粒界に存在すると考えられ、これが焼成過程での1次粒子の凝集、或いは、焼結防止に寄与するものと推察される。この金属塩化物の配合量は、当該金属塩化物を除く配合原料全体に対する質量比で、1〜20質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0039】
焼成後には、粉砕を行うことにより、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を得る。得られた固溶系Y型六方晶フェライト粉末のD50が6μm以上の場合、凝集粒子が多く存在し、粒子が配向せず、特性が下がる。これを、1次粒子が得られるように粉砕すると、結果として平均粒径D50が6μm以下となる。ここで、平均粒径D50とは、Y型六方晶フェライト粉末の粒度分布を累積曲線で表示した際の粒子数50%の平均粒径をD50とし、レーザー回折式粒度分布測定装置によって求まる。このD50は3μm程度が好ましい。
【0040】
しかし、過粉砕により六角板状粒子が壊れ、アスペクト比が5未満になると、板状粒子による効果が得られず、磁気特性が下がる。ここで、アスペクト比とは、固溶系Y型六方晶フェライトBa22Fe1222の平均粒径と厚さとの比(平均粒径/厚さ)をいう。このアスペクト比は20以上であることが好ましい。
【0041】
また、この固溶系Y型六方晶フェライトは固溶系Y型六方晶フェライトBa22Fe1222の理論組成で表されるが、固溶系Y型六方晶フェライトを形成するのであれば、この組成から多少ずれてもよい。固溶系Y型六方晶フェライトの結晶構造はX線回折によって確認することができ、その様子を図1に示す。このように、固溶系Y型六方晶フェライト以外の回折ピークをできるだけ含まない、即ち、不純物が少ない固溶系Y型六方晶フェライトが好ましい。また、Mの部分には2価金属(Feを除く)を、少なくとも、2種類以上使用した固溶系Y型六方晶フェライトであれば、透磁率の周波数特性の調整を容易に行うことができる。望ましくは、Zn、Ni、Coを使用した固溶系Y型六方晶フェライトが好ましい。
【0042】
固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222の組成において、a+b+c=1で1つの金属が0.9以上になると、固溶させていない単一系Y型六方晶フェライトの特徴とほぼ同じになる。
【0043】
得られた固溶系Y型六方晶フェライトを熱可塑性樹脂と混合する場合、固溶系Y型六方晶フェライトの含有量が10体積%未満の場合は、透磁率特性が低下して電波吸収性能やアンテナ性能が劣ることになる。また、固溶系Y型六方晶フェライトの含有量が60体積%を越える場合は、樹脂バインダー量が少なくなりすぎて、成型品全体の強度が低くなると同時に、成型が困難になり、実用性が低下する。
【0044】
また、固溶系Y型六方晶フェライトを熱硬化性樹脂と混合する場合、シート成型では10〜60体積%、圧縮成型では60〜97体積%が好ましい。固溶系Y型六方晶フェライトの含有量が10体積%未満の場合は、磁気特性が上がらず、電波吸収性能、アンテナ性能が劣る。また、固溶系Y型六方晶フェライトの含有量が97体積%を越える場合は、成型が困難になり、実用性が低下する。
【0045】
固溶系Y型六方晶フェライトと樹脂とを、混練、分散し、軟磁性樹脂組成物を得るために使用する有機バインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂としての、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ウレタン、エチレンエチルアクリレート等を使用することができる。また、ゴムとしては、塩素化ポリエチレン、SBS、SEBS等の熱可塑性エラストマー、ネオプレン系、クロロプレン系ゴム等の合成ゴムや天然ゴムを使用することができる。更に、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、尿素系樹脂等を使用することができる。勿論、使用環境等に応じて、耐熱性、難燃性、耐久性、機械的強度、電気的特性を満足するものを1種類又は2種類以上を混合して使用してもよい。
【0046】
本発明の固溶系Y型六方晶フェライト粉末と有機バインダーとからなる軟磁性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、カップリング剤、分散剤、防錆剤等による各種表面処理や酸化防止剤、熱安定化剤、顔料、非磁性充填剤、可塑剤、補強剤、熱伝導性充填剤、粘着剤等の各種添加剤を、1種又は2種以上添加することができる。カップリング剤については他成分との混和性を改良するためにシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコアルミネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等で表面処理し用いても良い。
【0047】
本発明の固溶系Y型六方晶フェライト粉末と有機バインダーとからなる軟磁性樹脂組成物の製造方法については、特に限定されるものではなく、公知の種々の方法で行うことができる。例えば、万能ミキサーで原料を分散させた後に、単軸或いは2軸の押し出し混練機で溶融混練する方法、ロール成型方法、塗工法(ドクターブレード)であっても良い。万能ミキサーで混合しただけの塗料を吹き付けたり、塗工するだけでも良い。
【実施例】
【0048】
〔電波吸収体〕
実施例1はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=0.5、b=0.5となるように原料を混合し、原料全体の20質量%のBaClを加えて加圧成型し、焼成してY型六方晶フェライト焼結体を生成した。焼成温度は1100℃で3時間保持後、炉冷を行った。この固溶系Y型六方晶フェライト焼結体を粉砕し、洗浄、乾燥を行い、D50=2.76μmの固溶系Y型六方晶フェライト粉末を得た。この固溶系Y型六方晶フェライト粉末と塩素化ポリエチレン樹脂を体積比1:1で混練し、圧延ロールにより厚さ1mmに圧延後、140℃で熱プレスを行い、シートを形成した。得られたシートについて、外径7mm、内径3mmの形状に打ち抜き、これを、ネットワークアナライザー(Anritsu製37225B)を用いてS11、S21のSパラメータを反射法で、500MHz〜10GHzの範囲で測定し、複素透磁率と複素誘電率を算出した。反射減衰量は、Sパラメータから算出した複素透磁率、複素誘電率の値を基にシミュレーションを行った結果である。また、反射減衰量はマイナスに大きいほど電波吸収性能が高いことを示す。シートが1mm厚のときの反射減衰量のピーク値とその周波数と反射減衰量が最大となるときの周波数と整合厚みとの関係が、表1に示されている。また、固溶系Y型六方晶フェライト粉末の粒径、アスペクト比も表1に示されている。平均粒径Dはレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社日本レーザー製、HELOS&RODOS)を用いて、測定した結果であり、アスペクト比はSEM(日本電子株式会社製、走査電子顕微鏡 JSM−5600LB型)を用いて倍率3000倍で、ランダムに選んだ50個の粒子の長軸径と短軸径を測定し、平均アスペクト比を求めた結果である。
【0049】
比較例1は、実施例1の組成と同様になるように原料を配合し、原料全体の3質量%のBaClを加えて加圧成型し、焼成して固溶系Y型六方晶フェライト焼結体を生成した。このBaClの添加量以外は全て実施例1と同様に固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0050】
比較例2は、D50=5.48μm程度に粉砕し、その他の条件は実施例1と同様に固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0051】
比較例3は、原料全体の0.1質量%のBaClを加えて加圧成型し、焼成して固溶系Y型六方晶フェライト焼結体を生成したことと、粉砕を、1mm篩以下になる程度に粉砕したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0052】
実施例2はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=0.9、b=0.1となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が表1に示されている。
【0053】
実施例3はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=0.1、b=0.9となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0054】
実施例4はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=0.5、c=0.5となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0055】
実施例5はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=1/3、b=1/3、c=1/3となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0056】
実施例6はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=0.4、b=0.4、c=0.2となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0057】
比較例4はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、a=1.0となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、単一系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0058】
比較例5はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、b=1.0となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、単一系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0059】
比較例6はBa2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、c=1.0となるように原料を混合したこと以外は、実施例1と同様に、単一系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。評価方法も実施例1と同様で、その結果が、表1に示されている。
【0060】
表1において、周波数を10GHzと記載しているところは、10GHz以上にピーク値があることを意味する。
【0061】
表1より、実施例は比較例に比べて、1mm厚での反射減衰量がマイナスに大きく、整合厚が薄い。よって、従来の単一系Y型六方晶フェライトより電波吸収特性が高いことが判る。
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1〜6と比較例1〜6の整合厚のときの反射減衰量の周波数特性が、図2に示されている。図2から、組成を変えることで、周波数特性をコントロールすることができることが判る。
【0064】
固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222において、a+b+c=1.0、0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、及び、0.0≦c≦0.9としたので、電波吸収体としては従来の単一系Y型六方晶フェライトより整合厚が薄くでき、又、同等の厚さでは、電波吸収性能の優れた材料として使用できる。
【0065】
実施例7は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末と12ナイロン樹脂とを、60:40(質量%)になるように混合、混練し、射出成型機でシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0066】
実施例8は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末と12ナイロン樹脂とを、40:60(質量%)になるように混合、混練し、射出成型機でシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0067】
実施例9は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末と12ナイロン樹脂とを、10:90(質量%)になるように混合、混練し、射出成型機でシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0068】
比較例7は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末と12ナイロン樹脂とを、65:35(質量%)になるように混合、混練し、射出成型機でシートを成型したが、成型不可能であったため、成型不可能であったことが、表2に示されている。
【0069】
比較例8は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末と12ナイロン樹脂とを、5:95(質量%)になるように混合、混練し、射出成型機でシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0070】
実施例10は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末とアクリル樹脂とを、97:3(質量%)になるように混合、混練し、圧縮成型機でシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0071】
実施例11は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末とアクリル樹脂とを、50:50(質量%)になるように混合し、ドクターブレードでシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0072】
実施例12は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末とアクリル樹脂とを、10:90(質量%)になるように混合し、ドクターブレードでシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0073】
比較例9は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末とアクリル樹脂とを、99:1(質量%)になるように混合、混練し、圧縮成型機でシートを成型したが、成型不可能であったため、成型不可能であったことが、表2に示されている。
【0074】
比較例10は、実施例1で作製した固溶系Y型六方晶フェライト粉末を用いて、固溶系Y型六方晶フェライト粉末とアクリル樹脂とを、5:95(質量%)になるように混合し、ドクターブレードでシートを成型した。このシートでの電波吸収特性評価結果が、表2に示されている。
【0075】
【表2】

【0076】
〔磁性アンテナ〕
【0077】
実施例13は、Ba2(ZnNiCo2Fe1222の組成において、b=0.5、c=0.5となるように原料を混合したこと以外は実施例1と同様に固溶系Y型六方晶フェライト粉末を作製し、シートを形成した。また、比較例5及び比較例6は、上記に記載している。比較例11は、比較例5と比較例6を体積比1:1で混合した粉末を使用し、シートを形成した。評価方法は、反射減衰量以外は実施例1と同様で、実施例13の評価結果は表3に、また、比較例5、6、11の評価結果は表4に示されている。ここで、tanδは磁性体損失の良否を表すものであり、このtanδが低い方が、アンテナ性能として優れる。またこの複素透磁率のグラフが図3に示されている。
【0078】
表5に実施例13、比較例5、6、11のμ’>2、tanδ(μ’’/μ’)<0.1を満たす周波数限界が示されている。また、上記のtanδが低い方がアンテナ性能が優れると記載したが、このtanδに加えて、複素透磁率の実部μ’が高い方が、より好ましい。μ’>2及びtanδ<0.1は、優れたアンテナ材料を得るために必要な条件である。ただし、500MHz〜10GHzの範囲で測定を行ったので、周波数を記載していないものは、500MHz以上では、上記の条件を満たしていないものである。
【0079】
比較例5と比較例11は500MHzで上記の条件を満たすが、それ以上の周波数では、満たせていないのに比べて、実施例13は、2GHzまで、上記の条件を満たすことができる。
【0080】
固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222において、a+b+c=1.0、0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、及び、0.0≦c≦0.9としたので、磁性アンテナとしては従来の単一系Y型六方晶フェライトより磁気特性を上げ、磁性アンテナとしての性能を上げるという効果を奏することができる。
【0081】
成型体を磁性アンテナとして構成することにより、従来の誘電体により形成された誘電体アンテナに比べ、小型化を図ることができ、また、複雑形状での使用が可能となるとともに、周波数調整が容易になる。
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は各種電磁波吸収体などのノイズ対策品やアンテナ材料として利用可能なものである。



































【特許請求の範囲】
【請求項1】
固溶系Y型六方晶フェライト材料において、該固溶系Y型六方晶フェライト材料を構成する固溶系Y型六方晶フェライトBa22Fe1222のMの部分を、2価金属(Feを除く)とするとともに、Zn、Ni、Co、Mn、Mgの群から選ばれる、少なくとも、2種類以上の金属を含む粉末とし、また、該粉末を、平均粒径D50が、6μm以下で、且つ、アスペクト比が、5以上の略六角板状の形状としたことを特徴とする固溶系Y型六方晶フェライト材料。
【請求項2】
前記固溶系Y型六方晶フェライトBa2(A2Fe1222において、a+b+c=1.0、0.0≦a≦0.9、0.0≦b≦0.9、及び、0.0≦c≦0.9としたことを特徴とする請求項1に記載の固溶系Y型六方晶フェライト材料。
【請求項3】
前記固溶系Y型六方晶フェライト材料の10〜60体積%に熱可塑性樹脂を40~90体積%混合した組成物により成形されたことを特徴とする成型体。
【請求項4】
前記固溶系Y型六方晶フェライト10〜97体積%に熱硬化性樹脂を3〜90体積%混合した組成物により成形されたことを特徴とする請求項3に記載の成型体。
【請求項5】
前記成形体が、電波吸収体であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の成型体。
【請求項6】
前記成形体が、磁性アンテナであることを特徴とする請求項3又は4に記載の成型体。














【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285287(P2010−285287A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137835(P2009−137835)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(594020961)株式会社メイト (8)
【Fターム(参考)】