説明

土壌、地下水用浄化剤

【課題】油滴の粒径が充分に小さく、土壌中で拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる土壌、地下水用浄化剤を提供する。
【解決手段】汚染土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の中に存在する微生物を活性化して汚染物質を分解する土壌、地下水用浄化剤において、液体油脂と、該液体油脂重量の0.3〜10重量%の界面活性剤と、水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径1〜3μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化炭化水素、油等の汚染物質で汚染された土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方中に存在する微生物を活性化して、前記汚染物質を分解するための土壌、地下水用浄化剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境破壊の要因又は生物体に対して悪影響を及ぼす要因となる汚染物質が土壌や地下水中において検出されており、これらの汚染物質による環境汚染が問題となっている。汚染土壌・地下水の浄化には様々な方法が用いられており、従来は汚染土壌・地下水を掘削、吸引、或いは揚水して外部で水や溶媒により洗浄又は熱処理して無害化する方法等の物理化学的方法が多く用いられていた。しかし、このような物理化学的方法はコストが高く、操作性が低いため、高濃度でかつ狭域の汚染帯の浄化での適用に限られていた。また、汚染土壌・地下水の上にプラントなど操業中の設備がある場合は、土壌を掘削するなどの方法が不可能な場合も多々ある。
土壌・地下水の汚染地域が広範囲に亘る場合には、原位置での処理が望まれており、近年は汚染物質で汚染された土壌の浄化方法として、安価でかつ簡単に浄化処理が可能である生物学的な浄化方法が提案、実用化されている。
【0003】
生物学的な浄化方法は、微生物の化学物質分解能力を利用して汚染土壌を修復する浄化技術である。これは、汚染土壌・地下水中に元々存在する微生物を利用して汚染物質を減衰させる方法であり、汚染土壌の掘削や汚染物質の抽出の必要がなく、原位置において土壌を浄化できることから低コストで広範囲に利用できるため汚染土壌の浄化に有効な技術として注目されている。このような技術として、土壌・地下水中に栄養剤を供給して元々土壌中に存在していた微生物を活性化し、汚染物質の減衰を促進させる技術が知られており、微生物の増殖及び生存に効果的な栄養剤を土壌・地下水中に添加することにより、汚染土壌・地下水に土着している微生物の分解活性を高め汚染土壌・地下水を浄化し、効率良く汚染物質の分解除去を行なえることが判っている。
【0004】
前記微生物の増殖及び生存に効果的な栄養剤として、例えば特許文献1には液体油脂と、液体油脂重量の0.5〜50重量%のノニオン系界面活性剤と、ノニオン系界面活性剤重量の50〜400重量%の多価アルコールと水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径50μm以下である土壌、地下水用浄化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−83169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている土壌、地下水用浄化剤は、油滴の平均粒径が50μm以下と大きく、土壌中に添加したときの土壌中での拡散性の面で充分とはいえず、浄化剤が行き届かない箇所が局所的に存在し、汚染物質の浄化が充分に行えない可能性がある。
【0007】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、油滴の粒径が充分に小さく、土壌中での拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる土壌、地下水用浄化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明においては、汚染土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の中に存在する微生物を活性化して汚染物質を分解する土壌、地下水用浄化剤において、液体油脂と、該液体油脂重量の0.3〜10重量%の界面活性剤と、水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径1〜3μmであることを特徴とする。
これにより、油滴の粒径が充分に小さく、土壌中で拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる。
【0009】
また、汚染土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の中に存在する微生物を活性化して汚染物質を分解する土壌、地下水用浄化剤において、液体油脂と、該液体油脂重量の0.3〜10重量%の界面活性剤と、該界面活性剤重量の20〜300重量%の多糖類と、水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径1〜3μmであることを特徴とする。
これにより、油滴の粒径が充分に小さく、土壌中で拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる。
さらに、多糖類を使用することにより、乳化物の安定性を増大させることができる。
【0010】
また、前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤であることを特徴とする。
これにより、乳化物を安定して得ることができる。
【0011】
また、前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤と、該ノニオン系界面活性剤重量の20〜300重量%のアニオン系界面活性剤との混合物であることを特徴とする。
アニオン系界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤と比較すると水生生物に対する毒性が低いため、アニオン系界面活性剤を混合させて界面活性剤として使用することで水性生物に対する安全性が高くなる。
【0012】
また、前記液体油脂が、前記乳化物中に20〜80重量%配合されることを特徴とする。
これにより、流動性を有し、安定した水中油型の乳化物を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上記載のごとく本発明によれば、油滴の粒径が充分に小さく、土壌中で拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる土壌、地下水用浄化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】乳化装置の構成図である。
【図2】油滴径の違いによる乳化安定性、微生物の利用度合、残存度合、施工適正の結果をまとめた表である。
【図3】油粒子を観察した結果をまとめた表である。
【図4】PCE、TCE、cis−DCEの濃度、ORP、TOCの測定結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
本発明の浄化剤に用いる液体油脂としては、例えば大豆油、ナタネ油、サフラワー油、ごま油、ぬか油、コーン油、綿実油、落花生油、ひまし油、つばき油、ひまわり油、ホホバ油、パーム油などが挙げられる。
乳化物中の液体油脂の配合量は20〜80重量%であることが好ましい。乳化物中の液体油脂の配合量が20重量%未満であると、乳化物の安定性が低下し、保存中に不均一となることがあるため好ましくない。また乳化物中の液体油脂の配合量が80重量%よりも多いと、水中油型の乳化物を得ることが困難となり、水中油型の乳化物が得られてもほとんど流動性を有しないため、取り扱いが難しいことに加え、汚染土壌・地下水中への注入が困難となる。従って、高い安定性と、汚染土壌中へ容易に注入可能な流動性を有する乳化物を得るためには、乳化物中の液体油脂の配合量は前述の通り20〜80重量%とすることが好ましい。
さらに、液体油脂の配合量が少ないと土壌・地下水への浄化剤注入量が多くなるため、輸送や保管のコスト、施工時の時間を考慮すると前記配合量は30重量%以上とすることがさらに好ましい。一方、液体油脂の配合量が多いと得られる乳化物の粘土が高くなり、土壌・地下水中へ注入が困難となり、場合によっては特殊な装置が必要となるので、特殊な装置が必要なく容易に土壌・地下水中へ注入するためには前記配合量は70重量%以下とすることがさらに好ましい。即ち、乳化物中の液体油脂の配合量を30〜70重量%とすることがより好ましい。
【0017】
また、界面活性剤は、液体油脂量の0.3〜10重量%配合され、より好ましくは液体油脂重量の1〜7重量%である。
界面活性剤の配合量が液体油脂量の0.3重量%未満であると、油滴平均粒径3μm以下に乳化することはできるが、長期間安定に乳化状態を維持することが困難となる。また液体油脂重量の10重量%を超えると油滴平均粒径3μm以下の安定した乳化物を得ることはできるが、浄化剤を製造するための界面活性剤の使用量が多くなり、コストが上昇するため好ましくない。
【0018】
界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤、又はノニオン系界面活性剤と該ノニオン系界面活性剤重量の20〜300重量%のアニオン系界面活性剤との混合物である。
ノニオン系界面活性剤としては、アルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、コカミドジエタノールアミン、サポニンなどが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート(ナトリウム高級アルコールエトキシサルフェート)、カゼインナトリウム塩、乳酸脂肪酸エステル(ステアロイル乳酸ナトリウムなど)、グルタミン酸脂肪酸エステル(ステアロイルグルタミン酸ナトリウムなど)、ココイルグリシンカリウム、リゾレシチンなどが挙げられる。
【0019】
多糖類は、界面活性剤重量の20〜300重量%配合され、より好ましくは30〜150重量%である。多糖類は液体に粘性を付与する性質を持つため、多糖類を使用することにより乳化剤の安定性を増大させることができる。
多糖類の割合が界面活性剤重量の20重量%未満であると、多糖類を使用しない場合と比較して乳化安定性で有利な効果が得られない。また多糖類の割合が界面活性剤重量の300重量%を超えると油滴平均粒径3μm以下で安定な水中油型乳化物とすることが困難である。
【0020】
多糖類としては、デキストリン、還元水飴、オリゴ糖、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを挙げることができ、乳化剤の安定性増大の観点から特にデキストリン、CMCを用いることが好ましい。
【0021】
水としては、純水でもよく、窒素、リンを含む化合物を混合した水を使用してもよい。
窒素を含む化合物としては、尿素、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
リンを含む化合物としては、燐酸一水素二カリウム、燐酸二水素一カリウム、トリポリ燐酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0022】
本発明の浄化剤により土壌や地下水に含まれる揮発性有機塩素化合物等の汚染物質を浄化するためには、地盤に井戸を掘削し、該井戸に本発明の浄化剤を注入する方法が挙げられる。本発明の浄化剤は土壌中での拡散性が良好であるため、浄化剤を一箇所の井戸から注入しても浄化剤が地下水の流れの下流方向に地下水の流れの下流方向に拡散するとともに土壌中にも浸透し、広範囲の浄化を行うことができる。本発明の浄化剤は、必要に応じて数倍から数十倍程度に希釈してから地盤に注入しても良い。また、本発明の浄化剤を地盤に注入する際に、糖、アミノ酸等の有機栄養を併用して注入すると浄化剤による汚染物質浄化作用の即効性を向上することができる。
【実施例1】
【0023】
(乳化装置)
図1は乳化装置の構成図である。
図1においては、槽T1、T2の2つの槽が用意され、槽T1は水相成分を収容し、槽T2は油相成分を収容するものである。
また、槽T1、T2にはそれぞれ槽内の原料を供給する原料供給路C1、C2が設けられており、それぞれの原料供給路C1、C2にはポンプP1、P2が設けられている。さらに、原料供給路C1、C2の下流側は合流路1に合流しており、該合流路1の途中には混合室10が設けられている。
【0024】
混合室10は、合流路1の流路断面積の2倍以上の流路断面積を有する同芯状のハウジング筒部11を介装し、該ハウジング筒部11内に径が合流路1の内径より大きく周縁部位に上流側に向かって突出する縁部13を有した衝突板12を、ハウジング筒部11と同芯状に固定して設置し、衝突板12の縁部13の外周面とハウジング筒部11の内周面との間隙で構成される流路断面積と、衝突板12の下流側面とハウジング筒部11の下流側端面との間隙で構成される流路断面積とを、ともに合流路1の流路断面積と略等しいかそれ以上となるように設定している。
【0025】
前記合流路1と混合室10とは中心軸を共通する断面円形に構成され、混合室10は、円盤状の垂直プレート10b、10cが設けられ、該垂直プレート10b、10c部位で段状に拡径、縮径している。ハウジング筒部11内に固定した衝突板12は、混合室10と同芯に設けられている。
【0026】
このような構成により、合流路1を流れる流体は、その全量が衝突板12に衝突し、衝突した流体の一部は跳ね返り渦流を生じ流体が攪拌される。
また、衝突した流体の多くは、流れ方向を変え衝突板12に沿ってその遠心方向に流れ、縁部13まで流れると、流体が縁部13を乗り越えようとして、一部で合流路1と逆方向の流れが生じる。そして、この逆流は、さらに新たに合流路1より順次送られてくる流体と衝突して、該衝突による攪拌・混合が行われる。
【0027】
そして、縁部13より漏れ出た流体は、縁部13の外周面とハウジング筒部11との間隙と、衝突板12の下流側面とハウジング筒部11の下流側端面との間隙とを通過して、下流側に流れるが、衝突板12の下流側で流れが合流して、この合流で攪拌・混合がなされるものである。
【0028】
そして、前記合流路1に設けられた混合室10より下流側に排出路2を設け、該排出路2より、攪拌混合されて乳化された乳化組成物が得られるようにしてある。また、合流路1は、図示するように循環用ポンプPを有した循環流路5を形成しており、一対の弁3a、3bからなる切換弁3によって、混合室10によって攪拌混合された原料が混合不十分である場合には循環して混合室10で再度混合し、混合十分である場合には排出路2から排出するようにしている。なお、ポンプPはポンプP1を兼用している。
【0029】
このような乳化装置を使用することにより、平均粒径3μm以下の小径であっても乳化物を安定して得ることができる。
【0030】
(油滴径の最適化)
図1を用いて説明した乳化装置を使用して、油滴の平均粒径0.5μm未満(試料A)、1〜3μm(試料B)、5〜15μm(試料C)を用意するとともに、従来より用いられているD相法を使用して15〜50μm(試料D)を用意し、前記試料A〜Dに関して乳化安定性、微生物の利用度合、残存度合、施工適正について比較を行った。結果を図2に示す。
【0031】
図2を参照しながら比較項目ごとに結果を説明する。
(1)乳化安定性
安定して乳化できるか否か、乳化した状態を安定して維持できるか否かをまとめた。
以下のことが言える。
a、油滴の平均粒径が大きくなるに従い、不安定となる。
b、油滴の平均粒径3μm以下では3か月以上の長期間に渡って安定して乳化した状態を維持することができる。
従って、平均粒径は3μm以下が適切であると言える。
(2)微生物の利用度合
微生物が油滴を栄養剤として利用する度合をまとめた。
以下のことが言える。
a、平均粒径が0.5μmより小さい場合、該平均粒径は微生物よりも小さいため、浄化に関わる微生物が入り込むことができない1μmより小さな土壌の間隙に乳化物の油滴が入り込んでしまい、油滴の全てを栄養成分として有効に利用できない。
b、平均粒径1〜3μmでは、該平均粒径は微生物と略同じであるので、微生物が付着しやすく油滴を栄養成分として有効に利用できる。
c、平均粒径5〜15μm、更に15〜50μmでは、微生物の油滴への付着し易さは平均粒径1〜3μmである場合と大差ないと考えられるが、単位重量当たりの油滴の表面積が小さいため、栄養成分としての利用度合は低下する。
従って、平均粒径は1〜3μmが適切であると言える。
(3)残存度合
土壌中に注入後に、土壌中に残存、滞留している度合をまとめた。
乳化安定性、土壌間隙への吸着の観点から、土壌の地下水中に油滴として残存、滞留している時間は平均粒径1〜3μmの場合が最も長く、土壌中での拡散領域が大きく、栄養剤としての影響範囲が広い。
(4)施工適正
注入やサンプルの採取等の施工のしやすさをまとめた。
油滴が15μm以上と大きい場合には、土壌中の地下水中で油が分離しやすいため、地下水の試料採取等の際に、地下水に接触する機材を油で汚染する。そのため、前記機材には油が付着して、作業性が悪化する。
【0032】
以上のことから、油滴の最適粒径は1〜3μmであるといえる。
【0033】
(試料1の調製)
図1に示した乳化装置を使用し、原料として、大豆油60.0部、ノニオン系界面活性剤として油脂(大豆油)の5重量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、水37重量部を用い、水を槽T1に収容し、大豆油とポリグリセリン脂肪酸エステルを槽T2に収容して攪拌混合した。そして、槽T2で攪拌混合して得た液を、混合室10とポンプPとの間で循環している状態にある水と合流路1で合流させ、混合室10で混合させ、油滴の平均粒径1μmの水中油型乳化物(試料1)を得た。
【0034】
(試料2の調製)
図1に示した乳化装置を使用し、原料として、大豆油60.0部、ノニオン系界面活性剤として油脂重量の3重量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、アニオン系界面活性剤として油脂重量の2重量%の脂肪酸カリウム、水37重量部を用い、水を槽T1に収容し、大豆油とポリグリセリン脂肪酸エステルと脂肪酸カリウムを槽T2に収容して攪拌混合した。そして、槽T2で攪拌混合して得た液を、混合室10とポンプPとの間で循環している状態にある水と合流路1で合流させ、混合室10で混合させ、油滴の平均粒径1μmの水中油型乳化物(試料2)を得た。
【0035】
(比較試料の調製)
参考のため従来のD相法を使用し、大豆油60.0重量部、ノニオン系界面活性剤として油脂重量の5重量%のポリグリセリン脂肪酸エステル、水37重量部を用い、ポリグリセリン脂肪酸エステルに6重量部の水を添加、攪拌混合後、引き続き攪拌しながら大豆油を添加し、均一となってから31重量部の水を添加することにより、油滴の平均粒径15μmの水中油型乳化物(比較試料)を得た。
【0036】
(比較)
砂質シルト層が有機塩素化合物により汚染されたサイトにおいて、試料1、試料2、比較試料の水中油型乳化物を、水で50倍に希釈して注入した後、定期的に地下水を採取し、地下水の外観と地下水中での油粒子の様子を顕微鏡観察にて調べた。結果を図3に示す。
【0037】
図3に示したように、注入7日後には、試料1及び試料2は外観は乳白色で油分は見られなかったが、比較試料は外観は乳白色で少量の油膜が見られた。また油粒子は、試料1及び試料2は1μm程度を維持していたが、比較試料は20〜30μの粒子が見られた。
さらに、注入14日後には、試料1及び試料2は外観は乳白色で油分は見られなかったが、比較試料は外観は乳白色で少量の油膜が見られた。また油粒子は、試料1及び2は1μm程度を維持し、微生物の付着が見られたが、比較試料は20〜30μmの粒子が見られ、微生物の付着は一部に見られた。
以上のことから、試料1及び試料2の本発明の水中油型乳化物は、比較試料の従来の水中油型乳化物と比較して、地下水中での安定性に優れ、地下水中の微生物の栄養として働き易いといえる。
【0038】
(現場適用例)
砂質シルト層が有機塩素化合物により汚染されたサイトにおいて、水で50倍に希釈した試料1を注入した後、定期的に地下水を採取し、ガスクロマトグラフィーを用いて有機塩素化合物であるテトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(cis−DCE)の濃度を定量するとともに、微生物の生息環境を把握するために酸化還元電位(ORP)を測定し、さらに栄養剤の残留の程度の指標となる全有機炭素量(TOC)を調べた。
結果を図4に示す。
【0039】
図4に示したように、試料1をサイトに注入後、徐々にOPRが低下し還元状態に移行した。その結果、嫌気性微生物により有機塩素化合物が分解され、PCEについては注入後約2か月で問題のない値まで低下した。また、PCE→TCE→cis−DCEの順に分解して生成されるcis−DCEについても注入後約4か月で問題のない値となった。一方、注入後約5か月後でも、ORP、TOCの値から嫌気性雰囲気が維持され、栄養剤の効果が維持していることがわかった。
【0040】
なお、本実施例における油滴平均粒径は全て、乳化物を水で50倍希釈後、100倍の接眼レンズを装着した顕微鏡で視野を写真撮影して油滴の平均粒径を求めたものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
油滴の粒径が充分に小さく、土壌中で拡散性に優れ、土壌・地下水中に均一に行き届かせることができるため、汚染物質を充分に浄化することができる土壌、地下水用浄化剤として利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 合流路
2 排出路
3 切替弁
10 混合室
11 ハウジング筒部
12 衝突板
13 縁部
T1、T2 槽
C1、C2 原料供給路
P、P1、P2 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の中に存在する微生物を活性化して汚染物質を分解する土壌、地下水用浄化剤において、
液体油脂と、該液体油脂重量の0.3〜10重量%の界面活性剤と、水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径1〜3μmであることを特徴とする土壌、地下水用浄化剤。
【請求項2】
汚染土壌又は地下水のうち何れか一方又は両方の中に存在する微生物を活性化して汚染物質を分解する土壌、地下水用浄化剤において、
液体油脂と、該液体油脂重量の0.3〜10重量%の界面活性剤と、該界面活性剤重量の20〜300重量%の多糖類と、水とを、水中油型に乳化した乳化物よりなり、油滴の平均粒径1〜3μmであることを特徴とする土壌、地下水用浄化剤。
【請求項3】
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2記載の土壌、地下水用浄化剤。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤と、該ノニオン系界面活性剤重量の20〜300重量%のアニオン系界面活性剤との混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の土壌、地下水用浄化剤。
【請求項5】
前記液体油脂が、前記乳化物中に20〜80重量%配合されることを特徴とする請求項1又は2記載の土壌、地下水用浄化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−158653(P2010−158653A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4130(P2009−4130)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(508029343)国際環境ソリューションズ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】