説明

固相反応法による新規層状珪酸塩PLS−3とその製造方法及びそれを前駆体に用いたFER型ゼオライトの製造方法

【課題】固相反応法による新規層状珪酸塩の合成とそれを前駆体に用いて合成した高シリカゼオライト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)を酸処理したH型カネマイト(H−kanemite)に、有機結晶化調整剤を加えて、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、結晶性層状珪酸塩を合成することを特徴とする結晶性層状珪酸塩PLS−3の製造方法、上記原料に、Al源として、アルミン酸塩結晶を加えて、圧力容器中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、Al含有結晶性層状珪酸塩を合成する方法、上記結晶性層状珪酸塩PLS−3を、脱水重縮合させることを特徴とする高シリカゼオライトCDS−3又はAl含有型FER型ゼオライトの製造方法、及びそれらの製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規結晶性層状珪酸塩PLS−3の合成法と、それを前駆体に用いて合成した高シリカゼオライトCDS−3とその製造方法に関するものである。本発明は、例えば、分離剤、吸着剤、形状選択性固体触媒、イオン交換剤、クロマトグラフィー充填剤、化学反応場、建築材などに用いることのできる、耐熱性に優れた高シリカゼオライトを得るための前駆体化合物となる新規な結晶性層状珪酸塩を、既存の結晶性層状珪酸塩を用いて、固相から固相への相転移反応により迅速に製造し、それを前駆体に用いて高シリカゼオライトを合成することを可能とする、それらの合成方法及びその製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、原子レベルで規則的に配列したマイクロ孔(3−20Å)を有し、骨格構造の構成元素が、Si、Al、Oからなるアルミノシリケート型、Si、Oのみからなるハイシリカ(ピュアシリカ)型に主に分類することができる。ゼオライトは、形状選択的な、あるいは骨格構造に起因した化学的・物理的吸着作用を持つことから、例えば、モレキュラーシーブ(分子ふるい)、分離吸着剤、イオン交換体、触媒反応としての機能を有する。天然及び合成ゼオライトとして、160種類以上の構造が知られ、それと骨格元素の組成を組み合わせることで、目的に合わせた化学的性質や構造安定性、耐熱性を兼ね備えた多孔質材料として、石油化学を中心とする幅広い産業分野で用いられている。
【0003】
それぞれのゼオライトは、規則的な細孔を形成する幾何学的な骨格構造により区別され、一義的なX線回折パターンを与えることから、実験的に区別することができる。すなわち、骨格構造(結晶構造)は、ゼオライトの細孔の形や大きさを規定している。各ゼオライトの吸着特性や機械的強度、固体酸の性能は、部分的にはその細孔の形や大きさ、骨格を構成する組成で決まる。従って、特定の応用を考えた場合、ある特定のゼオライトの有用性は、少なくとも部分的には、その結晶構造や組成に依存する。
【0004】
高シリカ組成のゼオライトは、耐熱性、疎水性という2つの点で低シリカ組成のゼオライトよりも優れており、一般に、充分な機械的強度を備えている。これらの性質は、例えば、ゼオライトを分離剤や触媒として使用する場合に重要である。ゼオライト合成研究の初期の段階では、シリカ/アルミナ比の低い生成物しか得られていなかったが、シリカ源からなる出発ゲル中に有機構造規定剤(Organic Structure Directing Agent:OSDA)を加えることで、シリカ/アルミナ比が非常に高い組成を持つゼオライトの合成が可能になった(非特許文献1)。
【0005】
ゼオライトは、一般に、水熱合成法、すなわち、大量の水とシリカ源、アルミニウム源、アルカリ金属及びアミン類などのOSDAを所望の化学組成になるように調合し、オートクレーブ等の圧力容器にそれらを封じ込め加熱することにより、自己圧下で製造されている。ここで、OSDAは、生成するゼオライトの細孔を形成するための鋳型剤として機能し、主にアミン分子が用いられている。近年、触媒・材料分野では、より大孔径の高シリカゼオライトへの要望が高まっており、多くの研究がなされているが、製造コストやOSDAの設計・合成が容易ではないため、実用化が困難となっており、実際に使われている高シリカゼオライトの種類は、非常に少なく、細孔径もケイ素12員環以下に制限されている。
【0006】
一方、多量の水を用いず、固相から固相への相転移に似た反応を使って、層状珪酸塩からゼオライトもしくはマイクロポーラス構造体へ構造変化させる技術が報告されている。研究例は少ないものの、合成可能な既知構造のゼオライトとして、MFI型(シリカライト−1)とMEL型ゼオライト(シリカライト−2)が報告されている(特許文献1、2、非特許文献2〜6)。
【0007】
これらによれば、上記生成物は、固相反応では、原料に層状珪酸塩の粉末結晶と有機アミン分子、更に、水を加え、オートクレーブを用いて加熱するだけで得られるとされている。また、固相反応は、反応時間が数時間から24時間程度と、水熱合成法に比べ迅速な合成法であることが大きな特徴である。また、固相反応は、水熱合成法に比べ、必要な原料を最小限に減らすことができることから、合成プロセスの低コスト化が期待される。しかしながら、生成物の構造と出発物質である層状珪酸塩の構造に類似性や共通性がないものが多いため、どのようなメカニズムで相転移しているのかが明らかではないという問題も指摘されている。
【0008】
また、近年、新しい手法として、結晶性層状珪酸塩の層状構造を脱水重縮合反応により架橋することで、高シリカゼオライトを得る方法が報告されている。例えば、結晶性層状珪酸塩PLS−1は、CDO型高シリカゼオライトの前駆体として最近見いだされ、このPLS−1を焼成するだけで、CDO型高シリカゼオライトが得られる。従来、PLS−1の製造法では、シリカ、TMAOHのほか、最終生成物であるPLS−1に殆ど含まれないが、結晶化のために、アルカリ源や1,4−dioxaneを必要とし、合成時間も10日程度必要であった(特許文献3〜6、非特許文献7)。
【0009】
本発明で得られる、新規結晶性層状珪酸塩は、FER型高シリカゼオライトの前駆体に相当し、先のPLS−1と同様に、焼成するだけで、層間が脱水重縮合反応によって架橋し、そこに、新たに細孔が形成されることで、FER型高シリカゼオライトへと構造変化する。FER型ゼオライトは、産業利用においても重要なゼオライトとされ、非常に多くの応用例が報告されている(特許文献7〜15)。
【0010】
また、FER型ゼオライトの合成法そのものも、様々な研究がなされている(特許文献16〜21、非特許文献8〜10)。また、FER型ゼオライトに変換可能な結晶性層状珪酸塩PREFERがSchreyeckらによって報告されている(非特許文献11、12)。しかしながら、この方法は、このPREFERの合成には、4−amino−2,2,6,6−tetramethylpiperidineという高価なアミン分子だけでなく、毒性の極めて高いフッ化水素が必要であり、合成時間も15日かかることから、産業利用には適していない。
【0011】
これまでの水熱合成法によるゼオライト合成では、骨格にAl元素を含むアルミノシリケート型では、FER型も含め、多数報告されている。高シリカゼオライトの場合、合成時間は、一般的に、5−14日程度かかり、それ以上の合成時間がかかることも珍しくはない。高シリカFER型ゼオライトにおいては、8週間もかかる合成例が報告されている(非特許文献13)。
【0012】
また、従来からの水熱合成法では、生成物には含まれないにもかかわらず、合成条件として添加物や有機溶剤、水などを多量に必要とする場合があった。産業利用を目指した高シリカゼオライトの合成においては、原料や熱エネルギーの消費を可能な限り減らし、且つ環境に配慮した合成手法の開発が大きな課題となっている。このことは、FER型ゼオライトの合成についても同様である。
【0013】
【特許文献1】特開2003−073115号公報
【特許文献2】特開平8−319112号公報
【特許文献3】特開2005−041763号公報
【特許文献4】特開2005−194113号公報
【特許文献5】特開2004−339044号公報
【特許文献6】特開2004−175661号公報
【特許文献7】特開平5−49935号公報
【特許文献8】特開平6−198189号公報
【特許文献9】特開平6−262039号公報
【特許文献10】特開平7−185326号公報
【特許文献11】特開平8−141368号公報
【特許文献12】特開平11−216359号公報
【特許文献13】特開2000−237561号公報
【特許文献14】特開2001−286752号公報
【特許文献15】特開2000−237561号公報
【特許文献16】特開平8−188414号公報
【特許文献17】特開平10−15401号公報
【特許文献18】ヨーロッパ特許55,529 B(1985)
【特許文献19】米国特許4,578,259(1986)
【特許文献20】ヨーロッパ特許103,981 A(1984)
【特許文献21】米国特許4,016,245(1977)
【非特許文献1】R. M. Barrer, Hydrothermal Chemistry of Zeolites, New York: Academic Press, Inc. pp. 157-170 (1982)
【非特許文献2】M. Salou, Y. Kiyozumi, F. Mizukami, P. Nair, K. Maeda and S. Niwa J. Mater. Chem., 8(9), 2125-2132 (1998)
【非特許文献3】F. Kooli, Y. Kiyozumi and F. Mizukami, New J. Chem., 25, 1613-1620 (2001)
【非特許文献4】F. Kooli, Y. Kiyozumi, V. Rives, and F. Mizukami, Langmuir, 18, 4103-4110 (2002)
【非特許文献5】F. Kooli, F. Mizukami, Y. Kiyozumia and Y. Akiyama, J. Mater. Chem., 11, 1946-1950 (2001)
【非特許文献6】F. Kooli, J. Mater. Chem., 12, 1374-1380 (2002)
【非特許文献7】T. Ikeda Y. Akiyama, Y. Oumi, A. Kawai, F. Mizukami, Angew. Chem. Int. Ed., 43, 4892-4895 (2004)
【非特許文献8】Barrer, R .M. and Marshall, D. J., J. Chem. Soc., 2296-2305 (1964)
【非特許文献9】Morris, R. E., Weigel, S. J., Henson, N. J., Bull, L. M., Janicke, M. T., Chmelka, B. F. and Cheetham, A. K. J. Am. Chem. Soc., 116, 11849-11855 (1994)
【非特許文献10】Gies, H. and Gunawardane, R. P., Zeolites, 7, 442-445 (1987)
【非特許文献11】L. Schreyeck, P. Caullet, J. C. Mougenel, J. L. Guth, B. Marler, Microporous Mater., 6, 259 (1996)
【非特許文献12】L. Schreyeck, P. Caullet, J. C. Mougenel, J. L. Guth, B. Marler, Stud. Surf. Sci. Catal., 105, 1949 (1997)
【非特許文献13】Gies, H. and Gunawardane, R. P. Zeolites, 7, 442-445 (1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来の固相反応技術を拡張して、様々な結晶性層状珪酸塩とアミン分子とを組み合わせて検討し、合成と分析・解析を行っていく過程で、固相反応により、FER型ゼオライトの前駆体結晶性層状珪酸塩をより簡便で短時間で合成できること、それを加熱するだけで、高シリカFER型ゼオライトを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)を酸処理したH型カネマイト(H−kanemite)に、少なくとも有機結晶化調整剤を加えて、該原料を、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、結晶性層状珪酸塩を合成することを特徴とする結晶性層状珪酸塩PLS−3の製造方法。
(2)上記原料に、Al源として、アルミン酸塩結晶を加えて、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、Al含有結晶性層状珪酸塩を合成する、前記(1)記載の方法。
(3)結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)を酸処理したH−kanemiteに、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)水溶液を、モル比がTEAOH/Si=0.10−0.35、HO/Si=2.26−11.36の範囲となるように加えて、圧力容器(オートクレーブ)中で、160−180℃の温度範囲、24−72時間での加熱条件にて、水蒸気雰囲気下で固相反応させる、前記(1)記載の結晶性層状珪酸塩PLS−3の製造方法。
(4)Al源として、アルミン酸ナトリウム結晶を、Si/Al比が25−50の範囲で、原料に加える、前記(2)記載の方法。
(5)表2に示される回折ピーク位置と相対強度の関係を持ち、図4に示される粉末X線回折パターンによって示される結晶構造を有することを特徴とする結晶性層状珪酸塩PLS−3。
(6)図6に示されるケイ素5員環(酸素5員環)を有するSi−Oの共有結合からなることを特徴とする層状の骨格構造からなる結晶性層状珪酸塩PLS−3。
(7)上記結晶性層状珪酸塩PLS−3を、脱水重縮合させることを特徴とする高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライトの製造方法。
(8)前記(1)から(4)のいずれかに記載の方法で合成した結晶性層状珪酸塩PLS−3を、大気中又は減圧真空下にて250℃以上で加熱し、脱水重縮合させる、請求項7記載の高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライトの製造方法。
(9)図5の29Si DDMAS NMRスペクトルで示される又は図11の27Al−MAS NMRスペクトルで示されることを特徴とする高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライト。
(10)アルゴンガス吸着測定による平均細孔径が5.1Åのミクロ孔及び450m/g以上の高比表面積を有する、請求項9記載のフェリエライト(FER)型ゼオライト。
【0016】
【表2】

【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
以下、本発明を図面を参照して説明する。はじめに、本発明で用いる結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)について述べる。カネマイトの単位格子内における化学組成は、それぞれSi16(OH)・[Na(HO)で定義され、図1の結晶構造モデルに代表されるような結晶構造をしている。Si−Oの4面体配位の繰り返し単位をシリケート基本構造に持ち、層間には、Naイオンと水分子を規則的に挟んだ構造を有している(文献:S. Vortmann, J. Rius, B. Marler and H. Gies, European Journal of Mineralogy, 11, 125-134 (1999))。
【0018】
本発明の方法で用いるカネマイトは、いかなる方法で合成されたものでも構わないが、上記の化学組成と文献で定義された結晶構造を有していることが必要条件である。本発明では、カネマイトの合成は、市販される結晶性層状珪酸ソーダ、具体的には、例えば、一例として、SKS−6(株式会社トクヤマシルテック製)30gを蒸留水500mlに室温にて3時間浸した後、遠心分離により分離した沈殿物のみを取りだし、乾燥機で50℃、12時間乾燥させることで得られる。
【0019】
固相反応で用いる有機アミンは、構造規定剤としての役割を果たすと考えられる。この有機アミンとしては、出発源に層状珪酸塩を用いることから、層間内にアクセスでき、層間を広げられるもの、また、シリケート骨格構造を形成する鋳型としての作用を有するものであれば、従来公知のものが全て使用できる。上記有機アミンとして、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩などの四級アルキルアンモニウム塩が挙げられる。本発明で好ましく使用される有機結晶化調整剤は、テトラエチルアンモニウム塩である。次に、本発明で目的とする各生成物の製造について、具体的に説明する。
【0020】
新規結晶性層状珪酸塩:
カネマイトの酸処理は、例えば、カネマイトの結晶を塩酸水溶液中で攪拌するだけで実施される。酸処理後のH型カネマイトは、化学組成がSi16(OH)となり、層間からナトリウムイオン及び水分子が抜けた構造になっている。この粉末X線回折パターンは、図2のH−kanemiteの粉末X線回折パターンに示されるような回折線位置と回折強度を与える。カネマイトの酸処理は、好適には、例えば、塩酸、硝酸等の強酸が使用されるが、強い脱水作用を持ち酸処理後にカネマイト中に残存しないものであれば、これらに制限されるものではない。
【0021】
次に、このH型カネマイトに有機結晶化調整剤を加え、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させる。例えば、一例として、このH型カネマイト粉末0.5gと20wt%濃度のテトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液(SIGMA−ALDRICH Corp.SIGMA−ALDRICH Japan K.K.社製)0.799g(TEAOH/Si=0.15)を、PEFEテフロン(登録商標)内筒容器を持った内容量23mlのオートクレーブ(Parr社製)に加える。固相反応におけるオートクレーブ内の状態を模式的に表したものが図3である。
【0022】
なお、用いたTEAOH試薬が水溶液であることから、その濃度からTEAOHに付随してHOが0.639g(モル比換算してHO/Si=4.87)含まれていることになる。このようにして準備したオートクレーブをオーブンにて170℃、24時間の加熱を行うことで、水蒸気雰囲気下で固相反応させる。加熱終了後、十分に冷却し、オートクレーブ内の生成物を吸引濾過により分離し、それを60℃で乾燥させることで、粉末状の最終生成物を得る。収率は、シリカ源に対し、ほぼ100%で、生成物の色は白色である。この生成物の粉末X線回折パターンは、表3に示される回折ピーク位置と相対強度の関係を持ち、図4(固相反応(Run No.2)により得られた生成物のX線回折パターン)のように与えられる。
【0023】
【表3】

【0024】
このようにして作り出した化合物が層状であることの証明は、29Si DDMAS NMR及び粉末XRDからの構造解析により行った。なお、以下の解析データは、後述する実施例1の試料で解析し、得たものである。Siとその周りのOから構成される局所構造を示す29Si DDMAS NMRスペクトルを、図5(新規層状珪酸塩PLS−3(Run No.2)及びそれを焼成して得られた高シリカFER型ゼオライトCDS−3の29Si DDMAS NMRスペクトル)に示す。スペクトル中には、Q3構造に帰属されるピーク(−102.4ppm)とQ4構造に帰属されるピーク(−108.6、−112.1、−116.4ppm)が観測された。これは、Q3構造では、1個のSiのまわりに3個のSi−Oが存在し、Q4構造では、4個のSi−Oが存在していることを表す。
【0025】
Siは4官能性であるため、Q3構造の残り1つの官能基はSi−Oではない。この場合は、OがOもしくはOHとなっている。通常、ゼオライトは、完全に閉じたSi−Oネットワークであるので、全てがQ4構造となる。Q3構造が含まれていることは、部分的にネットワークが途切れていること示し、シリケートが層状構造であることを意味する。また、粉末XRDデータに基づく結晶構造解析から、図6の新規層状珪酸塩PLS−3の結晶構造を表す概略図に示される概念構造に類似した結晶構造を得たことによって、ケイ素5員環構造からなる層状構造であることが明らかとなった。また、指数付け解析から、格子常数はa=13.994Å、b=7.417Å、c=23.337Åとなることが分かった。この新規な結晶性層状珪酸塩化合物を、PLS−3と呼ぶ。
【0026】
更に、このPLS−3について、13C CPMAS及び13C DDMAS NMR測定によるスペクトルを図7に示す。TEAOH分子のエチル基に由来するピークが51.4ppmに、また、8.7ppmにメチル基に由来するピークが観測される。このことから、生成物であるPLS−3の結晶内には、TEAOH分子が内包されていることが明らかとなった。
【0027】
更に、このPLS−3について、TG−DTA測定を行ったところ、図8の新規層状珪酸塩PLS−3のTG−DTAカーブ(Run No.2)に示すように、室温から250℃にかけて、吸着水の脱離に由来する緩やかに11wt%程の重量減少が観測される。その後、250−370℃の温度領域にかけて発熱ピークが観測され、更に、約11wt%の重量減少が見られたことから、この温度領域で、TEAOH分子が燃焼・脱離しているものと理解できる。
【0028】
更に、このPLS−3について、SEM観察を行ったところ、図9のPLS−3及びそれを焼成して得られた高シリカゼオライトCDS−3のSEM像に示されるように、サブミクロンレベルの非常に小さな結晶で、かつそれらが凝集し、数ミクロン程度の高次凝集体になっていることが明らかとなった。また、合成条件を検討して、加熱温度170℃としたときのTEAOH/Si−加熱時間の合成条件マップを作成したところ、PLS−3の生成領域としては、図10に示される結果が得られた。
【0029】
Al含有新規結晶性層状珪酸塩:
Al源を導入して合成したAl含有結晶性層状珪酸塩(これをAl−PLS−3と呼ぶ。)について説明する。先に述べたPLS−3の原料に、アルミン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)をSi/Al=25−50になるよう加え、それ以外は、PLS−3の製造法と同一の操作をしたところ、PLS−3と同様な粉末X線回折パターンが得られた(実施例参照)。
【0030】
このAl−PLS−3の骨格にAl元素が骨格に導入されたことの証明は、図11に示すAl−CDS−3の27Al−MAS NMRスペクトルから説明できる。52.4ppmにAlの4配位構造、すなわち、AlOに起因したシグナルと、6.6ppmに6配位構造(AlO)に起因したシグナルが観測された。4配位構造に起因したシグナルが観測されたが、このことは、層状骨格内のSiサイトの一部がAlに置き換わっていることを意味する。また、6配位に帰属されるAl原子は骨格の表面に分布している可能性が高い。
【0031】
高シリカゼオライト:
得られたPLS−3を大気中で電気炉を用いて、1℃/minの昇温速度にて500℃まで昇温し、2時間保持の熱処理(焼成)を行ったところ、図12のゼオライトCDS−3の粉末X線回折パターン(上)と高シリカFER型ゼオライトのシュミレーションパターン(下)に特徴づけられる粉末X線回折パターンを示す構造に変化した。同定の結果、この物質は、既知構造であるFER型ゼオライトと同一のものであることが分かった。焼成の際には、有機物アミンの焼成を効率よく行うために,空気を流通させることが好ましい。このゼオライトを,CDS−3と呼ぶ。
【0032】
このようにして作り出した化合物が細孔構造を持ったゼオライトであることの証明は、29Si DDMAS NMR及びガス吸着測定により行われる。CDS−3の29Si DDMAS NMRスペクトルを図5に示す。スペクトル中には、Q4構造に帰属されるピークが観測された。また、僅かにQ2構造に帰属されるピークも観測されたが、これは、SEM図の結晶外表面に分布するSi核からのシグナルと考えられる。
【0033】
通常、ゼオライトは、結晶外表面を除き、完全に閉じたSi−Oネットワーク構造であるので、Q4構造のみしか表れない。このことからも、局所構造がゼオライトに特有な細孔構造に起因したものであることが分かる。このゼオライトのアルゴンガスの等温吸着性を調べた結果を、図13の高シリカゼオライトCDS−3のArガス吸着等温曲線(左)及びNLDFT解析により求めた細孔分布を示す図(右)に示す。
【0034】
本発明で得られたゼオライトは、気体の吸着性能が高いことを示しており、アルゴンガス吸着からはBET比表面積は460m/g(STP)、及びNLDFT(非線形密度汎関数法)による解析から、5.1Åにシャープな細孔分布があることが見積もられた。また、PLS−3を任意の温度で加熱し段階的にゼオライト化したものについて窒素ガス吸着測定を行ったところ、図14のPLS−3の任意の温度で加熱処理した後の窒素ガス等温曲線に示されるように、250℃以上で脱水重縮合反応が進み、ゼオライト化していることが分かった。また、BET比表面積は300℃の加熱処理のとき、最も大きな値を示し、580m/g(STP)にも達した。
【0035】
更に、このCDS−3について、SEM観察を行ったところ、モルフォロジーは、図9のSEM像に示されるように、サブミクロンレベルの非常に小さな結晶で、かつそれらが凝集し、数ミクロン程度の高次凝集体になっていて、焼成前のPLS−3のモルフォロジーと基本的に同一であった。
【0036】
Al含有ゼオライト:
Al源を導入したPLS−3についても、同様に焼成してみたところ、その粉末XRDパターンから、FER型ゼオライトと識別できるが化合物Al−CDS−3に変化していることが分かった。図15に、新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3(Run No.15)を焼成して得られたAl−CDS−3の粉末X線回折パターンを示す。Al−CDS−3の骨格にAl元素が骨格に導入されたことの証明は、Al−PLS−3の場合と同様であり、図11に示す27Al−MAS NMRスペクトルから57.7ppmにAlの4配位に起因したシグナルが観測され、Al原子が抜け出すことなく骨格内にとどまっていることで確認された。また、−1.0ppmに6配位に起因したピークも観測されているが、Al−PLS−3に比べて、4配位ピークに対し、相対強度は減少している。
【発明の効果】
【0037】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明の結晶性層状珪酸塩は、ケイ素5員環構造を持った、新規な結晶構造を有し、シリカ含有量が高く、例えば、金属担持用固体、分離・吸着剤、形状選択性固体触媒、イオン交換剤、クロマトグラフィー充填剤材料及び化学反応場など、広範な用途に利用可能である。
(2)この結晶性層状珪酸塩を脱水重縮合反応させることで、容易に産業利用に適した、しかも高比表面積を有する、FER型ゼオライトが得られる。
(3)本発明の方法は、従来の水熱合成法による一段合成による高シリカ型FER型ゼオライトの製造法に比べ、合成が容易で、実質的に48時間以内で結晶が得られることから、効率的かつ低コストな製造技術として高い優位性を有する。
(4)吸着等温曲線において、相対圧力(P/P>0.9)が高い領域で、通常のゼオライトでは発現しない著しい吸着量の増大が観測されたことから、ガス吸着能の圧力効果が非常に大きく、ガス吸着量の圧力制御に有利な特性を持つ。
(5)FER型ゼオライトへの構造変化を、一般的な焼成温度(500−600℃)よりかなり低い温度(250℃以上)で起こすことが可能で、低温で焼成した場合でも、十分な比表面積を有したFER型ゼオライトが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
以下、粉末X線回折(XRD)パターンは、マックサイエンス社M21Xを使用し、Cu Kα線を用いて、2θ=3−60゜の範囲を0.02゜間隔のステップスキャン法で測定した。SEM像観察には、HITACH S−800を用い、あらかじめ試料をイオンコートした後、加速電圧15kVで観察した。29Si DDMAS NMR、13C CPMAS NMR、13C DDMAS NMRの測定には、ブルカーバイオスピン社ANANCE400WBを使用した。Arガス吸着測定及び窒素ガス吸着測定には、カンタクローム社製のAutoSorb 1−MPを用い、液体アルゴン温度87K及び液体窒素温度77Kでそれぞれ測定を行った。熱分析には、ブルカーエイエックスエス社製のTG−DTA2000を用いた。
【0040】
(新規結晶性層状珪酸塩PLS−3の合成)
本実施例では、カネマイトの合成は、市販される結晶性層状珪酸ソーダ、具体的には、SKS−6(株式会社トクヤマシルテック製)30gを、蒸留水500mlに室温にて3時間浸した後、遠心分離により分離した沈殿物のみを取りだし、乾燥機で50℃、12時間乾燥させることで得た。
【0041】
カネマイトの酸処理は、カネマイトの粉末結晶10gを1.0M濃度の塩酸水溶液300ml中で2時間攪拌を行って実施した。酸処理後のH型カネマイト(H−kanemite)は、化学組成がSi16(OH)となり、層間からナトリウムイオン及び水分子が抜けた構造になっている。このカネマイトの粉末X線回折パターンは、図2に示されるような回折ピーク位置と回折強度を与えた。
【0042】
このH型カネマイト粉末0.5gと20wt%濃度のテトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液(SIGMA−ALDRICH Corp.SIGMA−ALDRICH Japan K.K.社製)0.799g(TEAOH/Si=0.15)を、PEFEテフロン(登録商標)内筒容器を持った内容量23mlのオートクレーブ(Parr社製)に加えた。固相反応におけるオートクレーブ内の状態を模式的に表したものが図3である。
【0043】
なお、用いたTEAOH試薬が水溶液であることから、その濃度からTEAOHに付随してHOが0.639g(モル比換算してHO/Si=4.87)が含まれていることになる。このようにして準備したオートクレーブを、オーブンにて、170℃、24時間の加熱を行った。加熱終了後、十分に冷却し、オートクレーブ内の生成物を吸引濾過により分離し、それを60℃で乾燥させることで、粉末状の最終生成物を得た。収率は、シリカ源に対し、ほぼ100%で、生成物の色は白色であった。この固相反応により得られた生成物の粉末X線回折パターンは、表4に示される回折ピーク位置と相対強度の関係を持ち、図4のように与えられた。
【0044】
【表4】

【0045】
なお、この実施例は、表5のRun No.2に対応している。この他の条件として、表5のRun No.1及びNo.3から、No.9で示される条件で合成を試みたところ、Run No.1からNo.8の条件で、生成物としてPLS−3が得られた。このときの、No.1からNo.9の一連の粉末X線回折パターンを、図16に示す。
【0046】
このようにして作り出した化合物PLS−3が層状であることの証明は、29Si DDMAS NMR及び粉末XRDで行った。なお、以下の解析データは、後述する実施例1の試料で解析し、得たものである。新規層状珪酸塩PLS−3(Run No.2)及びそれを焼成して得られた高シリカFER型ゼオライトCDS−3の、Siとその周りのOから構成される局所構造を示す29Si DDMAS NMRスペクトルを図5に示す。PLS−3のスペクトル中には、Q3に帰属されるピーク(−102.4ppm)とQ4構造に帰属されるピーク(−108.6、−112.1、−116.4ppm)が観測された。
【0047】
通常、ゼオライトは、完全に閉じたSi−Oネットワークであるので、全てがQ4となる。Q3が含まれていることは、部分的にネットワークが途切れていることを示し、シリケートが層状構造であることを意味する。更に、粉末XRDデータに基づく結晶構造解析から、図6(新規層状珪酸塩PLS−3の結晶構造を表す概略図)に示される概念構造に類似した結晶構造を得たことによって、ケイ素5員環構造からなる層状構造であることが明らかとなった。また、解析から、格子常数がa=13.994Å、b=7.417Å、c=23.337Åとなることが分かった。ここで、格子常数の決定は、指数付けソフトDICVOL91を用いて行った。また、PLS−3の構造解析は、FER型ゼオライトの構造モデルを初期値に用い、リートベルト法による構造精密化を多目的パターンフィッティングソフトウェアRIETAN−2000を使って行った。
【0048】
更に、このPLS−3について、13C−CPMAS及び13C−DDMAS NMR測定により得られるスペクトルを図7に示す。TEAOH分子のエチル基に由来するピークが51.4ppmに、また、8.7ppmにメチル基に由来するピークが観測された。このことから、生成物であるPLS−3の結晶内には、TEAOH分子が内包されていることが明らかとなった。
【0049】
更に、このPLS−3について、TG−DTA測定を行ったところ、図8に示すように、室温から250℃にかけて、吸着水の脱離に由来する緩やかに11wt%程の重量減少が観測された。その後、250−370℃の温度領域にかけて発熱ピークが観測され、更に、約11wt%の重量減少が見られたことから、この温度領域で、TEAOH分子が燃焼・脱離しているものと理解できる。
【0050】
更に、このPLS−3について、SEM観察を行ったところ、モルフォロジーは、図9(新規層状珪酸塩PLS−3及びそれを焼成して得られた高シリカゼオライトCDS−3のSEM像)に示されるように、サブミクロンレベルの非常に小さな結晶で、かつそれらが凝集し、数ミクロン程度の高次凝集体になっていることが明らかとなった。また、合成条件を検討し、加熱温度170℃としたときのTEAOH/Si−加熱時間の合成条件マップを作成したところ、PLS−3の生成領域としては、図10に示される結果が得られた。図中、○:結晶性が良、△:結晶性が低、×:アモルファス、を示す。
【0051】
【表5】

【実施例2】
【0052】
(新規結晶性層状珪酸塩PLS−3の合成)
実施例1で示される製造法において、35wt%濃度のテトラエチルアンモニウム(TEAOH)水溶液(SIGMA−ALDRICH Corp.SIGMA−ALDRICH Japan K.K.社製)を用い、表5に記載のRun No.10からNo.13に記載した以外は、実施例1の製造法と同一の条件にして、合成を行った。その結果、Run No.10の条件にて、PLS−3が得られた。このときのNo.10からNo.13の一連の粉末X線回折パターンを、図17に示す。
【実施例3】
【0053】
(新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3の合成)
実施例1で示される製造法において、Al源としてアルミン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)をSi/Al=25になるよう加えた。具体的には、表5に記載のRun No.17に記載した以外は、実施例1の製造法と同一の条件にして合成を行ったところ、すべての条件において、生成物として、Al−PLS−3が得られた。これを焼成して得られたAl−CDS−3の粉末X線回折パターンを、図15に示す。
【0054】
このAl−PLS−3の骨格にAl元素が骨格に導入されたことを確認するために、27Al−MAS NMRスペクトルによって調べた(図11)。52.4ppmにAlの4配位構造(AlO)に起因したピークと、6.6ppmに6配位構造(AlO)に起因したピークが観測されたことから、シリカ骨格内のSi原子が部分的にAl原子へと置き換わっていることが確認された。
【実施例4】
【0055】
(新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3の合成)
実施例3で示される製造法において、Si/Al=50となるようにアルミン酸ナトリウムを加え、表5に記載のRun No.14からNo.17に記載した以外は、実施例1の製造法と同一の条件にして合成を行ったところ、すべての条件において、生成物として、Al−PLS−3が得られた。このときの粉末X線回折パターンを、図18に示す。
【実施例5】
【0056】
(高シリカゼオライトCDS−3の調製)
実施例1で示される結晶性層状珪酸塩PLS−3の粉末を大気中で電気炉を用いて、1℃/minの昇温速度にて500℃まで昇温し、2時間保持の熱処理(焼成)を行ったところ、図12に特徴づけられる、CDS−3の粉末X線回折パターンを示す構造に変化した。同定の結果、この物質は、既知構造である高シリカFER型ゼオライトと同一のものであることが分かった。焼成の際には、有機物アミンの焼成を効率よく行うために、空気を流通させることが好ましく、本実施例では、焼成中において、2L/minの流通速度で空気を炉内に導入した。
【0057】
このようにして作り出した化合物が細孔構造を持ったゼオライトであることの証明は、29Si DDMAS NMR及びガス吸着測定によりなされる。CDS−3の29Si DDMAS NMRスペクトルを、図5に示す。スペクトル中には、Q4構造に帰属されるピークが観測された。また、僅かにQ2構造に帰属されるピークも観測されたが、これは、SEM図の結晶外表面に分布するSi核からのシグナルと考えられる。
【0058】
通常、ゼオライトは、結晶外表面を除き、完全に閉じたSi−Oネットワーク構造であるので、Q4構造のみしか表れない。このことからも、局所構造がゼオライトに特有な細孔構造に起因したものであることが分かる。このゼオライトのアルゴンガスの等温吸着性を調べた結果を、図13(左)に示す。その結果は、本発明で得られたゼオライトは、気体の吸着性能が高いことを示しており、アルゴンガス吸着からは、BET比表面積は460m/g(STP)、及び、NLDFT(非線形密度汎関数法)による解析から、5.1Åにシャープな細孔分布があることが見積もられた(図13(右))。
【0059】
また、PLS−3を任意の温度で加熱し、段階的にゼオライト化したものについて、窒素ガス吸着測定を行ったところ、図14の窒素ガス吸着等温曲線に示されるように、250℃以上で脱水重縮合反応が進み、ゼオライト化していることが分かった。また、BET比表面積は、300℃の加熱処理のとき、最も大きな値を示し、580m/g(STP)にも達した。
【0060】
更に、このCDS−3について、SEM観察を行ったところ、モルフォロジーは、図9に示されるように、サブミクロンレベルの非常に小さな結晶で、かつそれらが凝集し、数ミクロン程度の高次凝集体になっていて、焼成前のPLS−3のモルフォロジーと基本的に同一であった。
【実施例6】
【0061】
(高シリカゼオライトCDS−3の調製)
実施例1で示される結晶性層状珪酸塩PLS−3の粉末を大気中で電気炉を用いて、1℃/minの昇温速度にて、300℃及び800℃に昇温し、2時間保持の熱処理(焼成)を行った。その結果、図19の高シリカゼオライトCDS−3の粉末X線回折パターンに示すように、300℃の焼成ではFER型ゼオライトが得られたが、800℃まで加熱したものは、一部FER型ゼオライトの構造に由来するピークが残っているものの、骨格が破壊され、アモルファス化した。
【実施例7】
【0062】
(高シリカゼオライトCDS−3の調製)
実施例1で示される結晶性層状珪酸塩PLS−3の粉末0.1gを、パイレックス(登録商標)ガラス管に入れ、10−5torr程度の減圧真空下で電気炉を用いて、1℃/minの昇温速度にて、500℃まで加熱後2時間保持の熱処理を行った。この場合も、図19に示すように、高シリカゼオライトCDS−3が得られた。
【実施例8】
【0063】
(Al含有ゼオライトCDS−3の調製)
Al源を導入したRun No.15及びNo.17のAl−PLS−3についても、同様に焼成してみたところ、その粉末XRDパターンから、FER型ゼオライトと識別できる化合物Al−CDS−3に変化していることが分かった。図20に、Al−PLS−3を焼成して得られたAl含有ゼオライトAl−CDS−3の粉末X線回折パターンを示す。Run No.17について、27Al−MAS NMRスペクトル(図11)から、57.7ppmにAlの4配位構造に起因したピークが観測されたことから、Al原子が抜け出すことなく、骨格内にAlが分布していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上詳述したように、本発明は、固相反応法による新規層状珪酸塩の合成とそれを前駆体に用いて合成した高シリカゼオライト及びその製造方法に係るものであり、本発明により、従来の水熱合成法を用いた一段合成による高シリカ型のFER型ゼオライトの合成法と比較して、合成が容易で、実質的に48時間以内の短時間で、ゼオライト結晶を得ることが可能な、効率的かつ低コストの固相反応によるゼオライトの合成技術を提供することができる。本発明は、固相合成法による高シリカ型のFER型ゼオライトの新しい製造技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】結晶性層状珪酸塩カネマイトのSi、O、Na(HO)で表される結晶構造モデルを示す。
【図2】H型カネマイトの粉末X線回折パターンを示す。
【図3】固相反応におけるオートクレーブ内の状態を示す概略図である。
【図4】固相反応(表5のRun No.2)により得られた生成物の粉末X線回折パターンを示す。
【図5】新規層状珪酸塩PLS−3(表5のRun No.2)及びそれを焼成して得られた高シリカFER型ゼオライトCDS−3の29Si DDMAS NMRスペクトルを示す。
【図6】新規層状珪酸塩PLS−3の結晶構造を表す概略図である。
【図7】新規層状珪酸塩PLS−3(Run No.2)の13C−CPMAS NMR及び13C−DDMAS NMRスペクトルを示す。
【図8】新規層状珪酸塩PLS−3のTG−DTAカーブ(Run No.2)を示す。
【図9】新規層状珪酸塩PLS−3及びそれを焼成して得られた高シリカゼオライトCDS−3のSEM像を示す。
【図10】新規層状珪酸塩PLS−3の合成条件と生成物を示すマップ、○:結晶性が良、△:結晶性が低、×:アモルファス、を示す。
【図11】新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3(Run No.17)及びそれを焼成して得られたAl−CDS−3の27Al−MAS NMRスペクトルを示す。
【図12】新規結晶性層状珪酸塩PLS−3を焼成して得られたゼオライトCDS−3の粉末X線回折パターン(上)と高シリカFER型ゼオライトのシュミレーションパターン(下)、を示す。
【図13】高シリカゼオライトCDS−3のArのガス吸着等温曲線(左)及びNLDFT解析により求めた細孔分布を示す図(右)を示す。
【図14】結晶性層状珪酸塩PLS−3の任意の温度で加熱処理した後の窒素ガス吸着等温曲線を示す。
【図15】新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3(Run No.15)を焼成して得られたゼオライトAl−CDS−3の粉末X線回折パターンを示す。
【図16】実施例1に従って、表5のRun No.1〜No.9の条件に基づいて合成した生成物の粉末X線回折パターンを示す。
【図17】実施例2に従って、表5のRun No.10〜No.13の条件に基づいて合成した生成物の粉末X線回折パターンを示す。
【図18】実施例3に従って、表5のRun No.14〜No.17の条件に基づいて合成した生成物の粉末X線回折パターンを示す。
【図19】新規層状珪酸塩PLS−3を焼成して得られた高シリカゼオライトCDS−3の粉末X線回折パターンを示す。
【図20】新規結晶性層状珪酸塩Al−PLS−3を焼成して得られたAlを含むゼオライトAl−CDS−3の粉末X線回折パターンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)を酸処理したH型カネマイト(H−kanemite)に、少なくとも有機結晶化調整剤を加えて、該原料を、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、結晶性層状珪酸塩を合成することを特徴とする結晶性層状珪酸塩PLS−3の製造方法。
【請求項2】
上記原料に、Al源として、アルミン酸塩結晶を加えて、圧力容器(オートクレーブ)中で、水蒸気雰囲気下で固相反応させて、Al含有結晶性層状珪酸塩を合成する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
結晶性層状珪酸塩カネマイト(kanemite)を酸処理したH−kanemiteに、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)水溶液を、モル比がTEAOH/Si=0.10−0.35、HO/Si=2.26−11.36の範囲となるように加えて、圧力容器(オートクレーブ)中で、160−180℃の温度範囲、24−72時間での加熱条件にて、水蒸気雰囲気下で固相反応させる、請求項1記載の結晶性層状珪酸塩PLS−3の製造方法。
【請求項4】
Al源として、アルミン酸ナトリウム結晶を、Si/Al比が25−50の範囲で、原料に加える、請求項2記載の方法。
【請求項5】
表1に示される回折ピーク位置と相対強度の関係を持ち、図4に示される粉末X線回折パターンによって示される結晶構造を有することを特徴とする結晶性層状珪酸塩PLS−3。
【表1】

【請求項6】
図6に示されるケイ素5員環(酸素5員環)を有するSi−Oの共有結合からなることを特徴とする層状の骨格構造からなる結晶性層状珪酸塩PLS−3。
【請求項7】
上記結晶性層状珪酸塩PLS−3を、脱水重縮合させることを特徴とする高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の方法で合成した結晶性層状珪酸塩PLS−3を、大気中又は減圧真空下にて250℃以上で加熱し、脱水重縮合させる、請求項7記載の高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
図5の29Si DDMAS NMRスペクトルで示される又は図11の27Al−MAS NMRスペクトルで示されることを特徴とする高シリカ又はAl含有フェリエライト(FER)型ゼオライト。
【請求項10】
アルゴンガス吸着測定による平均細孔径が5.1Åのミクロ孔及び450m/g以上の高比表面積を有する、請求項9記載のフェリエライト(FER)型ゼオライト。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−120629(P2008−120629A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306041(P2006−306041)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】