説明

土中試料の採取装置、該採取装置を取り付けた拡大ヘッド、および該拡大ヘッドを用いた土中試料の採取方法

【課題】杭施工における拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、地盤中の採取したい位置においてピンポイントで採取し、採取した土中試料を他の充填物と混ぜることなく回収するための土中試料の採取装置を提供する。
【解決手段】アースオーガの下端に接続する拡大ヘッドおいて、外管11とその内側に収納され弁付き窓孔15のある内管12とからなる二重管構造の採取装置10を拡径翼もしくは本体部分に取り付ける。内管12の先端部は拡径翼のロッド部分に取り付けられ、拡径翼を拡径させることで連動して内管12が外管11から突出して窓孔15が露出する。拡大ヘッドを所定方向に回転させることで採取試料の圧力で窓孔の弁16が押されて内管12内に試料が取り込まれる。拡径翼を縮径させることで内管12は外管11内に収納され、密閉状態で採取試料を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アースオーガの下端に接続される拡大ヘッドに設けて、杭施工における拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、地盤中の原位置(採取したい位置)においてピンポイントで採取するための土中試料の採取装置、該土中試料の採取装置を設けた拡大掘削可能な拡大ヘッド、および該拡大ヘッドを用いた土中試料の採取方法に関するものである。
【0002】
なお、本発明に係る土中試料の採取装置は、主として杭施工における根固め液または根固め液と掘削土砂との混合物の採取を目的としたものであるが、それに限定されず、杭周固定液、その他、地質調査等のための土中試料一般の採取にも利用可能である。
【背景技術】
【0003】
埋込み杭工法における支持力発現方法は、拡大根固め球根を築造し、この拡大根固め球根に杭先端部を設置することにより一体化を図ることが一般的である。最近の高支持力杭工法の開発はめざましく、特に大きな支持力を得るためには、より大きな拡大根固め球根を機械的に拡大掘削し、より品質の高い拡大根固め球根を築造することが重要となっている。そのため、拡大根固め球根から試料を採取し、強度、品質、均一性等を確認する必要がある。
【0004】
ところが、拡大根固め球根は地下深く(例えば、10〜80m程度)、掘削孔が横方向に拡大されて築造されることから拡大した任意の箇所からの試料を採取し難く、また、採取したい試料をピンポイントで採取し、他の箇所の充填物、不純物等が混入することなく採取した試料のみを回収することが難しかったので、該拡大根固め球根の様々な箇所(特に掘削孔の側壁付近)の原位置で、決められた強度品質のものが築造できているかどうかを、精度良く直接確認できる有効な手法がなかった。
【0005】
すなわち、拡大根固め球根に用いる根固め液(例えば、水セメント比=50〜100%程度のセメントミルク)は、拡大掘削した該球根部に掘削ロッドやビット部分を介して所定量が注入される。その場合、原位置の一部土砂と根固め液とが攪拌混合されて拡大根固め球根として強度発現することになるが、これが必要強度を満足しているか否かが明確でなかった。
【0006】
現状、例えば、セメントと水とをプラントで混練して得られた根固め液としての注入前のセメントミルクを採取して強度確認用供試体を作成し、圧縮強度試験等を実施して便宜的に強度確認をしていることが多い。
【0007】
しかし、上述のような問題の一部解決を図った特許技術も散見される。例えば、特許文献1には、オーガヘッドのスクリュー先端近くの傾斜面上に掘削土採取装置を付設したオーガヘッドが開示されている。そして、この採取装置の開口には逆止弁が設けられており、採取した最終掘削土を確実に回収できるようになっている。
【0008】
また、特許文献2には、採取物を収容するホッパーに内窓が形成されているとともに、上下に摺動して前記内窓を塞いだり露出したりする外窓付きの外枠が前記ホッパーに嵌装されており、前記ホッパーと該外枠との間に、内窓を塞ぐように付勢されたスプリングを備えた採取装置が開示されている。
【0009】
そして、この採取装置を用いれば、杭孔などの地中孔内の任意の位置でセメントミルク等の充填物を採取して、他区間の充填物と混ぜることなく、地上で回収できるとしている。
【0010】
一方、拡大根固め球根の築造に関しては、アースオーガの先端に接続される拡大ヘッドの拡径翼について、掘削時の回転抵抗を利用して拡縮させるものや、拡縮のためのリンク機構を有するもの、さらに油圧式の拡縮機構を有するものなど、種々の構造のものが開発されている。
【0011】
このうち、出願人が関与したものとしては、特許文献3に記載されるように、内蔵させた油圧シリンダ機構で、拡径翼を直接拡縮(伸縮)させるもので、油圧を必要とする反面、確実な拡縮ができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平09−144465号公報
【特許文献2】特開2001−073360号公報
【特許文献3】特開2001−073664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
背景技術の項で述べたように、従来は品質の高い拡大根固め球根を築造するにあたり、地下深く、かつ幅広に築造される拡大根固め球根等について、隅々までその強度品質を直接かつ確実に確認できる有効な手法がなかった。
【0014】
上記特許文献1に記載されるものは、掘削直後の最新(最終)の掘削土の採取は可能であるものの、採取装置が通常の掘削オーガヘッド縦軸周囲のスクリューの傾斜上面に付設されているため、拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、拡大根固め球根の様々な箇所(特に掘削孔の側壁付近)の任意の原位置で採取できるものではない。また、逆止弁の状態によっては採取試料を確実に回収出来ない場合も起こり得る。
【0015】
また、特許文献2に記載されるものは、杭孔に充填されたセメントミルク等の充填物を採取して他区間の充填物と混ぜることなく地上で回収することができるものの、採取装置が縦型であるため拡大根固め球根の様々な箇所(特に掘削孔の側壁付近)の任意の原位置で採取できるものではない。
【0016】
また、杭孔に充填し終わったものしか採取できず掘削しながら充填しつつあるセメントミルクは採取できない。更に、採取するためには、地上まで引き上げたオーガーロッドから掘削ヘッドを取り外し採取装置に付け替えねばならず手間がかかる。
【0017】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、杭施工における拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、地盤中の原位置(採取したい位置)においてピンポイントで採取し、採取した土中試料を他の充填物(不純物等)と混ぜることなく回収するための土中試料の採取装置、該土中試料の採取装置を設けた拡大掘削可能な拡大ヘッド、および該拡大ヘッドを用いた土中試料の採取方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の請求項1に係る発明は、採取装置に関するもので、「アースオーガの下端に接続され油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能な拡径翼を備えてなる拡大ヘッドに設けられる土中試料の採取装置であって、外管と該外管の内側に収納される内管を有し、該内管の一方の端部外周面には土中試料を採取するための弁付き窓孔が該窓孔の内側に設けられたコイルバネで該弁を押すことにより該窓孔が閉じるようにして設けられており、また、該内管の他方の端部側底部には採取した土中試料が取り出せるよう蓋体が設けられており、該内管は前記拡径翼の伸縮に連動して前記外管から出入し、該出入によって前記窓孔も前記外管から出入するようになっていることを特徴とする土中試料の採取装置」であり、上記特許文献3に記載される拡大ヘッドの構造やシリンダ機構を利用したものである。
【0019】
本発明の採取装置は、このように油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能な拡径翼を備えてなる拡大ヘッドに掘削前から設けられるので、拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、新たに採取装置を設置することなく採取することができる。
【0020】
また、拡径翼の伸縮に連動して前記外管から出入する弁付き窓孔を備えた内管を試料容器としており該窓孔は内側に設けられたコイルバネで該弁を押すことにより試料採取時以外は該窓孔が閉じているようにしてあるので、拡大根固め球根の様々な箇所(特に掘削孔の側壁付近でも)の任意の原位置においてピンポイントで採取でき、かつ、採取した土中試料を他の充填物(不純物等)と混ぜることなく回収することができる。
【0021】
更に、該内管の端部側底部には採取した土中試料が取り出せるよう蓋体が設けられているので、回収した試料を容易に取り出せる。ここでいう土中試料は、セメントミルク等の根固め液や根固め液と掘削土砂との混合物が主たるものであるが、これらに限らず、杭周固定液、掘削泥水、掘削土等も含まれる。
【0022】
本願の請求項2に係る発明は、上記採取装置を構成する外管と内管の設けられ方に関するもので、「請求項1に係る土中試料の採取装置において、前記外管は前記拡径翼の油圧シリンダ機構を構成するシリンダ部分の側面もしくは拡大ヘッドの本体部分に、前記内管の先端部は前記油圧シリンダ機構を構成するロッド部分に各々別個に取り付けられており、前記拡径翼を拡径させることで前記内管を前記外管から突出させて前記弁付き窓孔を前記外管から出して前記窓孔より土中試料を採取し、前記拡径翼を縮径させることで前記内管を前記外管内に収納し、採取した前記土中試料を前記内管内に保持させて回収できるようにしたことを特徴とするもの」である。
【0023】
このような外管と内管が各々別個に取り付けられているような構造にすることにより、別途、動力等を必要とせずに、拡径翼の油圧シリンダ機構を利用して、試料容器となる内管の外管からの出入動作ができる。
【0024】
外管や内管先端部の拡大ヘッドへの取り付け方法は特に限定されない。例えば、採取装置に設けた取付用鋼製板等の点溶接などによって行うことができる。点溶接の場合、接合部を特に加工する必要がなく、拡大ヘッドによる掘削時にも外れることがなく、該採取装置を拡大ヘッドから取り外す際にはバールなどの道具を用いて簡単に取り外すことができる。もちろん、接合部に加工を施し、ボルトなどで取り付けるようにすることもできる。
【0025】
外管は、拡径翼の油圧シリンダ機構を構成するシリンダ部分の側面に該シリンダに平行する形で取り付けられる。また、本体部分に取り付けられる場合も、拡径翼の油圧シリンダ機構を構成するシリンダに平行して設置される。
【0026】
前記外管から径方向外側に出入りし採取容器となる内管の先端部は、連結アーム等により前記拡径翼の油圧シリンダ機構を構成するロッド部分に取り付けられ、内管の前記出入動作が拡径翼の拡縮に連動するようにする。
【0027】
なお、外管および内管は円筒管に限らず、両方または一方が角管であってもよい。また、ここでいうシリンダ部分やロッド部分は、例えば、油圧シリンダの保護のためのカバーを有する場合、カバー部分も含めたシリンダ部分やロッド部分である。
【0028】
本願の請求項3に係る発明は、前記内管における弁付き窓孔の設けられ方に関するもので、「請求項1または請求項2に係る土中試料の採取装置において、前記弁付き窓孔は、前記拡大ヘッドを逆回転(掘削時の回転と反対方向の回転)させたときに該弁に前記土中試料による圧力がかかって該弁が押し開かれ該土中試料が前記内管内に取り込まれるような前記内管外周面の所定位置に設けられていることを特徴とするもの」である。
【0029】
本発明では、上記請求項1に示すように、土中試料の採取容器となる内管の一方の端部外周面には、土中試料を採取するための弁付き窓孔が、該窓孔の内側に設けられたコイルバネで該弁を押すことにより該窓孔が閉じるようにして設けられている。
【0030】
このような構造にすることより、試料採取時以外の掘削時等では採取口となる窓孔が閉じ採取したい土中試料以外の不純物等が内管内に入るのを防ぐことができる。
【0031】
また、前記窓孔は、通常、内管が外管から突出する方向(伸長方向)の端部外周面に設けられるが、拡大掘削時の拡大ヘッドの回転方向に対し裏面となり、拡大ヘッドを逆回転(掘削時の回転と反対方向の回転)させたときに窓孔の弁に採取したい土中試料による圧力がかかって該弁が押し開かれ該土中試料が前記内管内に取り込まれるような前記内管外周面の所定位置に設けられる。
【0032】
このように、弁付き窓孔を特定の位置に設けることにより、ピンポイントでの土中試料の採取と採取した試料にこれ以外の不純物等を混入させることのない回収が容易となる。
【0033】
なお、前記コイルバネのスプリング強さは、予め、前記圧力を計算もしくは予備試験等で求めておき、試料採取時には弁が試料の圧力により押し開かれるように調整しておく必要がある。拡大ヘッドの逆回転を止めれば前記弁に圧力はかからなくなるので、該弁は自動的に元に戻り窓孔は閉じる。
【0034】
本願の請求項4に係る発明は、上記本発明の採取装置を備えた拡大ヘッドに関するもので、「アースオーガの下端に接続され、掘削刃のある先端部と、油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能で先端部に掘削爪のある拡径翼とを備えてなる拡大ヘッドであって、前記拡径翼に、請求項1〜3のいずれかに記載の土中試料の採取装置が取り付けられていることを特徴とする拡大ヘッド」である。
【0035】
この拡大ヘッドを用いれば、拡大掘削による拡大根固め球根の造成とそこに充填された、もしくは、充填されつつある根固め液の採取が一つのヘッドで合わせてできる。この拡大ヘッドにおける採取装置以外の掘削刃、シリンダ機構、拡径翼、掘削爪等の部分は、特許文献3に記載されているものと同様のものである。
【0036】
本願の請求項5に係る発明も上記本発明の採取装置を備えた拡大ヘッドに関するもので、「アースオーガの下端に接続され、掘削刃のある先端部と、油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能で先端部に掘削爪のある拡径翼とを備えてなる拡大ヘッドであって、前記拡径翼の伸縮に連動して前記採取装置の内管も伸縮するようにして請求項1〜3のいずれかに記載の土中試料の採取装置が設けられていることを特徴とする拡大ヘッド」である。
【0037】
この発明では、上記請求項4に係る発明のように、必ずしも拡径翼に採取装置が取り付けられているものに限らず、採取装置が拡径翼と同様の形態で拡大ヘッドの本体部分に設けられ、採取装置の内管が拡径翼の伸縮に連動して伸縮する構造のものも含むものである。
【0038】
具体的には、例えば、拡大ヘッドの一つの拡径翼のシリンダに並ぶ形で採取装置の外管が拡大ヘッドの本体部分に取り付けられ、そこに、この外管と二重管構造となり拡径翼の伸縮に連動して伸縮する内管が設けられているものである。
【0039】
このようにすることにより、拡大ヘッド全体をコンパクトな構造にできる。また、採取装置が拡大ヘッドの本体部分に取り付けられていることにより、拡径翼に取り付けられている場合に比べ、掘削時に採取装置が外れたり壊れたりし難くなる。
【0040】
本願の請求項6に係る発明は、上記本発明の拡大ヘッドを用いた土中試料の採取方法に関するもので、「杭施工における拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料の採取方法であって、請求項4もしくは請求項5に記載の拡大ヘッドをアースオーガ下端に接続し、拡径翼を縮径させたまま拡大ヘッドを回転させて掘進し、地盤内の所定の深度で該拡大ヘッドの拡径翼を拡径させて拡大根固め球根の拡大掘削を行うとともに根固め液を充填し、該拡大ヘッドが回転することにより前記外管から突出している前記内管の弁付き窓孔の弁に前記土中試料による圧力がかかって該弁が押し開かれるように該拡大ヘッドを回転させて前記窓孔より前記土中試料を前記内管内に取り込み、その後、前記拡径翼を縮径させて前記内管を前記外管内に収納することにより、取り込んだ土中試料を内管内に保持したまま前記拡大ヘッドを地上に引き上げ、前記内管の端部側底部に設けられた蓋体をはずして前記内管内の土中試料を回収することを特徴とする土中試料の採取方法」である。
【0041】
この方法を用いれば、実施工で充填された直後の根固め液充填物だけでなく、必要に応じて充填しつつあるものまでもピンポイントでタイムリーに採取できる。また、拡大根固め球根の孔壁付近の試料も容易に採取できる。
【0042】
また、採取した試料に不純物等が混ざることなく確実に回収できる。更に、土中試料を採取するために掘削ヘッドを採取装置に付け替える必要もなく、従来の拡大掘削施工の工程の中で試料を採取できるので、簡便である。
【発明の効果】
【0043】
本発明の採取装置によれば、実施工での土中試料を地盤内の原位置で、ピンポイントで採取でき、拡大根固め球根で採取する場合、拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料を、該球根部の中央や深さ方向からの採取だけでなく、側壁付近や横方向の原位置(採取したい位置)においてピンポイントで採取できる。
【0044】
また、採取した試料は他位置の土中物、充填物等の不純物と混ざることなく確実に回収できるので、孔内の各位置での土中試料の強度品質等の品質を正確に把握することができるとともに、位置の違いによる偏りやバラツキも確認できる。
【0045】
また、本発明の拡大ヘッドによれば、拡大掘削だけでなく、拡大掘削により得られた拡大根固め球根における任意の原位置で土中試料をタイムリーに採取できる。また、採取装置の動力源として、拡径翼のシリンダ機構を利用できるので効率的である。
【0046】
そして、この拡大ヘッドを用いた本発明の採取方法によれば、拡大根固め球根を築造する場合、上記の効果に加えて、従来の拡大掘削施工における工程の中で試料採取が行えるので効率的である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の採取装置を拡大ヘッドの本体部分に取り付けた例を示したものであり、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその側面図である。
【図2】本発明の採取装置を拡径翼のシリンダ部分に取り付けた例の平面図である。
【図3】本発明の採取装置における二重管構造の詳細を示す断面図である。
【図4】本発明の土中試料の採取方法の工程例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0049】
A.本発明の拡大ヘッド構造
〔構造例1〕;採取装置を拡大ヘッドの本体部分(軸部)に取り付けた例
【0050】
[構造]
図1は、拡大ヘッド1において、本発明の土中試料の採取装置10(以下、単に採取装置という)を、シリンダ機構6(6a、6b)により伸縮する拡径翼3の軸部2(本体部分)に取り付けた例を示したもので、図1(a)〜(c)は、その平面図、正面図、側面図である。
【0051】
なお、図1では、軸部2を挟み水平方向に設けられ油圧シリンダ機構6を内蔵する一対の拡径翼3が縮んでいる状態を示しており、伸びた状態は破線で示される。ここでは拡径翼3の一つが伸びた状態を示しているが、実際にはシリンダ機構6により2つの拡径翼3が同時に逆方向に伸び、同時に縮むように制御される。
【0052】
拡大ヘッド1の基本部分(掘削関連部分)は特許文献3に記載される既存のものと同等のものであり、下端には先端ビット4aを複数備えた掘削刃4を有し、その上方に掘削土砂を上方に押し上げるスパイラル翼5が設けられ、更にその上方に軸部2を挟んで互いに逆方向に伸縮可能な一対の攪拌用の拡径翼3が設けられている。
【0053】
拡径翼3は、内蔵した油圧シリンダのロッド6bが油圧によりシリンダ6aから出入することで、径方向外側に伸縮するようになっている。また、ロッド6bの先端には主として拡大根固め球根の掘削のための掘削爪6cが設けられている。
【0054】
拡大ヘッド1の上端は雄継手7が形成されアースオーガ等のロッドに接続できるようになっている。また、軸部2にはアースオーガ等のロッドの配管と接続される配管が設けられており、下端部の吐出口から掘削液や根固め液を吐出できるようになっている(図示省略)。
【0055】
上記拡大ヘッド1は、拡径翼3が油圧により強制的に伸縮するため、拡大根固め球根の拡大掘削時にも逆回転させる必要がなく常に正回転で施工できるものである。そのため、スパイラル翼5が土砂を押し下げて根固め液に土砂が大量に混ざってしまうことにより、根固めの強度を低下させるといった問題がなく、後述する土中試料の採取もし易くなる。
【0056】
採取装置10は、図1では、スパイラル翼5の一部を削除する形で拡径翼3の下部に設けられる。このように採取装置10は拡径翼3より内側に入る形で設けられるのが拡大ヘッドの構造がコンパクトになり拡大掘削時にも掘削の邪魔にならないので好ましい。図1では、採取装置10は一対の拡径翼のうちの片方の下部にだけ設けられている例を示しているが、必要に応じて両方の下部に1つずつ設けてもよい。
【0057】
採取装置10は、図3をもとに後に詳述するように、外管11の内側に弁付き窓孔のある内管12(以下、単に内管という)が収納される二重管構造(円管に限らず角管でもよい)となっており、これら外管11と内管12は拡大ヘッド1に対し別個に取り付けられる。
【0058】
図1では、拡径翼3の下部に並ぶ形で、外管11が軸部2(本体部分)に取り付けられており、内管12の先端部が連結アーム13を介してロッド6bの先端部と繋がっている。取り付けは溶接により行われているがこれに限定されるものではない。ロッド6bと繋がっている内管12の先端部にも掘削爪6cが設けられている。
【0059】
採取装置10の反対側の端部は採取した土中試料の取出口となっており蓋体14がある。採取装置10の寸法は特に限定されないが、外管11が拡径翼3のシリンダ6aと同等か少しコンパクトであるものが好ましい。
【0060】
[動作]
油圧により拡径翼3を拡径させると、ロッド6bの伸長に連動して採取装置10の内管12が外管11から突出する。この状態で拡大ヘッド1を正回転させて拡大掘削は進められるが、図3をもとに後に詳述するように、その間は内管12の窓孔は弁により閉じているので掘削孔内の掘削土砂等が内管12内に流れ込むことはない。
【0061】
土中試料を採取する場合、例えば、掘削孔内に根固め液を充填している途中あるいは充填し終わった直後に充填物の採取をする場合は、拡大ヘッド1を孔内で逆回転(拡大掘削時と反対の回転)させることで、充填物の回転圧力により窓孔にある弁が押されて内管12にある窓孔が開き、孔内にある充填物の土中試料が内管12内に取り込まれ、回転を止め拡径翼3を縮径させることでロッド6bの縮径に連動して内管12が外管11内に収納される。
【0062】
この状態で拡大ヘッド1を地上に引き上げることにより採取した土中試料を内管12内に密閉保持したまま他場所の充填物、不純物等と混ざることなく回収することができる。採取した土中試料は蓋体14を開けることにより容易に取り出せる。
【0063】
〔構造例2〕;採取装置を拡径翼のシリンダ部分に取り付けた例
【0064】
[構造]
図2は、拡大ヘッド1において、本発明の採取装置10をシリンダ機構6により伸縮する拡径翼3のシリンダ6a側面に取り付けた例を示した平面図である。
【0065】
油圧シリンダ機構6を内蔵する拡径翼3は軸部2を挟み水平方向に一対設けられている。また、採取装置10各拡径翼3に一つずつ、計2個設けられている。各採取装置10は外管取り付け板8によりシリンダ11の側面に取り付けられている。
【0066】
上方では、拡径翼3の伸長に伴い、これに取り付けた二重管構造の採取装置10も伸び、内管12が外管11から突出し、内管3の弁付き窓孔15(弁は図示省略)が開いている状態を示し、下方では、拡径翼3が縮んでいる状態に対応して採取装置10の内管12も縮み、内管3は外管11内に収納され弁付き窓孔15が閉じている状態を示している。実際には、構造例1と同様、2つの拡径翼3は同時に伸び同時に縮むように制御される。
【0067】
拡大ヘッド1における採取装置10の取付け位置以外の拡大ヘッド1の基本部分(掘削刃、スパイラル翼等の構造)及び採取装置10の構造は、上記構造例1と同様である。
【0068】
図2では採取装置10はシリンダ11の側面に取り付けられた構造となっているが、上記構造例1と同様、外管取り付け板8によりシリンダ11の下面に取り付けられる形で、拡径翼3の下部に設けてもよい。
【0069】
下部に設ける場合は、スパイラル翼5の一部を切除しなければならい場合があるが、図2のような構造にすれば点溶接等で着脱自在に簡単に採取装置10が拡大ヘッド3に設けられる。しかし、掘削施工の状況によっては、採取装置が邪魔になったり破損したり拡径翼から外れてしまったりすることも起こり得る。
【0070】
一長一短があるので、地盤や掘削施工の状況に合わせて採取装置の取り付け位置、取り付け方法を決めればよい。なお、弁付き窓孔15は2つの採取装置10において、いずれも拡大ヘッド3の逆回転時に弁が開くよう、内管12の同じ側に設けられる。
【0071】
[動作]
図2の構造でも、拡大ヘッド1の基本部分、拡径翼3、採取装置10における内管12等の動作は、上記構造例1の場合と同じである。
【0072】
B.本発明の採取装置の例
【0073】
[構造]
図3は、上記本発明の採取装置10の具体例である。前述したように、採取装置10は外管11と内管12の二重管構造であり、内管12は外管11に対し、スムーズに出入できる隙間を残して外管11内に収まる構造となっている。
【0074】
図3は内管12が外管11内に収まっている状態を示し、破線が外管11から内管12が突出した状態を示すものである。
【0075】
外管11は鋼製の円筒又は角筒であり、拡大ヘッドの本体部分又は拡径翼のシリンダに取り付け板と溶接等で取り付けられる。内管12も外管11に合わせた鋼製の円筒又は角筒であり、その先端部には掘削爪6cが備わっている。
【0076】
また、同端部側面の所定位置(拡大ヘッドを逆回転させたとき、採取試料が弁16に圧力を押して窓孔15を開くことが可能な位置)には採取する土中試料を内管12内に取り込むための弁付き窓孔15が設けられている。
【0077】
弁付き窓孔15の形状や寸法は特に限定されない。この弁付き窓孔15は、土中試料の採取時以外は、該弁付き窓孔15の内側に設けられたコイルバネ17により弁16が押されて該窓孔15を塞ぎ、閉じた状態となっている。
【0078】
コイルバネ17は内管12の内側に設けられた支持台19に取り付けられ弁16を弁付き窓孔15に押し付ける形で設けられている。コイルバネ17の寸法、バネ強さは、土中試料の採取時に試料による圧力により弁16が開くように調整されている。
【0079】
弁16は内管12の内側に設けられた取り付け金具18により回動可能なように、弁付き窓孔15を塞ぐ形で設けられている。弁16の材質は特に限定されない。金属、硬質ゴム、硬質樹脂等のいずれでもよい。内管12の後端部は、採取した土中試料を取出口となっており、蓋体14が備わっている。
【0080】
採取装置10の寸法は特に限定されない。例えば、縮まった状態の長さが250〜1050mm程度、伸びた状態の長さが400〜1200mm程度、外管11の外径が80〜300mm程度である。
【0081】
[動作]
前述の通り、採取装置10の内管12は拡径翼3の伸縮に連動して外管11から突出したり外管11に収納されたりする。
【0082】
例えば、拡大掘削時に拡径翼を拡径させると、これに連動して採取装置10の内管12は外管11から突出し弁付き窓孔15が露出する。しかし、該窓孔15はコイルバネ17が弁16を押すことにより弁16で塞がれている。したがって、弁付き窓孔15は閉じており、内管12は突出しても密閉状態のままである。
【0083】
この状態で、通常通り、拡大ヘッド3を正回転させて拡大掘削施工が行われる。上記の通り、弁付き窓孔15は、拡大ヘッド3を逆回転させたときに弁16が採取試料により押され開口する所定の位置に設けられているので、正回転での拡大掘削施工時に開口することはなく、特許文献3に記載されるような従来通りの掘削施工が行える。
【0084】
その後、孔内に充填された、あるいは、充填されつつある根固め液を含む土中試料を採取する場合は、土中試料の中で拡大ヘッド3を逆回転させる。そうすると、土中試料の回転圧により弁16が押され取り付け金具18を軸にして回動しコイルバネ17は縮む。そして、弁付き窓孔15は開口し、そこから内管12内に土中試料が取り込まれる。
【0085】
弁付き窓孔15が上になるように採取装置10を少し傾斜させておけば、土中試料は取り込まれ易くなる。拡大ヘッド3の逆回転を止め、必要に応じて少し正回転させれば、弁16が元に戻り、弁付き窓孔15は閉口する。そして、拡径翼3を縮径させると、これに連動して内管12は外管11内に収納され弁付き窓孔15も閉じて内管12内は密閉状態となる。採取装置10が地上に引き上げられた後、蓋体14を開けて内管12内の採取試料が回収される。
【0086】
C.本発明の土中試料の採取方法
図4は、本発明の土中試料の採取方法の工程例である。土中試料の採取は、以下の工程で行われる。
【0087】
(1)所定深度までの掘削;図4(a)
アースオーガ102などの掘削機械を用い、先端に取り付けた拡大ヘッド1の拡径翼3を閉縮させた状態で、ロッド105を正回転させて、所定深度まで杭孔101を掘削する。
拡径翼3の下部には、本発明の採取装置10が設けられている。
【0088】
(2)拡大根固め球根の拡大掘削;図4(b)
アースオーガ102の下端に接続した拡大ヘッド1に内蔵されている油圧シリンダ機構により拡径翼3を油圧で径方向外側(横方向)にさせると、拡径翼3の下部に設けられている採取装置10の内管が外管から突出する(内管に設けられている弁付き窓孔は露出するが、窓孔の内側にある弁で窓孔は閉じている。)。この状態で、ロッド105を正回転させて、拡大根固め球根103の拡大掘削を行う。
【0089】
(3)根固め液注入、根固め築造;図4(c)
拡径翼3拡径させたまま、拡大ヘッド1を正回転させながら、拡大ヘッド1の先端部からセメントミルクなどの根固め液104を吐出して拡大根固め球根103に充填し、拡大根固め球根103の築造を行う。
【0090】
(4)根固め液(土中試料の採取);図4(d)
【0091】
根固め液104を拡大根固め球根103に充填している途中もしくは充填し終わった直後の根固め液104(土中試料)を採取しようとする時点で、拡径翼3を拡径したまま(採取装置10の内管を外管から突出させ、内管の弁付き窓孔を露出させたまま)ロッド105を逆回転する。
【0092】
すると、弁付き窓孔の内側に設けられている弁が根固め液104の回転による押圧により内管の内側に傾いて窓孔が開き、根固め液104が採取装置10の内管内に流れ込むので、根固め液104が採取装置10により採取される。
【0093】
(5)採取した土中試料の回収;図4(e)
予定の土中試料採取が終了したら、拡径翼3を縮径すると、採取装置10の内管は外管内に収納され、内管の弁付き窓孔も外管により蓋がされる。したがって、採取された土中試料は、内管内に密閉保持される。この状態でアースオーガ102とともに拡大ヘッド1を地上に引き上げ、その後、内管後端部の蓋体を開けて採取した土中試料を回収する。
【0094】
なお、根固め液104の充填後に、拡大根固め球根103における異なった複数の箇所から未硬化の根固め液104を採取する場合は、本発明の採取装置を設けた大きさの異なる種々の拡大ヘッドと従来の採取装置を適宜組み合わせて採取すればよい。採取した根固め液104は、圧縮強度試験、その他の試験を行い、強度、品質等を確認する。
【0095】
本発明の土中試料の採取方法によれば、上記のように、従来の拡大掘削工程の中で、実施工した杭孔内の土中試料(根固め液)を、他の充填物(不純物等)が混入することなく採取できるので、実用的意義は大きい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、主として拡大根固め球根の杭施工における根固め液または根固め液と掘削土砂との混合物からなる土中試料の採取を目的としたものであるが、これに限定されず、各種杭施工における孔内の土中試料採取、地質調査等のためにボーリングした孔内からの土中試料一般の採取にも利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1…拡大ヘッド、2…軸部、3…拡径翼、4…掘削刃、4a…先端ビット、5…スパイラル翼、6…油圧シリンダ機構、6a…シリンダ、6b…ロッド、6c…掘削爪、7…雄継手、8…外管取り付け板、
10…採取装置、11…外管、12…内管(弁付き窓孔を有する)、13…連結アーム、14…蓋体、15…弁付き窓孔(土中試料採取口)、16…弁、17…コイルバネ、18…取り付け金具、19…支持台、
101…杭孔、102…アースオーガ、103…拡大根固め球根、104…根固め液、105…ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アースオーガの下端に接続され油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能な拡径翼を備えてなる拡大ヘッドに設けられる土中試料の採取装置であって、外管と該外管の内側に収納される内管を有し、該内管の一方の端部外周面には土中試料を採取するための弁付き窓孔が該窓孔の内側に設けられたコイルバネで該弁を押すことにより該窓孔が閉じるようにして設けられており、また、該内管の他方の端部側底部には採取した土中試料が取り出せるよう蓋体が設けられており、該内管は前記拡径翼の伸縮に連動して前記外管から出入し、該出入によって前記窓孔も前記外管から出入するようになっていることを特徴とする土中試料の採取装置。
【請求項2】
前記外管は前記拡径翼の油圧シリンダ機構を構成するシリンダ部分の側面もしくは拡大ヘッドの本体部分に、前記内管の先端部は前記油圧シリンダ機構を構成するロッド部分に各々別個に取り付けられており、前記拡径翼を拡径させることで前記内管を前記外管から突出させて前記弁付き窓孔を前記外管から出して前記窓孔より土中試料を採取し、前記拡径翼を縮径させることで前記内管を前記外管内に収納し、採取した前記土中試料を前記内管内に保持させて回収できるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の土中試料の採取装置。
【請求項3】
前記弁付き窓孔は、前記拡大ヘッドを掘削時の回転と反対方向に逆回転させたときに該弁に前記土中試料による圧力がかかって該弁が押し開かれ該土中試料が前記内管内に取り込まれるような前記内管外周面の所定位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の土中試料の採取装置。
【請求項4】
アースオーガの下端に接続され、掘削刃のある先端部と、油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能で先端部に掘削爪のある拡径翼とを備えてなる拡大ヘッドであって、前記拡径翼に、請求項1〜3のいずれかに記載の土中試料の採取装置が取り付けられていることを特徴とする拡大ヘッド。
【請求項5】
アースオーガの下端に接続され、掘削刃のある先端部と、油圧シリンダ機構により径方向外側に伸縮可能で先端部に掘削爪のある拡径翼とを備えてなる拡大ヘッドであって、前記拡径翼の伸縮に連動して前記採取装置の内管も伸縮するようにして請求項1〜3のいずれかに記載の土中試料の採取装置が設けられていることを特徴とする拡大ヘッド。
【請求項6】
杭施工における拡大根固め球根に根固め液を充填しつつある、もしくは、充填し終わった直後の未硬化状態の土中試料の採取方法であって、請求項4または請求項5に記載の拡大ヘッドをアースオーガ下端に接続し、拡径翼を縮径させたまま拡大ヘッドを回転させて掘進し、地盤内の所定の深度で該拡大ヘッドの拡径翼を拡径させて拡大根固め球根の拡大掘削を行うとともに根固め液を充填し、該拡大ヘッドが回転することにより前記外管から突出している前記内管の弁付き窓孔の弁に前記土中試料による圧力がかかって該弁が押し開かれるように該拡大ヘッドを回転させて前記窓孔より前記土中試料を前記内管内に取り込み、その後、前記拡径翼を縮径させて前記内管を前記外管内に収納することにより、取り込んだ土中試料を内管内に保持したまま前記拡大ヘッドを地上に引き上げ、前記内管の端部側底部に設けられた蓋体をはずして前記内管内の土中試料を回収することを特徴とする土中試料の採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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